説明

潤滑剤供給方法、案内装置及びこれを備えた製造装置

【課題】要求される個々の部材の摩耗、部材間の摩擦抵抗を最小限に止め、潤滑剤本来の機能を最大限かつ長期間、安定的に発揮させ得るように潤滑剤を供給し、高性能化、長寿命化を実現することができる潤滑剤供給方法、案内装置及びこれを備えた製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】転動体を転走させる面を有する軌道軸と、転動体をその内部に収容し、転動体を介して軌道軸と係合し、軌道軸に沿って相対的に移動自在な移動部材とから構成される案内装置に対して、転動体に、少なくとも基油、増ちょう剤及び添加剤を含む第1の潤滑剤を供給するとともに、軌道軸に、基油が第1の潤滑剤と同一種類であり、かつ、少なくとも増ちょう剤及び添加剤が第1の潤滑剤と同一成分である第2の潤滑剤を供給する潤滑剤供給方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の潤滑剤を供給する潤滑剤供給方法、案内装置及びこれを備えた製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、案内装置は、ベアリング等の転動体を転走させる面を有する軌道軸と、転動体を介して軌道軸と係合して、軌道軸に沿って相対的に移動自在な移動部材とから構成され、案内動作がベアリング等の転動を基本とするため、摺動抵抗が低く、種々の工作機械及び搬送装置に使用されている。
近年においては、電子部品を実装する部品実装装置、電子部品を挿入する部品挿入機、半導体素子を接合する半導体実装機、部品を加工する部品加工機等の種々の装置/機械における直動案内装置で、1m/秒以上というような高速動作を実現している。
【0003】
このような案内装置では、ベアリング自体の摩耗、ベアリングが転走する軌道軸面の摩耗を低減するために、通常、潤滑剤が施される。特に高速で用いられる案内装置では、潤滑面において潤滑剤の攪拌抵抗が増大するとともに、稼働時間あたりの走行距離が増大することから、良好な潤滑性能を有する潤滑剤を長期間にわたって安定的に供給することが、その寿命を長期化するために重要である。
【0004】
そこで、例えば、リニアガイドに内蔵されたボールベアリングに対して、潤滑剤を供給する方法(例えば、特許文献1)、ボールネジ軸の中に内蔵されたボールベアリングに潤滑剤をグリース供給ニップルを通じて供給する方法(例えば、特許文献2)、潤滑面に供給される潤滑剤の粘度を高くし、潤滑剤中に油膜補強のための油膜補強剤を添加する方法(例えば、特許文献3)、既存の軌道軸に、潤滑剤供給装置を追加して取り付ける方法(例えば、特許文献4)等、種々の方法が提案されている。
これらの方法によれば、ボールベアリング部分、あるいは、軌道軸又はボールネジと移動部材との間に、長期間にわたって潤滑剤を供給することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平3−121310号公報
【特許文献2】特開平11−34136号公報
【特許文献3】特開2003−222127号公報
【特許文献4】特開2004−3544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、ボールベアリング用の潤滑剤は、細かいボールベアリングの運動を円滑にするために、比較的粘度の低いものが用いられる。また、軌道軸又はネジとスライド部材の間で用いる潤滑剤は、高速度域での性能を発揮できるように、粘度のより低いものが用いられる。これらの潤滑剤は、通常、基油、増ちょう剤、添加剤及び/又は充填剤により構成されている。従って、ボールベアリング用と、軌道軸/ネジとスライド部材間用とに供給される各潤滑剤は、対象部材の基本運動の差異から、粘度及び特性等を調整するために、種類が様々で、組成の異なるものが用いられている。
【0007】
しかし、これらボールベアリング用及び軌道軸/ネジとスライド部材間用のそれぞれに対して適切に調整された潤滑剤を使用する場合、使用当初は、各潤滑剤は、ボールベアリング間、軌道軸/ネジとスライド部材間において、各部材の運動を円滑にし、想定された機能を十分に発揮するが、その一方、長期間にわたって使用する場合、軌道軸の錆びや摩耗、ベアリングの摩耗等を十分に低減することができず、あるいは、使用期間の経過とともに、これらが増大することがあり、ボールベアリング、軌道軸/ネジ、スライド部材、ひいては案内装置の寿命が予想外に短縮化するという現象に直面している。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、案内装置に要求される個々の部材の摩耗、部材間の摩擦抵抗を最小限に止め、使用されている潤滑剤本来の機能を最大限かつ長期間、安定的に発揮させることができるように潤滑剤を供給し、案内装置自体の高性能化、長寿命化を実現することができる潤滑剤供給方法、案内装置及びこれを備えた製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決すべく各種部材間の摩擦損失、潤滑剤の成分等について鋭意研究を行った結果、一つのユニット内で、その要求する特性に対応するために、ボールベアリング用及び軌道軸/ネジとスライド部材間用という2種類の異なった潤滑剤を使用する際、これら潤滑剤が、各種部材間の接触、摩擦等により混合されることによって、予想外にも、各潤滑剤中に含有される増ちょう剤、添加剤等が互いにその特性を低減させ/変質させる現象を生じさせること、さらに混合された潤滑剤が各種部材に極圧状態で接触し続けることによって、よりその特性を悪化させる現象を招くことを新たに見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明の潤滑剤供給方法は、転動体を転走させる面を有する軌道軸と、
前記転動体をその内部に収容し、該転動体を介して前記軌道軸と係合し、該軌道軸に沿って相対的に移動自在な移動部材とから構成される案内装置に対して、
前記転動体に、少なくとも基油、増ちょう剤及び添加剤を含む第1の潤滑剤を供給するとともに、
前記軌道軸の転走面に、基油が前記第1の潤滑剤と同一種類であり、かつ、少なくとも増ちょう剤及び添加剤が第1の潤滑剤と同一成分である第2の潤滑剤を供給することを特徴とする。
【0011】
この潤滑剤供給方法では、第2の潤滑剤は、第1の潤滑剤のちょう度よりも高ちょう度であることが好ましい。なお、本発明において「ちょう度」とはJIS−K2220.7の混和ちょう度の数値であり、「ちょう度が高い」とは混和ちょう度の数値が高く、軟らかいことを示す。
また、第1の潤滑剤及び第2の潤滑剤の基油は、ともに炭化水素系基油、フッ素化物系基油又はシリコン系基油のいずれかとすることができる。
【0012】
さらに、本発明の案内装置は、転動体を転走させる面を有する軌道軸と、
前記転動体をその内部に収容し、該転動体を介して前記軌道軸と係合し、該軌道軸に沿って相対的に移動自在な移動部材と
該移動部材に設置され、前記転動体に、少なくとも基油、増ちょう剤及び添加剤を含む第1の潤滑剤を供給するための第1の潤滑剤供給手段と、
前記移動部材に設置され、前記軌道軸の転走面に、基油が前記第1の潤滑剤と同一種類であり、かつ、少なくとも増ちょう剤及び添加剤が第1の潤滑剤と同一成分である第2の潤滑剤を供給するための第2の潤滑剤供給手段とから構成されることを特徴とする。
この案内装置では、直線案内装置又はボールネジ案内装置とすることが適している。
さらに、本発明の製造装置は、上述した案内装置を搭載してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の潤滑剤供給方法によれば、基油が同一種類であり、かつ、少なくとも増ちょう剤及び添加剤が同一成分である第1の潤滑剤及び第2の潤滑剤を供給することにより、案内装置に要求される個々の部材の摩耗、部材間の摩擦抵抗を最小限に止め、使用されている潤滑剤本来の機能を最大限かつ長期間、安定的に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における案内装置は、少なくとも、転動体と、転動体を転走させる面を有する軌道軸と、この軌道軸に沿って相対的に移動自在な移動部材とを含んで構成されるものであれば、どのような形態のものをも包含する。
ここで、転動体としては、ボールベアリング、ローラ、ボールネジ等が挙げられる。軌道軸としては、軌道レール、ネジ軸、スプライン軸等が挙げられる。移動部材としては、摺動台、ナット部材、スリーブ本体等が挙げられる。
【0015】
具体的には、直線案内装置(例えば、特開2005−221008号公報、特開2003−222127号公報等参照)及びボールネジ案内装置(例えば、特開2003−222127号公報、特開2004−169789号公報、特開平11−34136号広報等参照)等又はこれらに準じるもの等、種々のものを利用することができる。
【0016】
一実施形態においては、図1に示すように、本発明の案内装置10は、X軸11がY軸方向に移動可能となるように、後述するボールネジ案内装置20として、あるいはこのボールネジ案内装置20のリニアガイド30として使用することができる。後者においては、軌道軸同士を平行に配置させ、移動部材に連動する動作を支持するように併設することが好ましい。直線案内装置及び/又はボールネジ案内装置は、複数併設して用いてもよい。
なお、本発明では、軌道軸を固定側とし、移動部材を移動側とする他、軌道軸を移動側とし、移動部材を固定側とする案内装置をも包含する。
【0017】
ボールネジ案内装置は、例えば、図2に示すように、長手方向に、軌道軸21としてねじ軸が延設されており、このねじ軸の外周面に、転動体22の転走面21aとしての螺旋状の転走溝を有している。また、この螺旋状の転走溝に対応するように、転動体22の転走面としての螺旋状の負荷転走溝を含む転動体循環路24がその内周面に形成され、軌道軸21に相対運動自在に係合させた、移動部材23を有している。軌道軸21の転動体22の転走溝と移動部材23の溝との間で転動体循環路の負荷転走路24が構成される。転動体22は、軌道軸21及び移動部材23の相対運動、つまり回転に合わせて負荷転走路24を周方向に転がり、無限に循環するように、転動体循環路内に収納されている。
【0018】
このボールネジ案内装置20には、任意に、移動部材23に、転動体22に潤滑剤を供給するための第1の潤滑剤供給部25及びその供給口25aが装着/形成されていることがこのましい。この第1の循環剤供給部25は、移動部材23における転動体22の転走面に、言い換えると、無限循環路に潤滑剤を供給し得るように装着されていることが好ましい。
また、移動部材23の前及び/又は後の端部には、軌道軸21の転動体22の転走面21aに潤滑剤を供給し得る第2の潤滑剤供給装置26及びその供給口26aが装着されていることが好ましい。
【0019】
通常、このボールネジ案内装置20においては、軌道軸21の一端に、その軸を駆動する駆動手段(例えば、モータ等)(図1中、27参照)を備えている。
また、直線案内装置は、例えば、図3に示すように、長手方向に、軌道軸31として、軌道レールが延設されており、この軌道軸31の側面に、転動体32であるボールベアリングの転走面31aが形成されている。
【0020】
この軌道軸31には、転動体32を介して移動部材33が係合している。この移動部材33は、軌道軸31の転走面31aに対応する転動体32の転走面として、移動部材33内部におよんでおり、転動体32を循環させるための無限循環路34を備え、略サドル状のユニットとして構成されている。無限循環路34内には、転動体32が収容されており、転動体32の循環に伴って移動部材33が軌道軸31上を往復運動するように構成されている。
【0021】
この直線案内装置30には、任意に、移動部材33内に又は移動部材33に併設して、より詳細には移動部材33の無限循環路34に連結し、転動体32に潤滑剤を供給するための第1潤滑剤供給部(図示せず)及びその供給口35が形成/装着されていることが好ましい。
さらに、この移動部材33の移動方向の前及び/又は後の端部に、この移動部材33の移動に伴って軌道軸31の転走面31aに潤滑剤を供給するための第2潤滑剤供給部36及びその供給口36aが装着されていることが好ましい。
【0022】
これらの構成において、第1及び第2潤滑剤供給部は、例えば、転動体に対して、又は軌道軸の転動体の転走面に対して、潤滑剤を塗布する塗布体と、潤滑剤を吸収して保持する一方で塗布体に対して潤滑剤を供給する吸蔵体と、これら塗布体及び吸蔵体の間を隔離する油量調整板とから構成することができる。塗布体は、含浸する潤滑剤を澱みなく軌道軸に塗布することができるように、毛細管現象による潤滑剤の移動が生じ易い材質によって形成することができる。また、吸蔵体は、潤滑剤を多量に吸収保持する材質によって形成することができる。油量調整板は、例えば、吸蔵体に含浸された潤滑剤を塗布体へ供給する供給孔が形成された薄板等により形成することができる。
【0023】
転走面/溝とは、転動体が軌道軸に対して点接触でなく、曲面単位で接触する面/溝であることが好ましい。特に、ボールネジ案内装置においては、軌道軸の外表面に形成されたネジ溝とすることが適している。
【0024】
本発明における第1及び第2の潤滑剤は、液状のいわゆる潤滑油、半固体状のいわゆるグリースの何れをも包含する。これらは、少なくとも基油、増ちょう剤及び添加剤、任意に充填材を含んで構成される。これらの成分は、用いる案内装置の種類、性能、必要とする粘度、ちょう度、供給方法等に応じて、適当な割合で混合して用いることが好ましい。
【0025】
基油としては、鉱油及び合成油のいずれを用いてもよい。ここで、鉱油としては、石油精製業の潤滑剤製造プロセスで通常行われている方法により得られるもの、例えば、原油を常圧から真空で蒸留して得られた潤滑剤留分に、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の処理のいずれか1つ以上の処理を施して精製したものが挙げられる。具体的には、炭化水素系の油として、タービン油、スピンドル油、マシン油等が例示される。
【0026】
合成油としては、例えば、種類別の分類として、
(1)炭化水素系(例えば、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はこれらの水素化物等;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等のアルキル芳香族化合物;脂環式化合物等)、
(2)エステル系(例えば、(例えば、ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−3−エチルヘキシルセパケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル類等)、
(3)ポリエーテル系(例えば、ポリグリコール;ポリオキシアルキレングリコール;ポリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテルジアルキルジフェニルエーテル等のフェニルエーテル系)、
(4)リン化合物系(例えば、芳香族リン酸エステル)、
(5)ケイ素化合物系(例えば、シリコーン等)、
(6)ハロゲン化合物系(例えば、フッ素化ポリエーテル等)
に大別して例示される。言い換えると、この分類は、炭化水素成分と、リン、ハロゲン又はシリコン等の非炭化水素成分とに大別することができる。
【0027】
本発明において、基油の種類が同一とは、上述した炭化水素系(鉱油、エステル、エーテル系を含む)同士、含有原子が同じ非炭化水素系成分同士(ケイ素化合物系同士、ハロゲン化合物同士等)であることが好ましい。さらに、鉱油同士、上述した(1)の成分同士、(2)の成分同士、・・・(6)の成分同士等であることが好ましい。
【0028】
基油は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合物としても用いてもよい。
なお、基油は、潤滑剤の全重量において、99から50%程度含有されることが適している。また、潤滑剤としての粘度を適当な範囲に調整するために、基油の粘度は、例えば、100℃で5〜100mm2/s程度であることが好ましい。
【0029】
増ちょう剤は、従来より案内装置、その他の軸受等に用いられているグリースで通常使用されているもの、石鹸系又は非石鹸系のいずれをも用いることができる。石鹸系としては、カルシウム石けん(牛脂系及びひまし油系を含む)、アルミニウム石けん、ナトリウム石けん、リチウム石けん(牛脂系及びひまし油系を含む)等の金属石けん系;カルシウムコンプレックス、アルミニウムコンプレックス、ナトリウムコンプレックス、リチウムコンプレックス等の複合型石けん系が例示される。非石鹸系としては、芳香族ジウレア、脂肪族ジウレア、脂環式ジウレア、トリウレア、ポリウレア等のウレア系;ナトリウムテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の有機系;有機化ベントナイト、グラファイト、シリカゲル等の無機系;が例示される。
【0030】
本発明において、増ちょう剤の成分が同一とは、増ちょう剤の主成分(通常、全重量の80%以上含有されている成分)が同一であることを意味する。具体的には、カルシウム石鹸同士、アルミニウムコンプレックス同士、芳香族ジウレア同士等であることを意味する。特に、複合型の場合には、特定のコンプレックス同士であり、芳香族、脂肪族及び脂環分は、特定のもの同士であり、有機系成分は特定の有機成分同士であり、無機系成分は特定の無機成分同士であることがより好ましい。成分が同一である限り、その含有量、含有割合が第1及び第2の潤滑剤で異なっていてもよい。
【0031】
増ちょう剤は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合物としても用いてもよい。
なお、増ちょう剤は、潤滑剤の全重量において、2から20%程度含有されることが適している。あるいは、別の観点から、増ちょう剤は、用いる基油、他の添加剤等の種類及び組成によって、潤滑剤自体のちょう度が、第1の潤滑剤では100〜400程度、好ましくは200〜300程度、第2の潤滑剤では200〜500程度、好ましくは300〜500程度になるような量を用いることが適している。
【0032】
添加剤としては、酸化防止剤(例えば、フェノール類、芳香族アミン類等)、極圧添加剤(例えば、SP系、硫化油脂系、有機金属化合物等)、さび止め剤(例えば、金属スルフォネート、ラノリン系誘導体等)、構造安定剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル等)、腐食防止剤(例えば、ベンゾトリアゾール等)、摩耗低減剤(例えば、リン酸エステル、ジチオカルバミン酸エステル等)、混和ちょう度剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸グリセロール等)、寿命向上剤(有機スルフォン酸塩:例えばカルシウム塩、亜鉛塩等の金属スルフォネート、アンモニウム塩等の非金属スルフォネート等)等が例示される。
【0033】
本発明において、添加剤の成分が同一とは、添加剤の主成分(通常、全重量の80%以上含有されている成分)が同じであることを意味する。具体的には、酸化防止剤の特定のフェノール類同士、極圧添加剤の特定の有機金属化合物同士、さび止め剤の特定のラノリン系誘導体同士等であることがより好ましい。このように、成分が同一である限り、その含有量、含有割合が第1及び第2の潤滑剤で異なっていてもよい。
【0034】
添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合物としても用いてもよい。
なお、添加剤は、潤滑剤の全重量において、1から10%程度含有されることが適している。
【0035】
充填材としては、グラファイト、二硫化モリブデン、塩化コバルト、酸化アンチモン、セレン化ニオブ、二硫化タングステン、マイカ、窒化ホウ素、硫酸銀、塩化カドミウム、ヨウ化カドミウム、ホウ砂、塩基性白鉛、炭酸鉛、ヨウ化鉛、アスベスト、タルク、酸化亜鉛、カーボン、バビット、青銅、黄銅、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、トリウム、銅、銀、金、水銀、鉛、錫、インジウム又は第VIII族貴金属又はそれらの混合物を含む無機固体潤滑剤;例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、モリブデンジチオカーバメート等の有機モリブデン、フルオロアルキレンホモポリマー/コポリマー、低級アルキレンポリオレフィンホモポリマー/コポリマー、パラフィン系炭化水素ワックス、フェナントレン、銅フタロシアニン又はそれらの混合物を含む有機固体潤滑剤等が例示される。充填剤は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合物としても用いてもよい。
なお、充填材は、潤滑剤の全重量において、無機固体潤滑剤では40%程度以下、有機固体潤滑剤では5%程度以下含有されることが適している。
【0036】
本発明の潤滑剤供給方法では、案内装置を構成する移動部材内の転動体に第1の潤滑剤を供給する。この場合の供給方法は特に限定されず、手動で供給してもよいが、例えば、上述した第1の潤滑剤供給部を利用して供給することが好ましい。なお、転動体に第1の潤滑剤を供給することができる限り、移動部材における転走面又は無限循環路のいずれに供給してもよい。
【0037】
さらに、案内装置を構成する軌道軸、より厳密には、軌道軸の転走面に、第2の潤滑剤を供給する。第2の潤滑剤は、基油の種類が第1の潤滑剤と同一であるとともに、少なくとも増ちょう剤及び添加剤が第1の潤滑剤と同一であることが必要である。このような構成を採用することにより、基油、増ちょう剤、各種添加剤等の特性の変化、特に経時変化を最小限に止めることができる。つまり、基油、増ちょう剤、各種添加剤等のいずれかの種類又は成分が異なる場合に生じ易い、性能の低いほうにその性能が引っぱられるというような現象を防止することができる。その結果、潤滑性能が要求される転動体の表面、軌道軸の転走面、移動部材の転走面の全てにおいて良好に油膜を形成することができ、潤滑剤に短期間で異常摩耗が発生することを防止することができる。従って、案内装置の摺動安定性が損なわれず、寿命を長期化することができる。加えて、高速度域での使用においても、潤滑剤の攪拌抵抗の増大を有効に防止することができ、転動体の転がり抵抗の増加、特にボールねじ等の温度上昇を防止することができる。
【0038】
第2の潤滑剤は、第1の潤滑剤よりもちょう度が高いことが好ましい。これにより、軌道軸に供給された潤滑剤は、高速度域での性能を十分に発揮することができる。一般に、第1の潤滑剤は、特に限定されないが、ちょう度が100〜400程度、好ましくは200〜300程度であることから、第2の潤滑剤は、ちょう度を200〜500程度、好ましくは300〜500程度、さらに400〜500程度とすることが好ましい。別の観点から、第2の潤滑剤のちょう度は、第1の潤滑剤のちょう度よりも100〜300程度、さらに150〜250程度高いことが好ましい。
【0039】
第2の潤滑剤の供給方法は、特に限定されず、手動で供給してもよいが、例えば、上述した第2の潤滑剤供給部を利用して供給することが好ましい。なお、軌道軸に第2の潤滑剤を供給することができる限り、軌道軸における転動体の転走面又は転走溝のいずれに供給してもよい。第2の潤滑剤の供給のタイミングは特に限定されるものではなく、第1の潤滑剤の供給タイミングと一致していてもよいし、第1の潤滑剤の供給の前又は後のいずれであってもよい。また、使用期間中に、第1及び第2の潤滑剤の供給は1回のみであってもよいし、複数回であってもよいし、両者の供給頻度又は回数が異なっていてもよい。
第1及び第2の潤滑剤の供給量は、用いる案内装置の構成、サイズ、使用周期、使用態様等に応じて適宜調整することができる。
【0040】
本発明においては、上述した案内装置を搭載して構成される製造装置は、特に限定されるものではなく、例えば、電子部品等を実装する部品実装装置、電子部品等を挿入する部品挿入機、半導体素子等を接合する半導体実装機、部品等を加工する部品加工機、部品等を搬送/供給する搬送/供給機等、これらを備えたシステム等、種々の装置が挙げられる。
以下に、本発明の潤滑剤供給方法の実施例を詳細に説明する。
【0041】
(第1及び第2の潤滑剤の調製)
表1に示す組成の第1の潤滑剤を、表2に示す組成の第2の潤滑剤を、それぞれ調製した。得られた各潤滑剤の耐荷重性能、防錆性能及びちょう度を併せて示す。
耐荷重性能は、JIS−K2519による四球式焼き付き試験で測定した。
防錆性能は、塩水噴霧試験(JIS Z2371)に準拠して行った。
ちょう度は、JIS−K2220.7により、25℃にて測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
(実施例及び比較例)
表1に示す第1の潤滑剤と表2に示す第2の潤滑剤とについて、上述したような、軌道軸と、転動体を収容した移動部材とから構成される案内装置において、第1の潤滑剤を転動体に、第2の潤滑剤を軌道軸に供給し、案内装置を稼動した場合の第1及び第2の潤滑剤の混合の影響を評価するために、第1の潤滑剤と第2の潤滑剤とを1:1で混合し、その耐荷重性能、防錆性能及びちょう度を測定した。その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3によれば、実施例に示す本発明のように、第1の潤滑剤及び第2の潤滑剤において、基油を同じ種類とし、少なくとも増ちょう剤及び添加剤を同一成分とすることにより、主に基油及び増ちょう剤に支配されるちょう度の大幅な上昇が認められず、予想外又は意図しないちょう度の変化を防止することができる。加えて、添加剤の添加によって、例えば、さびに強く、耐荷重性が高いなど、意図する添加剤の特性を低減させることなく、十分に発揮させることができる。これにより、軌道軸、転動体及び移動部材等の焼付きを防止し、これらの摩耗等を十分に低減させることができる。その結果、案内装置の寿命を長期化することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の潤滑剤供給方法は、案内装置を備え、各種製造・加工・処理・搬送・移動等を実現し得る全ての装置及びシステム、例えば、電子部品実装装置、産業ロボット、ファインデバイス実装装置、医療・検査・計測システム、ファインプロセスを実現する産業機器等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の案内装置の一実施例を示す要部の斜視図である。
【図2】本発明の案内装置の別の実施例を示す要部の斜視図である。
【図3】本発明の案内装置のさらに別の実施例を示す要部の斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
10 案内装置
11 X軸
20 ボールネジ案内装置
30直線案内装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を転走させる面を有する軌道軸と、
前記転動体をその内部に収容し、該転動体を介して前記軌道軸と係合し、該軌道軸に沿って相対的に移動自在な移動部材とから構成される案内装置に対して、
前記転動体に、少なくとも基油、増ちょう剤及び添加剤を含む第1の潤滑剤を供給するとともに、
前記軌道軸に、基油が前記第1の潤滑剤と同一種類であり、かつ、少なくとも増ちょう剤及び添加剤が第1の潤滑剤と同一成分である第2の潤滑剤を供給することを特徴とする潤滑剤供給方法。
【請求項2】
第2の潤滑剤は、第1の潤滑剤のちょう度よりも高ちょう度である請求項1に記載の潤滑剤供給方法。
【請求項3】
第1の潤滑剤及び第2の潤滑剤の基油は、ともに炭化水素系基油、フッ素化物系基油又はシリコン系基油のいずれかである請求項1又は2に記載の潤滑剤供給方法。
【請求項4】
転動体を転走させる面を有する軌道軸と、
前記転動体をその内部に収容し、該転動体を介して前記軌道軸と係合し、該軌道軸に沿って相対的に移動自在な移動部材と
該移動部材に設置され、前記転動体に、少なくとも基油、増ちょう剤及び添加剤を含む第1の潤滑剤を供給するための第1の潤滑剤供給部と、
前記移動部材に設置され、前記軌道軸に、基油が前記第1の潤滑剤と同一種類であり、かつ、少なくとも増ちょう剤及び添加剤が第1の潤滑剤と同一成分である第2の潤滑剤を供給するための第2の潤滑剤供給部とから構成されることを特徴とする案内装置。
【請求項5】
案内装置が、直線案内装置又はボールネジ案内装置である請求項4に記載の案内装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の案内装置を搭載してなることを特徴とする製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−69927(P2008−69927A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251218(P2006−251218)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】