説明

潤滑剤組成物および潤滑剤組成物封入軸受

【課題】鉄系金属と接触する環境下での使用において、水素脆性による該金属表面での剥離を防止できる潤滑剤組成物および該潤滑剤組成物で潤滑される軸受を提供する。
【解決手段】潤滑剤組成物封入軸受1は、鉄系金属からなる軸受部材である内輪2や外輪3を備え、該軸受部材を潤滑する潤滑剤組成物7が封入されてなり、この潤滑剤組成物7は、基油と、添加剤として粒子径が1nm〜30nmである金属粉末とを含み、金属粉末が、金、銀、イリジウム、パラジウム、白金、ロジウム、およびルテニウムから選ばれる少なくとも1つの粉末であり、該金属粉末を分散させた分散液を基油に配合して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関し、特にオルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータなどの自動車電装部品・補機等に用いられる転がり軸受(グリース潤滑)、産業機械用、電気自動車駆動用などのモータに用いられる転がり軸受(グリース潤滑)、風力発電装置などの増速機や建設機械用の減速機に用いられる軸受(油潤滑)の潤滑に供する潤滑剤組成物に関する。また、この潤滑剤組成物が封入された上記の各用途などに用いる軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における電装部品や補機、産業機械におけるモータ、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータなどは、年々小型化や高性能、高出力が求められており、使用条件が厳しくなってきている。これらには、転がり軸受が使用されており、その潤滑には主としてグリースが用いられている。ところが、高温下での高速回転等、使用条件が過酷になることで、転がり軸受の転走面(軸受鋼)に白色組織変化を伴った特異的な剥離が早期に生じ、問題になっている。
【0003】
また、建設機械用の減速機や、風力発電装置の増速機用の軸受など油潤滑で使用される軸受においてもこれらの特異な剥離が顕在化している。
【0004】
この特異的な剥離は、通常の金属疲労により生じる転走面内部からの剥離と異なり、転走面表面の比較的浅いところから生じる破壊現象で、水素が原因の水素脆性による剥離と考えられている。このような早期に発生する白色組織変化を伴った特異な剥離現象を防ぐ方法として、例えば、グリース組成物に不動態化剤を配合する方法が知られている(特許文献1参照)。また、グリース組成物にビスマスジチオカーバメートを配合する方法が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、軸受転走面が鉄系金属の軸受鋼で構成されることから、鉄との相互溶解度を考慮し、グリース組成物にアルミニウム、ケイ素、チタン、タングステン、モリブデン、クロム、コバルト等の金属粉末を配合する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−210394号公報
【特許文献2】特開2005−42102号公報
【特許文献3】特開2008−266424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自動車における電装部品や補機、産業機械におけるモータなどでは、近年の小型化に合わせて、軸受の更なる小型化が進められている。そのため、軸受を構成する部材に負荷される接触面圧が高くなる傾向にある。また、これら機器の回転の高速化も進められており、高速運転−急減速運転−急加速運転−急停止が頻繁に行なわれる傾向にある。転動体と軌道輪との間における面圧の上昇や急加減速によるすべりの増大は、該部分における油膜切れ(潤滑不良)を起こしやすくする。このような過酷化された環境下では、従来の特許文献1や特許文献2のような、不動態化剤やビスマスジチオカーバメートを添加する方法では、上記剥離現象を防ぐ対策として不十分になってきている。
【0008】
建設機械については、従来よりも寒冷または灼熱下での建設作業に用いられるものが今後増加する傾向にある。また、風力発電装置については、今後のニーズの更なる増加に伴う設置場所の自由度の減少や、エネルギーの転換トレンド、および風況解析の進展の観点により、従来では積極的に設置検討がなされていなかった洋上や山岳地帯(高地)などへ設置するケースが増加するものと考えられる。これらの事情より、従来では考えにくかった過酷な使用環境でも、上記剥離現象を防止することが望まれる。特に、装置へのアクセスも困難となることが予想されるため、上記剥離現象を長期にわたり防止し、メンテナンス頻度を減少させなければならないニーズも高まるものと考える。
【0009】
軸受摺動面における油膜厚さが薄くなるほど、上記剥離現象は起こりやすい。特に、上述の過酷化された環境下などでは、摺動面の潤滑が、境界潤滑条件となり油膜厚さはサブミクロンオーダー(0.1μm以下)となる。このような環境下では、例えば、特許文献3のように、鉄との相互溶解度が一定以上の金属粉末を用いる場合でも、その粒子径等によっては摺動面に十分に介入できず、効果が得られないおそれがある。
【0010】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、鉄系金属と接触する環境下での使用において、水素脆性による該鉄系金属表面での剥離を防止できる潤滑剤組成物および該潤滑剤組成物で潤滑される軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の潤滑剤組成物は、鉄系金属と接触する環境下で使用される潤滑剤組成物であって、基油と、添加剤として粒子径が1nm〜30nmである金属粉末とを含むことを特徴とする。特に、上記潤滑剤組成物は、上記金属粉末を分散させた分散液を、上記基油に配合して得られることを特徴とする。
【0012】
上記金属粉末が、金、銀、イリジウム、パラジウム、白金、ロジウム、およびルテニウムから選ばれる少なくとも1つの粉末であることを特徴とする。
【0013】
上記金属粉末は、上記潤滑剤組成物全体に対して、0.001〜0.05重量%含まれることを特徴とする。また、上記潤滑剤組成物は、境界潤滑条件となる部位で使用されることを特徴とする。
【0014】
上記分散液の溶媒が、アルコールまたは水であることを特徴とする。また、上記潤滑剤組成物は、上記分散液を上記基油に配合した後、上記溶媒を揮発させてなることを特徴とする。また、上記散液の分散剤が、ピロリドンまたはイミン系化合物であることを特徴とする。
【0015】
上記基油が、鉱油、高度精製鉱油、および水溶性潤滑油から選ばれる少なくとも1つの油であることを特徴とする。
【0016】
上記分散液の金属濃度が10mmol/Lであり、該分散液が上記潤滑剤組成物全体に対して1〜20重量%配合されることを特徴とする。
【0017】
上記潤滑剤組成物は、増ちょう剤を含むグリースであることを特徴とする。また、上記増ちょう剤が、ウレア系化合物であることを特徴とする。また、グリースとする場合において、上記基油が、アルキルジフェニルエーテル油およびポリ−α−オレフィン(以下、PAOと記す)油から選ばれる少なくとも1つの油であることを特徴とする。
【0018】
本発明の潤滑剤組成物封入軸受は、鉄系金属からなる軸受部材を備え、該軸受部材を潤滑する、上記本発明の潤滑剤組成物が封入されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の潤滑剤組成物は、基油と、添加剤として粒子径が1nm〜30nmである金属粉末とを含むので、鉄系金属と接触する環境下での使用において、水素脆性による該鉄系金属表面での剥離を効果的に防止できる。特に、この潤滑剤組成物は、上記金属粉末を分散させた分散液を、上記基油に配合して得られるので、金属粉末の凝集を防止でき、潤滑剤組成物中での金属粉末の分散性に優れ、金属粉末の量が少量でも優れた効果が期待できる。
【0020】
本発明の潤滑剤組成物封入軸受は、上記潤滑剤組成物を封入してなるので、鉄系金属である軸受鋼からなる転走面において、水素脆性による白色組織変化を伴った特異的な剥離を防止でき、軸受寿命に優れる。この結果、オルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ等の自動車電装部品、補機等の転がり軸受として好適に利用できる。また、建設機械用の減速機や風力発電装置の増速機用の軸受など、油潤滑で使用される軸受としても好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の潤滑剤組成物封入軸受の一例である深溝玉軸受の断面図である。
【図2】本発明の潤滑剤組成物封入軸受を用いたモータの断面図である。
【図3】本発明の潤滑剤組成物封入軸受を用いた増速機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
転がり軸受において、水素脆性による転走面(鉄系金属表面)での剥離を防止できる潤滑油組成物・グリース組成物について鋭意検討を行なった結果、ナノメートルサイズの粒子径の超微細な金属粉末を添加剤(以下、「ナノ金属粒子添加剤」ともいう)として配合することにより、特に分散液として配合することにより、水素脆性による転走面での剥離を効果的に防止できることを見出した。これは、ナノ金属粒子添加剤が、過酷条件下(境界潤滑条件)で油膜が薄くなるような場合でも摺動部に介入しやすく、摺動部における摩擦摩耗面または摩耗により露出した鉄系金属新生面において該添加剤が反応し、被膜が生成すると考えられる。そして、この被膜が、潤滑油組成物またはグリース組成物の分解による水素の発生を抑制して、水素脆性による特異な剥離を防止でき、転がり軸受の寿命が延長するものと考えられる。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0023】
本発明の潤滑剤組成物の態様には、(1)基油と所定のナノ金属粒子添加剤とを必須構成とする潤滑油組成物と、(2)基油と増ちょう剤とナノ金属粒子添加剤とを必須構成とするグリース組成物との2種類がある。
【0024】
本発明の潤滑剤組成物は、鉄系金属と接触する環境下で使用される潤滑剤組成物である。鉄系金属としては、軸受部材材料などとして一般的に用いられる任意の材料が挙げられる。例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5等;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420等;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440C等;JIS G 4303)、高速度鋼(M50等)、冷間圧延鋼などが挙げられる。本発明の潤滑剤組成物は、このような鉄系金属材料からなる部材の摺動面での潤滑に供するものである。
【0025】
本発明の潤滑剤組成物は、基油と、添加剤として粒子径が1nm〜30nmである金属粉末(ナノ金属粒子添加剤)とを含む。本発明で使用可能な金属種は、遷移金属であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属等は好ましくない。金属種の具体例としては、金、銀、銅、イットリウム、ジルコニウム、イリジウム、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウムなどが挙げられる。これらの中でも、水素脆性による鉄系金属表面での剥離を防止でき、特に分散液の入手が容易であることから、金、銀、イリジウム、パラジウム、白金、ロジウム、およびルテニウムから選ばれる少なくとも1つの粉末を用いることが好ましい。
【0026】
本発明における金属粉末は、粒子径が上記範囲内であれば、これら金属の単体(純金属)、または、これを含む化合物であってもよい。また、上記の各金属粉末は、単独で、または、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
本発明の潤滑剤組成物は、上記金属粉末を分散させた分散液を、基油に配合して作製することが好ましい。各金属粉末は、本来、基油に対する親和性に乏しいが、分散液を利用することで、金属粉末が分散液中で分散剤に包み込まれた状態となって基油に対する親和性が向上する。この分散液を基油に配合することで、基油中でも、ナノメートルサイズの粒子径の金属粉末でありながら、分散状態を維持し得る。このように、予め、金属粉末を溶媒に分散させた分散液とすることで、ナノ金属粒子添加剤の凝集を防止でき、潤滑剤組成物中での金属粉末(粒子)の分散性に優れる。
【0028】
分散液の溶媒としては、金属粉末の分散に用いられる任意の溶媒を使用できる。例えば、水、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、トルエン、ベンジンなどが挙げられる。
【0029】
粒子径がシングルナノ程度の粒子では、粒子径がサブミクロン程度の粒子とは凝集分散特性が異なる。分散液中におけるナノ金属粒子添加剤の分散性を確保可能な分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドンや、(変性)ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0030】
分散液における金属濃度が高すぎると分散性確保が容易でなくなる。本発明においては、分散液の金属濃度は、1〜30mmol/Lが好ましく、5〜25mmol/Lがより好ましい。このような範囲であれば、分散液中での分散性に優れ、また、基油に配合した際にもその状態を維持し得る。さらに、上記濃度では、含まれる金属粉末の量としては微量であるが、摺動部に介入しやすいことから、この量であっても水素脆性による特異な剥離を防止し得る。
【0031】
本発明における分散液の最も好ましい態様としては、金属粉末として、金、銀、イリジウム、パラジウム、白金、ロジウム、またはルテニウムを用い、溶媒として水および/またはアルコールを用い、分散剤としてポリビニルピロリドンまたはポリエチレンイミンを用い、分散液の金属濃度を10〜20mmol/Lとする態様である。このような分散液の市販品としては、和光純薬工業社製の金属ナノ分散液が挙げられる。
【0032】
分散液の溶媒をアルコールや水とする場合、軸受内部に水分が残存することを避けるため、分散液を基油に配合後に、該溶媒のみを揮発させることが好ましい。基油に配合した後に揮発させるので、ナノ金属粒子添加剤の分散状態は維持される。揮発させる方法としては、加熱蒸発、真空蒸発などの任意の方法を採用できる。
【0033】
本発明の潤滑剤組成物を潤滑油組成物として使用する場合、分散液(10mmol/L)の配合割合は、潤滑剤組成物全体に対して1〜20重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。この範囲内であると、水素脆性による特異な剥離を防止できる。
【0034】
本発明の潤滑剤組成物をグリース組成物として使用する場合、分散液(10m〜20mol/L)の配合割合は、基油と増ちょう剤の合計量100重量部に対して1〜20重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。この範囲内であると、水素脆性による特異な剥離を防止できる。
【0035】
また、金属粉末自体の含有量は、潤滑剤組成物全体に対して、0.001〜5重量%であることが好ましく、0.001〜1重量%がより好ましく、0.001〜0.1重量%がさらに好ましく、0.001〜0.05重量%が特に好ましい。
【0036】
なお、各配合割合・含有量の好適範囲については、複数のナノ金属粒子添加剤を用いる場合には、それらを合わせた合計量を上記範囲内とする。
【0037】
本発明の潤滑剤組成物の基油としては、特に限定されず、通常の潤滑油/グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、高度精製鉱油、流動パラフィン油、ポリブテン油、フィッシャー・トロプシュ法により合成されたGTL油、PAO油、アルキルナフタレン油、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂、ポリオールエステル油、りん酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油等のエステル油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等が挙げられる。また、水−グリコール系作動油等の水溶性潤滑油が挙げられる。これらを単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明の潤滑剤組成物を潤滑油組成物として使用する場合、上記基油の中でも、鉱油、高度精製鉱油、および水溶性潤滑油から選ばれる少なくとも1つの油を用いることが好ましい。高度精製鉱油は、例えば、減圧蒸留の残油から得られるスラッグワックスを接触水素化熱分解し、合成することにより得られる。また、フィッシャー・トロプシュ法により合成されるGTL油などが挙げられる。高度精製油は、硫黄含有率が0.1重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.01重量%未満である。
【0039】
本発明の潤滑剤組成物をグリース組成物として使用する場合、上記基油の中でも、耐熱性と潤滑性に優れることから、アルキルジフェニルエーテル油およびPAO油から選ばれる少なくとも1つの油を用いることが好ましい。PAO油は、通常、α−オレフィンまたは異性化されたα−オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α−オレフィンの具体例としては、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラドコセン等を挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。
【0040】
本発明の潤滑剤組成物をグリース組成物として使用する場合、さらに増ちょう剤を含める。増ちょう剤としては、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物などの非石けん系増ちょう剤を使用できる。金属石けんとしては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けんなどが、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱耐久性に優れ、摺動部への介入性と付着性にも優れたウレア化合物の使用が好ましい。
【0041】
ウレア化合物は、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られる。ポリイソシアネート成分としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。また、モノアミン成分は、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミンおよび芳香族モノアミンを用いることができる。脂肪族モノアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。脂環族モノアミンとしては、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。芳香族モノアミンとしては、アニリン、p−トルイジンなどが挙げられる。これらのウレア化合物の中でも、上述の耐熱耐久性に特に優れることから、ポリイソシアネート成分として芳香族ジイソシアネートを用い、モノアミン成分として芳香族モノアミンを用いた、芳香族ウレア化合物の使用が特に好ましい。
【0042】
基油にウレア化合物などの増ちょう剤を配合して、上記のナノ金属粒子添加剤を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中で上記ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させて作製する。
【0043】
グリース組成物とする場合、ベースグリース100重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、1〜40重量部、好ましくは3〜25重量部である。増ちょう剤の含有量が1重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0044】
ナノ金属粒子添加剤の分散液を用いる場合、まず基油に分散液を配合し、この基油を用いて増ちょう剤を作成する方法、グリースを調整した後にこれに分散液を加える方法のいずれであってもよい。
【0045】
本発明の潤滑剤組成物は、必要に応じてナノ金属粒子添加剤以外の公知の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、多価アルコールエステルなどの防錆剤、有機モリブデンなどの摩擦低減剤、エステル、アルコールなどの油性剤、りん系化合物などの摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独で、または2種類以上組み合せて添加できる。
【0046】
本発明の潤滑剤組成物をグリース組成物として使用する場合、その混和ちょう度(JIS K 2220)は、200〜350の範囲にあることが好ましい。ちょう度が200未満である場合は、油分離が小さく潤滑不良となるおそれがある。一方、ちょう度が350をこえる場合は、グリースが軟質で軸受外に流出しやすくなり好ましくない。
【0047】
本発明の潤滑剤組成物封入軸受は、鉄系金属からなる軸受部材を備え、該軸受部材を潤滑する上記本発明の潤滑剤組成物が封入されてなる。本発明の潤滑剤組成物封入軸受について図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。潤滑剤組成物封入軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この転動体4は、保持器5により保持される。また、内・外輪の軸方向両端開口部8a、8bがシール部材6によりシールされ、少なくとも転動体4の周囲に本発明の潤滑剤組成物7が封入される。なお、内輪2および外輪3は鉄系金属である軸受鋼からなり、グリース組成物である潤滑剤組成物7が転動体4との転走面に介在して潤滑される。
【0048】
軸受として玉軸受について例示したが、本発明の潤滑剤組成物は、上記以外の円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などの転がり軸受、または、滑り軸受の封入組成物としても使用できる。
【0049】
本発明の潤滑剤組成物封入軸受は、上記潤滑剤組成物を封入しているので、転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を防止でき、高温高速下などの過酷な条件下でも軸受寿命が長寿命となる。このため、自動車電装・補機や、産業機器などのモータに用いる高温高速回転で使用される軸受として好適に使用できる。
【0050】
例えば、オルタネータ、コンプレッサ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ等の自動車電装・補機等の転がり軸受、換気扇用モータ、燃料電池用ブロアモータ、クリーナモータ、ファンモータ、サーボモータ、ステッピングモータなどの産業機械用モータ、自動車のスタータモータ、電動パワーステアリングモータ、ステアリング調整用チルトモータ、ブロワーモータ、ワイパーモータ、パワーウィンドウモータなどの電装機器用モータ、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータなどの転がり軸受として好適に使用できる。
【0051】
本発明の潤滑剤組成物封入軸受を適用したモータの一例を図2に示す。図2はモータの構造の断面図である。モータは、ジャケット9の内周壁に配置されたモータ用マグネットからなる固定子10と、回転軸11に固着された巻線12を巻回した回転子13と、回転軸11に固定された整流子14と、ジャケット9に支持されたエンドフレーム17に配置されたブラシホルダ15と、このブラシホルダ15内に収容されたブラシ16と、を備えている。上記回転軸11は、深溝玉軸受1と、該軸受1のための支持構造とにより、ジャケット9に回転自在に支持されている。該軸受1が本発明の潤滑剤組成物封入軸受である。
【0052】
モータ用の軸受としては、図1に示す深溝玉軸受のほか、アンギュラ玉軸受や上記列挙した各軸受も使用できる。これらの中で高速回転での回転精度、耐荷重性、低コストを備える、深溝玉軸受を用いることが好ましい。
【0053】
また、潤滑油組成物を封入した潤滑剤組成物封入軸受は、建設機械用の減速機や風力発電の増速機用の軸受として好適に利用できる。
【0054】
本発明の潤滑剤組成物封入軸受を適用した風力発電装置の増速機の一例を図3に示す。図3は、増速機の断面図である。増速機本体21は、入力軸22と出力軸23との間に、一次増速機となる遊星歯車機構26と、二次増速機27とを設けたものである。遊星歯車機構26は、入力軸22と一体のキャリア28に遊星歯車29を設置し、遊星歯車29を、内歯のリングギヤ30と太陽歯車31に噛み合わせ、太陽歯車31と一体の軸を中間出力軸32とするものである。二次増速機27は、中間出力軸32の回転を出力軸23に複数の歯車33〜36を介して伝達する歯車列からなる。遊星歯車29や、この遊星歯車29を支持する軸受鋼からなる転がり軸受37、リングギヤ30、二次増速機27の歯車33となる各部品が、ハウジング24内の潤滑油貯留槽24aの潤滑油25内に浸漬される。この潤滑油25が、本発明の潤滑剤組成物である。潤滑油貯留槽24aは、ポンプおよび配管からなる循環給油手段(図示せず)によって循環させられる。なお、循環給油手段は必ずしも設けなくてもよく、油浴潤滑形式としてもよい。
【0055】
このような増速機においても、各軸受・部品の転走面などで生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を長期にわたり防止できるので、増速機の長寿命化が図れる。この結果、風力発電装置のメンテナンス頻度を減少させることができる。
【実施例】
【0056】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0057】
実施例1〜実施例11、比較例1〜比較例9
表2および表3に示した基油の半量に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)を表1に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表2および表3のとおりである。MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100〜120℃で30分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させた。これに各添加剤を各表に示す配合割合で加えてさらに100℃〜120℃で10分間撹拌した。この加熱により、分散液の溶媒は揮発した。その後冷却し、三本ロールで均質化し、グリース組成物を得た。なお、表1に使用した分散液の構成を示し、表中「mM」は「mmol/L」を意味する。
【0058】
得られたグリース組成物について急加減速試験を行なった。試験方法および試験条件を以下に示す。また、結果を表2および表3に示す。
【0059】
<急加減速試験>
電装補機の一例であるオルタネータを模擬し、回転軸を支持する内輪回転の転がり軸受(内輪・外輪は軸受鋼)に上記グリース組成物を封入し、急加減速試験を行なった。急加減速試験条件は、120℃の雰囲気下、回転軸先端に取り付けたプーリに対する負荷荷重を1960N、回転速度は0rpm〜18000rpmで運転条件を設定し、さらに、試験軸受(6203)内に0.5Aの電流が流れる状態で試験を実施した。そして、軸受内に異常剥離が発生し、振動検出器の振動が設定値以上になって停止する時間(剥離発生寿命時間、h)を計測した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表2および表3に示すように、ナノ金属粒子添加剤を配合した各実施例は、比較例と対比して剥離発生寿命が大幅に延長できた。これは、転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を効果的に防止できたためであると考える。一方、比較例4〜9に示すように、銀粉末を用いる場合でもその粒子径がミクロンオーダーの場合は、これを含めない場合と比較して、剥離発生寿命を延長することができなかった。
【0064】
実施例12〜実施例15、比較例10〜比較例15
針状ころ軸受(内輪外径φ24mm、外輪内径φ32mm、幅20mm、コロφ4×16.8mm×14本)を、表4の示す組成の潤滑油組成物にて潤滑させて、寿命試験を行なった。寿命試験は、ラジアル荷重6.76kN、回転数3000rpm、500rpm、3000rpm、500rpmを順に繰り返す急加減速で、雰囲気温度100℃にて軸受を回転させ、転走面に剥離が発生する時間(離発生寿命時間、h)を測定した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
表4に示すように、ナノ金属粒子添加剤を配合した各実施例は、水を含む潤滑油組成物を用いた場合でも剥離発生寿命を延長できた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の潤滑剤組成物は、鉄系金属材料からなる転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を防止できるので、該潤滑剤組成物を封入した軸受は、オルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータなどの自動車電装部品・補機等に用いられる転がり軸受、産業機械用、電気自動車駆動用などのモータに用いられる転がり軸受、風力発電装置などの増速機や建設機械用の減速機に用いられる軸受として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 深溝玉軸受(潤滑剤組成物封入軸受)
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 潤滑剤組成物
8a、8b 開口部
9 ジャケット
10 固定子
11 回転軸
12 巻線
13 回転子
14 整流子
15 ブラシホルダ
16 ブラシ
17 エンドフレーム
21 増速機本体
22 入力軸
23 出力軸
24 ハウジング
25 潤滑油
26 遊星歯車機構
27 二次増速機
28 キャリア
29 遊星歯車
30 リングギヤ
31 太陽歯車
32 中間出力軸
33〜36 歯車
37 転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属と接触する環境下で使用される潤滑剤組成物であって、基油と、添加剤として粒子径が1nm〜30nmである金属粉末とを含むことを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記潤滑剤組成物は、前記金属粉末を分散させた分散液を、前記基油に配合してなることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記金属粉末が、金、銀、イリジウム、パラジウム、白金、ロジウム、およびルテニウムから選ばれる少なくとも1つの粉末であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記金属粉末は、前記潤滑剤組成物全体に対して、0.001〜0.05重量%含まれることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記潤滑剤組成物は、境界潤滑条件となる部位で使用されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記分散液の溶媒が、アルコールまたは水であることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記潤滑剤組成物は、前記分散液を前記基油に配合した後、前記溶媒を揮発させてなることを特徴とする請求項6記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記分散液の分散剤が、ポリビニルピロリドンまたはポリエチレンイミンであることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか1項記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
前記基油が、鉱油、高度精製鉱油、および水溶性潤滑油から選ばれる少なくとも1つの油であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
前記分散液の金属濃度が10mmol/Lであり、該分散液が前記潤滑剤組成物全体に対して1〜20重量%配合されることを特徴とする請求項2ないし請求項9のいずれか1項記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
前記潤滑剤組成物は、増ちょう剤を含むグリースであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
前記増ちょう剤が、ウレア系化合物であることを特徴とする請求項11記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
前記基油が、アルキルジフェニルエーテル油およびポリ−α−オレフィン油から選ばれる少なくとも1つの油であることを特徴とする請求項11または請求項12記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
鉄系金属からなる軸受部材を備え、該軸受部材を潤滑する潤滑剤組成物が封入されてなる潤滑剤組成物封入軸受であって、前記潤滑剤組成物が、請求項1ないし請求項13のいずれか1項記載の組成物であることを特徴とする潤滑剤組成物封入軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−67742(P2013−67742A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208242(P2011−208242)
【出願日】平成23年9月23日(2011.9.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】