説明

潤滑油組成物

【課題】省燃費性および低温粘度特性と清浄性に優れ、150℃におけるHTHS粘度を一定レベルに維持しながら、燃費向上にとって効果的である、潤滑油の40℃、100℃動粘度および100℃のHTHS粘度を著しく低減させた潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】潤滑油組成物は、100℃動粘度が1〜5mm2/s未満である潤滑油基油を基油全量基準で50〜99.9質量%、および100℃動粘度が5〜200mm2/sである潤滑油基油を基油全量基準で0.1〜50質量%、からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSIの比が0.8×104以上である粘度指数向上剤を0.1〜50質量%配合した、組成物の100℃動粘度が3〜15mm2/s、かつ、150℃ HTHS粘度と100℃ HTHS粘度の比が0.50以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や変速機、その他機械装置には、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求される。したがって、従来のエンジン油にはこうした要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている(例えば、特許文献1〜3)。また近時、潤滑油に求められる省燃費性能は益々高くなっており、高粘度指数基油の適用や各種摩擦調整剤の適用などが検討されている(例えば、特許文献4)。
【特許文献1】特開2001−279287号公報
【特許文献2】特開2002−129182号公報
【特許文献3】特開平08−302378号公報
【特許文献4】特開平06−306384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の潤滑油基油および粘度指数向上剤は、省燃費性および低温粘度特性の点で必ずしも十分とは言えない。
【0004】
一般的な省燃費化の手法として、製品の動粘度の低減や、粘度指数向上つまり基油粘度の低減と粘度指数向上剤の添加を組み合わせることによるマルチグレード化などが知られている。しかしながら、製品粘度の低減や、基油粘度の低減は、高温高せん断条件等の厳しい潤滑条件における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念される。
【0005】
そこで、それら不具合を防止し、耐久性を維持するためには、150℃における高温高せん断粘度(HTHS粘度)を維持することが必要となる。つまり、他の実用性能を維持しながら、さらに省燃費性を付与するためには、150℃のHTHS粘度を一定レベルに維持しながら、40℃および100℃の動粘度や100℃のHTHS粘度を低減し、粘度指数を向上することが重要となる。
この問題に対しては、潤滑油組成物全量を基準として、重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSI(永久せん断安定度指数)の比が0.8×104以上である粘度指数向上剤0.1〜50質量%を含有し、かつ、150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比が0.50以上である潤滑油組成物を適用することにより、省燃費性および低温粘度特性を高い次元で両立できることが分かった。しかしながら、該潤滑油組成物は、高温低潤滑条件下における清浄性、特にコーキング防止性に劣ることが判明した。
清浄性の悪化は、エンジン内におけるデポジットやスラッジの原因となり、最悪の場合、エンジン停止等のトラブルの原因となる可能性があることから、省燃費性および低温粘度特性を両立するだけでなく、清浄性を改善することが重要となる。
【0006】
従って、本発明の課題は、省燃費性、低温粘度特性および高温清浄性に優れ、150℃におけるHTHS粘度を一定レベルに維持しながら、燃費向上にとって効果的である、潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃のHTHS粘度を著しく低減させつつ、コーキング防止性にも優れた潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、(A)100℃における動粘度が1〜5mm2/s未満である潤滑油基油を基油全量基準で50〜99.9質量%、および100℃における動粘度が5〜200mm2/sである潤滑油基油を基油全量基準で0.1〜50質量%、からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、(B)重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSIの比が0.8×104以上である粘度指数向上剤を0.1〜50質量%配合した、組成物の100℃における動粘度が3〜15mm2/s、かつ、150℃ HTHS粘度と100℃ HTHS粘度の比が0.50以上であることを特徴とする潤滑油組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、上記(A)成分に(B)成分を配合した、特定の性状を有する組成物であるので、省燃費性、低温粘度特性および高温清浄性に優れ、特に、150℃におけるHTHS粘度を一定レベルに維持しながら、燃費向上にとって効果的である、潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃のHTHS粘度を著しく低減させつつ、コーキング防止性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油として、100℃における動粘度が1〜5mm2/s未満である潤滑油基油(以下、基油(A−1)ということがある)と、100℃における動粘度が5〜200mm2/sである潤滑油基油(以下、基油(A−2)ということがある)とからなる潤滑油基油(以下、基油(A)ということがある)が用いられる。
ここで、100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を意味する。
【0010】
基油(A−1)の100℃における動粘度は1〜5mm2/sであることが必要であり、好ましくは4.5mm2/s以下、より好ましくは4.3mm2/s以下、更に好ましくは4.1mm2/s以下、特に好ましくは4.0mm2/s以下である。基油(A−1)の100℃における動粘度が5mm2/s以上であると、粘度温度特性が悪化し、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、基油(A−1)の100℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上、更に好ましくは3mm2/s以上、特に好ましくは3.5mm2/s以上である。基油(A−1)の100℃における動粘度が1mm2/s未満の場合には、潤滑部位における油膜形成が不十分となって潤滑性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油の蒸発損失量が増加する傾向にある。
基油(A−1)としては、個別に100℃における動粘度1〜5mm2/s未満を満たす限りにおいては、1種または2種以上を併用してもよい。
【0011】
基油(A−1)の粘度指数は特に制限はないが、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは125以上、特に好ましくは130以上、最も好ましくは135以上である。また好ましくは180以下、より好ましくは170以下、更に好ましくは160以下、特に好ましくは150以下である。粘度指数が前記下限値未満であると、省燃費性や低温粘度特性が悪化するだけでなく熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が大幅に悪化する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0012】
基油(A−1)の15℃における密度(ρ15)は特に制限はないが、式(a)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 ・・・(a)
(式中、kv100は基油(A)の100℃の動粘度(mm2/s)を示す。)
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、基油(A)に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下するおそれがある。
基油(A−1)の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下、より好ましくは0.850以下、さらに好ましくは0.840以下、特に好ましくは0.822以下である。
ここで、上記15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0013】
基油(A−1)の流動点は特に制限はないが、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下、特に好ましくは−17.5℃以下、最も好ましくは−20℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。
ここで、流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0014】
基油(A−1)のアニリン点(AP(℃))は特に制限はないが、式(b)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 ・・・(b)
(式中、kv100は基油(A)の100℃の動粘度(mm2/s)を示す。)
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、基油(A−1)に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0015】
基油(A−1)のヨウ素価は特に制限はないが、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、特に好ましくは1以下、更に特に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.2以下である。また、0.001未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点および経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上、特に好ましくは0.05以上である。基油(A−1)のヨウ素価をより小さくすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。
ここで、ヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0016】
基油(A−1)のNOACK蒸発量は特に制限はないが、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは9質量%以下、最も好ましくは8質量%以下である。NOACK蒸発量が上記上限値以下であると、低蒸発性とすることが可能であると共に、清浄性を向上することが可能となる。また、NOACK蒸発量は1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。NOACK蒸発量が上記下限値以下であると、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。
また、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量(測定条件:250℃、1時間)を意味する。
【0017】
基油(A−1)の%CAは特に制限はないが、好ましくは5以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下、特に好ましくは0.5以下である。基油(A−1)の%CAが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、基油(A−1)の%CAは0であってもよいが、%CAを上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0018】
基油(A−1)の%CPは特に制限はないが、通常70以上、好ましくは80以上、より好ましくは85以上、更に好ましくは87以上、特に好ましくは90以上である。また、好ましくは99以下、より好ましくは95以下、さらに好ましくは94以下、特に好ましくは93以下である。基油(A−1)の%CPが上記下限値未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。また、基油(A)の%CPが上記上限値を超えると、添加剤の溶解性が低下し、清浄性が悪化する傾向にある。
【0019】
基油(A−1)の%CNは特に制限はないが、通常30以下、好ましくは25以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは8以下である。また、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上、特に好ましくは6以上である。基油(A−1)の%CNが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、%CNが上記下限値未満であると、添加剤の溶解性が低下し、清浄性が悪化する傾向にある。
【0020】
なお、本発明でいう%CP、%CNおよび%CAとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%CP、%CNおよび%CAの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えば、ナフテン分を含まない基油(A−1)であっても、上記方法により求められる%CNが0を超える値を示すことがある。
【0021】
基油(A−1)における飽和分の含有量は特に制限はないが、基油全量基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下、更により好ましくは21質量%以下である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上させることができる。
ここで、飽和分とは、ASTM D 2007−93に記載された方法により測定される飽和分を意味する。
【0022】
飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法が挙げられる。
【0023】
基油(A−1)における芳香族分は特に制限はないが、基油全量基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.3質量%以下である。また、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、基油(A−1)は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
ここで、芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0024】
基油(A−1)の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善し、かつ高い熱伝導性を得る観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。また、基油(A−1)の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0025】
ここで、尿素アダクト値とは、以下の方法により測定される値を意味する。
秤量した試料油(基油(A−1))100gを丸底フラスコに入れ、尿素200mg、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。
【0026】
尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、あるいは熱伝導性を悪化させる成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを、精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性および熱伝導性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。
【0027】
基油(A−2)は、100℃における動粘度が5〜200mm2/sであることが必要であり、好ましくは5.3mm2/s以上、より好ましくは5.5mm2/s以上、更に好ましくは5.7mm2/s以上、最も好ましくは5.9mm2/s以上である。また、好ましくは100mm2/s以下、より好ましくは50mm2/s以下、更に好ましくは30mm2/s以下、特に好ましくは20mm2/s以下、最も好ましくは10mm2/s以下である。基油(A−2)の100℃における動粘度が5mm2/s未満である場合には、目的とする高温清浄性が得られないおそれがあり、100℃における動粘度が200mm2/sを超える場合には粘度温度特性が悪化し、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。
【0028】
基油(A−2)の粘度指数は特に制限はないが、好ましくは80以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは120以上、特に好ましくは130以上、最も好ましくは135以上である。また好ましくは180以下、より好ましくは170以下、更に好ましくは160以下、特に好ましくは150以下である。粘度指数が前記下限値未満であると、省燃費性や低温粘度特性が悪化するだけでなく熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が大幅に悪化する傾向にある。
【0029】
基油(A−2)のNOACK蒸発量は特に制限はないが、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは8質量%以下、最も好ましくは7質量%以下である。NOACK蒸発量が上記上限値以下であると、低蒸発性とすることが可能であると共に、清浄性を向上することが可能となる。また、NOACK蒸発量は1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。NOACK蒸発量が上記下限値以下であると、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。
【0030】
基油(A−1)と基油(A−2)との混合割合は、基油全量基準で基油(A−1)が50〜99.9質量%、基油(A−2)が0.1〜50質量%であることが必要である。ここで、基油(A−1)は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、最も好ましくは92質量%以下である。また、好ましくは53質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%である。また、基油(A−2)は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、最も好ましくは8質量%以上である。また、好ましくは47質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下、最も好ましくは20質量%以下である。
基油(A−1)の混合割合が99.9質量%を超えると、即ち、基油(A−2)の混合割合が0.1質量%未満の場合には目的とする高温清浄性が得られないおそれがあり、また基油(A−1)の混合割合が50質量%未満、即ち、基油(A−2)の混合割合が50質量%を超える場合には、粘度温度特性が悪化し、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。
【0031】
基油(A−1)、(A−2)いずれの場合も、鉱油系基油および/または合成系基油を用いることができる。
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油が使用できる。
【0032】
合成系基油としては、例えば、ポリ−α−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテルが挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、例えば、1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマーおよびそれらの水素化物が挙げられる。
【0033】
ポリ−α−オレフィンの製法は特に制限されず、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0034】
本発明に係る基油(A)を構成する基油(A−1)及び基油(A−2)の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油。
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)。
(3)潤滑油脱ろう工程により得られる、スラックワックス等のワックスおよび/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる、フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等の合成ワックス。
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油。
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油。
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)。
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)。
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0035】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0036】
本発明に係る基油(A)を構成する基油(A−1)及び基油(A−2)としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油。
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
また、上記(9)または(10)の基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0037】
上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物、例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニア、または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属、例えば、周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト、例えば、ZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0038】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されず、例えば、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr-1、水素/油比50〜20000scf/bblとすることが好ましい。
【0039】
本発明に係る基油(A)の100℃の動粘度は特に制限はないが、通常6mm2/s以下、好ましくは5.5mm2/s以下、より好ましくは5.2mm2/s以下、さらに好ましくは5.0mm2/s以下、特に好ましくは4.8mm2/s以下、最も好ましくは4.5mm2/s以下である。一方、当該100℃の動粘度は、通常1mm2/s以上、好ましくは1.5mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上、さらに好ましくは2.5mm2/s以上、特に好ましくは3mm2/s以上である。基油(A)の100℃動粘度が6mm2/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm2/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0040】
基油(A)の40℃の動粘度は特に制限はないが、好ましくは80mm2/s以下、より好ましくは50mm2/s以下、さらに好ましくは30mm2/s以下、特に好ましくは25mm2/s以下、最も好ましくは20mm2/s以下である。一方、当該40℃の動粘度は、好ましくは6.0mm2/s以上、より好ましくは8.0mm2/s以上、さらに好ましくは12mm2/s以上、特に好ましくは14mm2/s以上、最も好ましくは15mm2/s以上である。基油(A)の40℃の動粘度が80mm2/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、6.0mm2/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0041】
基油(A)の粘度指数は特に制限はないが、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは125以上、特に好ましくは130以上、最も好ましくは135以上である。また好ましくは180以下、より好ましくは170以下、更に好ましくは160以下、特に好ましくは150以下である。粘度指数が前記下限値未満であると、省燃費性や低温粘度特性が悪化するだけでなく熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が大幅に悪化する傾向にある。
【0042】
基油(A)の15℃における密度(ρ15)は特に制限はないが、式(a)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 ・・・(a)
(式中、kv100は基油(A)の100℃の動粘度(mm2/s)を示す。)
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、基油(A)に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下するおそれがある。
基油(A)の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下、より好ましくは0.850以下、さらに好ましくは0.840以下、特に好ましくは0.830以下である。
【0043】
基油(A)の流動点は特に制限はないが、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下、特に好ましくは−17.5℃以下、最も好ましくは−20℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。
ここで、流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0044】
基油(A)のアニリン点(AP(℃))は特に制限はないが、、式(b)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 ・・・(b)
(式中、kv100は基油(A)の100℃の動粘度(mm2/s)を示す。)
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、基油(A)に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0045】
基油(A)のヨウ素価は特に制限はないが、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下であり、最も好ましくは1以下である。また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点および経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上、特に好ましくは0.05以上である。基油(A)のヨウ素価を7以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。
ここで、ヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0046】
基油(A)における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない基油(A)を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる基油(A)中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。
基油(A)においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましく、10質量ppm以下が更に好ましく、5質量ppm以下が特に好ましい。
【0047】
基油(A)における窒素分の含有量は特に制限はないが、好ましくは7質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。窒素分の含有量が7質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。
ここで、窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0048】
基油(A)の%CAは特に制限はないが、好ましくは5以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下、特に好ましくは0.5以下である。基油(A)の%CAが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、基油(A)の%CAは0であってもよいが、%CAを上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0049】
基油(A)の%CPは特に制限はないが、通常70以上、好ましくは80以上、より好ましくは85以上、更に好ましくは87以上、特に好ましくは90以上である。また、好ましくは99以下、より好ましくは95以下、さらに好ましくは94以下、特に好ましくは93以下である。基油(A)の%CPが上記下限値未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。また、基油(A)の%CPが上記上限値を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0050】
基油(A)の%CNは特に制限はないが、好ましくは30以下、より好ましくは4〜25、更に好ましくは5〜13、特に好ましくは5〜8である。基油(A)の%CNが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、%CNが上記下限値未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0051】
基油(A)における飽和分の含有量は特に制限はないが、基油全量基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下、更により好ましくは21質量%以下である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上させることができる。
【0052】
基油(A)における芳香族分は特に制限はないが、基油全量基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下であり、また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、基油(A)は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0053】
基油(A)の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善し、かつ高い熱伝導性を得る観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以下である。また、基油(A)の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0054】
本発明の潤滑油組成物は、上記基油(A)に、重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSIの比が0.8×104以上である粘度指数向上剤(以下、粘度指数向上剤(B)という)を、特定割合で配合した組成物である。
粘度指数向上剤(B)としては、重量平均分子量ならびに重量平均分子量とPSSIとの比が上記条件を満たすものであれば特に制限されない。具体的には、非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体もしくはその水素化物、ポリイソブチレンもしくはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等のうち、重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSIの比が0.8×104以上のものが挙げられる。粘度指数向上剤(B)としては、非分散型あるいは分散型のいずれであっても良いが、分散型であることがより好ましい。
【0055】
粘度指数向上剤(B)の好ましい例としては、式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の1種または2種以上を、1〜70モル%含有するもの(以下、便宜的に「ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(B)」という。)が挙げられる。式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数16以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基を示す。
ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(B)は、非分散型あるいは分散型のいずれであっても良いが、分散型であることがより好ましい。
【化1】

【0056】
式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数16以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基であり、好ましくは炭素数18以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数20以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数20以上の分枝状の炭化水素基である。また、R2の炭素数の上限は特に制限されないが、通常炭素数100以下、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは25以下である。
【0057】
ポリメタ(アクリレート)系粘度指数向上剤(B)において、ポリマー中の式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合は、好ましくは1〜70モル%、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、一層好ましくは40モル%以下であり、特に好ましくは30モル%以下である。また、好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上、特に好ましくは10モル%以上である。70モル%を超える場合は粘度温度特性の向上効果、低温粘度特性および潤滑油基油への溶解性に劣るおそれがあり、0.5モル%を下回る場合は粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。
【0058】
ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(B)は、式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位以外に任意の(メタ)アクリレート構造単位もしくは任意のオレフィン等に由来する構造単位を含むことができる。
ポリメタ(アクリレート)系粘度指数向上剤(B)の好ましい態様としては、式(2)で表されるモノマー(以下、モノマー(M−1)という)の1種または2種以上と、モノマー(M−1)以外のモノマーとを共重合させて得られる共重合体が挙げられる。
【0059】
【化2】

式(2)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数16以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基を示す。
【0060】
モノマー(M−1)と組み合わせるモノマーは任意であるが、例えば、式(3)で表されるモノマー(以下、モノマー(M−2)という。)が好適である。モノマー(M−1)とモノマー(M−2)との共重合体は、いわゆる非分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である。
【0061】
【化3】

式(3)中、R3は水素原子またはメチル基を示し、R4は炭素数1〜15の直鎖状または分枝状の炭化水素基を示す。
【0062】
モノマー(M−1)と組み合わせるその他のモノマーとしては、式(4)で表されるモノマー(以下、モノマー(M−3)という。)および式(5)で表されるモノマー(以下、モノマー(M−4)という)から選ばれる1種または2種以上が好適である。モノマー(M−1)とモノマー(M−3)および/または(M−4)との共重合体は、いわゆる分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である。なお、当該分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤は、構成モノマーとしてモノマー(M−2)をさらに含んでいてもよい。
【0063】
【化4】

式(4)中、R5は水素原子またはメチル基を示し、R6は炭素数1〜18のアルキレン基を示し、E1は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基または複素環残基を示し、aは0または1を示す。
式(5)中、R7は水素原子またはメチル基を示し、E2は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基または複素環残基を示す。
【0064】
式(4)中のR6で表される炭素数1〜18のアルキレン基としては、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、またはオクタデシレン基(これらアルキレン基は直鎖状でも分枝状でもよい)が例示できる。
【0065】
式(4)中のE1で表される基または式(5)中のE2で表される基としては、それぞれ独立に、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、またはピラジノ基が例示できる。
【0066】
モノマー(M−3)、(M−4)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドンまたはこれらの混合物が例示できる。
【0067】
モノマー(M−1)とモノマー(M−2)〜(M−4)との共重合体の共重合モル比については特に制限はないが、モノマー(M−1):モノマー(M−2)〜(M−4)=0.5:99.5〜70:30程度が好ましく、より好ましくは5:95〜50:50、さらに好ましくは10:90〜40:60である。
【0068】
粘度指数向上剤(B)の製造法は任意であるが、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(B)は、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマー(M−1)とモノマー(M−2)〜(M−4)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0069】
粘度指数向上剤(B)のPSSIは特に制限されないが、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは25以下である。また、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上、特に好ましくは20以上である。PSSIが40を超える場合にはせん断安定性が悪くなるおそれがある。また、PSSIが5未満の場合には粘度指数向上効果が小さく、省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがある。
【0070】
ここで、PSSIとは、ASTM D 6022−01(Standard Practice for Calculation of Permanent Shear Stability Index)に準拠し、ASTM D 6278−02(Test Method for Shear Stability of Polymer Containing Fluids Using a European Diesel Injector Apparatus)により測定されたデータに基づき計算された、ポリマーの永久せん断安定性指数(Permanent Shear Stability Index)を意味する。
【0071】
粘度指数向上剤(B)の重量平均分子量(MW)は、1万以上であることが必要であり、より好ましくは5万以上、さらに好ましくは10万以上、特に好ましくは15万以上、最も好ましくは20万以上である。また、100万以下であることが好ましく、より好ましくは70万以下であり、さらに好ましくは60万以下であり、特に好ましくは50万以下である。重量平均分子量が1万未満の場合には粘度指数向上効果が小さく省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が100万を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0072】
粘度指数向上剤(B)の重量平均分子量と数平均分子量の比(MW/Mn)は特に制限されないが、好ましくは0.5〜5.0、より好ましくは1.0〜3.5、更に好ましくは1.5〜3、特に好ましくは1.7〜2.5である。重量平均分子量と数平均分子量の比が0.5未満もしくは5.0を超えると、基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるだけでなく、粘度温度特性が悪化し、省燃費性が悪化するおそれがある。
【0073】
粘度指数向上剤(B)の重量平均分子量とPSSIの比(MW/PSSI)は0.8×104以上であることが必要であり、好ましくは1.0×104以上、より好ましくは2×104以上、さらに好ましくは2.5×104以上である。MW/PSSIが0.8×104未満の場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
【0074】
本発明の潤滑油組成物において、粘度指数向上剤(B)の含有割合は、組成物全量基準で、0.1〜50質量%であることが必要であり、好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上、最も好ましくは5質量%以上である。また、好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。粘度指数向上剤(B)の含有割合が0.1質量%より少なくなると、粘度指数向上効果や製品粘度の低減効果が小さくなることから、省燃費性の向上が図れなくなるおそれがある。また、50質量%よりも多くなると、製品コストが大幅に上昇すると共に、基油粘度を低下させる必要が出てくることから、高温高せん断条件等の厳しい潤滑条件における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合の発生原因となることが懸念される。
【0075】
本発明の潤滑油組成物には、前記粘度指数向上剤(B)のほか、例えば、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体またはポリアルキルスチレン等の粘度指数向上剤をさらに含有してもよい。
【0076】
本発明の潤滑油組成物においては、省燃費性能を更に高めるために、有機モリブデン化合物および無灰摩擦調整剤から選ばれる摩擦調整剤を含有させることができる。
有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物が挙げられる。
これら以外の硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン;オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデンが挙げられる。
硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステルが挙げられる。
【0077】
有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物も用いることができる。
硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0078】
本発明の潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下、特に好ましくは0.03質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0079】
前記無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜50のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜50の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、アミド化合物、イミド化合物、エステル化合物が挙げられる。更には脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系摩擦調整剤等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0080】
本発明の潤滑油組成物において無灰摩擦調整剤を用いる場合、無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また3質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0081】
本発明においては、有機モリブデン化合物または無灰摩擦調整剤のいずれか一方のみを用いてもよく、両者を併用してもよいが、より長期間にわたって摩擦低減効果を維持できることから無灰摩擦調整剤を用いることがより好ましい。
【0082】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤を挙げることができる。
【0083】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネートまたはアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩、塩基正塩または過塩基性塩が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましく用いられる。
【0084】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0085】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、フェノール系無灰酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)が、アミン系無灰酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンが挙げられる。
【0086】
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤が使用できる。具体的には、例えば、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0087】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステルが挙げられる。
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマーが使用できる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
【0088】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が0.1〜100mm2/s未満のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコールが挙げられる。
【0089】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は組成物全量基準で、好ましくは0.01〜10質量%である。
【0090】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、3〜15mm2/sであることが必要であり、好ましくは12mm2/s以下、より好ましくは9.3mm2/s以下、さらに好ましくは8.5mm2/s以下、特に好ましくは7.8mm2/s以下、最も好ましくは7.6mm2/s以下である。また、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは4mm2/s以上、より好ましくは5mm2/s以上、さらに好ましくは6mm2/s以上、特に好ましくは7mm2/s以上である。100℃における動粘度が3mm2/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、15mm2/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0091】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は特に制限はないが、通常4〜80mm2/s、好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは45mm2/s以下、更に好ましくは40mm2/s以下、特に好ましくは35mm2/s以下、最も好ましくは33mm2/s以下である。また、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上、さらに好ましくは25mm2/s以上、特に好ましくは27mm2/s以上である。40℃における動粘度が4mm2/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、80mm2/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0092】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は特に制限はないが、140〜300の範囲であることが好ましく、より好ましくは190以上、さらに好ましくは200以上、一層好ましくは210以上、特に好ましくは215以上である。該粘度指数が140未満の場合には、HTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらに−35℃における低温粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、該粘度指数が300を超える場合には、低温流動性が悪化し、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0093】
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は特に制限はないが、好ましくは3.5mPa・s以下、より好ましくは3.0mPa・s以下、さらに好ましくは2.8mPa・s以下、特に好ましくは2.7mPa・s以下である。また、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは2.1mPa・s以上、さらに好ましくは2.2mPa・s以上、特に好ましくは2.3mPa・s以上、最も好ましくは2.4mPa・s以上である。
ここで、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を意味する。150℃におけるHTHS粘度が2.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、3.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0094】
本発明の潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は特に制限はないが、好ましくは5.3mPa・s以下、より好ましくは5.2mPa・s以下、さらに好ましくは5.1mPa・s以下、特に好ましくは5.0mPa・s以下である。また、好ましくは3.5mPa・s以上、更に好ましくは3.8mPa・s以上、特に好ましくは4.0mPa・s以上、最も好ましくは4.2mPa・s以上である。
ここで、100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を意味する。100℃におけるHTHS粘度が3.5mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、5.3mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0095】
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比(150℃におけるHTHS粘度/100℃におけるHTHS粘度)は、0.50以上であることが必要であり、より好ましくは0.51以上、さらに好ましくは0.52以上、特に好ましくは0.53以上、最も好ましくは0.54以上である。当該比が0.50未満であると、必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0096】
本発明の潤滑油組成物は、省燃費性、潤滑性および高温清浄性に優れ、ポリ−α−オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いない場合であっても、HTHS粘度を一定レベルに維持しながら、燃費向上にとって効果的である、潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃のHTHS粘度を著しく低減させたものである。このような優れた特性を有する本発明の潤滑油組成物は、省燃費ガソリンエンジン油、省燃費ディーゼルエンジン油等の省燃費エンジン油として好適に使用することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1〜4、比較例1〜5
実施例1〜4および比較例1〜5においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて表2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製し、以下に示す評価を行った。また、基油1、2、3の性状を表1に示す。
(基油)
基油1:n−パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した鉱油
基油2:水素化分解基油
基油3:水素化分解基油
(添加剤)
A−1(粘度指数向上剤):PSSI=20、Mw=40万、Mw/PSSI=2×104のポリメタクリレート(メチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートおよび、上述の式(2)中のR2が炭素数12〜20のアルキル基であるメタクリレートを合計して90モル%と、式(2)中のR2が炭素数22の分岐鎖状アルキル基であるメタクリレートを10モル%とを重合させて得られる分散型ポリメタアクリレート系添加剤)
A−2(粘度指数向上剤):PSSI=40、Mw=30万、Mw/PSSI=0.75×104のポリメタクリレート(メチルメタクリレート、上述の式(3)中のR4が炭素数12の直鎖状アルキル基であるメタクリレート、式(3)中のR4が炭素数13の直鎖状アルキル基であるメタクリレート、式(3)中のR4が炭素数14の直鎖状アルキル基であるメタクリレート、式(3)中のR4が炭素数15の直鎖状アルキル基であるメタアクリレート、およびジメチルアミノエチルメタクリレートを主構成単位とする分散型ポリメタアクリレート系添加剤)
B−1(摩擦調整剤1):グリセリンモノオレエート
B−2(摩擦調整剤2):オレイルウレア
B−3(摩擦調整剤3):モリブデンジチオカーバメート
C−1(その他添加剤):金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、リン系摩耗防止剤、流動点降下剤、消泡剤等含有
【0098】
【表1】

【0099】
<潤滑油組成物の評価>
実施例1〜4および比較例1〜5の各潤滑油組成物について、40℃および100℃における動粘度、粘度指数、100℃および150℃におけるHTHS粘度、−35℃におけるCCS粘度ならびにパネルコーキング試験におけるデポジット量を測定した。各測定は以下の評価方法により行った。結果を表2に示す。
(1)動粘度:ASTM D−445
(2)粘度指数:JIS K 2283−1993
(3)HTHS粘度:ASTM D4683
(4)CCS粘度:ASTM D5293
(5)清浄性試験:パネルコーキング試験機を用い、油温100℃、パネル温度280℃、はねかけ時間3時間、ON/OFFサイクル=15s/45s、の条件にて試験した後の、パネルに付着したデポジット量(mg)を測定した。
【0100】
【表2】

【0101】
表2より、100℃動粘度1〜5mm2/s未満の低粘度基油及び100℃動粘度5〜200mm2/sの高粘度基油を配合し、所定の粘度指数向上剤を添加した実施例1〜4の組成物は、粘度温度特性、低温粘度特性および高温清浄性ともに優れていた。これに対し、100℃動粘度5〜200mm2/sの高粘度基油を配合しない比較例1及び2の組成物は高温清浄性が劣った。また、100℃動粘度5〜200mm2/sの高粘度基油の配合割合が大きすぎる比較例3の組成物は粘度指数が低く、粘度温度特性や低温粘度特性に劣った。またMw/PSSI比が条件を満たさない粘度指数向上剤(A−2)を用いた比較例4及び5の組成物は粘度指数が低く粘度温度特性に劣ることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)100℃における動粘度が1〜5mm2/s未満である潤滑油基油を基油全量基準で50〜99.9質量%、および100℃における動粘度が5〜200mm2/sである潤滑油基油を基油全量基準で0.1〜50質量%、からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、(B)重量平均分子量が1万以上であり、重量平均分子量とPSSIの比が0.8×104以上である粘度指数向上剤を0.1〜50質量%配合した、組成物の100℃における動粘度が3〜15mm2/s、かつ、150℃ HTHS粘度と100℃ HTHS粘度の比が0.50以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
150℃におけるHTHS粘度が2.6以上であり、100℃におけるHTHS粘度が5.3以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2010−31082(P2010−31082A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192165(P2008−192165)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】