説明

潤滑油組成物

【課題】 生分解性に優れ、毒性が低く、しかも高い潤滑性や乳化性を有する潤滑油組成物、特には、削岩機、穿孔機、杭打ち機など、屋外で使用され、圧縮空気により潤滑部位に油剤が供給されるシステムからなる機械用の潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】 合成エステルおよび/または植物油を基油とし、硫黄系および/またはリン系化合物を潤滑油組成物全量基準で0.01〜10質量%、コハク酸イミドを潤滑油組成物全量基準で0.1〜5質量%含有し、生分解性が60%以上、魚類急性毒性が100mg/L以上、40℃の動粘度が10〜500mm/sで、かつ重金属含有添加剤を実質的に含まない潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、特には、削岩機、穿孔機、杭打ち機など、屋外で使用され、圧縮空気により潤滑部位に油剤が供給されるシステムからなる土木機械用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外の土木工事等で使用される削岩機、穿孔機、杭打ち機などでは、圧縮空気で潤滑油を潤滑部位(例えば、ピストンなど)へ供給して焼付けを防止し、その後、自然界に排出される。したがって、環境負荷の少ない、生分解性に優れ、毒性の極めて低い潤滑油組成物が求められているが、従来、この種の潤滑油組成物は、鉱物油を基油として用いていたため、生分解性が低く、環境上問題であった。
生分解性の高い潤滑油として、基油に動物油や植物油を用いたものがあるが、削岩機、穿孔機、杭打ち機などに用いるためには、高い潤滑性、具体的には、耐荷重性、耐摩耗性が要求されるとともに、周辺や圧縮空気中より水分が混入するため、高い乳化性も求められており、これらの要求性能を満足するものはなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、生分解性に優れ、毒性が低く、しかも高い潤滑性や乳化性を有する潤滑油組成物、特には、削岩機、穿孔機、杭打ち機など、屋外で使用され、圧縮空気により潤滑部位に油剤が供給されるシステムからなる機械用の潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の潤滑油組成物は、合成エステルおよび/または植物油を基油とし、硫黄系および/またはリン系化合物を潤滑油組成物全量基準で0.01〜10質量%、コハク酸イミドを潤滑油組成物全量基準で0.1〜5質量%含有し、生分解性が60%以上、魚類急性毒性が100mg/L以上、40℃の動粘度が10〜500mm/sで、かつ重金属含有添加剤を実質的に含まない潤滑油組成物であって、好ましくは、前記硫黄系化合物が硫黄分15質量%以下の硫化油脂で、前記リン系化合物がリン酸エステルで、前記コハク酸イミドが分子量500〜1500のモノイミドおよび/またはビスイミドからなるものである。
【発明の効果】
【0005】
本願発明の潤滑油は、生分解性に優れ、毒性が低く、しかも高い潤滑性や乳化性を有するという格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の基油として用いる合成エステルは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのヒンダードポリオールと、炭素数7〜18の飽和モノカルボン酸、例えば、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミスチリン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸などの直鎖飽和モノカルボン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、2,2‐ジメチルオクタン酸、2‐エチル‐2,3,3‐トリメチルブタン酸、2,2,3,4‐テトラメチルペンタン酸、2,5,5‐トリメチル‐2‐t‐ブチルヘキサン酸、2,3,3‐トリメチル‐2‐エチルブタン酸、2,3‐ジメチル‐2‐イソプロピルブタン酸、2‐エチルヘキサン酸、3,5,5‐トリメチルヘキサン酸などの分枝鎖飽和モノカルボン酸など、とのエステルなどである。これらのエステルは、単独で用いても、混合して用いても良く、また、エステル化反応の際に、ヒンダードポリオールと飽和モノカルボン酸を2種以上づつ混合して反応させたものを用いてもよい。
【0007】
前記ヒンダードポリオール類と脂肪族モノカルボン酸とをエステル化反応させて得られたエステルは、完全エステル化物であってもよく、部分エステル化物であってもよいが、完全エステル化物が好ましい。
合成エステルの40℃における動粘度は、10〜500mm/s、好ましくは20〜100mm/sの範囲のものが選定される。
また、合成エステル系基油の酸価は、腐食抑制及び水混入時の加水分解抑制の観点から、1mgKOH/g以下が好ましく、0.5mgKOH/g以下がより好ましい。
【0008】
本発明の基油として用いる植物油は、大豆油、菜種油、ひまわり油、サフラワー油、落花生油、とうもろこし油、綿実油、米ぬか油、カポック油、ごま油、オリーブ油、あまに油、ひまし油、カカオ脂、シャー脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、麻実油、米油、茶種油などが好適である。
【0009】
上記合成エステルおよび植物油は、それぞれ単独で用いることもできるが、複数種類、混合して用いることもできる。
また、本発明の基油には、上記エステルおよび植物油以外に、生分解性、毒性、潤滑性などを損なわない範囲で、鉱油、オレフィン重合体、アルキルベンゼン等の炭化水素系油や、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル等の酸素含有合成油を配合しても良いが、上記合成エステルおよび植物油は、基油全量基準で80質量%以上含有させることが好ましく、90質量%以上含有させることがより好ましく、合成エステルおよび植物油100質量% とすることが最も好ましい。
【0010】
本発明に添加する硫黄系化合物としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジベンジルジサルファイド(DBDS)、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオホスファイト、チオホスフェート)、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを好適に用いることができる。この硫黄化合物は、後述のリン系化合物と併用する場合は、両者の合計量として、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜10質量%の範囲で適宜選定して配合されるが、0.1〜5質量%の範囲で選定することが好ましい。
【0011】
この中でも、極圧性に優れ、生分解性を損なうことのない硫化油脂を用いることが好ましい。この硫化油脂は、油脂の不飽和結合を硫黄で架橋してなる化合物であり、例えば、硫黄と、菜種油、ひまし油、大豆油等の植物油や、牛脂、豚脂、鯨油等の動物油とを反応させて得られ、市販品を利用することができる。この硫化油脂は、腐食性および環境への負荷の低減等から、硫黄分が15質量%以下のものが好ましく、6〜15質量%であることが更に好ましい。
【0012】
本発明においては、リン系化合物として、下記一般式(1)に示した化合物を少なくとも1種類含有するものである。一般式(1)中のR、R及びRの官能基はヒドロカルビル基又は水素原子を示すが、R、R及びRは、全てが水素であることはない。ヒドロカルビル基としては、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基等であり、炭素数は1〜30、好ましくは1〜20、特に好ましくは3〜9である。R、R及びRは同一であってもよいし、1個が他の2個と異なってもよいし、各々が異なってもよく、またXは酸素原子、又は硫黄原子を示す。
【0013】
【化1】

【0014】
特に、上記リン系化合物は、ジアルキルホスフェート、ジアリールホスフェート、トリアリールホスフェート及びこれらの混合物等が好適である。中でも、トリクレジルホスフェートが特に好ましい。このリン系化合物は、上述の硫黄系化合物と併用する場合は、両者の合計量として、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜10質量%の範囲で適宜選定して配合されるが、0.1〜5質量%の範囲で選定することが好ましい。
【0015】
本発明に用いるコハク酸イミドは、乳化剤として用いるもので、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した下記一般式(2)のような、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した下記一般式(3)のような、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドがあるが、本発明においては、モノタイプ及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれも使用可能であり、またモノタイプとビスタイプを混合して使用することもできる。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
なお、上記一般式(2)及び(3)中、R、R、Rは、それぞれ個別にアルキル基又はアルケニル基を示し、aは1〜10、好ましくは2〜5の整数、bは1〜10、好ましくは2〜5の整数のものである。
このコハク酸イミド化合物は、分子量が500〜1500のモノイミド化合物および/またはビスイミド化合物が、高い乳化性と生分解性のために好ましい。
【0019】
このコハク酸イミドは、無灰分散剤として、ギヤ油、金属加工油、作動油、自動変速機油などの各種潤滑油に使用されている市販の化合物から適宜を選定するとよい。このコハク酸イミドの含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.1〜5質量% 、特には0.5〜3質量%が好ましい。
【0020】
また、本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲において、所望により各種の添加剤、例えば、潤滑性向上剤、防錆剤、酸化防止剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤などを添加することができる。
しかしながら、通常の潤滑油で酸化防止剤や潤滑性向上剤などとして用いられている、アルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)などの有機亜鉛化合物やモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)、硫化モリブデンなどのモリブデン化合物等の重金属含有添加剤は、実質的に含まないようにする。実質的に含まないとは、潤滑油組成物の全量基準で、重金属元素として5ppm以下である。
【0021】
さらに、基油として、特に植物油を単独で用いると、40℃の動粘度が要求性能より低い場合があり、その時は、生分解性に優れた、天然ゴム、ロジンエステル、ポリアルキレングリコール、カラギーナンのような粘度向上剤を用いるとよい。
【0022】
本発明の潤滑油組成物は、40℃における動粘度が10〜500mm/s、OECDテストガイドライン301C法の微生物による化学物質の分解度試験において、生分解率が60%以上、また、JIS K0102に基づくヒメダカに対する急性毒性試験で、96時間LC50値が100mg/L以上のものである。このようにすることにより、生分解性に優れ、生体に与える影響が少なく、毒性が低く、極めて環境にやさしく、しかも高い潤滑性を有する潤滑油組成物とすることができる。
また、本潤滑油組成物においては、粘度指数が100以上、流動点が−10℃以下、引火点が250℃以上であることが好ましい。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
[潤滑油組成物の調製]
次に示す潤滑油基油、硫黄系化合物、リン系化合物、コハク酸イミドおよび添加剤を用いて、実施例、比較例の潤滑油組成物を調製した。なおブレンドは、所定量の基材を、60℃に加熱し、均一液体となるまで攪拌し、室温まで冷却した。
【0024】
(A)潤滑油基油
(A1)菜種油(動粘度(40℃);31mm/s、粘度指数;214、流動点;−20℃、引火点;326℃)
(A2)ポリオールエステル油(動粘度(40℃);495mm/s、粘度指数;153、流動点;−30℃、引火点:300℃)
(A3)パラフィン系鉱物油(動粘度(40℃);32mm/s、粘度指数;106、流動点;−15℃、引火点;230℃)
【0025】
(B)硫黄系化合物
(B1)硫化油脂(硫黄分:11%、動粘度(40℃):1000mm/s)
(B2)硫化油脂(硫黄分:15%、動粘度(40℃):1600mm/s)
(B3)硫化油脂(硫黄分:20%、動粘度(40℃):40mm/s)
(B4)硫化オレフィン(硫黄分:19%、動粘度(40℃):60mm/s)
【0026】
(C)リン系化合物
(C1)トリクレジルフォスフェート
(C2)トリフェニルチオリン酸エステル
【0027】
(D)コハク酸イミド
(D1)コハク酸モノイミド(分子量:1000)
(D2)コハク酸ビスイミド(分子量:1000)
(D3)コハク酸ビスイミド(分子量:2000)
(D4)コハク酸ビスイミド(分子量:2300)
【0028】
(E)その他添加剤
(E1)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP、Zn:8%)
(E2)モリブデンジチオカーバメート(MoDTC、Mo:5%)
【0029】
なお、潤滑油基油および潤滑油組成物の性状および性能は、次の方法にしたがって測定したものである。
(1)一般性状
(イ)密度;JIS K2249に準拠して15℃の値を測定
(ロ)色;JIS K2580に準拠してASTM色を測定
(ハ)流動点;JIS K2269に準拠して測定
(ニ)40℃動粘度;JIS K2283に準拠して測定
(ホ)引火点;JIS K2265−4に準拠して測定
(ヘ)粘度指数;JIS K2283に準拠して測定
(ト)酸価;JIS K2501に準拠して測定
(チ)銅板腐食;
JIS K2513に準拠して100℃、3hrの測定をする.ここで、銅変色度が1レベルを◎(腐食性ナシ)、2レベルを△、3、4レベルを×(強度の腐食性アリ)として示した。
【0030】
(2)潤滑性;
JIS K2519に準拠して、曽田四球試験機を用い、回転数750rpm、Shock法にて耐荷重能(焼付荷重)を評価した。焼付荷重が0.25MPa以上を◎(極圧性能:優れる)、0.2MPa以下を×(極圧性能:低い)で示した。
【0031】
(3)乳化性
潤滑油組成物の水乳化特性を評価する目的で以下の乳化試験を実施した。JIS K2520に準拠して、潤滑油組成物40mlと精製水40mlを試験管に入れ、54℃の恒温槽に静置し、かき混ぜ板を入れ、回転数1500rpmで5分間かき混ぜる。かき混ぜ終了から1時間経過時の乳化層量が70ml以上を◎(乳化性:特に優れる)、50〜70mlを○(乳化性:良好)、50ml以下を×(乳化性:劣る)で示した。また、形成した乳化層の外観を観察し、均一な油中水型乳化の場合を◎(乳化性:優れる)、水中油型乳化や粘ちょうなクリーム状乳化の場合を×(乳化性:劣る)で示した。
【0032】
(4)生分解性
修正MITI試験法「OECD301C」に準拠し、生分解率を測定する。なお、1998年7月に改訂されたエコマーク認定基準では、上記生分解率は60%以上であることが要求される。本試験で生分解性が60%以上を合格(生分解性:高い)、60%以下を不合格(生分解性:劣る)で示した。
【0033】
(5)魚類に対する急性毒性
JIS K0102に準拠し、試験魚としてヒメダカを用い、96時間後の半数致死濃度LC50値を測定する。なお、1998年7月に改訂されたエコマーク認定基準では、上記LC50値が100mg/L以上であることが要求される。本試験でLC50値が100mg/L以上の場合を合格(毒性:低い)、100mg/L以下を不合格(毒性:高い)として示した。
【0034】
表1に実施例1〜8、比較例1〜3の測定結果を示す.まず実施例1〜8は、生分解性が60%以上を有し、魚類毒性も無く、環境適合性に優れた潤滑油組成物である。さらに実施例1〜8は、いずれも潤滑性に優れ、水混入時の乳化層を形成しやすく、特に実施例1〜7は、均一油中水型乳化層を形成した。また、実施例1〜6は、銅に対する腐食性も無く、システム部材との適合性に優れている。
これに対して、比較例1〜3は、生分解性が60%以下で、さらに比較例2、3は、魚類毒性が高く、これら比較例は環境適合性に劣る潤滑油組成物である。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の潤滑油組成物は、生分解性に優れ、毒性が低く、しかも高い潤滑性や乳化性を有するので、削岩機、穿孔機、杭打ち機など、屋外で使用され、圧縮空気により潤滑部位に油剤が供給されるシステムからなる屋外土木機械用の潤滑油として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成エステルおよび/または植物油を基油とし、硫黄系および/またはリン系化合物を潤滑油組成物全量基準で0.01〜10質量%、コハク酸イミドを潤滑油組成物全量基準で0.1〜5質量%含有し、生分解性が60%以上、魚類急性毒性が100mg/L以上、40℃の動粘度が10〜500mm/sで、かつ重金属含有添加剤を実質的に含まない潤滑油組成物。
【請求項2】
硫黄系化合物が硫黄分15質量%以下の硫化油脂である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
リン系化合物がリン酸エステルである請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
コハク酸イミドが分子量500〜1500のモノイミドおよび/またはビスイミドである請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2010−144037(P2010−144037A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322488(P2008−322488)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】