説明

潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法

【課題】軸受の軸心方向と中性子線の入射方向とを正確に合わせ、軸受内部における潤滑剤の挙動を詳細に取得する。
【解決手段】軸受を支持する支持台12aを旋回させることによって軸心方向を調節し、軸心方向から軸受を透過した中性子線を受けて電磁波に変換し、当該電磁波を受けて撮像することにより上記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、中性子ラジオグラフィ法を用いて、流体軸受内部の潤滑剤の有無を検査する発明が開示されている。
このような特許文献1に開示された発明を用いることによって、従来は分解して確認を行っていた潤滑剤の有無の検査を、軸受を分解することなく行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−292373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、潤滑剤の有無を検出することはできるものの、軸受内部全体で潤滑剤がどのように分布していることを知ることはできず、潤滑剤の挙動を詳しく取得することができない。
【0005】
これに対しては、軸心方向から軸受を透過した中性子線を電磁波に変換して撮像することで、軸心を中心とする半径方向等の潤滑剤の分布を取得することが考えられている。
ところが、正確に潤滑剤の分布を取得するためには、中性子線の軸受に対する入射方向を軸心方向に正確に合わせる必要がある。しかしながら、装置への振動等により軸心方向が入射方向からずれてしまうことも考えられる。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、軸受の軸心方向と中性子線の入射方向とを正確に合わせることができ、軸受内部における潤滑剤の挙動を詳細に取得することが可能な潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、軸受内部における潤滑剤の挙動と軸受の寿命との関係について、鋭意研究を行った。その結果、軸受の寿命には、使用環境等が同様の場合であっても個体差が存在することが分かった。寿命の異なるこれらの軸受の分解調査を行ったところ、内部に残存する潤滑剤の様子が大きく異なることが分かった。特に、転がり軸受では、内部の潤滑剤の挙動が寿命に大きく影響していることが分かった。
これは、軸受の寿命が内部の潤滑剤の挙動に依存することを示唆するものである。つまり、軸受内部の潤滑剤の挙動を知ることができれば、軸受の寿命を改善できる可能性があることとなる。
【0008】
かかる研究結果を踏まえ、第1の発明は、潤滑剤分布取得装置であって、軸受を支持する支持台を有すると共に当該支持台を旋回させることよって軸心方向を調節する調心手段と、軸心方向から軸受を透過した中性子線を受けて電磁波に変換する電磁波変換手段と、上記電磁波変換手段から射出される電磁波を受けて撮像することにより上記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する撮像処理手段とを備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、旋回されることによって投影形状が変化するアライメントターゲットが上記支持台に設置可能とされ、上記撮像処理手段にて撮像された撮像データに含まれる上記アライメントターゲットの形状に基づいて上記調心手段を制御する制御手段を備えるという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記アライメントターゲットが棒状部材であり、上記制御手段が、上記撮像データに含まれる上記アライメントターゲットの形状が最も小さい場合に上記調心手段による上記軸心方向の調節が完了したと判断するという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記軸受を回転駆動する回転駆動手段と上記軸受とが一体化された軸受ユニットが上記支持台に対して脱着可能とされているという構成を採用する。
【0012】
第5の発明は、潤滑剤分布取得方法であって、軸受を支持する支持台を旋回させることによって軸心方向を調節し、軸心方向から軸受を透過した中性子線を受けて電磁波に変換し、当該電磁波を受けて撮像することにより上記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軸受を支持する支持台を有すると共に支持台を旋回させることによって軸心方向が調節可能とされている。
このため、軸受の軸心方向を常に中性子線の入射方向に一致させることができる。したがって、本発明によれば、軸受の軸心方向と中性子線の入射方向とを正確に合わせることができる。
【0014】
また、本発明においては、軸受に対して軸心方向から入射して透過した中性子線を電磁波に変化し、当該電磁波を受けて撮像することにより軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する。
このため、本発明によれば、軸受を分解することなく、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布を含む潤滑剤分布データを取得することができ、軸受内部における潤滑剤の挙動を詳細に取得することが可能となる。
【0015】
以上のように、本発明によれば、軸受の軸心方向と中性子線の入射方向とを正確に合わせることができ、軸受内部における潤滑剤の挙動を詳細に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の潤滑剤分布取得装置の概略構成を模式的に示すものであり、(a)が機構の一部を示す模式図であり、(b)が機能構成の一部を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態の潤滑剤分布取得装置に設置される軸受の概略構成を示すカットモデルの斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態の潤滑剤分布取得装置で用いられるアライメント冶具の概略構成図である。
【図4】本発明の第1実施形態の潤滑剤分布取得装置における軸心方向の調節を説明するための説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態の潤滑剤分布取得装置の機構の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係る潤滑剤分布取得装置及び潤滑剤分布取得方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の概略構成を模式的に示すものであり、(a)が機構の一部を示す模式図であり、(b)が機能構成の一部を示すブロック図である。
本実施形態の潤滑剤分布取得装置1は、軸受Xの内部における潤滑剤Y(例えばグリース)の分布を取得することにより玉軸受である軸受Xが回転駆動されている最中の潤滑剤Yの挙動を取得するためのものである。
そして、この本実施形態の潤滑剤分布取得装置1は、図1に示すように、中性子線照射装置2と、軸受支持機構3と、回転駆動装置4(回転駆動手段)と、回転検出器5と、シンチレータ6(電磁波変換手段)と、導光機構7と、光増幅器8と、撮像装置9と、信号処理部10と、制御装置11(制御手段)と、調心装置12(調心手段)とを備えている。
【0019】
中性子線照射装置2は、例えば原子炉等の中性子源から射出された中性子線L1を案内して軸受Xに対して軸心方向から照射するものである。
なお、中性子源から射出される中性子線を案内することなく軸心方向から軸受Xに照射可能である場合には、中性子線照射装置2を省略することもできる。
また、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1では、例えばイオン発生器で派生させた水素あるいはヘリウム等のイオンをターゲットに照射することによって中性子線を発生する中性子源を別途備えていても良い。
【0020】
軸受支持機構3は、軸受Xを支持するためのものであり、筐体3aと、ハウジング3bとを備えている。
筐体3aは、内部にハウジング3b及び当該ハウジング3bに固定される軸受Xを収容する枠体あるいは箱状の部材である。本実施形態において筐体3aは、図1(a)に示すように、回転駆動装置4の支持台としても機能する。
ハウジング3bは、軸受Xの外輪を覆って支持するものであり、軸受Xを着脱可能に支持している。そして、本実施形態においてハウジング3bは、図1(a)に示すように、軸受Xの軸心が中性子線照射装置2側を向くように軸受Xを支持する。
なお、筐体3a及びハウジング3bは、中性子線L1の通過領域を避ける形状を有していることが好ましいが、中性子線L1の吸収率が極めて低いアルミニウム材料等によって形成すれば中性子線L1の通過領域を跨ぐ形状を有することも可能である。
【0021】
回転駆動装置4は、軸受Xを回転駆動するものであり、図1(a)に示すように、軸受Xを回転駆動するための動力を発生するモータ4a(動力部)と、当該モータ4aにて発生された動力を軸受Xにベルト伝達するためのプーリ4b、ベルト4c(帯状部材)及び駆動軸部4dとを備えている。
より詳細には、プーリ4bは、カップリング等によってモータ4aの軸部と連結されている。また、駆動軸部4dは、軸受Xの軸心方向に長い棒状部材であり、軸受Xの内輪に固定されると共に軸受Xの中央を貫通して水平に配設されている。そして、無端ベルトからなるベルト4cは、プーリ4b及び駆動軸部4dに廻し掛けられている。
なお、駆動軸部4dの周面には、回転検出器5が駆動軸部4dの回転状態を検出するためのマークや磁性体が設けられている。
【0022】
回転検出器5は、駆動軸部4dの回転を検出することによって駆動軸部4dに固定された軸受Xの内輪の回転(すなわち軸受Xの回転)を検出するものである。
この回転検出器5は、駆動軸部4dの周面に設けられたマークや磁性体を検出する光検出器や磁性検出器から構成されており、図1(a)に示すように、ハウジング3bに対して固定されている。
【0023】
シンチレータ6は、軸受Xを透過した中性子線L1を受けて光L2を発光するものであり、中性子線L1を可視光に変換するものである。
このシンチレータ6としては、例えば、LiF/ZnS(Ag)、BN/ZnS (Ag)、Gd/ZnS(Ag)、GdS(Tb)を用いることができる。
【0024】
導光機構7は、シンチレータ6から射出された光L2を光増幅器8を介して撮像装置9まで導光するものである。
この導光機構7は、図1(a)に示すように、光L2を反射して案内するミラー7aと、光L2を集光するレンズ7b等を備えている。
【0025】
光増幅器8は、導光機構7を介して入射される光の強度を高めて出力するものであり、例えば、イメージインテンシファイアを用いることができる。
なお、撮像装置9において十分に長い露光時間が確保できる場合には、光増幅器8を省略することも可能である。
【0026】
撮像装置9は、シンチレータ6から射出され、導光機構7及び光増幅器8を介して到達した光L2を受光して撮像するものであり、撮像結果を撮像データとして出力する。
なお、撮像装置9としては、CCDカメラ、SIT管カメラ、高速度カメラ等を用いることが可能であるが、例えば6000rpm程度で高速回転する軸受Xの内部での潤滑剤Yの移動は高速であるため、2000fps程度のフレームレートの高い撮像が可能な高速度カメラを用いることが好ましい。
【0027】
信号処理部10は、撮像装置9から入力される撮像データを加工して要求される潤滑剤分布データとして出力するものである。
なお、ここで言う潤滑剤分布データとは、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布情報及び軸心方向の潤滑剤の厚み分布情報を含むデータである。そして、本実施形態において信号処理部10は、例えば、撮像データにおける明るさ情報から潤滑剤分布データを算出したり、当該潤滑剤分布データを回転検出器5の検出結果と関連付ける処理を行ったりする。
なお、撮像装置9で撮像された撮像データ自体にも軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布情報及び軸心方向の潤滑剤の厚み分布情報が含まれるため、要求される潤滑剤分布データを撮像データとすることも可能である。この場合には、信号処理部10は、撮像装置9から入力される撮像データをそのまま潤滑剤分布データとして出力する。
【0028】
なお、本実施形態においては、本発明の撮像処理手段が、撮像装置9と信号処理部10とによって構成されている。
【0029】
制御装置11は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の動作全体を制御するものであり、図1(b)に示すように、中性子線照射装置2、回転駆動装置4、回転検出器5、光増幅器8、撮像装置9、信号処理部10及び調心装置12と電気的に接続されている。
【0030】
調心装置12は、軸受Xの軸心方向が中性子線L1の入射方向と一致するように調節を行うものであり、図1(a)に示すように、支持台12a及び旋回装置12bを備えている。
【0031】
支持台12aは、軸受Xを支持する上述のハウジング3bが嵌合可能に構成されており、軸受Xを間接的に支持している。
旋回装置12bは、支持台12aを水平面内において旋回させるものであり、制御装置11の制御の下で、支持台12aの旋回角度を設定する。
そして、このような調心装置12では、支持台12aを旋回させることによって軸心方向を調節する。
【0032】
なお、ハウジング3bが支持台12aに嵌合されることによって、ハウジング3bに固定されている軸受Xの軸心と支持台12aとの位置関係が一義的に定まることとなる。
したがって、支持台12aにハウジング3b及び軸受Xが設置されていない状態であっても旋回角度を調節することによって軸受Xの軸心方向の調節が可能とされている。
そして、後に詳説するが、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1では、ハウジング3b及び軸受Xが支持台12aに設置されていない状態で軸心方向の調節を行う。
【0033】
軸受Xは、内部に潤滑剤を含む玉軸受(転がり軸受)であり、本実施形態においてはラジアル軸受として構成されている。
図2は、軸受Xの概略構成を示すカットモデルの斜視図である。この図に示すように、軸受Xは、半径方向に対向配置される環状の外輪X1及び内輪X2と、外輪X1と内輪X2との間に配置される複数の玉X3と、玉X3同士の間隔を等間隔に保持するための保持器X4と、玉X3の収容空間を封止するシールX5とを備えている。
なお、撮像データにおける潤滑剤Yの視認性を高めてより正確な分布を取得するためには、撮像データに軸受Xの構成要素が写らないことが望ましい。このため、軸受Xのこれらの構成要素(外輪X1、内輪X2、玉X3、保持器X4及びシールX5)は、中性子線L1の吸収率が低いアルミニウム材料から形成されていることが好ましい。
【0034】
次に、上述のように構成された本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の動作(潤滑剤分布取得方法)について説明する。なお、以下に説明する本実施形態の潤滑剤分布取得装置1の動作の主体は、制御装置11である。
【0035】
まず最初に制御装置11は、調心装置12に軸心方向の調節を行わせる。
この軸心方向の調節に際して、本実施形態においては、図3に示す、支持台12aに嵌合可能なアライメント冶具100を用いる。
【0036】
このアライメント冶具100は、支持部101とアライメントターゲット102とを備えている。
支持部101は、アライメントターゲット102を支持すると共に支持台12aに嵌合可能に形状設定されている。
アライメントターゲット102は、旋回されることによって投影形状が変化する円柱形上の棒状部材であり、支持部101が支持台12aに嵌合された際に軸方向(長手方向)が軸心方向と一致するように支持部101によって支持されている。このアライメントターゲット102は、中性子線に対する吸収率が高い材料によって形成され、形状変化が生じない程度の剛性を有している。
このように、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1では、アライメントターゲット102が支持台12aに設置可能に構成されている。
【0037】
そして、制御装置11は、支持台12aに対してアライメントターゲット102が設置されると、調心装置12に支持台12aを旋回させながら、撮像装置9に撮像を行わせる。
【0038】
ここで、アライメントターゲット102の軸方向が中性子線L1の入射方向から大きくずれている場合(すなわち軸心が中性子線L1の入射方向から大きくずれている場合)には、図4(a)に示すように、撮像データにおけるアライメントターゲット102の投影形状Rは左右方向に延びた大きな形状となる。
さらに支持台12aを旋回させ、アライメントターゲット102の軸方向が中性子線L1の入射方向に近づくと、図4(b)に示すように、撮像データにおけるアライメントターゲット102の投影形状Rは、図4(a)に示すよりも小さくなる。
そして、アライメントターゲット102の軸方向が中性子線L1の入射方向と一致する(軸心が中性子線L1の入射方向と合っている)と、図4(c)に示すように、撮像データにおけるアライメントターゲット102の投影形状Rは最も小さくなる。
そこで、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1において制御装置11は、投影形状Rの最も小さい状態を予め記憶し、撮像データに含まれるアライメントターゲットの投影形状Rが最も小さい場合に調心装置12による軸心方向の調節が完了したと判断して調心装置12を停止する。
【0039】
このように調心装置12による軸心方向の調節が完了すると、アライメント冶具100が支持台12aから取り外され、軸受Xを保持するハウジング3bが支持台12aに設置される。
ここで、上述のように、軸受Xの軸心方向とアライメントターゲット102の軸方向とは一致するように設定されているため、支持台12aに設置された軸受Xの軸心方向は、中性子線L1の入射方向と一致した状態となる。
このように、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1及び潤滑剤分布取得方法によれば、軸受Xの軸心方向と中性子線L1の入射方向とを正確に合わせることができる。
【0040】
続いて、回転駆動装置4が軸受Xに接続された後、制御装置11は、回転駆動装置4に軸受Xを回転駆動させる。この結果、軸受Xの内輪X2が回転駆動されて内輪X2と外輪X1との間に挟まれた玉X3が自転しながら、軸心を中心として公転し、潤滑剤Yが玉X3の移動に伴って軸受X内部を移動する。
【0041】
そして、中性子線照射装置2にて中性子線L1が案内されることによって、図1(a)に示すように、中性子線L1が軸受Xの軸心方向から軸受Xに入射すると、軸受Xを透過した中性子線L1がシンチレータ6に入射する。
【0042】
このようにシンチレータ6に中性子線L1がシンチレータ6に入射すると、シンチレータ6が中性子線L1の強度分布と同様の強度分布を有する光L2を発光する。つまり、シンチレータ6は、中性子線L1を光L2に変換して射出する。
【0043】
シンチレータ6から射出された光L2は、導光機構7に案内されて光増幅器8にて増幅された後、撮像装置9に入射する。
そして、制御装置11は、撮像装置9に撮像を行わせる。この結果、撮像装置9にて撮像データが取得される。
【0044】
続いて制御装置11は、信号処理部10に撮像データを加工等させることによって、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤の分布情報及び軸心方向の潤滑剤の厚み分布情報を含む潤滑剤分布データを算出させる。
また、制御装置11は、算出した潤滑剤分布データを回転検出器5の検出結果と関連付ける処理を行ったりする。この結果、潤滑剤分布データは、軸受Xの回転角度に関連付けられて出力されることとなる。
【0045】
ここで、潤滑剤Yは有機物からなり軸受Xよりも中性子線の吸収率が高い。このため、軸受Xを透過した中性子線L1は、潤滑剤Yが存在する領域で大きく減衰する。一方で、中性子線L1の強度分布と当該中性子線L1が変換された光L2の強度分布とは比例する。
したがって、軸受Xに対して軸心方向から中性子線L1が入射し、軸受Xを透過した中性子線L1を光L2に変換して撮像することによって、撮像データの明るさの分布から軸心を中心とする半径方向における潤滑剤Yの分布を取得することができる。
【0046】
また、中性子線L1の減衰量は、通過領域における潤滑剤Yの厚みに比例する。つまり、通過領域における潤滑剤Yの厚みが厚い程、中性子線L1の減衰量が大きくなって当該領域における中性子線L1の強度が低下する。一方で、中性子線L1の強度分布と当該中性子線L1が変換された光L2の強度分布とは比例する。したがって、軸受Xに対して軸心方向から中性子線L1が入射し、軸受Xを透過した中性子線L1を光L2に変換して撮像することによって、撮像データの明るさ分布から軸心方向の潤滑剤の厚み分布を取得することができる。
【0047】
そして、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1及び潤滑剤分布取得方法においては、軸受Xに対して軸心方向から入射して透過した中性子線L1を光L2に変化し、当該光L2を受光して撮像することにより軸受X内部における潤滑剤Yの分布を示す潤滑剤分布データを取得する。
このため、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1及び潤滑剤分布取得方法によれば、軸受Xを分解することなく、軸心を中心とする半径方向における潤滑剤Yの分布及び軸心方向の潤滑剤Yの厚み分布を含む潤滑剤分布データを取得することができ、軸受X内部における潤滑剤Yの挙動を詳細に取得することが可能となる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
図5は、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aの機構の一部を示す模式図である。そして、この図に示すように、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aは、軸受支持機構3と回転駆動装置4と軸受Xとが一体化されて構成される軸受ユニット20が支持台12aに対して脱着可能とされている。
【0049】
このような構成を有する本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aによれば、軸受ユニット20を複数用意することによって、軸受ユニット20を交換しながら潤滑剤分布データを長時間に亘って取得することが可能となる。
この際、軸受ユニット20には、回転駆動装置4も含まれているため、回転駆動装置4が長時間中性子線に晒されることによって放射化することを防止することができる。
【0050】
そして、本実施形態の潤滑剤分布取得装置1Aでは、調心装置12によって軸心方向を中性子線L1の入射方向に正確に合わせることができるため、軸受ユニット20を交換した場合であっても、常に軸心方向を中性子線L1の入射方向に正確に合わせることができる。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態においては、アライメントターゲット102を用いて軸心方向を調節する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、軸受X自体を用い、軸受Xを撮像した撮像データから軸心方向を調節することも可能である。
ただし、アライメントターゲット102は軸心方向の調心に特化したものである。このため、アライメントターゲット102を用いることによって、上記実施形態のように、軸心方向の調節に適した形状を採用することができ、より正確に軸心方向の調節を行うことが可能となる。
なお、アライメントターゲットの形状は、旋回させることによって投影形状が変化するものであればよく、棒状形状に限定されるものではない。
【0053】
また、回転駆動装置において、歯付きのプーリや歯付きのベルトを用いることもできる。また、スプロケット(車輪部)とチェーン(帯状部材)を用いることも可能である。
【0054】
また、上記実施形態においては、軸受Xがラジアル方向に荷重を受ける玉軸受である構成について説明した。
しかしながら、本発明は、例えば、コロ軸受、滑り軸受、またはスラスト方向に荷重を受ける軸受等の他の軸受内部における潤滑剤の挙動の取得に用いることも可能である。
【0055】
また、上記実施形態においては、シンチレータ6を用いて中性子線L1を光L2に変換する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、中性子線L1をγ線等の放射線(電磁波)に変換して撮像するようにしても良い。
【0056】
また、上記実施形態においては、撮像装置9でデジタル撮影を行う構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、撮像装置でフィルム撮影を行っても良い。
【符号の説明】
【0057】
1,1A……潤滑剤分布取得装置、2……中性子線照射装置、4……回転駆動装置、5……回転検出器、6……シンチレータ(電磁波変換手段)、8……光増幅器、9……撮像装置、10……信号処理部、11……制御装置(制御手段)、12……調心装置(調心手段)、12a……支持台、12b……旋回装置、20……軸受ユニット、L1……中性子線、L2……光(電磁波)、X……軸受、Y……潤滑剤、102……アライメントターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受を支持する支持台を有すると共に当該支持台を旋回させることよって軸心方向を調節する調心手段と、
軸心方向から軸受を透過した中性子線を受けて電磁波に変換する電磁波変換手段と、
前記電磁波変換手段から射出される電磁波を受けて撮像することにより前記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得する撮像処理手段と
を備えることを特徴とする潤滑剤分布取得装置。
【請求項2】
旋回されることによって投影形状が変化するアライメントターゲットが前記支持台に設置可能とされ、
前記撮像処理手段にて撮像された撮像データに含まれる前記アライメントターゲットの形状に基づいて前記調心手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項3】
前記アライメントターゲットが棒状部材であり、前記制御手段は、前記撮像データに含まれる前記アライメントターゲットの形状が最も小さい場合に前記調心手段による前記軸心方向の調節が完了したと判断することを特徴とする請求項2記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項4】
前記軸受を回転駆動する回転駆動手段と前記軸受とが一体化された軸受ユニットが前記支持台に対して脱着可能とされていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の潤滑剤分布取得装置。
【請求項5】
軸受を支持する支持台を旋回させることによって軸心方向を調節し、軸心方向から軸受を透過した中性子線を受けて電磁波に変換し、当該電磁波を受けて撮像することにより前記軸受内部における潤滑剤の分布を示す潤滑剤分布データを取得することを特徴とする潤滑剤分布取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−189457(P2012−189457A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53440(P2011−53440)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】