説明

潤滑剤組成物及び転がり軸受

【課題】150℃を超えるような高温でも良好な流動−復元可逆性を長期にわたり安定して示す潤滑剤組成物、並びに150℃を越えるような高温での潤滑性能及び耐久性に優れ、低トルクでもある転がり軸受を提供する。
【解決手段】少なくとも基油及びゲル化剤を含有する潤滑剤組成物であって、前記基油が、エーテル油を基油全量の10〜50質量%の割合で含み、かつ、前記ゲル化剤が、ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤:アミノ酸系ゲル化剤=15〜50:85〜50の混合物である潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を充填した転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物及び転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機械や車両、電機機器、各種モータや自動車部品等に使用される転がり軸受には、潤滑性を付与するためにこれまでグリース組成物が封入されている。また、近年では装置や機器の小型軽量化や高速化、省エネルギー化等を目的として低トルク化も要求されてきている。特に車両用の転がり軸受では、低温での起動性も求められている。
【0003】
低トルク化のためには、混和ちょう度の高いグリース組成物を封入することが考えられるが、一方でグリース漏洩が起こりやすくなる。そこで、ゲル化剤を用いて半固形状とした潤滑剤組成物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−219297号公報
【特許文献2】国際公開第2006/051671号
【特許文献3】特開2011−26432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゲル化剤を用いて半固形状にした潤滑剤組成物は、軸受が回転してない状態ではせん断されずに硬化したままであり、軸受が回転するとせん断力が作用して流動性を示すようになるため、潤滑性を維持しつつ、漏洩を抑えることができる。特に、本出願人による特許文献3では、ソルビトール系ゲル化剤とアミノ酸系ゲル化剤とを併用しており、せん断の有無による硬化と流動との繰り返し性能(流動−復元可逆性)を向上させている。
【0006】
しかし、特許文献3の潤滑剤組成物では、100℃程度の環境であれば良好な復元性を確保できるものの、特に150℃以上の高温になるとゲル化剤の凝集が生じて軟化しやすくなることが判明した。このような軟化したグリースでは、せん断を加えると油状に流動するものの、ゲル化剤が凝集しているためネットワークが再形成され難くなり、せん断力が無くなると速やかにゲル状に回復する作用が低下するようになる。
【0007】
転がり軸受の回転速度は益々高まる傾向にあり、それに伴い軸受温度もより高まることから、本発明は、150℃を超えるような高温でも良好な流動−復元可逆性を長期にわたり安定して示し、低トルクの潤滑剤組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、150℃を越えるような高温での潤滑性能及び耐久性に優れ、低トルクでもある転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の潤滑剤組成物及び転がり軸受を提供する。
(1)少なくとも基油及びゲル化剤を含有する潤滑剤組成物であって、
前記基油が、エーテル油を基油全量の10〜50質量%の割合で含み、かつ、
前記ゲル化剤が、ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤:アミノ酸系ゲル化剤=15〜50:85〜50の混合物であることを特徴とする潤滑剤組成物。
(2)内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成される内部空間に、請求項1記載の潤滑剤組成物を充填したことを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑剤組成物は、150℃を超えるような高温でも良好な流動−復元可逆性を長期にわたり安定して示し、低トルクでもある。また、本発明の転がり軸受は、このような潤滑剤組成物を充填したため、150℃を越えるような高温での潤滑性能及び耐久性に優れ、低トルクでもある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0011】
〔潤滑剤組成物〕
(ゲル化剤)
本発明の潤滑剤組成物は、増ちょう剤を用いることなく、ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とアミノ酸系ゲル化剤との混合物(以下「混合ゲル化剤」)によりゲル状とする。混合ゲル化剤におけるジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とアミノ酸系ゲル化剤との混合比率は、ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤:アミノ酸系ゲル化剤=15〜50:85〜50であるが、ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤:アミノ酸系ゲル化剤=25〜40:75〜60とすることがより好ましい。ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の混合比率が15%未満では高温環境で軟化しやすくなり、50%を超えると高温環境で硬化しやすくなる。
【0012】
また、潤滑剤組成物における混合ゲル化剤の配合量は2〜8質量%が好ましく、3〜6質量%がより好ましい。混合ゲル化剤の配合量が2質量%未満では、潤滑剤組成物が初期から柔らかすぎて適用箇所から漏洩しやすくなる。また、混合ゲル化剤の配合量が8質量%を超えると、潤滑剤組成物の初期ちょう度が硬くなりすぎてハンドリング性が悪く、トルクも高くなることに加え、せん断を与えても油状に流動し難くなって流動−回復可逆性が低下するようになる。
【0013】
ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤としては、基油中に分散させてゲルを形成できるものであれば制限はないが、アミノ酸系ゲル化剤との相乗効果が高いことから、ジメチルベンジリデンソルビトールが好適である。
【0014】
アミノ酸系ゲル化剤としては、基油中に分散させてゲルを形成できるものであれば制限はないが、ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化剤との相乗効果が高いことから、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミドが好適である。また、これらを併用してもよい。
【0015】
(基油)
基油は、エーテル油を基油全量の10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%含有する。エーテル油の比率が基油全量の10質量%未満では流動−回復可逆性に劣るようになり、50質量%を超えると高温での熱安定性に劣るようになり、流動−回復可逆性も十分ではなくなる。
【0016】
尚、エーテル油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。
【0017】
エーテル油と混合可能な潤滑油には制限はなく、鉱油、エーテル油以外の合成油または天然油を目的に応じて選択できる。鉱油は、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが好ましい。合成油としては、炭化水素油、芳香族油、エステル油が挙げられる。天然油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油またはこれらの水素化物が挙げられる。これらの潤滑油はそれぞれ単独でも、2種以上を混合して使用することもできる。これらの潤滑油の中でも、エステル油がより好ましい。
【0018】
また、基油の動粘度は、潤滑性及び低トルクを考慮して10〜400mm/s(40℃)が好ましく、20〜200mm/s(40℃)がより好ましい。
【0019】
(添加剤)
本発明の潤滑剤組成物には、各種性能を更に向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。但し、高温での熱安定性や流動−復元回復性に影響を与えないものを選択する必要がある。また、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0020】
(製造方法)
本発明の潤滑剤組成物を製造するには、先ず、基油に混合ゲル化剤、必要に応じて添加剤をそれぞれ所定量加え、ゲル化剤が溶解するまで加熱攪拌して液状物を得る。次いで、この液状物を、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却することでゲル状物を得る。そして、ゲル状物を3本ロールミルにかけることで潤滑剤組成物を得る。
【0021】
〔転がり軸受〕
本発明はまた、上記の潤滑剤組成物を封入した転がり軸受を提供する。但し、転がり軸受の種類や構造には制限がなく、軸受空間に上記の潤滑剤組成物を充填して構成される。
【0022】
本発明の転がり軸受は、150℃を越えるような高温でも潤滑性能及び耐久性に優れ、低トルクでもある。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
エーテル油(動粘度32.3mm/s@40℃)28.5gと、エステル油(動粘度33mm/s@40℃)との混合油を基油とし、ジアルキルベンジリデンソルビトール系ゲル化としてのジメチルベンジリデンソルビトール1.5gと、アミノ酸系ゲル化剤としてのN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド3.5gとを添加し、加熱攪拌してゲル化剤を完全に溶解させた後、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却してゲル状に固化させ、3本ロールミルにかけて供試潤滑剤組成物を得た。得られた供試潤滑剤組成物の不混和ちょう度を測定した。表1に「初期不混和ちょう度」として示す。
【0025】
(実施例2〜6、比較例1〜4)
実施例1と同様の基油及びゲル化剤を用い、表1に示す配合にて同様の方法により供試潤滑剤組成物を得た。得られた供試潤滑剤組成物の不混和ちょう度を測定した。表1に「初期不混和ちょう度」として示す。
【0026】
そして、各供試潤滑剤組成物について下記の(1)高温放置試験及び(2)流動−復元可逆性試験を行って耐熱性を評価した。
【0027】
(1)高温放置試験
供試潤滑剤組成物10gをステンレスシャーレに秤量し、150℃の恒温槽中に50時間放置した後、恒温槽から取り出して室温まで冷却し、不混和ちょう度を測定した。表1に「高温放置後不混和ちょう度」として示すが、この値が一般に使用されているグリースと同程度の硬さである220〜295の範囲であれば、熱安定性が良好であると判断できる。
【0028】
(2)流動−復元可逆性試験。
自転−公転式撹拌機を用い、高温放置試験後の供試潤滑剤組成物を自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間撹拌してせん断を加えた後、不混和ちょう度を測定した。表1に「せん断付与後不混和ちょう度」として示すが、この値が360以上であれば、せん断による流動性が良好であると判断できる。
【0029】
また、せん断付与後、40℃で3時間放置した後、再度不混和ちょう度測定した。表1に「流動−復元可逆性試験後不混和ちょう度」として示すが、この値が一般に使用されているグリースと同程度の硬さである220〜295の範囲であれば、回復性が良好であると判断できる。また、「せん断付与後不混和ちょう度」と、「流動−復元可逆性試験後不混和ちょう度」との差が大きいほど、流動−回復可逆性に優れるといえる。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すように、実施例の各供試潤滑剤組成物は熱安定性及び流動−復元可逆性に優れることがわかる。これに対し比較例1の供試潤滑剤組成物では基油がエーテル油を全く含まず、比較例2、3の供試潤滑剤組成物では基油におけるエーテル油比率が過大であり、比較例4の供試潤滑剤組成物では混合ゲル化剤におけるジアルキルベンジリデンソルビトール比率が過大であることから、熱安定性または流動−復元可逆性、あるいは両特性に劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基油及びゲル化剤を含有する潤滑剤組成物であって、
前記基油が、エーテル油を基油全量の10〜50質量%の割合で含み、かつ、
前記ゲル化剤が、ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤:アミノ酸系ゲル化剤=15〜50:85〜50の混合物であることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成される内部空間に、請求項1記載の潤滑剤組成物を充填したことを特徴とする転がり軸受。

【公開番号】特開2013−28686(P2013−28686A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164752(P2011−164752)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】