説明

潤滑油組成物及びその製造方法

【課題】長期にわたり潤滑機能の低下が抑制され、長期間の使用が可能な、特にエンジン油に好適な潤滑油組成物及び含有されるマイクロカプセル(MC)の分散状態を有効に維持した前記潤滑油組成物を、効率良く製造する製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の組成物は、潤滑油基油と、該基油に分散させる、潤滑油用添加剤を内包したMCと、該基油に配合する、無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤とを含む。本発明の製造方法は、潤滑油用添加剤を内包したMCと油溶性の鎖状炭化水素化合物との混合物(a)を準備し、また潤滑油基油に、少なくとも無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤を配合した混合物(b)を準備し、混合物(a)及び(b)を混合し、該混合物から、混合物(a)に含まれる鎖状炭化水素化合物を除去する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及びその製造方法に関し、詳しくは、潤滑性能の低下が少なく、長期にわたる使用を実現した、特にエンジン油に好適な潤滑油組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題を背景にCO2の削減を目的として自動車用エンジン油への省燃費性能の付与や廃棄物の低減を目的にしたエンジン油の長寿命化が重要な課題となっている。エンジン油による省燃費化は、主に摩擦低減性能をエンジン油に付与することにより可能となる。エンジン油は一般に、潤滑油基油に、分散剤、金属系清浄剤、摩耗防止剤等を配合して調製されており、省燃費エンジン油には、これら添加剤に加えてモリブデン化合物が一般に配合されている。モリブテン化合物を添加することにより、動弁系の摩擦損失が低減され、自動車の省燃費化が可能になる。
しかしながら、この効果は新油時には大きいものの、走行距離が増加するに従い徐々に消失する。実際の自動車においては、エンジン油を充填後早い場合で数千km走行、長くても1万kmの走行で燃費向上効果は消失する。これはモリブテン化合物自体が消失あるいはモリブテン化合物による摩擦低減効果を発揮させるのに必要な摩耗防止剤の消失によるためである。これら化合物の消失は、熱や酸化によるモリブデン化合物の分解や走行に伴い発生する他化合物の劣化物等による分解が原因である。
【0003】
従来、初期の省燃費性能を長期間保持する技術としては、例えば、高性能潤滑油基油と、ジチオリン酸亜鉛やモリブデンジチオカーバメートのような過酸化物分解剤と、フェノール系又はアミン系酸化防止剤のような連鎖反応停止剤と、必要に応じて硫黄含有添加剤やサリシレート系清浄剤のような酸化防止能を有する各種添加剤を配合する技術が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。
長寿命性能に関して、市販のエンジン油は長くても2万km程度で交換する必要がある。エンジン油を交換せずに自動車を使用できることが、エンジン油の廃棄物が低減でき最も理想的であり、なるべく交換期間を長くすることによって交換回数が減り、該廃棄物の低減に寄与することが可能となる。エンジン油が交換を必要とする理由は、モリブデン化合物同様に、エンジン油に配合される添加剤が消失してしまうためである。これら添加剤の消失は、熱や酸化による添加剤自身の分解や走行に伴い発生する他化合物の劣化物等により分解されてしまうためである。
従って、省燃費性やその他の必要性能を長期に渡り維持するためには、エンジン油に使用される添加剤の寿命をいかに長くすることができるかが課題である。また、エンジン油以外の他の潤滑油においても、配合される添加剤が消失し、その機能が低下するため、長期に渡りその性能を維持できる技術が望まれている。なお、近年の長寿命潤滑油としては、ジチオリン酸亜鉛に代えて特定のリン化合物を含有する潤滑油組成物が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0004】
ところで、近年マイクロカプセルの適用により、劣化や性能低下が生じにくいグリース組成物や樹脂組成物が知られている。しかしながら、液体の潤滑油に、粒子径の大きなマイクロカプセルを含有させても、同様な性能低下抑制効果は得られ難い。例えば、特許文献4には、粒径0.01〜5μmのマイクロカプセルに内包された少なくとも1つの添加剤を含有する転動装置用潤滑油組成物が開示されている。しかし、該文献に記載された技術内容では、エンジン油等の長期間使用において潤滑油の初期性能を維持することは困難である。
【特許文献1】特開平8−302378号公報
【特許文献2】特開平9−003463号公報
【特許文献3】特開2002−294271号公報
【特許文献4】特開2005−36212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、長期にわたり潤滑機能の低下が抑制され、長期間の使用が可能な、特にエンジン油に好適な潤滑油組成物を提供することにある。
本発明の別の課題は、長期にわたり潤滑性能の低下が抑制され、長期間の使用を可能とした、含有されるマイクロカプセルの分散状態を有効に維持した潤滑油組成物を、効率良く製造する潤滑油組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルと、特定の化合物とを配合してなる潤滑油組成物が、長期間にわたりその性能が低下しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、潤滑油基油と、該基油に分散させる、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルと、該基油に配合する、無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤とを含むことを特徴とする潤滑油組成物が提供される。
また本発明によれば、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルと油溶性の鎖状炭化水素化合物との混合物(a)を準備する工程(1)と、潤滑油基油に、少なくとも無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤を配合した混合物(b)を準備する工程(2)と、混合物(a)及び混合物(b)を混合する工程(3)と、工程(3)で調製した混合物から、混合物(a)に含まれる鎖状炭化水素化合物を除去する工程(4)と、を含むことを特徴とする、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルが分散した潤滑油組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油と、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルと、無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤とを含むので、長期にわたり潤滑機能の低下が抑制され、長期間の使用が可能である。従って、特にエンジン油、更には自動車用エンジン油に好適である。
本発明の製造方法は、上記工程(1)〜(4)を含むので、長期にわたり潤滑性能の低下が抑制され、長期間の使用を可能とした、含有されるマイクロカプセルの分散状態を有効に維持した潤滑油組成物を、効率良く製造することができる。
従って、本発明の潤滑油組成物の製造に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。
本発明の組成物に用いる潤滑油基油は特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油が使用できる。
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油が例示できる。
【0009】
合成系基油としては、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物が例示できる。
【0010】
潤滑油基油の粘度指数は、通常80以上、好ましくは100以上、特に好ましくは110以上、より好ましくは120以上である。
潤滑油基油の動粘度は、100℃において、通常1〜10mm2/s、好ましくは2〜6mm2/s、更に好ましくは3〜5mm2/sであり、40℃において、通常15〜40mm2/s、好ましくは18〜30mm2/s、更に好ましくは20〜25mm2/sである。
潤滑油基油の%CAは通常10以下、好ましくは3以下である。また、%CPは、通常50以上、好ましくは60以上、特に好ましくは70以上である。
%CA及び%CPは、ASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率及びパラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率をそれぞれ意味する。
【0011】
本発明に用いるマイクロカプセルは、例えば、粘度指数向上剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤等の潤滑油用添加剤を内包したものである。該潤滑油用添加剤は、該例示に限定されず、潤滑油の種類に応じてその所望の効果を得るために適宜選択することができる。これら潤滑油用添加剤は、マイクロカプセル中に1種又は2種以上内包させることができ、本発明の組成物には、異なる潤滑用添加剤が内包されたマイクロカプセルを、所望の効果を維持するために2種以上、その効果を発揮しうる量配合することができる。また、上記潤滑油基油と共に内包させることもできる。
潤滑油用添加剤は、マイクロカプセルにその種類の一部若しくは全部を内包させることができ、また、必ずしも潤滑油用添加剤の全てをマイクロカプセルに内包させる必要はなく、マイクロカプセル外の潤滑油基油に配合することもできる。
マイクロカプセルの粒径は特に限定されないが、通常0.05〜5μm、好ましくは0.1〜4μmである。
【0012】
マイクロカプセルの壁剤としては、例えば、熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂等の樹脂、具体的には、アミノアルデヒド樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレア系樹脂、フェノール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース、ゼラチン等が挙げられ、特にエンジン油への使用において潤滑油基油中に安定して分散維持が可能な点で、メラミン系樹脂の使用が好ましい。
【0013】
マイクロカプセルの組成は特に限定されず、所望の効果を得るために適宜選択できる。例えば、潤滑油基油は、通常0〜90質量%、好ましくは10〜80質量%、特に好ましくは20〜70質量%であり、潤滑油用添加剤は、通常1〜95質量%、好ましくは5〜80質量%、特に好ましくは10〜60質量%であり、壁材は通常5〜99質量%、好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは20〜40質量%である。
【0014】
マイクロカプセルに内包させる潤滑油用添加剤は、潤滑油組成物の種類に応じて適宜選択でき、その配合割合は、潤滑油組成物に配合する潤滑油用添加剤の全部又は一部をマイクロカプセルに内包させることができる。
【0015】
潤滑油用添加剤としての前記粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。粘度指数向上剤の質量平均分子量は、通常800〜1000000、好ましくは100000〜900000である。
粘度指数向上剤の配合割合は、組成物全量基準で通常0.1〜20質量%である。
【0016】
潤滑油用添加剤としての前記無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができる。例えば炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体等が挙げられ、これらの中から任意に選ばれる1種又は2種類以上を配合することができる。
アルキル基又はアルケニル基としては、直鎖状でも分枝状でも良く、好ましいものとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基が挙げられる。
【0017】
含窒素化合物又はその誘導体としては、例えば、炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体の中から選ばれる1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0018】
前記コハク酸イミドとしては、例えば、式(1)又は(2)で示される化合物等が挙げられる。
【化1】

式(1)中、R4は炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、aは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0019】
【化2】

式(2)中、R5及びR6は、それぞれ個別に炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、bは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
なお、コハク酸イミドとしては、イミド化に際しては、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、式(1)のようないわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、式(2)のようないわゆるビスタイプのコハク酸イミドがあるが、そのいずれでも、またこれらの混合物でも使用可能である。
【0020】
前記ベンジルアミンとしては、例えば、式(3)で表せる化合物が挙げられる。
【化3】

式(3)中、R7は炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、cは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0021】
ベンジルアミンの製造方法は何ら限定されず、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
【0022】
前記ポリアミンとしては、例えば、式(4)で表せる化合物が挙げられる。
【化4】

式(4)中、R8は炭素数8〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、dは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0023】
ポリアミンの製造法は何ら限定されず、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニヤやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
【0024】
含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に、炭素数2〜30のモノカルボン酸やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるカルボン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;前述の含窒素化合物又はそれらのカルボン酸変性物や硫黄変性物をホウ素化合物で変性した、いわゆるホウ素変性化合物が例示できる。
このホウ素化合物による変性の方法は何ら限定されるものでなく、任意の方法が可能であるが、例えば、上述の含窒素化合物又はそれらの誘導体に、ホウ酸、ホウ酸塩又はホウ酸エステル等のホウ素化合物を作用させて、含窒素化合物又はそれらの誘導体中に残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化する方法が挙げられる。
無灰分散剤の配合割合は、組成物全量基準で通常0.1〜10質量%である。
【0025】
潤滑油用添加剤としての前記金属清浄剤としては、例えば、分子内にアルカリ土類金属又はアルカリ金属を有する、サリシレート、カルボキシレート、スルホネート、フェネート又はフォスフォネートが挙げられる。具体的には、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、アルキル等の置換基を有するナフテン酸又はフタール酸のアルカリ土類金属塩、石油スルホン酸又はアルキルベンゼンやアルキルナフタレンのスルホン酸のアルカリ土類金属塩、硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩、又は炭化水素基を有するチオフォスフォン酸やフォスフォン酸のアルカリ土類金属塩が挙げられ、また、アルカリ金属のサリシレート、カルボキシレート、スルホネート、フェネート又はフォスフォネートも挙げられる。
金属清浄剤の配合割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜10質量%である。
【0026】
潤滑油用添加剤としての前記摩耗防止剤又は極圧剤としては、例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
摩耗防止剤又は極圧剤の配合割合は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
潤滑油用添加剤としての前記摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤が挙げられる。
摩擦調整剤の配合割合は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0027】
潤滑油用添加剤としての酸化防止剤としては、例えば、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ヒドロキシフェニル基置換脂肪酸エステル系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
酸化防止剤の配合割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
潤滑油用添加剤としての腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物が挙げられる。
腐食防止剤の配合割合は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
潤滑油用添加剤としての消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテルが挙げられる。
消泡剤の配合割合は、組成物全量基準で、通常0.0005〜1質量%である。
【0028】
マイクロカプセルを製造する方法は特に限定されるものではなく、内包物質の性質やマイクロカプセルを構成する材料の性質等を考慮して選択される。例えば、上述した潤滑油添加剤の1種又は2種以上を、上述した潤滑油基油又は天然油脂等の疎水性媒体に溶解し、コアセルベーション法、界面重合法、in-situ重合法、相分離法、液中乾燥法、オリフィス法、スプレードライ法、気中懸濁被覆法、ハイブリダンザー法等のマイクロカプセル製造方法によって、マイクロカプセル中に内包される。
均一な粒径を有するマイクロカプセルを製造するためには、マイクロカプセルの製造条件を適宜調整することが好ましいが、粒度分布を有するマイクロカプセルから、遠心分離法やフィルター法によって均一な粒径を有するマイクロカプセルを分離してもよい。
なお、マイクロカプセルの膜材については、特に制限はないが、アミノアルデヒド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の合成高分子系の膜材が挙げられる。ここで、アミノアルデヒド樹脂壁膜カプセルは、例えば尿素、チオ尿素、アルキル尿素、エチレン尿素、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン、グアニジン、ビウレット、シアナミド等の少なくとも1種のアミン類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、グルタールアルデヒド、グリオキザール、フルフラール等の少なくとも1種のアルデヒド類、あるいはそれらを縮合して得られる初期縮合物等を使用したin-situ重合法によって製造される。ポリウレタン樹脂やポリウレア樹脂壁膜カプセルは、例えば、多価イソシアネートと水、多価イソシアネートとポリオール、イソチオシアネートと水、イソチオシアネートとポリオール、多価イソシアネートとポリアミン、イソチオシアネートとポリアミン等を使用した界面重合法によって製造される。また、ポリアミド樹脂壁膜カプセルは、例えば酸クロライドとアミン等の界面重合法によって製造される。これらの中では、アミノアルデヒド樹脂として、メラミンとホルムアルデヒドとを原料とするメラミン樹脂であることが好ましい。なお、メラミン樹脂の原料としてはメラミンとホルムアルデヒドとをアルカリ条件下で縮合させて得られるメチロールメラミンを使用すると、反応工程が1段階減るため、特に好ましい。メチロールメラミンは、加熱することで重縮合を起こしメラミン樹脂が得られる。
【0029】
本発明の組成物は、マイクロカプセルの分散性を長期間維持し、潤滑油組成物の性能を長期にわたり維持させるために、マイクロカプセルに内包せずに潤滑油基油に配合する、無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤を含む。本発明の所望の効果がより維持し得る点でポリエーテル系界面活性剤の使用が好ましい。
無灰分散剤としては、前述の無灰分散剤が例示でき、特に、炭素数8〜400の炭化水素基を有するコハク酸イミド系分散剤、炭素数8〜400の炭化水素を有するポリアミン系分散剤又はこれらの2種以上の混合物が好ましい。
【0030】
ポリエーテル系界面活性剤は特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシレンドデシルエーテル、ポリオキシレンオレイルエーテルが挙げられる。これらポリエーテル系界面活性剤は、マイクロカプセル表面に吸着し、潤滑油組成物中にマイクロカプセルを均一に分散させる効果があるものと推定される。
【0031】
本発明の組成物において、前記無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤の配合割合は、マイクロカプセルの配合割合や種類に応じて本発明の所望の効果を発揮させるように適宜決定することができる。通常、組成物に配合されるマイクロカプセル100質量部あたり、0.5〜50質量部、好ましくは1.0〜30質量部である。
また、組成物全量基準では、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜10質量%である。上記範囲外では、本発明の所望の効果が低下する恐れがある。
【0032】
本発明の組成物において、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルの配合割合は、内包される潤滑油用添加剤の種類に応じてその作用を発揮させるように適宜決定することができる。例えば、該マイクロカプセルは、組成物全量基準で、通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%である。0.1質量%未満では、本発明の所望の効果が期待できない恐れがあり、50質量%を超える場合には動粘度の増加の恐れがある。
【0033】
本発明の製造方法は、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルと油溶性の鎖状炭化水素化合物との混合物(a)を準備する工程(1)を含む。
工程(1)において、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルは、上述の材料を用いて水中に分散してマイクロカプセルを調製することにより得ることができる。
混合物(a)の調製は、例えば、まず、上記水中に分散したマイクロカプセルを、遠心分離機等によって沈降させ、上澄み液を取り除き、エタノール等のアルコールを添加する一連の操作を繰返して水分をほとんど除去する。次いで、ヘプタン等の油溶性の鎖状炭化水素化合物を添加してアルコールと同様な操作を繰返す方法等により行うことができる。
【0034】
本発明の製造方法は、潤滑油基油に、少なくとも無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤を配合した混合物(b)を準備する工程(2)を含む。
工程(2)において混合物(b)の調製は、上述の潤滑油基油と、上述の無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤、必要により上述の潤滑油用添加剤の少なくとも1種以上とを公知の方法により混合することにより行うことができる。
【0035】
本発明の製造方法は、工程(1)で準備した混合物(a)及び工程(2)で準備した混合物(b)を混合する工程(3)を含む。
工程(3)において混合は、公知の方法で行うことができる。また、工程(3)において、必要に応じて混合物(a)及び(b)以外の、上述の潤滑油用添加剤の少なくとも1種を混合することもできる。
【0036】
本発明の製造方法は、工程(3)で調製した混合物から、混合物(a)に含まれる油溶性の鎖状炭化水素化合物を除去する工程(4)を含む。
工程(4)において、油溶性の鎖状炭化水素化合物の除去は、例えば、混合物を真空ポンプ等の減圧器を用いて減圧することにより行うことができる。
なお、本発明の製造方法において、マイクロカプセルの製造法は上述したとおりであるが、本発明においては、水性媒体と、潤滑油添加剤を含む疎水性芯物質を乳化させる工程と、該工程により得られた乳化液に上述の膜材を反応させる工程を含むことが好ましい。ここで、水性媒体としては、例えばイソブチレン−無水マレイン酸共重合体のような乳化分散剤を、例えば5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%含有する水溶液が挙げられる。また、潤滑油添加剤を含む疎水性芯物質としては、上述の潤滑油添加剤を上述の潤滑油基油等の疎水性媒体に溶解したものが挙げられる。
また、該水性媒体と該疎水性芯物質を乳化させる工程としては、これらを混合し、例えば5〜90℃、好ましくは40〜80℃にて、高速回転型攪拌機等を用いて乳化させることができる。さらに、乳化液に膜材を反応させる工程においては、上述のマイクロカプセルの膜材の原料を、例えば10〜90質量%、好ましくは50〜80質量%含む水溶液の形で、該乳化液と好ましくは5〜45℃の低目の温度で攪拌しながら添加し、その後昇温し、好ましくは50〜80℃、より好ましくは55〜65℃で、例えば1〜10時間、好ましくは2〜6時間反応させる。なお、乳化分散剤の量を多くすると粒径がより小さなマイクロカプセルを得ることができ、少なくするとマイクロカプセル粒径が大きくなるため、上記疎水性物質と乳化分散剤の有効成分との混合割合(質量比)を、好ましくは50:1〜1:0.1、より好ましくは20:1〜5:1とすることが望ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらに限定されない。なお、実施例中に記載の「部」および「%」は特に断りがない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。また実施例中の乳化液およびマイクロカプセルの体積平均粒子径は、コールターカウンター(ベックマン−コールター社製「マルチサイザーII」、電解液ISOTON−II、測定粒子数は10万個)を用いて測定した。
実施例1〜3及び比較例1〜4
(マイクロカプセルの製造)
乳化分散剤としてイソブチレン−無水マレイン酸共重合体の22質量%水溶液(日昇工業製「MICRON8020」)45.5質量部および水154.5質量部を混合し、水性媒体Aを得た。次に表1に示したジチオリン酸亜鉛30質量部を潤滑油用水素化分解基油70質量部に溶解させ、疎水性芯物質Bを得た。
上記水性媒体Aと疎水性芯物質Bを60℃にて高速回転型攪拌機(特殊機化工業製「TKオートホモミクサーROBO MICS」)を用いて乳化し、体積平均粒径3.0μmの乳化液を得た。さらに該乳化液を40℃に保ちながら攪拌し、メチロールメラミンの70質量%水溶液(HOPAX社製「HP−304」)35.7質量部を乳化液に添加し、その後乳化液の温度を60℃に昇温させ、3時間反応させて体積平均粒子径3.1μmのマイクロカプセルスラリーを得た。
【0038】
(潤滑油の製造)
上記のようにして得られたマイクロカプセルスラリーから、マイクロカプセルを、遠心分離機により沈降させ、その上澄みを取り除き、エタノールに置換した。この作業を数回繰返し、水分をほとんど除去した後に、同様な作業でエタノールからヘプタンに置換を行った。該ヘプタンの上澄みを取り除き、ヘプタン置換マイクロカプセルを調製した。
一方、表1に示す界面活性剤及び/又は無灰分散剤としてのポリブテニルコハク酸イミド等を、水素化精製鉱油に配合溶解した混合物を調製した。
該混合物と、ヘプタン置換マイクロカプセルとを混合し、真空ポンプで減圧することによりヘプタンを除去し、マイクロカプセルが水素化精製鉱油に分散された潤滑油を調製した。
得られた潤滑油について、マイクロカプセルの凝集の有無を目視及び光学顕微鏡により観察した。また、シリンダー型の試験片を使用し、荷重400N、油温120℃、振幅幅1.5mm、振動数50HzにてSRV試験を行い、新油時及び劣化試験後の潤滑油の摩擦係数を測定した。なお、劣化試験は供試油にNO2を1000ppmおよびNOを200ppm含むガスを135ml/分で吹き込みつつ、120℃に48時間保持し実施した。また、劣化試験開始時および24時間後に、供試油100gに対し水2gを滴下し、室温で1時間攪拌を実施した。結果を表1に示す。表1中のMCはマイクロカプセルの略である。
【0039】
【表1】

1)水素化精製鉱油(動粘度4mm2/s(@100℃)、粘度指数120)
2)メラミン樹脂の膜材により形成。カプセルの組成は22質量%がジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zn含有量8.2質量%、リン含有量6.3質量%)アルキル基:2−エチルヘキシル基、51.2質量%が1)の基油、残りの主成分が膜材のメラミン樹脂。
3)メラミン樹脂の膜材により形成。カプセルの組成は73.2質量%が1)の基油、残りの主成分が膜材のメラミン樹脂。
4)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zn含有量8.2質量%、リン含有量6.3質量%)アルキル基:2−エチルヘキシル基。
5)ポリオキシレンドデシルエーテル
6)ポリオキシレンオレイルエーテル
7)ビスポリブテニルコハク酸イミド(ビスタイプ、ポリブテニル基の数平均分子量1300、窒素含有量1.6質量%)
【0040】
表1の結果から実施例1〜3の潤滑油は、初期及び劣化後の摩擦係数が低く、長期にわたり初期性能を維持できることがわかる。また、マイクロカプセルを使用せずに、ジチオリン酸亜鉛のみを配合した場合(比較例2)、ジチオリン酸亜鉛とコハク酸イミドを配合した場合(比較例3)、添加剤を内包しない(潤滑油基油のみ)マイクロカプセルと、ジチオリン酸亜鉛と界面活性剤を別々に配合した場合(比較例4)では、初期の摩擦係数を維持することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、該基油に分散させる、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルと、該基油に配合する、無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤とを含むことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
無灰分散剤が、コハク酸イミド系分散剤及びポリアミン系分散剤の少なくとも1種を含む請求項1記載の組成物。
【請求項3】
マイクロカプセルの壁材が、メラミン系樹脂である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
マイクロカプセルに内包させる潤滑油用添加剤が、分散剤、清浄剤、極圧剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤及び防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルと油溶性の鎖状炭化水素化合物との混合物(a)を準備する工程(1)と、
潤滑油基油に、少なくとも無灰分散剤及び/又はポリエーテル系界面活性剤を配合した混合物(b)を準備する工程(2)と、
混合物(a)及び混合物(b)を混合する工程(3)と、
工程(3)で調製した混合物から、混合物(a)に含まれる鎖状炭化水素化合物を除去する工程(4)と、
を含むことを特徴とする、潤滑油用添加剤を内包したマイクロカプセルが分散した潤滑油組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−248085(P2008−248085A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91162(P2007−91162)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】