説明

潤滑剤劣化検出装置および検出装置付き軸受

【課題】潤滑剤の劣化状態を精度良く検出できる潤滑剤劣化検出装置、および封入潤滑剤の劣化状態を精度良くかつリアルタイムで検出できる検出装置付き軸受を提供する。
【解決手段】検出対象となる潤滑剤5を互いの間に介在させる発光部2および受光部3と、この受光部3の出力から前記潤滑剤5の光透過率を求めて潤滑剤5に混入している異物の量を検出する判定手段4とを備える。この潤滑剤劣化検出装置を、軸受に搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤の混入物などによる劣化状態を検出する潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受、例えば鉄道車両用、自動車用、産業機械用等の潤滑剤劣化検出装置付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤を封入した軸受では、軸受内部の潤滑剤(グリース、油など)が劣化すると転動体の潤滑不良が発生し、軸受寿命が短くなる。転動体の潤滑不良を、軸受の振動状態などから判断するのでは、寿命に達して動作異常が発生してから対処することになるため、潤滑状態の異常をより早く検出できない。そこで、軸受内の潤滑剤の状態を定期的あるいはリアルタイムに観測し、異常やメンテナンス期間の予測を可能にすることが望まれる。
【0003】
潤滑剤の劣化の主要な要因として、軸受の使用に伴って発生する摩耗粉が潤滑剤に混入することが挙げられる。
軸受の摩耗状態を検出するものとしては、軸受のシールの内側に電極を配置し、摩耗粉の混入による潤滑剤の電気的特性を、抵抗値や静電容量や磁気抵抗やインピーダンスの変化で検出するようにしたセンサ付き軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−293776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のセンサ付き軸受は、潤滑剤の電気的特性を検出するものであるため、大量の摩耗粉が入って導通が起こるなどの状況にならなけば、特性変化として検出されず、混入物の検出が困難な場合がある。
【0005】
この発明の目的は、潤滑剤の劣化状態を精度良く検出できる潤滑剤劣化検出装置を提供することである。
この発明の他の目的は、潤滑剤の劣化状態を精度良く、かつリアルタイムで検出できる検出装置付き軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の第1の発明に係る潤滑剤劣化検出装置は、検出対象となる潤滑剤を互いの間に介在させる発光部および受光部と、この受光部の出力から前記潤滑剤の光透過率を求めて潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段とを備えたものである。
この構成によると、発光部から発光する光が潤滑剤を透過し、その透過光を受光部が受光する。この場合の透過光量は、潤滑剤に混入している異物の量に応じて変化し、受光部の出力も前記透過光量に応じて変化する。判定手段は、受光部の出力から潤滑剤の光透過率を求めて、潤滑剤に混入している異物の量を検出する。例えば、軸受に使用される潤滑剤の場合、劣化が進むにつれて摩耗粉などの異物の混合割合が増加するが、この摩耗粉の混入量を検出して潤滑剤の劣化を検出することができる。この場合に、この潤滑剤劣化検出装置は、光透過率により潤滑剤の劣化を検出するため、潤滑剤の劣化状態を精度良く検出することができる。
【0007】
この発明の第2の発明に係る潤滑剤劣化検出装置は、互いの間に潤滑剤を介在させる発光部および受光部の組を2組設け、一方の組の発光部と受光部は基準となる潤滑剤を、他方の組の発光部と受光部は検出対象となる潤滑剤をそれぞれ介在させるものとし、これら2組の受光部の出力を比較して潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けたものである。
この構成によると、基準潤滑剤と検出対象となる潤滑剤の光透過率を比較するため、より一層精度良く、異物の混入量、潤滑剤の劣化状況を検出することができる。例えば、受光部を構成する受光素子の特性が温度によって変動しても、その変動分が判定手段の差動構成によってキャンセルされるため、潤滑剤の劣化状態を正確に検出できるうえに、安定した検出が可能となる。
【0008】
この発明の検出装置付き軸受は、上記第1または第2の発明に係る潤滑剤劣化検出装置が搭載された軸受である。
この構成によると、この発明の潤滑剤劣化検出装置により、光透過率から潤滑剤中の混入物の割合を検出し、潤滑剤の状態をリアルタイムでモニタリングできる。そのため、動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防止することができる。また、潤滑剤の交換の必要性をセンサ出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量を減少させることができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明の第1の発明に係る潤滑剤劣化検出装置は、検出対象となる潤滑剤を互いの間に介在させる発光部および受光部と、この受光部の出力から前記潤滑剤の光透過率を求めて潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段とを備えたため、潤滑剤の劣化状態を精度良く検出することができる。
この発明の第2の発明に係る潤滑剤劣化検出装置は、互いの間に潤滑剤を介在させる発光部および受光部の組を2組設け、一方の組の発光部と受光部は基準となる潤滑剤を、他方の組の発光部と受光部は検出対象となる潤滑剤をそれぞれ介在させるものとし、これら2組の受光部の出力を比較して潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けたため、潤滑剤の劣化状態をより精度良く検出できるうえ、温度変化等の影響を受け難い安定した検出が可能となる。
この発明の検出装置付き軸受は、この発明の潤滑剤劣化検出装置を搭載したものであるため、軸受内部の潤滑剤の劣化状態を精度良く、かつリアルタイムで検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1は、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置の原理構成図である。この潤滑剤劣化検出装置1は、検出対象となる潤滑剤5を互いの間に介在させる発光部2および受光部3と、この受光部3の出力から前記潤滑剤5の光透過率を求めて潤滑剤5に混入している異物の量を検出する判定手段4とを備える。発光部2は例えば発光ダイオードなどの発光素子を有し、受光部3はフォト・トランジスタなどの受光素子を有する。
【0011】
図2は、上記潤滑剤劣化検出装置1の具体的な構成例を示す。同図において、発光部2は、電源・アース間に発光素子である発光ダイオード6と抵抗7を直列接続して構成される。受光部3は、電源・アース間に受光素子であるフォト・トランジスタ8と抵抗9を直列接続して構成される。潤滑剤5は、発光ダイオード6とフォト・トランジスタ8との間に配置される。これにより、発光ダイオード6で発光した光が潤滑剤5を透過し、フォト・トランジスタ8によって感知される。フォト・トランジスタ8と抵抗9との間に接続された判定手段4となる回路は、フォト・トランジスタ8に流れる光電流を検出する。この構成例において、発光素子6と受光素子8は、これらがセットになったフォト・インタラプタを用いても良い。
【0012】
図3は、図2の潤滑剤劣化検出装置1における発光素子6と受光素子8の配置例を示す。同図において、前記発光部2、受光部3、および判定手段4となる回路が回路基板10に搭載され、この回路基板10がハウジング11内に設置される。ハウジング11は、検出対象となる潤滑油5の収容が可能なギャップ12を有し、このギャップ12を挟んで前記発光素子6と受光素子8が同軸上に向かい合うように対向配置される。
ハウジング11は、図では外形のみを示しているが、中空のケースからなるものであっても、また回路基板10や発光素子6,受光素子8を一体に樹脂モールドしたものであっても良い。
【0013】
この構成の潤滑剤劣化検出装置1によると、発光部2の発光素子6から発光する光が潤滑剤5を透過し、その透過光を受光部3の受光素子8が受光する。この場合の透過光量は、潤滑剤5に混入している異物の量に応じて変化し、受光に伴い受光素子8に流れる光電流も前記透過光量に応じて変化する。判定手段4となる回路は、受光素子8の出力から潤滑剤5の光透過率を求めて、潤滑剤5に混入している異物の量を検出する。
【0014】
図4は、潤滑剤5に含まれる混入物の割合とそのときの透過光量比との関係を示すグラフである。このグラフによると、混入物の増加に伴い透過光量比が減少する関係があることが分かる。このことから、上記潤滑剤劣化検出装置1により潤滑剤5に混入している異物の量の検出が可能である。軸受に使用される潤滑剤の場合、劣化が進むにつれて摩耗粉などの異物の混合割合が増加するので、上記潤滑剤劣化検出装置1で軸受内部の潤滑剤に混入している異物の量を検出すれば、潤滑剤の劣化を正確に検出することができる。
【0015】
図5は、この発明の他の実施形態の原理図構成図を示す。この実施形態の潤滑剤劣化検出装置1では、互いの間に潤滑剤5を介在させる発光部2および受光部3の組である2組の発光部・受光部組13A,13Bを設けている。この場合、一方の発光部・受光部組13Aの発光部2と受光部3との間には基準となる潤滑剤5Aを介在させ、他方の発光部・受光部組13Bの発光部2と受光部3との間には検出対象となる潤滑剤5Bを介在させるものとする。判定手段4は、上記2組の発光部・受光部組13A,13Bの受光部3の出力を比較する差動回路などからなり、その比較により検出対象である潤滑剤5Bに混入している異物の量を検出するものとする。各組の発光部2および受光部3の構成は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0016】
この構成の潤滑剤劣化検出装置1の場合、基準潤滑剤と検出対象となる潤滑剤の光透過率を比較するため、より一層精度良く、かつ安定して、異物の混入量、潤滑剤の劣化状況を検出することができる。例えば、受光部2を構成する受光素子の特性が温度によって変動しても、その変動分が差動構成によってキャンセルされるため、潤滑剤の劣化状態を正確に検出できるうえに、安定した検出が可能となる。
【0017】
図6は、上記した潤滑剤劣化検出装置1を搭載した検出装置付き軸受を、鉄道車両用軸受ユニットに用いた断面図である。この場合の鉄道車両用軸受ユニットは、検出装置付き軸受21とその内輪34の両側に各々接して設けられた付属部品である油切り32および後ろ蓋33とで構成される。軸受21は、ころ軸受、詳しくは複列の円すいころ軸受からなり、各列のころ36,36に対して設けた分割型の内輪34,34と、一体型の外輪35と、前記ころ36,36と、保持器37とを備える。
後ろ蓋33は、車軸40に軸受21よりも中央側で取付けられて外周のオイルシール38を摺接させたものである。油切り32は、車軸40に取付けられて外周にオイルシール39を摺接させたものである。これら軸受21の両端部に配置される両オイルシール38,39により軸受21の内部に潤滑剤が封止され、かつ防塵・耐水性が確保される。
【0018】
軸受21の外輪35には、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を検出する潤滑剤劣化検出装置1が取付けられている。この潤滑剤劣化検出装置1は、外輪35に複列の軌道面の間で設けられた検出装置挿入孔35aに挿入されて、先端が軸受空間内に進入し、ボルト等により外輪35に固定されている。
【0019】
潤滑剤劣化検出装置1は、その原理構成が図1〜図3に示す第1の実施形態に係るものであっても、また図5に示す第2の実施形態に係るものであっても良いが、外形は図示のように段付き軸状に形成され、また全体がこの潤滑剤劣化検出装置1のハウジングで覆われたものとされている。潤滑剤劣化検出装置1およびそのケーブルには、防水・防油処理が施される。潤滑剤劣化検出装置1の取付部も耐油材料でシールされる。例えば、前記潤滑剤劣化検出装置1は、密封シール42を介して外輪35の検出装置挿入孔35aに挿入され、密封シール42として、例えばOリングが用いられる。このように、密封シール42を介して潤滑剤劣化検出装置1が外輪35に固定されることにより、潤滑剤劣化検出装置1の取付部から軸受内部へ水分やゴミ等が侵入するのを防止できる。
【0020】
この構成の検出装置付き軸受21によると、上記構成の潤滑剤劣化検出装置1を搭載したため、この軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで正確に検出することができる。そのため、動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受21の潤滑不良による破損を防止することができる。また、潤滑剤の交換の必要性をセンサ出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量を減少させることができる。
【0021】
図7は、検出装置付き軸受の他の例を示す。この検出装置付き軸受21Aは、図6に示した検出装置付き軸受21において、潤滑剤劣化検出装置1を、シール39の近傍に取付けたものである。その他の構成は図6の例と同様である。
【0022】
なお、上記各実施形態の潤滑剤劣化検出装置付き軸受は、鉄道車両用軸受に適用した場合につき説明したが、この発明の潤滑剤劣化検出装置付き軸受は、自動車用や産業機械用等の軸受にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る潤滑剤劣化検出装置の原理構成図である。
【図2】同潤滑剤劣化検出装置の具体的な構成図である。
【図3】同潤滑剤劣化検出装置における発光素子と受光素子の配置例を示す説明図である。
【図4】潤滑剤に含まれる混入物の割合とそのときの透過光量比との関係を示すグラフである。
【図5】この発明の第2の実施形態に係る潤滑剤劣化検出装置の原理図である。
【図6】上記潤滑剤劣化検出装置を搭載した検出装置付き軸受の一例を示す断面図である。
【図7】上記潤滑剤劣化検出装置を搭載した検出装置付き軸受の他の例の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1…潤滑剤劣化検出装置
2…発光部
3…受光部
4…判定手段
5,5A,5B…潤滑剤
6…発光素子
8…受光素子
13A,13B…発光部・受光部組
21,21A…検出装置付き軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象となる潤滑剤を互いの間に介在させる発光部および受光部と、この受光部の出力から前記潤滑剤の光透過率を求めて潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段とを備えた潤滑剤劣化検出装置。
【請求項2】
互いの間に潤滑剤を介在させる発光部および受光部の組を2組設け、一方の組の発光部と受光部は基準となる潤滑剤を、他方の組の発光部と受光部は検出対象となる潤滑剤をそれぞれ介在させるものとし、これら2組の受光部の出力を比較して潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けた潤滑剤劣化装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の潤滑剤劣化検出装置が搭載された潤滑剤劣化検出装置付き軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−192768(P2007−192768A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13468(P2006−13468)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】