説明

潤滑油組成物

【課題】高温且つ高面圧の過酷な環境下で運転される増速歯車装置を有するコンバインドサイクル発電のタービン軸受などに使用した場合であっても、高い防錆性、十分に長い酸化寿命を示し、高水準の耐スラッジ性及び極圧性・潤滑性を達成することが可能な潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油に、コハク酸及び/又はそのエステル並びにザルコシン酸を含有させて潤滑油組成物とする。コハク酸及び/又はそのエステルの含有量は0.01〜0.1質量%とし、ザルコシン酸の含有量は0.001〜0.01質量%とする。また、コハク酸及び/又はそのエステルの含有量とザルコシン酸の含有量の質量比は、1:0.01〜0.7となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の発電設備では、発電効率を高めエネルギーの有効活用のため、液化天然ガス(LNG)等高温の燃焼ガスを用いるガスタービンや、ガスタービンと蒸気タービンとを組み合わせたコンバインドサイクル発電設備などが多くなってきている。この発電設備の場合、燃焼ガスの高温化に伴い使用するタービン油への熱負荷が大幅に増加している。
また、高炉生成ガス(BFG)焚きコンバインドサイクル発電の場合、BFGは燃焼カロリーが低いので、発電効率を向上させる目的で、BFGを高度に昇圧する必要がある。そのためガスタービン−発電機−蒸気タービンにより構成する軸系と増速歯車装置を介して結合したガス圧縮機でBFGを昇圧した後、ガスタービンに供給するようにする。
【0003】
この増速歯車装置は、ガス圧縮機とタービン軸と発電機を直接連結しているが、タービン装置のコンパクト化を目的として、タービン軸受の潤滑油と増速歯車装置の潤滑油は兼用して使用できることが求められるようになってきた。このような潤滑油には、タービン油及びギヤ油としての双方の性能が要求され、歯車の耐摩耗性・極圧性が強く求められている。さらに、高い錆止め性が求められ、また高温且つ高面圧の過酷な条件下での優れた熱・酸化安定性及び耐スラッジ性能を有することが求められる。
【0004】
こうしたことから、従来も、鉱油又は合成油にアルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、ベンゾトリアゾールを配合したガスタービン油が提案されているが、こうしたものでは、未だ充分な効果を得られないでいた。(特許文献1)
【特許文献1】特開平7−228882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、従来の潤滑油は、上述の増速歯車装置を有するコンバインドサイクル発電のタービン軸受に使用した場合の耐スラッジ性能及び極圧性が必ずしも十分とは言えなかった。すなわち、高い防錆性、高い極圧性、耐摩耗性が要求される用途には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などの硫黄系極圧剤あるいはアルキル化チオフォスフェイトなどの硫黄−リン系極圧剤と防錆剤として、CaスルフォネートやBaスルフォネート等を添加した潤滑油が広く使用されているが、防錆剤はその性質上、金属表面への吸着性に優れているため各種極圧剤の潤滑性能の向上作用を阻害する可能性が大きいので防錆性と極圧性を両立させるのは非常に難しい。
【0006】
特に、潤滑剤が高温で使用される用途においては、硫黄系極圧剤はその添加量が微量であっても熱負荷が加わるとスラッジを多量に生成し、また熱安定性・酸化安定性を低下させる傾向がある。そのため、硫黄系極圧剤を添加した潤滑油では、上述の増速歯車装置を有するコンバインドサイクル発電のタービン軸受において十分な熱安定性・酸化安定性及び耐スラッジ性能を得ることが困難である。
【0007】
一方、リン系極圧剤は硫黄系極圧剤に比べてスラッジを生成しにくい傾向にあるが、リン系極圧剤を単独で使用した場合には、上記ギヤ油に要求される高いレベルの極圧性を得ることが困難である。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高温且つ高面圧の過酷な環境下で運転される増速歯車装置を有するコンバインドサイクル発電のタービン軸受などに使用した場合であっても、十分に長い酸化寿命を示し、高い錆止め性、高水準の耐スラッジ性、並びに高い極圧性を有している優良な潤滑油組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油に、コハク酸及び/又はそのエステル並びにザルコシン酸を併せて使用することにより、極圧性を阻害しやすい防錆剤の添加量を減少させ尚且つ優良な防錆性を有する潤滑油組成物を得ることができるようにした。
また、基油にリン化合物や、芳香族アミン化合物をさらに含有させることによって、十分に長い酸化寿命を示し、尚且つ、高水準の耐スラッジ性、高い極圧性を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油組成物によれば、高温且つ高面圧の過酷な環境下で運転される増速歯車装置を有するコンバインドサイクル発電のタービン軸受などに、歯車と軸受の潤滑を兼用で使用した場合であっても、優良な錆止め性を得ることができる。また、潤滑油として十分に長い酸化寿命を示し、高水準の耐スラッジ性及び極圧性を達成することが可能となる。従って、本発明の潤滑油組成物は、増速歯車装置などにおける摺動部分の摩耗の抑制、焼付きの防止及びコンバインドサイクル発電等タービン軸受装置のメンテナンスインターバル延長の点で非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、化合物又は官能基が直鎖状及び分岐状の構造の双方を取り得る場合、特に断らない限り当該化合物には直鎖状のものと分岐状のものとの双方が含まれる。
【0012】
本発明の潤滑油組成物は、鉱油、合成油から選ばれる少なくとも1種の基油を含有する。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油を挙げることができる。
【0013】
合成油としては、例えば、ポリオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油などが挙げられる。
また、ワックス異性化油、GTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化する手法で製造される基油等も使用可能である。
高度精製合成油としては、天然ガス(メタン等)のガス化プロセス(部分酸化)によって得られる水素と一酸化炭素を原料としてフィッシャートロプシュ重合にて重質直鎖パラフィンとし、これを前述と同様の接触分解異性化することで得られる粘度指数130以上(典型的には145〜155)を有する潤滑油基油で、GTL(ガストゥリキッド)とも呼ばれる基油等を使用することも可能である。
【0014】
これらの基油の中でも、より耐熱性、熱・酸化安定性に優れることから、水素化処理などを施して硫黄分含有量及び窒素含有量をできるだけ低減した鉱油、及び合成油のポリオレフィン、或いは、XHVI(登録商標)(GTL(ガストゥリキッド))と呼ばれている合成油の使用が好ましい。
【0015】
上記ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物、又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン(1−ブテン、2−ブテン、イソブテン)、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明の潤滑油組成物における上記基油の含有量は特に制限されないが、潤滑油組成物の全量基準で、60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0017】
上記基油の粘度は特に制限されないが、40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。
また、全硫黄分は、0〜100ppm、好ましくは0〜30ppmがよい。
全窒素分も0〜100ppm、好ましくは0〜30ppmがよい。
さらに、アニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するとよい。
【0018】
上記基油には、コハク酸及び/又はそのエステルとザルコシン酸の両者を含有させて潤滑油組成物にする。
上記コハク酸及び/又はそのエステルは、下記式1に示すコハク酸及び/又は炭素数1〜30のアルコールとの部分エステルである。
【0019】
【化1】

(上記式1中、Z1〜Z6は水素原子又は炭素数1〜30の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基を示す。)
【0020】
また、上記ザルコシン酸は、下記式2に示すグリシンの誘導体である。
【0021】
【化2】

(上記式2中、Rは炭素数1〜30の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、アルケニル基を示す。)
【0022】
上記ザルコシン酸としては、具体的には、例えば、下記の式3の(Z)−N−メチル−N−(1−オキソ−9−オクタデセニル)グリシンなどが、挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
上記コハク酸及び/又はそのエステルは、潤滑油組成物の全量に対して、0.01〜0.1質量%含有するように使用される。また、上記ザルコシン酸は、同じく0.001〜0.01質量%含有するように使用される。
そして、コハク酸及び/又はそのエステルとザルコシン酸の質量比は、1:0.01〜0.7、好ましくは1:0.02〜0.5、より好ましくは1:0.05〜0.3となるように使用するのが良い。
【0025】
この潤滑油組成物には、さらに極圧性の向上のためにリン化合物を含有させることが好ましい。
このリン化合物としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスフォロチオネート、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸エステル或いはその誘導体、リン含有カルボン酸、またはリン含有カルボン酸エステルの少なくとも1種、またはこれらの混合物があり、熱・酸化安定性の点から好ましく用いられる。
【0026】
リン酸エステルとしては、具体的には、例えば、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(iso−プロピルフェニル)ホスフェート、トリアリールホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0027】
酸性リン酸エステルの具体例としては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、及びジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0028】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、及びトリオクチルアミンなどのアミンとの塩が挙げられる。
【0029】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、及びポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェートなどが挙げられる。
【0030】
亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリクレジルホスファイトなどが挙げられる。
【0031】
また、ホスフォロチオネートとしては、具体的には、トリブチルホスフォロチオネート、トリペンチルホスフォロチオネート、トリヘキシルホスフォロチオネート、トリヘプチルホスフォロチオネート、トリオクチルホスフォロチオネート、トリノニルホスフォロチオネート、トリデシルホスフォロチオネート、トリウンデシルホスフォロチオネート、トリドデシルホスフォロチオネート、トリトリデシルホスフォロチオネート、トリテトラデシルホスフォロチオネート、トリペンタデシルホスフォロチオネート、トリヘキサデシルホスフォロチオネート、トリヘプタデシルホスフォロチオネート、トリオクタデシルホスフォロチオネート、トリオレイルホスフォロチオネート、トリフェニルホスフォロチオネート、トリクレジルホスフォロチオネート、トリキシレニルホスフォロチオネート、クレジルジフェニルホスフォロチオネート、キシレニルジフェニルホスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)ホスフォロチオネート等、が挙げられる。また、これらの混合物も使用できる。
【0032】
ジチオリン酸亜鉛としては、一般に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛、アリールアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛のアルキル基は、炭素数3〜22の第1級又は第2級のアルキル基、炭素数3〜18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛が使用される。
ジアルキルジチオリン酸亜鉛の具体例としては、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジイソペンチルジチオリン酸亜鉛、ジエチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジノニルジチオリン酸亜鉛、ジデシルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルメチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジノニルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛、等が挙げられる。
【0033】
ジチオリン酸エステル或いはその誘導体としては以下のものが挙げられる。
モノプロピルジチオホスフェート、モノブチルジチオホスフェート、モノペンチルジチオホスフェート、モノヘキシルジチオホスフェート、モノペプチルジチオホスフェート、モノオクチルジチオホスフェート、モノラウリルジチオホスフェート等のジチオリン酸
モノアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);モノフェニルジチオホスフェート、モノクレジルジチオホスフェート等のジチオリン酸モノ((アルキル)アリール)エステル;ジプロピルジチオホスフェート、ジブチルジチオホスフェート、ジペンチルジチオホスフェート、ジヘキシルジチオホスフェート、ジヘプチルジチオホスフェート、ジオクチルジチオホスフェート、ジラウリルジチオホスフェート等のジチオリン酸ジアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);ジフェニルジチオホスフェート、ジクレジルジチオホスフェート等のジチオリン酸ジ((アルキル)アリール)エステル;トリプロピルジチオホスフェート、トリブチルジチオホスフェート、トリペンチルジチオホスフェート、トリヘキシルジチオホスフェート、トリヘプチルジチオホスフェート、トリオクチルジチオホスフェート、トリラウリルジチオホスフェート等のジチオリン酸トリアルキルエステル(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);トリフェニルジチオホスフェート、トリクレジルジチオホスフェート等のジチオリン酸トリ((アルキル)アリール)エステルなどが例示できる。
【0034】
また、リン含有カルボン酸化合物としては、同一分子中にカルボキシル基とリン原子の双方を含んでいればよく、その構造は特に制限されない。しかし、極圧性及び熱・酸化安定性の点から、ホスホリル化カルボン酸、若しくは、ホスホリル化カルボン酸エステルが好ましい。
【0035】
ホスホリル化カルボン酸及びホスホリル化カルボン酸エステルとしては、例えば下記の式4で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化4】

(式4中、R4及びR5は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R6は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、R7は水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X1、X2、X3及びX4は同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子又は硫黄原子を示す。)
【0037】
上記式4中の、R4及びR5はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表しているが、炭素数1〜30の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
【0038】
上記ホスホリル化カルボン酸の中でも有用なβ−ジチオホスホリル化プロピオン酸としては、下記の式5の構造を有するものである。
【0039】
【化5】

【0040】
このβ−ジチオホスホリル化プロピオン酸としては、具体的に、3−(ジ−イソブトキシ−チオホスホリルスルファニル)−2−メチル−プロピオン酸などが挙げられる。
【0041】
本潤滑油組成物におけるリン含有カルボン酸化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.002〜0.5質量%である。
リン含有カルボン酸化合物の含有量が前記下限値未満では十分な潤滑性が得られない傾向にある。一方、前記上限値を超えても含有量に見合う潤滑性向上効果が得られない傾向にあり、更には熱・酸化安定性や加水分解安定性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0042】
なお、上記式(4)で表されるホスホリル化カルボン酸のうち、R7が水素原子である化合物の含有量については、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.002〜0.08質量%、更に好ましくは0.003〜0.07質量%、一層好ましくは0.004〜0.06質量%、特に好ましくは0.005〜0.05質量%である。
当該含有量が0.001質量%未満の場合は極圧性向上効果が不十分となるおそれがあり、一方、0.1質量%を超えると熱・酸化安定性が低下するおそれがある。
【0043】
上記のリン化合物の中でも、より極圧性等の諸性能に優れることから、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル及びホスフォロチオネート、β−ジチオホスホリル化プロピオン酸が好ましく、リン酸エステル、β−ジチオホスホリル化プロピオン酸がより好ましく、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、モノクレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルモノフェニルホスフェート等のトリアリールホスフェート、β−ジチオホスホリル化プロピオン酸が更により好ましい。
【0044】
上記リン化合物の含有量は特に制限されないが、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜4.5質量%、更に好ましくは0.1〜4質量%、一層好ましくは0.5〜3.5質量%、特に好ましくは1〜3質量%である。リン化合物の含有量が0.01質量%未満の場合はリン化合物の含有による極圧性向上効果が不十分となるおそれがあり、一方、5質量%を超えると熱・酸化安定性及び泡立ち性が低下するおそれがある。
【0045】
この潤滑油組成物には、更に芳香族アミン化合物を含ませることができ、こうした芳香族アミン化合物としては、フェニル−α−ナフチルアミン系化合物、ジアルキルジフェニルアミン系化合物が挙げられる。
【0046】
フェニル−α−ナフチルアミン系化合物としては、下記一般式6で表されるフェニル−α−ナフチルアミンが好ましく用いられる。
【0047】
【化6】

(上記式6中の、R1は水素原子又は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示す。)
【0048】
上記式6中のR1がアルキル基である場合、このアルキル基は炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状のものである。このようなアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、及びヘキサデシル等が挙げられる。なお、R1の炭素数が16を超える場合には、分子中に占める官能基の割合が小さくなり、酸化防止性能に悪影響を与える恐れがある。
【0049】
一般式6中のR1がアルキル基である場合、溶解性に優れる点から、R1は、炭素数8〜16の分枝アルキル基が好ましく、さらに炭素数3又は4のオレフィンのオリゴマーから誘導される炭素数8〜16の分枝アルキル基がより好ましい。炭素数3又は4のオレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン及びイソブチレンが挙げられるが、溶解性の点から、プロピレン又はイソブチレンが好ましい。
更に優れた溶解性を得るためには、R1は、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、プロピレンの3量体から誘導される分枝ノニル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基、プロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基又はプロピレンの5量体から誘導される分枝ペンタデシル基がさらにより好ましく、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基又はプロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基が特に好ましい。
【0050】
また、R1がアルキル基である場合、フェニル基の任意の位置に結合可能であるがアミノ基に対してp−位であることが好ましい。更に、アミノ基はナフチル基の任意の位置に結合可能であるが、α位であることが好ましい。
【0051】
上記一般式(6)で表されるフェニル−α−ナフチルアミンとしては、市販のものを用いても良く、また合成物を用いても良い。合成物は、フリーデル・クラフツ触媒を用いて、フェニル−α−ナフチルアミンと炭素数1〜16のハロゲン化アルキル化合物との反応、あるいはフェニル−α−ナフチルアミンと炭素数2〜16のオレフィン又は炭素数2〜16のオレフィンオリゴマーとの反応を行うことにより容易に合成することができる。フリーデル・クラフツ触媒としては、具体的には例えば、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄等の金属ハロゲン化物;硫酸、リン酸、五酸化リン、フッ化ホウ素、酸性白土、活性白土等の酸性触媒;等を用いることができる。
【0052】
また、ジアルキルジフェニルアミン系化合物としては、下記式7で表されるジアルキルジフェニルアミンが好ましく用いられる。
【0053】
【化7】

(式7中、R2及びR3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜16のアルキル基を示す。)
【0054】
このR2及びR3で表されるアルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル等(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でも良い)が挙げられる。
これらの中でも、溶解性に優れる点から、R2及びR3としては、炭素数3〜16の分枝アルキル基が好ましく、炭素数3又は4のオレフィン又はそのオリゴマーから誘導される炭素数3〜16の分枝アルキル基がより好ましい。炭素数3又は4のオレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、2−ブテン及びイソブチレン等が挙げられるが、溶解性に優れる点から、プロピレン又はイソブチレンが好ましい。
【0055】
また、R2又はR3としては、更に優れた溶解性が得られることから、それぞれプロピレンから誘導されるイソプロピル基、イソブチレンから誘導されるtert−ブチル基、プロピレンの2量体から誘導される分枝ヘキシル基、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、プロピレンの3量体から誘導される分枝ノニル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基、プロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基又はプロピレンの5量体から誘導される分枝ペンタデシル基がさらにより好ましく、イソブチレンから誘導されるtert−ブチル基、プロピレンの2量体から誘導される分枝ヘキシル基、イソブチレンの2量体から誘導される分枝オクチル基、プロピレンの3量体から誘導される分枝ノニル基、イソブチレンの3量体から誘導される分枝ドデシル基又はプロピレンの4量体から誘導される分枝ドデシル基が最も好ましい。
【0056】
なお、R2又はR3の一方又は双方が水素原子である化合物を用いると、当該化合物自体の酸化によりスラッジが発生する恐れがある。また、アルキル基の炭素数が16を超える場合には、分子中に占める官能基の割合が小さくなり、高温での酸化防止性が低下する恐れがある。
【0057】
R2又はR3で示されるアルキル基は、それぞれフェニル基の任意の位置に結合可能であるが、アミノ基に対してp−位であることが好ましく、すなわち上記式7で表されるジアルキルジフェニルアミンはp,p’−ジアルキルジフェニルアミンであることが好ましい。
【0058】
上記の式7で表されるジアルキルジフェニルアミンは市販のものを用いても良く、また合成物を用いても良い。合成物は、フリーデル・クラフツ触媒を用い、ジフェニルアミンと炭素数1〜16のハロゲン化アルキル化合物との反応、あるいはジフェニルアミンと炭素数2〜16のオレフィン又は炭素数2〜16のオレフィン又はこれらのオリゴマーとの反応を行うことにより容易に合成することができる。フリーデル・クラフツ触媒としては、フェニル−α−ナフチルアミン系化合物の説明において例示した金属ハロゲン化物や酸性触媒等が用いられる。
【0059】
上記式(6)、(7)で表される芳香族アミン化合物は1種を単独で用いても良いし、構造の異なる2種以上の混合物を用いても良いが、高温での酸化防止性をより長期にわたって維持できることから、式(6)で表されるフェニル−α−ナフチルアミンと式(7)で表されるジアルキルジフェニルアミンとを併用することが好ましい。この場合の混合比は任意であるが、質量比で1/10〜10/1の範囲にあることが好ましい。
【0060】
また、本発明の潤滑油組成物中の芳香族アミン化合物合計の含有量は特に制限されないが、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.02〜4質量%、更に好ましくは0.03〜3質量%、更により好ましくは0.04〜2質量%、特に好ましくは0.05〜1質量%である。合計の含有量が0.01質量%未満の場合には酸化安定性や熱安定性が不十分となる傾向にある。一方、5質量%を超える場合には、含有量に見合う酸化安定性の効果が得られず、更にはスラッジの増加の原因となるため好ましくない。
【0061】
本発明の潤滑油組成物には、更にその各種性能を高める目的で、公知の潤滑油添加剤の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。かかる添加剤としては、例えば、フェノール系、フェノチアジン系等の酸化防止剤;ポリアクリレート等のアクリレート系又はアルキルポリシロキサン等のシロキサン系などの消泡剤;ベンゾトリアゾール又はその誘導体等の金属不活性化剤;ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オレフィンコポリマー、ポリスチレン等の流動点降下剤などが挙げられる。
これらの添加剤を用いる場合の含有量は任意であるが、組成物全量基準で、酸化防止剤の場合は0.1〜5質量%、消泡剤の場合は0.0005〜1質量%、金属不活性化剤の場合は0.005〜1質量%、その他の添加剤の場合はそれぞれ0.1〜15質量%が好ましい。
【0062】
本潤滑油組成物の粘度は特に制限されないが、40℃における動粘度の範囲は、好ましくは680mm/s以下、より好ましくは220mm/s以下であり、また、好ましくは2mm/s以上、より好ましくは8mm/s以上である。
100℃における動粘度の範囲は、好ましくは25mm/s以下、より好ましくは20mm/s以下、更に好ましくは15mm/s以下、特に好ましくは10mm/s以下であり、また、好ましくは1.0mm/s以上、より好ましくは1.5mm/s以上、更に好ましくは2mm/s以上、特に好ましくは2.5mm/s以上である。また、上記基油の粘度指数は特に制限されないが、好ましくは85以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは120以上である。
【0063】
また、本発明の潤滑油組成物においては、熱・酸化安定性を高めて特にスラッジ生成量を十分に低減する点から、当該組成物中の硫黄含有量(元素換算値)が、組成物全量基準で、0.02質量%以下であることが好ましく、0.015質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが更に好ましい。ここでいう硫黄含有量とは、JIS K2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」の「微量電量滴定式酸化法」により測定される値をいう。
【0064】
本発明の潤滑油組成物の用途は特に制限されるものではないが、圧縮機及び増速歯車装置を備えるタービン装置の潤滑油として特に好ましく使用される。タービン装置には、水力タービン、蒸気タービン、ガスタービン等があるが、本発明の潤滑油組成物は特に増速歯車装置を備えるガスタービン装置に用いた場合に優れた効果を発揮する。このようなガスタービン装置の出力数に特に制限はない。
【0065】
また、本発明の潤滑油組成物は、その優れた特性から、上記用途の他、油圧作動油、工業用ギヤ油、軸受油、圧縮機油等の用途においても好ましく使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
[実施例1〜2、比較例1〜8]
実施例1〜2及び比較例1〜6の調製に当り、以下の基油及び添加剤を用意した。
基油1:XHVI5.2(登録商標)
フィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL基油で、API(米国石油
協会)基油分類によりグループ3に分類されるもの。(特性:100℃における動
粘度;5.10mm/s、40℃における動粘度;23.5mm/s、粘度指
数;153、15℃密度;0.821、硫黄分含有量(硫黄元素換算値);10
ppm未満、窒素分含有量(窒素元素換算値);1ppm未満、ASTM D32
38法による環分析のアロマ分;1%未満)
基油2:GrII
原油を常圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、水素化分解、溶剤脱ろうなど
の精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油
(特性:100℃における動粘度;10.9mm/s、40℃における動粘度;
91.2mm/s、粘度指数;104、硫黄分含有量(硫黄元素換算値);10
ppm未満)
【0068】
添加剤A1:テトラプロペニルコハク酸、及びその1,3−プロパンジオールとのエステ
ル化合物の混合物(JIS K2501による酸価165mgKOH/g)
添加剤A2:オレイルザルコシン酸
添加剤B1:β−ジチオホスホリル化プロピオン酸
添加剤B2:トリス(iso−プロピルフェニル)ホスフェート
添加剤C1:アルキル化フェニルナフチルアミン
添加剤C2:オクチル化・ブチル化ジフェニルアミン
添加剤C3:トリス(ジt−ブチルフェニル)フォスファイト
添加剤D :ベンゾトリアゾール
添加剤E :アルキルポリアルコキシエステル
【0069】
上記基油及び添加剤を用いて、表1〜4に示す組成を有する実施例1〜2、比較例1〜6の潤滑油組成物を調製し、また、比較例7、8の市販ガスタービン油を用意した。
【0070】
(粘度等の測定)
上記実施例1〜2、比較例1〜8の各潤滑油組成物について、40℃の動粘度(JIS
K2283に基づく)、100℃の動粘度(JIS K2283に基づく)、粘度指数(JIS K2283に基づく)、及び酸価(JIS K2501に基づく)を測定した。
各測定結果を表1〜表4に示す。
【0071】
(試験)
実施例1〜2及び比較例1〜8の各潤滑油組成物を用いて、その性能を見るために以下の試験を行った。
【0072】
(錆止め性試験)
JIS K2510に基づき、恒温槽内に設置した容器に、試料油300mlを採取し、毎分1000回転で攪拌する。60℃になったときに、鉄製試験片を試料油中に挿入し、更に人工海水を30ml加え、60℃に保ったまま24時間攪拌を続け、その後試験片を取り出し、試験片のさびの発生状態を目視で評価する。
評価基準:さびなし;錆の発生が見られない(0%)
軽 微;1mm以下の点さび6個以下
中 度;上記軽微を超え、表面積の5%未満
高 度;上記中度を超え、表面積の5%以上
【0073】
(極圧性試験)
ASTM D 5182−91で標準化された試験方法により、FZG歯車潤滑性能試験を行い、各潤滑油組成物の極圧性を評価した。FZG歯車試験において不合格となった荷重ステージを潤滑性能評価の指標とした。
【0074】
(熱・酸化安定性試験:Dry TOST試験)
JIS K 2514のTOST(タービン油酸化安定度試験)に規定する試験において、純水を加えずに試験油量を360mlとし、オイルバスで120℃に加熱し、その温度に保持しながら3L/hの流量で酸素を吹き込んだ。触媒にはコイル状銅及び鉄触媒を用いた。酸素の吹き込み開始時刻から起算して500時間後に、試験油を室温まで冷却させた後、酸化劣化した潤滑油組成物の全量を孔径1.0μmのメンブランフィルターで濾過し、フィルター上の不溶分を秤量し、試験油量100ml当りの不溶分のmg数、すなわちmg/100mlでスラッジ量を測定した。
【0075】
(RPVOT試験)
上記のDry TOST試験を終えたろ過油の酸化寿命を、同JIS規格試験のRPVOTで標準化された方法にて測定した。予め測定しておいた新油のRPVOT値で酸化試験時後の酸化劣化油のRPVOT値を除し、RPVOT残存率とした。
酸化劣化油のRPVOT値が大きく、また、RPVOT残存率に対する不溶分量が少ないほど熱・酸化安定性が良好であることを意味する。
【0076】
(試験結果)
各試験結果を表1〜4に示す。
比較例1〜4については、錆止め性試験において、その評価基準で軽微〜高度の錆が発生しており、タービン油として使用することができないことが判った。従って、FZG歯車試験及びDry TOST試験は行わなかった。
また、比較例5〜6については、錆止め性試験において、錆の発生が見られなかったが、FZG歯車試験における結果は、比較例5が8FLS、比較例6が7FLSであって、タービン油とギヤ油の兼用油としての要求基準9FLS以上を満たしておらず、タービン油とギヤ油の兼用油としての使用に適さないことが判った。従って、Dry TOST試験は行わなかった。
【0077】
(評価)
表1に示した結果から明らかなように、実施例1、2のコハク酸及び/又はそのエステルとザルコシン酸を併用した潤滑油組成物は、いずれも錆止め性試験において、錆の発生が見られず高い防錆性を示していることが判る。また、FZG歯車試験における結果も11FLS(実施例1)、10FLS(実施例2)と良好で優れた極圧性を示し、Dry TOST試験におけるスラッジ量も2.9mg/100ml(実施例1)、1.9mg/100ml(実施例2)と少なく耐スラッジ性、及び十分に長い酸化寿命を有していることが確認され、実施例1、2はタービン油とギヤ油の兼用油としても好適なことが判った。
表2〜表4に示すように、比較例1〜6のものは、コハク酸及び/又はそのエステルまたはザルコシン酸の一方を使用したものであり、上記したように、錆止め性試験において、その評価基準で軽微〜高度の錆が発生しているか(比較例1〜4)、錆の発生が見られなくてもFZG歯車試験における結果が8FLS、7FLSと小さく(比較例5,6)、タービン油とギヤ油の兼用油として使用するには不適格である。
また、比較例7の市販ガスタービン油Aは、錆止め性試験において錆の発生が見られず、FZG歯車試験においても12FLSと良好な結果が出ているが、Dry TOST試験においてスラッジ量が73mg/100mlと非常に多いし、比較例8の市販ガスタービン油Bでは、錆止め性試験において錆の発生が見られず、スラッジ量も比較的少ないが、FZG歯車試験における結果が8FLSと低く、いずれも満足の行くものとは言えない。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】



【0080】
【表3】

【0081】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油と、コハク酸及び/又はそのエステル並びにザルコシン酸を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
上記コハク酸及び/又はそのエステルの含有量が0.01〜0.1質量%、ザルコシン酸の含有量が0.001〜0.01質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
上記コハク酸及び/又はそのエステルの含有量とザルコシン酸の含有量の質量比が1:0.01〜0.7である請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
上記潤滑油組成物は、更にリン化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
上記リン化合物は、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスフォロチオネート、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸エステルあるいはその誘導体、リン含有カルボン酸、またはリン含有カルボン酸エステルである請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
上記リン含有カルボン酸またはリン含有カルボン酸エステルが、β−ジチオホスホリル化プロピオン酸またはβ−ジチオホスホリル化プロピオン酸エステルである請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
上記潤滑油組成物は、更に芳香族アミン化合物を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
上記芳香族アミン化合物は、フェニル−α−ナフチルアミン系化合物、ジアルキルジフェニルアミン系化合物の少なくとも1種である請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
上記基油は、動粘度2〜680mm/s(40℃)、全硫黄分0〜100ppm、全窒素分0〜100ppm、アニリン点80〜150℃を示すものである請求項1〜8のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
上記基油は、動粘度8〜220mm/s(40℃)、全硫黄分0〜30ppm、全窒素分0〜30ppm、アニリン点110〜135℃を示すものである請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
上記合成油の基油が、GTLであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−45111(P2008−45111A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163549(P2007−163549)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】