潤滑油組成物
【課題】
ローラーフォロア型動弁機構を搭載したガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン、特にEGRを備えたディーゼルエンジンにおいて多量のスーツが混入した潤滑条件下において、低粘度化した基油を用いた場合でも摩耗防止性に優れた低燃費性潤滑油を提供する。
【解決手段】
潤滑油基油に(I)平均分子量80,000〜300,000の分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種の重合体0.5〜15質量%および好ましくは(II)ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として0.03〜0.5重量%配合させてなり、粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満足する潤滑油組成物であってローラーフォロア型動弁機構を具備した内燃機関に用いられる潤滑油組成物。
ローラーフォロア型動弁機構を搭載したガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン、特にEGRを備えたディーゼルエンジンにおいて多量のスーツが混入した潤滑条件下において、低粘度化した基油を用いた場合でも摩耗防止性に優れた低燃費性潤滑油を提供する。
【解決手段】
潤滑油基油に(I)平均分子量80,000〜300,000の分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種の重合体0.5〜15質量%および好ましくは(II)ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として0.03〜0.5重量%配合させてなり、粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満足する潤滑油組成物であってローラーフォロア型動弁機構を具備した内燃機関に用いられる潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関するものであり、さらに詳しくは、ローラーフォロア型動弁機構を有し、さらにはNOx吸蔵触媒装置を装着した内燃機関、特に燃焼排気ガスからのスーツおよびピストンリングその他の摺動部分に折出するスーツ(以下必要に応じ「ディーゼルスーツ」という。)の混入条件下におけるディーゼルエンジンの潤滑に使用可能な耐摩耗性に優れた低燃費型潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護、特に地球温暖化対策として炭酸ガスの発生量を削減させるための世界ベースでの対策が進渉している。その一環として自動車用潤滑油の品質改善により燃費を向上させ、炭酸ガスの発生量を抑制させる方策が検討されている。燃費向上を達成するためには内燃機関の摺動部分の摩擦を可能な限り低減させる必要があり、潤滑油品質面の対応としては潤滑油基油の粘度を低下させることにより流体摩擦を低減させようとする取組みが一般化されつつある。例えば、米国石油学会API(American Petroleum Institute)においては、潤滑油の燃費規格をさらに厳格なものに設定している。
【0003】
一方、エンジン側の対応では、燃費改善のために動弁系のローラーフォロア化が進んできている。従来のエンジン動弁機構は、いわゆるスリッパ方式と呼ばれるものであり、カムの回転に応じてタペット等のフォロアがカムとのすべり状態の接触部を介して連動し、吸排気バルブの駆動へと動力を伝達する機構であるが、該接触部のカムとの接触面が固定式のものであるためカムとフォロア間の摩擦条件が極めて厳しい状態にある。特に国内で使用頻度の高い中低速域では動弁系の摩擦がエンジンの全体の摩擦のなかで占める割合が極めて大きいことから燃費改善のためには動弁系の低摩擦化が不可欠とされていたが、これに対応する手段として、ローラーフォロアタイプの動弁機構が開発された。ローラーフォロアタイプとしては、カムとのフォロアの接触部にニードルベアリングを組み込んだローラロッカアームのほか、鋼(SUJ2)またはセラミックすべりローラ方式等が挙げられる。ローラーフォロアタイプはスリッパ方式に比較して駆動トルクが約3分の1に低減することなど燃費改善には有効であるとされている。しかしながら、前記の理由から潤滑油の低粘度化により、ローラーフォロア型動弁機構のニードルローラーをバルブリフタに連結するシャフトの摩耗が激しくなるという難点が生じ、特に、ディーゼルエンジンにおいては燃料および燃焼方式に起因して不可避的に発生するスーツが潤滑油中に混入し、エンジン内の摺動部での潤滑はスーツの存在下で行なわれるので、動弁系およびピストン/シリンダライナー間の摩耗をさらに増大させるおそれがある。かかる事情から低粘度化された潤滑油にとってはその摩耗増大傾向が特に切実な問題となり、加えて、排出ガス中のNOx発生の抑制等の排出ガス規制に対応させるためEGRを装着したディーゼルエンジンではNOxの低減化は可能であるものの、その一方で油中のディーゼルスーツ量を増加させる結果をもたらし、さらに摩耗を増加させる事態となっている。
【0004】
また、近年、NOxを含有する排気ガスを浄化する目的でNOx吸蔵触媒装置がエンジンに搭載される方向にあるが、触媒活性を維持させるためには触媒毒となる潤滑油添加剤のリン成分の削減が要求されている。このような状況から潤滑油の燃費改善効果を向上させるための低粘度化をさらに困難なものにさせている。特に、低粘度であって、しかもディーゼルスーツ存在下でのローラーフォロア型動弁機構の摩耗の防止については、未だ有効な解決策を見い出し得ない状態にあり、かかる問題点を克服できる潤滑油組成物の開発が切望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、従来の開発状況に鑑み、ローラーフォロア型動弁機構を搭載した内燃機関において、低粘度に制御され、かつ低リン化されていても摩耗抑制に優れた性能を発揮する低燃費型潤滑油組成物を提供することにある。特に、0.5重量%以上の多量のディーゼルスーツが混入される潤滑条件下で使用しても摩耗抑制を発揮できる内燃機関用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねたところ、低粘度領域においてローラーフォロア型動弁機構の摩耗抑制を図るには、低粘度化された特定性状の基油と特定の分子量を有する特定の分散型ポリメタアクリレートおよび/または分散型オレフィンコポリマーとを用い、さらに、潤滑油組成物中に含有させる特定量のリン成分を組み合せること、特に、窒素含有量とリン含有量との割合を特定することによりエンジン内の他の摺動面の摩耗低減を含めて前記課題が達成できることに想到し、これらの知見に基づいて本発明の完成に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、
鉱油もしくは合成油またはこれらの混合物からなる基油に、
潤滑油組成物全量基準で、
少なくとも下記の添加剤Iを1〜15質量%配合してなり、SAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす潤滑油組成物であって、ローラーフォロア型動弁機構を搭載した内燃機関に使用することを特徴とする潤滑油組成物に関するものである。
I.重量平均分子量 80,000〜300,000の下記の(i)および(ii);
(i) 分散型ポリメタアクリレート
(ii) 分散型オレフィンコポリマー
からなる群より選択される少なくとも一種の重合体。
【0008】
本発明によれば、前記の如く、潤滑油基油と少なくとも特定の前記重合体とからなる構成を有する低粘度化された低燃費型潤滑油組成物であって、内燃機関のローラーフォロア型動弁機構の潤滑に使用される潤滑油組成物が提供されるが、さらに好適な実施の態様として、次の(1)〜(9)の態様を包含する。
(1)前記添加剤Iを配合した潤滑油組成物にさらに添加剤IIのジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として0.03〜0.15質量%配合させてなる前記潤滑油組成物。
(2)前記基油の100℃における動粘度が2〜6mm2/sであって、前記潤滑油組成物の100℃動粘度が3.8〜12.5mm2/sであり、さらに、潤滑油組成物の−25℃におけるCCS粘度が7,000cPa以下である前記潤滑油組成物。
(3)前記分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーの窒素含有基が、ジアルキルアミノ基、ビニルピリジル基、ピロリドノ基およびモルホリノ基からなる群より選択される少なくとも一種である前記潤滑油組成物。
(4)前記分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーの平均分子量が85,000〜250,000である前記潤滑油組成物。
(5)前記分散型ポリメタアクリレートまたは分散型オレフィンコポリマーの配合量が2〜7質量%である前記潤滑油組成物。
(6)前記分散型ポリメタアクリレートおよび前記分散型オレフィンコポリマー由来の窒素量と前記ジアルキルジチオリン酸亜鉛由来のリン量との重量比率N/P比が0.5〜5である前記潤滑油組成物。
(7)さらに、ポリアルケニルコハク酸イミドの含有量が、窒素量換算で0.02〜0.2質量%である前記潤滑油組成物。
(8)前記ディーゼルスーツ量が、潤滑油油中で0.5〜10重量%である前記潤滑油組成物。
(9)さらに、金属系清浄剤、無灰分散剤、流動点降下剤および消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤を含有する前記潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前記構成の潤滑油組成物によると、ローラーフォロア型動弁機構を備えたディーゼルエンジン、特にEGRを装備したディーゼルエンジンに対して、多量のスーツの存在下において低粘度化した基油を用いた場合でも耐摩耗性に優れ、かつ耐摩耗性を長期に持続でき潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明に係る潤滑油組成物が使用される内燃機関、例えば、ディーゼルエンジンにおける摺動部分の潤滑は、主としてピストンシリングとシリンダライナ、クランク軸やコネクティングロッドの軸受、カムとバルブリフタを含む動弁機構、特にローラーフォロア型動弁機構等に潤滑油を供給して行なわれる。
【0011】
潤滑システムとしては、通常、潤滑油が、オイルパン中のサクションストレーナを通してオイルポンプにより吸い上げられ、オイルクーラ、フィルター、メインオイルホールから動弁機構をはじめ各部に分配される形式が採られている。ディーゼルスーツは、排気ガス中に未燃焼生成物として含まれ、ブローバイガスと共にブロック内に入り油中に混入されるかまたは燃料の熱分解生成物として生じた炭素物質がシリンダーライナーの油膜に付着し、ピストンによりクランクケースにかき落とされて油中に混入されるという経路を経ている。
【0012】
本発明に係る潤滑油組成物が使用されるローラーフォロア型動弁機構は、燃焼のタイミングに合わせて吸排気弁の開閉を行なうための機構として採用されるものであり、カムとタペットまたはロッカ等のフォロアからなる駆動装置から構成される。具体例としてフォロア部にニードルベアリングを組み込んだローラーロッカアームを採用し、タペットをローラータペットとして構成したものである(自動車工学1989年7月号第30頁参照。)。かかるローラー方式の構成により、カムシャフトとタペット間の摩擦をすべり接触に比較して著しく低減させたものである。本発明の潤滑油組成物は、前記ローラーフォロア型動弁機構に特に適したものであり、顕著な効果を奏する。後述の実施例等でも示すように、従来の四球試験では奏し得ない特異的なものであり、顕著な効果を奏する。
なお、本発明によれば、動弁機構は、前記のローラーフォロア型のほか、ローラー方式によるものであればカム・フォロアの構造の変更等による他の形態のものでも本発明の潤滑油組成物の性能を十分発揮させることができる。
【0013】
また、NOx吸蔵触媒は、アルミナ等の耐火性担体上に活性金属、例えば、パラジウム、ロジウム、白金等の周期表第8族金属の貴金属成分を担持したものが好ましく、通常採用されているものを用いることができる。さらに、周期表第2族金属のアルカリ土類金属等を補助成分として含有させたものも使用することができる。
【0014】
ディーゼルエンジンのEGRは、エンジンからのNOxの排出低減のため排気の一部を吸気孔に戻すシステムであるが、吸気の一部が排気により汚染されることになり燃焼状態が悪化し、ディーゼルスーツおよび各種分解生成物がさらに増加する状態になる。本発明に係る潤滑油組成物は、かかる条件下において使用され、0.5重量%以上の多量のディーゼルスーツが存在しても、優れた耐摩耗性を発揮し、長期にわたり円滑な潤滑を行なうものである。
潤滑油基油
本発明の潤滑油組成物の構成成分としての基油は、通常、内燃機関用潤滑油の基油として使用されているものであれば、特に限定されるものではないが、添加剤Iの配合によりSAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす潤滑油組成物を提供できるものが好ましい。従って、該規格を充足できる粘度特性を有する基油であれば、鉱油系基油、合成油系基油またはこれらの混合油系基油のいずれも用いることができる。
【0015】
潤滑油基油は、後記の基油基材を各々単独でまた二種以上を混合して所望の粘度その他の性状を有するように調合して製造することができる。例えば、各種の基油基材の調合により、本発明の内燃機関用潤滑油としては、100℃における動粘度を3.8〜12.5mm2/s、好ましくは5.6〜12.5mm2/s、特に、低燃費性に優れた潤滑油組成物を実現するため、基油として6mm2/s以下、さらに好ましくは3〜5mm2/sの範囲に調整することにより低燃費化を図ると共にニードルローラーピン摩耗深さで表示される耐摩耗性に優れたものを得ることができ、かつ、後記の如く添加剤IIの配合により、他のエンジン部位の耐摩耗性を含めさらに向上させ高温においても粘度低下が生じることなく、粘度−温度関係を安定化できるものが提供される。潤滑油基油の動粘度が高すぎると、攪拌抵抗が大きくなり、また流体潤滑域での摩擦係数が高くなり低燃費特性が悪化するという難点が生じる。
【0016】
鉱油系基油としては、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留出油として得られる潤滑油留分を溶剤精製、水素化分解、水素化処理、水素化精製、接触脱蝋、白土処理等の各種精製工程を任意に選択して用いることにより処理して得られる溶剤精製ラフィネートまたは水素処理油等の鉱油、減圧蒸溜残渣油を溶剤脱瀝処理に供したのち、得られた脱瀝油を前記の精製工程により処理して得られる鉱油、またはワックス分の異性化により得られる鉱油等またはこれらの混合油を用いることができる。前記の溶剤精製においては、フェノール、フルフラール、N−メチル−2−ピロリドン等の芳香族抽出溶剤が用いられ、一方、溶剤脱蝋の溶剤としては、液化プロパン、MEK/トルエン等が用いられる。また、接触脱蝋においては、例えばZSM触媒で代表される形状選択性ゼオライト等が脱蝋触媒として用いられる。
【0017】
前記の如くして得られる精製鉱油として軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストック等を挙げることができ、これらの基材を要求性状を満たすように適宜調合することにより鉱油系基油を製造することができる。
【0018】
一方、合成油系基油としては、ポリα−オレフィンオリゴマー(例えば、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびこれらの混合物。)、ポリブテン、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、ジノニルベンゼン等。)、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等。)、アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体;二塩基酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等。)と各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等。)とのエステル;炭素数5〜12のモノカルボン酸とポリオール(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等。)とのエステル;その他、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、リン酸エステルおよびシリコーン油等を挙げることができる。
添加剤I
本発明の潤滑油組成物の必須の構成成分として用いられる添加剤Iは、粘度指数向上効果と耐摩耗性を付与するものであり、重量平均分子量80,000〜300,000 の(i)分散型ポリメタアクリレートおよび (ii)分散型オレフィンコポリマーからなる群より選択される1種の重合体または2種以上の重合体の混合物である。
【0019】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算値として求められた値であり、ことわりのない限り「平均分子量」と記載する。
(i) 分散型ポリメタアクリレート
分散型ポリメタアクリレートは、分子中に窒素含有基を極性モノマーとして付加、共重合させて得られる重合体である。例えば、式[1]に示す化合物と式[2]または式[2−1]に示す化合物とを共重合させて得られるものであり、下記の如く特定の平均分子量を有するものであれば本発明の目的を達成することができる。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
式[1]中、Rは炭化水素基であり、通常、炭素数1〜18の鎖状炭化水素基、例えばアルキル基が用いられている。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。アルキル基の好ましい炭素数分布として6〜14のものを挙げることができる。また、R1 およびR2 は、水素原子またはアルキル基、特に低級アルキル基、例えばメチル基である。R3は、炭素数2〜18のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等を挙げることができる。X1 およびX2 は極性基を示す。極性基としては、窒素原子、酸素原子を含む各種のものが挙げられるが、本発明においては後に述べるように窒素含有基を提供するものが好ましい。具体的には、 ジアルキルアミノ基、アニリノ基、モルホリノ基、ピロリン基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基等が例示され、ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、シエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等を挙げることができる。
【0024】
かかる分散型ポリメタアクリレートは、通常、メタアクリル酸とC1 〜C18脂肪族アルコールとのエステル混合物に極性モノマーを添加し共重合することにより得ることができる。市販品としては、例えば、ViscoplexTM 6−054、PlexolTM 956、アクルーブTM 944 等多種のものが提供されており、前記平均分子量および窒素量を満たすものを選択して使用することができる。
【0025】
式[2]および式[3]で表わされる窒素含有化合物の具体例としては、ジアルキルアミノアルキルメタアクリレート、特に、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ジメチルアミノメチルメタアクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン等のアミン、N−メチルピロリドン等のアミド、イミダゾール、モルホリノアルキルメタアクリレート等を挙げることができる。かかる窒素含有化合物は、極性モノマーをメタアクリレートに対して5〜20モル%の割合で共重合させて得られたものである。
【0026】
本発明の潤滑油組成物において添加剤Iとして好適とされる分散型ポリメタアクリレートは、(1)平均分子量が80,000〜300,000、好ましくは90,000〜280,000のものであり、(2)その配合量が、潤滑油組成物全量基準で 1〜15 質量%、好ましくは 2〜7 質量%となるように調整されたものであって、(1)および(2)の二つの要素を併有させることにより顕著な効果を奏するものである。
【0027】
本発明の燃費改善効果と耐摩耗性を有する潤滑油組成物を提供する観点から、分散型ポリメタアクリレートの平均分子量が 80,000に満たないと十分な耐摩耗性が得られず、一方、300,000を超えると実用上エンジン各部での剪断による分子量の低下、粘度の低下が生じ、耐摩耗性においてさらに顕著な効果は得られないばかりでなく、燃費改善を阻害するおそれがある。
【0028】
本発明の潤滑油組成物によれば、前記基油と前記特定の分散型ポリメタアクリレートを用いることにより添加剤IIのチオリン酸亜鉛を配合せずにローラフォロア動弁系機構の摩耗を低減させることができるという特異な効果が得られるのでリン配合量を著しく少量とすることができる。
(ii) 分散型オレフィンコポリマー
分散型オレフィンコポリマーは、炭素数2〜10を有するアルケニル基からなる群より選択される2種以上のアルケニル基の共重合体であって窒素含有基が付加されたものである。共重合体の具体例としては式[3]
【0029】
【化4】
【0030】
で表わされるエチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、エチレンの含有量が25〜75重量%、好ましくは40〜60重量%のものを使用することができる。
【0031】
窒素含有基としては、前記の式[2]および式[2−1]で表わされる化合物を用いることができる。具体的には、窒素含有基として前記と同様にジアルキルアミノ基、ビニルピリジル基、例えば2−メチル−5−ビニルピリジル基等のアミノ基、ピロリドノ基、例えばN−メチルピロリドン等のアミド、イミダゾリノ基、モルホリノ基等を挙げることができる。
【0032】
本発明の潤滑油組成物にとって好適な分散型オレフィンコポリマーは、平均分子量が80,000〜300,000、好ましくは85,000〜300,000、さらに好ましくは90,000〜280,000のものである。平均分子量が80,000未満のものでは十分な耐摩耗性が得られず、一方、300,000を超えると燃費改善効果を低下させるおそれがある。
【0033】
また、分散型スチレン−ジエン水素化共重合体等も用いることができ、該共重合体としては、例えばスチレン−ブタジェンランダム共重合体水素化物およびスチレン−イソプレンブロック共重合体水素化物等に窒素含有基を付加したものも用いることができる。平均分子量としては前記同様に80,000〜300,000のものでよい。
【0034】
前記添加剤Iの分散型ポリメタアクリレート、分散型オレフィンコポリマー等は、前記の如き構造と平均分子量を有するものであれば、任意に使用することができるが、市販品を使用する場合は、分散型粘度指数向上剤として提供されているもののなかから、平均分子量および極性基等を把握し、本発明において要求する範囲の平均分子量を有するものを選択することができる。
添加剤II
本発明の潤滑油組成物において配合される添加剤IIは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)であり、該化合物は、一般式[4]
【0035】
【化5】
【0036】
(但し、式中R1 およびR2 は、炭素数1〜18アルキル基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。)
で表される。前記一般式[4]におけるR1 およびR2 で表されるアルキル基としては、第1級または第2級のものであり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの各分岐状アルキル基を挙げることができるが、本発明の潤滑油組成物にとっては、特に、排気ガス対策として採用されるEGRにより増加するディーゼルスーツの存在下における動弁系摩耗を抑制し、かつ、熱・酸化安定性も併有させるためには炭素数3〜12の第1級アルキル基と第2級アルキル基の混合アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いることが好ましい。特に、第1級アルキル基と第2級アルキル基との混合割合を第1級:第2級=50:50〜0:100に設定することが耐摩耗性と熱・酸化安定性とのバランスを図る上で好ましい。また、本発明の潤滑油組成物において、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は1種用いてもよいし、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、リン量として0.03〜0.5重量%、好ましくは0.03〜0.2重量%となるように調整される。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の配合量が、0.03重量%未満においては、ディーゼルスーツが混入した動弁系の潤滑条件下において、摩耗防止効果が得られず、一方、配合量が0.5重量%を超えても、その増量に応じた摩耗防止効果の向上が認められないばかりでなく、NOx吸蔵触媒を急速に不活性化させるという難点が生ずる。
コハク酸イミド
本発明の潤滑油組成物は、前記の如き添加剤IおよびIIのほかに油中に混入するディーゼルスーツの粒子を分散させる上で、さらに、コハク酸イミドを配合することが好ましい。コハク酸イミドは一般式[5]
【0037】
【化6】
【0038】
で表されるモノイミドまたは一般式[6]
【0039】
【化7】
【0040】
で表されるビスイミドおよびこれをホウ酸、有機酸により変性したものが挙げられる。一般式[5]および[6]において、R3 、R5 およびR6 は、それぞれ炭素数2〜8程度のα−オレフィンオリゴマーの残基またはその水素化物であって、R3、R5 およびR6 は、互いに同一でもまたは異なっていてもよい。また、R4 、R7 およびR8 は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、R5 およびR6 は、互いに同一でも異なっていてもよい。mは1〜10の整数、nは0〜10の整数である。
【0041】
本発明においては、一般式[5]で表されるモノイミド、一般式[6]で表されるビスイミドまたはこれらの混合物を用いてもよい。一般式[5]および[6]で表されるポリアルケニルまたはポリアルキルコハク酸イミドは、通常ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるポリアルケニルコハク酸無水物またはその水素化物であるポリアルキルコハク酸無水物を、ポリアルキレンポリアミンと反応させることにより製造することができる。前記のモノイミドおよびビスイミドは、ポリアルケニルまたはポリアルキルコハク酸無水物とポリアルキレンポリアミンとの反応比率を変えることにより製造することができる。
【0042】
ポリアルケニルまたはポリアルキルコハク酸イミドの製造において、原料として用いられるポリオレフィンとしては、炭素数2〜8程度のα−オレフィンを重合して得られたものの中から、適宜選択して使用される。また、ポリオレフィンを形成するα−オレフィンは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリオレフィンとしては、特にポリブテンが好適である。一方、ポリアルキレンポリアミンとしては、例えばポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン、ポリブチレンポリアミン等が挙げられるが、ポリエチレンポリアミンが好適である。
【0043】
本発明の潤滑油組成物において、コハク酸イミドは、重量平均分子量が2500以上のものが好ましく、ディーゼルスーツなどの固形不純物を油中に分散させることができ、潤滑油の粘度の急増を抑制することができる。
【0044】
本発明の潤滑油組成物において、コハク酸イミドの含有量は、組成物全量基準で、窒素(N)量として0.03〜0.2重量%の範囲が好ましい。特に好ましいのは、窒素量として0.06〜0.12重量%の範囲である。配合量が、窒素量として0.03重量%未満であると、所期の効果が十分に発揮されず、一方、0.12重量%を超えても、配合量の増加による分散性の改良は得られない。
その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、前記の添加剤Iおよび添加剤IIを主要成分として含有し、コハク酸イミドを付加成分として配合することによりさらに顕著な効果を奏するものであるが、必要に応じて下記のその他の添加剤、例えば流動点降下剤、酸化防止剤、金属清浄剤、摩擦低減剤、耐摩耗剤、金属不活性剤、防錆剤、消泡剤、腐蝕防止剤、着色剤等を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。「その他の添加剤」はパッケージ製品としてまたは各々単独に配合してもよい。
【0045】
流動点降下剤としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。これらは、通常0.01〜5重量%の割合で使用される。
【0046】
酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジtert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジtert−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられ、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。これらは、通常0.05〜5重量%の割合で使用される。
【0047】
金属清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のスルホネート、サリシレート、フェノート、ホスホネートのものがあり、これらの中性塩および塩基性塩、特に過塩基性塩を用いることができる。油中のディーゼルスーツ等の固形不純物を分散させるには塩基価の大きい過塩基性のものが好ましい。これらは、通常0.05〜5重量%の割合で配合される。
【0048】
摩擦低減剤としては、例えば、有機モリブデン化合物、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、アミド、硫化エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩などが挙げられる。これらは、通常0.05〜3重量%の割合で使用される。
【0049】
耐摩耗剤としては、添加剤IIのジアルキルジチオリン酸亜鉛以外に、例えば、ジチオリン酸金属塩(Pb、Sb、Moなど)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn、Pb、Sb、Moなど)、ナフテン酸金属塩(Pbなど)、脂肪酸金属塩(Pbなど)、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらは、通常0.1〜5重量%の割合で使用される。
【0050】
極圧剤としては、例えば無灰系サルファイド化合物、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられ、これらは、通常0.05〜3重量%の割合で使用される。
【0051】
金属不活性化剤としては、例えばベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、これらは、通常0.001〜3重量%の割合で使用される。
【0052】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、これらは、通常0.01〜3重量%の割合で使用される。
【0053】
消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサン、ポリアクリレート等が挙げられ、通常、ごく少量、例えば0.002重量%程度添加される。さらに、本発明の潤滑油組成物には、腐蝕防止剤、着色剤等その他の添加剤も所望に応じて使用することができる。
潤滑油組成物
本発明に係る潤滑油組成物は、SAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす粘度性状を有するものである。具体的には、低温見かけ粘度−25℃で7,000cP以下、ポンプ吐出限界粘度−30℃で60,000cP以下、100℃動粘度 3.8〜12.5cSt、特に5.6〜12.5cStのものである。SAE粘度グレードとしては具体的には5W−20、5W−30、10W−20、10W−30等を挙げることができる。
かかる粘度特性を有する潤滑油組成物は、前記の如き100℃動粘度9mm2/s以下、好ましくは6mm2/s以下の低粘度の基油を選択し、これに添加剤Iを粘度グレード規格を満足するように特定量配合することにより調製することができる。
また、本発明に係る潤滑油組成物のローラーフォロア型動弁機構での耐摩耗性は、添加剤Iの配合により前記粘度特性が得られると同時に付与されるものであり、添加剤IIの共用により他のエンジン部位の耐摩耗性を含めて総合的に改善することができる。
さらに、本発明に係る潤滑油組成物は、前記の通り必要に応じてその他の添加剤が選択されて所定量配合されたものである。
【実施例】
【0054】
次に、本発明について実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。もっとも本発明は、これらの実施例等により何ら制限されるものではない。
【0055】
なお、実施例および比較例で用いた試作油には、下記の方法で採取したディーゼルスーツを所定量混入した。また、ローラーフォロア型動弁機構での効果の評価試験としては次の動弁系(ニードルローラピン)摩耗試験方法を用いた。
【0056】
なお、実施例および比較例のいずれの潤滑油組成物においてもその他の添加剤として、無灰分散剤、金属清浄剤、流動点降下剤、消泡剤の合計量12.5重量%を含有する添加剤パッケージを使用した。
耐摩耗性評価試験
動弁系(ニードルローラピン)摩耗試験
3YPE型エンジンを用い下記の条件でディーゼルスーツ3%を添加した試料油についてモータリング試験を行ないローラー型動弁系のニードルローラー摩耗を測定した。
測定条件
・油温度:120℃
・試験時間:50hrs.
・モータリング回速速度:1000rpm
評価方法
ニードルローラーの摩耗深さを測定
ディーゼルスーツ採取方法
実機ディーゼルエンジンを潤滑油基油のみで運転して混入スーツを濃縮採取した。
潤滑油基油
フェノール溶剤精製による各種混合基材の調合により動粘度@100℃を6mm2/s以下に制御された基油(表3および4参照)。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
重量平均分子量測定方法
添加剤Iとして用いた分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーの重量平均分子量は下記測定条件によるゲル濾過クロマトグラフィーで測定した。
【0060】
実施例1
潤滑油基油としてフェノール溶剤精製パラフィン系鉱油(100℃における動粘度(以下「100℃動粘度」という。):5.42mm2/s)を使用し、これに、平均分子量 92,000の分散型ポリメタアクリレートB 4.4質量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として 0.12質量%および添加剤パッケージ12.9質量%を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;10.02 mm2/s)を調製した。得られた潤滑油組成物に前記の方法で採取したディーゼルスーツを3質量%添加して前記試験条件下での動弁系(ニードルローラーピン)摩耗試験(以下「動弁系摩耗試験」という。)に供し、摩耗深さを測定したところ、8.6μmの結果を得た。
実施例2
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに、平均分子量136,000の分散型ポリメタクリレートCを3.1質量%配合したこと以外すべて実施例1の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.844mm2/s)を調製した。実施例1と同様に動弁系摩耗試験により摩耗深さを測定したところ、6.5μmの結果を得た。
実施例3
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量192,000の分散型ポリメタアクリレートDを4.9質量%使用したこと以外すべて実施例1の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.905 mm2/s)を調製した。実施例1と同様にして動弁系摩耗試験に供したところ、摩耗深さ8.4μmであった。
実施例4
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量165,000の分散型オレフィンコポリマーを4.6質量%配合したこと以外すべて実施例1の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.963mm2/s)を得た。摩耗試験に供したところ、摩耗深さ10.1μmであった。
実施例5
フェノール溶剤精製パラフィン系鉱油(100℃における動粘度:4.20 mm2/s)を基油とし、これに分散型ポリメタアクリレートC5.90質量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として0.12質量%および添加剤パッケージを12.9質量%配合してSAE粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.996mm2/s)を得た。得られた潤滑油組成物を動弁系摩耗試験に供したところ、摩耗深さ10.0μmであった。
実施例6
ジチオリン酸亜鉛を配合しなかったこと以外すべて実施例5の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物を得た。動弁系摩耗試験に供したところ摩耗深さ6.2μmであった。
比較例1
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量28,000の分散型ポリメタアクリレートAを2.6質量%用いたこと以外すべて実施例1の基油および添加剤とそれぞれ同一の基油および添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.891mm2/s)を得た。動弁系摩耗試験の結果、摩耗深さ25.0μmであった。
比較例2
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量201,000の非分散型ポリメタアクリレートを2.8質量%配合したこと以外すべて実施例1の基油および添加剤とそれぞれ同一の基油および添加剤を配合し、SAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;10.02mm2/s)を得た。動弁系摩耗試験の結果は、摩耗深さ18.6μmであった。
比較例3および4
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量215,000の非分散型オレフィンコポリマーを4.9質量%配合したこと以外、すべて実施例1の基油および添加剤と同一の基油、同一配合割合の添加剤を配合し、SAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.875mm2/s(比較例3)、9.878mm2/s(比較例4))を調製した。なお、比較例4の潤滑油組成物には、さらにモリブデンジチオカーバメートをモリブデン量として0.07質量%配合した。動弁系摩耗試験の摩耗深さの測定結果、それぞれ19.5μm(比較例3)および19.9μm(比較例4)であった。
比較例5
分散型ポリメタアクリレートCの代わりに平均分子量215,000の非分散型オレフィンコポリマーを8.2質量%を配合したこと以外すべて実施例4と同一の基油および添加剤と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合し、粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.839mm2/s)を得た。動弁系摩耗試験の結果、摩耗深さ23.2μmであった。
比較例6
分散型ポリメタアクリレートCの代わりに平均分子量241,000の星状イソプレンを8.3質量%配合したこと以外すべて実施例5の基油および添加剤と同一の基油、同一配合割合の添加剤を配合し粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;10.05mm2/s)を得た。動弁系摩擦試験の結果、摩耗深さ26.8μmであった。
比較例7
ジアルキルジチオリン酸亜鉛を配合しなかったこと以外すべて比較例5と同様にして潤滑油組成物を調製した。摩耗試験の評価結果は摩耗度25.8μmであった。
比較例8〜9
実施例1および比較例1の各潤滑油組成物をスリッパ方式動弁機構の耐摩耗性を表示するものとして四球試験機による摩耗試験に供したところ摩耗痕跡は、各々0.68mm(比較例8)および0.70mm(比較例9)であった。
この結果においては、両者に顕著な差異はなかったが、前記の如く、実施例1の潤滑油組成物は、ニードルローラーピン摩耗試験では比較例1の潤滑油組成物を凌駕して顕著な効果が得られた点には特異性があることがわかる。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
以上の実施例および比較例、特に実施例1と比較例1、比較例8および9との対比から、特定の低粘度の基油と特定の平均分子量の分散型ポリメタアクリレートおよび/または分散型オレフィンコポリマーならびにジアルキルジチオリン酸亜鉛とからなる潤滑油組成物をローラーフォロア型動弁機構の潤滑に使用した場合、格別の効果を奏することがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関するものであり、さらに詳しくは、ローラーフォロア型動弁機構を有し、さらにはNOx吸蔵触媒装置を装着した内燃機関、特に燃焼排気ガスからのスーツおよびピストンリングその他の摺動部分に折出するスーツ(以下必要に応じ「ディーゼルスーツ」という。)の混入条件下におけるディーゼルエンジンの潤滑に使用可能な耐摩耗性に優れた低燃費型潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護、特に地球温暖化対策として炭酸ガスの発生量を削減させるための世界ベースでの対策が進渉している。その一環として自動車用潤滑油の品質改善により燃費を向上させ、炭酸ガスの発生量を抑制させる方策が検討されている。燃費向上を達成するためには内燃機関の摺動部分の摩擦を可能な限り低減させる必要があり、潤滑油品質面の対応としては潤滑油基油の粘度を低下させることにより流体摩擦を低減させようとする取組みが一般化されつつある。例えば、米国石油学会API(American Petroleum Institute)においては、潤滑油の燃費規格をさらに厳格なものに設定している。
【0003】
一方、エンジン側の対応では、燃費改善のために動弁系のローラーフォロア化が進んできている。従来のエンジン動弁機構は、いわゆるスリッパ方式と呼ばれるものであり、カムの回転に応じてタペット等のフォロアがカムとのすべり状態の接触部を介して連動し、吸排気バルブの駆動へと動力を伝達する機構であるが、該接触部のカムとの接触面が固定式のものであるためカムとフォロア間の摩擦条件が極めて厳しい状態にある。特に国内で使用頻度の高い中低速域では動弁系の摩擦がエンジンの全体の摩擦のなかで占める割合が極めて大きいことから燃費改善のためには動弁系の低摩擦化が不可欠とされていたが、これに対応する手段として、ローラーフォロアタイプの動弁機構が開発された。ローラーフォロアタイプとしては、カムとのフォロアの接触部にニードルベアリングを組み込んだローラロッカアームのほか、鋼(SUJ2)またはセラミックすべりローラ方式等が挙げられる。ローラーフォロアタイプはスリッパ方式に比較して駆動トルクが約3分の1に低減することなど燃費改善には有効であるとされている。しかしながら、前記の理由から潤滑油の低粘度化により、ローラーフォロア型動弁機構のニードルローラーをバルブリフタに連結するシャフトの摩耗が激しくなるという難点が生じ、特に、ディーゼルエンジンにおいては燃料および燃焼方式に起因して不可避的に発生するスーツが潤滑油中に混入し、エンジン内の摺動部での潤滑はスーツの存在下で行なわれるので、動弁系およびピストン/シリンダライナー間の摩耗をさらに増大させるおそれがある。かかる事情から低粘度化された潤滑油にとってはその摩耗増大傾向が特に切実な問題となり、加えて、排出ガス中のNOx発生の抑制等の排出ガス規制に対応させるためEGRを装着したディーゼルエンジンではNOxの低減化は可能であるものの、その一方で油中のディーゼルスーツ量を増加させる結果をもたらし、さらに摩耗を増加させる事態となっている。
【0004】
また、近年、NOxを含有する排気ガスを浄化する目的でNOx吸蔵触媒装置がエンジンに搭載される方向にあるが、触媒活性を維持させるためには触媒毒となる潤滑油添加剤のリン成分の削減が要求されている。このような状況から潤滑油の燃費改善効果を向上させるための低粘度化をさらに困難なものにさせている。特に、低粘度であって、しかもディーゼルスーツ存在下でのローラーフォロア型動弁機構の摩耗の防止については、未だ有効な解決策を見い出し得ない状態にあり、かかる問題点を克服できる潤滑油組成物の開発が切望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、従来の開発状況に鑑み、ローラーフォロア型動弁機構を搭載した内燃機関において、低粘度に制御され、かつ低リン化されていても摩耗抑制に優れた性能を発揮する低燃費型潤滑油組成物を提供することにある。特に、0.5重量%以上の多量のディーゼルスーツが混入される潤滑条件下で使用しても摩耗抑制を発揮できる内燃機関用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねたところ、低粘度領域においてローラーフォロア型動弁機構の摩耗抑制を図るには、低粘度化された特定性状の基油と特定の分子量を有する特定の分散型ポリメタアクリレートおよび/または分散型オレフィンコポリマーとを用い、さらに、潤滑油組成物中に含有させる特定量のリン成分を組み合せること、特に、窒素含有量とリン含有量との割合を特定することによりエンジン内の他の摺動面の摩耗低減を含めて前記課題が達成できることに想到し、これらの知見に基づいて本発明の完成に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、
鉱油もしくは合成油またはこれらの混合物からなる基油に、
潤滑油組成物全量基準で、
少なくとも下記の添加剤Iを1〜15質量%配合してなり、SAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす潤滑油組成物であって、ローラーフォロア型動弁機構を搭載した内燃機関に使用することを特徴とする潤滑油組成物に関するものである。
I.重量平均分子量 80,000〜300,000の下記の(i)および(ii);
(i) 分散型ポリメタアクリレート
(ii) 分散型オレフィンコポリマー
からなる群より選択される少なくとも一種の重合体。
【0008】
本発明によれば、前記の如く、潤滑油基油と少なくとも特定の前記重合体とからなる構成を有する低粘度化された低燃費型潤滑油組成物であって、内燃機関のローラーフォロア型動弁機構の潤滑に使用される潤滑油組成物が提供されるが、さらに好適な実施の態様として、次の(1)〜(9)の態様を包含する。
(1)前記添加剤Iを配合した潤滑油組成物にさらに添加剤IIのジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として0.03〜0.15質量%配合させてなる前記潤滑油組成物。
(2)前記基油の100℃における動粘度が2〜6mm2/sであって、前記潤滑油組成物の100℃動粘度が3.8〜12.5mm2/sであり、さらに、潤滑油組成物の−25℃におけるCCS粘度が7,000cPa以下である前記潤滑油組成物。
(3)前記分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーの窒素含有基が、ジアルキルアミノ基、ビニルピリジル基、ピロリドノ基およびモルホリノ基からなる群より選択される少なくとも一種である前記潤滑油組成物。
(4)前記分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーの平均分子量が85,000〜250,000である前記潤滑油組成物。
(5)前記分散型ポリメタアクリレートまたは分散型オレフィンコポリマーの配合量が2〜7質量%である前記潤滑油組成物。
(6)前記分散型ポリメタアクリレートおよび前記分散型オレフィンコポリマー由来の窒素量と前記ジアルキルジチオリン酸亜鉛由来のリン量との重量比率N/P比が0.5〜5である前記潤滑油組成物。
(7)さらに、ポリアルケニルコハク酸イミドの含有量が、窒素量換算で0.02〜0.2質量%である前記潤滑油組成物。
(8)前記ディーゼルスーツ量が、潤滑油油中で0.5〜10重量%である前記潤滑油組成物。
(9)さらに、金属系清浄剤、無灰分散剤、流動点降下剤および消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤を含有する前記潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前記構成の潤滑油組成物によると、ローラーフォロア型動弁機構を備えたディーゼルエンジン、特にEGRを装備したディーゼルエンジンに対して、多量のスーツの存在下において低粘度化した基油を用いた場合でも耐摩耗性に優れ、かつ耐摩耗性を長期に持続でき潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明に係る潤滑油組成物が使用される内燃機関、例えば、ディーゼルエンジンにおける摺動部分の潤滑は、主としてピストンシリングとシリンダライナ、クランク軸やコネクティングロッドの軸受、カムとバルブリフタを含む動弁機構、特にローラーフォロア型動弁機構等に潤滑油を供給して行なわれる。
【0011】
潤滑システムとしては、通常、潤滑油が、オイルパン中のサクションストレーナを通してオイルポンプにより吸い上げられ、オイルクーラ、フィルター、メインオイルホールから動弁機構をはじめ各部に分配される形式が採られている。ディーゼルスーツは、排気ガス中に未燃焼生成物として含まれ、ブローバイガスと共にブロック内に入り油中に混入されるかまたは燃料の熱分解生成物として生じた炭素物質がシリンダーライナーの油膜に付着し、ピストンによりクランクケースにかき落とされて油中に混入されるという経路を経ている。
【0012】
本発明に係る潤滑油組成物が使用されるローラーフォロア型動弁機構は、燃焼のタイミングに合わせて吸排気弁の開閉を行なうための機構として採用されるものであり、カムとタペットまたはロッカ等のフォロアからなる駆動装置から構成される。具体例としてフォロア部にニードルベアリングを組み込んだローラーロッカアームを採用し、タペットをローラータペットとして構成したものである(自動車工学1989年7月号第30頁参照。)。かかるローラー方式の構成により、カムシャフトとタペット間の摩擦をすべり接触に比較して著しく低減させたものである。本発明の潤滑油組成物は、前記ローラーフォロア型動弁機構に特に適したものであり、顕著な効果を奏する。後述の実施例等でも示すように、従来の四球試験では奏し得ない特異的なものであり、顕著な効果を奏する。
なお、本発明によれば、動弁機構は、前記のローラーフォロア型のほか、ローラー方式によるものであればカム・フォロアの構造の変更等による他の形態のものでも本発明の潤滑油組成物の性能を十分発揮させることができる。
【0013】
また、NOx吸蔵触媒は、アルミナ等の耐火性担体上に活性金属、例えば、パラジウム、ロジウム、白金等の周期表第8族金属の貴金属成分を担持したものが好ましく、通常採用されているものを用いることができる。さらに、周期表第2族金属のアルカリ土類金属等を補助成分として含有させたものも使用することができる。
【0014】
ディーゼルエンジンのEGRは、エンジンからのNOxの排出低減のため排気の一部を吸気孔に戻すシステムであるが、吸気の一部が排気により汚染されることになり燃焼状態が悪化し、ディーゼルスーツおよび各種分解生成物がさらに増加する状態になる。本発明に係る潤滑油組成物は、かかる条件下において使用され、0.5重量%以上の多量のディーゼルスーツが存在しても、優れた耐摩耗性を発揮し、長期にわたり円滑な潤滑を行なうものである。
潤滑油基油
本発明の潤滑油組成物の構成成分としての基油は、通常、内燃機関用潤滑油の基油として使用されているものであれば、特に限定されるものではないが、添加剤Iの配合によりSAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす潤滑油組成物を提供できるものが好ましい。従って、該規格を充足できる粘度特性を有する基油であれば、鉱油系基油、合成油系基油またはこれらの混合油系基油のいずれも用いることができる。
【0015】
潤滑油基油は、後記の基油基材を各々単独でまた二種以上を混合して所望の粘度その他の性状を有するように調合して製造することができる。例えば、各種の基油基材の調合により、本発明の内燃機関用潤滑油としては、100℃における動粘度を3.8〜12.5mm2/s、好ましくは5.6〜12.5mm2/s、特に、低燃費性に優れた潤滑油組成物を実現するため、基油として6mm2/s以下、さらに好ましくは3〜5mm2/sの範囲に調整することにより低燃費化を図ると共にニードルローラーピン摩耗深さで表示される耐摩耗性に優れたものを得ることができ、かつ、後記の如く添加剤IIの配合により、他のエンジン部位の耐摩耗性を含めさらに向上させ高温においても粘度低下が生じることなく、粘度−温度関係を安定化できるものが提供される。潤滑油基油の動粘度が高すぎると、攪拌抵抗が大きくなり、また流体潤滑域での摩擦係数が高くなり低燃費特性が悪化するという難点が生じる。
【0016】
鉱油系基油としては、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留出油として得られる潤滑油留分を溶剤精製、水素化分解、水素化処理、水素化精製、接触脱蝋、白土処理等の各種精製工程を任意に選択して用いることにより処理して得られる溶剤精製ラフィネートまたは水素処理油等の鉱油、減圧蒸溜残渣油を溶剤脱瀝処理に供したのち、得られた脱瀝油を前記の精製工程により処理して得られる鉱油、またはワックス分の異性化により得られる鉱油等またはこれらの混合油を用いることができる。前記の溶剤精製においては、フェノール、フルフラール、N−メチル−2−ピロリドン等の芳香族抽出溶剤が用いられ、一方、溶剤脱蝋の溶剤としては、液化プロパン、MEK/トルエン等が用いられる。また、接触脱蝋においては、例えばZSM触媒で代表される形状選択性ゼオライト等が脱蝋触媒として用いられる。
【0017】
前記の如くして得られる精製鉱油として軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストック等を挙げることができ、これらの基材を要求性状を満たすように適宜調合することにより鉱油系基油を製造することができる。
【0018】
一方、合成油系基油としては、ポリα−オレフィンオリゴマー(例えば、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびこれらの混合物。)、ポリブテン、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、ジノニルベンゼン等。)、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等。)、アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体;二塩基酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等。)と各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等。)とのエステル;炭素数5〜12のモノカルボン酸とポリオール(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等。)とのエステル;その他、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、リン酸エステルおよびシリコーン油等を挙げることができる。
添加剤I
本発明の潤滑油組成物の必須の構成成分として用いられる添加剤Iは、粘度指数向上効果と耐摩耗性を付与するものであり、重量平均分子量80,000〜300,000 の(i)分散型ポリメタアクリレートおよび (ii)分散型オレフィンコポリマーからなる群より選択される1種の重合体または2種以上の重合体の混合物である。
【0019】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算値として求められた値であり、ことわりのない限り「平均分子量」と記載する。
(i) 分散型ポリメタアクリレート
分散型ポリメタアクリレートは、分子中に窒素含有基を極性モノマーとして付加、共重合させて得られる重合体である。例えば、式[1]に示す化合物と式[2]または式[2−1]に示す化合物とを共重合させて得られるものであり、下記の如く特定の平均分子量を有するものであれば本発明の目的を達成することができる。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
式[1]中、Rは炭化水素基であり、通常、炭素数1〜18の鎖状炭化水素基、例えばアルキル基が用いられている。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。アルキル基の好ましい炭素数分布として6〜14のものを挙げることができる。また、R1 およびR2 は、水素原子またはアルキル基、特に低級アルキル基、例えばメチル基である。R3は、炭素数2〜18のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等を挙げることができる。X1 およびX2 は極性基を示す。極性基としては、窒素原子、酸素原子を含む各種のものが挙げられるが、本発明においては後に述べるように窒素含有基を提供するものが好ましい。具体的には、 ジアルキルアミノ基、アニリノ基、モルホリノ基、ピロリン基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基等が例示され、ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、シエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等を挙げることができる。
【0024】
かかる分散型ポリメタアクリレートは、通常、メタアクリル酸とC1 〜C18脂肪族アルコールとのエステル混合物に極性モノマーを添加し共重合することにより得ることができる。市販品としては、例えば、ViscoplexTM 6−054、PlexolTM 956、アクルーブTM 944 等多種のものが提供されており、前記平均分子量および窒素量を満たすものを選択して使用することができる。
【0025】
式[2]および式[3]で表わされる窒素含有化合物の具体例としては、ジアルキルアミノアルキルメタアクリレート、特に、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ジメチルアミノメチルメタアクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン等のアミン、N−メチルピロリドン等のアミド、イミダゾール、モルホリノアルキルメタアクリレート等を挙げることができる。かかる窒素含有化合物は、極性モノマーをメタアクリレートに対して5〜20モル%の割合で共重合させて得られたものである。
【0026】
本発明の潤滑油組成物において添加剤Iとして好適とされる分散型ポリメタアクリレートは、(1)平均分子量が80,000〜300,000、好ましくは90,000〜280,000のものであり、(2)その配合量が、潤滑油組成物全量基準で 1〜15 質量%、好ましくは 2〜7 質量%となるように調整されたものであって、(1)および(2)の二つの要素を併有させることにより顕著な効果を奏するものである。
【0027】
本発明の燃費改善効果と耐摩耗性を有する潤滑油組成物を提供する観点から、分散型ポリメタアクリレートの平均分子量が 80,000に満たないと十分な耐摩耗性が得られず、一方、300,000を超えると実用上エンジン各部での剪断による分子量の低下、粘度の低下が生じ、耐摩耗性においてさらに顕著な効果は得られないばかりでなく、燃費改善を阻害するおそれがある。
【0028】
本発明の潤滑油組成物によれば、前記基油と前記特定の分散型ポリメタアクリレートを用いることにより添加剤IIのチオリン酸亜鉛を配合せずにローラフォロア動弁系機構の摩耗を低減させることができるという特異な効果が得られるのでリン配合量を著しく少量とすることができる。
(ii) 分散型オレフィンコポリマー
分散型オレフィンコポリマーは、炭素数2〜10を有するアルケニル基からなる群より選択される2種以上のアルケニル基の共重合体であって窒素含有基が付加されたものである。共重合体の具体例としては式[3]
【0029】
【化4】
【0030】
で表わされるエチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、エチレンの含有量が25〜75重量%、好ましくは40〜60重量%のものを使用することができる。
【0031】
窒素含有基としては、前記の式[2]および式[2−1]で表わされる化合物を用いることができる。具体的には、窒素含有基として前記と同様にジアルキルアミノ基、ビニルピリジル基、例えば2−メチル−5−ビニルピリジル基等のアミノ基、ピロリドノ基、例えばN−メチルピロリドン等のアミド、イミダゾリノ基、モルホリノ基等を挙げることができる。
【0032】
本発明の潤滑油組成物にとって好適な分散型オレフィンコポリマーは、平均分子量が80,000〜300,000、好ましくは85,000〜300,000、さらに好ましくは90,000〜280,000のものである。平均分子量が80,000未満のものでは十分な耐摩耗性が得られず、一方、300,000を超えると燃費改善効果を低下させるおそれがある。
【0033】
また、分散型スチレン−ジエン水素化共重合体等も用いることができ、該共重合体としては、例えばスチレン−ブタジェンランダム共重合体水素化物およびスチレン−イソプレンブロック共重合体水素化物等に窒素含有基を付加したものも用いることができる。平均分子量としては前記同様に80,000〜300,000のものでよい。
【0034】
前記添加剤Iの分散型ポリメタアクリレート、分散型オレフィンコポリマー等は、前記の如き構造と平均分子量を有するものであれば、任意に使用することができるが、市販品を使用する場合は、分散型粘度指数向上剤として提供されているもののなかから、平均分子量および極性基等を把握し、本発明において要求する範囲の平均分子量を有するものを選択することができる。
添加剤II
本発明の潤滑油組成物において配合される添加剤IIは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)であり、該化合物は、一般式[4]
【0035】
【化5】
【0036】
(但し、式中R1 およびR2 は、炭素数1〜18アルキル基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。)
で表される。前記一般式[4]におけるR1 およびR2 で表されるアルキル基としては、第1級または第2級のものであり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの各分岐状アルキル基を挙げることができるが、本発明の潤滑油組成物にとっては、特に、排気ガス対策として採用されるEGRにより増加するディーゼルスーツの存在下における動弁系摩耗を抑制し、かつ、熱・酸化安定性も併有させるためには炭素数3〜12の第1級アルキル基と第2級アルキル基の混合アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いることが好ましい。特に、第1級アルキル基と第2級アルキル基との混合割合を第1級:第2級=50:50〜0:100に設定することが耐摩耗性と熱・酸化安定性とのバランスを図る上で好ましい。また、本発明の潤滑油組成物において、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は1種用いてもよいし、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、リン量として0.03〜0.5重量%、好ましくは0.03〜0.2重量%となるように調整される。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の配合量が、0.03重量%未満においては、ディーゼルスーツが混入した動弁系の潤滑条件下において、摩耗防止効果が得られず、一方、配合量が0.5重量%を超えても、その増量に応じた摩耗防止効果の向上が認められないばかりでなく、NOx吸蔵触媒を急速に不活性化させるという難点が生ずる。
コハク酸イミド
本発明の潤滑油組成物は、前記の如き添加剤IおよびIIのほかに油中に混入するディーゼルスーツの粒子を分散させる上で、さらに、コハク酸イミドを配合することが好ましい。コハク酸イミドは一般式[5]
【0037】
【化6】
【0038】
で表されるモノイミドまたは一般式[6]
【0039】
【化7】
【0040】
で表されるビスイミドおよびこれをホウ酸、有機酸により変性したものが挙げられる。一般式[5]および[6]において、R3 、R5 およびR6 は、それぞれ炭素数2〜8程度のα−オレフィンオリゴマーの残基またはその水素化物であって、R3、R5 およびR6 は、互いに同一でもまたは異なっていてもよい。また、R4 、R7 およびR8 は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基であり、R5 およびR6 は、互いに同一でも異なっていてもよい。mは1〜10の整数、nは0〜10の整数である。
【0041】
本発明においては、一般式[5]で表されるモノイミド、一般式[6]で表されるビスイミドまたはこれらの混合物を用いてもよい。一般式[5]および[6]で表されるポリアルケニルまたはポリアルキルコハク酸イミドは、通常ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるポリアルケニルコハク酸無水物またはその水素化物であるポリアルキルコハク酸無水物を、ポリアルキレンポリアミンと反応させることにより製造することができる。前記のモノイミドおよびビスイミドは、ポリアルケニルまたはポリアルキルコハク酸無水物とポリアルキレンポリアミンとの反応比率を変えることにより製造することができる。
【0042】
ポリアルケニルまたはポリアルキルコハク酸イミドの製造において、原料として用いられるポリオレフィンとしては、炭素数2〜8程度のα−オレフィンを重合して得られたものの中から、適宜選択して使用される。また、ポリオレフィンを形成するα−オレフィンは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリオレフィンとしては、特にポリブテンが好適である。一方、ポリアルキレンポリアミンとしては、例えばポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン、ポリブチレンポリアミン等が挙げられるが、ポリエチレンポリアミンが好適である。
【0043】
本発明の潤滑油組成物において、コハク酸イミドは、重量平均分子量が2500以上のものが好ましく、ディーゼルスーツなどの固形不純物を油中に分散させることができ、潤滑油の粘度の急増を抑制することができる。
【0044】
本発明の潤滑油組成物において、コハク酸イミドの含有量は、組成物全量基準で、窒素(N)量として0.03〜0.2重量%の範囲が好ましい。特に好ましいのは、窒素量として0.06〜0.12重量%の範囲である。配合量が、窒素量として0.03重量%未満であると、所期の効果が十分に発揮されず、一方、0.12重量%を超えても、配合量の増加による分散性の改良は得られない。
その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、前記の添加剤Iおよび添加剤IIを主要成分として含有し、コハク酸イミドを付加成分として配合することによりさらに顕著な効果を奏するものであるが、必要に応じて下記のその他の添加剤、例えば流動点降下剤、酸化防止剤、金属清浄剤、摩擦低減剤、耐摩耗剤、金属不活性剤、防錆剤、消泡剤、腐蝕防止剤、着色剤等を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。「その他の添加剤」はパッケージ製品としてまたは各々単独に配合してもよい。
【0045】
流動点降下剤としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。これらは、通常0.01〜5重量%の割合で使用される。
【0046】
酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジtert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジtert−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられ、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。これらは、通常0.05〜5重量%の割合で使用される。
【0047】
金属清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のスルホネート、サリシレート、フェノート、ホスホネートのものがあり、これらの中性塩および塩基性塩、特に過塩基性塩を用いることができる。油中のディーゼルスーツ等の固形不純物を分散させるには塩基価の大きい過塩基性のものが好ましい。これらは、通常0.05〜5重量%の割合で配合される。
【0048】
摩擦低減剤としては、例えば、有機モリブデン化合物、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、アミド、硫化エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩などが挙げられる。これらは、通常0.05〜3重量%の割合で使用される。
【0049】
耐摩耗剤としては、添加剤IIのジアルキルジチオリン酸亜鉛以外に、例えば、ジチオリン酸金属塩(Pb、Sb、Moなど)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn、Pb、Sb、Moなど)、ナフテン酸金属塩(Pbなど)、脂肪酸金属塩(Pbなど)、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらは、通常0.1〜5重量%の割合で使用される。
【0050】
極圧剤としては、例えば無灰系サルファイド化合物、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられ、これらは、通常0.05〜3重量%の割合で使用される。
【0051】
金属不活性化剤としては、例えばベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、これらは、通常0.001〜3重量%の割合で使用される。
【0052】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、これらは、通常0.01〜3重量%の割合で使用される。
【0053】
消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサン、ポリアクリレート等が挙げられ、通常、ごく少量、例えば0.002重量%程度添加される。さらに、本発明の潤滑油組成物には、腐蝕防止剤、着色剤等その他の添加剤も所望に応じて使用することができる。
潤滑油組成物
本発明に係る潤滑油組成物は、SAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす粘度性状を有するものである。具体的には、低温見かけ粘度−25℃で7,000cP以下、ポンプ吐出限界粘度−30℃で60,000cP以下、100℃動粘度 3.8〜12.5cSt、特に5.6〜12.5cStのものである。SAE粘度グレードとしては具体的には5W−20、5W−30、10W−20、10W−30等を挙げることができる。
かかる粘度特性を有する潤滑油組成物は、前記の如き100℃動粘度9mm2/s以下、好ましくは6mm2/s以下の低粘度の基油を選択し、これに添加剤Iを粘度グレード規格を満足するように特定量配合することにより調製することができる。
また、本発明に係る潤滑油組成物のローラーフォロア型動弁機構での耐摩耗性は、添加剤Iの配合により前記粘度特性が得られると同時に付与されるものであり、添加剤IIの共用により他のエンジン部位の耐摩耗性を含めて総合的に改善することができる。
さらに、本発明に係る潤滑油組成物は、前記の通り必要に応じてその他の添加剤が選択されて所定量配合されたものである。
【実施例】
【0054】
次に、本発明について実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。もっとも本発明は、これらの実施例等により何ら制限されるものではない。
【0055】
なお、実施例および比較例で用いた試作油には、下記の方法で採取したディーゼルスーツを所定量混入した。また、ローラーフォロア型動弁機構での効果の評価試験としては次の動弁系(ニードルローラピン)摩耗試験方法を用いた。
【0056】
なお、実施例および比較例のいずれの潤滑油組成物においてもその他の添加剤として、無灰分散剤、金属清浄剤、流動点降下剤、消泡剤の合計量12.5重量%を含有する添加剤パッケージを使用した。
耐摩耗性評価試験
動弁系(ニードルローラピン)摩耗試験
3YPE型エンジンを用い下記の条件でディーゼルスーツ3%を添加した試料油についてモータリング試験を行ないローラー型動弁系のニードルローラー摩耗を測定した。
測定条件
・油温度:120℃
・試験時間:50hrs.
・モータリング回速速度:1000rpm
評価方法
ニードルローラーの摩耗深さを測定
ディーゼルスーツ採取方法
実機ディーゼルエンジンを潤滑油基油のみで運転して混入スーツを濃縮採取した。
潤滑油基油
フェノール溶剤精製による各種混合基材の調合により動粘度@100℃を6mm2/s以下に制御された基油(表3および4参照)。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
重量平均分子量測定方法
添加剤Iとして用いた分散型ポリメタアクリレートおよび分散型オレフィンコポリマーの重量平均分子量は下記測定条件によるゲル濾過クロマトグラフィーで測定した。
【0060】
実施例1
潤滑油基油としてフェノール溶剤精製パラフィン系鉱油(100℃における動粘度(以下「100℃動粘度」という。):5.42mm2/s)を使用し、これに、平均分子量 92,000の分散型ポリメタアクリレートB 4.4質量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として 0.12質量%および添加剤パッケージ12.9質量%を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;10.02 mm2/s)を調製した。得られた潤滑油組成物に前記の方法で採取したディーゼルスーツを3質量%添加して前記試験条件下での動弁系(ニードルローラーピン)摩耗試験(以下「動弁系摩耗試験」という。)に供し、摩耗深さを測定したところ、8.6μmの結果を得た。
実施例2
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに、平均分子量136,000の分散型ポリメタクリレートCを3.1質量%配合したこと以外すべて実施例1の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.844mm2/s)を調製した。実施例1と同様に動弁系摩耗試験により摩耗深さを測定したところ、6.5μmの結果を得た。
実施例3
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量192,000の分散型ポリメタアクリレートDを4.9質量%使用したこと以外すべて実施例1の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.905 mm2/s)を調製した。実施例1と同様にして動弁系摩耗試験に供したところ、摩耗深さ8.4μmであった。
実施例4
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量165,000の分散型オレフィンコポリマーを4.6質量%配合したこと以外すべて実施例1の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.963mm2/s)を得た。摩耗試験に供したところ、摩耗深さ10.1μmであった。
実施例5
フェノール溶剤精製パラフィン系鉱油(100℃における動粘度:4.20 mm2/s)を基油とし、これに分散型ポリメタアクリレートC5.90質量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量として0.12質量%および添加剤パッケージを12.9質量%配合してSAE粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.996mm2/s)を得た。得られた潤滑油組成物を動弁系摩耗試験に供したところ、摩耗深さ10.0μmであった。
実施例6
ジチオリン酸亜鉛を配合しなかったこと以外すべて実施例5の基油と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合してSAE粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物を得た。動弁系摩耗試験に供したところ摩耗深さ6.2μmであった。
比較例1
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量28,000の分散型ポリメタアクリレートAを2.6質量%用いたこと以外すべて実施例1の基油および添加剤とそれぞれ同一の基油および添加剤を配合してSAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.891mm2/s)を得た。動弁系摩耗試験の結果、摩耗深さ25.0μmであった。
比較例2
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量201,000の非分散型ポリメタアクリレートを2.8質量%配合したこと以外すべて実施例1の基油および添加剤とそれぞれ同一の基油および添加剤を配合し、SAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;10.02mm2/s)を得た。動弁系摩耗試験の結果は、摩耗深さ18.6μmであった。
比較例3および4
分散型ポリメタアクリレートBの代わりに平均分子量215,000の非分散型オレフィンコポリマーを4.9質量%配合したこと以外、すべて実施例1の基油および添加剤と同一の基油、同一配合割合の添加剤を配合し、SAE粘度グレード10W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.875mm2/s(比較例3)、9.878mm2/s(比較例4))を調製した。なお、比較例4の潤滑油組成物には、さらにモリブデンジチオカーバメートをモリブデン量として0.07質量%配合した。動弁系摩耗試験の摩耗深さの測定結果、それぞれ19.5μm(比較例3)および19.9μm(比較例4)であった。
比較例5
分散型ポリメタアクリレートCの代わりに平均分子量215,000の非分散型オレフィンコポリマーを8.2質量%を配合したこと以外すべて実施例4と同一の基油および添加剤と同一の基油および同一配合割合の添加剤を配合し、粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;9.839mm2/s)を得た。動弁系摩耗試験の結果、摩耗深さ23.2μmであった。
比較例6
分散型ポリメタアクリレートCの代わりに平均分子量241,000の星状イソプレンを8.3質量%配合したこと以外すべて実施例5の基油および添加剤と同一の基油、同一配合割合の添加剤を配合し粘度グレード5W−30の規格を満たす潤滑油組成物(100℃動粘度;10.05mm2/s)を得た。動弁系摩擦試験の結果、摩耗深さ26.8μmであった。
比較例7
ジアルキルジチオリン酸亜鉛を配合しなかったこと以外すべて比較例5と同様にして潤滑油組成物を調製した。摩耗試験の評価結果は摩耗度25.8μmであった。
比較例8〜9
実施例1および比較例1の各潤滑油組成物をスリッパ方式動弁機構の耐摩耗性を表示するものとして四球試験機による摩耗試験に供したところ摩耗痕跡は、各々0.68mm(比較例8)および0.70mm(比較例9)であった。
この結果においては、両者に顕著な差異はなかったが、前記の如く、実施例1の潤滑油組成物は、ニードルローラーピン摩耗試験では比較例1の潤滑油組成物を凌駕して顕著な効果が得られた点には特異性があることがわかる。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
以上の実施例および比較例、特に実施例1と比較例1、比較例8および9との対比から、特定の低粘度の基油と特定の平均分子量の分散型ポリメタアクリレートおよび/または分散型オレフィンコポリマーならびにジアルキルジチオリン酸亜鉛とからなる潤滑油組成物をローラーフォロア型動弁機構の潤滑に使用した場合、格別の効果を奏することがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油もしくは合成油またはこれらの混合物からなる基油に、潤滑油組成物全量基準で、
少なくとも下記の添加剤Iを1〜15質量%配合してなり、SAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす潤滑油組成物であって、ローラーフォロア型動弁機構を搭載した内燃機関の潤滑に使用することを特徴とする潤滑油組成物。
I.重量平均分子量 80,000〜300,000の下記の(i)および(ii);
(i) 分散型ポリメタアクリレート
(ii) 分散型オレフィンコポリマー
からなる群より選択される少なくとも一種の重合体。
【請求項2】
さらに下記の添加剤IIをリン量として0.03〜0.15質量%配合してなる請求項1に記載の潤滑油組成物。
II.ジアルキルジチオリン酸亜鉛。
【請求項3】
前記ローラーフォロア型動弁機構とさらにNOx吸蔵触媒装置が装備されたガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンに使用される請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項1】
鉱油もしくは合成油またはこれらの混合物からなる基油に、潤滑油組成物全量基準で、
少なくとも下記の添加剤Iを1〜15質量%配合してなり、SAE粘度グレードX1W−30またはX2W−20(但し、X1およびX2は、それぞれ0、5または10である。)の規格を満たす潤滑油組成物であって、ローラーフォロア型動弁機構を搭載した内燃機関の潤滑に使用することを特徴とする潤滑油組成物。
I.重量平均分子量 80,000〜300,000の下記の(i)および(ii);
(i) 分散型ポリメタアクリレート
(ii) 分散型オレフィンコポリマー
からなる群より選択される少なくとも一種の重合体。
【請求項2】
さらに下記の添加剤IIをリン量として0.03〜0.15質量%配合してなる請求項1に記載の潤滑油組成物。
II.ジアルキルジチオリン酸亜鉛。
【請求項3】
前記ローラーフォロア型動弁機構とさらにNOx吸蔵触媒装置が装備されたガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンに使用される請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【公開番号】特開2009−197245(P2009−197245A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137612(P2009−137612)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【分割の表示】特願2002−167845(P2002−167845)の分割
【原出願日】平成14年6月7日(2002.6.7)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【分割の表示】特願2002−167845(P2002−167845)の分割
【原出願日】平成14年6月7日(2002.6.7)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
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