潤滑剤劣化検出装置および検出装置付き軸受
【課題】 検出部の小型化が可能で、安定した正確な検出が可能な潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受を提供する。
【解決手段】 この潤滑剤劣化検出装置1は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤6に入る測定用ギャップ10を介して並ぶ2本の光ファイバ4,5と、一方の光ファイバ4の基端に配置した発光素子2と、他方の光ファイバ5の基端に配置した受光素子3と、この受光素子3の出力から潤滑剤6に混入している異物の量を検出する判定手段7とを備える。前記2本の光ファイバ4,5は、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部10とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面4a,5aとする。これら斜めの反射面4a,5aは、一方の光ファイバ4を通る光が先端の反射面4aで他方の光ファイバ5の反射面5aに向けて反射してこの反射面5aから他方の光ファイバ5内に反射する方向に向ける。
【解決手段】 この潤滑剤劣化検出装置1は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤6に入る測定用ギャップ10を介して並ぶ2本の光ファイバ4,5と、一方の光ファイバ4の基端に配置した発光素子2と、他方の光ファイバ5の基端に配置した受光素子3と、この受光素子3の出力から潤滑剤6に混入している異物の量を検出する判定手段7とを備える。前記2本の光ファイバ4,5は、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部10とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面4a,5aとする。これら斜めの反射面4a,5aは、一方の光ファイバ4を通る光が先端の反射面4aで他方の光ファイバ5の反射面5aに向けて反射してこの反射面5aから他方の光ファイバ5内に反射する方向に向ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤の混入物などによる劣化状態を検出する潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受、例えば鉄道車両用、自動車用、風車設備用、工場設備用等の潤滑剤劣化検出装置付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤を封入した軸受では、軸受内部の潤滑剤(グリース、油など)が劣化すると転動体の潤滑不良が発生し、軸受寿命が短くなる。転動体の潤滑不良を、軸受の振動状態などから判断するのでは、寿命に達して動作異常が発生してから対処することになるため、潤滑状態の異常をより早く検出できない。そこで、軸受内の潤滑剤の状態を定期的あるいはリアルタイムに観測し、異常やメンテナンス期間の予測を可能にすることが望まれる。
【0003】
潤滑剤の劣化の主要な要因として、軸受の使用に伴って発生する摩耗粉が潤滑剤に混入することが挙げられる。
軸受の摩耗状態を検出するものとしては、軸受のシールの内側に電極やコイル等のセンサを配置し、摩耗粉の混入する潤滑剤の電気的特性を抵抗値・静電容量・磁気抵抗・インピーダンスなどの変化として検出するようにしたセンサ付き軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−293776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のセンサ付き軸受は、潤滑剤の電気的特性を検出するものであるため、大量の摩耗粉が入って導通が起こるなどの状況にならなければ、特性変化として検出されず、混入物の検出が困難な場合がある。
【0005】
このような課題を解決するものとして、例えば図10のように、発光側および受光側の光ファイバ46,47の各一端を検出対象となる潤滑剤45が存在する検出部48に対向させ、発光側の光ファイバ46の他端に発光素子43を、受光側の光ファイバ47の他端に受光素子44をそれぞれ配置した光学式の構成を考えた。
図10の構成では、発光素子43から出射された光が発光側の光ファイバ46を経由して検出部48に存在する潤滑剤45を透過し、さらに受光側の光ファイバ47を経由して受光素子44で検出され、受光素子44で検出される透過光量から潤滑剤45に混入する異物の量が推定される。
【0006】
図10の構成で軸受に取付けるために、例えば図11のように、両端にそれぞれ発光素子42および受光素子43を対向させる一つ割りのリング状の光ファイバ44を設け、このリング状の光ファイバ44の円周方向の一部に、潤滑剤45を介在させる測定用ギャップ47を設けた光学式の構成を考えた。
図11の構成では、発光素子42から出射された光が光ファイバ44を経由して測定用ギャップ47に存在する潤滑剤45を透過し、さらに光ファイバ44を経由して受光素子43で検出され、受光素子43で検出される透過光量から潤滑剤45に混入する鉄粉等の異物の量が推定される。
【0007】
しかし、このような光学式のセンサを軸受内に組み込んで、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出に用いる場合、光ファイバ44に対する保護がされていないので、光ファイバ44が潤滑剤の流動による荷重を受ける。そのため、光ファイバ44が動くことによって出力が変動したり、光ファイバ44が破損する可能性があり、安定した精度の良い検出ができない。
【0008】
潤滑剤の流動によって光ファイバ44が動くのを防止する対策として、光ファイバ44の測定用ギャップ47の近傍部を除く部分を覆うカバーを設けることが考えられる。
しかし、この場合には、軸受内の潤滑剤が転動体の回転に伴って保持器と共に移動する動きを前記カバーが制限してしまうので、測定用ギャップ47に潤滑剤が入り込み難いことがある。また、潤滑剤が軸受の周方向に移動することから、測定用ギャップ47が軸受の径方向に開通するように、測定用ギャップ47を挟んで対峙する光ファイバ44の対向面を設定すると、測定用ギャップ47への潤滑剤の入り込みがさらに妨げられるので、やはり安定した精度の良い検出ができない。
【0009】
この発明の目的は、検出部の小型化が可能で、軸受内部などに封入された潤滑剤の安定した正確な劣化検出が可能な潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受をを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤に入る測定用ギャップ部を介して並ぶ2本の光ファイバを設け、これら2本の光ファイバは、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面とし、これら斜めの反射面は、一方の光ファイバを通る光が先端の反射面で他方の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から他方の光ファイバ内に反射する方向とし、前記一方の光ファイバの基端に発光素子を、他方の光ファイバの基端に受光素子をそれぞれ配置し、前記受光素子の出力から潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けている。
この構成によると、反射部材を別途付加するといった複雑な構造とせずに、検出部となる測定用ギャップ部を小型化でき、構成部品も減らすことができる。また、構成部品を減らすことによって、光学系をコンパクトで故障し難い構成とすることができる。
とくに、この潤滑剤劣化検出装置を転がり軸受の内部に搭載して軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出に使用する場合に、前記2本の光ファイバをそれらの延びる方向が軸受の周方向に揃うように配置することで軸受内にコンパクトに配置できると共に、この配置状態で測定用ギャップ部の開通方向が軸受の周方向に揃うので、転がり軸受内を転動体の回転に伴い周方向に移動する潤滑剤が測定用ギャップ部に出入りし易くなる。その結果、安定した正確な劣化検出が可能となる。
【0011】
この発明の潤滑剤劣化検出装置付き軸受は、この発明の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものである。
この構成によると、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで安定良く正確に検出することができる。これにより、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【0012】
この発明において、前記軸受が転がり軸受であり、前記2本の光ファイバの延びる方向を転がり軸受の周方向とし、前記2本の光ファイバの先端の並び方向を前記転がり軸受の半径方向としても良い。
転がり軸受では、潤滑剤は転動体に引きずられて周方向に移動する。2本の光ファイバの延びる方向を転がり軸受の周方向とし、2本の光ファイバの先端の並び方向を転がり軸受の半径方向とすると、光ファイバ先端の並び方向は潤滑剤の移動する方向に対して垂直方向となるので、測定用ギャップ部に潤滑剤が出入りし易くなる。
【0013】
この発明において、前記光ファイバの先端近傍を、外輪に固定具を介して固定し、前記光ファイバの固定部の近傍に位置して、前記軸受空間内の潤滑剤が内輪と共に回転移動することに対して抵抗となる抵抗体を前記固定具に設けても良い。
このように抵抗体を設けた場合、測定用ギャップ部の近傍部で移動する潤滑剤を抵抗体の近傍に溜めることができる。これにより、抵抗体の近傍に溜められた潤滑剤が、それまで測定用ギャップ部に存在していた潤滑剤を押し出して、入れ代わりに測定用ギャップ部に入り込むという動きが順次繰り返されることから、常に潤滑に作用している潤滑剤を検出対象とすることになり、より安定した正確な潤滑剤の劣化検出を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤に入る測定用ギャップ部を介して並ぶ2本の光ファイバを設け、これら2本の光ファイバは、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面とし、これら斜めの反射面は、一方の光ファイバを通る光が先端の反射面で他方の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から他方の光ファイバ内に反射する方向とし、前記一方の光ファイバの基端に発光素子を、他方の光ファイバの基端に受光素子をそれぞれ配置し、前記受光素子の出力から潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けたため、検出部の小型化が可能で、安定した正確な検出が可能となる。
この発明の潤滑剤劣化検出装置付き軸受は、この発明の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものであるため、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで安定良く正確に検出することができる。その結果、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の潤滑剤によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。図1は、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置の概略構成図を示す。この潤滑剤劣化検出装置1は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤6の入る測定用ギャップ部10を介して並ぶ2本の光ファイバ4,5と、一方の光ファイバ4の基端に配置した発光素子2と、他方の光ファイバ5の基端に配置した受光素子3と、この受光素子3の出力から潤滑剤6に混入している異物の量を検出する判定手段7とを備える。前記測定用ギャップ部10は、この潤滑剤劣化検出装置1における潤滑剤6の検出部となるものである。
前記2本の光ファイバ4,5は、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部10とは反対側の部分が斜めにカットした斜めカット面とされている。これらの斜めカット面は、図2(A),(B)に側面図および正面図で示すように、蒸着膜、またはメッキ、または樹脂封止により反射コーティングした反射面4a,5aとされている。これら斜めの反射面4a,5aは、一方の光ファイバ4を通る光が先端の反射面4aで他方の光ファイバ5の反射面5aに向けて反射して、この反射面5aから他方の光ファイバ5内に反射する方向に向けられている。具体的には、一方の光ファイバ4は、発光素子2の発光面と対向する基端の端面に発光素子2から出射された光を入射させ、先端の反射面4aで反射させることで光路を90°曲げて、測定用ギャップ部10に投光する投光側光ファイバとなるものである。また、他方の光ファイバ5は、測定用ギャップ部10に対向する先端の面から測定用ギャップ部10における潤滑剤6を透過した光を入射させ、先端の反射面5aで光ファイバ5内に反射させることで光路をさらに90°曲げて、受光素子3の受光面と対向する基端の端面から受光素子3に入射させる受光側光ファイバとなるものである。なお、光ファイバ4,5の上記反射面4aで反射した光を透過させる先端外周面部分(すなわち測定用ギャップ10の形成面)には、光の透過を良好にするための適宜の加工、例えば平坦面に切欠く等の加工を施しておく。
このように投光側光ファイバ4および受光側光ファイバ5を配置することにより、発光素子2から出射された光が投光側光ファイバ4を介して潤滑剤6を透過し、その透過光が受光側光ファイバ5を介して受光素子3に入射される。
【0016】
前記発光素子2としては、LD、LED、EL、有機ELなどを用いることができ、発光回路8によって駆動される。前記受光素子3としては、フォトダイオード、フォトトランジスタなどを用いることができ、その出力を受ける受光回路9によって受光素子3の受光量が検出される。
【0017】
図3は、前記潤滑剤劣化検出装置1の具体的な構成例を示す。この構成例の潤滑剤劣化検出装置1は、転がり軸受に搭載されて、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出を行うものである。光ファイバ4,5は転がり軸受の内外輪の周方向に沿う円弧状とされ、固定具11〜14を介して前記外輪側に設けられる。1つの固定具11は、光ファイバ4,5の前記測定用ギャップ部10の近傍部を除く部分を覆って検出対象の潤滑剤6の流動による荷重から光ファイバ4,5を保護するカバーを兼ねる円弧状の部材であり、図3のB−B矢視断面図を示す図4(B)のように、断面概形がS字状の剛性材料、例えば合成樹脂または金属材料からなる。具体的には、カバ−兼用の固定具11は、円弧状の光ファイバ4に対するその円弧中心軸方向の片側(図4(B)では右側)を少なくとも覆うものとされる。この潤滑剤劣化検出装置1を軸受内に設置する場合、前記固定具11の表面側(図4(B)では右側面)が軸受内に封入される潤滑剤に晒されるように配置される。
【0018】
光ファイバ4,5を固定する他の1つの固定具12は、カバー兼用の前記固定具11の裏面(図4(B)では左側面)下半部に接合される円弧状の部材であり、この固定具12に2本の光ファイバ4,5の各基端が固定され、さらに発光素子2および受光素子3もこの固定具12に固定される。また、図4(B)のように、表面側の固定具11と裏面側の固定具12とで挟まれて形成される円弧状空間17内に光ファイバ4,5の測定ギャップ部10の近傍部以外の部分が配置される。これにより、潤滑剤6の流動による荷重から、光ファイバ4,5、発光素子2および受光素子3が保護される。光ファイバ4,5を固定するさらに他の1つの固定具13は、図3のA−A矢視断面図を示す図4(A)のように前記固定具12の前面側に固定され、この固定具13に光ファイバ4,5の測定用ギャップ10の近傍部が固定されて位置決めされている。
【0019】
光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10に対応する位置であるカバー兼用の固定具11の円周方向中間部には、図3に正面図で示すように円周方向に延びるスリット状の開口15が設けられ、これにより測定用ギャップ部10が軸受内部の潤滑剤6に晒される。図5に平面図で示すように、固定具13は、光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部を支持する部分が、カバー兼用の固定具11の開口15から固定具11の表面側に向けて二股状に突出した突出部13aとされている。これにより、光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部が、カバー兼用の固定具11から外側に突出させられる。
【0020】
光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部を拡大して平面図および正面図で示す図6(A),(B)のように、さらに他の1つの固定具14はパイプからなり、光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部以外の部分が前記パイプ状固定具14内に略隙間なく挿通される。この固定具14により光ファイバ4,5の変形が防止される。
【0021】
潤滑剤6が新品のときには透明に近い状態にあり、投光側光ファイバ4から投光されて潤滑剤6を透過する透過光の強度は高い。ところが、潤滑剤6に混入する異物の量が多くなると、透過光の強度が徐々に低下する。そこで、判定手段7は、透過光の強度に対応する受光素子3の出力から、潤滑剤6に混入している異物の量を検出する。潤滑剤6に混入する異物の量の増加は潤滑剤6の劣化の進行を意味するので、検出された異物の量から潤滑剤6の劣化具合を推定することができる。
【0022】
このように、この潤滑剤劣化検出装置1では、投光側光ファイバ4および受光側光ファイバ5を、互いに反対方向に延びそれらの先端が潤滑剤6の入る測定用ギャップ部10を介して並ぶように設けると共に、それぞれの先端の前記測定用ギャップ部10とは反対側の部分を斜めにカットして、その斜めカット面を反射コーティングした反射面4a,5aとしているので、反射部材を別途付加するといった複雑な構造とせずに、検出部となる測定用ギャップ部10を小型化でき、構成部品も減らすことができる。また、構成部品を減らすことによって、光学系をコンパクトで故障し難い構成とすることができる。
とくに、この潤滑剤劣化検出装置1を転がり軸受の内部に搭載して軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出に使用する場合に、前記2本の光ファイバ4,5をそれらの延びる方向が軸受の周方向に揃うように配置することで軸受内にコンパクトに配置できる。しかも、この配置状態で測定用ギャップ部10の開通方向が軸受の周方向に揃うので、転がり軸受内を転動体の回転に伴い周方向に移動する潤滑剤6が測定用ギャップ部10に出入りし易くなる。その結果、安定した正確な劣化検出が可能となる。
【0023】
図7は、上記した構成の潤滑剤劣化検出装置1を組み込んだ転がり軸受の一例を示す。この転がり軸受20は鉄道車両用軸受であって、内輪21の両側に各々接して設けられた付属部品である油切り25および後ろ蓋26とで鉄道車両用軸受ユニットを構成される。転がり軸受20は、ころ軸受、詳しくは複列の円すいころ軸受からなり、各列のころ23,23に対して設けた分割型の内輪21,21と、一体型の外輪22と、前記ころ23,23と、保持器24とを備える。
油切り23は、車軸40に取付けられて外周にオイルシール31を摺接させたものである。このオイルシール31は、外輪22の前記油切り25に対応する一端部に取付けられる環状のシールケース27の内径面に、断面L字状のリング部材29を介して圧入嵌合される。前記シールケース27の内側に潤滑剤劣化検出装置1が同心に取付けられる。
後ろ蓋26は、車軸40に軸受20よりも中央側で取付けられて外周にオイルシール32を摺接させたものである。このオイルシール32は、外輪22の前記後ろ蓋26に対応する他端部に取付けられる環状のシールケース28の内径面に、断面L字状のリング部材30を介して圧入嵌合される。これら軸受20の両端部に配置される両オイルシール31,32により軸受20の内部に潤滑剤が封止され、かつ防塵・耐水性が確保される。
【0024】
潤滑剤劣化検出装置1の軸受20への取付けにおいて、前記シールケース27における大径段部の内径面に潤滑剤劣化検出装置1のカバー兼用固定具11が嵌め込まれ、続いて圧入される圧入リング34により、シールケース27の大径段部端面とリング部材29(図4(B)の立板部にわたって潤滑剤劣化検出装置1が押し当てられる。これにより、潤滑剤劣化検出装置1が軸方向に位置決め固定され、転がり軸受20の内外輪21,22間の軸受空間に円周方向に延びる光ファイバ4,5が配置され、測定用ギャップ部10は保持器24の内径面からころ23の大端部にわたる面域の近傍に配置される。
【0025】
光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部と、軸受内輪21および保持器24との関係を正面図で示す図8のように、2本の光ファイバ4,5の延びる方向は軸受20の周方向とされ、両光ファイバ4,5の先端の並び方向は軸受20の半径方向とされる。これにより、測定用ギャップ部10は軸受20の周方向に開通するので、ころ23の回転に伴って保持器24と共に軸受内を周方向に移動する潤滑剤が測定用ギャップ部10に入り込み易くなる。その結果、軸受内部の潤滑剤劣化状態を安定して正確に検出できる。
【0026】
これにより、上記潤滑剤劣化検出装置1を搭載したこの検出装置付き軸受20では、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで安定良く正確に検出することができる。その結果、軸受20に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受20の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置1の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【0027】
図9は、潤滑剤劣化検出装置1における光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10近傍部の他の構成例での軸受内輪21および保持器24との関係の正面図を示す。この構成例では、光ファイバ4,5の先端近傍に位置して、軸受空間内の潤滑剤6がころ23に引きずられて周方向に移動することに対して抵抗となる抵抗体18を設けている。具体的には、前記抵抗体18は、光ファイバ4,5を挿通させるパイプからなる固定具14における測定用ギャップ部10の近傍に設けられ、光ファイバ4,5の外周を囲む筒状に設けられている。これら抵抗体18の先端面18aは、軸受の半径方向に対して傾斜した傾斜面とされ、かつ2つの抵抗体18の先端面18aは、互いに平行な面とされている。その他の構成は図1〜図6の場合の構成と同じである。
【0028】
このように抵抗体18を設けた場合、測定用ギャップ部10の近傍で移動する潤滑剤6を抵抗体18の近傍に溜めることができる。これにより、抵抗体18の近傍に溜められた潤滑剤6が、それまで測定用ギャップ部10に存在していた潤滑剤6を押し出して、入れ代わりに測定用ギャップ部10に入り込むという動きが順次繰り返されることから、常に潤滑に作用している潤滑剤6を検出対象とすることになり、より安定的に精度良く潤滑剤6の劣化検出を行うことができる。抵抗体18の先端面が傾斜面とされているため、抵抗体18の近傍に溜められた潤滑剤6が光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10により一層入り易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施形態に係る潤滑剤劣化検出装置の概略構成図である。
【図2】(A)は同潤滑剤劣化検出装置における光ファイバの側面図、(B)は同背面図である。
【図3】同潤滑剤劣化検出装置の具体例の構成図である。
【図4】(A)は図3におけるA−A矢視断面図、(B)は図3におけるB−B矢視断面図、(C)は図3における矢印C方向から見た側面図である。
【図5】同潤滑剤劣化検出装置の部分平面図である。
【図6】(A)は光ファイバの測定用ギャップ部の近傍部の拡大平面図、(B)は同近傍部の拡大正面図である。
【図7】図3の潤滑剤劣化検出装置を搭載した検出装置付き軸受の一構成例を示す断面図である。
【図8】光ファイバの測定用ギャップ部の近傍部での軸受内輪および保持器との関係を示す正面図である。
【図9】光ファイバの測定用ギャップ部近傍部の他の構成例での軸受内輪および保持器との関係を示す正面図である。
【図10】潤滑剤劣化検出装置の提案例の概略構成図である。
【図11】潤滑剤劣化検出装置の他の提案例の概略構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1…潤滑剤劣化検出装置
2…発光素子
3…受光素子
4…投光側光ファイバ
4a…反射面
5…受光側光ファイバ
5a…反射面
6…潤滑剤
7…判定手段
10…測定用ギャップ部
11〜14…固定具
18…抵抗体
20転がり軸受
21…内輪
22…外輪
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤の混入物などによる劣化状態を検出する潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受、例えば鉄道車両用、自動車用、風車設備用、工場設備用等の潤滑剤劣化検出装置付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤を封入した軸受では、軸受内部の潤滑剤(グリース、油など)が劣化すると転動体の潤滑不良が発生し、軸受寿命が短くなる。転動体の潤滑不良を、軸受の振動状態などから判断するのでは、寿命に達して動作異常が発生してから対処することになるため、潤滑状態の異常をより早く検出できない。そこで、軸受内の潤滑剤の状態を定期的あるいはリアルタイムに観測し、異常やメンテナンス期間の予測を可能にすることが望まれる。
【0003】
潤滑剤の劣化の主要な要因として、軸受の使用に伴って発生する摩耗粉が潤滑剤に混入することが挙げられる。
軸受の摩耗状態を検出するものとしては、軸受のシールの内側に電極やコイル等のセンサを配置し、摩耗粉の混入する潤滑剤の電気的特性を抵抗値・静電容量・磁気抵抗・インピーダンスなどの変化として検出するようにしたセンサ付き軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−293776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のセンサ付き軸受は、潤滑剤の電気的特性を検出するものであるため、大量の摩耗粉が入って導通が起こるなどの状況にならなければ、特性変化として検出されず、混入物の検出が困難な場合がある。
【0005】
このような課題を解決するものとして、例えば図10のように、発光側および受光側の光ファイバ46,47の各一端を検出対象となる潤滑剤45が存在する検出部48に対向させ、発光側の光ファイバ46の他端に発光素子43を、受光側の光ファイバ47の他端に受光素子44をそれぞれ配置した光学式の構成を考えた。
図10の構成では、発光素子43から出射された光が発光側の光ファイバ46を経由して検出部48に存在する潤滑剤45を透過し、さらに受光側の光ファイバ47を経由して受光素子44で検出され、受光素子44で検出される透過光量から潤滑剤45に混入する異物の量が推定される。
【0006】
図10の構成で軸受に取付けるために、例えば図11のように、両端にそれぞれ発光素子42および受光素子43を対向させる一つ割りのリング状の光ファイバ44を設け、このリング状の光ファイバ44の円周方向の一部に、潤滑剤45を介在させる測定用ギャップ47を設けた光学式の構成を考えた。
図11の構成では、発光素子42から出射された光が光ファイバ44を経由して測定用ギャップ47に存在する潤滑剤45を透過し、さらに光ファイバ44を経由して受光素子43で検出され、受光素子43で検出される透過光量から潤滑剤45に混入する鉄粉等の異物の量が推定される。
【0007】
しかし、このような光学式のセンサを軸受内に組み込んで、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出に用いる場合、光ファイバ44に対する保護がされていないので、光ファイバ44が潤滑剤の流動による荷重を受ける。そのため、光ファイバ44が動くことによって出力が変動したり、光ファイバ44が破損する可能性があり、安定した精度の良い検出ができない。
【0008】
潤滑剤の流動によって光ファイバ44が動くのを防止する対策として、光ファイバ44の測定用ギャップ47の近傍部を除く部分を覆うカバーを設けることが考えられる。
しかし、この場合には、軸受内の潤滑剤が転動体の回転に伴って保持器と共に移動する動きを前記カバーが制限してしまうので、測定用ギャップ47に潤滑剤が入り込み難いことがある。また、潤滑剤が軸受の周方向に移動することから、測定用ギャップ47が軸受の径方向に開通するように、測定用ギャップ47を挟んで対峙する光ファイバ44の対向面を設定すると、測定用ギャップ47への潤滑剤の入り込みがさらに妨げられるので、やはり安定した精度の良い検出ができない。
【0009】
この発明の目的は、検出部の小型化が可能で、軸受内部などに封入された潤滑剤の安定した正確な劣化検出が可能な潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えた検出装置付き軸受をを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤に入る測定用ギャップ部を介して並ぶ2本の光ファイバを設け、これら2本の光ファイバは、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面とし、これら斜めの反射面は、一方の光ファイバを通る光が先端の反射面で他方の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から他方の光ファイバ内に反射する方向とし、前記一方の光ファイバの基端に発光素子を、他方の光ファイバの基端に受光素子をそれぞれ配置し、前記受光素子の出力から潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けている。
この構成によると、反射部材を別途付加するといった複雑な構造とせずに、検出部となる測定用ギャップ部を小型化でき、構成部品も減らすことができる。また、構成部品を減らすことによって、光学系をコンパクトで故障し難い構成とすることができる。
とくに、この潤滑剤劣化検出装置を転がり軸受の内部に搭載して軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出に使用する場合に、前記2本の光ファイバをそれらの延びる方向が軸受の周方向に揃うように配置することで軸受内にコンパクトに配置できると共に、この配置状態で測定用ギャップ部の開通方向が軸受の周方向に揃うので、転がり軸受内を転動体の回転に伴い周方向に移動する潤滑剤が測定用ギャップ部に出入りし易くなる。その結果、安定した正確な劣化検出が可能となる。
【0011】
この発明の潤滑剤劣化検出装置付き軸受は、この発明の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものである。
この構成によると、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで安定良く正確に検出することができる。これにより、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【0012】
この発明において、前記軸受が転がり軸受であり、前記2本の光ファイバの延びる方向を転がり軸受の周方向とし、前記2本の光ファイバの先端の並び方向を前記転がり軸受の半径方向としても良い。
転がり軸受では、潤滑剤は転動体に引きずられて周方向に移動する。2本の光ファイバの延びる方向を転がり軸受の周方向とし、2本の光ファイバの先端の並び方向を転がり軸受の半径方向とすると、光ファイバ先端の並び方向は潤滑剤の移動する方向に対して垂直方向となるので、測定用ギャップ部に潤滑剤が出入りし易くなる。
【0013】
この発明において、前記光ファイバの先端近傍を、外輪に固定具を介して固定し、前記光ファイバの固定部の近傍に位置して、前記軸受空間内の潤滑剤が内輪と共に回転移動することに対して抵抗となる抵抗体を前記固定具に設けても良い。
このように抵抗体を設けた場合、測定用ギャップ部の近傍部で移動する潤滑剤を抵抗体の近傍に溜めることができる。これにより、抵抗体の近傍に溜められた潤滑剤が、それまで測定用ギャップ部に存在していた潤滑剤を押し出して、入れ代わりに測定用ギャップ部に入り込むという動きが順次繰り返されることから、常に潤滑に作用している潤滑剤を検出対象とすることになり、より安定した正確な潤滑剤の劣化検出を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤に入る測定用ギャップ部を介して並ぶ2本の光ファイバを設け、これら2本の光ファイバは、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面とし、これら斜めの反射面は、一方の光ファイバを通る光が先端の反射面で他方の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から他方の光ファイバ内に反射する方向とし、前記一方の光ファイバの基端に発光素子を、他方の光ファイバの基端に受光素子をそれぞれ配置し、前記受光素子の出力から潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けたため、検出部の小型化が可能で、安定した正確な検出が可能となる。
この発明の潤滑剤劣化検出装置付き軸受は、この発明の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものであるため、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで安定良く正確に検出することができる。その結果、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の潤滑剤によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。図1は、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置の概略構成図を示す。この潤滑剤劣化検出装置1は、互いに反対方向に延び先端が潤滑剤6の入る測定用ギャップ部10を介して並ぶ2本の光ファイバ4,5と、一方の光ファイバ4の基端に配置した発光素子2と、他方の光ファイバ5の基端に配置した受光素子3と、この受光素子3の出力から潤滑剤6に混入している異物の量を検出する判定手段7とを備える。前記測定用ギャップ部10は、この潤滑剤劣化検出装置1における潤滑剤6の検出部となるものである。
前記2本の光ファイバ4,5は、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部10とは反対側の部分が斜めにカットした斜めカット面とされている。これらの斜めカット面は、図2(A),(B)に側面図および正面図で示すように、蒸着膜、またはメッキ、または樹脂封止により反射コーティングした反射面4a,5aとされている。これら斜めの反射面4a,5aは、一方の光ファイバ4を通る光が先端の反射面4aで他方の光ファイバ5の反射面5aに向けて反射して、この反射面5aから他方の光ファイバ5内に反射する方向に向けられている。具体的には、一方の光ファイバ4は、発光素子2の発光面と対向する基端の端面に発光素子2から出射された光を入射させ、先端の反射面4aで反射させることで光路を90°曲げて、測定用ギャップ部10に投光する投光側光ファイバとなるものである。また、他方の光ファイバ5は、測定用ギャップ部10に対向する先端の面から測定用ギャップ部10における潤滑剤6を透過した光を入射させ、先端の反射面5aで光ファイバ5内に反射させることで光路をさらに90°曲げて、受光素子3の受光面と対向する基端の端面から受光素子3に入射させる受光側光ファイバとなるものである。なお、光ファイバ4,5の上記反射面4aで反射した光を透過させる先端外周面部分(すなわち測定用ギャップ10の形成面)には、光の透過を良好にするための適宜の加工、例えば平坦面に切欠く等の加工を施しておく。
このように投光側光ファイバ4および受光側光ファイバ5を配置することにより、発光素子2から出射された光が投光側光ファイバ4を介して潤滑剤6を透過し、その透過光が受光側光ファイバ5を介して受光素子3に入射される。
【0016】
前記発光素子2としては、LD、LED、EL、有機ELなどを用いることができ、発光回路8によって駆動される。前記受光素子3としては、フォトダイオード、フォトトランジスタなどを用いることができ、その出力を受ける受光回路9によって受光素子3の受光量が検出される。
【0017】
図3は、前記潤滑剤劣化検出装置1の具体的な構成例を示す。この構成例の潤滑剤劣化検出装置1は、転がり軸受に搭載されて、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出を行うものである。光ファイバ4,5は転がり軸受の内外輪の周方向に沿う円弧状とされ、固定具11〜14を介して前記外輪側に設けられる。1つの固定具11は、光ファイバ4,5の前記測定用ギャップ部10の近傍部を除く部分を覆って検出対象の潤滑剤6の流動による荷重から光ファイバ4,5を保護するカバーを兼ねる円弧状の部材であり、図3のB−B矢視断面図を示す図4(B)のように、断面概形がS字状の剛性材料、例えば合成樹脂または金属材料からなる。具体的には、カバ−兼用の固定具11は、円弧状の光ファイバ4に対するその円弧中心軸方向の片側(図4(B)では右側)を少なくとも覆うものとされる。この潤滑剤劣化検出装置1を軸受内に設置する場合、前記固定具11の表面側(図4(B)では右側面)が軸受内に封入される潤滑剤に晒されるように配置される。
【0018】
光ファイバ4,5を固定する他の1つの固定具12は、カバー兼用の前記固定具11の裏面(図4(B)では左側面)下半部に接合される円弧状の部材であり、この固定具12に2本の光ファイバ4,5の各基端が固定され、さらに発光素子2および受光素子3もこの固定具12に固定される。また、図4(B)のように、表面側の固定具11と裏面側の固定具12とで挟まれて形成される円弧状空間17内に光ファイバ4,5の測定ギャップ部10の近傍部以外の部分が配置される。これにより、潤滑剤6の流動による荷重から、光ファイバ4,5、発光素子2および受光素子3が保護される。光ファイバ4,5を固定するさらに他の1つの固定具13は、図3のA−A矢視断面図を示す図4(A)のように前記固定具12の前面側に固定され、この固定具13に光ファイバ4,5の測定用ギャップ10の近傍部が固定されて位置決めされている。
【0019】
光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10に対応する位置であるカバー兼用の固定具11の円周方向中間部には、図3に正面図で示すように円周方向に延びるスリット状の開口15が設けられ、これにより測定用ギャップ部10が軸受内部の潤滑剤6に晒される。図5に平面図で示すように、固定具13は、光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部を支持する部分が、カバー兼用の固定具11の開口15から固定具11の表面側に向けて二股状に突出した突出部13aとされている。これにより、光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部が、カバー兼用の固定具11から外側に突出させられる。
【0020】
光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部を拡大して平面図および正面図で示す図6(A),(B)のように、さらに他の1つの固定具14はパイプからなり、光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部以外の部分が前記パイプ状固定具14内に略隙間なく挿通される。この固定具14により光ファイバ4,5の変形が防止される。
【0021】
潤滑剤6が新品のときには透明に近い状態にあり、投光側光ファイバ4から投光されて潤滑剤6を透過する透過光の強度は高い。ところが、潤滑剤6に混入する異物の量が多くなると、透過光の強度が徐々に低下する。そこで、判定手段7は、透過光の強度に対応する受光素子3の出力から、潤滑剤6に混入している異物の量を検出する。潤滑剤6に混入する異物の量の増加は潤滑剤6の劣化の進行を意味するので、検出された異物の量から潤滑剤6の劣化具合を推定することができる。
【0022】
このように、この潤滑剤劣化検出装置1では、投光側光ファイバ4および受光側光ファイバ5を、互いに反対方向に延びそれらの先端が潤滑剤6の入る測定用ギャップ部10を介して並ぶように設けると共に、それぞれの先端の前記測定用ギャップ部10とは反対側の部分を斜めにカットして、その斜めカット面を反射コーティングした反射面4a,5aとしているので、反射部材を別途付加するといった複雑な構造とせずに、検出部となる測定用ギャップ部10を小型化でき、構成部品も減らすことができる。また、構成部品を減らすことによって、光学系をコンパクトで故障し難い構成とすることができる。
とくに、この潤滑剤劣化検出装置1を転がり軸受の内部に搭載して軸受内部に封入された潤滑剤の劣化検出に使用する場合に、前記2本の光ファイバ4,5をそれらの延びる方向が軸受の周方向に揃うように配置することで軸受内にコンパクトに配置できる。しかも、この配置状態で測定用ギャップ部10の開通方向が軸受の周方向に揃うので、転がり軸受内を転動体の回転に伴い周方向に移動する潤滑剤6が測定用ギャップ部10に出入りし易くなる。その結果、安定した正確な劣化検出が可能となる。
【0023】
図7は、上記した構成の潤滑剤劣化検出装置1を組み込んだ転がり軸受の一例を示す。この転がり軸受20は鉄道車両用軸受であって、内輪21の両側に各々接して設けられた付属部品である油切り25および後ろ蓋26とで鉄道車両用軸受ユニットを構成される。転がり軸受20は、ころ軸受、詳しくは複列の円すいころ軸受からなり、各列のころ23,23に対して設けた分割型の内輪21,21と、一体型の外輪22と、前記ころ23,23と、保持器24とを備える。
油切り23は、車軸40に取付けられて外周にオイルシール31を摺接させたものである。このオイルシール31は、外輪22の前記油切り25に対応する一端部に取付けられる環状のシールケース27の内径面に、断面L字状のリング部材29を介して圧入嵌合される。前記シールケース27の内側に潤滑剤劣化検出装置1が同心に取付けられる。
後ろ蓋26は、車軸40に軸受20よりも中央側で取付けられて外周にオイルシール32を摺接させたものである。このオイルシール32は、外輪22の前記後ろ蓋26に対応する他端部に取付けられる環状のシールケース28の内径面に、断面L字状のリング部材30を介して圧入嵌合される。これら軸受20の両端部に配置される両オイルシール31,32により軸受20の内部に潤滑剤が封止され、かつ防塵・耐水性が確保される。
【0024】
潤滑剤劣化検出装置1の軸受20への取付けにおいて、前記シールケース27における大径段部の内径面に潤滑剤劣化検出装置1のカバー兼用固定具11が嵌め込まれ、続いて圧入される圧入リング34により、シールケース27の大径段部端面とリング部材29(図4(B)の立板部にわたって潤滑剤劣化検出装置1が押し当てられる。これにより、潤滑剤劣化検出装置1が軸方向に位置決め固定され、転がり軸受20の内外輪21,22間の軸受空間に円周方向に延びる光ファイバ4,5が配置され、測定用ギャップ部10は保持器24の内径面からころ23の大端部にわたる面域の近傍に配置される。
【0025】
光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10の近傍部と、軸受内輪21および保持器24との関係を正面図で示す図8のように、2本の光ファイバ4,5の延びる方向は軸受20の周方向とされ、両光ファイバ4,5の先端の並び方向は軸受20の半径方向とされる。これにより、測定用ギャップ部10は軸受20の周方向に開通するので、ころ23の回転に伴って保持器24と共に軸受内を周方向に移動する潤滑剤が測定用ギャップ部10に入り込み易くなる。その結果、軸受内部の潤滑剤劣化状態を安定して正確に検出できる。
【0026】
これにより、上記潤滑剤劣化検出装置1を搭載したこの検出装置付き軸受20では、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで安定良く正確に検出することができる。その結果、軸受20に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受20の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置1の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【0027】
図9は、潤滑剤劣化検出装置1における光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10近傍部の他の構成例での軸受内輪21および保持器24との関係の正面図を示す。この構成例では、光ファイバ4,5の先端近傍に位置して、軸受空間内の潤滑剤6がころ23に引きずられて周方向に移動することに対して抵抗となる抵抗体18を設けている。具体的には、前記抵抗体18は、光ファイバ4,5を挿通させるパイプからなる固定具14における測定用ギャップ部10の近傍に設けられ、光ファイバ4,5の外周を囲む筒状に設けられている。これら抵抗体18の先端面18aは、軸受の半径方向に対して傾斜した傾斜面とされ、かつ2つの抵抗体18の先端面18aは、互いに平行な面とされている。その他の構成は図1〜図6の場合の構成と同じである。
【0028】
このように抵抗体18を設けた場合、測定用ギャップ部10の近傍で移動する潤滑剤6を抵抗体18の近傍に溜めることができる。これにより、抵抗体18の近傍に溜められた潤滑剤6が、それまで測定用ギャップ部10に存在していた潤滑剤6を押し出して、入れ代わりに測定用ギャップ部10に入り込むという動きが順次繰り返されることから、常に潤滑に作用している潤滑剤6を検出対象とすることになり、より安定的に精度良く潤滑剤6の劣化検出を行うことができる。抵抗体18の先端面が傾斜面とされているため、抵抗体18の近傍に溜められた潤滑剤6が光ファイバ4,5の測定用ギャップ部10により一層入り易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施形態に係る潤滑剤劣化検出装置の概略構成図である。
【図2】(A)は同潤滑剤劣化検出装置における光ファイバの側面図、(B)は同背面図である。
【図3】同潤滑剤劣化検出装置の具体例の構成図である。
【図4】(A)は図3におけるA−A矢視断面図、(B)は図3におけるB−B矢視断面図、(C)は図3における矢印C方向から見た側面図である。
【図5】同潤滑剤劣化検出装置の部分平面図である。
【図6】(A)は光ファイバの測定用ギャップ部の近傍部の拡大平面図、(B)は同近傍部の拡大正面図である。
【図7】図3の潤滑剤劣化検出装置を搭載した検出装置付き軸受の一構成例を示す断面図である。
【図8】光ファイバの測定用ギャップ部の近傍部での軸受内輪および保持器との関係を示す正面図である。
【図9】光ファイバの測定用ギャップ部近傍部の他の構成例での軸受内輪および保持器との関係を示す正面図である。
【図10】潤滑剤劣化検出装置の提案例の概略構成図である。
【図11】潤滑剤劣化検出装置の他の提案例の概略構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1…潤滑剤劣化検出装置
2…発光素子
3…受光素子
4…投光側光ファイバ
4a…反射面
5…受光側光ファイバ
5a…反射面
6…潤滑剤
7…判定手段
10…測定用ギャップ部
11〜14…固定具
18…抵抗体
20転がり軸受
21…内輪
22…外輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに反対方向に延び先端が潤滑剤に入る測定用ギャップ部を介して並ぶ2本の光ファイバを設け、これら2本の光ファイバは、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面とし、これら斜めの反射面は、一方の光ファイバを通る光が先端の反射面で他方の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から他方の光ファイバ内に反射する方向とし、前記一方の光ファイバの基端に発光素子を、他方の光ファイバの基端に受光素子をそれぞれ配置し、前記受光素子の出力から潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けた潤滑剤劣化検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載した潤滑剤劣化検出装置付き軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記軸受が転がり軸受であり、前記2本の光ファイバの延びる方向を転がり軸受の周方向とし、前記2本の光ファイバの先端の並び方向を前記転がり軸受の半径方向とした潤滑剤劣化検出装置付き軸受。
【請求項4】
請求項3において、前記光ファイバの先端近傍を、外輪に固定具を介して固定し、前記光ファイバの固定部の近傍に位置して、前記軸受空間内の潤滑剤が内輪と共に回転移動することに対して抵抗となる抵抗体を前記固定具に設けた潤滑剤劣化検出装置付き軸受。
【請求項1】
互いに反対方向に延び先端が潤滑剤に入る測定用ギャップ部を介して並ぶ2本の光ファイバを設け、これら2本の光ファイバは、それぞれ先端の前記測定用ギャップ部とは反対側の部分を斜めにカットしてその斜めカット面を反射コーティングした反射面とし、これら斜めの反射面は、一方の光ファイバを通る光が先端の反射面で他方の光ファイバの反射面に向けて反射してこの反射面から他方の光ファイバ内に反射する方向とし、前記一方の光ファイバの基端に発光素子を、他方の光ファイバの基端に受光素子をそれぞれ配置し、前記受光素子の出力から潤滑剤に混入している異物の量を検出する判定手段を設けた潤滑剤劣化検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載した潤滑剤劣化検出装置付き軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記軸受が転がり軸受であり、前記2本の光ファイバの延びる方向を転がり軸受の周方向とし、前記2本の光ファイバの先端の並び方向を前記転がり軸受の半径方向とした潤滑剤劣化検出装置付き軸受。
【請求項4】
請求項3において、前記光ファイバの先端近傍を、外輪に固定具を介して固定し、前記光ファイバの固定部の近傍に位置して、前記軸受空間内の潤滑剤が内輪と共に回転移動することに対して抵抗となる抵抗体を前記固定具に設けた潤滑剤劣化検出装置付き軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−139186(P2008−139186A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326796(P2006−326796)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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