潤滑油の劣化検知装置及び方法、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステム
【課題】内燃機関を停止せずにリアルタイムで潤滑油の劣化診断が可能となる潤滑油の劣化検知装置及び方法、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムを提供する。
【解決手段】潤滑油の劣化検知装置50Aは、潤滑油31の循環ラインL11内を循環している潤滑油31の一部を分取ラインL1により分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51と、該分取潤滑油タンク51を密封状態とし、その後排ガス成分52をポンプP1により吸引除去する不純物除去ラインL2と、前記排ガス成分52を除去後、再度密封状態とし、その後該気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を検知する検知部54と、を具備する。
【解決手段】潤滑油の劣化検知装置50Aは、潤滑油31の循環ラインL11内を循環している潤滑油31の一部を分取ラインL1により分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51と、該分取潤滑油タンク51を密封状態とし、その後排ガス成分52をポンプP1により吸引除去する不純物除去ラインL2と、前記排ガス成分52を除去後、再度密封状態とし、その後該気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を検知する検知部54と、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油の劣化検知装置及び方法、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの潤滑油の品質及び純度が維持されることは、エンジンの耐久性を維持させるために極めて重要である。
ところで、化石燃料を使用する内燃機関であるエンジンにおいては、燃焼室、配管等を経由して燃料が潤滑油に混入するが場合がある。
そして、燃料が混入した潤滑油には、例えば粘度低下、スラッジ発生等の劣化が生じ、本来の潤滑油の機能を果たせなくなる、という問題がある。
【0003】
このため、定期的な潤滑油の交換又は定期的な抜き取り検査によって、潤滑油の劣化度を診断し必要に応じて交換を実施することが求められている。この検査は、例えば潤滑油の比重以下の所定の比重を有する浮動体を用いたフロート式の検知装置等の提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−308563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、安定的に潤滑油を交換する場合は、交換インターバルを安全側(短め)に設定する必要があり、その分潤滑油使用量が増大し、コスト増加となるという問題がある。
また、定期的に抜き取り検査をする場合は、個別に分析装置での分析を行うために、分析に時間を要する、という問題がある。この結果、内燃機関の潤滑油交換、運転制限等に分析結果を反映するまでに時間を要するので、本来の潤滑油の機能が発揮できず、問題が発生する確率が高まるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記問題に鑑み、内燃機関を停止せずにリアルタイムで潤滑油の劣化診断が可能となる潤滑油の劣化検知装置及び方法、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、潤滑油の一部を分取ラインにより分取し、気化空間を備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンクと、該分取潤滑油タンクを密封状態とし、その後排ガス成分をポンプにより吸引除去する不純物除去ラインと、前記排ガス成分を除去後、再度密封状態とし、その後該気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知する検知部と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記分取潤滑油タンクに加温手段を有することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0009】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0010】
第4の発明は、第1又は2の発明において、前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であると共に、該変色の有無を計測するカラーセンサを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0011】
第5の発明は、第1又は2の発明において、前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検知液が充填された試薬タンクと、該検知液に前記気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を散気管により導入し、検出試薬溶液の変色の有無を計測するカラーセンサとを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0012】
第6の発明は、潤滑油の一部を分取し、気化空間を備えた分取潤滑油タンクに貯留し、次いで、該分取潤滑油タンクを密封し、密封後排ガス成分を除去し、その後、分取潤滑油タンクの気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知部で検知することを特徴とする潤滑油の劣化検知方法にある。
【0013】
第7の発明は、エンジンと、エンジンの潤滑油を溜めるオイルパンと、潤滑油の循環ラインに介装され、潤滑油を浄化するオイルフィルタと、循環ラインから潤滑油の一部を分取する分取ラインと、分取ラインで分取した潤滑油の劣化状態を検知する第1乃至5のいずれか一つの潤滑油の劣化検知装置と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内燃機関を停止せずにリアルタイムで潤滑油の劣化診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
【図3】図3は、本発明に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
【図4】図4は、燃料混入率と変色域との関係図である。
【図5】図5は、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図6】図6は、実施例1に係る潤滑油中の燃料の混入による希釈度合いを計測してその対策を実施するフローチャートの一例である。
【図7】図7は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
【図8】図8はその要部拡大図である。
【図9】図9は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図10】図10は、実施例3に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
【図11】図11は、燃料混入率と変色度合いとの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0017】
実施例は船舶に搭載されている航行用としてのディーゼルエンジンをもとに説明する。
図1は、舶用ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
図1に示すように、本実施例のディーゼルエンジン10は、1つ以上(本実施例では9つ)の気筒20と、過給機11と、空気冷却器12と、排気集合管13とを含む。まずは図2を用いて1つの気筒20の基本的な構成を説明する。なお、以下では、気筒20の一例としてレシプロ型のものを説明するが、気筒20はロータリー型のものでもよい。図2に示すように、気筒20は、シリンダ21と、ピストン22と、クランク軸23と、クランク室23aと、コネクティングロッド24と、シリンダヘッド25と、燃焼室25aと、吸気ポート26aと、吸気弁26と、排気ポート27aと、排気弁27と、インジェクタ28と、オイルパン29とを含む。
【0018】
シリンダ21は、筒状の部材である。ピストン22は、シリンダ21の中空部に設けられる。ピストン22は、シリンダ21の中心軸方向に移動できるように設けられる。クランク軸23は、回転できるようにクランク室23aに設けられる。クランク室23aは、シリンダ21の中心軸方向の一方側に設けられる。クランク軸23は、ピストン22の往復運動を回転運動に変換する。コネクティングロッド24は、ピストン22とクランク軸23とを連結する。
【0019】
シリンダヘッド25は、シリンダ21の中心軸方向の他方側(クランク室23aとは反対側)に設けられる。燃焼室25aは、ピストン22と、シリンダヘッド25とで囲まれる空間である。
【0020】
吸気ポート26a及び排気ポート27aは、気筒20の外部と燃焼室25aとを連通する。吸気弁26は、吸気ポート26aに設けられる。吸気弁26は、吸気ポート26aを介して気筒20の外部と燃焼室25aとの間での空気の流動を調節する。排気弁27は、排気ポート27aに設けられる。排気弁27は、排気ポート27aを介して気筒20の外部と燃焼室25aとの間での空気の流動を調節する。
【0021】
燃料噴射ポンプ32は、エマルジョン燃料を加圧し、インジェクタ28にエマルジョン燃料を導く。インジェクタ28は、例えば燃焼室25aに噴出口が突出して設けられる。燃料噴射ポンプ32は、燃料供給装置30から導かれたエマルジョン燃料Fを燃焼室25aに導く。エマルジョン燃料Fは、軽油や重油などの燃料に水が混合したものである。なお、燃料噴射ポンプ32は、吸気ポート26aに噴出口が突出して設けられてもよい。オイルパン29は、クランク室23aに設けられる。オイルパン29は、潤滑油31を溜める。
【0022】
上記構成の気筒20は、吸気、圧縮、膨張、排気の1サイクルを繰り返し行う。これにより、気筒20は、ピストン22が往復運動し、クランク軸23が回転する。なお、気筒20は、4ストロークで1サイクルを行うものでもよいし、2ストロークで1サイクルを行うものでもよい。
【0023】
ディーゼルエンジン10についての説明に戻る。
過給機11は、空気を加圧する。過給機11は、図2に示す排気ポート27aから排出された排気ガスのエネルギーを得て空気を加圧する、いわゆるターボチャージャーである。なお、過給機11は、クランク軸23の回転力を得て空気を加圧する、いわゆるスーパーチャージャーでもよい。空気冷却器12は、過給機11から導かれた空気を冷却する。排気集合管13は、各気筒20の排気ポート27aと連通する。本実施例では、各気筒20の排気ポート27aから排出された排気ガスは排気集合管13を介して過給機11に導かれる。
【0024】
ここで、図1に示すクランク軸23は、各気筒20で共通の部材である。上記構成により、各気筒20が稼動することにより、ディーゼルエンジン10はクランク軸23を回転させる。なお、本実施例では、ディーゼルエンジン10が過給機11を含むものとして説明したが、ディーゼルエンジン10は、過給機11を含まなくてもよい。すなわち、ディーゼルエンジン10は、自然吸気型の内燃機関でもよい。この場合、ディーゼルエンジン10は、空気冷却器12を含まなくてもよい。
【0025】
次に、ディーゼルエンジンの潤滑油の劣化検知装置及び方法について詳細に説明する。
【0026】
図3は、本発明に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
図3に示すように、本実施例に係る潤滑油の劣化検知装置50Aは、潤滑油31の循環ラインL11内を循環している潤滑油31の一部を分取ラインL1により分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51と、該分取潤滑油タンク51を密封状態とし、その後排ガス成分52をポンプP1により吸引除去する不純物除去ラインL2と、前記排ガス成分52を除去後、減圧下で再度密封状態とし、その後該気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を検知する検知部54と、を具備する。
【0027】
本実施例では、検知部54が、前記燃料由来の気化成分53と反応して変色するガスの検出試薬を充填し、気化空間51aと連通する検知管を用いている。
【0028】
ガス検知管に充填される検出試薬としては、気化成分である燃料特有の成分(例:芳香族炭化水素)と反応し変色する試薬であれば、いずれでもよいが、例えば酸化ヨウ素(I2O5)と硫酸(H2SO4)とからなる粉体又はペレット状試薬を用いることができる。
そして、検知管54aに充填したペレット状試薬に気化成分を通気させると、その通気量に応じてその変色域の長さが変化する。この長さの変化量を予め求めていた判断基準により、燃料混入による潤滑油の希釈率が基準を超えるか否かを目視で判定する。
図4は、燃料混入率と変色域との関係図である。燃料の混入の度合いが高まると、変色領域の長さも長くなるという相関関係がある。
なお、検知部54はカートリッジ方式で交換可能としている。ここで、カートリッジ方式検知管としては、例えば、株式会社ガステック「芳香族炭化水素」用検知管を例示することができる。
なお、使用済みの検知部54は新しいものと交換し、次の計測に備える。
【0029】
分取潤滑油タンク51内に分取された分取潤滑油31aは、オイルパン29内の潤滑油31が約70〜80℃であるので、所定時間放置することで、気化空間51a内に燃料由来の気化成分53が充満するが、必要に応じて、加熱手段を設けて、分取潤滑油タンク51を加温して、燃料由来の気化成分53の気化を助長させるようにしてもよい。
【0030】
次に、潤滑油の劣化検知装置50Aを例えば舶用ディーゼルエンジンシステムに適用した一例について説明する。
図5は、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
図5に示すように、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムは、ディーゼルエンジン10と、ディーゼルエンジン10の潤滑油を溜めるオイルパン29と、潤滑油31の循環ラインL11に介装され、潤滑油31を浄化するオイルフィルタ41と、循環ラインL11から潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを分取する分取ラインL1と、分取ラインL1で分取した潤滑油の劣化状態を検知する潤滑油の劣化検知装置50Aと、を具備するものである。なお、図5中、符号P2は潤滑油ポンプを図示する。
【0031】
このようなシステムにおいて、ディーゼルエンジン10のオイルパン29からオイルフィルタ41を備えた循環ラインL11から分岐した分取ラインL1により、潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを弁V1及びV2を開いて分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51に貯留し、燃料由来の気化成分53を検知部54で検知するようにしている。
【0032】
先ず、ディーゼルエンジン10のオイルパン29から潤滑油31をその運転状況下で抜き取り、分取潤滑油タンク(以下「タンク」という)51に貯留する。その後、分取ラインL1に介装した弁V3を開き、ポンプP1によりタンク51内を一旦減圧にして、ブローバイガス等の排気ガス起因の成分(不純物)を除去する。その後、弁V3を閉じる。
【0033】
次に、所定時間放置後、潤滑油31に含有された燃料を気化させ、燃料由来の気化成分53を発生させる。
次いで、タンク51及び検知部54へ通じるラインL3の弁V4を開放し、ポンプP1を吸引して、気化空間51a内に気化した燃料由来の気化成分53を検知部54に通過させる。
【0034】
次に、ポンプP1の吸引を停止し、弁V4を閉じ、所定時間(数分程度)放置する。これにより、潤滑油31内に燃料が含まれている場合、検知部54の試薬との反応により変色が進行する。
そして、検知部54の変色域の長さ(ダイリューションレベルが基準を超えるか否か)を目視で判定する。
【0035】
この診断の結果により、潤滑油31の交換が必要である、と判断する場合は、新油タンク24と廃油タンク(図示せず)に通じる弁V5、V6を開閉し、オイルパン29中の潤滑油31を補充又は入替操作を行う。
また、潤滑油の補充又は交換を行うと共に、またはそれに代えて、運転条件(例えば回転数等)を調整するようにしてもよい。
【0036】
なお、判定が終了した後のタンク51内の潤滑油31は、廃棄ラインL4に介装した弁V2を開けて、循環ラインL11に戻す。
【0037】
本実施例によれば、簡易な構成でしかも安価な検知装置を1台使用するだけで、潤滑油31に混入する燃料Fの検知可能であり、分析部の低コスト化を図ることができる。
【0038】
なお、分析装置は複数の内燃機関で共用することが可能である。
【0039】
エンジン運転中における潤滑油への燃料の希釈状態を分析する手順について説明する。図6は、実施例1に係る潤滑油中の燃料の混入による希釈度合いを計測してその対策を実施するフローチャートの一例である。
【0040】
まず、運転時間が定期検査時間に達したか否かを判断する(ステップST1)。
【0041】
次に、定期検査時間に達していない(tD:運転時間<tT:定期検査期間)と判断した場合(ステップST1:No)、本制御を終了し、引き続き、再度時間の確認をする。
一方、上記定期検査時間を達した(tD≧tT)と判断した場合(ステップST1:Yes)、分岐ラインの弁を開き、潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを分取する(ステップST2)。
【0042】
分取潤滑油31aを分取した後、排気ガス起因の成分を除去する(ステップST3)。
【0043】
次に、分取タンク51内を密封して、放置し、潤滑油31中に含まれる燃料由来の気化成分53を気化空間51a内に充満させる(ステップST4)。
【0044】
その後、ポンプP1により所定時間、気化空間51a内に気化した燃料由来の気化成分53を検知部54に通過させる。次いで、ポンプP1の吸引を停止し、弁V4を閉じ、所定時間(数分程度)放置する(ステップST5)。
そして、検知部54の変色域の長さ(ダイリューションレベルが基準を超えるか否か)を目視で判定する(ステップST6)。
【0045】
この判定の結果、変色領域が閾値以上か否かを判断する(ステップST7)。
この判断により閾値を超えていると判断した場合(ステップST7:Yes)、新油タンクと廃油タンクに通じる弁V5及びV6を操作し、オイルパン29中の潤滑油31を補充又は入替操作、運転条件調整等の対策を行う(ST8)。
その際、廃油は弁V6を操作して廃油タンク(図示せず)で保管する。
なお、判断により閾値を超えていないと判断した場合(ステップST7:No)、終了し、再度検査時間まで待機する。
【0046】
このように、本発明によれば、エンジンの運転中において、潤滑油の劣化があることが迅速に確認でき、その劣化の程度に応じて潤滑油31の補充又は交換に即座に反映する。
【0047】
検知試薬は、安価な試薬であるので、潤滑油31の管理に要するコストの低廉化を図ることができる。
また、潤滑油中に混入するブローバイガス等の排気ガス起因の成分(不純物)を検知部54に通記する前に、潤滑油31の脱気操作により除去するため、オイルパン29中に含まれる排ガス成分の妨害を受けることがない。
【0048】
本実施例によれば、内燃機関を停止せずにリアルタイムで潤滑油の劣化診断が可能となり、迅速に運転制限を行うことができると共に、潤滑油交換に反映することにより、トラブルを未然に防止することが可能となる。
【0049】
また、潤滑油の劣化検知装置の構成が簡易な構成であるため、安価で安定的な潤滑油管理が可能である。
【実施例2】
【0050】
次に、実施例2について説明する。
図7は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。図8は、その要部拡大図である。図9は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
なお、図3に示す実施例1に係る潤滑油の劣化検知装置の構成部材と同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
図7に示すように、本実施例に係る潤滑油の劣化検知装置50Bは、実施例1に係る潤滑油の劣化検知装置50Aにおいて、前記検知部54が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬54bを充填し、気化空間51aと連通する検知管であると共に、該変色の有無を計測するカラーセンサ60を備えている。
【0051】
本実施例では、変色する試薬の変色域の長さをカラーセンサ60により計測するので、昼夜連続しての判断が可能となる。
【0052】
判断は、検知部54に閾値(変色域長さ)を設定し、その閾値に達したか否かをもって行う。また、複数の閾値(例えばレベルNo.1、レベルNo.2・・・)を設定し、判定の優劣をつけて、その閾値に応じて、制御部における制御を変更するようにしてもよい。その場合、カラーセンサ60は変色位置を検知できるように検知部54の長さ方向に上下に稼動するようにする。
【0053】
なお、計測の手順は、カラーセンサ60によって予め設定した閾値に達したか否かを判断することが異なるのみであり、他の手順は実施例1の手順と同一であるので、省略する。
【0054】
ここで、カラーセンサ60は、図8に示すように、例えば光源用の投光ファイバ61と、受光用の受光素子62を備えた受光ファイバ63とを具備した公知のカラーセンサを用いるようにすればよい。なお、図8中、符号64は投光レンズ、65は受光レンズを各々図示する。
【0055】
図9は、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
図9に示すように、潤滑油の劣化検知装置50Bを備えたエンジンシステムは、ディーゼルエンジン10と、ディーゼルエンジン10の潤滑油31を溜めるオイルパン29と、潤滑油の循環ラインL11に介装され、潤滑油31を浄化するオイルフィルタ41と、循環ラインL11から潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを分取する分取ラインL1と、分取ラインL1で分取した潤滑油の劣化状態を検知する潤滑油の劣化検知装置50Bと、を具備するものである。
【0056】
このようなシステムにおいて、ディーゼルエンジン10のオイルパン29からオイルフィルタ41を備えた循環ラインL11から分岐した分取ラインL1により、潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを弁V1及びV2を開いて分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51に貯留し、検知部54をカラーセンサ60で検知するようにしている。
【0057】
そして、カラーセンサ60により計測した結果を、信号処理部66で情報処理(劣化判定)後、制御部67を通してエンジンの運転制限もしくは潤滑油交換に即座に反映することができる。
【0058】
本実施例により、燃料混入による潤滑油の希釈率の判断が自動で検出が可能となり、昼夜を問わずの監視が可能となる。
【実施例3】
【0059】
次に、実施例3について説明する。図10は、実施例3に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。なお、図3及び7に示す実施例1及び2に係る潤滑油の劣化検知装置の構成部材と同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
図10に示すように、本実施例に係る潤滑油の劣化検知装置50Cは、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置50Bにおいて、検知部として、燃料由来の気化成分53と反応して変色する検知液71が充填された検知液タンク72を設けてなり、該検知液71に前記気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を散気管73により導入し、検知液71の変色の有無をカラーセンサ60により計測するようにしている。図中、符号P3は燃料由来の気化成分53を検知液タンク72に送るポンプを図示する。
【0060】
検知液71に用いる検出試薬としては、気化成分である燃料特有の成分(例:芳香族炭化水素)と反応し変色する試薬であれば、いずれでもよいが、例えば酸化ヨウ素(I2O5)と硫酸(H2SO4)とからなる試薬を用いることができる。
そして、検出試薬を溶媒に溶解させて、検知液71とし、この検知液71内に、気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を散気管73により導入し、その燃料由来の気化成分53の量に応じてその変色度合いが変化する。この変色度合いに閾値を設け、燃料混入による潤滑油の希釈率が基準を超えるか否かをカラーセンサ60で判定する。判断基準となる閾値は希釈の程度に応じて複数設定し、制御部における制御を変更するようにしてもよい。
なお、使用済みの検知液は入れ替えた後、次の計測に備える。
【0061】
図11は燃料混入率と変色度合いとの関係図である。燃料の混入の度合いが高まると、変色度合いも濃くなるという相関関係がある。
【0062】
なお、計測の手順は、カラーセンサ60によって予め設定した閾値に達したか否かを判断することが異なるのみであり、他の手順は実施例1の手順と同一であるので、省略する。
【0063】
本実施例によれば、検知液71の変色度合いをカラーセンサ60により計測した結果を、信号処理部66で情報処理(劣化判定)後、制御部67を通してエンジンの運転制限もしくは潤滑油交換に即座に反映することができる。
【0064】
本実施例により、燃料混入による潤滑油の希釈率の判断が自動で検出が可能となり、昼夜を問わずの監視が可能となる。
【0065】
なお、上述した各実施例にて、船舶に搭載されて航行用としてのディーゼルエンジンに適用して説明したが、発電用などディーゼルエンジン全般に適用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 ディーゼルエンジン
20 気筒
31 潤滑油
50A〜50C 潤滑油の劣化検知装置
51a 気化空間
51 分取潤滑油タンク
52 排ガス成分
53 燃料由来の気化成分
54 検知部
60 カラーセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油の劣化検知装置及び方法、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの潤滑油の品質及び純度が維持されることは、エンジンの耐久性を維持させるために極めて重要である。
ところで、化石燃料を使用する内燃機関であるエンジンにおいては、燃焼室、配管等を経由して燃料が潤滑油に混入するが場合がある。
そして、燃料が混入した潤滑油には、例えば粘度低下、スラッジ発生等の劣化が生じ、本来の潤滑油の機能を果たせなくなる、という問題がある。
【0003】
このため、定期的な潤滑油の交換又は定期的な抜き取り検査によって、潤滑油の劣化度を診断し必要に応じて交換を実施することが求められている。この検査は、例えば潤滑油の比重以下の所定の比重を有する浮動体を用いたフロート式の検知装置等の提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−308563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、安定的に潤滑油を交換する場合は、交換インターバルを安全側(短め)に設定する必要があり、その分潤滑油使用量が増大し、コスト増加となるという問題がある。
また、定期的に抜き取り検査をする場合は、個別に分析装置での分析を行うために、分析に時間を要する、という問題がある。この結果、内燃機関の潤滑油交換、運転制限等に分析結果を反映するまでに時間を要するので、本来の潤滑油の機能が発揮できず、問題が発生する確率が高まるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記問題に鑑み、内燃機関を停止せずにリアルタイムで潤滑油の劣化診断が可能となる潤滑油の劣化検知装置及び方法、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、潤滑油の一部を分取ラインにより分取し、気化空間を備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンクと、該分取潤滑油タンクを密封状態とし、その後排ガス成分をポンプにより吸引除去する不純物除去ラインと、前記排ガス成分を除去後、再度密封状態とし、その後該気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知する検知部と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記分取潤滑油タンクに加温手段を有することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0009】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0010】
第4の発明は、第1又は2の発明において、前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であると共に、該変色の有無を計測するカラーセンサを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0011】
第5の発明は、第1又は2の発明において、前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検知液が充填された試薬タンクと、該検知液に前記気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を散気管により導入し、検出試薬溶液の変色の有無を計測するカラーセンサとを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置にある。
【0012】
第6の発明は、潤滑油の一部を分取し、気化空間を備えた分取潤滑油タンクに貯留し、次いで、該分取潤滑油タンクを密封し、密封後排ガス成分を除去し、その後、分取潤滑油タンクの気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知部で検知することを特徴とする潤滑油の劣化検知方法にある。
【0013】
第7の発明は、エンジンと、エンジンの潤滑油を溜めるオイルパンと、潤滑油の循環ラインに介装され、潤滑油を浄化するオイルフィルタと、循環ラインから潤滑油の一部を分取する分取ラインと、分取ラインで分取した潤滑油の劣化状態を検知する第1乃至5のいずれか一つの潤滑油の劣化検知装置と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内燃機関を停止せずにリアルタイムで潤滑油の劣化診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
【図3】図3は、本発明に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
【図4】図4は、燃料混入率と変色域との関係図である。
【図5】図5は、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図6】図6は、実施例1に係る潤滑油中の燃料の混入による希釈度合いを計測してその対策を実施するフローチャートの一例である。
【図7】図7は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
【図8】図8はその要部拡大図である。
【図9】図9は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図10】図10は、実施例3に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
【図11】図11は、燃料混入率と変色度合いとの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0017】
実施例は船舶に搭載されている航行用としてのディーゼルエンジンをもとに説明する。
図1は、舶用ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
図1に示すように、本実施例のディーゼルエンジン10は、1つ以上(本実施例では9つ)の気筒20と、過給機11と、空気冷却器12と、排気集合管13とを含む。まずは図2を用いて1つの気筒20の基本的な構成を説明する。なお、以下では、気筒20の一例としてレシプロ型のものを説明するが、気筒20はロータリー型のものでもよい。図2に示すように、気筒20は、シリンダ21と、ピストン22と、クランク軸23と、クランク室23aと、コネクティングロッド24と、シリンダヘッド25と、燃焼室25aと、吸気ポート26aと、吸気弁26と、排気ポート27aと、排気弁27と、インジェクタ28と、オイルパン29とを含む。
【0018】
シリンダ21は、筒状の部材である。ピストン22は、シリンダ21の中空部に設けられる。ピストン22は、シリンダ21の中心軸方向に移動できるように設けられる。クランク軸23は、回転できるようにクランク室23aに設けられる。クランク室23aは、シリンダ21の中心軸方向の一方側に設けられる。クランク軸23は、ピストン22の往復運動を回転運動に変換する。コネクティングロッド24は、ピストン22とクランク軸23とを連結する。
【0019】
シリンダヘッド25は、シリンダ21の中心軸方向の他方側(クランク室23aとは反対側)に設けられる。燃焼室25aは、ピストン22と、シリンダヘッド25とで囲まれる空間である。
【0020】
吸気ポート26a及び排気ポート27aは、気筒20の外部と燃焼室25aとを連通する。吸気弁26は、吸気ポート26aに設けられる。吸気弁26は、吸気ポート26aを介して気筒20の外部と燃焼室25aとの間での空気の流動を調節する。排気弁27は、排気ポート27aに設けられる。排気弁27は、排気ポート27aを介して気筒20の外部と燃焼室25aとの間での空気の流動を調節する。
【0021】
燃料噴射ポンプ32は、エマルジョン燃料を加圧し、インジェクタ28にエマルジョン燃料を導く。インジェクタ28は、例えば燃焼室25aに噴出口が突出して設けられる。燃料噴射ポンプ32は、燃料供給装置30から導かれたエマルジョン燃料Fを燃焼室25aに導く。エマルジョン燃料Fは、軽油や重油などの燃料に水が混合したものである。なお、燃料噴射ポンプ32は、吸気ポート26aに噴出口が突出して設けられてもよい。オイルパン29は、クランク室23aに設けられる。オイルパン29は、潤滑油31を溜める。
【0022】
上記構成の気筒20は、吸気、圧縮、膨張、排気の1サイクルを繰り返し行う。これにより、気筒20は、ピストン22が往復運動し、クランク軸23が回転する。なお、気筒20は、4ストロークで1サイクルを行うものでもよいし、2ストロークで1サイクルを行うものでもよい。
【0023】
ディーゼルエンジン10についての説明に戻る。
過給機11は、空気を加圧する。過給機11は、図2に示す排気ポート27aから排出された排気ガスのエネルギーを得て空気を加圧する、いわゆるターボチャージャーである。なお、過給機11は、クランク軸23の回転力を得て空気を加圧する、いわゆるスーパーチャージャーでもよい。空気冷却器12は、過給機11から導かれた空気を冷却する。排気集合管13は、各気筒20の排気ポート27aと連通する。本実施例では、各気筒20の排気ポート27aから排出された排気ガスは排気集合管13を介して過給機11に導かれる。
【0024】
ここで、図1に示すクランク軸23は、各気筒20で共通の部材である。上記構成により、各気筒20が稼動することにより、ディーゼルエンジン10はクランク軸23を回転させる。なお、本実施例では、ディーゼルエンジン10が過給機11を含むものとして説明したが、ディーゼルエンジン10は、過給機11を含まなくてもよい。すなわち、ディーゼルエンジン10は、自然吸気型の内燃機関でもよい。この場合、ディーゼルエンジン10は、空気冷却器12を含まなくてもよい。
【0025】
次に、ディーゼルエンジンの潤滑油の劣化検知装置及び方法について詳細に説明する。
【0026】
図3は、本発明に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。
図3に示すように、本実施例に係る潤滑油の劣化検知装置50Aは、潤滑油31の循環ラインL11内を循環している潤滑油31の一部を分取ラインL1により分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51と、該分取潤滑油タンク51を密封状態とし、その後排ガス成分52をポンプP1により吸引除去する不純物除去ラインL2と、前記排ガス成分52を除去後、減圧下で再度密封状態とし、その後該気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を検知する検知部54と、を具備する。
【0027】
本実施例では、検知部54が、前記燃料由来の気化成分53と反応して変色するガスの検出試薬を充填し、気化空間51aと連通する検知管を用いている。
【0028】
ガス検知管に充填される検出試薬としては、気化成分である燃料特有の成分(例:芳香族炭化水素)と反応し変色する試薬であれば、いずれでもよいが、例えば酸化ヨウ素(I2O5)と硫酸(H2SO4)とからなる粉体又はペレット状試薬を用いることができる。
そして、検知管54aに充填したペレット状試薬に気化成分を通気させると、その通気量に応じてその変色域の長さが変化する。この長さの変化量を予め求めていた判断基準により、燃料混入による潤滑油の希釈率が基準を超えるか否かを目視で判定する。
図4は、燃料混入率と変色域との関係図である。燃料の混入の度合いが高まると、変色領域の長さも長くなるという相関関係がある。
なお、検知部54はカートリッジ方式で交換可能としている。ここで、カートリッジ方式検知管としては、例えば、株式会社ガステック「芳香族炭化水素」用検知管を例示することができる。
なお、使用済みの検知部54は新しいものと交換し、次の計測に備える。
【0029】
分取潤滑油タンク51内に分取された分取潤滑油31aは、オイルパン29内の潤滑油31が約70〜80℃であるので、所定時間放置することで、気化空間51a内に燃料由来の気化成分53が充満するが、必要に応じて、加熱手段を設けて、分取潤滑油タンク51を加温して、燃料由来の気化成分53の気化を助長させるようにしてもよい。
【0030】
次に、潤滑油の劣化検知装置50Aを例えば舶用ディーゼルエンジンシステムに適用した一例について説明する。
図5は、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
図5に示すように、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムは、ディーゼルエンジン10と、ディーゼルエンジン10の潤滑油を溜めるオイルパン29と、潤滑油31の循環ラインL11に介装され、潤滑油31を浄化するオイルフィルタ41と、循環ラインL11から潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを分取する分取ラインL1と、分取ラインL1で分取した潤滑油の劣化状態を検知する潤滑油の劣化検知装置50Aと、を具備するものである。なお、図5中、符号P2は潤滑油ポンプを図示する。
【0031】
このようなシステムにおいて、ディーゼルエンジン10のオイルパン29からオイルフィルタ41を備えた循環ラインL11から分岐した分取ラインL1により、潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを弁V1及びV2を開いて分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51に貯留し、燃料由来の気化成分53を検知部54で検知するようにしている。
【0032】
先ず、ディーゼルエンジン10のオイルパン29から潤滑油31をその運転状況下で抜き取り、分取潤滑油タンク(以下「タンク」という)51に貯留する。その後、分取ラインL1に介装した弁V3を開き、ポンプP1によりタンク51内を一旦減圧にして、ブローバイガス等の排気ガス起因の成分(不純物)を除去する。その後、弁V3を閉じる。
【0033】
次に、所定時間放置後、潤滑油31に含有された燃料を気化させ、燃料由来の気化成分53を発生させる。
次いで、タンク51及び検知部54へ通じるラインL3の弁V4を開放し、ポンプP1を吸引して、気化空間51a内に気化した燃料由来の気化成分53を検知部54に通過させる。
【0034】
次に、ポンプP1の吸引を停止し、弁V4を閉じ、所定時間(数分程度)放置する。これにより、潤滑油31内に燃料が含まれている場合、検知部54の試薬との反応により変色が進行する。
そして、検知部54の変色域の長さ(ダイリューションレベルが基準を超えるか否か)を目視で判定する。
【0035】
この診断の結果により、潤滑油31の交換が必要である、と判断する場合は、新油タンク24と廃油タンク(図示せず)に通じる弁V5、V6を開閉し、オイルパン29中の潤滑油31を補充又は入替操作を行う。
また、潤滑油の補充又は交換を行うと共に、またはそれに代えて、運転条件(例えば回転数等)を調整するようにしてもよい。
【0036】
なお、判定が終了した後のタンク51内の潤滑油31は、廃棄ラインL4に介装した弁V2を開けて、循環ラインL11に戻す。
【0037】
本実施例によれば、簡易な構成でしかも安価な検知装置を1台使用するだけで、潤滑油31に混入する燃料Fの検知可能であり、分析部の低コスト化を図ることができる。
【0038】
なお、分析装置は複数の内燃機関で共用することが可能である。
【0039】
エンジン運転中における潤滑油への燃料の希釈状態を分析する手順について説明する。図6は、実施例1に係る潤滑油中の燃料の混入による希釈度合いを計測してその対策を実施するフローチャートの一例である。
【0040】
まず、運転時間が定期検査時間に達したか否かを判断する(ステップST1)。
【0041】
次に、定期検査時間に達していない(tD:運転時間<tT:定期検査期間)と判断した場合(ステップST1:No)、本制御を終了し、引き続き、再度時間の確認をする。
一方、上記定期検査時間を達した(tD≧tT)と判断した場合(ステップST1:Yes)、分岐ラインの弁を開き、潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを分取する(ステップST2)。
【0042】
分取潤滑油31aを分取した後、排気ガス起因の成分を除去する(ステップST3)。
【0043】
次に、分取タンク51内を密封して、放置し、潤滑油31中に含まれる燃料由来の気化成分53を気化空間51a内に充満させる(ステップST4)。
【0044】
その後、ポンプP1により所定時間、気化空間51a内に気化した燃料由来の気化成分53を検知部54に通過させる。次いで、ポンプP1の吸引を停止し、弁V4を閉じ、所定時間(数分程度)放置する(ステップST5)。
そして、検知部54の変色域の長さ(ダイリューションレベルが基準を超えるか否か)を目視で判定する(ステップST6)。
【0045】
この判定の結果、変色領域が閾値以上か否かを判断する(ステップST7)。
この判断により閾値を超えていると判断した場合(ステップST7:Yes)、新油タンクと廃油タンクに通じる弁V5及びV6を操作し、オイルパン29中の潤滑油31を補充又は入替操作、運転条件調整等の対策を行う(ST8)。
その際、廃油は弁V6を操作して廃油タンク(図示せず)で保管する。
なお、判断により閾値を超えていないと判断した場合(ステップST7:No)、終了し、再度検査時間まで待機する。
【0046】
このように、本発明によれば、エンジンの運転中において、潤滑油の劣化があることが迅速に確認でき、その劣化の程度に応じて潤滑油31の補充又は交換に即座に反映する。
【0047】
検知試薬は、安価な試薬であるので、潤滑油31の管理に要するコストの低廉化を図ることができる。
また、潤滑油中に混入するブローバイガス等の排気ガス起因の成分(不純物)を検知部54に通記する前に、潤滑油31の脱気操作により除去するため、オイルパン29中に含まれる排ガス成分の妨害を受けることがない。
【0048】
本実施例によれば、内燃機関を停止せずにリアルタイムで潤滑油の劣化診断が可能となり、迅速に運転制限を行うことができると共に、潤滑油交換に反映することにより、トラブルを未然に防止することが可能となる。
【0049】
また、潤滑油の劣化検知装置の構成が簡易な構成であるため、安価で安定的な潤滑油管理が可能である。
【実施例2】
【0050】
次に、実施例2について説明する。
図7は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。図8は、その要部拡大図である。図9は、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
なお、図3に示す実施例1に係る潤滑油の劣化検知装置の構成部材と同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
図7に示すように、本実施例に係る潤滑油の劣化検知装置50Bは、実施例1に係る潤滑油の劣化検知装置50Aにおいて、前記検知部54が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬54bを充填し、気化空間51aと連通する検知管であると共に、該変色の有無を計測するカラーセンサ60を備えている。
【0051】
本実施例では、変色する試薬の変色域の長さをカラーセンサ60により計測するので、昼夜連続しての判断が可能となる。
【0052】
判断は、検知部54に閾値(変色域長さ)を設定し、その閾値に達したか否かをもって行う。また、複数の閾値(例えばレベルNo.1、レベルNo.2・・・)を設定し、判定の優劣をつけて、その閾値に応じて、制御部における制御を変更するようにしてもよい。その場合、カラーセンサ60は変色位置を検知できるように検知部54の長さ方向に上下に稼動するようにする。
【0053】
なお、計測の手順は、カラーセンサ60によって予め設定した閾値に達したか否かを判断することが異なるのみであり、他の手順は実施例1の手順と同一であるので、省略する。
【0054】
ここで、カラーセンサ60は、図8に示すように、例えば光源用の投光ファイバ61と、受光用の受光素子62を備えた受光ファイバ63とを具備した公知のカラーセンサを用いるようにすればよい。なお、図8中、符号64は投光レンズ、65は受光レンズを各々図示する。
【0055】
図9は、潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
図9に示すように、潤滑油の劣化検知装置50Bを備えたエンジンシステムは、ディーゼルエンジン10と、ディーゼルエンジン10の潤滑油31を溜めるオイルパン29と、潤滑油の循環ラインL11に介装され、潤滑油31を浄化するオイルフィルタ41と、循環ラインL11から潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを分取する分取ラインL1と、分取ラインL1で分取した潤滑油の劣化状態を検知する潤滑油の劣化検知装置50Bと、を具備するものである。
【0056】
このようなシステムにおいて、ディーゼルエンジン10のオイルパン29からオイルフィルタ41を備えた循環ラインL11から分岐した分取ラインL1により、潤滑油31の一部の分取潤滑油31aを弁V1及びV2を開いて分取し、気化空間51aを備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンク51に貯留し、検知部54をカラーセンサ60で検知するようにしている。
【0057】
そして、カラーセンサ60により計測した結果を、信号処理部66で情報処理(劣化判定)後、制御部67を通してエンジンの運転制限もしくは潤滑油交換に即座に反映することができる。
【0058】
本実施例により、燃料混入による潤滑油の希釈率の判断が自動で検出が可能となり、昼夜を問わずの監視が可能となる。
【実施例3】
【0059】
次に、実施例3について説明する。図10は、実施例3に係る潤滑油の劣化検知装置の概略図である。なお、図3及び7に示す実施例1及び2に係る潤滑油の劣化検知装置の構成部材と同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
図10に示すように、本実施例に係る潤滑油の劣化検知装置50Cは、実施例2に係る潤滑油の劣化検知装置50Bにおいて、検知部として、燃料由来の気化成分53と反応して変色する検知液71が充填された検知液タンク72を設けてなり、該検知液71に前記気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を散気管73により導入し、検知液71の変色の有無をカラーセンサ60により計測するようにしている。図中、符号P3は燃料由来の気化成分53を検知液タンク72に送るポンプを図示する。
【0060】
検知液71に用いる検出試薬としては、気化成分である燃料特有の成分(例:芳香族炭化水素)と反応し変色する試薬であれば、いずれでもよいが、例えば酸化ヨウ素(I2O5)と硫酸(H2SO4)とからなる試薬を用いることができる。
そして、検出試薬を溶媒に溶解させて、検知液71とし、この検知液71内に、気化空間51a内に発生した燃料由来の気化成分53を散気管73により導入し、その燃料由来の気化成分53の量に応じてその変色度合いが変化する。この変色度合いに閾値を設け、燃料混入による潤滑油の希釈率が基準を超えるか否かをカラーセンサ60で判定する。判断基準となる閾値は希釈の程度に応じて複数設定し、制御部における制御を変更するようにしてもよい。
なお、使用済みの検知液は入れ替えた後、次の計測に備える。
【0061】
図11は燃料混入率と変色度合いとの関係図である。燃料の混入の度合いが高まると、変色度合いも濃くなるという相関関係がある。
【0062】
なお、計測の手順は、カラーセンサ60によって予め設定した閾値に達したか否かを判断することが異なるのみであり、他の手順は実施例1の手順と同一であるので、省略する。
【0063】
本実施例によれば、検知液71の変色度合いをカラーセンサ60により計測した結果を、信号処理部66で情報処理(劣化判定)後、制御部67を通してエンジンの運転制限もしくは潤滑油交換に即座に反映することができる。
【0064】
本実施例により、燃料混入による潤滑油の希釈率の判断が自動で検出が可能となり、昼夜を問わずの監視が可能となる。
【0065】
なお、上述した各実施例にて、船舶に搭載されて航行用としてのディーゼルエンジンに適用して説明したが、発電用などディーゼルエンジン全般に適用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 ディーゼルエンジン
20 気筒
31 潤滑油
50A〜50C 潤滑油の劣化検知装置
51a 気化空間
51 分取潤滑油タンク
52 排ガス成分
53 燃料由来の気化成分
54 検知部
60 カラーセンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油の一部を分取ラインにより分取し、気化空間を備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンクと、
該分取潤滑油タンクを密封状態とし、その後排ガス成分をポンプにより吸引除去する不純物除去ラインと、
前記排ガス成分を除去後、再度密封状態とし、その後該気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知する検知部と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記分取潤滑油タンクに加温手段を有することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記検知部が、気化空間と連通する検知管内に充填され、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であると共に、該変色の有無を計測するカラーセンサを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記検知部が、
前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検知液が充填された試薬タンクと、
該検知液に前記気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を散気管により導入し、検出試薬溶液の変色の有無を計測するカラーセンサとを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項6】
潤滑油の一部を分取し、気化空間を備えた分取潤滑油タンクに貯留し、
次いで、該分取潤滑油タンクを密封し、密封後排ガス成分を除去し、
その後、分取潤滑油タンクの気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知部で検知することを特徴とする潤滑油の劣化検知方法。
【請求項7】
エンジンと、
エンジンの潤滑油を溜めるオイルパンと、
潤滑油の循環ラインに介装され、潤滑油を浄化するオイルフィルタと、
循環ラインから潤滑油の一部を分取する分取ラインと、
分取ラインで分取した潤滑油の劣化状態を検知する請求項1乃至5のいずれか一つの潤滑油の劣化検知装置と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステム。
【請求項1】
潤滑油の一部を分取ラインにより分取し、気化空間を備えた内部を密封可能な分取潤滑油タンクと、
該分取潤滑油タンクを密封状態とし、その後排ガス成分をポンプにより吸引除去する不純物除去ラインと、
前記排ガス成分を除去後、再度密封状態とし、その後該気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知する検知部と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記分取潤滑油タンクに加温手段を有することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記検知部が、気化空間と連通する検知管内に充填され、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記検知部が、前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検出試薬を充填し、気化空間と連通する検知管であると共に、該変色の有無を計測するカラーセンサを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記検知部が、
前記燃料由来の気化成分と反応して変色する検知液が充填された試薬タンクと、
該検知液に前記気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を散気管により導入し、検出試薬溶液の変色の有無を計測するカラーセンサとを備えることを特徴とする潤滑油の劣化検知装置。
【請求項6】
潤滑油の一部を分取し、気化空間を備えた分取潤滑油タンクに貯留し、
次いで、該分取潤滑油タンクを密封し、密封後排ガス成分を除去し、
その後、分取潤滑油タンクの気化空間内に発生した燃料由来の気化成分を検知部で検知することを特徴とする潤滑油の劣化検知方法。
【請求項7】
エンジンと、
エンジンの潤滑油を溜めるオイルパンと、
潤滑油の循環ラインに介装され、潤滑油を浄化するオイルフィルタと、
循環ラインから潤滑油の一部を分取する分取ラインと、
分取ラインで分取した潤滑油の劣化状態を検知する請求項1乃至5のいずれか一つの潤滑油の劣化検知装置と、を具備することを特徴とする潤滑油の劣化検知装置を備えたエンジンシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−136987(P2012−136987A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288961(P2010−288961)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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