説明

潤滑剤供給装置

【課題】簡単に潤滑剤を補充して、常に鍵を円滑に押鍵操作することができる潤滑剤供給装置を提供する。
【解決手段】押鍵操作時に鍵10を上下方向にガイドする鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を供給する潤滑剤供給装置32であって、潤滑剤31を収容するシリンダ部33内からピストン部34によって潤滑剤31を押し出す潤滑剤供給部35と、鍵ガイド部17、19に設けられ、且つ潤滑剤供給部35から押し出された潤滑剤31を鍵10が摺動する鍵ガイド部17、19の摺動面に導く潤滑剤流路37とを備えている。従って、潤滑剤供給部35から潤滑剤31を押し出すだけで、潤滑剤31を鍵ガイド部17、19の潤滑剤流路37によって鍵ガイド部17、19の摺動面に供給することができるので、簡単に潤滑剤31を鍵ガイド部17、19の摺動面に補充することができ、これにより常に鍵10を円滑に押鍵操作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの鍵盤楽器に用いられる潤滑剤供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鍵盤楽器においては、特許文献1に記載されているように、鍵を押鍵操作した際に、鍵を上下方向にガイドする鍵ガイド部を備え、押鍵操作時に鍵が摺動する鍵ガイド部の摺動面にグリースなどの潤滑剤を塗布し、鍵ガイド部によって鍵を円滑にガイドするように構成されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平04−61396号公報
【0004】
この種の鍵盤楽器は、鍵ガイド部の摺動面に潤滑剤を溜めるための凹部を設け、この凹部に潤滑剤を溜めることにより、潤滑剤が鍵ガイド部の摺動面からはみ出す量を抑制して、潤滑剤が短期間で消耗しないように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような鍵盤楽器では、鍵ガイド部の摺動面に設けられた凹部に潤滑剤を溜めて短期間で潤滑剤が消耗しないように構成しても、長時間経過すると、潤滑剤が減少し、演奏時にスムースに鍵操作ができず、異音を発生するなどの問題が生じる。このため、定期的な保守点検時に、グリースなどの潤滑剤を補充しなければならず、その補充作業が面倒であるという問題がある。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、簡単に潤滑剤を補充して、常に鍵を円滑に押鍵操作することができる潤滑剤供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、押鍵操作時に鍵を上下方向にガイドする鍵ガイド部に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置であって、前記潤滑剤を収容する収容部内から押出部によって前記潤滑剤を押し出す潤滑剤供給部と、前記鍵ガイド部に設けられ、且つ前記潤滑剤供給部から押し出された前記潤滑剤を前記鍵が摺動する前記鍵ガイド部の摺動面に導く潤滑剤流路とを備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置である。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、潤滑剤供給部から潤滑剤を押し出すだけで、潤滑剤を鍵ガイド部の潤滑剤流路によって鍵ガイド部の摺動面に供給することができるので、簡単に潤滑剤を鍵ガイド部の摺動面に補充することができ、これにより常に鍵を円滑に押鍵操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明を鍵盤楽器に適用した一実施形態を示した平面図である。
【図2】図1に示された鍵盤楽器のA−A矢視における拡大断面図である。
【図3】図2に示された鍵盤楽器における潤滑剤供給装置を示した要部の拡大断面図である。
【図4】図3に示された潤滑剤供給装置における鍵ガイド部を示し、(a)はその拡大正面図、(b)はその拡大側面図、(c)はその拡大平面図、(d)はその拡大底面図である。
【図5】図4に示された鍵ガイド部のガイド本体部を示し、(a)はその拡大正面図、(b)はその拡大側面図、(c)はその拡大平面図、(d)はその拡大底面図である。
【図6】図4に示された鍵ガイド部のキャップ部を示し、(a)はその拡大正面図、(b)はその拡大側面図、(c)はその拡大平面図、(d)はその拡大底面図である。
【図7】図1に示された鍵盤楽器において、鍵盤部を11個のブロックに分割し、各ブロックごとに潤滑剤供給部を配置し、この潤滑剤供給部をそれぞれ制御基板に接続し、この制御基板を回路基板に接続した状態を示した要部の配置図である。
【図8】図1に示された鍵盤楽器の回路構成を示したブロック図である。
【図9】図8に示された鍵盤楽器におけるメインの動作フローを示した図である。
【図10】図9に示されたスイッチ処理の動作フローを示した図である。
【図11】図9に示されたメンテナンス処理の動作フローを示した図である。
【図12】図11に示された潤滑剤供給処理の動作フローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜図12を参照して、この発明を鍵盤楽器に適用した一実施形態について説明する。
この鍵盤楽器は、図1および図2に示すように、楽器本体1を備えている。この楽器本体1は、下部ケースを兼ねる合成樹脂製の鍵盤シャーシ2と、この鍵盤シャーシ2の後部(図2では右側部)を覆う上部ケース3と、鍵盤シャーシ2の下部に設けられた底板4とで構成されている。
【0011】
鍵盤シャーシ2上には、図1および図2に示すように、鍵盤部5が上方に露出した状態で設けられている。上部ケース3は、鍵盤シャーシ2の後部および両側部上に設けられて、鍵盤部5の後部を覆うように構成されている。この上部ケース3の上面には、操作部6および表示部7が設けられている。また、この上部ケース3の内面には、回路基板8が取り付けられている。
【0012】
この場合、操作部6は、電源や音量調整、音色選択などの楽器に必要な各種のスイッチを備えている。表示部7は、液晶表示パネルやEL(エレクトロ・ルミネッセンス)表示パネルなどの平面型の表示パネルからなり、演奏に必要な各種の情報を電気光学的に表示するように構成されている。回路基板8には、操作部6の各スイッチおよび表示部7が電気的に接続された状態で搭載されているほか、楽器に必要な各種の電子部品(図示せず)が搭載されている。
【0013】
鍵盤部5は、図1および図2に示すように、鍵盤シャーシ2上に並列に配列された状態で上下方向に回転可能に設けられた複数の鍵10と、この複数の鍵10の各押鍵操作に応じてスイッチ信号をそれぞれ出力する複数のスイッチ部11とを備えている。この場合、複数の鍵10は、白鍵と黒鍵とを備えている。ただし、ここでは白鍵について説明する。
【0014】
この鍵10は、図2に示すように、その後端部(図2では右端部)に肉厚の薄い屈曲部12が設けられ、この屈曲部12が鍵10の配列方向に連続する連結部13にそれぞれ連結されるように構成されている。また、この鍵10は、その後端部に位置する連結部13が鍵盤シャーシ2の後部上に設けられた鍵搭載部14上にビス15によって取り付けられている。これにより、鍵10は、その後端部の連結部13が鍵盤シャーシ2の鍵搭載部14上に取り付けられた状態で、屈曲部12が上下方向に撓み変形することにより、上下方向に回転するように構成されている。
【0015】
一方、鍵盤シャーシ2の前部(図2では左側部)には、図2に示すように、鍵10の前端面(図2では左端面)における下部側を覆うための前カバー部16が、底部から上方に向けて突出して形成されている。この前カバー部16の後部側(図2では右側)に位置する鍵盤シャーシ2の箇所には、鍵10を上下方向にガイドする白鍵用の鍵ガイド部17がビス18によって取り付けられている。
【0016】
この鍵ガイド部17の後部側(図2では右側)に位置する鍵盤シャーシ2の箇所には、図2に示すように、ガイド搭載部20が立上り部21によって一段高く形成されている。このガイド搭載部20上には、白鍵用の鍵ガイド部17と同様、黒鍵用の鍵ガイド部19がビス18によって取り付けられている。この黒鍵用の鍵ガイド部19の後部に位置する鍵盤シャーシ2の箇所には、ストッパ搭載部22が立上り部23によって更に一段高く形成されている。
【0017】
このストッパ搭載部22の下面には、図2に示すように、鍵10に設けられたストッパ部24の突起部24aが下側から当接するフェルトなどの上限ストッパ25が設けられている。この場合、立上り部23には、鍵10のストッパ部24の突起部24aが上下方向に移動可能に挿入する開口部23aが設けられている。これにより、鍵10は、屈曲部12を中心に反時計回りに回転した際に、ストッパ部24の突起部24aが下側から上限ストッパ25に当接することにより、上限位置が規制されるように構成されている。
【0018】
また、ストッパ搭載部22の後部側に位置する鍵盤シャーシ2の箇所には、図2に示すように、スイッチ搭載部26が設けられている。このスイッチ搭載部26の下面には、スイッチ基板27がビス18によって取り付けられており、このスイッチ基板27は、リード線27aによって回路基板8と電気的に接続されている。このスイッチ基板27上には、スイッチ部11が各鍵10のスイッチ押圧部28にそれぞれ対応して設けられている。この場合、スイッチ搭載部26には、スイッチ部11が挿入する貫通孔26aが上下に貫通して設けられている。
【0019】
スイッチ部11は、図2に示すように、ドーム状に膨出形成されたゴム部材30と、このゴム部材30の内部に設けられた可動接点30aと、スイッチ基板27上に設けられた固定接点30bとを備えている。これにより、スイッチ部11は、ゴム部材30が鍵10のスイッチ押圧部28によって押し下げられて弾力的に潰れ変形した際に、ゴム部材30内の可動接点30aがスイッチ基板27上の固定接点30bに接触することにより、スイッチ信号を出力するように構成されている。
【0020】
ところで、底板4は、図2に示すように、鍵盤シャーシ2の底部にビス18によって取り付けられている。この底板4上には、鍵ガイド部17、19にグリースなどの潤滑剤31を供給する潤滑剤供給装置32が設けられている。この潤滑剤供給装置32は、図2および図3に示すように、潤滑剤31を収容するシリンダ部33内からピストン部34によって潤滑剤31を押し出す潤滑剤供給部35と、この潤滑剤供給部35から送り出された潤滑剤31を複数の鍵ガイド部17、19に供給するための供給パイプ36とを備えている。
【0021】
この場合、潤滑剤31は、ペースト状のシリコーングリースであり、粘性である稠度が300程度のものである。シリンダ部33は、図3に示すように、円筒状の容器であり、その一端部(図3では左端部)には、潤滑剤31を排出する排出口33aが設けられている。ピストン部34は、シリンダ部33の内周面に密接する円板部34aと、この円板部34aをシリンダ部33の長手方向に沿って移動させる軸部34bとを備えている。
【0022】
これにより、潤滑剤供給部35は、図3に示すように、軸部34bをシリンダ部33内に押し込んで円板部34aを移動させると、シリンダ部33内の潤滑剤31が排出口33aから押し出されるように構成されている。供給パイプ36は、図2、図3および図7に示すように、一端部がシリンダ部33の排出口33aに接続され、他端部が複数の鍵ガイド部17の各潤滑剤流路37に接続されるように構成されている。これにより、供給パイプ36は、シリンダ部33内から押し出された潤滑剤31を複数の鍵ガイド部17にそれぞれ供給するように構成されている。
【0023】
この場合、白鍵用の鍵ガイド部17と黒鍵用の鍵ガイド部19とは、図2に示すように、その設置位置が異なっているほか、鍵10の配列方向(図2では紙面の表裏面方向)の長さ(幅)が黒鍵用の鍵ガイド部19よりも大きく形成され、高さが黒鍵用の鍵ガイド部19よりも低く形成されている。これら以外は、白鍵用の鍵ガイド部17と黒鍵用の鍵ガイド部19とが、同じ構成になっている。このため、以下の説明では、白鍵用の鍵ガイド部17について説明する。
【0024】
この鍵ガイド部17は、図4〜図6に示すように、ガイド本体部38とこのガイド本体部38を覆うキャップ部39とを備えている。ガイド本体部38は、平板状の取付部38aと、この取付部38a上に起立して設けられた立板部38bとで構成されている。キャップ部39は、ガイド本体部38の立板部38bを覆うものであり、オレフィン系熱可塑性のエラストマで形成されている。
【0025】
この鍵ガイド部17には、図3〜図6に示すように、鍵10が摺動する鍵ガイド部17の摺動面40に潤滑剤31を導くための潤滑剤流路37が設けられている。この潤滑剤流路37は、ガイド本体部38の立板部38b内に上下に貫通して設けられた第1流路37aと、ガイド本体部38の立板部38bの上端面とこれに対応するキャップ部39の内面との間に設けられた第2流路37bと、キャップ部39の両側面に設けられた第3流路27cとを備えている。
【0026】
すなわち、第1流路37aは、図5(a)〜図5(d)に示すように、ガイド本体部38の立板部38bにおける中心部に、その上下に貫通して形成された孔である。この第1流路37aの下端部には、接続パイプ部41が下側に突出して設けられている。この接続パイプ部41は、図2および図3に示すように、鍵盤シャーシ2の下側に突出し、この突出した下端部に供給パイプ36が接続されるように構成されている。
【0027】
また、第2流路37bは、図4および図5に示すように、ガイド本体部38の立板部38bにおける上端部に、その鍵配列方向(図5(a)では左右方向)に位置する両端部に亘って連続して形成された半円形状の溝である。この第2流路37bの中間部には、第1流路37aが連続している。また、この第2流路37bは、ガイド本体部38の立板部38bにキャップ部39が被せられていることにより、第1流路37aから送り込まれた潤滑剤31を立板部38bの上部両側に導くように構成されている。
【0028】
さらに、第3流路37cは、図4および図6に示すように、鍵10が摺動する鍵ガイド部17のキャップ部39の両側面である摺動面40にその上下方向に沿って設けられた凹部形状の溝部である。この第3流路37cの上部には、第2流路37bが連続している。これにより、第3流路37cは、第2流路37bから第3流路37cの上部に潤滑剤31が送り込まれ、この送り込まれた潤滑剤31が第3流路37cの上部から下部に向けて徐々に流れるように構成されている。
【0029】
ところで、潤滑剤供給部35には、図3に示すように、ピストン部34を駆動するための駆動機構部42が設けられている。この駆動機構部42は、図示しないが、ステッピングモータと、このステッピングモータの回転を減速する減速ギアと、この減速ギアによって回転するピニオンギアと、このピニオンギアが噛み合ってピニオンギアの回転に伴ってスライドするラックギアとを備え、このラックギアがピストン部34の軸部34bに設けられた構成になっている。
【0030】
これにより、駆動機構部42は、ステッピングモータが回転すると、その回転が減速ギアで減速されてピニオンギアに伝達され、このピニオンギアの回転によってラックギアがピストン部34の軸部34bと共にその軸方向に沿って移動し、これに伴ってピストン部34の円板部34aがシリンダ部33内を移動することにより、シリンダ部33内の潤滑剤31をピストン部34の移動量に応じてシリンダ部33の排出口33aから押し出すように構成されている。
【0031】
また、この潤滑剤供給部35は、図7に示すように、鍵盤部5に対して複数個が配置されている。例えば、鍵盤部5は11個のブロックBに分割されており、1ブロックBは8個の鍵10を有している。これにより、1つの潤滑剤供給部35は、1ブロックBとして8個の鍵10に対する各鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を一度に供給するように構成されている。
【0032】
すなわち、1つの潤滑剤供給部35には、図7に示すように、供給パイプ36によって1ブロックBである8個の鍵10の各鍵ガイド部17、19に接続されている。この場合、1ブロックBの8個の鍵10とは、例えば白鍵用の鍵ガイド部17が5個で、黒鍵用の鍵ガイド部19が3個である第1タイプと、白鍵用の鍵ガイド部17が4個で、黒鍵用の鍵ガイド部19が4個である第2タイプとがあり、これら第1、第2の各タイプが鍵10の配列状態に応じて混在した構成になっている。
【0033】
また、複数の潤滑剤供給部35は、図2および図7に示すように、その各駆動機構部42が鍵盤シャーシ2の後端部(図2では右端部)上にビス18によって取り付けられた制御基板43とリード線43aによってそれぞれ電気的に接続されている。この制御基板43は、上部ケース3に設けられた回路基板8とリード線43bによって電気的に接続されている。これにより、複数の潤滑剤供給部35は、その各駆動機構部42に制御基板43から駆動信号がリード線43aによってそれぞれ与えられるように構成されている。
【0034】
次に、この鍵盤楽器の回路構成について、図8に示されたブロック図を参照して説明する。
この電子鍵盤楽器の回路構成は、鍵盤楽器の回路全般を制御するCPU(中央演算処理装置)50と、予め定められたプログラムおよび入力されたデータを格納するメモリ部51と、CPU50からの指令に基づいて各種の情報を表示する表示部7とを備えている。
【0035】
また、この電子鍵盤楽器の回路構成は、図8に示すように、音量、音色、モード切替などの各種のスイッチを備えた操作部6と、複数の鍵10の押鍵動作に基づいてそれぞれスイッチ信号を出力する鍵盤部5と、外部機器との間でデータの授受を行うインターフェイス部であるI/F部52と、CPU50からの指令に基づいて潤滑剤供給装置32に駆動信号を与える潤滑剤供給制御部53とを備えている。
【0036】
この場合、メモリ部51は、ROM(リード・オンリ・メモリ)とRAM(ランダム・アクセス・メモリ)とを備え、鍵盤部5における各鍵10の押鍵回数を鍵盤部5のブロックBごとにおける各鍵10の押鍵回数としてそれぞれ記憶する。すなわち、メモリ部51は、8個の鍵10を1ブロックBとし、このブロックBごとにおける各鍵10の押鍵回数をそれぞれ記録する。
【0037】
次に、この鍵盤楽器の動作について、図9〜図12に示す動作フローを参照して説明する。この場合、図9はCPU50によって実行される鍵盤楽器のメイン動作フローを示す図である。
このCPU50による処理は、電源が投入されると、スタートし、ステップS1でメモリ部51に記憶されている各鍵10の押鍵回数を除いて、イニシャライズ処理をし、ステップS2に進んで、潤滑剤31を各鍵ガイド部17、19に供給する後述するメンテナンス処理を行う。このメンテナンス処理は、電源が投入され際に、1回実行される。
【0038】
この後、ステップS3に進んでスイッチ処理を実行する。このスイッチ処理は、鍵盤部5の各鍵10が押鍵されて、各鍵10に対応する各スイッチ部11がスイッチ信号を出力する通常のスイッチ処理を実行するほか、後述するスイッチ処理を実行し、ステップS4に進んで、各鍵10に対応する各スイッチ部11からのスイッチ信号に基づいて楽音を発音する発音処理を行う。この後、ステップS5でその他の処理を行い、ステップS3に戻り、電源が切られるまで、ステップS3〜ステップS5までの動作を繰り返す。
【0039】
次に、この鍵盤楽器のスイッチ処理について、図10に示された動作フローを参照して説明する。
このスイッチ処理は、通常のスイッチ処理のほかに、押鍵回数のカウント処理を行う。すなわち、このスイッチ処理がスタートすると、ステップS10で鍵盤部5の各鍵10が押鍵操作されて各鍵10に対応する各スイッチ部11がオンしたか否かを判断する。
【0040】
このとき、スイッチ部11がオンしていれば、ステップS11に進んで、通常のスイッチ処理のほかに押鍵カウンタでスイッチ部11のオン信号を押鍵回数としてカウントし、押鍵された鍵10の押鍵回数に+1を加算し、メモリ部51に記憶する。また、ステップS10でスイッチ部11がオンしていなければ、鍵盤部5が演奏操作されていないと判断し、ステップS12に進んで、その他のスイッチ処理を行ってメインフローに戻る。
【0041】
次に、この鍵盤楽器のメンテナンス処理について、図11に示された動作フローを参照して説明する。
このメンテナンス処理が開始すると、ステップS20で鍵盤部5の各ブロックBにおける各鍵10の押鍵回数をメモリ部51のワークテーブルに読み出する。
【0042】
そして、ステップS21に進んで、読み出したブロックBにおける各鍵10の押鍵回数が予め定められた所定回数である場合にそのブロックBの各鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を供給する潤滑剤供給処理を実行する。この後、ステップS22に進んで、潤滑剤31を供給したブロックBの押鍵回数を「0」に書き換え、メインフローに戻る。
【0043】
次に、この鍵盤楽器の潤滑剤供給処理について、図12に示された動作フローを参照して説明する。
この潤滑剤供給処理が開始すると、ステップS30で各ブロックBにおける鍵10の押鍵回数を基準値、例えば200万回(通常使用で半年に1回程度の回数に相当する)と比較する。
【0044】
このとき、いずれかのブロックBにおける鍵10の押鍵回数が基準値以上であると判断されると、ステップS31に進んで、押鍵回数が基準値以上のブロックBの潤滑剤供給部35における駆動機構部42に駆動信号を与える。すなわち、駆動機構部42のステッピングモータに規定のパルスを送り、ステッピングモータを所定回転数だけ回転させる。
【0045】
すると、ステッピングモータの回転が減速ギアで減速されてピニオンギアを所定の角度だけ回転させ、このピニオンギアの回転に伴ってラックギアが移動し、潤滑剤供給部35のピストン部34をシリンダ部33内で排出口33aに向けて所定量だけ移動させる。これにより、シリンダ部33内の潤滑剤31が排出口33aから押し出される。
【0046】
この押し出された潤滑剤31は、供給パイプ36によって押鍵回数が基準値以上のブロックBの各鍵ガイド部17、19に一度に供給される。この供給された潤滑剤31は、各鍵ガイド部17、19の各接続パイプ部41から各潤滑剤流路37に送り込まれる。この潤滑剤流路37に送り込まれた潤滑剤31は、第1流路37aによって鍵ガイド部17の上部に位置する第2流路37bに導かれ、この第2流路37bによって鍵ガイド部17の両側に位置する摺動面40に位置する第3流路37cに導かれる。
【0047】
これにより、潤滑剤31が鍵ガイド部17の摺動面40に塗布され、この塗布された潤滑剤31によって鍵ガイド部3517、19が各鍵10を円滑にガイドする。この場合、潤滑剤31の供給量は、例えば1ブロックBで8個の鍵10に対して約0.72g(グラム)であり、各鍵10の補充量は約0.24g(グラム)である。
【0048】
このように押鍵回数が基準値以上のブロックBの鍵10に潤滑剤31が供給されると、ステップS32に進んで、メモリ部51に記録されている潤滑剤31が供給されたブロックBにおける各鍵10の押鍵回数をクリアし、メンテナンス処理に戻る。また、ステップS30で、いずれのブロックBの鍵10の押鍵回数が基準値以上でないと判断された場合には、メンテナンス処理に戻る。
【0049】
このように、この鍵盤楽器における潤滑剤供給装置32によれば、押鍵操作時に鍵10を上下方向にガイドする鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を供給する潤滑剤供給装置32であって、潤滑剤31を収容するシリンダ部33内からピストン部34によって潤滑剤31を押し出す潤滑剤供給部35と、鍵ガイド部17、19に設けられ、且つ潤滑剤供給部35から押し出された潤滑剤31を鍵10が摺動する鍵ガイド部17、19の摺動面40に導く潤滑剤流路37とを備えていることにより、簡単に潤滑剤31を補充して、常に鍵10を円滑に押鍵操作することができる。
【0050】
すなわち、この潤滑剤供給装置32では、潤滑剤供給部35から潤滑剤31を押し出すだけで、潤滑剤31を鍵ガイド部17、19の潤滑剤流路37によって鍵ガイド部17、19の摺動面40に供給することができるので、簡単に潤滑剤31を鍵ガイド部17、19の摺動面40に補充することができ、これにより常に鍵10を円滑に押鍵操作することができる。
【0051】
この場合、潤滑剤供給部35のピストン部34を駆動する駆動機構部42を備えているので、潤滑剤31を供給する際に、駆動機構部42を駆動するだけで、自動的に潤滑剤31を供給することができるので、潤滑剤31の供給作業が簡単で容易にできる。すなわち、駆動機構部42は、ステッピングモータが回転すると、その回転が減速ギアで減速されてピニオンギアに伝達され、このピニオンギアの回転によってラックギアがピストン部34の軸部34bと共にその軸方向に移動し、これに伴ってピストン部34の円板部34aがシリンダ部33内を移動することにより、シリンダ部33内の潤滑剤31をピストン部34の移動量に応じてシリンダ部33の排出口33aから押し出すことができる。
【0052】
また、この潤滑剤供給装置32では、鍵10の押鍵回数が予め定められた所定回数に到達した際に、駆動機構部42に駆動指令を与えて鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を供給させるための制御部であるCPU50を備えていることにより、鍵10が予め定められた所定回数だけ押鍵操作された際に、潤滑剤31を鍵ガイド部17、19に自動的に塗布させることができ、これにより常に鍵10を鍵ガイド部17、19によって円滑にガイドすることができる。
【0053】
また、この潤滑剤供給装置32では、鍵ガイド部17、19が、ガイド本体部38とこのガイド本体部38を覆うキャップ部39とを備えた構成であるから、鍵ガイド部17、19に潤滑剤流路37を容易に形成することができる。すなわち、ガイド本体部38に第1流路37aを上下に貫通させて設けることができ、ガイド本体部38の上端面とこれに対応するキャップ部39の内面との間に第2流路37bを簡単に設けることができ、キャップ部39の両側面である摺動面40に第3流路37cを良好に設けることができる。
【0054】
また、この潤滑剤供給装置32では、潤滑剤流路37が、ガイド本体部38内に上下に貫通して設けられた第1流路37aと、ガイド本体部38の上端面とこれに対応するキャップ部39の内面との間に設けられた第2流路37bと、キャップ部39の両側面である摺動面40に設けられた第3流路37cとを備えているので、潤滑剤31を潤滑剤流路37によって確実に且つ良好に鍵ガイド部17、19の摺動面40に供給することができる。
【0055】
すなわち、この潤滑剤流路37は、第1流路37aによって潤滑剤31を鍵ガイド部17の上部に良好に導くことができ、この導かれた潤滑剤31を第2流路37bによって鍵ガイド部17、19の両側に良好に導くことができ、この導かれた潤滑剤31を第3流路37cによって鍵ガイド部17、19の両側に位置する摺動面40に導くことができ、これにより潤滑剤31を鍵ガイド部17、19の摺動面40に確実に且つ良好に塗布することができるので、この塗布された潤滑剤31によって鍵10を円滑にガイドすることができる。
【0056】
さらに、この潤滑剤供給装置32では、潤滑剤供給部35が1ブロックBごとの複数の鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を一括して供給することにより、潤滑剤供給部35の数が少なくても、多くの鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を確実に且つ良好に供給することができ、これにより効率良く潤滑剤31を各鍵ガイド部17、19に供給することができる。
【0057】
例えば、この実施形態では、鍵盤部5を11個のブロックBに分割し、1つのブロックBが8個の鍵10を有し、この1ブロックBに1つの潤滑剤供給部35を設けた構成であるか、1つの潤滑剤供給部35によって8個の鍵10に潤滑剤31を一括して供給することができ、これにより効率良く潤滑剤31を各鍵ガイド部17、19に供給することができる。
【0058】
なお、上述した実施形態では、8個の鍵10を1ブロックBとし、この1ブロックBの各鍵10に1つの潤滑剤供給部35で一度に潤滑剤31を供給するように構成した場合について述べたが、必ずしも8個の鍵10を1ブロックBとして構成する必要はなく、例えば5〜10個程度の鍵10を1ブロックとしても良い。
【0059】
また、鍵盤部5を11個のブロックBに分ける必要はなく、例えば鍵盤部5を2〜4個程度のブロックに分け、その2〜4程度のブロックごとにそれぞれ潤滑剤供給部35を配置しても良く、更に鍵盤部5の全ての鍵10に1つの潤滑剤供給部35で潤滑剤を供給するように構成しても良い。
【0060】
また、上述した実施形態では、潤滑剤供給部35が、潤滑剤31を収容する円筒状のシリンダ部33と、このシリンダ内を移動するピストン部34とを備えた注射器型に構成されている場合について述べたが、これに限らず、潤滑剤供給部は、タンク形状の収容部と、この収容部内の潤滑剤31を押し出す押出部とを備えた構成であれば、その形状は自由な形状に形成しても良い。
【0061】
さらに、上述した実施形態では、鍵10の押鍵回数が予め定められた所定回数に到達した際に、制御部であるCPU50が駆動機構部42に駆動指令を与えて鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を供給させるように構成した場合について述べたが、これに限らず、例えば楽器本体1に駆動機構部42の駆動用のスイッチを設け、押鍵操作時に異音が発生して鍵10が円滑に動作しない場合に、駆動用のスイッチを操作して駆動機構部42を駆動させて鍵ガイド部17、19に潤滑剤31を供給するように構成しても良い。
【0062】
また、必ずしも潤滑剤供給部35に駆動機構部42を設ける必要はなく、押鍵操作時に異音が発生して鍵10が円滑に動作しない場合に、潤滑剤供給部35のピストン部34を使用者が手動によって操作して、潤滑剤31をシリンダ部33内から押し出し、この押し出した潤滑剤31を鍵ガイド部17、19に供給するように構成しても良い。
【0063】
また、上述した実施形態では、鍵ガイド部17、19を鍵盤シャーシ2と別に形成し、ビス18によって鍵盤シャーシ2上に鍵ガイド部17、19を取り付けた構成である場合について述べたが、これに限らず、鍵ガイド部17、19の各ガイド本体部38を鍵盤シャーシ2と一体に形成し、この各ガイド本体部38に各キャップ部39を取り付けるように構成しても良い。
【0064】
さらに、上述した実施形態では、鍵盤部5の各鍵10の後端部に屈曲部12を設け、この屈曲部12を連結部13に連結し、この連結部13を鍵盤シャーシ2の鍵搭載部14に取り付けた構成である場合について述べたが、これに限らず、鍵盤シャーシ2の鍵搭載部14に鍵支持部を設け、この鍵支持部に鍵10の後端部を軸によって上下方向に回転可能な状態で取り付けた構成であっても良い。
【0065】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、これに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲を含むものである。
以下に、本願の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0066】
(付記)
請求項1に記載の発明は、押鍵操作時に鍵を上下方向にガイドする鍵ガイド部に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置であって、前記潤滑剤を収容する収容部内から押出部によって前記潤滑剤を押し出す潤滑剤供給部と、前記鍵ガイド部に設けられ、且つ前記潤滑剤供給部から押し出された前記潤滑剤を前記鍵が摺動する前記鍵ガイド部の摺動面に導く潤滑剤流路とを備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置である。
【0067】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の潤滑剤供給装置において、前記潤滑剤供給部の前記押出部を駆動する駆動機構部を備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置である。
【0068】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の潤滑剤供給装置において、前記鍵の押鍵回数が予め定められた所定回数に到達した際に、前記駆動機構部に駆動指令を与えて前記鍵ガイド部に前記潤滑剤を供給させるための制御部を備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置である。
【0069】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の潤滑剤供給装置において、前記鍵ガイド部はガイド本体部とこのガイド本体部を覆うキャップ部とを備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置である。
【0070】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の潤滑剤供給装置において、前記潤滑剤流路は、前記ガイド本体部内に上下に貫通して設けられた第1流路と、前記ガイド本体部の上端面とこれに対応する前記キャップ部の内面との間に設けられた第2流路と、前記キャップ部の両側面である前記摺動面に設けられた第3流路とを備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置である。
【0071】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の潤滑剤供給装置において、前記潤滑剤供給部は複数の前記鍵ガイド部に前記潤滑剤を一括して供給することを特徴とする潤滑剤供給装置である。
【符号の説明】
【0072】
1 楽器本体
2 鍵盤シャーシ
5 鍵盤部
8 回路基板
10 鍵
11 スイッチ部
17、19 鍵ガイド部
27 スイッチ基板
28 スイッチ押圧部
31 潤滑剤
32 潤滑剤供給装置
33 シリンダ部
33a 排出口
34 ピストン部
35 潤滑剤供給部
36 供給パイプ
37 潤滑剤流路
37a 第1流路
37b 第2流路
37c 第3流路
38 ガイド本体部
39 キャップ部
40 摺動面
42 駆動機構部
43 制御基板
50 CPU
51 メモリ部
53 潤滑剤供給制御部
B ブロック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
押鍵操作時に鍵を上下方向にガイドする鍵ガイド部に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置であって、
前記潤滑剤を収容する収容部内から押出部によって前記潤滑剤を押し出す潤滑剤供給部と、
前記鍵ガイド部に設けられ、且つ前記潤滑剤供給部から押し出された前記潤滑剤を前記鍵が摺動する前記鍵ガイド部の摺動面に導く潤滑剤流路と
を備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑剤供給装置において、前記潤滑剤供給部の前記押出部を駆動する駆動機構部を備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項3】
請求項2に記載の潤滑剤供給装置において、前記鍵の押鍵回数が予め定められた所定回数に到達した際に、前記駆動機構部に駆動指令を与えて前記鍵ガイド部に前記潤滑剤を供給させるための制御部を備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の潤滑剤供給装置において、前記鍵ガイド部はガイド本体部とこのガイド本体部を覆うキャップ部とを備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項5】
請求項4に記載の潤滑剤供給装置において、前記潤滑剤流路は、前記ガイド本体部内に上下に貫通して設けられた第1流路と、前記ガイド本体部の上端面とこれに対応する前記キャップ部の内面との間に設けられた第2流路と、前記キャップ部の両側面である前記摺動面に設けられた第3流路とを備えていることを特徴とする潤滑剤供給装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の潤滑剤供給装置において、前記潤滑剤供給部は複数の前記鍵ガイド部に前記潤滑剤を一括して供給することを特徴とする潤滑剤供給装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−50525(P2013−50525A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187322(P2011−187322)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】