説明

潤滑油中の異物除去装置及び潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステム

【課題】潤滑油の機能低下を抑制する潤滑油中の異物除去装置及び潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムを提供する。
【解決手段】潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムは、ディーゼルエンジンと、オイルパン29の潤滑油31を循環する循環ラインL1と、循環ラインL1に介装される脱ガス装置50と、脱ガス装置50内に不活性ガス51aを供給するガス供給手段51と、ガス51aが供給された脱ガス装置50内部を加熱するヒータ52と、脱ガス53を排ガス処理手段54側に供給するガス排出ラインL2と、脱ガス装置50から潤滑油31をオイルパン29に返送する返送ラインL3と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油中の異物除去装置及び潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧制御装置、ポンプ、エンジン、ピストン、軸受、弁等には潤滑油が使用されている。これらの製品に含まれる潤滑油は循環して再利用されているが、潤滑油を長期間に亙り循環使用することで、使用する際に潤滑油中に混入する金属粉等の固形物や、冷却用に用いた水等が混入し蓄積される。機器の磨耗の進行、潤滑油の循環障害、潤滑油の潤滑性能の低下、潤滑油の酸化劣化、装置の腐食等を防止し、これらの製品に含まれる潤滑油の品質および純度を維持することは、機器の耐久性を維持していく上で重要である。
【0003】
潤滑油の品質および純度を維持するため、従来、上記潤滑油に混入した上記固形物の除去方法としては、例えば静置法及び濾過法等がある。また、潤滑油に混入した水分の除去方法としては、例えば油分と水分との比重差を利用した静置法、遠心分離法、過熱法、電圧印加法、吸水材料に吸収させる方法及び吸着材料による濾過法等がある。
【0004】
更に、潤滑油中の固形物を除去すると共に油中の水分を除去する方法として、例えば、固形物及び水分を含む潤滑油を、遠心分離処理、油水分離槽又は重力沈降槽を用い、油水分離処理を行って固形物及び水分の一部を除去した後に、疎水性中空糸膜エレメントで処理して残部の固形物及び水分の一部を除去する方法がある。固形物のうち金属屑のような大きいものは遠心分離処理、油水分離槽又は重力沈降槽を用いた油水分離処理で分離し、固形物のうち金属粉のような小さいものは疎水性中空糸膜エレメントで分離すると共に、エマルジョン化した水分を疎水性中空糸膜エレメントにより分離し、水分の除去を行なうようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような潤滑油から水分を除去する場合は、疎水性中空糸膜エレメントを用いて分離除去する場合には、疎水性中空糸膜エレメントの交換に費用がかかるので、より低廉な方法により潤滑油中の異物の除去方法の出現が望まれている。
【0007】
また、潤滑油中に混入する水分以外の燃焼灰、燃料の精製中に用いられた触媒(FCC触媒等)の混入、燃焼酸性ガス(SO2等)の混入の問題や、潤滑油には金属磨耗粉、添加剤の無機化による固形物や、熱劣化によるスラッジ等の混入の問題がある。
【0008】
このような様々な異物の混入により、潤滑油の加水分解が進行すると共に、錆の発生や添加剤の劣化促進、炭化物(煤)の生成や潤滑油の粘性の低下により、潤滑油本来の機能が低下するので、潤滑油中の異物生成を防止する対策の出現も望まれている。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、潤滑油の使用中において、潤滑油の機能低下を抑制する潤滑油中の異物除去装置及び潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、潤滑油の一部を抜出し、抜出した潤滑油を貯留する脱ガス装置と、脱ガス装置内に不活性ガスを供給するガス供給手段と、脱ガス装置から排出される脱ガスを処理する排ガス処理手段とを具備することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置にある。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、脱ガス装置を加熱する加熱手段を有することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置にある。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、脱ガス装置内部を減圧する減圧手段を有することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置にある。
【0013】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、ガス供給装置が、ナノバブルを供給することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置にある。
【0014】
第5の発明は、エンジンと、エンジンの潤滑油を溜めるオイルパンと、潤滑油の循環ラインに介装される請求項1乃至4のいずれか一つの潤滑油の異物除去装置と、を具備することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の潤滑油中の異物除去装置によれば、エンジンの運転中において潤滑油中に含まれる異物をガスの送気により外部に排出するので、潤滑油の劣化の要因となる水分、酸素、一酸化炭素、二酸化硫黄、炭化水素等が除かれ、潤滑油の劣化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
【図3】図3は、実施例1に係る潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図4】図4は、実施例2に係る潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図5】図5は、実施例3に係る潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0018】
図1は、例えば舶用ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
図1に示すように、本実施例のディーゼルエンジン10は、1つ以上(本実施例では9つ)の気筒20と、過給機11と、空気冷却器12と、排気集合管13とを含む。まずは図2を用いて1つの気筒20の基本的な構成を説明する。なお、以下では、気筒20の一例としてレシプロ型のものを説明するが、気筒20はロータリー型のものでもよい。図2に示すように、気筒20は、シリンダ21と、ピストン22と、クランク軸23と、クランク室23aと、コネクティングロッド24と、シリンダヘッド25と、燃焼室25aと、吸気ポート26aと、吸気弁26と、排気ポート27aと、排気弁27と、インジェクタ28と、オイルパン29とを含む。
【0019】
シリンダ21は、筒状の部材である。ピストン22は、シリンダ21の中空部に設けられる。ピストン22は、シリンダ21の中心軸方向に移動できるように設けられる。クランク軸23は、回転できるようにクランク室23aに設けられる。クランク室23aは、シリンダ21の中心軸方向の一方側に設けられる。クランク軸23は、ピストン22の往復運動を回転運動に変換する。コネクティングロッド24は、ピストン22とクランク軸23とを連結する。
【0020】
シリンダヘッド25は、シリンダ21の中心軸方向の他方側(クランク室23aとは反対側)に設けられる。燃焼室25aは、ピストン22と、シリンダヘッド25とで囲まれる空間である。
【0021】
吸気ポート26a及び排気ポート27aは、気筒20の外部と燃焼室25aとを連通する。吸気弁26は、吸気ポート26aに設けられる。吸気弁26は、吸気ポート26aを介して気筒20の外部と燃焼室25aとの間での空気の流動を調節する。排気弁27は、排気ポート27aに設けられる。排気弁27は、排気ポート27aを介して気筒20の外部と燃焼室25aとの間での空気の流動を調節する。
【0022】
燃料噴射ポンプ32は、エマルジョン燃料を加圧し、インジェクタ28にエマルジョン燃料を導く。インジェクタ28は、例えば燃焼室25aに噴出口が突出して設けられる。燃料噴射ポンプ32は、燃料供給装置30から導かれたエマルジョン燃料Fを燃焼室25aに導く。エマルジョン燃料Fは、軽油や重油等の燃料に水が混合したものである。なお、燃料噴射ポンプ32は、吸気ポート26aに噴出口が突出して設けられてもよい。オイルパン29は、クランク室23aに設けられる。オイルパン29は、潤滑油31を溜める。
【0023】
上記構成の気筒20は、吸気、圧縮、膨張、排気の1サイクルを繰り返し行う。これにより、気筒20は、ピストン22が往復運動し、クランク軸23が回転する。なお、気筒20は、4ストロークで1サイクルを行うものでもよいし、2ストロークで1サイクルを行うものでもよい。
【0024】
ディーゼルエンジン10についての説明に戻る。
過給機11は、空気を加圧する。過給機11は、図2に示す排気ポート27aから排出された排気ガスのエネルギーを得て空気を加圧する、いわゆるターボチャージャーである。なお、過給機11は、クランク軸23の回転力を得て空気を加圧する、いわゆるスーパーチャージャーでもよい。空気冷却器12は、過給機11から導かれた空気を冷却する。排気集合管13は、各気筒20の排気ポート27aと連通する。本実施例では、各気筒20の排気ポート27aから排出された排気ガスは排気集合管13を介して過給機11に導かれる。
【0025】
ここで、図1に示すクランク軸23は、各気筒20で共通の部材である。上記構成により、各気筒20が稼動することにより、ディーゼルエンジン10はクランク軸23を回転させる。なお、本実施例では、ディーゼルエンジン10が過給機11を含むものとして説明したが、ディーゼルエンジン10は、過給機11を含まなくてもよい。すなわち、ディーゼルエンジン10は、自然吸気型の内燃機関でもよい。この場合、ディーゼルエンジン10は、空気冷却器12を含まなくてもよい。
【0026】
次に、ディーゼルエンジンの潤滑油の潤滑油中の異物除去装置及び、潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムについて詳細に説明する。
【0027】
図3は、本発明に係る潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
図3に示すように、本実施例に係る潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムは、ディーゼルエンジン10と、オイルパン29の潤滑油31を循環する循環ラインL1と、循環ラインL1に介装される脱ガス装置50と、脱ガス装置50内に不活性ガス(以下「ガス」ともいう)51aを供給するガス供給手段51と、ガス51aが供給された脱ガス装置50内部を加熱するヒータ52と、脱ガス53を排ガス処理手段54側に供給するガス排出ラインL2と、脱ガス装置50から潤滑油31をオイルパン29に返送する返送ラインL3と、を具備する。
図3中、符号55は煤を除去するストレーナ、Gはエンジンからの排気ガス、L4は排気ガス排出ライン、P1〜P2はポンプを図示する。
【0028】
異物除去装置は、脱ガス装置50とガス供給手段51とヒータ52とから構成され、潤滑油31中にガス51aを散気管51bから供給することで、潤滑油31中の混入している例えば水分(H2O)、酸素(O2)、燃焼排ガス(CO2、SO2、炭化水素(HC)等)の脱ガスを図ることができる。
脱ガス装置50に導入する潤滑油31の量はエンジンの運転に支障がない量としている。また、脱ガスの条件としては、ガス51aの供給量は例えば1〜10L/粉程度とすればよい。
【0029】
ガス供給時間は潤滑油31中に含まれる水分や異物の量に応じて適宜変更されるが、例えば10分から数時間程度とすればよい。
また、脱ガスのガス51aとしては、例えば窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等の不活性ガスを用いることができる。なお、空気は脱ガス装置50内の酸化を助長するので好ましくない。
【0030】
本実施例は、脱ガス装置50の内部をヒータ52により加熱するが、潤滑油31の種類によっては、加熱により潤滑油31の劣化が促進されるので、必要に応じてヒータ52を用いればよい。
なお、ヒータ52を用いて加熱する温度としてはその上限は150℃程度とし、極力熱劣化を抑制するようにしている。
【0031】
脱ガス装置50から排出される脱ガス53は排気ガスGを排出する排気ガス排出ラインL4に合流させ、排気ガス排出ラインL4に介装された排ガス処理手段54により排ガス浄化処理がなされる。
【0032】
脱ガス装置50により潤滑油31中に微量に存在する各種異物を除去あるいは生成を防止することで、潤滑油としての機能を長期間に亙って維持することができる。
【0033】
例えば水分(H2O)を除去することで、潤滑油の加水分解の抑制、錆やスラッジの発生の抑制を図ることができる。
酸素(O2)を除去することで、潤滑油の酸化劣化の抑制や潤滑油中に含まれる金属に対して金属酸化の抑制を図ることができる。
二酸化炭素(CO2)を除去することで、潤滑油の酸性化を抑制し、スラッジ発生の抑制、全酸化の上昇を抑制することができる。
炭化水素(HC)を除去することで、潤滑油の粘性の低下を抑制して潤滑油の劣化進行を抑制することができる。
【0034】
ここで、潤滑油中の水分は、その含有量が高い場合には、ドレン化するので、例えば疎水性中空糸膜エレメントを用いて分離除去することができるものの、ドレン化せずに溶解状態で存在する水分は、0.1〜0.3%であるが、このような水分を脱ガス装置50により効率よく除去することで、潤滑油の劣化を抑制する防止効果が発揮される。
【0035】
例えば、脱ガス装置50に潤滑油を導入した後加熱し、ガス51aとして窒素を散気管51bから連続して通気すると、約1時間で0.3w%の水分が0.15w%に減少し、脱水効果があることが確認された。
【実施例2】
【0036】
次に、実施例2について説明する。
図4は、本発明に係る他の潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムの概略図である。図4に示すように、本実施例においては、図3に示す脱ガス装置50において、さらに脱ガス装置50内部を減圧する減圧手段である真空ポンプ60が、ガス排出ラインL2に設けられている。
これにより、脱ガス装置50での脱ガスを促進するようにしている。
この真空ポンプ60を用いて、脱ガス装置50内部を減圧することで、潤滑油に混入する排ガス不純物(例えばSOx、NOx)の除去がさらに助長されることとなる。
【実施例3】
【0037】
次に、実施例3について説明する。
図5は、本発明に係る他の潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステムの概略図である。図5に示すように、本実施例においては、図3に示すガス供給装置51に代えて、ナノバブル供給装置61を設けたものである。
ナノバブル供給装置61からナノバブル(1μm以下のナノ単位の気泡)62を脱ガス装置50内に供給することで、ナノサイズの泡が投入される。このナノサイズの泡は200nm〜300nm程度であるので、潤滑油31中の微量の水分との接触面積が大きくない、この結果泡の内部に微細な水分が効率的に取り込まれることとなり、水分除去効率が大きくなる。
また、ナノバブルの移動は通常の気泡よりもその上昇速度が遅いので、潤滑油31中での滞留時間が長くなる。その結果、潤滑油中との水分接触時間も多くなり、水分吸収効率が向上する。
【0038】
最終的にはナノバブル62はマイクロバブルに成長し、気層側でガス化し、脱ガス53は排ガス処理手段54により処理される。
また、ナノバルブ62は窒素等の不活性ガスを用いているので、潤滑油31中での加水分解により発生した水分の除去が迅速になされ、この結果加水分解による水分の発生を抑えることとなり、ひいては発生した水分による潤滑油31の劣化が大幅に抑制される。
【0039】
また、ガスとしてヘリウムを用いる場合には、ヘリウムは軽いので、水分の外部への持ち出し速度が上昇する。
【0040】
ここで、ナノバブル供給装置61としては、マイクロバブルを圧壊させてナノバブル62を発生させる装置や、ガスを加圧し、ナノレベルの無数の膜からガスを放出させたナノバブル62を発生させる装置等を例示することができる。
【0041】
なお、上述した各実施例にて、本発明に係るエンジンの制御装置を船舶に搭載されて航行用としてのディーゼルエンジンに適用して説明したが、陸用ボイラ等に使用されているディーゼルエンジンに適用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 ディーゼルエンジン
20 気筒
29 オイルパン
31 潤滑油
50 脱ガス装置
51a ガス
52 ヒータ
53 脱ガス
54 排ガス処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油の一部を抜出し、抜出した潤滑油を貯留する脱ガス装置と、
脱ガス装置内に不活性ガスを供給するガス供給手段と、
脱ガス装置から排出される脱ガスを処理する排ガス処理手段とを具備することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置。
【請求項2】
請求項1において、
脱ガス装置を加熱する加熱手段を有することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
脱ガス装置内部を減圧する減圧手段を有することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
ガス供給装置が、ナノバブルを供給することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置。
【請求項5】
エンジンと、
エンジンの潤滑油を溜めるオイルパンと、
潤滑油の循環ラインに介装される請求項1乃至4のいずれか一つの潤滑油の異物除去装置と、を具備することを特徴とする潤滑油中の異物除去装置を備えたエンジンシステム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136989(P2012−136989A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288963(P2010−288963)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】