説明

潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法

【課題】軸受内部における潤滑剤の挙動を詳細に取得する。
【解決手段】軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から軸受を透過した中性子線を電磁波に変換し、当該電磁波を受けて撮像することにより上記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、中性子ラジオグラフィ法を用いて、流体軸受内部の潤滑剤の有無を検査する発明が開示されている。
このような特許文献1に開示された発明を用いることによって、従来は分解して確認を行っていた潤滑剤の有無の検査を、軸受を分解することなく行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−292373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、潤滑剤の有無を検出することはできるものの、軸受内部全体で潤滑剤がどのように分布していることを知ることはできず、潤滑剤の挙動を詳しく取得することができない。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、軸受内部における潤滑剤の挙動を詳細に取得することが可能な潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、軸受内部における潤滑剤の挙動と軸受の寿命との関係について、鋭意研究を行った。その結果、軸受の寿命には、使用環境等が同様の場合であっても個体差が存在することが分かった。寿命の異なるこれらの軸受の分解調査を行ったところ、内部に残存する潤滑剤の様子が大きく異なることが分かった。特に、転がり軸受では、内部の潤滑剤の挙動が寿命に大きく影響していることが分かった。
これは、軸受の寿命が内部の潤滑剤の挙動に依存することを示唆するものである。つまり、軸受内部の潤滑剤の挙動を知ることができれば、軸受の寿命を改善できる可能性があることとなる。
【0007】
かかる研究結果を踏まえ、第1の発明は、潤滑剤分布取得装置であって、軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から軸受を透過した中性子線を受けて電磁波に変換する電磁波変換手段と、上記電磁波変換手段から射出される電磁波を受けて撮像することにより上記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する撮像処理手段とを備えるという構成を採用する。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記軸受を回転駆動する回転駆動手段と、上記中性子線を遮蔽すると共に当該回転駆動手段の少なくとも一部を囲う防護部材とを備えるという構成を採用する。
【0009】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記軸受を通過しない上記中性子線あるいは当該軸受を通過しない上記中性子線が上記電磁波変換手段にて変換されて生成された電磁波を遮蔽する遮蔽部材を備えるという構成を採用する。
【0010】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記中性子線の入射方向から見て上記軸受よりも大径に設定されて上記軸受に固定されると共に上記中性子線を透過する材料によって形成される車輪部と、上記車輪部に廻し掛けられる帯状部材と、当該帯状部材を走行させる動力部とを備えるという構成を採用する。
【0011】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記車輪部が、アルミニウム材料によって形成されているという構成を採用する。
【0012】
第6の発明は、上記第1〜第5いずれかの発明において、 上記撮像処理手段が、内部に上記潤滑剤が存在する第1の上記軸受を透過した上記中性子線が上記電磁波変換手段によって変換された電磁波を受けて得られる第1撮像データと、内部に上記潤滑剤が存在しない第2の上記軸受を透過した上記中性子線が上記電磁波変換手段によって変換された電磁波を受けて得られる第2撮像データとを取得し、上記第1撮像データと上記第2撮像データとの差分から上記潤滑剤分布データを取得するという構成を採用する。
【0013】
第7の発明は、潤滑剤分布取得方法であって、軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から軸受を透過した中性子線を電磁波に変換し、当該電磁波を受けて撮像することにより上記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0014】
潤滑剤は有機物からなり軸受よりも中性子線の吸収率が高い。このため、軸受を透過した中性子線は、潤滑剤が存在する領域で大きく減衰する。一方で、中性子線の強度分布と当該中性子線が変換された電磁波の強度分布とは比例する。
したがって、軸受に対して軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から中性子線が入射し、軸受を透過した中性子線を電磁波に変換して撮像することによって、撮像データの明るさの分布から軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布を取得することができる。
【0015】
また、中性子線の減衰量は、通過領域における潤滑剤の厚みに比例する。つまり、通過領域における潤滑剤の厚みが厚い程、中性子線の減衰量が大きくなって当該領域における中性子線の強度が低下する。一方で、中性子線の強度分布と当該中性子線が変換された電磁波の強度分布とは比例する。したがって、軸受に対して軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から中性子線が入射し、軸受を透過した中性子線を電磁波に変換して撮像することによって、撮像データの明るさ分布から軸心方向の潤滑剤の厚み分布を取得することができる。
【0016】
そして、本発明においては、軸受に対して軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から入射して透過した中性子線を電磁波に変化し、当該電磁波を受けて撮像することにより軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する。
このため、本発明によれば、軸受を分解することなく、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布及び軸心方向の潤滑剤の厚み分布を含む潤滑剤分布データを取得することができ、軸受内部における潤滑剤の挙動を詳細に取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の潤滑剤分布取得装置の概略構成を模式的に示すものであり、(a)が機構の一部を示す模式図であり、(b)が機能構成の一部を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態の潤滑剤分布取得装置に設置される軸受の概略構成を示すカットモデルの斜視図である。
【図3】本発明の変形例を示す図であり、(a)が本発明の第2実施形態の潤滑剤分布取得装置の機構の一部を示す模式図であり、(b)が本発明の第3実施形態の潤滑剤分布取得装置の機構の一部を示す模式図である。
【図4】本発明の第4実施形態の潤滑剤分布取得装置が備える駆動軸部を含む拡大図である。
【図5】本発明の第5実施形態の潤滑剤分布取得装置に設置される軸受を含む模式図である。
【図6】軸受内部の撮像結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の概略構成を模式的に示すものであり、(a)が機構の一部を示す模式図であり、(b)が機能構成の一部を示すブロック図である。
本実施形態の潤滑剤分布取得装置1は、軸受Xの内部における潤滑剤Y(例えばグリース)の分布を取得することにより玉軸受である軸受Xが回転駆動されている最中の潤滑剤Yの挙動を取得するためのものである。
そして、この本実施形態の潤滑剤分布取得装置1は、図1に示すように、中性子線照射装置2と、軸受支持機構3と、回転駆動装置4(回転駆動手段)と、回転検出器5と、シンチレータ6(電磁波変換手段)と、導光機構7と、光増幅器8と、撮像装置9と、信号処理部10と、制御装置11とを備えている。
【0020】
中性子線照射装置2は、例えば原子炉等の中性子源から射出された中性子線L1を案内して軸受Xに対して軸心方向から照射するものである。
なお、中性子源から射出される中性子線を案内することなく軸心方向から軸受Xに照射可能である場合には、中性子線照射装置2を省略することもできる。
また、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1では、例えばイオン発生器で派生させた水素あるいはヘリウム等のイオンをターゲットに照射することによって中性子線を発生する中性子源を別途備えていても良い。
【0021】
軸受支持機構3は、軸受Xを支持するためのものであり、筐体3aと、ハウジング3bとを備えている。
筐体3aは、内部にハウジング3b及び当該ハウジング3bに固定される軸受Xを収容する枠体あるいは箱状の部材である。本実施形態において筐体3aは、図1(a)に示すように、回転駆動装置4の支持台としても機能する。
ハウジング3bは、軸受Xの外輪を覆って支持するものであり、軸受Xを着脱可能に支持している。そして、本実施形態においてハウジング3bは、図1(a)に示すように、軸受Xの軸心が中性子線照射装置2側を向くように軸受Xを支持する。
なお、筐体3a及びハウジング3bは、中性子線L1の通過領域を避ける形状を有していることが好ましいが、中性子線L1の吸収率が極めて低いアルミニウム材料等によって形成すれば中性子線L1の通過領域を跨ぐ形状を有することも可能である。
【0022】
回転駆動装置4は、軸受Xを回転駆動するものであり、図1(a)に示すように、軸受Xを回転駆動するための動力を発生するモータ4a(動力部)と、当該モータ4aにて発生された動力を軸受Xにベルト伝達するためのプーリ4b、ベルト4c(帯状部材)及び駆動軸部4dとを備えている。
より詳細には、プーリ4bは、カップリング等によってモータ4aの軸部と連結されている。また、駆動軸部4dは、軸受Xの軸心方向に長い棒状部材であり、軸受Xの内輪に固定されると共に軸受Xの中央を貫通して水平に配設されている。そして、無端ベルトからなるベルト4cは、プーリ4b及び駆動軸部4dに廻し掛けられている。
なお、駆動軸部4dの周面には、回転検出器5が駆動軸部4dの回転状態を検出するためのマークや磁性体が設けられている。
【0023】
回転検出器5は、駆動軸部4dの回転を検出することによって駆動軸部4dに固定された軸受Xの内輪の回転(すなわち軸受Xの回転)を検出するものである。
この回転検出器5は、駆動軸部4dの周面に設けられたマークや磁性体を検出する光検出器や磁性検出器から構成されており、図1(a)に示すように、ハウジング3bに対して固定されている。
【0024】
シンチレータ6は、軸受Xを透過した中性子線L1を受けて光L2を発光するものであり、中性子線L1を可視光に変換するものである。
このシンチレータ6としては、例えば、LiF/ZnS(Ag)、BN/ZnS (Ag)、Gd/ZnS(Ag)、GdS(Tb)を用いることができる。
【0025】
導光機構7は、シンチレータ6から射出された光L2を光増幅器8を介して撮像装置9まで導光するものである。
この導光機構7は、図1(a)に示すように、光L2を反射して案内するミラー7aと、光L2を集光するレンズ7b等を備えている。
【0026】
光増幅器8は、導光機構7を介して入射される光の強度を高めて出力するものであり、例えば、イメージインテンシファイアを用いることができる。
なお、撮像装置9において十分に長い露光時間が確保できる場合には、光増幅器8を省略することも可能である。
【0027】
撮像装置9は、シンチレータ6から射出され、導光機構7及び光増幅器8を介して到達した光L2を受光して撮像するものであり、撮像結果を撮像データとして出力する。
なお、撮像装置9としては、CCDカメラ、SIT管カメラ、高速度カメラ等を用いることが可能であるが、例えば6000rpm程度で高速回転する軸受Xの内部での潤滑剤Yの移動は高速であるため、2000fps程度のフレームレートの高い撮像が可能な高速度カメラを用いることが好ましい。
【0028】
信号処理部10は、撮像装置9から入力される撮像データを加工して要求される潤滑剤分布データとして出力するものである。
なお、ここで言う潤滑剤分布データとは、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布情報及び軸心方向の潤滑剤の厚み分布情報を含むデータである。そして、本実施形態において信号処理部10は、例えば、撮像データにおける明るさ情報から潤滑剤分布データを算出したり、当該潤滑剤分布データを回転検出器5の検出結果と関連付ける処理を行ったりする。
なお、撮像装置9で撮像された撮像データ自体にも軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布情報及び軸心方向の潤滑剤の厚み分布情報が含まれるため、要求される潤滑剤分布データを撮像データとすることも可能である。この場合には、信号処理部10は、撮像装置9から入力される撮像データをそのまま潤滑剤分布データとして出力する。
【0029】
なお、本実施形態においては、本発明の撮像処理手段が、撮像装置9と信号処理部10とによって構成されている。
【0030】
制御装置11は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の動作全体を制御するものであり、図1(b)に示すように、中性子線照射装置2、回転駆動装置4、回転検出器5、光増幅器8、撮像装置9及び信号処理部10と電気的に接続されている。
【0031】
軸受Xは、内部に潤滑剤を含む玉軸受(転がり軸受)であり、本実施形態においてはラジアル軸受として構成されている。
図2は、軸受Xの概略構成を示すカットモデルの斜視図である。この図に示すように、軸受Xは、半径方向に対向配置される環状の外輪X1及び内輪X2と、外輪X1と内輪X2との間に配置される複数の玉X3と、玉X3同士の間隔を等間隔に保持するための保持器X4と、玉X3の収容空間を封止するシールX5とを備えている。
なお、撮像データにおける潤滑剤Yの視認性を高めてより正確な分布を取得するためには、撮像データに軸受Xの構成要素が写らないことが望ましい。このため、軸受Xのこれらの構成要素(外輪X1、内輪X2、玉X3、保持器X4及びシールX5)は、中性子線L1の吸収率が低いアルミニウム材料から形成されていることが好ましい。
【0032】
次に、上述のように構成された本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の動作(潤滑剤分布取得方法)について説明する。なお、以下に説明する本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の動作の主体は、制御装置11である。
【0033】
まず、制御装置11は、回転駆動装置4に軸受Xを回転駆動させる。この結果、軸受Xの内輪X2が回転駆動されて内輪X2と外輪X1との間に挟まれた玉X3が自転しながら、軸心を中心として公転し、潤滑剤Yが玉X3の移動に伴って軸受X内部を移動する。
【0034】
そして、中性子線照射装置2にて中性子線L1が案内されることによって、図1(a)に示すように、中性子線L1が軸受Xの軸心方向から軸受Xに入射すると、軸受Xを透過した中性子線L1がシンチレータ6に入射する。
【0035】
このようにシンチレータ6に中性子線L1がシンチレータ6に入射すると、シンチレータ6が中性子線L1の強度分布と同様の強度分布を有する光L2を発光する。つまり、シンチレータ6は、中性子線L1を光L2に変換して射出する。
【0036】
シンチレータ6から射出された光L2は、導光機構7に案内されて光増幅器8にて増幅された後、撮像装置9に入射する。
そして、制御装置11は、撮像装置9に撮像を行わせる。この結果、撮像装置9にて撮像データが取得される。
【0037】
続いて制御装置11は、信号処理部10に撮像データを加工等させることによって、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布情報及び軸心方向の潤滑剤の厚み分布情報を含む潤滑剤分布データを算出させる。
また、制御装置11は、算出した潤滑剤分布データを回転検出器5の検出結果と関連付ける処理を行ったりする。この結果、潤滑剤分布データは、軸受Xの回転角度に関連付けられて出力されることとなる。
【0038】
ここで、潤滑剤Yは有機物からなり軸受Xよりも中性子線の吸収率が高い。このため、軸受Xを透過した中性子線L1は、潤滑剤Yが存在する領域で大きく減衰する。一方で、中性子線L1の強度分布と当該中性子線L1が変換された光L2の強度分布とは比例する。
したがって、軸受Xに対して軸心方向から中性子線L1が入射し、軸受Xを透過した中性子線L1を光L2に変換して撮像することによって、撮像データの明るさの分布から軸心を中心とする半径方向における潤滑剤Yの分布を取得することができる。
【0039】
また、中性子線L1の減衰量は、通過領域における潤滑剤Yの厚みに比例する。つまり、通過領域における潤滑剤Yの厚みが厚い程、中性子線L1の減衰量が大きくなって当該領域における中性子線L1の強度が低下する。一方で、中性子線L1の強度分布と当該中性子線L1が変換された光L2の強度分布とは比例する。したがって、軸受Xに対して軸心方向から中性子線L1が入射し、軸受Xを透過した中性子線L1を光L2に変換して撮像することによって、撮像データの明るさ分布から軸心方向の潤滑剤の厚み分布を取得することができる。
【0040】
そして、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1及び潤滑剤分布取得方法においては、軸受Xに対して軸心方向から入射して透過した中性子線L1を光L2に変化し、当該光L2を受光して撮像することにより軸受X内部における潤滑剤Yの分布を示す潤滑剤分布データを取得する。
このため、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1及び潤滑剤分布取得方法によれば、軸受Xを分解することなく、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤Yの分布及び軸心方向の潤滑剤Yの厚み分布を含む潤滑剤分布データを取得することができ、軸受X内部における潤滑剤Yの挙動を詳細に取得することが可能となる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
図3(a)は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aの機構の一部を示す模式図である。そして、この図に示すように、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aは、防護箱12(防護部材)を備えている。
【0042】
この防護箱12は、中性子線を遮蔽する材料によって形成されており、中性子線L1が内部に透過することを防止するものである。具体的には、防護箱12は、例えばホウ素を含有するゴム材料から形成されている。
この防護箱12は、図3(a)に示すように、回転駆動装置4の一部であるモータ4aを囲うように、軸受支持機構3の筐体3a上に設置されている。
【0043】
このような構成を採用する本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aによれば、防護箱12の内部に収容されたモータ4aへの中性子線の到達を防止することができ、モータ4aの放射化を防ぐことができる。
放射化された部品は、周知のように定められた環境の下に管理を行う必要があり、管理コストが増大する。これに対して、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aにおいてはモータ4aの放射化を防ぐことができるため、管理コストの増大を抑制することが可能となる。
【0044】
なお、本発明における防護部材は、必ずしも箱形状である必要はない。このため、防護箱12に変えて板状の防護部材をモータ4aに中性子線L1が照射されないように配置しても良い。
【0045】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、本第3実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
図3(b)は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Bの機構の一部を示す模式図である。そして、この図に示すように、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Bは、遮蔽壁13(遮蔽部材)を備えている。
【0046】
遮蔽壁13は、軸受Xを通過しない中性子線を遮蔽するものであり、本実施形態においては図3(b)に示すように、軸受Xとシンチレータ6との間に配設されており、軸受Xの周囲を通過した中性子線を遮蔽するように、軸心方向から見て軸受Xの周囲に配置されている。
この遮蔽壁13は、例えばホウ素を含有するゴム材料から形成することができる。
【0047】
軸受Xを通過しない中性子線は、殆ど減衰することなくシンチレータ6に入射する。このため、シンチレータ6から非常に強度の強い光が射出されることとなる。この結果、撮像データには、潤滑剤Yの存在領域の外部に非常に明るい領域が存在することとなり、潤滑剤Yの存在領域におけるダイナミックレンジが上述の非常に明るい領域の存在によって低下してしまう。
これに対して本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Bによれば、軸受Xを通過しない中性子線が遮蔽壁13によって遮蔽されるため、撮像データにて潤滑剤Yの存在領域の外部に非常に明るい領域が発生することを防止することができ、潤滑剤Yの存在領域におけるダイナミックレンジを高くすることが可能となる。このため、潤滑剤分布データをより詳細に取得することができ、軸受X内部における潤滑剤Yの挙動をより詳細に取得することが可能となる。
【0048】
なお、本発明の遮蔽部材の設置箇所は、遮蔽壁13の設置箇所に限定されるものではない。潤滑剤Yの存在領域におけるダイナミックレンジを高くするためには、撮像データにて潤滑剤Yの存在領域の外部に非常に明るい領域が発生することを防止すれば良いため、軸受Xと中性子線照射装置2との間に遮蔽壁13を配置することもできる。
また、中性子線を遮蔽するのではなく、シンチレータ6から射出された光を遮光するようにしても良い。つまり、軸受Xを通過しない中性子線がシンチレータ6にて変換されて生成された光を遮蔽するようにしても良い。
【0049】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。なお、本第4実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0050】
図4は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置が備える駆動軸部4dとその近傍を拡大した図であり、(a)が平面断面図であり、(b)が軸心方向から見た正面図である。
この図に示すように、本実施形態の潤滑剤分布取得装置は、駆動軸部4dを介して軸受Xに固定されると共に軸受Xよりも大径に設定された大径プーリ14を備えている。
【0051】
この大径プーリ14は、中性子線を透過する材料によって形成されており、例えばアルミニウム材料によって形成されている。
そして、本実施形態の潤滑剤分布取得装置においては、この大径プーリ14に対してベルト4cが廻し掛けられている。
【0052】
このような構成を採用する本実施形態の潤滑剤分布取得装置によれば、軸心方向から見た場合に、潤滑剤Yの存在領域とベルト4cとが重なることがない。ベルト4cは、通常ゴム材料であり、中性子線の吸収率が高いため撮像データにおいて明るく映し出されるが、本実施形態の潤滑剤分布取得装置によれば潤滑剤Yの存在領域とベルト4cとが重なることがないため、潤滑剤Yの視認性を高めることができる。
【0053】
なお、大径プーリ14は、図4に示すように駆動軸部4dと別体であってもよいが、駆動軸部4dの一部として構成されていても良い。
【0054】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。なお、本第5実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0055】
図5は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置に設置される軸受Xの様子を示す平面図である。本実施形態の潤滑剤分布取得装置には、軸受Xとして、潤滑剤Yが内部に存在する軸受XA(第1の軸受)と、潤滑剤Yが内部に存在しない軸受XB(第2の軸受)が並んで設置されている。
そして、これらの軸受XA,XBは、回転駆動装置4によって回転駆動されるように構成されている。
【0056】
そして、本実施形態の潤滑剤分布取得装置では、信号処理部10において、撮像データの中の軸受XAが写った領域を切り出して第1撮像データとし、撮像データの中の軸受XBが写った領域を切り出して第2撮像データとし、軸受XAと軸受XBとを重ねて第1撮像データと第2撮像データとの差分を算出し、この差分に基づいて潤滑剤分布データを算出する。
【0057】
このような構成を採用する本実施形態の潤滑剤分布取得装置によれば、第1撮像データと第2撮像データとの差分を算出することで、第1撮像データと第2撮像データとの相違部分である、潤滑剤Yのみの撮像データを得ることができる。このため、この潤滑剤Yのみの撮像データを用いることによって、より正確に潤滑剤分布データをより詳細に取得することができ、軸受X内部における潤滑剤Yの挙動をより詳細に取得することが可能となる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0059】
例えば、回転駆動装置において、歯付きのプーリや歯付きのベルトを用いることもできる。また、スプロケット(車輪部)とチェーン(帯状部材)を用いることも可能である。
【0060】
また、上記実施形態においては、軸受Xがラジアル方向に荷重を受ける玉軸受である構成について説明した。
しかしながら、本発明は、例えば、コロ軸受、滑り軸受、またはスラスト方向に荷重を受ける軸受等の他の軸受内部における潤滑剤の挙動の取得に用いることも可能である。
【0061】
また、上記実施形態においては、中性子線L1が軸心方向から軸受を透過する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、中性子線L1が軸心に対して斜め方向から軸受を透過する構成を採用することも可能である。
【0062】
また、上記実施形態においては、シンチレータ6を用いて中性子線L1を光L2に変換する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、中性子線L1をγ線等の放射線(電磁波)に変換して撮像するようにしても良い。
【0063】
また、上記実施形態においては、撮像装置9でデジタル撮影を行う構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、撮像装置でフィルム撮影を行っても良い。
【0064】
なお、上述のように中性子線L1をγ線に変換してフィルム撮影を行った結果、図6に示すような画像が撮像された。
このような撮像結果から分かるように、本発明によれば、軸受の内部を撮像することができる。
【符号の説明】
【0065】
1,1A,1B……潤滑剤分布取得装置、2……中性子線照射装置、4……回転駆動装置、4a……モータ(動力部)、4b……プーリ、4c……ベルト(帯状部材)、5……回転検出器、6……シンチレータ(電磁波変換手段)、8……光増幅器、9……撮像装置、10……信号処理部、11……制御装置、12……防護箱(防護部材)、13……遮蔽壁(遮蔽部材)、14……大径プーリ(車輪部)、L1……中性子線、L2……光(電磁波)、X,XA,XB……軸受、Y……潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から軸受を透過した中性子線を受けて電磁波に変換する電磁波変換手段と、
前記電磁波変換手段から射出される電磁波を受けて撮像することにより前記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する撮像処理手段と
を備えることを特徴とする潤滑剤分布取得装置。
【請求項2】
前記軸受を回転駆動する回転駆動手段と、
前記中性子線を遮蔽すると共に当該回転駆動手段の少なくとも一部を囲う防護部材と
を備えることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項3】
前記軸受を通過しない前記中性子線あるいは当該軸受を通過しない前記中性子線が前記電磁波変換手段にて変換されて生成された電磁波を遮蔽する遮蔽部材を備えることを特徴とする請求項1または2記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項4】
前記中性子線の入射方向から見て前記軸受よりも大径に設定されて前記軸受に固定されると共に前記中性子線を透過する材料によって形成される車輪部と、
前記車輪部に廻し掛けられる帯状部材と、
当該帯状部材を走行させる動力部と
を備えることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項5】
前記車輪部は、アルミニウム材料によって形成されていることを特徴とする請求項4記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項6】
前記撮像処理手段は、
内部に前記潤滑剤が存在する第1の前記軸受を透過した前記中性子線が前記電磁波変換手段によって変換された電磁波を受けて得られる第1撮像データと、
内部に前記潤滑剤が存在しない第2の前記軸受を透過した前記中性子線が前記電磁波変換手段によって変換された電磁波を受けて得られる第2撮像データとを取得し、
前記第1撮像データと前記第2撮像データとの差分から前記潤滑剤分布データを取得することを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項7】
軸心方向あるいは軸心に対して斜め方向から軸受を透過した中性子線を電磁波に変換し、当該電磁波を受けて撮像することにより前記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得することを特徴とする潤滑剤分布取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−189455(P2012−189455A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53437(P2011−53437)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】