説明

潤滑性部材及びその製造方法

【課題】従来の固体潤滑剤を用いた摺動部品では、潤滑特性も悪く、固体潤滑剤の硬さにより摺動面にかじり等の損傷が起こり易いという問題があった。
【解決手段】本発明の潤滑性部材1は、少なくとも熱可塑性樹脂のポリアミド樹脂と、超高分子量ポリエチレンと、潤滑油とを混合し、径方向(D)よりも長さ方向(L)に長い棒状体に成形される。そして、潤滑性部材1の外周面には、主に、ポリアミド樹脂からなる膜2が形成され、膜2の内側には、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶が、潤滑性部材1の長さ方向(L)に延在し、複数の孔が形成される。この構造により、機械的強度や潤滑特性を維持しつつ、加工性に優れた潤滑性部材1が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、潤滑油を包含する棒状体の潤滑性部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のオイルレス軸受の一実施例として、図6に示すものが知られている。図6に示す如く、オイルレス軸受21は、例えば、金属を円筒状に加工し形成され、オイルレス軸受21の壁面22の内側には複数の孔23が形成される。尚、孔23は、壁面22を貫通しない程度の凹部である。そして、孔23には、円柱状の固体潤滑剤24が埋設される。固体潤滑剤24は、例えば、無定形炭素を2500〜3000℃に加熱(黒鉛化)して得られる人造黒鉛を主として形成される。その結果、固体潤滑剤24は、熱に強く、熱による膨張率が小さく、耐熱衝撃性や耐薬品性が高い特性を有する。この構造により、オイルレス軸受21の壁面22の内面とシャフトとの間には固体潤滑剤(黒鉛)の被膜が形成され、ブッシュ等による給油機構を省略することも可能となる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、従来の固体潤滑剤の埋め込まれた金型の一実施例として、図7に示すものが知られている。図7に示す如く、金型31は、例えば、固定金型32、従動金型33及び移動金型34とから構成される。そして、固定金型32と従動金型33の摺接部分では、例えば、固定金型32の摺動面に多数の埋設用固定孔35が形成され、その埋設用固定孔35には、固体潤滑剤36が埋設される。固体潤滑剤36は、例えば、黒鉛を主成分とした結合材を焼成したものであり、その上面側が摺動面へと露出する。そして、固定金型32と従動金型33の摺動面は、それぞれ固体潤滑剤(黒鉛)の被膜が形成される。同様に、従動金型33と移動金型34の摺動面にも同様な構造が実現される(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、従来の潤滑性組成物の一実施例として、下記に説明する構造が知られている。潤滑性組成物は、熱硬化性樹脂のモノマーあるいはプリポリマーに、潤滑油あるいはその潤滑油を基油とするグリース及び高給油性高分子を重合し、その重合物を熱硬化させることで形成される。そして、潤滑性組成物の配合割合は、潤滑油あるいはグリースの全量に対して、熱硬化性樹脂が10〜90wt%、好ましくは20〜50wt%であり、一方、高給油性高分子は配合量が多くなるほど潤滑油やグリースの保持量が多くなるが、概ね5〜30wt%であれば実用上充分であると開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−57424号公報(第4−6頁、第1、5−7図)
【特許文献2】特開2001−246625号公報(第2−3頁、第1−2図)
【特許文献3】特開平7−118684号公報(第3−5頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、図6に示すオイルレス軸受21では、摺動面となる壁面22に複数の孔23が形成され、その孔23は、固体潤滑剤24により埋設される。そして、固体潤滑剤24の主成分である黒鉛が、摺動面を被覆することで、摺動部材間の潤滑性能を維持している。また、図7に示す金型31においても、同様に、例えば、黒鉛を主成分とした結合材を焼成した固体潤滑剤36を用いることで、黒鉛が、摺動面を被覆し、摺動部材間の潤滑性能を維持している。
【0007】
しかしながら、オイルレス軸受21及び金型31においても、固体潤滑剤24、36内には、潤滑油が包含されてなく、摺動面に潤滑油やグリースを供給する場合と比較して、固体潤滑剤24、36自体が硬く、皮膜となる潤滑剤の供給性能が低いという問題がある。また、潤滑剤の供給性能が低くなることで、摺動面に皮膜の形成されない領域が発生し、その領域では焼き領域と成り易く、その焼き領域にかじりが発生する場合もあるという問題がある。また、欠けた固体潤滑剤24、36の塊が摺動面に存在することで、摺動面が破損するという問題もある。
【0008】
また、固体潤滑剤24、36が硬いために生じる前述した課題に対して、熱硬化性樹脂を用いて潤滑性組成物を形成する場合もある。熱硬化性樹脂を用いることで、固体潤滑剤24、36と比較して摺動面のかじりは低減し、潤滑油の包含量も増大する。しかしながら、熱硬化性樹脂を用いた潤滑性組成物は、固体潤滑剤24、36と比較して柔らかく、図6及び図7に示すように、摺動面に露出した状態で使用する場合には欠ける可能性もある。この場合には、熱硬化性樹脂は、潤滑特性が悪く、その欠けた塊が摺動面に存在すると、摺動面に貼り付き、摺動特性を劣化させる問題がある。更に、その塊が摩擦熱により摺動面にて炭化すると、その炭化層により摺動面が破損される問題もある。
【0009】
最後に、潤滑油を含有し、樹脂から成り、耐熱性や耐久性を有する潤滑性組成物において、長い棒状体に成形され、摺動面の孔の深さに応じて、その棒状体の潤滑性組成物を切断しながら、その孔内に潤滑性組成物を埋設するようなものは、業界内のニーズはあるが、高温環境対応の商品として実現されていないという現実がある。例えば、熱硬化性樹脂を用いた場合には、成形品が硬くなり過ぎてしまい、加工性が悪いという問題がある。また、長い棒状体に加工する際に、潤滑油が全体に均一に含有され難く、切断面に応じて潤滑特性が異なるという問題がある。また、材料の配合割合や製造条件により長い棒状体に加工することが難しいという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した各事情に鑑みて成されたものであり、本発明の潤滑性部材では、少なくとも潤滑油と、超高分子量ポリエチレンと、前記超高分子量ポリエチレンよりも高融点である熱可塑性樹脂とを混合し、径方向よりも長さ方向に長い棒状体に成形した潤滑性部材において、前記熱可塑性樹脂は、前記棒状体の径方向の周囲では密な状態に結晶化した膜を形成し、前記膜の内側では繊維状態に結晶化し、前記繊維状態の結晶間に形成される複数の孔は、前記潤滑油及び前記潤滑油を保持した前記超高分子量ポリエチレンの結晶体を包含することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の潤滑性部材の製造方法では、少なくとも超高分子量ポリエチレンの粒状材料と、前記超高分子量ポリエチレンよりも高融点である熱可塑性樹脂の粒状材料と、液状の潤滑油とを混合し、前記混合物を径方向よりも長さ方向に長いキャビティを有する金型内に充填し、前記キャビティの長さ方向に対して圧力を加えた状態にて前記金型を加熱した後、前記キャビティ内の前記混合物に前記熱可塑性樹脂の融点以上の熱を加えた後、前記金型を冷却し、前記混合物を棒状体へと成形し、前記熱可塑性樹脂は、前記棒状体の径方向の周囲では密な状態に結晶化した膜を形成し、前記膜の内側では繊維状態に結晶化し、前記繊維状態の結晶間に形成される複数の孔は、前記潤滑油及び前記潤滑油を保持した前記超高分子量ポリエチレンの結晶体を包含することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、潤滑油を包含し、潤滑特性を有する熱可塑性樹脂を用いることで、潤滑特性を維持しつつ、耐熱性、耐久性に優れた潤滑性部材が実現される。
【0013】
また、本発明では、潤滑性部材の外周面が、密な結晶状態の熱可塑性樹脂で被覆されることで、形状を維持し易く、長さ方向への潤滑油の供給に優れた潤滑性部材が実現される。
【0014】
また、本発明では、熱可塑性樹脂が、径方向よりも長さ方向に向かって繊維状態に結晶化し複数の孔が形成されることで、潤滑性部材が包含する潤滑油が増大し、より均一に潤滑油が包含される。
【0015】
また、本発明では、潤滑性部材が、超高分子量ポリエチレンを2〜13wt%包含することで、潤滑性部材の機械的強度を維持しつつ、その加工性が向上される。
【0016】
また、本発明では、潤滑性部材が円柱形状に成形されることで、摺動面への加工性が向上し、摺動面への潤滑性部材の設置作業も容易となる。
【0017】
また、本発明では、金型のキャビティ内の混合物に対して、その長さ方向から圧力を加えた状態にて熱処理を行うことで、棒状体に加工された潤滑性部材が成形される。
【0018】
また、本発明では、金型のキャビティを円筒形状とすることで、放熱性をより均一化し、加工形状に優れた潤滑性部材が成形される。
【0019】
また、本発明では、弾性機構を用いてキャビティ内の混合物の状態に応じて金型の開閉栓の移動を調整することで、長さ方向に長い潤滑性部材が成形される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における潤滑性部材を説明する(A)断面図、(B)写真、(C)概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における潤滑性部材の使用状況の一例を説明する(A)斜視図、(B)斜視図、(C)斜視図、(D)斜視図、(E)斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態における潤滑性部材の実験例を説明する(A)写真、(B)写真、(C)写真である。
【図4】本発明の実施の形態における潤滑性部材の実験例を説明する(A)写真、(B)写真、(C)写真である。
【図5】本発明の実施の形態における潤滑性部材を説明する断面図である。
【図6】従来の実施の形態におけるオイルレス軸受を説明する斜視図である。
【図7】従来の実施の形態における固体潤滑剤の埋め込まれた金型を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施の形態である潤滑性部材について説明する。図1(A)は、本実施の形態の潤滑性部材を説明する平面図である。図1(B)は、本実施の形態の潤滑性部材を写した写真である。図1(C)は、本実施の形態の潤滑性部材を説明する概略図である。図2(A)〜図2(E)は、本実施の形態の潤滑性部材の使用方法の一例を説明する斜視図である。図3(A)〜図3(C)及び図4(A)〜図4(C)は、潤滑性部材の実験実施例の結果を写した写真である。
【0022】
図1(A)に示す如く、潤滑性部材1は、径方向(D)よりも長さ方向(L)に長い棒状体として成形される。以下の説明では、潤滑性部材1は、円柱形状として説明するが、円柱形状に限定するものでなく、径方向の断面が三角形、四角形等の多角形状の棒状体でも良い。
【0023】
先ず、潤滑性部材1は、例えば、少なくとも熱可塑性樹脂と、超高分子量ポリエチレンと、潤滑油とを混合し、その混合物を金型内に充填した後、その混合物に圧力を加えた状態にて加熱し、冷却することで成形される。図示したように、潤滑性部材1は、径方向(D)の寸法は、4.2mm〜12.2mmの範囲で設計され、長さ方向(L)の寸法は、30.0mm〜200.0mmの範囲で設計される。尚、使用用途に応じて、径方向(D)、長さ方向(L)の寸法は、任意の設計変更が可能である。
【0024】
次に、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂が用いられ、例えば、ナイロン6(東レ株式会社製)やナイロン66(宇部興産株式会社製)が用いられる。ナイロン6微粒子は、平均粒径が13μm(TR−1)、20μm(TR−2)であり、シャープな粒度分布にて特長的なポーラス(多孔質)形状であり、優れた給油性や水への分散性を有し、高い耐熱性を有する。そして、ポリアミド樹脂は、潤滑性部材1の骨組みを構成し、その融点が230℃〜260℃と高く、潤滑性部材1の耐熱性や耐久性を向上させ、摺動面が200℃前後の高温状態となった場合でも使用可能となる。また、上記ポリアミド樹脂は、熱硬化性樹脂と比較して、機械的強度が悪化することなく、給油性を有し潤滑剤としても機能するため、ポリアミド樹脂の欠けた塊が摺動面に存在する場合でも、摺動面に貼り付き、摺動特性を劣化させることはない。また、その塊が、摺動動作中に摩擦熱により炭化し、その炭化層により摺動面が破損されることもない。尚、ポリアミド樹脂としては、その他、、ナイロン12、PET等も使用することが出来る。
【0025】
次に、超高分子量ポリエチレンとしては、例えば、ハイゼックスミリオン(三井化学株式会社製)やミペロン(三井化学株式会社製)が用いられる。ハイゼックスミリオンは、平均粒径が150〜200μm、平均分子量が50万〜600万の超高分子量ポリエチレンであり、優れた機械特性を有する。また、ミペロンは、平均粒径が25〜30μm、平均分子量が150万〜300万の超高分子量ポリエチレンであり、優れた潤滑性や耐摩耗性を有する。そして、超高分子量ポリエチレンの融点は、130℃前後である。
【0026】
次に、潤滑油としては、ポリアルファオレフィンとエステルとの混合液を用いる。その他、潤滑油としては、炭化水素系のαオレフィンオリゴマー等、エステル系のポリフェニルエステル等、エステル系のエチルヘキシルセバゲート等、シリコーン系のポリシロキサン等、フッ素系のフルオロカーボン等も使用できる。また、潤滑油として、オリーブ油等の植物油やラード等の動物油を用いて潤滑性部材1を成形することもでき、この場合には、食品加工機械の摺動面に潤滑性部材1を用いることも可能となる。
【0027】
その他、潤滑性部材1には、黒鉛粉末等の固体潤滑剤、グラファイト、二硫化モリブデンが含有され、これらの材料が潤滑油に混合し摺動面を被膜することで、摺動部品間の摺動性が更に向上される。
【0028】
図1(B)に示す如く、潤滑性部材1の径方向(D)の側面は、ポリアミド樹脂と超高分子量ポリエチレンとの融点の差により、主に、ポリアミド樹脂が密な状態に結晶化した膜2にて覆われる。そして、潤滑性部材1の膜2内側では、冷却状況に応じてポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンが、主に、繊維状態に結晶化し、その結晶構造間に複数の孔3が形成される。複数の孔3には、それぞれ潤滑油や潤滑油をその結晶化内に貯蔵する超高分子量ポリエチレンが包含される。
【0029】
図1(C)に示す如く、潤滑性部材1は、冷却状況に応じて円柱側面の表面側から中央側へと年輪状に複数の層を積層するように結晶化する。詳細は後述するが、金型のキャビティを円筒形状とし、金型内の温度をポリアミド樹脂の融点以上に加熱した後冷却することで、冷却速度に応じて、前述した年輪状の層が形成されると推測される。尚、各層間は、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶により連結している。
【0030】
具体的には、膜2の層は、ポリアミド樹脂が密な状態に結晶化した複数の板状の結晶層4が、潤滑性部材1の長さ方向に隣接して結晶化していると推測される。そして、説明の都合上、図では結晶層4間の隙間5を広く描いているが、実際はその隙間5は狭く、その隙間5には、内側の層6からの繊維状態の結晶や近傍の結晶層4からの繊維状態の結晶が形成されていると推測される。前述したように、膜2の層では、融点の差により、主に、密な状態のポリアミド樹脂の結晶層が形成され、滑らかであり、しなやかな面となることで、径方向(D)への潤滑油の漏れを最小限に抑え、潤滑性部材1の長さ方向(L)への潤滑油の供給量を増大させる機能も果たす。
【0031】
次に、膜2の層の内側の層6においても、膜2の層と同様に、複数の板状の結晶層7が、潤滑性部材1の長さ方向に隣接して結晶化していると推測される。結晶層7では、結晶層4と比較して結晶状態が粗な状態となる。これは、温度のゆっくりとした低下によりポリアミド樹脂の結晶化が、超高分子量ポリエチレンの連鎖により単独の結晶化が阻害され、両結晶が絡み合いながら結晶するからと推測される。その結果、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンが、塊としてそれぞれ密な状態に結晶化することを抑止し、結晶層7内に複数の孔3を有する構造が実現されると推測される。
【0032】
このとき、詳細は後述するが、金型のキャビティに対して、円筒形状の長さ方向に圧力を加えた状態にて加熱作業及び冷却作業を行うことで、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶が、潤滑性部材1の径方向(D)よりも長さ方向(L)へ延在する。この構造により、繊維状態の結晶間に形成される孔3も潤滑性部材1の長さ方向(L)に縦長の空洞となり易く、孔3に貯蔵される潤滑油は、潤滑性部材1の長さ方向(L)へと供給され易い構造となる。
【0033】
次に、図示していないが、層6の内側にも年輪状に複数の層が積層して形成され、同様に、各層を構成する結晶層においても、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶が、潤滑性部材1の長さ方向(L)に絡み合いながら延在し、複数の孔3が形成される。その孔3内には、主に、超高分子量ポリエチレンの結晶内に包含しきれない潤滑油が貯蔵される。そして、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンが繊維状態の結晶となることで、複数の孔3同士が、径方向(D)に連続し易く、潤滑油が孔3を介して径方向(D)にも移動可能であり、潤滑性部材1に対して潤滑油の均一化が実現される。
【0034】
尚、図示していない領域を含み、膜2の層の内側に形成される結晶層4、7では、複数の繊維状体の結晶が連結し、ひだ状態の結晶体となり、潤滑性部材1の径方向(D)よりも長さ方向(L)へ延在し、その結晶間に複数の孔3を形成する場合もある。また、各層を形成する結晶層の大きさや径方向(D)の厚みは、冷却速度により各層において異なっている。
【0035】
次に、図2(A)〜図2(E)を用いて、潤滑性部材1の使用例を説明する。
【0036】
図2(A)に示す如く、摺動プレート8の摺動面に対してドリル9等により円柱状の孔10を形成する。尚、加工機械の摺動面に対して、ドリル9等により、直接、孔10を形成する場合でも良い。次に、図2(B)に示す如く、孔10の深さよりも長くなるように、カッター11等により潤滑性部材1を径方向(D)に沿って切断する。このとき、潤滑性部材1は、孔10と同等か、若干、孔10の径より大きいものが使用される。次に、図2(C)に示す如く、摺動プレート8の孔10に対して切断した潤滑性部材1A、1Bを埋め込む。次に、図2(D)に示す如く、孔10からはみ出した潤滑性部材1A、1Bを摺動プレート8の摺動面に沿って切断し、図2(E)に示す如く、潤滑性部材1A、1Bの露出面が、実質、摺動面と同一面になるようにする。
【0037】
前述したように、潤滑性部材1の膜2が、機械的強度を維持しつつ、薄膜にて形成され、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶が、潤滑性部材1の長さ方向(L)に延在することで、潤滑性部材1を径方向(D)に沿って切断加工し易くなる。そして、切断された潤滑性部材1A、1Bは、径方向(D)の切断面が摺動面に対して露出するが、潤滑油を包含する孔が、摺動プレート8の孔10の深さ方向に配置されることで、摺動面に対して潤滑油が段々と供給され、使用期間の長期化が実現される。
【0038】
更に、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶が、潤滑性部材1の長さ方向(L)に延在することで、潤滑性部材1A、1Bの露出面では、個々の繊維状またはひだ状の結晶体の幅は狭くなる。その結果、潤滑性部材1A、1Bの露出面には、複数の繊維状またはひだ状の結晶体が露出することで、摺動部品との接触面積が低減し、摺動部品の動きに対してしなやかに対応でき、摺動部品から受ける機械的ストレスが大幅に低減される。
【0039】
更に、潤滑性部材1が、円柱形状となることで、摺動プレート8の摺動面に対してドリル9等により孔10を形成するが、その孔10の加工形状も容易となり、潤滑性部材1を取り付ける際の加工性も容易となる。
【0040】
更に、潤滑性部材1の側面からの潤滑油の漏れが抑制することで、潤滑性部材1が孔10から抜け難くなる構造が実現できる。
【0041】
【表1】

【0042】
上記表1では、潤滑性部材1に対し、潤滑油(ポリアルファオレフィンとエステルとの混合液)を60wtパーセントに固定し、ポリアミド樹脂(ナイロン6)と超高分子量ポリエチレン(ミペロン)との配合量を替えながら実施例1〜実施例17を行い、その加工性及び耐熱性の観点から検証する。尚、耐熱性とは、成形された潤滑性部材を切断し、摺動面に埋め込み、実際に摺動試験した結果の状態から判断する。
【0043】
実施例1では、図3(A)に示すように、ナイロン6が、潤滑油と分離して結晶化し、棒状体(円柱形状)として成形することが出来ない結果となった。尚、ナイロン6の結晶部分は、密な状態に結晶化し、硬くなり、例えば、カッターでの径方向(D)への切断加工を行うことが出来なかった。
【0044】
実施例2では、超高分子量ポリエチレンを1.0wt%含有することで、棒状体として成形することが出来るが、ナイロン6の膜2(図1(B)参照)部分が厚く、例えば、カッターでの径方向(D)への切断加工が出来なかった。尚、実施例1、2では、切断加工が出来ず、耐熱性を検証出来なかった。
【0045】
実施例3では、超高分子量ポリエチレンを1.5wt%含有するが、図3(B)に示すように、ナイロン6の含有量が多く、ナイロン6の結晶状況に応じて径方向(D)への切断加工を行える箇所と行えない箇所が存在する。また、図示したように、潤滑性部材の中央領域に引け巣が発生する。これは、超高分子量ポリエチレンの含有量が少なく単一結晶化を抑止出来ないためと推測される。尚、ナイロン6の含有量が多く、摺動試験後も形状が崩れることなく、耐熱性は問題ない。
【0046】
実施例4〜実施例7では、超高分子量ポリエチレンの含有量が2.0〜4.5wt%であり、任意の断面において径方向(D)への切断加工を行える。そして、ナイロン6の含有量が多く、摺動試験後も形状が崩れることなく、耐熱性も問題ない。
【0047】
実施例8〜実施例10では、超高分子量ポリエチレンの含有量が5.5〜10.0wt%と増え、図4(A)に示すように、ナイロン6の膜2の厚みが適度に薄膜となり、任意の断面において径方向(D)への切断加工を行え、その切断加工性も向上した。そして、ナイロン6の含有量も問題なく、摺動試験後も形状が崩れることなく、耐熱性も問題ない。尚、図4(B)に示すように、潤滑性部材の膜2の内側において、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶が見られ、適度の大きさの孔も存在している。
【0048】
実施例11〜実施例13では、超高分子量ポリエチレンの含有量が11.0〜13.0wt%であり、任意の断面において径方向(D)への切断加工を行え、その切断加工性も向上した。そして、超高分子量ポリエチレンの含有量が増大するが、摺動試験後も形状が崩れることなく、耐熱性も問題ない。尚、実施例8〜実施例10と比較すると、摺動試験後の超高分子量ポリエチレンの流出量が増え、潤滑性部材の中央領域に窪みが発生するが問題ない。
【0049】
実施例14では、超高分子量ポリエチレンの含有量が13.5wt%であり、任意の断面において径方向(D)への切断加工を行え、その切断加工性も向上した。その一方で、摺動動試験後の超高分子量ポリエチレンの流出量が増え、図4(C)の丸印Aでは、潤滑性部材の中央領域に窪みが発生し、また、丸印Bでは、潤滑性部材の中央領域に膨らみが発生し、摺動性を阻害する形状となり、耐熱性に劣る。
【0050】
実施例15〜実施例17では、超高分子量ポリエチレンの含有量が14.0〜16.5wt%であり、任意の断面において径方向(D)への切断加工を行え、その切断加工性も向上した。その一方で、摺動動試験後の超高分子量ポリエチレンの流出量が実施例14と比較しても更に増え、摺動性を阻害する形状となり、耐熱性に問題がある。
【0051】
以上の実験の実施例1〜実施例17の結果により、超高分子量ポリエチレンの含有量が2.0〜13.0wt%の場合には、加工性及び耐熱性からも適した潤滑性部材が成形されることが検証された。その一方で、超高分子量ポリエチレンの含有量が2.0wt%未満の場合には加工性に問題があり、超高分子量ポリエチレンの含有量が13.0wt%より多く含まれる場合には耐熱性に問題があり、所望の特性を有する潤滑性部材を成形し難いことが検証された。
【0052】
尚、本実施の形態では、潤滑性部材1の膜2の層が1層から成る場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、冷却温度や冷却方法等の調整により、膜2の層が多層となる場合でも良い。前述したように、膜2の層が厚膜化することで、潤滑性部材1の切断加工性が悪くなるため、潤滑性部材1の機械的強度や加工性等が比較考慮され、任意の設計変更が可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【0053】
次に、本発明の他の実施の形態である潤滑性組成物の製造方法について説明する。図5(A)〜図5(C)は、本実施の形態の潤滑性部材の製造方法を説明する断面図である。
【0054】
先ず、熱可塑性樹脂としてナイロン6の粒状粉体と、超高分子量ポリエチレンとしてミペロンの粒状粉体と、潤滑油としてポリアルファオレフィンとエステルとの混合液とを準備し、常温にて混合し、ゲル状態の混合物を形成する。図5(A)に示す如く、この混合物を攪拌しながら混合物内に含まれた空気を十分に抜き、この混合物13を金型12のキャビティ14内へと充填し、キャビティ14を遮蔽する。尚、キャビティ14は円筒形状である。
【0055】
このとき、開閉栓15には、プッシャー機構16が連結し、矢印17にて示す如く、キャビティ14内にはその長さ方向に対し、プッシャー機構16により一定の圧力が加えられる。そして、プッシャー機構16には、バネ等から成る弾性機構18を有し、混合物13の状態に応じて開閉栓15が長さ方向に可動する。尚、締めネジ機構19により、プッシャー機構16自体の取付位置は固定されるが、開閉栓15及び弾性機構18が可動する。
【0056】
その後、金型12を加熱炉内に配置し、キャビティ14内の混合物13が融解する温度(少なくともナイロン6の融点以上の温度)まで金型12を加熱する。
【0057】
次に、図5(B)は、加熱時の金型12の状況を示す。混合物13は、ナイロン6の融点以上の温度まで加熱された後、加熱炉内にて45分〜60分程度養成される。このとき、混合物13は膨張し、開閉栓15は弾性機構18を押圧し、キャビティ14の外部側へと移動する。尚、この状態においても、混合物13には、矢印17に示すように、プッシャー機構16により一定の圧力が加えられている。
【0058】
次に、金型12は加熱炉から取り出され、作業室内に置かれ、例えば、空冷にて室温まで冷却される。図5(C)は、冷却時の金型12の状況を示すが、混合物13が収縮することで、開閉栓15は弾性機構18により押圧され、キャビティ14の内部側へと移動する。このとき、混合物13には、プッシャー機構16及び弾性機構18により圧力が加えられている。最後に、金型12内から潤滑性部材を離型し、完成する。
【0059】
前述したように、金型12内の混合物13に対し、キャビティ14の長さ方向に圧力を加えた状態にて加熱作業及び冷却作業を行うことで、前述したように、ポリアミド樹脂や超高分子量ポリエチレンの繊維状態の結晶が、主に、潤滑性部材1の長さ方向(L)に延在し、複数の孔3が形成されると推測される。そして、その孔3も長さ方向(L)へ広がる形状となり易く、潤滑性部材1の使用期間の長期化が実現される。
【0060】
また、金型12が、キャビティ14の円筒形状と同様に、円柱形状にて形成され、放熱し易い形状となることで、キャビティ14内の混合物13は、径方向(D)の外周側から冷却される。その結果、潤滑性部材1の最外周には、主に、密な結晶状態であり、滑らかであり、しなやかな面のナイロン6からなる膜2が形成され、潤滑性部材1の側面からの潤滑油の漏れ量を出来る限り抑止し、摺動面へ潤滑油が供給され易い構造が実現される。
【0061】
また、開閉栓15が、弾性機構18により混合物13の状態に応じて追随して移動することで、ナイロン6は硬化時に収縮する特性を有するが、潤滑性部材1の形状が円柱形状へと確実に成形される。
【0062】
尚、本実施の形態では、作業室内に金型12を置き、空冷する場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、作業室内に一定時間、金型12を空冷した後、温水により金型12を冷却し、冷却時間の短縮を図る場合でも良い。つまり、段階的に金型12を冷却することで、前述したように、潤滑性部材1内の結晶方向及び孔3の構造が実現されれば良く、冷却方法は任意の設計変更が可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 潤滑性部材
2 膜
3 孔
4 結晶層
5 隙間
6 層
7 結晶層
8 摺動プレート
10 孔
12 金型
13 混合物
14 キャビティ
15 開閉栓
16 プッシャー機構
18 弾性機構
19 締め付け機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも潤滑油と、超高分子量ポリエチレンと、前記超高分子量ポリエチレンよりも高融点である熱可塑性樹脂とを混合し、径方向よりも長さ方向に長い棒状体に成形した潤滑性部材において、
前記熱可塑性樹脂は、前記棒状体の径方向の周囲では密な状態に結晶化した膜を形成し、前記膜の内側では繊維状態に結晶化し、前記繊維状態の結晶間に形成される複数の孔は、前記潤滑油及び前記潤滑油を保持した前記超高分子量ポリエチレンの結晶体を包含することを特徴とする潤滑性部材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、前記径方向の周囲から中心に向けて複数の層を形成し、前記複数の層内では、前記繊維状態の結晶は、前記棒状体の径方向よりも長さ方向に向かって延在し、前記層間も前記繊維状態の結晶により連結することを特徴とする請求項1に記載の潤滑性部材。
【請求項3】
前記棒状体は円柱であり、前記複数の層は、前記円柱の側面に沿って円状に配置されることを特徴とする請求項2に記載の潤滑性部材。
【請求項4】
前記超高分子量ポリエチレンは、前記棒状体内に2〜13重量%含まれることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の潤滑性部材。
【請求項5】
前記潤滑油は、前記熱可塑性樹脂及び前記超高分子量ポリエチレンよりも多く前記棒状体内に包含されることを特徴とする請求項4に記載の潤滑性部材。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の潤滑性部材。
【請求項7】
少なくとも超高分子量ポリエチレンの粒状材料と、前記超高分子量ポリエチレンよりも高融点である熱可塑性樹脂の粒状材料と、液状の潤滑油とを混合し、前記混合物を径方向よりも長さ方向に長いキャビティを有する金型内に充填し、
前記キャビティの長さ方向に対して圧力を加えた状態にて前記金型を加熱した後、前記キャビティ内の前記混合物に前記熱可塑性樹脂の融点以上の熱を加えた後、前記金型を冷却し、前記混合物を棒状体へと成形し、
前記熱可塑性樹脂は、前記棒状体の径方向の周囲では密な状態に結晶化した膜を形成し、前記膜の内側では繊維状態に結晶化し、前記繊維状態の結晶間に形成される複数の孔は、前記潤滑油及び前記潤滑油を保持した前記超高分子量ポリエチレンの結晶体を包含することを特徴とする潤滑性部材の製造方法。
【請求項8】
前記キャビティは円筒状の空間であり、前記キャビティ内に充填された前記混合物に対し前記圧力を加えた状態にて前記金型を冷却し、前記混合物は、前記径方向の前記キャビティ内の外側から中心へと向けて冷却されることを特徴とする請求項7に記載の潤滑性部材の製造方法。
【請求項9】
前記金型のキャビティ内への注入部は、前記キャビティの長さ方向の端部に設けられ、前記注入部の開閉栓には前記キャビティ内へと圧力を加える押圧機構及び前記開閉蓋の動きに追随する弾性機構が配置され、
前記加熱時には、前記混合物が膨張し、前記開閉栓は前記混合物からの圧力により前記キャビティ外側へと移動し、前記冷却時には、前記混合物が収縮し、前記開閉栓は前記弾性機構の圧力により前記キャビティ内側へと移動することを特徴とする請求項8に記載の潤滑性部材の製造方法。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−92241(P2012−92241A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241371(P2010−241371)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【特許番号】特許第4819178号(P4819178)
【特許公報発行日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(395008539)株式会社タカノ (1)
【Fターム(参考)】