説明

潤滑油用酸化防止剤及びそれを含有する潤滑油組成物

【課題】本発明の目的は、金属元素や硫黄元素を含まず、潤滑油の酸化防止剤として十分に機能し、且つ配合した潤滑油が経時で着色を起こさない潤滑油用酸化防止剤及び該酸化防止剤を含有する潤滑油組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、下記の一般式(1)で表される化合物からなる潤滑油用酸化防止剤である:
【化1】


また、本発明の潤滑油組成物は、前記酸化防止剤と基油とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止性能に優れ、基油に配合しても該基油を着色させない潤滑油用の酸化防止剤及び該酸化防止剤を含有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油には、長寿命化あるいは製品安定性の向上等を目的として、酸化防止剤を配合するのが一般的である。酸化防止剤には、フェノール系、アミン系、イオウ系、リン系等の種類が存在するが、中でも潤滑油には2,6−ターシャリブチルフェノールの骨格を有するフェノール系や、ジフェニルアミンの骨格を有するアミン系がよく使用されている。
【0003】
フェノール系やアミン系の酸化防止剤は、潤滑油の使用時や廃棄時等に問題となる金属元素等を含まないことが利点の一つである。一方、その他の酸化防止剤、例えば、リン系の酸化防止剤をエンジン油に使用した場合は、リン元素が排ガス触媒を被毒させる原因となり、イオウ系の酸化防止剤は副生物として硫酸が生成して種々の問題を引き起こす場合がある。また、こうした金属元素等を含んだ潤滑油は廃棄時にも特別な方法で廃棄する必要があり、潤滑油に使用することは敬遠されている。
【0004】
フェノール系やアミン系の酸化防止剤はこうした問題を起こすことがほとんどないため多用されているが、配合した潤滑油が経時で着色してしまうという問題がある。フェノール系の酸化防止剤の場合、一般的に配合した潤滑油やグリースが経時で黄色に着色し、アミン系の酸化防止剤の場合は赤茶色に着色していく。しかし、潤滑油の酸化防止性能はこうした着色とほとんど相関がなく、着色しても酸化防止性能が悪化するわけではない。一方、潤滑油を実際に使用している人間、例えば、工場で加工油を使用している人や車のエンジンオイル交換を検討している人等は、劣化の判断時に化学分析等するわけではなく、そのほとんどの人が潤滑油の色で劣化を判断しているのが現状である。そのため、酸化防止剤に起因した着色により、潤滑油が劣化したと判断されてしまい、まだ使用できるにもかかわらず潤滑油が廃棄される場合が多い。こうした行為は環境負荷の原因となるばかりでなく、劣化が早く長期使用に向かない潤滑油と使用者に誤解されることもあり、潤滑油を製造販売している企業にとっては大きなデメリットになる場合がある。
【0005】
こうした着色を防止するために特定のフェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤を組み合わせることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−209777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の酸化防止剤組成物であっても、着色そのものを防ぐことはできず、着色に対する根本的な問題解決が望まれていた。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、金属元素や硫黄元素を含まず、潤滑油の酸化防止剤として十分に機能し、且つ配合した潤滑油が経時で着色を起こさない潤滑油用酸化防止剤及び該酸化防止剤と基油とを含有する潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者等は鋭意検討した結果、酸化防止剤としての効果を十分に持ち、且つ着色を起こさない酸化防止剤を見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、下記の一般式(1)で表される化合物からなる潤滑油用酸化防止剤である:
【化1】

【発明の効果】
【0010】
本発明の効果は、金属元素や硫黄元素を含まず、潤滑油の酸化防止剤として十分に機能し、且つ配合した潤滑油が経時で着色を起こさない酸化防止剤を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の潤滑油用酸化防止剤は、下記の一般式(1)で表される:
【化2】

【0012】
上記一般式(1)で表わされる化合物は、一般的にジスチレン化フェノールと呼ばれている。ジスチレン化フェノールには、2,3−ジスチレン化フェノール、2,4−ジスチレン化フェノール、2,5−ジスチレン化フェノール、2,5−ジスチレン化フェノール、3,4−ジスチレン化フェノール、3,5−ジスチレン化フェノール等の異性体が存在する。これらを酸化防止剤として潤滑油に使用した場合、いずれのジスチレン化フェノールも潤滑油の着色を起こさずに酸化防止剤として機能するが、中でも酸化防止性能が高いことから2,4−ジスチレン化フェノール及び2,6−ジスチレン化フェノールが好ましく、下記の構造式(2)で表される2,4−ジスチレン化フェノールがより好ましい:
【化3】

【0013】
スチレン化フェノールは一般的にフェノールとスチレンとを反応させて合成する。得られるスチレン化フェノールは、通常、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール及びトリスチレン化フェノールの混合物となる。なお条件次第では、テトラスチレン化フェノールやヘキサスチレン化フェノールを得ることも可能であるが、一般的にこれらのスチレン化フェノールは、反応時の立体障害のために得ることが困難である。モノスチレン化フェノールやトリスチレン化フェノールは酸化防止性能が低く、潤滑油の酸化防止剤として使用することは難しい。一方、ジスチレン化フェノールは潤滑油に対する着色の問題を起こさず、酸化防止剤としても今まで一般的に使用されてきた潤滑油用酸化防止剤とほぼ同等の効果を発揮する。
【0014】
次に、本発明の潤滑油組成物は、基油と本発明の潤滑油用酸化防止剤とを含有する組成物である。基油としては、潤滑油の基油として使用できるものであればいずれの基油でも使用でき、例えば、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル、GTL(Gas to Liquids)等の合成油;パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油あるいはこれらを精製した精製鉱油類等を用いることができる。これらの基油はそれぞれ単独で用いてもよく、混合物で用いてもよい。これらの基油の中でも、潤滑油としての用途範囲が広いことと、基油の色調が無色透明に近いことから、粘度指数が100以上の基油を使用するのが好ましく、粘度指数が100以上のポリ−α−オレフィン、GTL、精製鉱油の使用がより好ましい。
【0015】
本発明の潤滑油組成物に添加する本発明の潤滑油用酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、潤滑油組成物全量に対して0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜8質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましい。0.01質量%未満であると十分な酸化防止効果が得られない場合があり、10質量%を超えると添加量に見合った効果が得られない場合や、潤滑油組成物の製品安定性が悪くなる場合がある。なお、本発明の潤滑油用酸化防止剤は、既知のフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤と比較して、同じ質量あたりの酸化防止性能が低くなる場合があるが、添加量を増やすことで同等の酸化防止性能を得ることができる。添加量を増やしたことによる弊害はなく、潤滑油組成物の色調も悪化することはない。
【0016】
また、本発明の潤滑油組成物の中にはグリースも含まれる。グリースの必須成分である増稠剤としては、石鹸系又はコンプレックス石鹸系増稠剤、有機非石鹸系増稠剤、無機非石鹸系増稠剤及びこれらの混合物等が挙げられる。石鹸系増稠剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ゾーマリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸等の高級脂肪酸とアルミニウム、バリウム、カルシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等の塩基を反応させた石鹸や、上記脂肪酸と塩基に更に酢酸、安息香酸、セバシン酸、アゼライン酸、リン酸、ホウ酸等を反応させたコンプレックス石鹸増稠剤等が挙げられる。有機非石鹸系増稠剤としては、テレフタレメート系増稠剤、ウレア系増稠剤、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロ化エチレン−プロピレン共重合体等のフッ素系等が挙げられる。ウレア系増稠剤としては、モノイソシアネートとモノアミンを反応させたモノウレア系化合物、ジイソシアネートとモノアミンを反応させたジウレア系化合物、ジイソシアネートとモノアミンとモノオールを反応させたウレアウレタン系化合物、ジイソシアネートとジアミンとモノイソシアネートを反応させたテトラウレア系化合物等が挙げられる。無機非石鹸系増稠剤としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、シリカエアロゲル、窒化ホウ素等が挙げられる。これらの増稠剤の配合量は特に限定されないが、グリース組成物全量に対して通常3〜40質量%、好ましくは5〜20質量%になるように配合すればよい。
【0017】
ここで、潤滑油組成物の着色に関して詳しく説明する。潤滑油組成物は基油と各種添加剤との混合物であるが、基油の劣化を抑えるため一般的に酸化防止剤が添加されている。酸化防止剤が添加されていないと、基油はラジカル等による酸化劣化によって分解や重合等の反応を繰り返し、徐々に着色していく。着色の度合いは、概ね、酸化劣化の度合いと比例する関係にあり、基油の着色が基油の劣化の度合いを示す指標となる。こうした基油の劣化等を防ぐ目的で酸化防止剤は添加されるが、劣化因子であるラジカル等を補足した酸化防止剤は、通常、黄色や赤色等に着色するため、潤滑油組成物全体の色調は劣化が促進していないにもかかわらず黄色あるいは赤色等に着色していく。潤滑油に一般的に使用されているフェノール系あるいはアミン系の酸化防止剤を使用する限り、この着色を防ぐ手段はないと考えられていたことから、例えば、自動車のエンジンオイルの交換においては、エンジンオイルの色調には一切言及せず、自動車の走行距離やエンジンオイルの使用期間で交換時期を定めている。しかしながら実際は、ガソリンスタンド等でエンジンオイルの色を確認し、その色が濃ければ劣化していると判断され、エンジンオイルの交換を勧められるのが現状である。こうした色調による潤滑油組成物の劣化の判断は、エンジンオイルだけではなく、ギヤ油、タービン油、金属加工油、グリース等の交換を必要とするあらゆる潤滑油においてみられる。その結果、まだ使用できる潤滑油が廃棄される等の問題が生じている。酸化防止剤以外の添加剤でこうした着色の問題は生じていないことから、酸化防止剤に起因する着色が起こらなければ、基油の劣化に依存した着色のみが起こり、潤滑油の劣化を色調で判断しても上記のような問題が生じることはない。
【0018】
更に、本発明の潤滑油組成物は、公知の潤滑油添加剤の添加を拒むものではなく、使用目的に応じて、本発明の酸化防止剤以外の酸化防止剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0019】
本発明の酸化防止剤以外の酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤や本発明の酸化防止剤以外のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ノニルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン等が挙げられる。また、本発明の酸化防止剤以外のフェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−ターシャリブチルフェノール(以下、ターシャリブチルをt−ブチルと略記する。)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、酸化防止性能だけを考慮すると0.05〜3質量%添加することが好ましい。しかし、いずれも着色の原因物質となるため、着色が問題とならない用途であれば使用してもよいが、着色が問題となる用途においては、これらに酸化防止剤は極力添加量を少なくすることが好ましい。具体的には、潤滑油組成物全量に対して1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下が更に好ましく、実質添加しないことが最も好ましい。これらの酸化防止剤は、用途にあわせて添加するか添加しないかを定めればよい。
【0020】
摩擦調整剤としては、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジチオフォスフェート等の有機モリブデン化合物が挙げられる。これら摩擦低減剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対してモリブデン含量で30〜2000質量ppm、より好ましくは50〜1000質量ppmである。ただし、リン原子を含有している硫化オキシモリブデンジチオフォスフェートより、硫化オキシモリブデンジチオカルバメートの使用が好ましく、炭素数8〜13のアルキル基を持つ硫化オキシモリブデンジチオカルバメートの使用がより好ましい。
【0021】
摩耗防止剤としては、例えば、下記の一般式(3)で表される化合物が挙げられる:
【化4】

[式中、Aは下記の一般式(4)〜(6)のいずれかを表し、R29〜R36はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、nは1〜10の数を表す。]
【0022】
【化5】

【0023】
29〜R36はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。これらの中でも摩耗防止性能が良好なことから、水素原子及びメチル基が好ましい。これら摩耗防止剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0024】
極圧剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド等の硫黄系添加剤;モノオクチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリフェニルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、チオリン酸エステル、ジチオリン酸亜鉛等のリン系化合物;チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、酸性リン酸エステル金属塩等の有機金属化合物などが挙げられる。これら極圧剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜2質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。
【0025】
油性向上剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステアリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら油性向上剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0026】
清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの中でも過塩基性塩が好ましく、過塩基性塩の中でもTBN(トータルベーシックナンバー)が30〜500mgKOH/gのものがより好ましい。更に、リン及び硫黄原子のないサリシレート系の清浄剤が好ましい。これらの清浄剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0027】
分散剤としては、例えば、重量平均分子量約500〜3000程度のアルキル基またはアルケニル基が付加されたコハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン又はこれらのホウ素変性物等が挙げられる。これらの分散剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0028】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキルメタクリレート、(C1〜18)アルキルアクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。重量平均分子量は10,000〜1,500,000、好ましくは30,000〜1,000,000程度である。これらの粘度指数向上剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1〜20質量%。より好ましくは0.3〜15質量%である。
【0029】
流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等が挙げられ、重量平均分子量は1000〜100,000、好ましくは3,000〜80,000である。これらの流動点降下剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.005〜3質量%、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0030】
防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0031】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール ベンゾイミダゾール ベンゾチアゾール テトラアルキルチウラムジサルファイド等が挙げられる。これら腐食防止剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0032】
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.01質量%である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。
<酸化防止試験>
JIS K−2514の方法に準拠して行った。具体的には、圧力計を備えた容量100mlの耐圧ボンベの中に、試料50g、水5g、及び触媒として直径1.6mmの銅線3mをコンパクトに丸めたものを入れ、密封した後ボンベ内の圧力が620kPaになるまで酸素を圧入する。このボンベを150℃の恒温槽内で、30℃の角度を保持したまま毎分100回転で回転させる。最初、ボンベ内の圧力は温度がかかることで増加していくが、酸化劣化が始まると酸素を吸収してボンベ内の圧力は低下する。圧力を経時で測定し、圧力が最高になったときから175kPaに低下するまでの時間を求め、これを酸化劣化の誘導期間とした。誘導期間が長いほど酸化防止性能が良好な試料である。なお、試料は試験サンプルを下記の基油1または2に0.5質量%添加したものを用いた。結果は表1に示した。
【0034】
基油1:動粘度4.24mm/秒(100℃)、19.65mm/秒(40℃)、粘 度指数=126の鉱物油系基油
基油2:動粘度4.0mm/秒(100℃)、18.4mm/秒(40℃)、粘度指 数=119のポリ−α−オレフィン
【0035】
<変色試験>
試料を50mlの蓋付きのガラス容器内に30ml入れ、着色を促進させるために太陽光のあたる南側の窓辺に放置し、1ヵ月後の色調変化を観察し、目視による評価及びガードナー色にて色調変化の度合いを評価した。ガードナー色は1が無色透明で、数字が大きいほど色調が劣化(濃い色調)していることを示す。なお、試料は試験サンプルを下記の基油に1質量%添加したものを用いた。結果は表1に示した。
基油:動粘度4.24mm/秒(100℃)、19.65mm/秒(40℃)、粘度 指数=126の鉱物油系基油
【0036】
試験サンプル
A−1:2,4−ジスチレン化フェノール
A−2:2,6−ジスチレン化フェノール
A−3:2,5−ジスチレン化フェノール
B−1:4−スチレン化フェノール
B−2:2−スチレン化フェノール
B−3:2,4,6−トリスチレン化フェノール
C−1:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
C−2:3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸分岐オ クタデシル
C−3:フェニル―1―ナフチルアミン
C−4:ジ(2−エチルヘキシルフェニル)アミン
【0037】
【表1】

【0038】
上記結果を見ると、本発明の潤滑油酸化防止剤(A−1〜A−3)は、いずれも既存のフェノール系あるいはアミン系酸化防止剤(C−1〜C−4)と同等の酸化防止性能を示している。酸化防止性能に多少の差はあるが、これらは添加量を調整することで対応できる範囲である。一方、モノスチレン化フェノールやトリスチレン化フェノール(B−1〜B−3)の酸化防止性能はこれらと比較して大きく劣り、添加量を調整して対応できる範囲外である。また色調は、既存のフェノール系あるいはアミン系酸化防止剤よりスチレン化フェノール系化合物が明らかに優れている。なお試験番号11は、試験サンプルを添加していない基油のみの試験であり、酸化防止試験では2つの基油のいずれも誘導期間が1分以内であったため、この試験結果を0分としてある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の潤滑油組成物は色調に関して上記の特性を持つが、一般的な潤滑油の用途、例えば、エンジン油、ギヤ油、タービン油、作動油、難燃性作動液、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受け油、絶縁油、しゅう動面油、ロックドリル油、金属加工油、塑性加工油、熱処理油、グリース等であればいずれの用途にも使用することができる。しかし、色調の特性を生かすためには、定期的に交換を必要とする用途が好ましく、例えば、エンジン油、作動油、金属加工油あるいはグリース等の用途に使用することが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される化合物からなる潤滑油用酸化防止剤:
【化1】

【請求項2】
一般式(1)で表される化合物が、2,4−ジスチレン化フェノールであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油用酸化防止剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の潤滑油用酸化防止剤と、基油とを含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項4】
潤滑油用酸化防止剤の配合量が潤滑油組成物全量に対して0.01〜10質量%であることを特徴とする請求項3に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−62347(P2012−62347A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205546(P2010−205546)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】