説明

潤滑油組成物および機械装置

【課題】潤滑性に優れ、粘度の温度に対する依存性が極めて小さい潤滑油組成物およびそれを適用した機械装置を提供する。
【解決手段】潤滑油組成物は、(A)オルガノポリシロキサンと、(B)硫黄系化合物、リン系化合物、および亜鉛系化合物のうち少なくともいずれか1種とを配合してなり、100℃動粘度が1mm/s以上、40.0mm/s未満である。本発明の潤滑油組成物は、油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーター・バッテリーの冷却装置、および継ぎ手等からなる機械装置に好ましく適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサンを基油とする潤滑油組成物およびこれを使用した機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧装置や変速装置においては、そこに使用される潤滑油の温度に対する粘度の変化が大きいと、機械の円滑な作動を損ない、運転エネルギーの損失につながる。特に、寒冷地に立地する風力発電装置、温度変化の激しい地域での増・減速装置や油圧作動装置、また、極寒地から酷暑の地域まで移動する自動車用の自動変速機や無段変速機、さらには冷却装置などでは、用いられる潤滑油の温度に対する粘度の変化が小さいことが望まれている。
このため、潤滑油の温度に対する粘度の依存性を示す指標として粘度指数(VI)が用いられている。鉱油の場合、一般に粘度指数は90〜100程度である。しかし、求められる粘度指数は最低でも150〜200程度であることから、鉱油を基油として用いる場合は、粘度指数向上剤と呼ばれる高分子化合物(ポリメタアクリレート等)を配合することで、粘度指数を150〜200程度にまで向上させている。しかしながら、粘度指数を200としても、−20℃の粘度は100℃の粘度に比較して100倍程度となり、−40℃においては1000倍以上となる。このため低温下では機械の円滑なる作動が妨げられ、運転エネルギーが過大に消費される。このようなことから温度に対する潤滑油粘度の依存性は限りなく少ないことが望ましく、鉱油に代わる高粘度指数の基油としてポリアルファオレフィンなどが実用化され、低温時の円滑な作動に重きを置く機械装置などに用いられている。しかしながら、鉱油やポリアルファオレフィンを構成する炭化水素は、特性上低温では粘度上昇を避けることができず、さらなる高粘度指数の基油が求められている。
【0003】
一方、従来から温度に対する粘度変化の少ない化合物として、シリコーン油(オルガノポリシロキサン)が知られており、航空機や鉄道車両の計器油などの温度に対する粘度変化を問題とする特殊用途に用いられている。そこでシリコーン油を潤滑油の基油として用いることが検討されてきた。例えば、極圧剤を配合することにより、含油軸受の含浸油としての使用が提案されている(特許文献1参照)。また、高粘度(100℃動粘度が2000mm/s以上)のシリコーン油を粘性継ぎ手に使用する例も開示されている(特許文献2、3参照)。さらに、シリコーン油を緩衝器用潤滑油として用いる例も開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−331895号公報
【特許文献2】特許第2579806号公報
【特許文献3】特開平7−278584号公報
【特許文献4】特開2006−143926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーン油は温度による粘度変化は少ないものの、滑り摩擦時の鋼-鋼間潤滑性が劣るため、潤滑油として使用することは極めて困難である。特許文献1に記載された潤滑油では、極圧剤を配合した上で極めて高い粘度域、具体的には40mm/s以上の領域における含油軸受の含浸油として提案されているが潤滑性としてはまだ十分ではない。また、特許文献2〜4で提案されている潤滑油も、殆ど耐荷重能を要求されない機器への適用である。
すなわち、通常の油圧作動油やギヤ油、さらには高い耐荷重能(耐摩耗性)を要求される変速装置にシリコーン油を基油とする潤滑油が適用された例はまだない。
【0006】
本発明は、潤滑性に優れ、粘度の温度に対する依存性が極めて小さい潤滑油組成物およびそれを適用した機械装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような潤滑油組成物および機械装置を提供するものである。
(1)(A)オルガノポリシロキサンと、(B)硫黄系化合物、リン系化合物、および亜鉛系化合物のうち少なくともいずれか1種とを配合してなり、100℃動粘度が1mm/s以上、40.0mm/s未満である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
(2)上述の(1)に記載の潤滑油組成物において、前記(B)成分が極圧剤または耐摩耗剤であることを特徴とする潤滑油組成物。
(3)上述の(1)または(2)に記載の潤滑油組成物において、さらに(C)摩擦調整剤を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物。
(4)上述の(3)に記載の潤滑油組成物において、前記(C)成分が、オレイン酸、オレイルアミン、およびオレイン酸アミドのうち少なくともいずれか1種であることを特徴とする潤滑油組成物。
(5)上述の(1)から(4)までのいずれか1つに記載の潤滑油組成物において、機械装置に使用されることを特徴とする潤滑油組成物。
(6)上述の(5)に記載の潤滑油組成物において、前記機械装置が油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーター・バッテリーの冷却装置、および継ぎ手のいずれかであることを特徴とする潤滑油組成物。
(7)上述の(5)に記載の潤滑油組成物を使用することを特徴とする機械装置。
(8)上述の(7)に記載の機械装置において、当該機械装置が油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーター・バッテリーの冷却装置、および継ぎ手のいずれかである ことを特徴とする機械装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極めて粘度指数が高く(300以上)、潤滑性に優れた潤滑油組成物を提供できる。それ故、本発明の潤滑油組成物を産業機械や自動車の変速装置等の機械装置に適用することで、大幅な省エネルギー効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の潤滑油組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、(A)オルガノポリシロキサンと、(B)硫黄系化合物、リン系化合物、および亜鉛系化合物のうち少なくともいずれか1種とを配合してなり、100℃動粘度が1mm/s以上、40.0mm/s未満である。以下、本組成物について詳細に説明する。
【0010】
本組成物に用いられる(A)成分は、オルガノポリシロキサンであり、シリコーンとも呼ばれる有機ケイ素化合物の一般名称である。その基本骨格(モノマー単位)としては、下記式(1)で示されるものが好適に使用可能である。
RnSiO(4−n)/2 (1)
式(1)中のRは、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基、ブタニエル基などのアルケニル基、フェニル基、トリル基などのアリール基またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基などから選択される同種又は異種の非置換又は置換1価炭化水素基であり、好ましくは炭素数1以上、10以下、より好ましくは1以上、8以下のものである。また、nは1.90以上、2.05以下である。このものは、直鎖状の分子構造を有することが好ましいが、分子中に一部分枝鎖状のものを含有していてもよい。また、このものは分子鎖末端がトリオルガノシリル基又は水酸基で封鎖されたものとすればよいが、このトリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、メチルジビニルシリル基、トリビニルシリル基などが例示される。これらのなかで特に好ましいのは、ジメチルポリシロキサンである。
【0011】
また、式(1)で示される構造のオルガノポリシロキサン以外にも、非反応性シリコーンオイルと呼ばれているポリエーテル変性アラルキルタイプ、フロロアルキルタイプ、長鎖アルキルタイプ、長鎖アルキル・アラルキルタイプ、高級脂肪酸エステル変性タイプ、高級脂肪酸アミド変性タイプ、およびフェニル変性タイプなども使用できる。
なお、オルガノポリシロキサンの重合度に限定はないが、液状を維持するためには重合度100以上、2000以下が好ましい。
このようなオルガノポリシロキサンを基油として用いることで、容易に粘度指数が300以上の潤滑油組成物を得ることができる。
【0012】
本組成物における(A)成分の好ましい割合は、組成物全量基準で80質量%以上、99.5質量%以下であり、より好ましくは、90質量%以上、99質量%以下である。る。(A)成分の割合が80質量%未満であると、粘度指数が低下するおそれがある。一方、(A)成分の割合が99.5質量%を超えると、潤滑性や耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0013】
本組成物に用いられる(B)成分は、硫黄系化合物、リン系化合物、および亜鉛系化合物のうち少なくともいずれか1種である。必ずしも理由は明確ではないが、これらの元素を含んだ化合物は、オルガノポリシロキサンに混合すると適度の潤滑性を与える。
このような(B)成分としては、極圧剤や耐摩耗剤として機能するものが好適に使用できる。例えば、硫黄系化合物としては、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、およびジアリールポリスルフィドなどが挙げられる。リン系化合物としては、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、および亜リン酸エステルアミン塩などが挙げられる。亜鉛系化合物としては、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)やジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)などが挙げられる。また、リンと硫黄の双方を含む硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)や硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)なども好ましく挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
これらの配合量は、(B)成分として、組成物全量基準で0.01質量%以上、5質量%以下配合されることが好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上、3質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上、2質量%以下である。(B)成分の配合量が少なすぎると、潤滑性が不十分となるおそれがある。一方、(B)成分の配合量が多すぎても、オルガノポリシロキサンへの未溶解物が生じてしまい、配合量に見合った効果は必ずしも得られない可能性がある。また、未溶解物により潤滑油通路の閉塞を引き起こすおそれもある。
【0015】
本組成物には、さらに、(C)成分として摩擦調整剤を配合することが好ましい。このような摩擦調整剤としては、例えば、有機モリブデン系化合物、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、およびアミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、特にオレイン酸、オレイルアミン、およびオレイン酸アミドが摩擦係数の低減や音振動の防止の点で好ましい。
摩擦調整剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0016】
本組成物の100℃動粘度は、1mm/s以上、40.0mm/s未満であり、好ましくは2mm/s以上、30mm/s以下である。100℃動粘度が1mm/s未満であると、潤滑性や耐摩耗性が不十分なものとなる。一方、100℃動粘度が40.0mm/s以上であると、上述した添加剤の溶解性が劣り、配合量に対する潤滑性や耐摩耗性が不十分なものとなる。また、100℃動粘度が40.0mm/s以上であると変速機構や流体伝達機構を期待する機械類に適用した場合にエネルギーロスが大きくなり、不適当なものとなる。
【0017】
なお、本組成物には、発明の効果を阻害しない範囲で、粘度指数向上剤、清浄分散剤、酸化防止剤、金属不活性剤、防錆剤、界面活性剤・抗乳化剤、消泡剤、腐食防止剤、油性剤および酸捕捉剤などを適宜配合して使用することができる。
【0018】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体、分散型オレフィン系共重合体、およびスチレン系共重合体等が挙げられる。これら粘度指数向上剤の質量平均分子量は、例えば分散型および非分散型ポリメタクリレートでは5000以上300000以下が好ましい。また、オレフィン系共重合体では800以上100000以下が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。粘度指数向上剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.5質量%以上、15質量%以下が好ましく、1質量%以上、10質量%以下がより好ましい。
【0019】
清浄分散剤としては、無灰分散剤、金属系清浄分散剤を用いることができる。
無灰分散剤としては、例えば、コハク酸イミド化合物、ホウ素系イミド化合物、マンニッヒ系分散剤、酸アミド系化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無灰系分散剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。
金属系清浄分散剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート、アルカリ金属フェネート、アルカリ金属サリシレート、アルカリ金属ナフテネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属ナフテネートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属系清浄分散剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。
【0020】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系の酸化防止剤、フェノール系の酸化防止剤、硫黄系の酸化防止剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.05質量%以上、7質量%以下であることが好ましい。
金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系金属不活性剤、トリルトリアゾール系金属不活性剤、チアジアゾール系金属不活性剤、およびイミダゾール系金属不活性剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属不活性剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上、3質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上、1質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、および多価アルコールエステルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。防錆剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上、1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
界面活性剤・抗乳化剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上、3質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上、1質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
消泡剤としては、例えば、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。消泡剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.005質量%以上、0.5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上、0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系腐食防止剤、ベンズイミダゾール系腐食防止剤、ベンゾチアゾール系腐食防止剤、チアジアゾール系腐食防止剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。腐食防止剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上、1質量%以下の範囲であることが好ましい。
油性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸、重合脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸、脂肪族モノアルコール、脂肪族モノアミン、脂肪族モノカルボン酸アミド、多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との部分エステルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。油性剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上、10質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0025】
酸捕捉剤としては、エポキシ化合物を用いることができる。具体的には、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸捕捉剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.005質量%以上、5質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
上述した本発明の潤滑油組成物は、動粘度が所定の範囲であり、添加剤のオルガノポリシロキサンに対する溶解性を保つことができるので、オルガノポリシロキサンの高粘度指数を保ったまま潤滑性(耐摩耗性、耐焼付性等)を発揮できるようになる。それ故、油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーター・バッテリーの冷却装置、および継ぎ手等に好ましく適用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例の内容に何ら限定されるものではない。
【0028】
[実施例1〜3、比較例1〜4、参考例1]
表1に示す配合処方で、工業用ギヤ油(ISO VG220)を想定した潤滑油組成物(試料油)を調製し、以下に示す方法で試料油の性状および、摩擦・摩耗特性を評価した。参考例1として市販ギヤ油(VG220)についても評価した。
【0029】
(1)動粘度(40℃、80℃、100℃)および粘度指数:
JIS K 2283の方法により測定した。
(2)シェル4球試験:
ASTM D2783に記載の方法に準拠して、回転数1800rpmの試験条件における最終無焼付荷重(LNL、単位:N)、融着荷重(WL、単位:N)、荷重−摩耗指数(LWI、単位:N)を求めた。
【0030】
【表1】

【0031】
1)シリコーン基油1:25℃粘度350mm/sのジメチルポリシロキサン
2)シリコーン基油2:25℃粘度100mm/sのジメチルポリシロキサン
3)鉱油150BS:水素化精製パラフィン系鉱油、40℃粘度459mm/s
4)鉱油500N:水素化精製パラフィン系鉱油、40℃粘度88.95mm/s
5)硫黄系極圧剤:ジチオジグリコール酸nオクチルエステル
6)リン系耐摩耗剤:トリクレジルフォスフェート
7)亜鉛系耐摩耗剤:イソブチルジチオ亜鉛塩(ZnDTP)
【0032】
[評価結果]
実施例1〜3はいずれも粘度指数が400を超えており、粘度の温度に対する依存性は市販ギヤ油(VG220)である参考例1や、鉱油を基油とした比較例2〜4よりも非常に優れている。しかも、シェル4球試験の結果は、参考例1と比較しても遜色ないレベルにある。ただし、比較例1に示すようにシリコーン基油のみを用いた場合、VIは大きく向上するものの耐焼付性に劣り、シェル4球試験では即座に焼き付きが発生してしまう。
以上のことから、シリコーン油を基油として硫黄系極圧剤、リン系耐摩耗剤、あるいは亜鉛系耐摩耗剤のいずれかを配合し、さらに組成物を所定の動粘度とすることでシリコーン油の高VI特性を維持しながら、シリコーン油単独では本来持ち得ない、市販ギヤ油と同等以上の耐摩耗性能を両立させることが可能となった。
【0033】
[実施例4〜6、比較例5〜8、参考例2〜3]
表2に示す配合処方で、工業用ギヤ油(VG32)を想定した潤滑油組成物(試料油)を調製し、前記した方法で試料油の性状および、摩擦・摩耗特性を評価した。参考例2として市販油圧油(VG32)、参考例3として市販ATFについても評価した。
【0034】
【表2】

【0035】
1)シリコーン基油3:25℃粘度20mm/sのジメチルポリシロキサン
2)シリコーン基油4:25℃粘度10mm/sのジメチルポリシロキサン
3)鉱油150N:水素化精製パラフィン系鉱油、100℃粘度4.2mm/s、VI 105
4)鉱油60N:水素化精製パラフィン系鉱油、100℃粘度 2.2mm/s、VI 112
5)粘度指数向上剤:ポリメタアクリレート、質量平均分子量 35000
6)硫黄系極圧剤:ジチオジグリコール酸nオクチルエステル
7)リン系耐摩耗剤:トリクレジルフォスフェート
8)亜鉛系耐摩耗剤:イソブチルジチオ亜鉛塩(ZnDTP)
9)摩擦調整剤(アルカリ系FM):オレイルアミン
10)摩擦調整剤(酸系FM):オレイン酸
【0036】
[評価結果]
実施例4〜6の試料油は、比較的低粘度のシリコーン基油に硫黄系等の極圧剤を配合したものである。参考例2の市販油圧油(VG32)や参考例3の市販ATFと比較すると100℃動粘度は同程度で40℃粘度は約1/2であることがわかる。
比較例5の試料油は、シリコ−ン基油のみの場合であり、すぐに焼き付けを起こしてしまうが、実施例4〜6のように所定の添加剤を配合することで、シリコンーン基油の高粘度指数を維持しながら、低温時の摩擦低減に効果があることがわかる。
【0037】
なお、実施例5は実施例4における試料油の粘度をさらに低粘度化して、粘度が下がった分の耐摩耗性の悪化をリン系耐摩耗剤の配合で補完し、さらに摩擦調整剤(FM)としてアルカリ性のFM、具体的にはオレイルアミンを配合したものである。また、実施例6は、さらに低粘度化した例であるが、亜鉛系耐摩耗剤および酸性FMを配合することで、必要とする耐焼付性を保持している。これらのような低粘度下においても、高VI化と潤滑性(耐焼付性等)の両立が可能であることは特筆すべきことである。
【0038】
一方、比較例6は実施例4の手法を鉱油系基油で検討したものである。鉱油に硫黄系極圧剤を配合することで実施例4以上の耐焼付性を得ることができたが、粘度指数向上剤を配合し粘度指数の向上を試みても粘度指数はせいぜい150であり、実施例の試料油に比較し1/2以下である。比較例7、8はそれぞれ鉱油を基油として粘度指数向上剤の配合量を増し、より高粘度指数を狙ったものである。鉱油系基油の粘度を実用に耐える範囲(基油の粘度を過剰に下げると引火点が低下し、実用上問題となる。)で下げ、より多くの粘度指数向上剤を配合してみた。その結果、比較例7、8の試料油でも粘度指数はせいぜい、219、238であり、実施例の試料油の1/2以下であり、300以上の高粘度指数は到底達成できないことが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)オルガノポリシロキサンと、(B)硫黄系化合物、リン系化合物、および亜鉛系化合物のうち少なくともいずれか1種とを配合してなり、100℃動粘度が1mm/s以上、40.0mm/s未満である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油組成物において、
前記(B)成分が極圧剤または耐摩耗剤である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の潤滑油組成物において、
さらに(C)摩擦調整剤を配合してなる
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の潤滑油組成物において、
前記(C)成分が、オレイン酸、オレイルアミン、およびオレイン酸アミドのうち少なくともいずれか1種である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の潤滑油組成物において、
機械装置に使用される
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の潤滑油組成物において、
前記機械装置が油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーター・バッテリーの冷却装置、および継ぎ手のいずれかである
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の潤滑油組成物を使用する
ことを特徴とする機械装置。
【請求項8】
請求項7に記載の機械装置において、
当該機械装置が油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーター・バッテリーの冷却装置、および継ぎ手のいずれかである
ことを特徴とする機械装置。

【公開番号】特開2013−18872(P2013−18872A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153157(P2011−153157)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】