説明

潤滑油中の異物診断容器及び方法

【課題】簡易迅速な潤滑油中の異物診断容器及び方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る異物診断容器10Aは、所定量の潤滑油11を充填し、上蓋14を閉じて、遠心分離装置を用いた遠心分離操作により、容器本体12内の底部に異物13を沈降させてなり、この沈着した異物13を顕微鏡検査や、色調検査や蛍光X線照射検査を行い、潤滑油中の異物の種類を、現場にて迅速に診断することができる。簡易迅速な潤滑油の診断が可能となり、適正時期に潤滑油の交換を行う目安を設定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧制御装置、ポンプ、エンジン、ピストン、軸受又は弁等の機器に用いる潤滑剤としての潤滑油の異物計測を迅速に行うことができる潤滑油中の異物診断容器及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油を使用した機器としては、油圧制御装置・ポンプ・エンジン・ピストン・軸受・弁などがある。これらの製品に含まれる潤滑油の品質および純度が維持されることは、機器耐久性を維持させるために重要である。
その際、潤滑油の中に夾雑物等の異物成分が含まれた場合、機器損傷が起こる可能性が高くなる。また、機器摺動部の磨耗が発生した場合、磨耗粉は夾雑物となり、潤滑油中に存在する。したがって、潤滑油中の異物の量と、成分の分析とは、機器の磨耗が起こる危険性、磨耗が発生した際の磨耗の程度、磨耗箇所の推定のため、迅速に分析がなされる必要がある。
【0003】
従来から潤滑油中の異物の計測としては、フェログラフィ法、油中微粒子測定法(NAS等級)(JIS9934)、光学顕微鏡を用いた微粒子測定法(JISB9930)、質量法による汚染測定法(JISB9931)等が存在する。
【0004】
また、図5に示すようなフィルタラビリティ試験方法が提案されている。
図5に示すように、この濾過装置100は、フラスコ101に設置した濾過器102に濾紙103を設置し、潤滑油(有機溶剤で希釈したもの)104を所定量供給し、真空ポンプ105で引くことにより、異物106を濾紙103上に捕集するものである。なお、図中、符号107は濾液である。
なお、潤滑油104を濾過する際には、有機溶剤(例えばヘキサン等)で希釈しており、換気手段が必須である。
【0005】
【非特許文献1】JISB9934
【非特許文献2】JISB9930
【非特許文献3】JISB9931
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記JIS法の分析技術においては、各機器、器具、有機溶剤が必要であり、局所排気設備内での操作が必要となる為、現場にてサンプリングした潤滑油を持ち帰り分析しなければならない。その為、結果が出るまで約1週間程度かかり、油圧機器などのトラブル時に迅速な対応ができない、という問題がある。
【0007】
特に、航行中の舶用油圧機器等作動油等のトラブルにおいては、結果が出るまでに長期間を要し、その対策実施までの期間、多くの損失を招いているのが現状であるので、簡易迅速な計測装置の出現が求められている。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、簡易迅速な潤滑油中の異物診断容器及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、所定量の潤滑油を充填し、遠心分離操作により、容器本体内の底部に異物を沈降させてなることを特徴とする潤滑油中の異物診断容器にある。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記容器本体が両端開放の筒体であると共に、上下端部に螺合する上蓋及び下蓋を有することを特徴とする潤滑油中の異物診断容器にある。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、下蓋の内側に捕獲部を設置してなることを特徴とする潤滑油中の異物診断容器にある。
【0012】
第4の発明は、第1の発明において、前記容器本体が、有底筒体であると共に、筒体の内部にフィルム状の捕獲部を配置してなることを特徴とする潤滑油中の異物診断容器にある。
【0013】
第5の発明は、第1乃至3のいずれか一つの潤滑油中の異物診断容器を用い、内部に所定量の潤滑油を充填し、遠心分離により、異物を捕獲し、その後蛍光X線分析装置により、異物を分析することを特徴とする潤滑油中の異物診断方法にある。
【0014】
第6の発明は、第4の潤滑油中の異物診断容器を用い、内部の所定量の潤滑油を充填し、遠心分離により、異物を捕獲フィルムで捕獲し、その後蛍光X線分析装置により、異物を分析することを特徴とする潤滑油中の異物診断方法にある。
【0015】
第7の発明は、第5又は6の発明において、60〜80℃の温度で遠心分離操作を行うことを特徴とする潤滑油中の異物診断方法にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定期間経過毎に定期的に潤滑油の検査を行うことが、現場で可能となり、従来のような潤滑油を分析設備の整った場所に移動させることがなくなる。これにより簡易迅速な潤滑油の診断が可能となり、適正時期に潤滑油の交換を行う目安を設定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0018】
本発明による実施例に係る潤滑油中の異物診断容器について、図面を参照して説明する。図1−1及び図1−2は、実施例1に係る潤滑油中の異物診断容器の概略図である。図1−1及び図1−2に示すように、本実施例に係る潤滑油中の異物診断容器10Aは、所定量の潤滑油11を充填し、遠心分離操作により、容器本体12内の底部に異物13を沈降させてなるものである。
本実施例では、前記容器本体12が両端開放の筒体であると共に、上下端部に螺合12a、12bする上蓋14及び下蓋15を有するものである。前記筒体は円筒形状であっても断面矩形形状であってもいずれでもよい。
【0019】
本実施例の潤滑油中の異物診断容器10Aを用いて、異物を診断するには、容器本体12の下端側に下蓋15を螺合し、内部に所定量(例えば100cc)の潤滑油11を投入し、その後上蓋14を螺合し、遠心分離装置で遠心分離操作を行う。この遠心分離の際に、温度調節装置を用いて内部を60〜80℃に加温するようにしてもよい。
遠心分離の後、下蓋15の内側には異物13が沈着される。
【0020】
この沈着した異物13を顕微鏡で観察し、異物の大きさと種類を推定する。
または、表面の色調を標準サンプルと比較する。
【0021】
さらに、図2に示すように、可搬型の蛍光X線照射装置16により蛍光X線17を照射させ、成分(例えばFe、Cu、Cr、Ni、Si、Mg、Ca等)を分析するようにしてもよい。これにより、潤滑油中の異物の種類が特定できることとなる。
【0022】
また、図3−1及び図3−2に示すように、下蓋15の上部に沈降物を捕獲する捕獲シート18を配置させて、遠心分離操作により異物13を沈降させるようにしてもよい。前記捕獲シート18は、シート状で溶解しないものであればいずれでもよく、例えばポリテトラフルオロエチレン(「テフロン(登録商標)」)、セルロース、フッ素系樹脂等を用いることができる。
【0023】
この捕獲シート18を用いることにより、潤滑油11による下蓋15への汚染がなくなり、下蓋15の洗浄操作を省略することができる。
【0024】
本発明によれば、所定期間経過毎に定期的に潤滑油の検査を行うことが、現場で可能となり、従来のような潤滑油を分析設備の整った場所に移動させることがなくなる。これにより簡易迅速な潤滑油の診断が可能となり、適正時期に潤滑油の交換を行う目安を設定することが可能となる。
また、診断の程度により、検査の回数を多くすることで診断精度を向上させることもできる。
【0025】
このように、本発明によれば、現場にて潤滑油の迅速な診断が可能となり、従来のような結果が出るまでに長期間を要することがなく、その対策実施までの期間がなくなるので、大きな損失を回避することができる。
【0026】
本発明による実施例に係る潤滑油中の異物診断容器について、図面を参照して説明する。
図4−1及び図4−2は、実施例2に係る潤滑油中の異物診断容器の概略図である。図4−1及び図4−2に示すように、本実施例に係る潤滑油中の異物診断容器20は、有底の容器本体21を有し、内部にフィルム状の捕獲部である捕獲フィルム22を配置させ、所定量の潤滑油11を充填し、遠心分離操作により、捕獲フィルム22に異物13を沈降させてなるものである。図中、符号23は上蓋である。
【0027】
そして、図4−3に示すように、捕獲フィルム22上に異物13を捕獲し、これを実施例1と同様にして観察することで異物の診断が可能となる。
ここで、前記捕獲フィルム22としては、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等を用いることができる。
【0028】
この異物診断容器20を用いることにより、実施例1のように、容器本体12及び下蓋15への汚染がなくなり、容器本体12等の洗浄操作を省略することができる。
【0029】
本実施例によれば、現場にてサンプリングして、必要なときに、潤滑油を診断することができ、油圧機器などのトラブルの発生を防止することができる。
【0030】
この結果、例えば船舶等の航行中の舶用油圧機器等作動油等のトラブルが未然に防止できることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係る潤滑油中の異物診断容器は、所定期間経過毎に定期的に潤滑油の検査を行うことが可能となり、適正時期に潤滑油の交換を行うことができ、潤滑油の簡易判定に適している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1−1】実施例1に係る潤滑油中の異物診断容器の概略図である。
【図1−2】実施例1に係る潤滑油中の異物診断容器の概略図である。
【図2】実施例1に係る異物診断の様子を示す概略図である。
【図3−1】実施例1に係る他の潤滑油中の異物診断容器の概略図である。
【図3−2】実施例1に係る他の潤滑油中の異物診断容器の概略図である。
【図4−1】実施例2に係る潤滑油中の異物診断容器の概略図である。
【図4−2】実施例2に係る潤滑油中の異物診断容器の概略図である。
【図4−3】実施例2に係る異物の捕獲の様子を示す概略図である。
【図5】従来の潤滑油中の異物診断装置の概略図である。
【符号の説明】
【0033】
10A、10B、20 異物診断容器
11 潤滑油
12、21 容器本体
13 異物
14、23 上蓋
15 下蓋
18 捕獲シート
22 捕獲フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の潤滑油を充填し、遠心分離操作により、容器本体内の底部に異物を沈降させてなることを特徴とする潤滑油中の異物診断容器。
【請求項2】
請求項1において、
前記容器本体が両端開放の筒体であると共に、上下端部に螺合する上蓋及び下蓋を有することを特徴とする潤滑油中の異物診断容器。
【請求項3】
請求項2において、
下蓋の内側に捕獲部を設置してなることを特徴とする潤滑油中の異物診断容器。
【請求項4】
請求項1において、
前記容器本体が、有底筒体であると共に、筒体の内部にフィルム状の捕獲部を配置してなることを特徴とする潤滑油中の異物診断容器。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一つの潤滑油中の異物診断容器を用い、
内部に所定量の潤滑油を充填し、遠心分離により、異物を捕獲し、その後蛍光X線分析装置により、異物を分析することを特徴とする潤滑油中の異物診断方法。
【請求項6】
請求項4の潤滑油中の異物診断容器を用い、
内部の所定量の潤滑油を充填し、遠心分離により、異物を捕獲フィルムで捕獲し、その後蛍光X線分析装置により、異物を分析することを特徴とする潤滑油中の異物診断方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、
60〜80℃の温度で遠心分離操作を行うことを特徴とする潤滑油中の異物診断方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−107252(P2010−107252A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277370(P2008−277370)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】