潤滑剤組成物及び転がり軸受
【課題】高温環境で使用されても、せん断力が加えられると容易に油状となり、せん断が加わらない状態では、ゲル化剤によるネットワークが速やかに再形成されてゲル状となる潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入してなり、低トルクで、耐焼付き性に優れた長寿命の転がり軸受を提供する。
【解決手段】基油と、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤と、無機系粒子とを含有することを特徴とする潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【解決手段】基油と、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤と、無機系粒子とを含有することを特徴とする潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化剤を含有する潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入した転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
各種装置の回転支持部には潤滑剤組成物が適用されているが、ゲル化剤を含有することで適用箇所における保持性を付与したものが知られている。例えば、特許文献1には、グリース増ちょう剤と、極少量で有機液体を固化させる能力を持つゲル化剤を併用して増ちょうされたグリース組成物が記載されている。この特許文献1のグリース組成物では、増ちょう剤とゲル化剤を併用することで、せん断や熱による流動性が良好となるとともに、せん断や熱を取り除くと再硬化するためグリースの流出が防止できる効果を有する。また、ゲル化剤を併用する分だけ増ちょう剤の添加量を低減できるため、攪拌により生じる発熱が抑制されて、潤滑剤の熱劣化が防止されることで、軸受に適用した場合には低トルクで、寿命を長くできる効果を有する。
【0003】
また、特許文献2には、コンピュータのHDDや携帯電話等の精密機器の潤滑に有用な潤滑剤組成物として、液晶性化合物とゲル化剤を含有する半固形状潤滑剤組成物が記載されている。この特許文献2の潤滑剤組成物は、静的条件下では流動性を制御し、動的条件下(例えば摺動部)ではせん断により容易に流動して潤滑に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−219297号公報
【特許文献2】特開2005−139398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のゲル化剤を含有する潤滑剤組成物は、高温環境ではゲル化剤の凝集体が形成されて軟化し、そこへせん断力が加わると油状には流動するものの、せん断を停止したときにゲル化剤によるネットワーク(網目構造)が再形成され難くなる。
【0006】
そこで本発明は、高温環境で使用されても、せん断力が加えられると容易に油状となり、せん断が加わらない状態では、ゲル化剤によるネットワークが速やかに再形成されてゲル状となる潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入してなり、低トルクで、耐焼付き性に優れた長寿命の転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は下記の潤滑剤組成物を提供する。
(1)基油と、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤と、無機系粒子とを含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
(2)前記無機系粒子のBET比表面積が300m2/g以上であることを特徴とする上記(1)記載の潤滑剤組成物。
(3)内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に保持するとともに、上記(1)または(2)記載の潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑剤組成物は、アミノ酸系ゲル化剤またはベンジリデンソルビトール誘導体からなるゲル化剤を含有することにより、せん断力が加えられると容易に油状となり、せん断が加わらない状態では、ゲル化剤間に水素結合力が生じやすいため、ゲル化剤によるネットワークが速やかに再形成されてゲル状となる。
【0009】
また、無機系粒子がゲル化剤の間に介在するため、高温環境下でのゲル化剤の凝集が抑制される。そして、せん断力が加えられることにより油状に流動しても、ゲル化剤が凝集していないため速やかにゲル化剤のネットワークが形成され、粘性の回復性が低下することがない。
【0010】
このように、高温環境下でも粘性の回復性に優れ、良好な潤滑状態を長期間維持することができる。
【0011】
そのため、本発明の潤滑剤組成物を封入した本発明の転がり軸受は、低トルクで、耐焼付き性に優れ、長寿命となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。
【図2】無機系粒子のBET比表面積と粘性回復率との関係を示すグラフである。
【図3】無機系粒子のBET比表面積と相対焼付寿命との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0014】
〔ゲル化剤〕
本発明の潤滑剤組成物では、ゲル化剤としてアミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種を用いる。好ましくは、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体の両方を併用する。これらゲル化剤は、ゲル化剤間に水素結合が生じやすい化学構造を有しているために、ゲル化剤によるネットワーク)が形成されやく、少ない量でゲル状にすることができる。具体的には、ゲル化剤の含有量は、潤滑剤組成物全量の2〜8質量%にすることができ、より好ましくは3〜6質量%である。ゲル化剤の含有量が2質量%未満では、初期から柔らかすぎて適用箇所から漏洩しやすくなる。8質量%を超える場合は、初期ちょう度が硬くなりすぎてハンドリング性が悪くなるとともに、せん断力を加えても油状に流動せず潤滑性も悪くなる。
【0015】
また、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを併用する場合、配合比をアミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール誘導体=20〜80:80〜20(質量比)にすることが好ましく、40〜60:60〜40(質量比)とすることがより好ましい。上記の配合比から外れると、併用することによる相乗効果が低くなり、粘性の回復性の向上度合が低下する。
【0016】
アミノ酸系ゲル化剤としては、例えばN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドおよびN−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミドが好適である。
【0017】
ベンジリデンソルビトール誘導体からなるゲル化剤としては、例えばジベンジリデンソルビトール、ジトリリデンソルビトール及び非対称のジアルキルベンジリデンソルビトールが好適である。
【0018】
〔無機系粒子〕
本発明では、上記ゲル化剤の高温での凝集を抑制するために無機系粒子を配合する。無機系粒子は、ゲル化剤の凝集をより効果的に抑制するために、BET比表面積で300m2/g以上であることが好ましく、500m2/g以上であることがより好ましい。従って、無機系粒子は、このようなBET比表面積を持つものであれば制限はないが、例えばケッチェンブラック等のカーボンブラック、アルミナ、シリカ、ゼオライト等が好適であり、中でもケッチェンブラック及びゼオライトが好ましい。また、無機系粒子は2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、無機系粒子の含有量は、潤滑剤組成物全量の0.5〜5質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。無機系粒子の含有量が0.5質量%未満では、高温でのゲル化剤の凝集を抑制する効果が十分に得られない。5質量%を超える場合は、初期ちょう度が硬くなりすぎてハンドリング性が悪くなるとともに、せん断力を加えても油状に流動せず潤滑性も悪くなる。
【0020】
〔基油〕
潤滑剤組成物を構成する基油は特に限定されず、通常の潤滑剤組成物の基油として使用されている油(鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑油)のいずれであってもよい。具体的に、鉱油系基油としては、鉱油を、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが使用できる。合成油系基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が使用できる。天然油系基油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油、またはこれらの水素化物が使用できる。
【0021】
潤滑剤組成物には、各種性能を向上させる目的で、種々の添加剤を混合してもよい。添加剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛等の酸化防止剤、スルフォン酸金属塩、エステル系、アミン系、ナフテン酸金属塩、コハク酸誘導体等の防錆剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸、動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等が挙げられる。これらの添加剤を単独で、または2種以上混合して用いることができる。尚、これら添加剤は、本発明の目的を損なわない範囲の量で添加できる。
【0022】
〔製造方法〕
潤滑剤組成物を製造するには、例えば、必要に応じて添加剤を添加した基油に、ゲル化剤と無機系粒子を所定量配合し、ゲル化剤が溶解するように加熱撹拌して液状物を得る。この液状物を、予め水冷した金属製バットに流し込み、流水で冷却してゲル状物を得る。そして、このゲル状物を3本ロールミルにて混練することにより、潤滑剤組成物が得られる。
【0023】
尚、本発明の潤滑剤組成物は各種装置の回転支持部に適用できるが、例えば転がり軸受や、リニアガイド装置、ボールねじ等に封入することができ、高温耐久性を向上させることができる。また、極く弱いせん断でも油状となることから、低トルクを実現でき、更にはトルクを早期に安定化することができる。
【0024】
例えば、図1は、本発明の転がり軸受の一例である玉軸受1を示す断面図であるが、内輪10と外輪11との間に、保持器12により複数の玉13を転動自在に保持し、更に内輪10、外輪11及び玉13で形成される軸受空間Sに、上記の潤滑剤組成物(図示せず)を充填し、シール14,14で封止して構成される。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に説明する。
【0026】
〔試験1〕
(実施例1)
40℃での動粘度が33mm2 /sのポリオールエステル94gに、ジベンジリデンソルビトール2gと、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド2gと、ケッチェンブラック2gを配合し、ジベンジリデンソルビトール及びN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドが完全に溶解するまで加熱撹拌して潤滑剤組成物からなる液状物を得た。この液状物を、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを流水で冷却することでゲル状物を得た。そして、ゲル状物を3本ロールミルにかけて実施例1のサンプルを得た。また、サンプルの初期不混和ちょう度を測定した。
【0027】
(実施例2〜4及び比較例1.2)
表1に示す基油、ゲル化剤及び無機系粒子を用い、実施例1と同じ方法にて実施例2〜4及び比較例1、2のサンプルを得た。また、各サンプルの初期不混和ちょう度を測定した。
【0028】
実施例1〜4及び比較例1、2のサンプルについて、下記の耐久性試験験を行った。結果を表1に併記する。
(1)高温放置試験
各サンプル10gをステンレスシャーレに入れ、150℃に加熱された恒温槽中で100時間放置した後に取り出し、冷却後に不混和ちょう度を測定した。そして、初期不混和ちょう度と比較することで、高温における安定性を評価した。初期不混和ちょう度との差が小さいほど、高温安定性に優れるといえる。
(2)流動−復元可逆性試験
高温放置試験後のサンプルの不混和ちょう度(高温初期不混和ちょう度)を測定した。また、サンプルを自転−公転式撹拌機に入れ、自転1370r/min、公転1370r/min、3分間の条件にてせん断力を付与し、不混和ちょう度(せん断付与直後の不混和ちょう度)を測定した。また、せん断付与後のサンプルを、40℃で3時間放置して不混和ちょう度(放置後の不混和ちょう度)を測定した。そして、下記式より粘性回復率を算出した。この粘性回復率が高いほど、流動−復元可逆性に優れるといえる。
【0029】
【数1】
【0030】
【表1】
【0031】
また、実施例1〜4及び比較例1、2の結果を基に、無機系粒子のBET比表面積と粘性回復率との関係をグラフ化したものを図2に示した。
【0032】
上記の結果から、ゲル化剤とともにBET比表面積が300m2/g以上の無機系粒子を配合することにより、高温での安定性及び粘性回復率が高まることがわかる。
【0033】
〔試験2〕
(実施例5〜8及び比較例3〜5)
表2に示す基油、ゲル化剤または増ちょう剤及び無機系粒子を用い、試験1と同じ方法にて実施例5〜8及び比較例3〜5のサンプルを得た。
【0034】
実施例5〜8及び比較例3〜5のサンプルについて、下記の軸受試験を行った。結果を表2に併記する。
(3)軸受トルク試験
日本精工(株)製の深溝玉軸受「6305」(内径25mm、外径62mm、幅17mm、非接触式ゴムシ−ル)にサンプルを封入して試験軸受を作製した。そして、アキシアル荷重98N、ラジアル荷重29.4N、室温にて試験軸受を3000min−1にて回転させ、回転開始後1200秒〜1800秒の間の平均トルク値を求めた。結果は、比較例3の平均トルク値を1とする相対値で示している。
(4)軸受焼付き試験
日本精工(株)製の深溝玉軸受「6305」(内径25mm、外径62mm、幅17mm、非接触式ゴムシ−ル)にサンプルを封入して試験軸受を作製した。そして、アキシアル荷重98N、ラジアル荷重98N、雰囲気温度140℃にて試験軸受を5000min−1にて回転させ、焼付きに至るまでの時間(焼付寿命)を求めた。結果は、比較例3の焼付寿命を1とする相対値で示している。
【0035】
【表2】
【0036】
また、実施例5〜8及び比較例3〜5の結果を基に、無機系粒子のBET比表面積と相対焼付寿命との関係をグラフ化したものを図3に示した。
【0037】
上記の結果から、ゲル化剤とともにBET比表面積が300m2/g以上の無機系粒子を含有する潤滑剤組成物を封入することにより、低トルクで、耐焼付き性に優れ長寿命の転がり軸受が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0038】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 保持器
13 玉
14 シール
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化剤を含有する潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入した転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
各種装置の回転支持部には潤滑剤組成物が適用されているが、ゲル化剤を含有することで適用箇所における保持性を付与したものが知られている。例えば、特許文献1には、グリース増ちょう剤と、極少量で有機液体を固化させる能力を持つゲル化剤を併用して増ちょうされたグリース組成物が記載されている。この特許文献1のグリース組成物では、増ちょう剤とゲル化剤を併用することで、せん断や熱による流動性が良好となるとともに、せん断や熱を取り除くと再硬化するためグリースの流出が防止できる効果を有する。また、ゲル化剤を併用する分だけ増ちょう剤の添加量を低減できるため、攪拌により生じる発熱が抑制されて、潤滑剤の熱劣化が防止されることで、軸受に適用した場合には低トルクで、寿命を長くできる効果を有する。
【0003】
また、特許文献2には、コンピュータのHDDや携帯電話等の精密機器の潤滑に有用な潤滑剤組成物として、液晶性化合物とゲル化剤を含有する半固形状潤滑剤組成物が記載されている。この特許文献2の潤滑剤組成物は、静的条件下では流動性を制御し、動的条件下(例えば摺動部)ではせん断により容易に流動して潤滑に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−219297号公報
【特許文献2】特開2005−139398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のゲル化剤を含有する潤滑剤組成物は、高温環境ではゲル化剤の凝集体が形成されて軟化し、そこへせん断力が加わると油状には流動するものの、せん断を停止したときにゲル化剤によるネットワーク(網目構造)が再形成され難くなる。
【0006】
そこで本発明は、高温環境で使用されても、せん断力が加えられると容易に油状となり、せん断が加わらない状態では、ゲル化剤によるネットワークが速やかに再形成されてゲル状となる潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入してなり、低トルクで、耐焼付き性に優れた長寿命の転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は下記の潤滑剤組成物を提供する。
(1)基油と、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤と、無機系粒子とを含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
(2)前記無機系粒子のBET比表面積が300m2/g以上であることを特徴とする上記(1)記載の潤滑剤組成物。
(3)内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に保持するとともに、上記(1)または(2)記載の潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑剤組成物は、アミノ酸系ゲル化剤またはベンジリデンソルビトール誘導体からなるゲル化剤を含有することにより、せん断力が加えられると容易に油状となり、せん断が加わらない状態では、ゲル化剤間に水素結合力が生じやすいため、ゲル化剤によるネットワークが速やかに再形成されてゲル状となる。
【0009】
また、無機系粒子がゲル化剤の間に介在するため、高温環境下でのゲル化剤の凝集が抑制される。そして、せん断力が加えられることにより油状に流動しても、ゲル化剤が凝集していないため速やかにゲル化剤のネットワークが形成され、粘性の回復性が低下することがない。
【0010】
このように、高温環境下でも粘性の回復性に優れ、良好な潤滑状態を長期間維持することができる。
【0011】
そのため、本発明の潤滑剤組成物を封入した本発明の転がり軸受は、低トルクで、耐焼付き性に優れ、長寿命となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。
【図2】無機系粒子のBET比表面積と粘性回復率との関係を示すグラフである。
【図3】無機系粒子のBET比表面積と相対焼付寿命との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0014】
〔ゲル化剤〕
本発明の潤滑剤組成物では、ゲル化剤としてアミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種を用いる。好ましくは、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体の両方を併用する。これらゲル化剤は、ゲル化剤間に水素結合が生じやすい化学構造を有しているために、ゲル化剤によるネットワーク)が形成されやく、少ない量でゲル状にすることができる。具体的には、ゲル化剤の含有量は、潤滑剤組成物全量の2〜8質量%にすることができ、より好ましくは3〜6質量%である。ゲル化剤の含有量が2質量%未満では、初期から柔らかすぎて適用箇所から漏洩しやすくなる。8質量%を超える場合は、初期ちょう度が硬くなりすぎてハンドリング性が悪くなるとともに、せん断力を加えても油状に流動せず潤滑性も悪くなる。
【0015】
また、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを併用する場合、配合比をアミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール誘導体=20〜80:80〜20(質量比)にすることが好ましく、40〜60:60〜40(質量比)とすることがより好ましい。上記の配合比から外れると、併用することによる相乗効果が低くなり、粘性の回復性の向上度合が低下する。
【0016】
アミノ酸系ゲル化剤としては、例えばN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドおよびN−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミドが好適である。
【0017】
ベンジリデンソルビトール誘導体からなるゲル化剤としては、例えばジベンジリデンソルビトール、ジトリリデンソルビトール及び非対称のジアルキルベンジリデンソルビトールが好適である。
【0018】
〔無機系粒子〕
本発明では、上記ゲル化剤の高温での凝集を抑制するために無機系粒子を配合する。無機系粒子は、ゲル化剤の凝集をより効果的に抑制するために、BET比表面積で300m2/g以上であることが好ましく、500m2/g以上であることがより好ましい。従って、無機系粒子は、このようなBET比表面積を持つものであれば制限はないが、例えばケッチェンブラック等のカーボンブラック、アルミナ、シリカ、ゼオライト等が好適であり、中でもケッチェンブラック及びゼオライトが好ましい。また、無機系粒子は2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、無機系粒子の含有量は、潤滑剤組成物全量の0.5〜5質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。無機系粒子の含有量が0.5質量%未満では、高温でのゲル化剤の凝集を抑制する効果が十分に得られない。5質量%を超える場合は、初期ちょう度が硬くなりすぎてハンドリング性が悪くなるとともに、せん断力を加えても油状に流動せず潤滑性も悪くなる。
【0020】
〔基油〕
潤滑剤組成物を構成する基油は特に限定されず、通常の潤滑剤組成物の基油として使用されている油(鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑油)のいずれであってもよい。具体的に、鉱油系基油としては、鉱油を、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが使用できる。合成油系基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が使用できる。天然油系基油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油、またはこれらの水素化物が使用できる。
【0021】
潤滑剤組成物には、各種性能を向上させる目的で、種々の添加剤を混合してもよい。添加剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛等の酸化防止剤、スルフォン酸金属塩、エステル系、アミン系、ナフテン酸金属塩、コハク酸誘導体等の防錆剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸、動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等が挙げられる。これらの添加剤を単独で、または2種以上混合して用いることができる。尚、これら添加剤は、本発明の目的を損なわない範囲の量で添加できる。
【0022】
〔製造方法〕
潤滑剤組成物を製造するには、例えば、必要に応じて添加剤を添加した基油に、ゲル化剤と無機系粒子を所定量配合し、ゲル化剤が溶解するように加熱撹拌して液状物を得る。この液状物を、予め水冷した金属製バットに流し込み、流水で冷却してゲル状物を得る。そして、このゲル状物を3本ロールミルにて混練することにより、潤滑剤組成物が得られる。
【0023】
尚、本発明の潤滑剤組成物は各種装置の回転支持部に適用できるが、例えば転がり軸受や、リニアガイド装置、ボールねじ等に封入することができ、高温耐久性を向上させることができる。また、極く弱いせん断でも油状となることから、低トルクを実現でき、更にはトルクを早期に安定化することができる。
【0024】
例えば、図1は、本発明の転がり軸受の一例である玉軸受1を示す断面図であるが、内輪10と外輪11との間に、保持器12により複数の玉13を転動自在に保持し、更に内輪10、外輪11及び玉13で形成される軸受空間Sに、上記の潤滑剤組成物(図示せず)を充填し、シール14,14で封止して構成される。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に説明する。
【0026】
〔試験1〕
(実施例1)
40℃での動粘度が33mm2 /sのポリオールエステル94gに、ジベンジリデンソルビトール2gと、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド2gと、ケッチェンブラック2gを配合し、ジベンジリデンソルビトール及びN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドが完全に溶解するまで加熱撹拌して潤滑剤組成物からなる液状物を得た。この液状物を、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを流水で冷却することでゲル状物を得た。そして、ゲル状物を3本ロールミルにかけて実施例1のサンプルを得た。また、サンプルの初期不混和ちょう度を測定した。
【0027】
(実施例2〜4及び比較例1.2)
表1に示す基油、ゲル化剤及び無機系粒子を用い、実施例1と同じ方法にて実施例2〜4及び比較例1、2のサンプルを得た。また、各サンプルの初期不混和ちょう度を測定した。
【0028】
実施例1〜4及び比較例1、2のサンプルについて、下記の耐久性試験験を行った。結果を表1に併記する。
(1)高温放置試験
各サンプル10gをステンレスシャーレに入れ、150℃に加熱された恒温槽中で100時間放置した後に取り出し、冷却後に不混和ちょう度を測定した。そして、初期不混和ちょう度と比較することで、高温における安定性を評価した。初期不混和ちょう度との差が小さいほど、高温安定性に優れるといえる。
(2)流動−復元可逆性試験
高温放置試験後のサンプルの不混和ちょう度(高温初期不混和ちょう度)を測定した。また、サンプルを自転−公転式撹拌機に入れ、自転1370r/min、公転1370r/min、3分間の条件にてせん断力を付与し、不混和ちょう度(せん断付与直後の不混和ちょう度)を測定した。また、せん断付与後のサンプルを、40℃で3時間放置して不混和ちょう度(放置後の不混和ちょう度)を測定した。そして、下記式より粘性回復率を算出した。この粘性回復率が高いほど、流動−復元可逆性に優れるといえる。
【0029】
【数1】
【0030】
【表1】
【0031】
また、実施例1〜4及び比較例1、2の結果を基に、無機系粒子のBET比表面積と粘性回復率との関係をグラフ化したものを図2に示した。
【0032】
上記の結果から、ゲル化剤とともにBET比表面積が300m2/g以上の無機系粒子を配合することにより、高温での安定性及び粘性回復率が高まることがわかる。
【0033】
〔試験2〕
(実施例5〜8及び比較例3〜5)
表2に示す基油、ゲル化剤または増ちょう剤及び無機系粒子を用い、試験1と同じ方法にて実施例5〜8及び比較例3〜5のサンプルを得た。
【0034】
実施例5〜8及び比較例3〜5のサンプルについて、下記の軸受試験を行った。結果を表2に併記する。
(3)軸受トルク試験
日本精工(株)製の深溝玉軸受「6305」(内径25mm、外径62mm、幅17mm、非接触式ゴムシ−ル)にサンプルを封入して試験軸受を作製した。そして、アキシアル荷重98N、ラジアル荷重29.4N、室温にて試験軸受を3000min−1にて回転させ、回転開始後1200秒〜1800秒の間の平均トルク値を求めた。結果は、比較例3の平均トルク値を1とする相対値で示している。
(4)軸受焼付き試験
日本精工(株)製の深溝玉軸受「6305」(内径25mm、外径62mm、幅17mm、非接触式ゴムシ−ル)にサンプルを封入して試験軸受を作製した。そして、アキシアル荷重98N、ラジアル荷重98N、雰囲気温度140℃にて試験軸受を5000min−1にて回転させ、焼付きに至るまでの時間(焼付寿命)を求めた。結果は、比較例3の焼付寿命を1とする相対値で示している。
【0035】
【表2】
【0036】
また、実施例5〜8及び比較例3〜5の結果を基に、無機系粒子のBET比表面積と相対焼付寿命との関係をグラフ化したものを図3に示した。
【0037】
上記の結果から、ゲル化剤とともにBET比表面積が300m2/g以上の無機系粒子を含有する潤滑剤組成物を封入することにより、低トルクで、耐焼付き性に優れ長寿命の転がり軸受が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0038】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 保持器
13 玉
14 シール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤と、無機系粒子とを含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記無機系粒子のBET比表面積が300m2/g以上であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に保持するとともに、請求項1または2記載の潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項1】
基油と、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤と、無機系粒子とを含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記無機系粒子のBET比表面積が300m2/g以上であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に保持するとともに、請求項1または2記載の潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2012−167244(P2012−167244A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139651(P2011−139651)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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