説明

潤滑剤組成物

【課題】低い動摩擦係数で、高い耐摩耗性を示す潤滑剤組成物を提供する。
【手段】基油に、シリコーンオイルを組成物全量基準で0.001〜10質量%、および全塩基価が100mgKOH/g以上の金属スルホネートを組成物全量基準で0.001〜10質量%含み、好ましくは、前記シリコーンオイルが、水酸基、カルボン酸基、エステル基のいずれかの置換基を有するものであって、さらに好ましくは、アミド化合物、ウレア化合物、脂肪酸石けんのいずれかを含有し、常温で半固体状である潤滑剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性に優れる潤滑剤組成物に関し、特には、常温で半固体状の潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業技術において多機能化、高性能化、環境対応、省エネルギー、ロングライフ化が重要なキーテクノロジーとなっている。環境課題としては、二酸化炭素排出量の削減、省電力、省エネルギー、資源の有効活用など多々挙げることができる。そのため小型精密機械、産業機械、輸送システムなどの各種機械システムでは、環境に優しい工夫が施されるとともに、よりロングライフ化、信頼性の向上、高性能化などの特性が付与されるようになってきた。
【0003】
ロングライフ化の一例として、機械の摺動部の潤滑性能を製品ライフまで不具合なく維持することが求められている。最近、機械システムの潤滑条件はより一層厳しくなっており、潤滑油剤には、より高性能な潤滑性が必要となっている。
【0004】
本発明者は、耐摩耗性や極圧性に優れる常温で半固体状の潤滑剤組成物の開発を進めており、液状の潤滑油基油に、アルカリ土類金属塩とアミド化合物を配合することで、常温で半固体状で、薄膜状態においても高い潤滑性を有するとともに、動力伝達に有利な高い動摩擦係数を示す潤滑剤組成物を提案した(特許文献1)。このような用途の事例としては、ノート型パソコンや携帯電話などの2部品の開閉とその角度を維持するヒンジなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多くの機械システム、例えば自動車のエンジン機構や各種機械システムの軸受のような潤滑に用いる潤滑剤としてはより低い動摩擦係数が必要とされる。また、歯車、ベーンポンプやピストンポンプなどの機械要素を用いた機械システムの用途では、高い耐摩耗性が求められている。本発明は、低い動摩擦係数であり、また、高い耐摩耗性を示す潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を進めた結果、潤滑基油にシリコーンオイルと特定の金属スルホネートを配合すると反応膜の生成によると推測されるが、動摩擦係数が著しく低下するとともに、驚くべきことに、耐摩耗性が向上することを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明は、次のとおりの潤滑剤組成物である。
【0008】
(1)基油に、シリコーンオイルを組成物全量基準で0.001〜10質量%、および全塩基価が100mgKOH/g以上の金属スルホネートを組成物全量基準で0.001〜10質量%を含む潤滑剤組成物。
【0009】
(2)シリコーンオイルが、水酸基、カルボン酸基、エステル基のいずれかの置換基を有するシリコーンオイルである(1)記載の潤滑剤組成物。
【0010】
さらに、アミド化合物、ウレア化合物、脂肪酸石けんのいずれかを含有し、常温で半固体状である(1)記載の潤滑剤組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潤滑剤組成物によれば、シリコーンオイルと全塩基価が100mgKOH/g以上の金属スルホネートを含有することにより、低い動摩擦係数と、高い耐摩耗性を同時に達成することが可能となる。この効果は、シリコーンオイルと全塩基価が100mgKOH/g以上の金属スルホネートにより、特定の反応膜が生成することによると思われる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[基油]
本発明に用いる基油は、通常潤滑油に用いられる潤滑油基油、例えば、鉱油系基油、合成油系基油(エステル系、エーテル系など)を用いることができる。特には、炭化水素化合物からなる鉱油などの炭化水素基油が好ましく、特にはα‐オレフィンオリゴマーが好ましい。基油としては、40℃における動粘度が、5〜5000mm2/s、特に5〜500mm2/s、更に10〜200mm2/sのものが好ましい。
【0013】
[シリコーンオイル]
シリコーンオイルは、ジメチルポリシロキサンなどのシロキサン結合を主骨格とする25℃における動粘度が5〜5000mm2/sの化合物である。メチル基またはフェニル基のみを導入したシリコーンオイル以外に、置換基を導入した変性シリコーンを用いることが好ましい。このような置換基としては、水酸基、カルボン酸基(カルボキシル基)、エステル基、エステル基、アミノ基、ポリエーテル基などが挙げられる。
【0014】
シリコーンオイルの含有量は、潤滑剤組成物全質量に対して、0.01〜10質量%、特には0.1〜5質量%、更には0.2〜5質量%が好ましい。
【0015】
[金属スルホネート]
金属スルホネートはスルホン酸の金属塩で、本発明においては、金属系清浄分散剤として市販されている金属スルホネートを用いるとよい。通常、Ca、Ba、Mgなどアルカリ土類金属の塩が好ましく、特にはCa塩が好ましく用いられる。その全塩基価は100mgKOH/g以上のものであり、好ましくは150〜700mgKOH/g、更には300〜600mgKOH/gが好ましい。
【0016】
金属スルホネートの含有量は、潤滑剤組成物全質量に対して、0.01〜10質量%、特には0.1〜5質量%、更には0.2〜5質量%が好ましい。
【0017】
[アミド化合物]
本発明の潤滑剤を常温で半固体状とするためには、アミド化合物、ウレア化合物、脂肪酸石けんのいずれかを含有させることが好ましい。ウレア化合物や脂肪酸石けんは、通常、いわゆるグリースの増ちょう剤として用いる化合物を用いることができる。なお、ここで「常温」とは室内の普通の温度を意味し、具体的には、−20〜50℃、より一般的には−10〜30℃程度の温度環境をいう。
【0018】
特に、アミド化合物が好ましく用いられる。アミド化合物は、アミド基(‐NH‐CO‐)を1つ以上有する脂肪酸アミド化合物であり、次の式(1)で表されるアミド基が1個のモノアミド、及び式(2)及び(3)で表されるアミド基を2個有するビスアミドを好ましく用いることができ、特にはビスアミドが好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
上記式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数5〜25の飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基であり、さらに、R2は水素であってもよい。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
上記式(2)及び(3)において、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、炭素数5〜25の飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基であり、A1及びA2は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基又は炭素数7〜10のアルキルフェニレン基から選択される炭素数1〜10の2価の炭化水素基である。なお、アルキルフェニレン基の場合、フェニレン基とアルキル基及び/又はアルキレン基の2個以上とが結合したかたちの2価の炭化水素基であってもよい。
【0024】
ビスアミド化合物としては、ジアミンの酸アミド又はジ酸の酸アミドのかたちをした上記式(2)又は(3)でそれぞれ表される化合物である。なお、式(2)及び(3)でR3、R4、R5及びR6、さらにA1及びA2で表される炭化水素基において、一部の水素が水酸基(‐OH)で置換されていてもよい。
式(2)で表されるアミド化合物として、具体的には、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m‐キシリレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。式(3)で表されるアミド化合物として、具体的には、N,N'‐ジステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。
【0025】
これらビスアミド化合物の中でも、式(2)のR3とR4及び式(3)のR5とR6がそれぞれ独立して炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物及び/又はR3とR4及びR5とR6の少なくともいずれか一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物であることが好ましく、両アミド化合物の混合物がより好ましい。
【0026】
アミド化合物の含有量は、潤滑剤組成物全重量に対して、0.1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは5〜20質量である。アミド化合物の含有量が、この範囲未満では、常温でゲル状の組成物を形成することができず、一方、この範囲を超えて配合しても硬くなり過ぎてハンドリングしにくく、好ましくない。
【0027】
本発明の組成物には、さらに周知の極圧剤、腐食防止剤、摩耗防止剤、防錆剤、酸化防止剤、及び消泡剤などの添加剤を適宜配合することができる。極圧剤、摩耗防止剤としてジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫黄系化合物、リン系化合物など、腐食防止剤としてチアジアゾール誘導体、ベンゾトリアゾールおよびこの誘導体、防錆剤として脂肪酸部分エステル、リン系化合物など、酸化防止剤としてフェノール系、アミン系化合物など、及びPMAポリマー、流動点降下剤、粘度指数向上剤としてPMAポリマーなどが挙げられる。また、前記各種の添加剤は、数種が予め混合されたいわゆる添加剤パッケージの形で用いることもできる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
実施例及び比較例用の潤滑剤組成物を調製するための基油としては、α‐オレフィンオリゴマー(動粘度(40℃):46.6mm2/s、動粘度(100℃):7.8mm2/s、BP社製DURASYN 168)を用いた。
添加剤としては、ゲル化剤としてN‐ステアリルステアリン酸アミドを、カルボキシ変性シリコーンオイルとして信越化学工業(株)製反応性シリコーンオイルX22‐3710(動粘度(25℃):60mm2/s、官能基当量:1450mol/g)、高塩基値カルシウムスルホネート(全塩基値TNB:400mgKOH/g、テキサコ社製TLA414)、低塩基値カルシウムスルホネート(全塩基値TNB:50mgKOH/g、KING INDUSTRIES社製NA-SUL CA)を用いた。
【0030】
[潤滑剤組成物の調製]
基油および添加剤を表1に示す割合(潤滑剤全質量に対する質量%)で配合して実施例1及び比較例1〜4の供試油(潤滑剤組成物)を以下の手順で調製した。
ステンレス製のビーカーに、約100mlの供試油が得られるように、基油および添加剤をそれぞれ所定量計り取り、卓上電磁ヒーターを用い、ゲル化剤の融点以上(融点+20℃)に加温しながら撹拌した。均一に溶解したことを外観の観察で判断した後、均一溶解液を耐熱ガラス容器(内径60mm×高さ90mm)に約100mlを移し、放冷し、実施例1及び比較例1〜3の常温で半固体状の潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。
【0031】
基油および添加剤を表1に示す割合(潤滑剤全質量に対する質量%)で配合して、卓上電磁ヒーターを用い、約60℃に加温しながら撹拌し、実施例2及び比較例5〜7の供試油(潤滑剤組成物)を調製した。
【0032】
[評価方法]
実施例1、2及び比較例1〜6の各潤滑剤組成物の評価試験(摩擦係数の測定など)を以下に記した方法に従って実施した。その結果を表1の下部に示す。
【0033】
ボールオンディスク型往復動摩擦試験機を用いた。ボールは、材質がSUJ‐2軸受鋼の直径6.35mmのボールベアリング用鋼球を用い、またディスクは、材質がSUJ‐2軸受鋼の直径24mm、厚さ7mmの円盤状の試験片を用いた。なおディスクは、#0、#1000および#2000のエメリー紙で研磨仕上げをして、実験に供した.摩擦試験は、荷重20N、振幅数1Hz、振幅幅4mm、室温で60分間行い、試験開始から60分経過までの動摩擦係数を測定し、摩擦停止後、試験球の摩耗痕径マイクロメータ(μm)単位を測定した。試験を開始し、15分〜60分の動摩擦係数を5分後毎に測定した値の平均値を平均摩擦係数とした。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1は、平均摩擦係数と60分経過後の摩擦係数がほぼ同じ数値であり、摩耗痕径も158μmと小さく、耐摩耗性に優れている。この表面をレーザ顕微鏡(KEYENCE社製VIOLET LASER 3D PROFILE MICROSCOPE VK‐9510)により観察すると、界面に反応膜の生成が確認され、これにより、耐摩耗性が向上していると思われる。
【0036】
一方、比較例1〜4は、平均摩擦係数に比べ60分経過後の摩擦係数が大きな値となっている。比較例2の摩耗痕径は200μmと大きく、耐摩耗性に劣っている。
【0037】
実施例2は、比較例5、6と比較して、摩擦係数が低くなっている。摩耗痕径も実施例2は172μmであるが、比較例6は287μmと大きく、実施例2は耐摩耗性に優れている。
以上の結果から、本発明の実施例では、低い摩擦係数であり、耐摩耗性も優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上から明らかなように、本発明による潤滑剤組成物は、低い動摩擦係数と優れた耐摩耗性を示すことにより、長期にわたって十分な潤滑を確保できるため、例えば、ギヤ、ベルト、チェーン、ワイヤーロープ、ヒンジ、機械式無段変速機、軸受,等速ジョイント,ボールネジ,直動ガイドなどの伝動要素機構を有する機械システムに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に、シリコーンオイルを組成物全量基準で0.001〜10質量%、および全塩基価が100mgKOH/g以上の金属スルホネートを組成物全量基準で0.001〜10質量%含む潤滑剤組成物。
【請求項2】
シリコーンオイルが、水酸基、カルボン酸基、エステル基のいずれかの置換基を有するシリコーンオイルである請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
さらに、アミド化合物、ウレア化合物、脂肪酸石けんのいずれかを含有し、常温で半固体状である請求項1に記載の潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2013−60533(P2013−60533A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200087(P2011−200087)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】