説明

潤滑剤組成物及びこれを用いた潤滑システム

【課題】小型化、高速化によってよりシビアとなっている摺動部材における諸問題を解決するために、従来潤滑剤に使用されていなかった特定の酸化物を含有させ、摩耗を大幅に低減し、かつ低い摩擦係数を安定して示す潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、鉱油系、合成油系及び/又は動植物油系の潤滑油基油を含有する液状ないし半固体状の潤滑剤組成物において、平均粒径が100nm以下の酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、酸化銅(CuO)、及び酸化マンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を1〜30質量%含有する潤滑剤組成物であり、また該潤滑剤組成物を用いた潤滑システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の粒径を有する特定の酸化物を含有する潤滑剤組成物及びこれを用いた潤滑システムに関するものであり、摺動部における摩耗を大幅に低減し、潤滑不良を改善し、潤滑システムの信頼性を向上したものである。
【背景技術】
【0002】
多種多様な機械システム、例えば、精密機械、産業機械、輸送機械、測定機器などの摺動部は、絶えず摩擦を繰り返し摩耗が避けられない環境となっている。これらの摺動部において潤滑不良が生ずれば、潤滑システム、あるいはそれを含む機械システムは所望の働きができなくなってしまう。そのため、摺動部には各種の潤滑剤がその環境に応じて用いられていたり、摺動部を構成する部材自体に優れた潤滑性を有する材料が使用されていたり、もしくは優れた潤滑性を付与する表面処理を行うなど様々な対応が施されている。
【0003】
一般に使用されている潤滑剤としては液状の潤滑油、半固体状のグリースや最近開発された熱可逆性の常温でゲル状の潤滑剤などがある。このなかで、特にグリースでは固体潤滑剤を混合し耐摩耗性を向上させているケースがあり、一定の効果をあげている。固体潤滑剤としては二硫化モリブデン、グラファイト、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、BN(窒化ホウ素)が一般的であり、最近ではMCA(メラミンシアヌレート)も使われ始めている。いずれも、比較的柔らかい固体が潤滑剤として使われている。
しかし、昨今、機械システムの小型、高速化により摺動部における負荷が高まり、より耐摩耗性等潤滑性に優れる潤滑剤が求められている。
【0004】
潤滑剤の理想的な特性は、高速下においても、低速下においても摩擦損失が少なく、且つ、フレッティング摩耗等の摩耗が少ないことである。つまり、潤滑剤は、摩擦損失を少なくし、摩耗を軽減するものであることを要する。したがって、高速回転時等の接触面速度が速い時でも、低速で高トルクがかかる時でも摩擦損失が小さく、摩耗が少ないことが望まれる。
高速下における摩擦損失の低減には、基油自体の粘度を下げて対応する必要がある。しかし、基油の粘度を下げると、フレッティング等の摩耗に対して弱くなり、すなわち、摺動する金属同士等の母材間の接触が発生して摩耗を生ずる危険が増大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の小型化、高速化によってよりシビアとなっている摺動部材における諸問題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、従来潤滑剤に使用されていなかった特定の酸化物を含有させて、摩耗を大幅に低減し、かつ低い摩擦係数を安定して示す潤滑剤組成物を提供することを課題とする。また本発明は、かかる潤滑剤組成物を用いた潤滑システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、潤滑剤の性能を向上させ前記の課題を解決するため、様々な材料(酸化物)、及びその形態などについて調査、研究した結果、微細な粒径の硬い酸化物を、潤滑油あるいは半固体状潤滑剤に添加することにより潤滑性を大幅に向上出来ることを見出した。つまり、微細な粒径の酸化物粒子が母材表面の面粗さによる凹凸に入り、摺動表面状態の面粗さを埋めて、あたかも鏡面のような状態が形成され、鏡面でよく知られた現象の様に、摩耗が抑制される。さらに、面粗さによる凹凸に入り込んだ粒子のまわりに潤滑成分が保持されているので、摺動する金属等の母材間の接触が回避され、その結果、潤滑性を大幅に向上することができたと考えられる。かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は次のとおりの潤滑剤組成物及びこれを用いた潤滑システムである。
(1) 鉱油系、合成油系及び/又は動植物油系の潤滑油基油を含有する液状ないし半固体状の潤滑剤組成物において、平均粒径が100nm以下の酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、酸化銅(CuO)、及び酸化マンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を1〜30質量%含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
【0008】
(2) 酸化物が酸化亜鉛(ZnO)であって、その平均粒径が50nm以下である上記(1)に記載の潤滑剤組成物。
(3) 潤滑油基油の40℃における動粘度が100mm/s以下である上記(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(4) アミド化合物を含有し、半固体状である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
(5) ちょう度が90〜400の半固体状である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0009】
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の潤滑剤組成物を用いることを特徴とする潤滑システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑剤組成物によれば、微細な粒径の酸化物を含有するものであるから、摩耗が顕著に低減され、かつ摩擦係数も低く安定する特性を示す。したがって、本発明の潤滑剤組成物は、長期間の使用に好適であり、かつ低く安定した摩擦係数の特性から省エネルギーにも格別な効果を発揮するものと期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の潤滑剤組成物は、鉱油系、合成油系及び/又は動植物油系の潤滑油基油を含有する液状あるいは半固体状の潤滑剤組成物において、平均粒径が100nm以下の酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、酸化銅(CuO)、及び酸化マンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を1〜30質量%含有することを特徴とする。平均粒径が100nm以下の微粉末を含有することにより、潤滑剤の耐摩耗の効果が格段に向上する。
【0012】
〔潤滑剤〕
本発明の対象となる液状あるいは半固体状潤滑剤としては、摺動部に滴下し、塗布し、噴霧し、吹きつけて、あるいはふりかけで潤滑作用をもたらすために使用する潤滑剤であれば、どのような種類の潤滑剤にも適用することができる。具体的には、いわゆる常温でゲル状のグリースや熱可逆性ゲル状潤滑剤、さらに常温で液体である一般的な潤滑油が挙げられる。特に低粘度の基油を用いた潤滑剤に適用すると、その省エネルギーの効果は大きくなり、好ましい。
【0013】
〔液状潤滑剤〕
本発明で用いる液状の潤滑剤は、いわゆる潤滑油に代表される。潤滑油は、摺動部を潤滑し摩擦面の摩耗、焼付きを防ぐとともに冷却、異物の洗い流しを行うために使う液体であり、主な構成成分である潤滑油基油としては鉱油系、合成油系、動植物油系などがある。一般的には石油の比較的高沸点な留分より作られる鉱油系潤滑油が安価なこともあり、広く用いられている。合成油系の潤滑油基油としては、ポリ−α−オレフィン、アルキルベンゼン、エステル、エーテル、シリコーン、フッ素化油などが挙げられる。動植物油系の潤滑油基油としては、菜種油、大豆油などが挙げられる。通常、用途によりこれらの基油を適宜組み合わせ、用途ごとに要求される様々な性能をさらに付与するために各種の添加剤を適宜配合することにより製造されている。
【0014】
本発明において有効に用いることができる液状潤滑剤の好ましい物性値としては、基本である動粘度が40℃で8〜500mm/sであり、低温特性である流動点が−10℃以下、安全面から引火点が70℃以上であることが好ましい。
潤滑油は、機械や器具の摺動部にはくまなく使用されており、用途によりエンジン油、ギヤ油、作動油、タービン油、コンプレッサー油、軸受油等の潤滑油が広く使用されている。対象機器により適する動粘度が異なるが、一般的に、省エネルギーの観点からは抵抗が小さく、動力ロスの少ない低粘度のものが好ましい。しかし、低粘度の場合は油膜が薄くなり、摩耗の危険性が高まる。
したがって、低粘度で摩耗の少ない潤滑油ならば省エネルギーを図ることができると言える。特に40℃における動粘度が100mm/s以下の基油を幅広く使えるようにすることにより、摺動部におけるエネルギーロスの低減効果は極めて大きい。
【0015】
本発明の潤滑剤組成物は、平均粒径が100nm以下の微細な粒径を有する酸化物を均一に分散して含有している。このように微細な粒径を有する酸化物を含有した液状潤滑剤組成物(潤滑油)を摺動面に適用すると、摺動面における摩擦、摩耗が顕著に低減される。この詳細なメカニズムは明確ではないが、微細な粒径の酸化物を配合し、この微細粒子が基油に均一に混合し分散している状態で摺動面を被っていることから、粒子が摺動する材料の表面粗さの凹部の中に入り込み凹部を埋め、摺動部表面の凹凸を平坦化してあたかも面粗さの小さい鏡面と良く似た状態を形成して、摩擦を減じ、摩耗を抑制したものと推察される。
【0016】
低粘度基油は、一般的には蒸発しやすいが、酸化物の微細粒子とともに強固に表面に付着して粒子表面と摺動部の部材表面を被い残存し、かつ酸化物は化学的に安定で硬いのでその耐摩耗の効果は失われない。
また、平均粒径が100nm以下といった極めて微細な粒子は、いったん、潤滑油基油に均一に配合すると、沈降したり、粒子同士が凝集して不均一な濃度分布を形成したりすることなく、基油中に均一な濃度での分散を保持しており、長期間に亘って耐摩耗の効果を失わない。
【0017】
〔半固体状潤滑剤〕
本発明で用いる半固体状潤滑剤としては、潤滑油基油と金属せっけん、ウレア化合物などの増ちょう剤からなるグリース、及び潤滑油基油とアミド化合物などのゲル化剤からなるゲル状潤滑剤が挙げられる。
【0018】
〔グリース〕
グリースは潤滑油基油と増ちょう剤からなる半固体状の潤滑剤である。例えば金属せっけんを増ちょう剤とするグリースでは、常温では基油に溶解しにくい金属せっけんを200℃以上の高温で完全溶解し、これを常温まで冷却することにより数百から数千のせっけん分子が凝集してせっけんミセルを形成し、これらが繊維状に絡み合った網目構造を作る。この網目構造間に潤滑油基油が保持されて半固体状のグリースとなる。
【0019】
潤滑油基油としては、上記の液状潤滑剤に用いるものが使用できる。
増ちょう剤としては、一般には高級脂肪酸のリチウムせっけん、カルシウムせっけん、アルミニウムせっけんなどの金属せっけんが用いられる。高温使用の耐熱グリースの増ちょう剤にはウレア化合物や親油処理されたベントナイトなどの非せっけん基の増ちょう剤が用いられる。添加剤としては一般の潤滑油と同様に酸化防止剤、錆止め剤、極圧剤、油性剤、固体潤滑剤などが必要に応じ添加される。
【0020】
グリースは、JIS K2220に一般的な性状が規定されている。様々な用途の、かつ様々な種類のグリースが、基油の種類や、増ちょう剤の種類、及びそれらの配合量を選択、設定することによって製造される。グリースを選定する場合、基本となるのはグリースの硬さを表すちょう度である。グリースの性能は、一般的に使用している増ちょう剤の種類によって大きく支配される。ちょう度は、数値の中には粘性と塑性が組み合わさった形で含まれており、流動特性を総括的に把握するのに適しておりJIS K2220の7に定められている。混和ちょう度として一般的には85〜475の物が工業的に使われており、数字が大きいほど軟らかい。本発明に適用するグリースとしては、混和ちょう度が90以上の軟らかめの物が省エネルギーの観点から好ましい。
【0021】
グリースの用途としては各種の軸受等であり、自動車分野ではホイール軸受、等速ジョイント、鉄道分野では車軸軸受、分岐器、電機分野では各種モーター軸受、複写機軸受、鉄鋼分野では圧延機ロールネック軸受、連続鋳造設備、ロール軸受、その他産業機械の軸受等幅広い分野で使用されている。
微細粒径を有する添加物を配合、分散した本発明に基づいて調製されたグリースは、使用中、摺動部において高温に曝されて溶解しても、微細粒子が基油中に分離せず均一の濃度で良好な分散を維持することができる。このため、潤滑油の場合と同様に摩耗を大幅に低減することができる。
【0022】
〔ゲル状潤滑剤〕
ゲル状潤滑剤とは基油とアミド化合物などのゲル化剤から成る半固体状の潤滑剤であり、ゲル化剤の融点を超えると液体になり、融点以下だと半固体状となる熱可逆性の常温で半固体状の潤滑剤である。基油としてはグリースと同様に鉱油、各種合成油を用いることができる。グリースの増ちょう剤に相当するゲル化剤としてはモノアミド、ビスアミドなどのアミド化合物が使われている。融点としては40〜250℃の範囲が多く、90〜210℃のものが用途に応じて広く検討されている。添加剤としては潤滑油、グリースと同様な物が、必要に応じて使用される。物性値としてはグリースと同様に硬さを表すちょう度が基本となり、ちょう度が175以上の軟らかめの物が好ましい。
【0023】
グリースと比較したゲル状潤滑剤の特長としては、熱可逆性があり液状にして焼結軸受の細孔に入れ、冷却後の半固体状態で使用することができること、ゲル化剤自体が油性剤であり摩擦係数を大幅に下げること、付着力が強く薄膜状態でも油膜を長時間維持できることなどが挙げられる。また低温でのトルクが小さく、蒸発性を低く抑えられるなどの長所もある。用途はグリースが使われている分野と同じであるが、グリースでは特性が充分でない特殊な機器、部分、条件下で今後使われていくものと考えられている。
【0024】
本発明において、MoDTC、微細粒径を有する酸化物の添加は、摩擦係数を下げる効果があり、その相乗効果によって、これまでの摩擦係数よりも、より低くすることができる。また、ゲル化剤は、水の混合時でも、安定した摩擦係数を維持できる。よって、微細粒子が母材を覆い酸化等を抑制する効果が期待できることから、ゲル化剤を使用し、且つ、微細粒子を含有した潤滑剤は、水の含有が発生する状態でも、良好な特性を維持できる。
【0025】
〔微細粒径を有する酸化物〕
本発明の潤滑剤組成物は、平均粒径が100nm以下といった微細な粒子である特定の酸化物を1〜30質量%含有する。本発明において、酸化物としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、酸化銅(CuO)、及び酸化マンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種を用いる。
【0026】
通常摺動部に潤滑剤を作用させて金属等の母材間の接触を避けているが、本発明の潤滑剤組成物は、母材表面の面粗さにおける凹部に入るほど微細な粒径の硬い物質を含有することから、表面状態の面粗さが小さい鏡面である場合に、よく知られた現象の様な状況がつくられて、摩耗の発生が抑制され、摩擦が低減される。したがって、酸化物等は、摺動部の母材表面の面粗さによる凹凸の大きさよりも小さい平均粒径を有するものが好ましく、平均粒径50nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。フレッティング摩耗が起こりやすい高速な摺動部においても、母材表面の面粗さによる凹凸に入る程度の微細な粒径の硬い物質を添加することにより、金属等の母材間の接触が回避された状態となるから、摩耗が抑制される。したがって、当該摺動部に適用する潤滑剤組成物の低粘度化を進めることができ、その結果、摩擦損失の低減(省エネルギー)を図ることができる。
【0027】
本発明において微細粒子の酸化物は、化学的に安定で、物理的に硬さがあり潰れない。上記に例示した酸化物のなかでも、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化銅(CuO)が、微細な粒径なものを比較的安価に入手しやすいので好ましく。特に酸化亜鉛は粒径を50nm以下に選別し生産する技術は確立されている。また、球状や多面体等の形状のものが市販されている。したがって、最も、本用途に適する。
なお、平均粒径は、X線回折測定の結果を用いてシェラーの式から求める方法、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)から得た画像に基づいて個々の粒子を真円と仮定して求める方法などの方法を用いて求めることができる。本発明において、平均粒径は、TEM画像より定方向径を測定し,算術平均して求めた値である。
【0028】
よく知られた現象であるが、液体中に混合する粉体の径を小さくしていくと、粉体の比重に関係なく、ある粒径以下で永久に沈殿しない現象が現れる。そこで、その粒径以下の酸化物を潤滑油基油に混合すると、酸化物は均一に分散し沈殿せず存在する。この効果は、グリースに用いると、グリースとして存在し得ない温度に上昇しても、基油と粘ちょう剤の液状均一混合物中に酸化物は分離、凝集や沈殿せず均一な分散を維持することができる。当然、潤滑油に用いると基油中に分離、凝集、沈殿せず均一に分散し、長期間に亘ってその効果を失わない。
【0029】
酸化物は、潤滑剤組成物に1〜30質量%含有されるように配合する。好ましくは5〜20重量%である。1質量%未満では、酸化物の効果が得られず、一方、30質量%を超える量配合しても増量に見合う酸化物添加の効果が得られない。
【0030】
〔潤滑剤組成物の調製〕
本発明の潤滑剤組成物は、潤滑油、グリース及びゲル状潤滑剤などの潤滑剤に平均粒径が100nm以下の酸化物の微細粒子が均一に分散、含有されている状態で得られるのであれば、いかなる方法で調製してもかまわない。例えば、潤滑油(液状潤滑剤)に酸化物を含有させ本発明の潤滑剤組成物を調製する場合、所定量の酸化物の微細粒子を潤滑油に投入して撹拌すれば本発明の潤滑剤組成物を得ることができる。なお、微細粒子を配合すると、潤滑油の場合は粘度が高めになることがあるので、所期設定の粘度が得られるように、潤滑油の基材、添加剤等を適宜選択し、配合量を調整することも大切である。このようなことを考慮すると、潤滑油の基材と添加剤をブレンドするときに、酸化物の微粒子を添加剤の1種とみなして、同時にブレンドすると好都合であり、効率的である。
【0031】
グリースやゲル状潤滑剤である半固体状の潤滑剤に配合する場合は、半固体状では酸化物を均一に含有されるように配合することは、特殊なミキサーを用いれば可能であるが、取り扱いが面倒であり、効率的でもない。したがって、一旦液状ないし液体に近い状態に昇温して酸化物をブレンドすると比較的容易に本発明の潤滑剤組成物を得ることができる。このようにして、半固体状の潤滑剤であっても酸化物を均一に分散することにより、本発明の効果を享受することができる。また、潤滑油の場合と同様に、酸化物等の微細粒子を配合することによって、物性が変化することがあるので、所望の物性及び性能が得られるように、潤滑油基油、増ちょう剤、ゲル化剤、添加剤を適宜選択し、それらの配合量を調整することが好ましい。したがって、本発明の潤滑剤組成物として酸化物等を含有するグリースやゲル状潤滑剤を調製する場合、通常のグリースやゲル状潤滑剤を調製する段階で、上記潤滑油の場合と同様に、酸化物等の微細粒子を添加剤の1種とみなして、いったん潤滑油基油に均一に混合させ、場合によっては、その他の添加剤をも潤滑油基油に含有させた後、増ちょう剤ないしゲル化剤にこれらの融点以上の温度で混合することが効率的である。
【0032】
〔添加剤〕
本発明の潤滑剤組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、従来からグリース、ゲル状潤滑剤、潤滑油などに用いられている、アルカリ土類金属系清浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、清浄分散剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤などの添加剤を、より性能を向上させるために含有することができる。
【0033】
アルカリ土類金属系清浄剤としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属を含有するもので、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートなどが挙げられる。摩擦調整剤としては脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族イミド、アルコール、エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩など、摩耗防止剤としてはリン酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛など、極圧剤としては硫化オレフィン、硫化油脂など、分散剤としてはポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸エステルおよびそれぞれのホウ酸変性物など、酸化防止剤としてはアミン系、フェノール系の酸化防止剤など、金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾールなど、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたは部分エステルなど、消泡剤としてはシリコーン化合物、エステル系消泡剤などがそれぞれ挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例に基づいてより本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔潤滑油組成物の調製〕
次に示す潤滑油基油、ゲル化剤、添加剤及び酸化物を用いて実施例及び比較例の潤滑油組成物(ゲル状潤滑剤)を調製した。
(A)潤滑油基油:高度に精製した以下の鉱油を用いた。
(A1)VG22[動粘度(40℃):20mm/s、粘度指数:120]
(A2)VG68[動粘度(40℃):68mm/s、粘度指数:120]
(A3)VG100[動粘度(40℃):100mm/s、粘度指数:120]
(A4)VG460[動粘度(40℃):460mm/s、粘度指数:100]
(B)ゲル化剤:融点150℃、ビスアミド(炭素数18)
(C)添加剤:
(C1)P系EP剤:正リン酸エステル
(C2)SP系EP剤:チオリン酸エステル
(C3)S系EP剤:チアジアゾール
(C4)極圧剤:MoDTC
(C5)清浄分散剤:過塩基性Caスルホネート
(D)酸化物:
(D1)酸化亜鉛:ZnO(平均粒径=20nm)
(D2)酸化アルミニウム:Al(平均粒径=30nm)
(D3)酸化銅:CuO(平均粒径=45nm)
(D4)酸化鉄:Fe(赤錆、平均粒径=150nm)
【0036】
実施例および比較例で使用した潤滑油組成物を、上記A〜Dの各成分を用い、表1に示す配合割合(添加量は組成物全量基準での質量%)でブレンドして調製した。
VG22、68、100及び460の(A)潤滑油基油を投入した撹拌混合器(ホットプレートスターラー)に(B)ゲル化剤(ビスアミド)を加えて、150℃に昇温してゲル化剤を溶融し液体の状態で均一に混ざり合うまで撹拌した。そこに(C1)〜(C5)の添加剤と(D1)〜(D4)の酸化物を加えてさらに1時間撹拌した。その後、加熱と撹拌を停止し、そのまま放置して室温にまで降温し、実施例1〜5、7、8及び比較例1〜5の半固体状の潤滑剤組成物(ゲル状潤滑剤)を得た。またVG460の(A)潤滑油基油に(C4)、(C5)の添加剤及び(D1)の酸化物を加え、60℃にて1時間攪拌し、室温まで降温し、実施例6、比較例6の液状潤滑剤組成物(潤滑油)を得た。なお、(A)基油、(B)ゲル化剤、(C)の添加剤及び(D)の酸化物は、表1の上部に示す割合でそれぞれ配合した。
比較例7の市販グリースA(JOMOリゾニックスグリースNo.2)は、市販の高級仕様品のLiグリースであり、また、実施例9のグリースBは比較例7の市販グリースA、95質量部にD1の酸化亜鉛5質量部を攪拌混合機で均一に練り込んで得た半固体状の潤滑剤組成物(酸化物含有グリース)である。
【0037】
このようにして得た、実施例1〜9及び比較例1〜7の潤滑剤組成物それぞれについて、潤滑剤組成物としての性能(摩耗深さ、摩擦係数)を評価した。得られた測定・評価結果を表1下部に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
〔測定・評価方法〕
前記の測定及び評価は、次の方法により行った。
〔ちょう度〕
JIS K2220に従い、1/4ちょう度計にて不混和ちょう度を測定した。
〔フレッティング摩耗試験〕
シリンダー/ディスクタイプのSRV摩擦試験機を用いて、実施例1〜9及び比較例1〜7の潤滑剤組成物のディスク摩耗深さ及び摩擦係数を測定した。
ディスク摩耗深さは、荷重200N、周波数300Hz、温度25℃、及び振幅1.0mmの条件下で1時間、シリンダーでディスクに往復動摩擦を加えた結果、ディスクに生じた摩耗の深さを触針式表面粗さ計で測定して得た。
摩擦係数は、摩擦試験機にあらかじめ備えられている歪み計により測定した値である。
【0041】
表1に示す実施例の結果から、20〜45nm程度の微細な粒径を有する酸化物、特には酸化亜鉛をゲル状油やグリースに配合することにより摩耗痕深さを大幅に低減でき、かつ摩擦係数も低く安定していることが分かる。一方、150nmの酸化鉄は逆に摩耗を促進させ、かつ摩擦係数も大きくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系、合成油系及び/又は動植物油系の潤滑油基油を含有する液状ないし半固体状の潤滑剤組成物において、平均粒径が100nm以下の酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、酸化銅(CuO)、及び酸化マンガン(Mn)からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を1〜30質量%含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
酸化物が酸化亜鉛(ZnO)であって、その平均粒径が50nm以下である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
潤滑油基油の40℃における動粘度が100mm/s以下である請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
アミド化合物を含有し、半固体状である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
ちょう度が90〜400の半固体状である請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑剤組成物を用いることを特徴とする潤滑システム。


【公開番号】特開2009−179715(P2009−179715A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20056(P2008−20056)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】