説明

潤滑油組成物

【課題】酸化触媒又は三元触媒を装着した内燃機関において、触媒被毒の抑制と耐摩耗性の向上とを両立できる潤滑油組成物の提供。
【解決手段】潤滑油基油と、式(1)及び(2)で表されるリン化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン化合物を含有し、その含有量が、潤滑油組成物全量基準で、リン元素換算で0.005〜0.5質量%である。[式中、R及びRは炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を、R、R、R及びRは水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を、m及びnは0又は1を、それぞれ示す。]



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や自動変速機、グリースなどには、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。これらの用途における潤滑油のうち特に内燃機関用潤滑油(「エンジン油」ともいう。)には、内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求されるようになってきている。
【0003】
従来の内燃機関用潤滑油においては、上述の要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている。中でもジアルキルジチオリン酸亜鉛は、摩耗防止剤又は酸化防止剤としての機能を有するため、内燃機関用潤滑油には不可欠な添加剤として使用されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平08−302378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有する従来の潤滑油組成物は、以下の点で改善の余地がある。
【0005】
すなわち、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、排気ガス浄化触媒として使用されている三元触媒や酸化触媒を被毒する要因となる。この被毒はリンが使用過程において蒸発して排気ガス中に含まれることによって引き起こされると考えられるため、触媒被毒の抑制の観点からは内燃機関用潤滑油中のジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量を低減することが望ましい。しかし、単にジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量を低減するだけでは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の添加の本来の目的である耐摩耗性が低下してしまうため、根本的な解決策とはなり得ない。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酸化触媒又は三元触媒を装着した内燃機関において、触媒被毒の抑制と耐摩耗性の向上を両立することが可能な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定構造を有するリン化合物を特定量含有する潤滑油組成物によって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、潤滑油基油と、下記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩及び下記一般式(2)で表されるリン化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン化合物の金属塩と、を含有し、該リン化合物の金属塩の含有量が、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005〜0.5質量%であり、酸化触媒又は三元触媒を装着した内燃機関に使用されることを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
【化1】


[一般式(1)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、mは0又は1を示す。]
【化2】


[一般式(2)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、nは0又は1を示す。]
【0009】
本発明においては、潤滑油組成物中のリン濃度が、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.01〜0.10質量%であることが好ましい。これにより、酸化触媒又は三元触媒の被毒の抑制と耐摩耗性の向上とをより確実に両立することができるようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物によれば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いた従来の潤滑油と比較して、酸化触媒又は三元触媒を装着した内燃機関において、触媒被毒の抑制と耐摩耗性の向上をより高水準で達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明の潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油としては、特に制限されず、通常の潤滑油に使用されるものが使用できる。具体的には、鉱油系潤滑油基油、合成油系潤滑油基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油基油を任意の割合で混合した混合物等が使用できる。
【0013】
鉱油系潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTLワックス(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0014】
合成油系潤滑油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0015】
潤滑油基油の動粘度は特に制限されないが、潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは40mm2/s以下、更に好ましくは20mm2/s以下、特に好ましくは10mm2/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が50mm2/sを超えると、低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度が1mm2/s未満の場合には、潤滑部位における油膜形成が不十分となって潤滑性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油の蒸発損失量が増加する傾向にある。
【0016】
また、潤滑油基油の粘度指数は特に制限されないが、低温粘度特性の観点から、80以上であることが好ましい。また、低温から高温までの幅広い温度領域において優れた粘度特性が得られる観点から、潤滑油基油の粘度指数は100以上であることがより好ましく、110以上であることが更に好ましく、特に120以上であることが好ましい。
【0017】
また、潤滑油基油の硫黄分含有量は特に制限はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下、特に実質的に含有しない(0.001質量%以下)ものが好ましい。なお、本発明でいう「硫黄分含有量」とは、JIS K 2541−4「放射線式励起法」(通常、0.01〜5質量%の範囲)又はJIS K 2541−5「ボンベ式質量法、附属書(規定)、誘導結合プラズマ発光法」(通常、0.05質量%以上)に準拠して測定された値を意味する。
【0018】
また、潤滑油基油の全芳香族含有量は、特に制限はないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。潤滑油基油の全芳香族含有量が30質量%を超えると、酸化安定性が不十分となる傾向にある。なお、本発明でいう「全芳香族含有量」とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、又はピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0019】
本発明の潤滑油組成物は、上記の潤滑油基油に加えて、下記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩及び下記一般式(2)で表されるリン化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン化合物の金属塩を含有する。
【化3】


[一般式(1)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、mは0又は1を示す。]
【化4】


[一般式(2)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、nは0又は1を示す。]
【0020】
上記一般式(1)、(2)中、R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0021】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0022】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0023】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0024】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0025】
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0026】
〜Rが炭素数1〜30の炭化水素基である場合、R〜Rは、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0027】
また、R〜Rが硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基である場合の具体例としては、RO−(AO)−で表される基、R−(S)−R−で表される基(式中、Rは炭化水素基を、Aはアルキレン基を、nは1以上の整数をそれぞれ示す。)などが挙げられる。
【0028】
一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩は、一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基などを作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。
【0029】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モリブデン及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0030】
なお、上記リン化合物の金属塩は、金属の価数あるいはリン化合物のOH基の数に応じてその構造が異なり、したがって、リン化合物の金属塩の構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つの化合物)2molを反応させた場合、下記式(3)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化5】


[式中、Rは一般式(2)中のR〜Rと同一の定義内容を示す。]
【0031】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つの化合物)1molとを反応させた場合、下記式(4)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化6】


[式中、Rは一般式(2)中のR〜Rと同一の定義内容を示す。]
【0032】
本発明において、上記一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明において、上記一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩としては、
炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウム又はモリブデンとの塩;
炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛又はカルシウム又はモリブデンとの塩;
炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛又はカルシウムと又はモリブデンの塩;
炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩;
炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウム又はモリブデンとの塩;
炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩;および
炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウム又はモリブデンとの塩
が好ましい。
【0034】
上記の(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸、その金属塩、(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸モノエステル、その金属塩、並びに(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸ジエステルとしては、油溶性及び極圧性の点から、炭化水素基の合計炭素数が12〜30であることが好ましく、14〜24であることがより好ましく、16〜20であることが更に好ましい。
【0035】
本発明の潤滑油組成物において、一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005〜0.5質量%であり、好ましくは0.005〜0.2質量%、より好ましくは0.005〜0.1質量%、更に好ましくは0.005〜0.08質量%である。一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩の含有量を前記範囲内とすることで、酸化触媒又は三元触媒を装着した内燃機関において、触媒被毒の抑制と耐摩耗性の向上を両立することが可能となる。なお、一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩の含有量が前記下限値未満であると耐摩耗性が不十分となり、また、前記上限値を超えるとリンの蒸発量が増加して触媒被毒を十分に抑制することができない。
【0036】
また、本発明の潤滑油組成物は、本発明の効果が損なわれない限りにおいて、一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩以外に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等のリン含有添加剤を含有してもよいが、一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩以外のリン含有添加剤の含有量は、組成物全量を基準として、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以下であることが更に好ましい。
【0037】
さらに、潤滑油組成物中のリン濃度は、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.01〜0.10質量%であることが好ましく、0.01〜0.08質量%であることがより好ましい。潤滑油組成物中のリン濃度が前記上限値を超えると、リンの蒸発量が増加して触媒被毒の抑制効果が低下する傾向にある。
【0038】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油及び一般式(1)又は(2)で表されるリン化合物の金属塩に加えて、後述する各種添加剤を含有することができる。
【0039】
本発明の潤滑油組成物は、その酸中和特性、高温清浄性及び摩耗防止性を更に向上させるために、金属系清浄剤を更に含有することが好ましい。
【0040】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属ホスホネート又はアルカリ土類金属ホスホネート、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0041】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートとしては、より具体的には、例えば分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
【0042】
石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0043】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールと元素硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0044】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0045】
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートには、アルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物、アルキルサリチル酸等を、直接、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)だけでなく、さらにこれら中性塩(正塩)と過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩(正塩)をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)も含まれる。なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われる。
【0046】
また、金属系清浄剤は通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また、入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。また金属系清浄剤の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gである。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0047】
本発明においては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート等から選ばれる1種を単独で又は2種以上併用して使用することができる。金属系清浄剤として、低灰化による摩擦低減効果及び/又は摩耗防止効果が大きい点、ロングドレイン性により優れる点でアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートが特に好ましい。また、粘度増加をより抑制できる点からは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネートを使用することが特に好ましい。
【0048】
金属系清浄剤の金属比は特に制限されず、通常20以下のものが使用できるが、摩擦低減効果及びロングドレイン性をより向上させることができる点から、好ましくは金属比が1〜10の金属系清浄剤から選ばれる1種又は2種以上からなることが好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、サリチル酸基等を意味する。
【0049】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートが低灰化による摩擦低減効果が大きい点、ロングドレイン性により優れる点で特に好ましい。
【0050】
本発明の潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量の上限値は特に制限はなく、通常、組成物全量を基準として0.5質量%以下であるが、組成物全量を基準として、組成物の硫酸灰分が1.0質量%以下となるようにその他の添加剤とあわせて調整することが好ましい。そのような観点から、金属系清浄剤の含有量は、組成物全量を基準として、金属元素換算量で、好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.23質量%以下である。また、金属系清浄剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.15質量%以上である。金属系清浄剤の含有量が0.01質量%未満の場合、高温清浄性や酸化安定性、塩基価維持性などのロングドレイン性能が得られにくくなるため好ましくない。
【0051】
また、金属系清浄剤に含まれる金属(M)と、有機モリブデン化合物に含まれるモリブデン(Mo)との質量比(M/Mo)は、0.1〜500が好ましく、2〜100がより好ましく、3〜60が更に好ましく、5〜50が一層好ましく、10〜40が特に好ましい。
【0052】
また、本発明の潤滑油組成物は、無灰分散剤を更に含有することが好ましい。
【0053】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0054】
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0055】
無灰分散剤の具体的としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。これらの中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(I)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体
(II)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体
(III)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
【0056】
上記(I)コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記一般式(5)又は(6)で示される化合物等が例示できる。
【化7】


[式中、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、mは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
【化8】


[式中、R及びRは、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、mは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。]
【0057】
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(5)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(6)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含されるが、本発明の潤滑油組成物においては、それらの一方のみを含んでもよく、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよい。
【0058】
上記コハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキル又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0059】
上記(II)ベンジルアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(7)で表される化合物等が例示できる。
【化9】


[式中、R10は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
【0060】
上記ベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
【0061】
上記(III)ポリアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(8)で表される化合物等が例示できる。
11‐NH−(CHCHNH)‐H (8)
[式中、R11は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。]
【0062】
上記ポリアミンの製造法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
【0063】
また、無灰分散剤の一例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、具体的には例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に酸変性、ホウ素変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物;等が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ素変性化合物は耐熱性、酸化防止性に優れ、本発明の潤滑油組成物においても塩基価維持性及び高温清浄性をより高めるために有効である。
【0064】
本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が0.01質量%未満の場合は、高温下における塩基価維持性に対する効果が少なく、一方、20質量%を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するため、それぞれ好ましくない。
【0065】
また、本発明の潤滑油組成物は、連鎖停止型酸化防止剤を更に含有することが好ましい。これにより、潤滑油組成物の酸化防止性がより高められるため、本発明における塩基価維持性及び高温清浄性をより高めることができる。
【0066】
連鎖停止型酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤、金属系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。
【0067】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0068】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0069】
更に、上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて使用してもよい。
【0070】
本発明の潤滑油組成物において連鎖停止型酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑油組成物全量基準で5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。その含有量が5.0質量%を超える場合は、含有量に見合った十分な酸化防止性が得られないため好ましくない。一方、その含有量は、潤滑油劣化過程における塩基価維持性及び高温清浄性をより高めるためには、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上である。
【0071】
なお、本発明の潤滑油組成物が潤滑油基油に溶解しない化合物又は溶解性が低い添加剤(例えば常温で固体であるジアルキルリン酸亜鉛等)を含有する場合には、当該添加剤の潤滑油基油への溶解性改善や潤滑油組成物の製造時間の短縮の点から、窒素含有化合物(例えば無灰分散剤としてのアミン化合物や連鎖停止型酸化防止剤としてのアミン系酸化防止剤又はそれらの混合物)とリン系添加剤とを混合し、溶解又は反応させて得られた溶解物又は反応生成物を油溶性添加剤として潤滑油組成物に配合することが特に好ましい。このような油溶性添加剤の製造例としては、例えば、リン系添加剤と上記窒素含有化合物とを、好ましくはヘキサン、トルエン、デカリン等の有機溶媒中で15〜150℃、好ましくは30〜120℃、特に好ましくは40〜90℃で10分〜5時間、好ましくは20分〜3時間、特に好ましくは30分〜1時間混合して溶解又は反応させ、減圧蒸留等で溶媒を留去して得られる。
【0072】
本発明の潤滑油組成物は、その性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤等を挙げることができる。
摩耗防止剤としては、例えば、ジスルフィド、硫化オレフィン、硫化油脂、ジチオリン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオカルバミン酸金属塩(亜鉛塩、モリブデン塩等)、ジチオリン酸エステル及びその誘導体(オレフィンシクロペンタジエン、(メチル)メタクリル酸、プロピオン酸等との反応物;プロピオン酸の場合はβ位に付加したものが好ましい。)、トリチオリン酸エステル、ジチオカルバミン酸エステル等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは通常、0.005〜5質量%の範囲において本発明の組成物の性能を大幅に損なわない限り含有させることが可能であるが、低硫黄化及びロングドレイン性の点から、その含有量は、硫黄換算値で、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。
【0073】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等のモリブデン系摩擦調整剤、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。これら摩擦調整剤の含有量は、通常0.1〜5質量%である。
【0074】
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水素化添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0075】
これらの粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。
【0076】
またこれらの粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常潤滑油組成物基準で0.1〜20質量%である。
【0077】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0078】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0079】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0080】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0081】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーンル、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0082】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
【0083】
本発明の潤滑油組成物における硫黄含有量は、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。硫黄含有量を前記上限値以下とすることによって、ロングドレイン性に優れた低硫黄潤滑油組成物を実現することができる。
【0084】
また、本発明の潤滑油組成物のロングドレイン性を高め、排ガス後処理装置への悪影響を極力軽減するためには、潤滑油組成物の硫酸灰分を1.0質量%以下とすることが好ましく、0.8質量%以下とすることがより好ましく、0.6質量%以下とすることがより好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。ここで、硫酸灰分とは、JIS K 2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【0085】
本発明の潤滑油組成物は、酸化触媒又は三元触媒を装着した内燃機関に使用された場合に優れた性能を発揮することができるものである。そのため、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができる。また、本発明の潤滑油組成物は、硫黄分が100質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは20質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下のガソリンや軽油や灯油、あるいは硫黄分が1質量ppm以下の低硫黄燃料(例えば、LPG、天然ガス、ジメチルエーテル、アルコール系燃料、GTL(ガストゥリキッド)燃料(ガソリン留分、灯油留分、軽油留分)等)を用いる内燃機関用の潤滑剤として特に好ましく使用することができる。またその他摩耗防止性能及びロングドレイン性能が要求される潤滑油、例えば自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
[実施例1〜6、比較例1〜3]
実施例1〜6及び比較例1〜3においては、それぞれ以下に示す潤滑油基油及び添加剤を用いて表1、2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。表1、2には、各実施例又は比較例で得られた潤滑油組成物のカルシウム及びリンの濃度(潤滑油組成物全量を基準とした元素換算値)を併せて示す。
(潤滑油基油)
基油1:水素化精製鉱油(100℃における動粘度:4.7mm/s、粘度指数:120)
(リン含有添加剤)
リン含有添加剤1:一般式(2)中のR及びRが2−エチルヘキシル基であり、Rが水素原子であり、nが0であるリン化合物の亜鉛塩(リン含有量:9.1質量%、亜鉛含有量:9.5質量%)
リン含有添加剤2:一般式(2)中のR及びRがブチル基であり、Rが水素原子であり、nが1であるリン化合物の亜鉛塩(リン含有量:13.2質量%、亜鉛含有量:13.2質量%)
リン含有添加剤3:一般式(2)中のR及びRが2−エチルヘキシル基であり、Rが水素原子であり、nが1であるリン化合物のモリブデン塩(リン含有量:4質量%、モリブデン含有量:23質量%)
リン含有添加剤4:一般式(2)中のR及びRが2−エチルヘキシル基であり、Rが水素原子であり、nが1であるリン化合物の亜鉛塩(リン含有量:9質量%、亜鉛含有量:9質量%)
リン含有添加剤5:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基=sec−ブチル基/sec−ヘキシル基、リン含有量:7.2質量%、硫黄含有量:15.2質量%、亜鉛含有量:7.8質量%)
リン含有添加剤6:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基=iso−プロピル基/sec−ヘキシル基、リン含有量:7.2質量%、硫黄含有量:15.2質量%、亜鉛含有量:7.8質量%)
(金属系清浄剤)
金属系清浄剤1:カルシウム サリシレート(塩基価:170mgKOH/g、カルシウム含有量:6質量%)
金属系清浄剤2:カルシウム スルホネート(塩基価:300mgKOH/g、カルシウム含有量:12.7質量%)
(無灰分散剤)
無灰分散剤1:ポリブテニルコハク酸イミド(重量平均分子量:3000、窒素含有量:1.3質量%)。
(酸化防止剤)
酸化防止剤1:4,4’−メチレンビス−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール
酸化防止剤2:オクチルジフェニルアミン
(その他の添加剤)
添加剤パッケージ1:ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、消泡剤等の混合物。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
[性能評価試験1:JASO高温酸化試験]
実施例1〜4及び比較例1の潤滑油組成物の性能評価試験を、台上実機エンジンであるJASO(Japanese AutomobileStandard Organization)高温酸化安定性試験(JASO M333−93)に準拠して行った。エンジンは、直列6気筒、排気量2.0dm、DOHC型のものを使用した。運転条件は、油温149℃、回転数4800rpmおよび全負荷とし、試験時間は96時間とした。そして、燃料には、将来の排ガス規制を考慮して、硫黄分0.04質量%のものを使用した。本試験においては、試験開始(0時間)から32時間、64時間及び96時間経過時の試験油中のカルシウム及びリンの濃度を測定し、リン/カルシウム比(モル比)を求めた。得られた結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
表3に示した結果から、比較例1の潤滑油組成物の場合は、リン系添加剤5(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)が分解する過程でリン/カルシウム比が初期値より小さくなっており、試験油中のリンが蒸発していることがわかる。一方、実施例1〜4の潤滑油組成物の場合は、運転時間の経過に伴うリン/カルシウム比の実質的な低下が見られず、リンの蒸発が十分に抑制されていることが確認された。
【0093】
[性能評価試験2:Seq.IIIG試験]
実施例5、6及び比較例2、3の潤滑油組成物の性能評価試験を、台上実機エンジンであるASTM D7320高温酸化安定性試験に準拠して行った。エンジンは、直列6気筒、排気量3.8dm、OHV型のものを使用した。運転条件は、油温150℃、回転数3600rpmおよび全負荷とし、試験時間は100時間とした。そして、燃料には、将来の排ガス規制を考慮して、硫黄分0.04質量%のものを使用した。本試験においては、試験開始(0時間)から20時間、40時間、60時間及び80時間経過時の試験油中のカルシウム及びリンの濃度を測定し、リン/カルシウム比(モル比)を求めた。また、カムとリフターの摩耗量の平均値を求め、60μm以下の場合を合格、60μmを超えた場合を不合格と判定した。得られた結果を表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
表4に示した結果から、比較例2、3の潤滑油組成物の場合は、リン系添加剤5、6(いずれもジアルキルジチオリン酸亜鉛)が分解する過程でリン/カルシウム比が初期値より小さくなっており、試験油中のリンが蒸発していることがわかる。一方、実施例5、6の潤滑油組成物の場合は、運転時間の経過に伴うリン/カルシウム比の実質的な低下が見られず、リンの蒸発が十分に抑制されていることが確認された。また、実施例5、6の潤滑油組成物は十分な耐摩耗性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、下記一般式(1)で表されるリン化合物の金属塩及び下記一般式(2)で表されるリン化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン化合物の金属塩と、を含有し、
前記リン化合物の金属塩の含有量が、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で0.005〜0.5質量%であり、
酸化触媒又は三元触媒を装着した内燃機関に使用されることを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】


[一般式(1)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、mは0又は1を示す。]
【化2】


[一般式(2)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又は硫黄、酸素及び窒素から選ばれる少なくとも1種を含有する基を示し、nは0又は1を示す。]
【請求項2】
前記潤滑油組成物中のリン濃度が、潤滑油組成物全量を基準として、0.01〜0.10質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−266367(P2008−266367A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107374(P2007−107374)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】