説明

潤滑剤組成物及び転動装置

【課題】剪断力の付与によりゲル状から油状に容易に変化して流動する上、剪断力の付与を止めると粘性が速やかに回復してゲル状となる潤滑剤組成物を提供する。また、優れた潤滑性能を有する長寿命な転動装置を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体3と、内輪1及び外輪2の間に複数の転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆うシールのような密封装置5,5と、を備えている。また、内輪1及び外輪2の間に形成され転動体3が配された空隙部内に、深溝玉軸受の潤滑を行う潤滑剤組成物Gが封入されている。そして、この潤滑剤組成物Gの基油は周波数1kHzにおける比誘電率が2以上20以下の潤滑油であり、ゲル化剤はアミノ酸系化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関する。また、本発明は、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等のような転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸系化合物はグリースにおいてゲル化剤(増ちょう剤)として用いられるが、一般的なゲル化剤と比べて少量でゲル状とすることができる。例えば、NLGI No.2(ちょう度265〜295)の硬さを得るために必要なゲル化剤の量は、一般的なゲル化剤が10〜30質量%であるのに対して、アミノ酸系化合物は2〜5質量%である。
アミノ酸系化合物をゲル化剤として用いたグリースは、ゲル化剤の使用量が非常に少ないため、剪断力が付与されるとゲル状から油状(ちょう度380以上)に容易に変化して流動する傾向がある。一般的なグリースは、剪断力を付与されてもちょう度はそれほど変化せず、ゲル化剤として石けん系増ちょう剤を用いたグリースの場合はちょう度変化は10〜40程度であり、ウレア系増ちょう剤を用いたグリースの場合はほとんど変化しない。
【特許文献1】特開昭58−219297号公報
【特許文献2】特開2005−139398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、アミノ酸系化合物をゲル化剤として用いたグリースは、一般的なグリースと比較するとゲル化剤の使用量が少なく且つ剪断力付与による粘性変化が大きいため、剪断力の付与を止めて放置しても粘性がすぐには回復せず、剪断力が付与されていない平常時のゲル状に戻るまでに時間を要するという問題があった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、剪断力の付与によりゲル状から油状に容易に変化して流動する上、剪断力の付与を止めると粘性が速やかに回復してゲル状となる潤滑剤組成物を提供することを課題とする。また、優れた潤滑性能を有する長寿命な転動装置を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る潤滑剤組成物は、基油とゲル化剤とを含有する潤滑剤組成物において、前記基油の周波数1kHzにおける比誘電率を2以上20以下とし、前記ゲル化剤をアミノ酸系化合物としたことを特徴とする。
このような本発明に係る潤滑剤組成物においては、前記アミノ酸系化合物をN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド及びN−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミドの少なくとも一方とすることが好ましい。
【0005】
また、本発明に係る転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤を上記のような潤滑剤組成物としたことを特徴とする。
【0006】
なお、本発明は種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。本発明における内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑剤組成物は、剪断力の付与によりゲル状から油状に容易に変化して流動する上、剪断力の付与を止めると粘性が速やかに回復してゲル状となるため、潤滑性能が優れている。また、本発明の転動装置は、優れた潤滑性能を有し長寿命である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る潤滑剤組成物及び転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。この深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に複数の転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆うシールのような密封装置5,5と、を備えている。なお、保持器4や密封装置5は備えていなくてもよい。
【0009】
内輪1及び外輪2の間に形成され転動体3が内設された空隙部内には、軌道面1a,2aと転動体3との間の潤滑を行うグリース状の潤滑剤組成物Gが配されている。この潤滑剤組成物Gの基油は周波数1kHzにおける比誘電率が2以上20以下の潤滑油であり、ゲル化剤はアミノ酸系化合物である。アミノ酸系化合物としては、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミド、又は両者の混合物が好ましい。
【0010】
以下に、潤滑剤組成物Gについて詳細に説明する。前述したように、アミノ酸系化合物をゲル化剤として用いた潤滑剤組成物は、一般的なグリースと比較するとゲル化剤の使用量が少なく且つ剪断力付与による粘性変化が大きいため、剪断力の付与を止めて放置しても粘性がすぐには回復せず、剪断力が付与されていない平常時のゲル状に戻るまでに時間を要するという問題があった。
【0011】
上記粘性の回復速度を向上させるためには、剪断力により破壊されたゲル化剤の三次元網目構造を剪断力付与前の状態に素早く戻す必要がある。ゲル化剤の基油中での三次元網目構造の形成しやすさは、基油とゲル化剤との親和性に起因すると考えられる。
両者の親和性が悪いと、ゲル化剤が基油中に十分に分散できず高凝集状態となるため、ゲル化剤の三次元網目構造を形成することができない。それに対し、両者の親和性が良好であると、基油とゲル化剤とが適度に混ざり合うことができるため、基油中にゲル化剤の三次元網目構造が形成されやすくなる。ただし、両者の親和性があまりに高すぎると、基油中のゲル化剤が高分散状態となるため、ゲル状となるために必要なゲル化剤の三次元網目構造が形成されず、ゲル状とはならないと考えられる。
【0012】
このように、基油とゲル化剤には、三次元網目構造が形成されやすい最適な親和性が存在する。つまり、ゲル化剤にとって三次元網目構造を形成しやすい最適な親和性を有する基油が存在する。ゲル化剤にとって三次元網目構造を形成しやすい基油を選択すれば、剪断力が付与されることでゲル化剤の三次元網目構造が破壊されても、剪断力の付与を止めるとゲル化剤の三次元網目構造が速やかに再形成されてゲル状となると考えられる。つまり、粘性の回復速度を向上させることができる。
【0013】
ただし、ゲル化剤の三次元網目構造が形成されやすい基油、すなわちゲル化剤と親和性の高い基油を使用すると、剪断力付与による粘性変化が起きにくい(すなわち流動しにくい)というデメリットが生じるおそれもあるため、この点も考慮する必要がある。
本発明者らは、基油とゲル化剤との親和性は両者の化学構造(極性の大きさ)と関連性があり、両者の化学構造が類似しているほど親和性が良好であると考えた。そして、極性の大きさと相関性のある比誘電率を指標とすることにより、ゲル化剤にとって三次元網目構造を形成しやすい最適な親和性を有する基油を選択することができると考えた。その結果、比誘電率が高い潤滑油を基油として使用した潤滑剤組成物ほどちょう度が低くなる、すなわち三次元網目構造が強固になる傾向があることが分かった。
【0014】
そして、周波数1kHzにおける比誘電率が2以上20以下の潤滑油を基油として使用した潤滑剤組成物は、剪断力の付与によりゲル状から油状に容易に変化して流動する上、剪断力の付与を止めると粘性が速やかに回復してゲル状となる(すなわち、粘性の回復速度が速い)ことが分かった。周波数1kHzにおける比誘電率が2未満及び20超過の潤滑油を基油として使用した潤滑剤組成物は、粘性の回復速度が不十分であった。
【0015】
このような潤滑剤組成物Gは潤滑性能が優れているので、本実施形態の深溝玉軸受は長寿命である。
以下に、潤滑剤組成物Gを構成する各成分について詳細に説明する。
〔ゲル化剤について〕
アミノ酸系化合物としては、基油中に分散して三次元網目構造を形成するものであれば特に限定されるものではないが、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドやN−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミドが好適である。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
潤滑剤組成物Gにおけるゲル化剤の含有量は、2質量%以上10質量%以下が好ましい。2質量%未満であると、剪断力が付与されない状態でも潤滑剤組成物Gが軟らかすぎるため、潤滑剤組成物Gが深溝玉軸受等の転動装置から漏出しやすくなる。一方、10質量%超過であると、剪断力が付与されない状態の潤滑剤組成物Gが硬すぎるため、ハンドリングが悪くなる。また、剪断力が付与されてもゲル状から油状に変化しにくいため、流動しないおそれがある。
【0017】
〔基油について〕
周波数1kHzにおける比誘電率が2以上20以下の潤滑油であれば、基油の種類は特に限定されるものではないが、脂肪族系炭化水素油,芳香族系炭化水素油,エーテル油,エステル油,グリコール油等が好ましい。
脂肪族系炭化水素油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1−デセンオリゴマー,1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物などがあげられる。また、芳香族系炭化水素油としては、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン,ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼンや、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどがあげられる。
【0018】
エーテル油としては、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
エステル油としては、芳香族系三塩基酸,芳香族系四塩基酸と分岐鎖状アルコールとの反応で得られる芳香族エステル油や、一塩基酸と多価アルコールとの反応で得られるポリオールエステル油などがあげられる。
【0019】
芳香族エステル油としては、トルオクチルトリメリテート,トリデシルトリメリテート等のトリメリト酸エステル油や、トリメシン酸エステル油や、テトラオクチルピロメリテート等のピロメリト酸エステル油などがあげられる。
また、ポリオールエステル油としては、以下に示す一塩基酸と多価アルコールとの反応によって得られるエステル油があげられる。多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスルリトール(PE)、ジペンタエリスルリトール(DPE)、ネオペンチルグリコール(NPG)、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール(MPPD)などがあげられる。
【0020】
一塩基酸としては、主に炭素数4以上16以下の一価脂肪酸が用いられる。具体的には、酪酸,吉草酸,カプロン酸,カプリル酸,エナント酸,ペラルゴン酸,カプリン酸,ウンデカン酸,ラウリン酸,ミステリン酸,パルミチン酸,牛脂脂肪酸,スレアリン酸,カプロレイン酸,パルミトレイン酸,ペトロセリン酸,オレイン酸,エライジン酸,アスクレピン酸,バクセン酸,ソルビン酸,リノール酸,リノレン酸,アビニン酸,リシノール酸などがあげられる。多価アルコールに反応させる一塩基酸は、1種でもよいし2種以上でもよい。
【0021】
さらに、ポリオールエステル油としては、一塩基酸及び二塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などもあげられる。
さらに、グリコール油としては、非水溶性モノオール型グリコール油,非水溶性ジオール型グリコール油,水溶性モノオール型グリコール油などがあげられる。
これらの基油は、1種を単独で用いてもよいし複数種を併用してもよい。
【0022】
〔添加剤について〕
潤滑剤組成物Gには、その各種性能をさらに向上させるために、グリースに一般的に使用される添加剤を添加しても差し支えない。例えば、酸化防止剤,防錆剤,耐摩耗剤,極圧剤,油性向上剤,金属不活性化剤等があげられる。
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,硫黄系酸化防止剤,ジチオリン酸亜鉛,ジチオカルバミン酸亜鉛があげられる。防錆剤としては、例えば、スルホン酸金属塩,エステル系防錆剤,アミン系防錆剤,ナフテン酸金属塩,コハク酸誘導体があげられる。極圧剤としては、例えば、リン系極圧剤,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデンがあげられる。油性向上剤としては、例えば、脂肪酸,動植物油があげられる。金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールがあげられる。
【0023】
これらの添加剤は単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。潤滑剤組成物Gにおける添加剤の合計の含有量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。さらに、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、潤滑剤組成物の製造例を示す。
〔実施例1〕
ステンレス製ビーカーに、ポリオールエステル油95gとN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド5gとを装入し、80℃で20分間撹拌した。その後、温度を徐々に上昇させていき、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドが完全に溶解したら、この混合物を、水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを流水で冷却してゲル状物を得た。そして、得られたゲル状物を三本ロールミルで処理することにより、実施例1のグリースを得た。
【0025】
なお、基油であるポリオールエステル油の40℃における動粘度は、31mm2 /sである。また、グリース中のゲル化剤(N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド)の含有量は、5質量%である。
【0026】
〔実施例2〕
基油として芳香族エステル油を使用し、実施例1とほぼ同様の操作で実施例2のグリースを得た。なお、基油である芳香族エステル油の40℃における動粘度は、40mm2 /sである。また、グリース中のゲル化剤(N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド)の含有量は、5質量%である。
【0027】
〔実施例3〕
基油として非水溶性ジオール型グリコール油を使用し、実施例1とほぼ同様の操作で実施例3のグリースを得た。なお、基油である非水溶性ジオール型グリコール油の40℃における動粘度は、31mm2 /sである。また、グリース中のゲル化剤(N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド)の含有量は、5質量%である。
【0028】
【表1】

【0029】
〔比較例1〕
基油として鉱物油を使用し、実施例1とほぼ同様の操作で比較例1のグリースを得た。なお、基油である鉱物油の40℃における動粘度は、30mm2 /sである。また、グリース中のゲル化剤(N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド)の含有量は、5質量%である。
【0030】
〔比較例2〕
基油としてリン酸トリクレジルを使用し、実施例1とほぼ同様の操作で比較例2のグリースを得た。なお、基油であるリン酸トリクレジルの40℃における動粘度は、24mm2 /sである。また、グリース中のゲル化剤(N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド)の含有量は、4.5質量%である。
【0031】
【表2】

【0032】
これらの実施例1〜3及び比較例1,2のグリースについて、下記のような流動−回復試験を行った。
自転−公転式攪拌機にグリースを入れ、自転速度1370rpm、公転速度1370rpmで3分間運転することによりグリースに剪断力を付与した後、不混和ちょう度を測定した。そして、剪断力を付与する前に測定した不混和ちょう度との差異を算出した。この差異(剪断力付与による粘性変化)により、グリースの流動性を評価した。
【0033】
また、上記のようにして剪断力を付与した後に、剪断力の付与を止めて40℃で1時間放置した。そして、グリースの不混和ちょう度を測定して、粘性の回復速度を評価した。なお、粘性の回復速度の評価には、下記式により算出される粘性回復率を用いた。
粘性回復率(%)=([剪断力付与後の不混和ちょう度]−[放置後の不混和ちょう度])/([剪断力付与後の不混和ちょう度]−[剪断力付与前の不混和ちょう度])
これらの評価結果を、基油の比誘電率とともに表1,2及び図2のグラフに示す。剪断力の付与によるグリースの流動性の良否は、剪断力付与後の不混和ちょう度が380以上(傾けると自然に流動する程度)であれば合格と判定した。また、グリースの粘性の回復速度は、粘性回復率が80%以上であれば合格と判定した。
【0034】
表1,2から分かるように、実施例1〜3のグリースは、剪断力の付与によりグリースの流動性が大きく向上しているにもかかわらず、基油の周波数1kHzにおける比誘電率が2以上20以下であるため、粘性の回復速度が非常に速い。
一方、比較例1,2のグリースは、剪断力の付与によりグリースの流動性が大きく向上するものの、基油の周波数1kHzにおける比誘電率が2未満又は20超過であるため、粘性の回復速度が非常に遅かった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図2】基油の周波数1kHzにおける比誘電率とグリースの粘性回復率との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
G 潤滑剤組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油とゲル化剤とを含有する潤滑剤組成物において、前記基油の周波数1kHzにおける比誘電率を2以上20以下とし、前記ゲル化剤をアミノ酸系化合物としたことを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸系化合物をN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド及びN−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミドの少なくとも一方としたことを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤を請求項1又は請求項2に記載の潤滑剤組成物としたことを特徴とする転動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138246(P2010−138246A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314388(P2008−314388)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】