説明

潤滑剤複合物及びその製造方法

【課題】冶金粉末のための少なくとも二種類の潤滑剤複合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アミド系化合物からなる第一潤滑剤及びステアリン酸金属石鹸からなる第二潤滑剤を選択し、前記潤滑剤を混合し、そして前記混合物を、前記第一潤滑剤の粒子に前記第二潤滑剤の粒子を付着させる条件にかけて、前記第一潤滑剤のコアを有し、然も、前記コアの表面が前記第二潤滑剤の粒子で被覆されている凝集粒子からなる潤滑剤複合物を形成する、工程を含む潤滑剤複合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末冶金のための潤滑剤複合物(lubricant combination)及びその潤滑剤複合物の製造及び使用に関する。特に本発明は、少なくとも二種類の潤滑剤を含有する潤滑剤複合物に関する。
【0002】
粉末金属、例えば粉末鉄は、かなり複雑な小さな部品、例えば、ギアーを製造するのに用いられている。そのような金属部品の粉末金属法による製造には、次のステップが含まれる:
粉末金属を潤滑剤及び他の添加剤と混合し、混合物を形成し、
得られた混合物を型中に注入し、高圧、通常200〜1000MPa程度の圧力を用いて圧縮して部品を形成し、
前記部品を型から放出し(eject)、
前記部品を高温度にかけて潤滑剤を分解除去し、部品中の全ての金属粒子を一緒に焼結し、そして
前記部品を冷却する。然る後、それは直ぐに使用することができる。
【0003】
潤滑剤は幾つかの理由から金属粉末に添加する。一つの理由は、圧縮工程中、粉末の内部を潤滑することにより、焼結のための圧縮物の製造を容易にすることである。適当な潤滑剤を選択することにより、しばしば要求される大きな密度を得ることができる。更に、潤滑剤はダイ(die)から圧縮部品を放出させるのに必要である潤滑作用を与える。不充分な潤滑は放出中の過度の摩擦によりダイ表面の摩耗及び傷痕を生ずることになり、ダイの損傷を速める結果になる。不充分な潤滑によるそれらの問題は、二つの方法によって解決することができる。即ち、潤滑剤の量を増大するか、又は一層効果的な潤滑剤を選択することである。しかし、潤滑剤の量を増大することにより、「内部潤滑」(“internal lubrication”)が一層よくなることによる密度の増大が潤滑剤の体積増大により逆転する点で、望ましくない副作用が起きる。従って、一層効果的な潤滑剤を選択することが、一層よい選択になるであろう。しかし、これは、効果的な潤滑剤は混合物の粉末特性に悪影響を与える傾向があるため、困難な作業になることが判明している。
【0004】
現在用いられている潤滑剤を、一層効果的にするように組合せ又は使用する新しい方法を探すことは更に別な可能性のある方法になるであろう。本発明は、そのような現在使用されている潤滑剤の新規な組合せに関する。本発明の概念は、勿論現在使用されている既知の潤滑剤に限定されるものではなく、将来の潤滑剤にも適用できるものである。
【0005】
本発明により、新しい潤滑剤を一層効果的にする方法は、
第一及び第二の潤滑剤粉末を選択するステップ、
前記潤滑剤粉末を混合するステップ、及び
前記混合物を、前記第一潤滑剤の粒子に前記第二潤滑剤の粒子を付着させる条件にかけて、前記第一潤滑剤のコア(core)を有し、然も、前記コアの表面が前記第二潤滑剤の粒子で被覆されている凝集粒子からなる潤滑剤複合物を形成するステップ、
を有する。
【0006】
第一潤滑剤の主たる目的は、粉末に良好な潤滑特性を付与し、それにより一層大きな密度及び低い放出力(ejection force)を与えることにあるのに対し、第二潤滑剤の主たる目的は、大きな流速(流動度)(flow rate)及びダイの均一な充填のような良好な粉末特性を有する金属粉末混合物を与えることにあり、そのことは今度は大きな生産性を与え、圧縮部品に均一な密度分布を与えることになる。
【0007】
第一潤滑剤の群の中に入る潤滑剤の例は、脂肪酸ビス−アミド、例えば、エチレン−ビス−パルミチンアミド(palmitinamide)、エチレン−ビス−ステアルアミド(stearamide)、エチレン−ビス−アラキンアミド(arachinamide)、エチレン−ビス−ベヘンアミド(behenamide)、ヘキシレン−ビス−パルミチンアミド、ヘキシレン−ビス−ステアルアミド、ヘキシレン−ビス−アラキンアミド、ヘキシレン−ビス−ベヘンアミド、エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアルアミド、ジステアリルアジパミド(distearyladipamide)等、及び脂肪酸モノアミド、例えば、パルミチンアミド、ステアルアミド、アラキンアミド、ベヘンアミド、オレイアミド(oleiamide)である。更に、第一潤滑剤は、二種類以上の潤滑剤の固体混合物を含んでいてもよい。
【0008】
第二潤滑剤は、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムのような金属石鹸からなる群から選択することができる。
【0009】
潤滑剤(一種又は複数種)の粒子は、球形が最も大きな流速及び見かけの密度を与えるので、できるだけ球形に近いのが好ましい。
【0010】
更に、第一潤滑剤は、第二潤滑剤よりも大きな平均粒径を有するのが好ましい。特に、第一潤滑剤の平均粒径は、第二潤滑剤の平均粒径よりも2〜3倍大きく、最も特別には、第一潤滑剤の平均粒径が少なくとも15μmで、第二潤滑剤が最大で6μmの平均粒径しかもたないことが好ましい。更に、第一潤滑剤の量は、全潤滑剤複合物の60〜90重量%になるのが好ましいことが判明している。
【0011】
潤滑剤粒子を付着させるための条件を与える一つの方法には、第一潤滑剤の粒子と第二潤滑剤の粒子との物理的結合を達成するのに充分な温度及び時間で、第一及び(又は)第二の潤滑剤粒子を加熱することが含まれる。
【0012】
金属粉末と混合した時、潤滑剤複合物と、場合により加えた慣用的固体潤滑剤との濃度は、0.1〜5重量%の範囲にあるのが適切であり、好ましくは0.3〜1重量%の範囲にある。
【0013】
問題の金属粉末は、鉄系粉末(iron based powder)であるのが好ましい。鉄系粉末の例は、鉄基合金粉末であり、例えば、予め合金化した鉄粉末、又は鉄粒子に合金化用元素(alloying element)が拡散結合した(diffusion-bonded)鉄粉末である。鉄系粉末は、本質的に純粋な鉄粉末と、例えば、Ni、Cu、Cr、Mo、Mn、P、Si、V及びWからなる群から選択された合金化用元素との混合物であってもよい。異なった合金用元素の種々の量は、0〜10、好ましくは1〜6重量%のNi、0〜8、好ましくは1〜5重量%のCu、0〜25、好ましくは0〜12重量%のCr、0〜5、好ましくは0〜3重量%のMo、0〜1、好ましくは0〜0.6重量%のP、0〜5、好ましくは0〜2重量%のSi、0〜3、好ましくは0〜1重量%のV、及び0〜10、好ましくは0〜4重量%のWである。
【0014】
鉄系粉末は、噴霧した粉末又はスポンジ状(sponge)鉄粉末でもよい。
【0015】
鉄系粉末の粒径は、焼結生成物の最終的用途に依存して選択される。
【0016】
従って、本発明による潤滑剤複合物は、一種類の第一潤滑剤のコアを有する表面変性潤滑剤であり、この場合、コア表面が第二潤滑剤の粒子で被覆されている。この潤滑剤複合物と、同じ潤滑剤の物理的混合物とを比較すると、潤滑剤複合物の特性の方が優れていることが示されている。同じことは、同じ潤滑剤を溶融し、次に固化した混合物についても当てはまる。
【0017】
次の例により本発明を例示するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0018】
(実施例)
異なった方法により製造された潤滑剤組成物を用いることにより鉄粉末組成物を製造した。それら潤滑剤は、約145℃の融点を有するエチレン−ビス−ステアルアミド〔ドイツ、クラーリアント(Clariant)AGからHoechst Wachsとして入手できるEBS〕80%、約130℃の融点を有するステアリン酸亜鉛〔英国メグレット(Megret)から入手できる〕20%の共通の配合物からなっていた。全潤滑剤含有量は、全ての場合で0.8重量%であった。鉄粉末はASC 100.29〔スウェーデン、Hoganas ABから入手できる〕であり、0.5重量%の黒鉛を、鉄粉末及び潤滑剤と混合した。
【0019】
第一潤滑剤組成物は、30μmより小さい平均粒径まで二種類の成分を別々に粉砕し、次に鉄粉末混合物へ混合することにより製造した。
【0020】
第二潤滑剤組成物は、最初にそれら潤滑剤を一緒に溶融し、固化し、次に上で述べたように、粉砕し、鉄粉末混合物へ混合することにより製造した。
【0021】
添加したステアリン酸亜鉛粒子の部分的溶融が起きる温度へEBS粒子を加熱することをとおして、EBSの表面にステアリン酸亜鉛粒子を付着させることにより第三潤滑剤を製造した。それら粒子間の安定な機械的結合がこのようにして達成され、大きなEBS粒子は小さなステアリン酸亜鉛粒子により本質的に被覆されていた。この場合も粒径は約30μmより小さかった。
【0022】
混合した後、鉄粉末組成物の粉末特性は、ホールフロー(Hall Flow)、見掛けの密度(Apparent density)、及び充填指数(Filling index)を含めて特徴付けられた。充填指数は、異なった幾何学的形態の二つの空洞の間の充填密度(filling density)(FD)の相対的差の尺度である。空洞の長さ及び深さが同じ(夫々30mm及び30mm)である一方、一つの空洞は13mmの幅を有し、他は2mmの幅を持っていた。幅の広い空洞の方が大きな充填密度を与え、充填指数は次のように定義される:
充填指数(%)=(FDmax−FDmin)/FDmax
【0023】
理論的には、充填指数は、上に記載したような同じ幾何学的形態の空洞を有し、すなわち異なったスリット幅、例えば13mmと2mmの部分を有する空洞内に粉末をプレスした場合に得られた未焼成密度(green density)の相対的差とほぼ同じである。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に与えた結果から、本発明によりステアリン酸亜鉛によるEBS潤滑剤の変性は、別々の成分を物理的に混合して粉末混合物にするか、又は一緒に溶融し、微粒化(micronize)した潤滑剤組成物を添加することによる従来の方法と比較して、粉末の性質に価値のある利点を与えることが明らかである。流速は増大し、見掛け密度は上昇する。更に、一層均一な充填が達成され、それは主成分としてEBS又は或る他の凝集性潤滑剤を含有する慣用的潤滑剤を用いて作られた混合物と比較して、複雑なプレス部品で一層均一な密度分布を与えるものと予想される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の潤滑剤粉末をエチレン−ビス−パルミチンアミド、エチレン−ビス−ステアルアミド、エチレン−ビス−アラキンアミド、エチレン−ビス−ベヘンアミド、ヘキシレン−ビス−パルミチンアミド、ヘキシレン−ビス−ステアルアミド、ヘキシレン−ビス−アラキンアミド、ヘキシレン−ビス−ベヘンアミド、エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアルアミド、ジステアリルアジパミド、パルミチンアミド、ステアルアミド、アラキンアミド、ベヘンアミド、オレイアミド、又はそれらの組合せから成る群から選択し、第二の潤滑剤粉末をステアリン酸亜鉛又はステアリン酸リチウムから成る群から選択するステップであって、前記第一潤滑剤が、潤滑剤複合物の60〜90重量%を占め、前記第一潤滑剤は、前記第二潤滑剤よりも大きな平均粒径を有し、
前記潤滑剤粉末を混合するステップ、及び
前記混合物を、前記第一潤滑剤の粒子に前記第二潤滑剤の粒子を付着させる加熱をともう条件にかけて、前記第一潤滑剤のコアを有し、然も、前記コアの表面が前記第二潤滑剤の粒子で被覆されている凝集粒子からなる潤滑剤複合物を形成するステップ、
を含む、潤滑剤複合物の製造方法。
【請求項2】
潤滑剤粒子を互いに付着させるための条件が、第一及び(又は)第二の潤滑剤粒子を、前記第一潤滑剤粒子と前記第二潤滑剤粒子とを物理的に結合させるのに充分な温度及び時間で加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一及び第二の潤滑剤粒子が球形である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第一潤滑剤が、少なくとも15μmの平均粒径を有し、第二潤滑剤が最大で6μmの平均粒径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第一潤滑剤が、二種類以上の潤滑剤の固体混合物を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第一潤滑剤のコアを有し、そのコアの表面が第二潤滑剤の粒子で被覆されており、第一の潤滑剤はエチレン−ビス−パルミチンアミド、エチレン−ビス−ステアルアミド、エチレン−ビス−アラキンアミド、エチレン−ビス−ベヘンアミド、ヘキシレン−ビス−パルミチンアミド、ヘキシレン−ビス−ステアルアミド、ヘキシレン−ビス−アラキンアミド、ヘキシレン−ビス−ベヘンアミド、エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアルアミド、ジステアリルアジパミド、パルミチンアミド、ステアルアミド、アラキンアミド、ベヘンアミド、オレイアミド、又はそれらの組合せから成る群から選択され、第二の潤滑剤はステアリン酸亜鉛又はステアリン酸リチウムから成る群から選択され、前記第一潤滑剤が、潤滑剤複合物の60〜90重量%を占め、前記第一潤滑剤は、前記第二潤滑剤よりも大きな平均粒径を有する、凝集潤滑剤粒子からなる潤滑剤複合物。

【公開番号】特開2010−265454(P2010−265454A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108409(P2010−108409)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2001−541156(P2001−541156)の分割
【原出願日】平成12年12月1日(2000.12.1)
【出願人】(595054486)ホガナス アクチボラゲット (66)
【Fターム(参考)】