説明

潤滑剤組成物及び流体軸受装置

【課題】使用環境下で粘度の変動が小さい潤滑剤組成物及びこの潤滑剤組成物を潤滑流体として含む流体軸受装置を提供する。
【解決手段】イオン液体を基油とし、かつ気液界面に疎水性の層を形成することのできる吸湿抑制剤を含む潤滑剤組成物は、疎水性の層によって空気中の水分を吸収しにくいので、粘度が変動しにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受装置等の装置に使用可能な潤滑剤組成物及び流体軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブの小型化及び高速化に伴い、ハードディスクドライブに搭載されるスピンドルモータには、回転速度の高速化、及びこの高速回転に耐え得る長寿命化が求められている。
【0003】
スピンドルモータ内の流体軸受装置には潤滑流体が使用されるが、この潤滑流体の特性がスピンドルモータの特性(剛性、電流値、及び寿命等)に影響を与える。例えば、潤滑流体の蒸発は、潤滑流体の減少を招き、スピンドルモータの特性を変化させる。そのため、上述の要求に応えるべく、潤滑流体の基油として汎用されてきたエステル油に代えて、イオン液体を用いることが提案されている(例えば特許文献1及び2)。
【特許文献1】特開2005−147394号公報
【特許文献2】特開2006−105207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のイオン液体の潤滑流体では、時間の経過により潤滑流体の粘度が急激に低下することを、本発明者らは見出した。このように潤滑流体の粘度が変動すると、スピンドルモータ等、この潤滑流体を用いる装置の特性も変動する。このように装置の特性が変動すると、装置の動作結果を一定に制御することが困難となる。
【0005】
本発明の課題は、粘度の変動が抑制された潤滑剤組成物及びこれを含む流体軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、潤滑流体の粘度の低下は空気中の水分を吸収することに起因するという新たな知見を得ると共に、潤滑流体の気液界面に疎水性の層を形成することによって潤滑流体の吸湿を抑制し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)基油としてのイオン液体と、気液界面に疎水性の層を形成する吸湿抑制剤と、を含む潤滑剤組成物;
(2)上記吸湿抑制剤は疎水性物質である上記(1)に記載の潤滑剤組成物;
(3)上記吸湿抑制剤は両親媒性物質である上記(1)又は(2)のいずれかに記載の潤滑剤組成物;
(4)上記吸湿抑制剤は上記イオン液体に不溶である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の潤滑剤組成物;
(5)上記吸湿抑制剤は上記イオン液体と密度が異なる上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物;及び
(6)軸受孔を有するスリーブと、上記軸受孔内に上記スリーブに対して相対的に回転するよう配置された軸と、上記スリーブと上記軸との間の隙間に充填された上記(1)〜(5)のいずれかに記載の潤滑剤組成物と、を備える流体軸受装置
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑剤組成物は、吸湿抑制剤を含有することによって、空気からの水分の吸収量が低減される。その結果、本発明の潤滑剤組成物は、粘度の変動が抑制される。また、本発明の流体軸受装置は、この潤滑剤組成物がスリーブと軸との間に配置されているので、潤滑剤組成物が潤滑流体として機能し、安定した特性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[1]潤滑剤組成物
(1-1)基油
本発明の潤滑剤組成物は、基油としてイオン液体を含む。
イオン液体とは、室温で液体であって、カチオン及びアニオンから構成されるイオン性の物質である。イオン液体は常温溶融塩とも呼ばれる。
【0010】
「基油」とは、潤滑剤組成物の主成分であり、潤滑剤組成物に潤滑性を付与する物質を意味する。したがって、一般的に、潤滑剤組成物全体における基油の含有量は、50重量%以上に設定される。特に、潤滑剤組成物全体における基油としてのイオン液体の含有量は、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上に設定可能である。
【0011】
上述したように、イオン液体は室温で液体であるが、より具体的には、融点が0℃以下のものが好ましい。なかでも、融点が0〜−60℃程度であるイオン液体が、より好ましい。融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。
【0012】
イオン液体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
イオン液体の組成、例えば、含有されるアニオン及びカチオン、並びに各イオンの濃度等は、特に限定されるものではない。カチオンとしては、例えば、イミダゾリウム系、ピラゾリウム系、ピロリジニウム系、ピリジニウム系、ピペリジニウム系、ホスホニウム系、スルホニウム系、及びアンモニウム系等を採用することができる。また、アニオンとしては、Cl-、Br-、I-、BF4-、PF6-、[SCN]-、[Cn2n+1SO3]-、[(Cn2n+1SO22N]-、[p−CH364SO2]-、[Cn2n+1SO3]-、[Cn2n+1OSO3]-、[Cn2n+1CO2]-、[Cn2n+1CO2]-、[N(CN)2-、[C(CN)3]-、及び[(Cn2n+12PO4]-等が挙げられる。
【0013】
また、イオン液体の親水性の高低、つまり疎水性の高低は、特に限定されるものではない。イオン液体の特性に応じて、後述の吸湿抑制剤は適宜選択される。
【0014】
(1-2)吸湿抑制剤
本発明の潤滑剤組成物は、吸湿抑制剤を含む。
【0015】
吸湿抑制剤は、潤滑剤組成物に含まれ、潤滑剤組成物の気液界面に疎水性の層を形成できる物質(化合物を含む)であればよい。この疎水性の層によって、イオン液体等の潤滑剤組成物の成分が空気中の水分を吸収(吸湿)することが抑制される。このように吸湿が抑制されるので、潤滑剤組成物が空気に触れる状態で長時間放置されたり、潤滑剤組成物の周囲の湿度が上昇したりしても、潤滑剤組成物の粘度の低下は効果的に抑制される。その結果、潤滑剤組成物が例えば後述の流体軸受装置に用いられた場合、流体軸受装置におけるトルクの変動が防止され、装置の特性が維持される。なお、潤滑剤組成物は、その気液界面に常に「層」が形成されていることを要しない。例えば、潤滑剤組成物の撹拌等によって、層を形成する疎水相が一時的に潤滑剤組成物内に分散することは容認される。
【0016】
吸湿抑制剤は、疎水性の層によって上述のような吸湿抑制効果を発揮でき、かつ、この吸湿抑制剤を含む潤滑剤組成物が、その機能、例えば後述の流体軸受装置の潤滑剤としての機能を発揮できるものであればよく、具体的な組成、潤滑剤組成物における含有量、及びイオン液体との量比等は、特に限定されるものではない。
【0017】
吸湿抑制剤として、具体的には、疎水性物質及び両親媒性物質が挙げられる。疎水性物質は、それ自体が全体として疎水性層を形成し得る。また、両親媒性物質は、その疎水基が疎水性層として機能し得る。両親媒性物質の疎水基及び疎水性物質の疎水性の程度は、潤滑剤組成物の吸湿を防止できる程度であればよい。
【0018】
疎水性物質としては、例えば、水に不溶な物質が好適に用いられ、より具体的には、パラフィン系化合物、オレフィン系化合物、環式飽和炭化水素系化合物、環式不飽和炭化水素化合物等の炭化水素、または、アルコール系化合物、エーテル系化合物、エステル系化合物、シリコン系化合物、フッ素系化合物、リン酸エステル系化合物等があげられる。
【0019】
両親媒性物質は、疎水基と親水基とを含む分子からなる物質である。両親媒性物質は、界面活性剤と言い換えてもよい。界面活性剤としては、具体的には、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が挙げられる。イオン性界面活性剤には、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;アミン塩型界面活性剤及び第4級アンモニウム塩型界面活性剤等のカチオン性界面活性剤;及びカルボン酸塩型界面活性剤等の両性界面活性剤が含まれる。非イオン性界面活性剤としては、具体的には、エステル型、エーテル型、エステル‐エーテル型等が挙げられる。その他、天然に存在する両親媒性物質の具体例としては、リン脂質、糖脂質等が挙げられる。
【0020】
吸湿抑制剤は、基油であるイオン液体に不溶であることが好ましい。吸湿抑制剤の疎水性部分と基油とが相分離を起こすことによって、疎水性の層が容易に形成されるためである。このようなイオン液体と吸湿抑制剤との組合せとして、例えば、親水性の高いイオン液体と、疎水性の高い吸湿抑制剤との組合せが挙げられる。また、イオン液体と吸湿抑制剤との化学種の違いによって、両者が相分離を起こす場合として、例えば、フッ素系のイオン液体とエステル系の吸湿抑制剤の組合せが挙げられる。ただし、イオン液体の各種物質に対する相溶性は、含まれるイオンの種類によって様々に調整することができる。
【0021】
また、吸湿抑制剤は、基油であるイオン液体と密度が異なることが好ましい。このように密度が異なることによって、吸湿抑制剤は、疎水性の層を容易に形成することができる。吸湿抑制剤の基油に対する密度の比、つまり比重は、基油と吸湿抑制剤とが分離可能な程度であればよく、特に限定されるものではない。すなわち、吸湿抑制剤と基油との密度の比は、潤滑剤組成物の用途、流体軸受装置に用いられる場合はその装置の構成等に応じて、適宜設定される。好ましくは、吸湿抑制剤は、基油よりも密度の低いものが選択される。これによって、疎水性の層が、特に潤滑剤組成物の保存中に気液界面に形成されやすくなるので、保存中の吸湿を効果的に抑制することができる。
【0022】
なお、たとえ吸湿抑制剤と基油との密度が同一であっても、吸湿抑制剤として添加された分子が凝集し、基油から分離することで、疎水性の層を形成することは可能である。
また、吸湿抑制剤として、以上に挙げた物質を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0023】
潤滑剤組成物全体における吸湿抑制剤の含有量は、吸湿抑制剤の種類、イオン液体の特性、潤滑剤組成物と大気の気液界面の面積等に応じて適宜設定されるが、例えば疎水性物質の場合は、0.01〜50重量%であり、好ましくは1〜30重量%であり、また両親媒性物質の場合は、0.01〜10重量%であり、好ましくは0.1〜5.0重量%である。
【0024】
(1-3)その他の成分
潤滑剤組成物は、さらなる添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、金属腐食防止剤、油性剤、極圧剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、泡消剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、導電性付与剤、および清浄分散剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の潤滑剤組成物において、上記添加剤の添加量は特に限定されるものではないが、例えば、潤滑剤組成物全体に対して、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下とすることができる。
【0026】
(1-4)潤滑剤組成物全体の特性
潤滑剤組成物は、低温(0℃以下)で液体であることが好ましい。つまり、潤滑剤組成物の融点及び凝固点は、例えば、0℃以下、さらには−20℃以下であることが好ましい。このように、融点が−20℃以下であれば、潤滑剤組成物が流体軸受装置に用いられたとき、低温環境下での軸受のトルクの急激な増加を防ぐことができる。
【0027】
(1-5)潤滑剤組成物の製造
本発明の潤滑剤組成物は、イオン液体、吸湿抑制剤、及びその他の添加剤を、慣用の方法により混合することで、製造することができる。
【0028】
[2]潤滑剤組成物の使用
上記[1]欄に述べた潤滑剤組成物は、各種装置の潤滑剤として広く用いることができる。特に、この潤滑剤組成物は、環境の変化にかかわらずその粘度が変化しにくいという特性を有するので、ハードディスクドライブ用スピンドルモータにおける流体軸受装置において、潤滑流体として好適に用いられる。
【0029】
(2-1)スピンドルモータ1
以下、潤滑剤組成物を使用する装置の一例として、スピンドルモータについて説明する。図1は本実施形態に係るスピンドルモータ1の断面図である。
【0030】
[スピンドルモータ1の構成]
本実施形態のスピンドルモータ1は、図1に示すように、円盤状の磁気記録ディスク151を回転駆動するための装置であって、主として、流体軸受装置10と、ベース18と、ステータコア19と、ロータマグネット20と、を備えている。
【0031】
流体軸受装置10は、ロータハブ15を含む回転側部材を、軸12を中心として、スリーブ11等の固定側部材に対して互いに非接触の状態でスムーズに回転させる。ロータハブ15には磁気記録ディスク151が搭載されているので、磁気記録ディスク151は軸12を中心として回転する。流体軸受装置10の構成については後述する。
【0032】
ベース18は、流体軸受装置10及びステータコア19の基台部分を形成している。そして、ベース18は、非磁性のアルミ系金属材料(例えば、ADC12)または磁性を有する鉄系金属材料(例えば、SPCC、SPCD)で形成されている。ベース18には、スリーブ11及びステータコア19が取り付けられている。
【0033】
ステータコア19は、ベース18に固定されており、その外周部がロータマグネット20の内周部に所定の隙間を保持して対向する位置に配置されている。ステータコア19は、外周に向かって複数の突極が形成されており、それらの突極にコイルがそれぞれ巻回されている。
【0034】
ロータマグネット20は、円環状の形状を有し、ロータハブ15の鍔部からの垂下円筒部の内周側の面に固定されており、コイルが巻回されたステータコア19とともに磁気回路を構成する。
【0035】
[流体軸受装置10の構成]
本実施形態に係る流体軸受装置10は、図2に示すように、スリーブ11と、軸12と、フランジ13と、スラスト板14と、ロータハブ15と、スリーブキャップ16と、潤滑流体17と、を備えている。
【0036】
スリーブ11は、軸受孔11aを有すると共に、軸受孔11aの開放端側と閉塞端側とを連通させる連通路11bを有している。
軸12は、スリーブ11の軸受孔11a内に、軸受孔11aの内周面と軸12の外周面との間に第1の隙間G1を形成するように、回転可能な状態で挿入されている。軸12の外周面、または、スリーブ11の軸受孔11a内周面の少なくとも一方には、動圧発生溝11c,11dが形成されている。軸12の下端部には、フランジ13が略直角に精度良く固定されている。
【0037】
フランジ13は、軸12の下端部に、軸12とフランジ13との成す角が略直角になるように、かつフランジ13の上端面がスリーブ11に対向するように配置される。また、フランジ13は、スリーブ11とフランジ13との間に隙間を形成するように配置され、この隙間は、上述の第1の隙間G1から連続している。
【0038】
さらに、フランジ13は、その下端面がスラスト板14に対向するように、かつ、フランジ13とスラスト板14との間に隙間を形成するように配置され、この隙間は、上述のスリーブ11とフランジ13との間の隙間から連続している。また、フランジ13とスラスト板14との間の隙間は、連通路11bまで連続している。
【0039】
スリーブ11のフランジ13との対向面及びフランジ13のスリーブ11との対向面の少なくとも一方には、動圧発生溝11eが形成されている。また、フランジ13のスラスト板14との対向面及びスラスト板14のフランジ13との対向面の少なくとも一方には、動圧発生溝14aが形成されている。動圧発生溝11e及び14aは、いずれか一方のみ設けられていてもよい。
【0040】
ロータハブ15には、ステータコア19に対向する位置に後述するロータマグネット20が固定されるとともに、必要に応じて磁気ディスクまたは光ディスク等の磁気記録ディスク151が取り付けられる。ロータハブ15は、スリーブ11に向かって突出するボス部15aを備えている。
【0041】
スリーブキャップ16は、中央孔16aを有しており、スリーブ11の上端面に対して固定されている。スリーブキャップ16は、スリーブ11の上面との間に第2の隙間G2を形成するように配置される。第2の隙間G2は、第1の隙間G1から連通路11bまで連続している。上述のボス部15a及び軸12は、その外周面が中央孔16aの内周面と対向し、かつ、これらの外周面と中央孔16aの内周面との間に第3の隙間G3を形成するように配置される。第3の隙間G3は、第1の隙間G1及び第2の隙間と通じている。第3の隙間G3は大気に開放されているが、潤滑流体17は自身の表面張力によって流体軸受装置10内に保持される。
【0042】
潤滑流体17は、図2に示す第1〜第3の隙間G1〜G3を含む軸受隙間内に充填されている。そして、軸12を含む回転側部材の回転が開始されると、潤滑流体17は、動圧発生溝11c,11d,11e等に流入して動圧を発生させるとともに、ラジアル側の動圧発生溝11c,11dが非対称に形成されていることで循環力が生じて、図中矢印方向に沿って流体軸受装置10内を循環する。
【0043】
この潤滑流体17としては、上記[1]欄の潤滑剤組成物が用いられる。潤滑流体17内の吸湿抑制剤は気液界面で疎水性の層を形成することで、第3の隙間G3において、潤滑流体17、特に基油であるイオン液体が大気中の水分を吸収することを抑制できる。その結果、潤滑流体17の粘度の変動は小さく抑えられるので、流体軸受装置10では、長期間に渡って、軸12の回転トルクが一定に保たれる。
【0044】
(2-2)スピンドルモータ1の動作
図1に示すように、ステータコア19が通電されることで、ロータマグネット20とステータコア19との間に回転磁界が発生して、ロータマグネット20が、軸12、フランジ13、及びロータハブ15と共に回転を開始する。軸12が回転を始めると、動圧発生溝11c〜11e及び14aに潤滑流体17が集まることで、軸12は潤滑流体17中に浮上した状態で、スリーブ11に対して非接触回転する。潤滑流体17は、連通路11bと隙間G1及びG2との間を循環する。
【0045】
以上の説明から明らかなように、スリーブ11は固定側部材であり、軸12及びフランジ13は回転側部材である。
【0046】
(2-3)磁気記録再生装置
上述のスピンドルモータ1は、磁気記録再生装置に適用可能である。図3は、本実施形態に係る磁気記録再生装置150の構成を示す断面図である。
【0047】
図3に示すように、磁気記録再生装置150は、スピンドルモータ1と、記録ディスク151と、記録ヘッド152と、を備える。
磁気記録ディスク151は、ロータハブ15のディスク載置部上に載置され、例えば、図示しない軸方向にバネ性を有する円盤状のクランパ等を図示しないタッピングネジにセットし、軸12の中央部に設けられたネジタップ部にタッピングネジをねじ込むことにより、軸方向下側に押え付けられて、クランパとロータハブ15のディスク載置部との間に狭持される。
【0048】
記録ヘッド152は、磁気記録ディスク151上の情報を読み出したり、情報を書き込んだりするようになっている。なお、記録ヘッド152は、読み出し及び書込みの少なくとも一方が可能となっていればよい。
【0049】
この他に、磁気記録再生装置150は、記録ヘッド152を支えるアーム、アームを移動させることによって、記録ヘッド152を磁気記録ディスク151の所定の位置に配置するアーム駆動部等を備える。
【0050】
[3]他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
(A)
上記実施形態では、軸12に対してフランジ13が取り付けられた、いわゆるフランジタイプの流体軸受装置10を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図2において、軸12に対してフランジ13がなく、軸12の下端面が軸受面であるいわゆるフランジレスタイプの流体軸受装置に本発明を適用してもよい。
【0052】
(B)
上記実施形態では、軸12やロータハブ15を含む回転側部材が、スリーブ11を含む固定側部材に対して回転する軸回転型の流体軸受装置10を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
例えば、軸を含む固定側部材に対して、スリーブやロータハブ等を含む回転側部材が回転する軸固定型の流体軸受装置に対して、本発明の一実施形態に係る潤滑流体を充填してもよい。
【0054】
(C)
上記実施形態では、スリーブ11に形成された連通路11bを含む循環経路に沿って潤滑流体17を循環させる流体軸受装置10の構成を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、スリーブに連通路を持たない非循環型の流体軸受装置に対して、本発明の一実施形態に係る潤滑流体を充填してもよい。
【0055】
(D)
また、流体軸受装置およびスピンドルモータは、記録ヘッド152によって記録ディスクに情報を記録する/再生する磁気記録再生装置に適用可能であるが、この他にも、光ディスク等の記録再生装置に対して搭載してもよい。
【0056】
さらには、情報処理装置として、CPUに搭載される冷却ファンを回転させるスピンドルモータに含まれる流体軸受装置に本発明を適用してもよい。
【実施例】
【0057】
以下、潤滑剤組成物について、実施例を挙げてより具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例では、イオン液体としてEMI・SCN(1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム チオシアネート)を、吸湿抑制剤として新日鐵化学製のシンフルード401(商標)を用いた。EMI・SCNは親水性を有し、シンフルード401はポリαオレフィンであり、疎水性を有する。シンフルード401はEMI・SCNに不溶であり、密度はEMI・SCNより低い。
【0058】
イオン液体2mlと吸湿抑制剤0.5mlとを混合した試料をガラス瓶に入れ、25℃、湿度約60%RHにおいて蓋を開けた状態で放置し、0時間、24時間、48時間、及び72時間経過後に試料の粘度を測定した。
【0059】
なお、粘度は株式会社トキメック製のE型粘度計を用いて20℃で測定を行った。
放置時間0時間の試料の粘度に対する各試料の粘度の比を、0時間の試料の粘度を100%とする百分率として算出した。結果を表1及び図4に実線(三角)で示す。
【0060】
(実施例2)
本実施例では、吸湿抑制剤をDOS(セバシン酸ジオクチル)とした以外は、実施例1と同様の条件で試料を作製し、粘度を測定すると共に比を算出した。DOSは疎水性を有し、EMI・SCNに不溶であって、密度はEMI・SCNより低い。
本実施例の結果を表1及び図4に長破線(四角)で示す。
【0061】
(比較例1)
比較例1では、吸湿抑制剤を加えずに、イオン液体2.5mlを用いた以外、実施例1と同様の操作を行った。粘度の変化結果を表1及び図4に短破線(白丸)で示す。
【0062】
【表1】

図4及び表1に示すように、吸湿抑制剤を加えなかった比較例1では、試料の粘度は72時間で58%程度低下した。これはイオン液体が吸湿したことで、試料内の水分量が増大したことに起因すると考えられる。
【0063】
これに対して、実施例1では、イオン液体に吸湿抑制剤を加えることによって、粘度の低下率が15%に抑えられた。これは、比較例1の低下率の約1/4であった。
また、実施例2では、粘度の低下率が30%程度に抑えられた。これは、比較例1の低下率の約1/2であった。
【0064】
なお、実施例1、実施例2、及び比較例1の放置時間72時間後の試料を、120℃1時間処理し測定した粘度は、いずれの試料においても放置時間0時間の値と同じであり、水分の影響があったことを確認した。
以上のように、吸湿抑制剤によるイオン液体の粘度の低下防止効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の潤滑剤組成物は、粘度が変動しにくいので、ハードディスクドライブ用スピンドルモータにおける流体軸受装置等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係るスピンドルモータの断面図。
【図2】上記スピンドルモータに搭載された流体軸受装置の構成を示す部分拡大断面図。
【図3】上記流体軸受装置を搭載した磁気記録再生装置の構成を示す断面図。
【図4】本発明の実施例1及び2並びに比較例1に係る潤滑剤組成物について、粘度の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0067】
1 スピンドルモータ
10 流体軸受装置
11 スリーブ
11a 軸受孔
11b 連通路
11c,11d,11e 動圧発生溝
12 軸
13 フランジ
14 スラスト板
14a 動圧発生溝
15 ロータハブ
16 スリーブキャップ
16a 中央孔
17 潤滑流体
18 ベース
19 ステータコア
20 ロータマグネット
150 磁気記録再生装置
151 磁気記録ディスク
152 記録ヘッド
G1〜G3 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油としてのイオン液体と、
気液界面に疎水性の層を形成する吸湿抑制剤と、
を含む潤滑剤組成物。
【請求項2】
上記吸湿抑制剤は疎水性物質である
請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
上記吸湿抑制剤は両親媒性物質である
請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
上記吸湿抑制剤は上記イオン液体に不溶である
請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
上記吸湿抑制剤は上記イオン液体と密度が異なる
請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
軸受孔を有するスリーブと、
上記軸受孔内に上記スリーブに対して相対的に回転するよう配置された軸と、
上記スリーブと上記軸との間の隙間に配置された請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物と、
を備える流体軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−155885(P2010−155885A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334103(P2008−334103)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】