説明

潤滑油組成物

【課題】本発明は、低粘度でありながら、油膜強度が高いため、摩擦低減効果と同時に優れた耐荷重性や耐摩耗性を有する潤滑油組成物の提供。
【解決手段】API基油カテゴリーで規定しているグループ1、グループ2、グループ3の精製鉱油およびグループ4のポリアルファオレフィンなどの単独ないしそれらの混合基油、さらにはこれらの基油にグループ5から選ばれた基油を混合したものから選ばれた混合基油に、硫黄を分子中に持った有機化合物とからなり、特性値として100℃の動粘度が2〜30mm/s、粘度指数が95〜200、シェル4球耐荷重試験(ASTM D2783法)の初期焼付き荷重(ISL)が1260(N)以上の油膜強度を示すことを特徴とする潤滑油組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度でありながら、油膜強度が高いため、摩擦低減効果と同時に優れた耐荷重性や耐摩耗性を有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に耐摩耗性を上げるためには、耐摩耗剤が添加されるが、その結果、副作用として耐荷重性が低下することがある。また耐荷重性を上げると、その副作用として今度は、耐摩耗性が低下しやすく、この2つのファクター即ち耐摩耗性と耐荷重性の双方を同時に満足させることは難しかった。
【0003】
近年、地球環境保護の気運が高まり、自動車の省燃費性や産業分野での省電力性がより一層要求されてきている。そのために、潤滑油に求められる性能もより高度なものとなっている。特に潤滑油の低粘度化は粘性抵抗低減による省燃費化・省電力化の有効な手段の一つである。潤滑油を低粘度化するには低粘度の基油を用いることが有効な方法である。
【0004】
しかしながら、単純な低粘度化は耐摩耗性や耐荷重性の低下や金属疲労性を悪化させるため、合成基油の適用や粘度指数の向上方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、例えば特許文献1の方法では耐金属疲労性の改善効果が十分でなく、さらなる改良が必要であった。しかし、これらの弊害として、耐摩耗剤と極圧剤を同時に添加すると潤滑油として安定度が悪くなり、熱安定性や酸化安定性が低下することが知られている。また軸受寿命の低下、腐食やさび、あるいは水分離性不良などの色々のトラブルの原因となることがある。また合成潤滑油は、酸化安定性などに優れるがコストが上がるため、利用する用途が限定されている。特に、極圧剤による腐食を防止するために、腐食防止剤が使用されることが、多いが(特許文献2および3参照)、摺動条件が厳しくなると、腐食防止剤による耐摩耗剤や極圧剤の吸着阻害が起きて、十分な潤滑性が得られないこともあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−010799号公報
【特許文献2】特開2006−117720号公報
【特許文献3】特表2009−533493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような別の方法で、耐摩耗性や耐荷重性を上げるには、使用する基油の動粘度を上げることである。この手法は、摺動する表面上に、油膜厚さの厚い潤滑膜を形成することで摩耗や焼き付きが抑えられるので、厳しい運転条件の機器には粘度番手の高い潤滑油が使用することが行われて来た。しかし、近年は、化石資源の枯渇や地球温暖化など、省資源や省エネルギーの取組みが進んできており、使用される潤滑油の粘度は低粘度化している。例えば、ディーゼルエンジンオイルでは、30年程前では、30番のシングルや10W/30のマルチグレードが普及していたが、現在では5W/30や5W/40が中心となり、ガソリンエンジン油では、0W/20が中心に据えられるようになって来ている。このような低粘度化の流れの中で潤滑性を上げるために粘度を上げることは難しい状況にあり、新たな方法の実現が渇望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、API基油カテゴリーで規定しているグループ1、グループ2、グループ3の精製鉱油およびグループ4のポリアルファオレフィンなどの単独ないしそれらの混合基油、さらにはこれらの基油にグループ5から選ばれた基油を混合したものから選ばれた混合基油に、硫黄を分子中に持った有機化合物とからなり、特性値として100℃の動粘度が2〜30mm/s、粘度指数が95〜200、シェル4球耐荷重試験(ASTM D2783法)の初期焼付き荷重(ISL)が1260(N)以上の油膜強度を示すことを特徴とする潤滑油組成物に関する。
本発明の第2は、前記特性値として、更に180℃、24時間の銅板腐食試験の腐食減量が、0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物に関する。
本発明の第3は、前記特性値として、更に硫化膜強度指数(シェル4球のASTM2783試験の初期焼付き荷重(ISL)を前記腐食減量で除した値)が、13、000以上であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物に関する。
本発明の第4は、前記硫黄を分子中に持った有機化合物が、チオール化合物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物に関する。
本発明の第5は、前記チオール化合物が、炭素数8〜18のアルキル基および/またはアルケニル基を持ち、チオール基の数は1で、当該化合物の末端に結合しており、0.05〜5質量%を含有することを特徴とする請求項4に記載の潤滑油組成物に関する。
本発明の第6は、自動車用の潤滑油(エンジン油、ATF、CVT−F、ギヤ油)、工業用潤滑油(油圧作動油、圧縮機油、タービン油、ギヤ油や軸受油)および建機や農機などのトラクター油や湿式ブレーキ油などに適用される請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、油膜強度を上げることで、基油粘度を増加させる必要も無く、また活性な添加剤を使用すること無しにシェル4球試験での耐荷重性能、耐摩耗性や金属疲労特性を改善できる。中度の耐摩耗性や耐荷重性が要求される工業潤滑油や自動車潤滑油に潤滑性を付与すると共に、副作用が無く低粘度化が行えるため、省エネルギー型潤滑油として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はストライベック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明者らは、各種化合物の耐荷重性を検討した結果、分子中に硫黄を持った有機化合物が鉱油に溶けて、油膜強度を上げ、かつ引火点も下がり過ぎないことを見出した。中でもモノチオール化合物、特に炭素数20以上のモノチオールは鉱油に溶けにくく、一方で炭素数が6以下では、油膜強度が低かったり、あるいは引火点が低くなるため炭素数が8〜18のアルキル基および/またはアルケニル基のものが、鉱油に溶けて、油膜強度を上げ、かつ引火点も下がり過ぎない作用効果を発現することを見出した。
潤滑の摺動条件を見る場合、ストライベック線図が良く使用される。これは、横軸にηN/P(η:潤滑油の粘度、N:回転数、P:荷重、C:定数)を取り、縦軸に摩擦係数μを取ると、μ=CηN/Pの関係があり、図1に示すような線図が得られる。これは、流体潤滑、弾性流体潤滑、混合潤滑および境界潤滑の各領域を示している。なお、この線図には、添加剤による吸着、添加剤による反応被膜などの寄与は全く考慮されていない。例えば、この線図で、ηを下げていくと流体抵抗が減るために摩擦係数は徐々に低下して行くが、摺動する2面間の厚さ、すなわち2面の合成表面粗さレベルでは、弾性流体潤滑領域に入ってくるが、ここで添加剤による物理吸着および化学吸着があると、吸着膜などによる擬似流体潤滑領域が継続され、例えば、低粘度化による基油の油膜厚さが薄くなり、本来は金属接触が起る厳しい摺動条件下でも、金属接触を防止できるのである。そして、この能力は、添加剤の吸着強度によって変り、吸着強度の強い場合は、金属表面に強い結合を生成するため、あたかも高粘度基油による厚い油膜に相当することになる。
発明者らは、硫黄含有有機化合物が、この特殊な油膜を形成し、普通の添加剤では実現できない、油膜強度の大きい、焼き付き性に優れた性能を示すことを見出した。さらに、通常添加される硫黄化合物は、金属に腐食を起こさせるため、特に銅系材料には適さなかったが、硫黄含有の有機化合物であるチオールを用いて、著名なシェル4球焼付き試験の初期焼付き荷重と高温での銅の腐食減量に着目し、初期焼付き荷重を腐食減量で除した値(硫化膜強度指数)が13,000以上の配合の場合、低粘度化において優れた耐焼付き性と耐腐食性を示すことを見出したのである。
一方、ジチオール化合物は、鉱油や合成油に溶解しにくいため、潤滑油として利用が制限されることもわかった。またチオール基の位置は、基本的にどの位置でも構わないが、市場で入手できるのは末端に付いたモノチオール化合物が入手しやすい。
ギヤ油や圧延油など、非常に厳しい耐荷重性が要求される分野では、潤滑油を開発する場合は、シェル4球試験では初期焼付き荷重(ISL)ではなく、一般に溶着荷重(Welding Load)が評価の基準となる。これは、活性の高い硫黄化合物の場合は、初期焼付きで、摺動表面で、微小焼付きが生じて摺動表面の温度が上昇することで、近傍の硫黄化合物が、熱分解して金属と反応して硫化金属、例えば硫化鉄を生成することで、焼付きを防いでいる。
しかし、それほど耐荷重性が要求されない潤滑油では、例えば、自動車用の潤滑油では、ATF、CVT−F、エンジンオイル、また工業用の潤滑油では、作動油、圧縮機油、ギヤ油、タービン油や軸受油などは、溶着荷重を上げる必要がなく、活性の低い、添加剤が使用されている。したがって、初期焼付きが低い場合は、表面の温度上昇を止める手立てが無くなり、急激に完全溶着に進むため、危険が指摘されているが、初期焼付き荷重を上げる方法は、粘度を上げる以外に方法は無かった。このような、状況に発明者らは着目して、初期焼付き荷重を上げながら、硫黄添加剤による阻害作用である腐食を防止する手段を見出すに至ったのである。すなわち硫黄化合物の場合、良く問題となるのは、使用環境によっては、例えば温度の高い環境で使用されたり、あるいは、非常に高負荷の条件での運転などで、バルクの油温が上がったりすると、激しい腐食摩耗を起こしたり、金属表面に金属硫化物を作ることが問題であった。しかし発明者らは、検討した結果、180℃で24時間の銅板腐食を行って、銅板の重量減少が0.1%以下であれば、耐荷重性、耐摩耗性そして腐食摩耗の少ない潤滑組成物を処方できることを見出した。
さらに、シェル4球試験の初期焼き付き荷重ISLを上記の腐食摩耗減量で除することで、出来るだけISLが高く、同時に金属腐食を減らすことが望ましいことから、この除して得られる値を硫化膜強度指数として定義することによってより明確に、ISLと耐腐食性を向上させる数値とできることがわかった。発明者は、さらにこの数値を検討した結果、13,000以上が、好ましく、さらに好ましくは15,000以上、最も好ましくは20,000以上であることを見出した。
【0011】
本発明の潤滑油組成物における基油には、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油、またはこれらの混合物を使用することができ、特に、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3およびグループ4に属する基油を単独または混合物として、さらにはこれらの基油から選ばれた基油を混合して使用することができる。
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。粘度指数は80〜120未満、好ましくは95〜110がよい。100℃における動粘度は、好ましくは2〜32mm/s、より好ましくは3〜24mm/sである。また全硫黄分は1.5質量%未満、好ましくは1.0質量%未満がよい。全窒素分も50ppm未満、好ましくは25ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは90〜120℃のものを使用するのがよい。
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全硫黄分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明において好適に用いることができる。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は80〜120未満、好ましくは100〜120がよい。100℃における動粘度は、好ましくは2〜32mm/s、より好ましくは3〜24mm/sである。また全硫黄分は300ppm未満、好ましくは500ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用するのがよい。
グループ3基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)ワックスおよび脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は120以上、好ましくは100〜140がよい。100℃における動粘度は、好ましくは2〜32mm/s、より好ましくは3〜24mm/sである。また全硫黄分は、100ppm未満、好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するのがよい。
グループ4基油としては、ポリオレフィンが挙げられる。該ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物、またはこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にポリ−α−オレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンが好適である。これら合成基油の粘度は特に制限されないが、100℃における動粘度は、好ましくは2〜32mm/s、より好ましくは3〜24mm/sである。
グループ5基油は、エステルやグループ1〜4に属さない基油である。
上記各基油の代表性状を表1に示す。
【0012】
《基油の種類と性状》
【表1】

【0013】
(硫黄含有有機化合物)
本発明に使用される硫黄含有有機化合物には、炭化水素硫化物および硫化油脂の中から選ばれる1種以上であり、炭化水素硫化物には、代表的には、硫化油脂は、油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂を使用し、これを硫化反応して得られるものである。この反応生成物は、単一のものではなく、種々の物質の混合物であり、化学構造そのものは明確ではない。
また分子内に、チオール基(−SH)を含んだ炭化水素化合物式(1)はチオール化合物として良く知られている。
式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数6〜20、nは1あるいは2である。)
炭化水素にチオール基が付いた化合物であるが、途中のハイドロカルビル基に置換基としてアミン、ケトン、カルボン酸などが付いた構造の化合物でも同様に使用できる。またチオール基を複数有するジチオール化合物もあるが、市場での入手は困難であった。また本発明で使用したモノチオールは末端にチオールが付いている。なおモノチオール化合物の中でも、炭素数が20を超えるモノチオールは鉱油に溶けにくく、一方で炭素数が6未満では、硫化膜強度指数が低かったり、あるいは引火点が低くなるため炭素数が8〜18のアルキル基あるいはアルケニル基のものが、鉱油に溶けて、硫化膜強度指数を上げ、かつ引火点も下がり過ぎないことから好適である。一方、ジチオール化合物は、鉱油や合成油に溶解しにくいため、潤滑油として利用は適さないが、分散タイプの潤滑剤やグリースなどの分野であれば利用可能である。またチオール基の位置は、基本的にどの位置でも構わないが、市場で入手できるのは末端に付いたモノチオール化合物が入手しやすい。
以上の各種の硫黄化合物の中でも、特にチオール化合物が、活性も穏やかで、副作用が少なく本発明の成分として好ましい。チオール化合物の配合割合は、0.05〜5質量%とする。0.05質量%未満であると充分な極圧性が得られないことがあり、5質量%より多くても所望の初期焼付きの効果が、上がらないことがある。
【0014】
本発明の潤滑油組成物は、上記の硫黄化合物に加えて、自動車用の潤滑油および工業用の潤滑油として、清浄性を上げる金属清浄剤として、例えば、分子内にアルカリ土類金属またはアルカリ金属を有する、サリシレート、カルボキシレート、スルホネート、フェネートまたはフォスフォネートが挙げられる。具体的には、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、アルキル等の置換基を有するナフテン酸またはフタール酸のアルカリ土類金属塩、石油スルホン酸またはアルキルベンゼンやアルキルナフタレンのスルホン酸のアルカリ土類金属塩、硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩、または炭化水素基を有するチオフォスフォン酸やフォスフォン酸のアルカリ土類金属塩が挙げられ、また、アルカリ金属のサリシレート、カルボキシレート、スルホネート、フェネートまたはフォスフォネートも挙げられる。
特に最近では、アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤としてはカルシウムサリシレート系清浄剤、マグネシウムサリシレート系清浄剤またはこれらの混合物が好適に使用される。また保持するアルカリ価の違いで、中性アルカリ土類金属サリシレートまたは過塩基性アルカリ土類金属サリシレートに分類できる。ここでいう中性アルカリ土類金属サリシレートとは、炭化水素基置換サリチル酸を当量のアルカリ土類金属水酸化物で中和した塩をいい、式(2)で表されるものが挙げられる。
【0015】
式(2)
【化2】

式中、Rは炭素数12〜30、好ましくは14〜18のアルキル基などの炭化水素基を、Mはカルシウムまたはマグネシウムを示す。また過塩基性アルカリ土類金属サリシレートとは、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩やホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属ホウ酸塩によって中性アルカリ土類金属サリシレートを過塩基化することによって得られるものである。この成分の塩基価(JIS K 2501過塩素酸法)に特に制限はないが、60〜350mgKOH/g、好ましくは150〜350mgKOH/gであることが望ましい。金属清浄剤の配合割合は、組成物全量基準で、通常0.1〜10質量%である。
【0016】
無灰分散剤としては、ホウ素を含まないビスタイプコハク酸イミド系無灰分散剤としては、イミド化に際してポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(3)で表されるビスタイプコハク酸イミドが挙げられる。また、ホウ素変性コハク酸イミド系無灰分散剤としては、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加したモノタイプコハク酸イミドおよび/またはポリアミンの両端に無水コハク酸が付加したビスタイプコハク酸イミドを、ホウ素変性させたコハク酸イミドが挙げられる。
式(3)
【化3】

式(3)および式(6)中、R、Rは、それぞれ独立に炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350の、直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を示す。aは1〜10、好ましくは2〜5の整数を示す。
ホウ素を含まないビスタイプコハク酸イミド系無灰分散剤およびホウ素変性コハク酸イミド系無灰分散剤は摩耗防止性の向上の面で、そのアルキル基またはアルケニル基の数平均分子量は500〜5600が好ましく、800〜4900がより好ましい。このために、上記式(3)中のR、Rのアルキル基またはアルケニル基は、その炭素数が上記重量平均分子量の範囲になるように選定することが好ましい。
上記コハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸またはアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。ホウ素変性コハク酸イミド系無灰分散剤は、式(3)で示されるコハク酸イミドに、ホウ酸、ホウ酸塩またはホウ酸エステル等のホウ素化合物を作用させることにより得ることができる。ホウ酸としては、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸またはテトラホウ酸が挙げられる。
窒素/ホウ素(N/B)質量比2〜4のホウ素変成コハク酸イミドと、N/B質量比0.5〜1.5のホウ素変成コハク酸イミドとの混合物が好ましい。このような混合物として配合する場合のホウ素変成コハク酸イミドの含有割合は、組成物全量基準で0.5〜4質量%が好ましい。一方、ホウ素変成コハク酸イミドの含有割合は、組成物全量基準で0.5〜6質量%が好ましい。
本発明において、ホウ素を含まないビスタイプコハク酸イミド系無灰分散剤の含有割合は、摩耗防止性を向上させるために、組成物全量基準で1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%、より好ましくは1〜3質量%であり、さらに詳しくは、窒素含有量基準での含有割合は、0.01〜0.2質量%、好ましくは0.02〜0.1質量%、より好ましくは0.03〜0.06質量%である。
本発明において、ホウ素変性ビスタイプコハク酸イミド系無灰分散剤の含有割合は、摩耗防止性を向上させるために、組成物全量基準で2〜10質量%、好ましくは3〜8質量%、より好ましくは4〜7質量%であり、さらに詳しくは、窒素含有量基準での含有割合は、0.03〜0.15質量%、好ましくは0.05〜0.12質量%、より好ましくは0.07〜0.11質量%である。
【0017】
本発明で使用されるリン系極圧剤は、リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸エステル、ジチオリン酸エステルなどであり、具体的には、リン酸モノオクチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリオクチル、亜リン酸ジオクチル、亜リン酸トリオクチル、チオリン酸ジオクチル、チオリン酸トリオクチル、リン酸ジデシル、亜リン酸ジデシル、リン酸ジドデシル、リン酸トリドデシル、亜リン酸ジドデシル、亜リン酸トリドデシル、チオリン酸トリドデシル、リン酸トリヘキサドデシル、亜リン酸トリヘキサドデシル、チオリン酸トリヘキサドデシル、リン酸トリオクタデセニル、亜リン酸トリオクタデセニル、チオリン酸トリオクタデセニル、リン酸トリ(オクチルフェニル)、リン酸トリ(オクチルシクロヘキシル)、ジチオリン酸トリデシル、酸性リン酸エステル、酸性チオリン酸エステル、酸性ジチオリン酸エステルなどが挙げられる。更に、上記化合物のうち、部分エステルになっているもののアルキルアミン塩等も挙げられる。これらのリン系極圧剤は、単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
また本発明の潤滑油には、耐摩耗剤兼酸化防止剤としてジチオリン酸亜鉛を使用することができる。
ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、式(4)で表されるものが挙げられる。
式(4)
【化4】

(式中、R、R10、R11およびR12は、炭化水素基である)
式(4)において、R〜R12の炭化水素基は、セカンダリータイプ、プライマリータイプ等の飽和または不飽和脂肪族炭化水素基、アリールタイプ等の芳香族炭化水素基等のいずれの炭化水素基であってもよく、それらの混合物であってもよい。また、式(4)において、R〜R12の炭化水素基は、セカンダリータイプ、プライマリータイプ、アリールタイプが混合して結合したものでもよい。式(4)のジアルキルジチオリン酸亜鉛の好ましいものは、R〜R12の炭化水素基のうちプライマリータイプの脂肪族炭化水素基の割合が50%以上のものであり、より好ましくは60%以上のものである。残りの炭化水素基はセカンダリータイプ、アリールタイプなどいずれの炭化水素基であってもよく、それらの混合物であってもよい。これらの炭化水素基の炭素数は、2〜20が好ましく、さらに好ましくは2〜10である。
ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。またエンジン油組成物においては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は、自動車に装着される排気ガス触媒がジアルキルジチオリン酸亜鉛のリン分により被毒されるため、リン量で800ppm以下にすることが好ましく、さらに好ましくは600ppm以下であり、特に好ましくは400ppm以下である。ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有させる場合の含有量の下限値は、特に制限は無いが、耐摩耗性を発現するためには10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましい。
【0019】
本発明の潤滑油組成物には、良く知られた各種の酸化防止剤を配合して、酸化安定性を上げることが出来る。酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンおよびヒンダードフェノール類から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0020】
アルキル化ジフェニルアミンは、例えば以下の式(5)を有するものが挙げられる。
式(5)
【化5】

(式中、R23およびR24は、水素原子、または炭素数1〜16の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基である。)
上記式中のR23およびR24は、好ましくは炭素数3〜9の直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、特に好ましくは水素原子または炭素数4〜8の直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基である。
アルキル基の炭素数が16を越えると油への溶解性が低下することがあるため好ましくない。また、R23およびR24は、同一であっても、異なっても良い。
上記の直鎖または分枝鎖のアルキル基の具体例としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、エチルブチル、n−ヘプチル、2−メチルヘキシル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、3−メチルヘプチル、n−ノニル、メチルオクチル、エチルペプチル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−テトラデシルなどが挙げられる。
アルキル化ジフェニルアミンの好適な具体例としては、例えばジフェニルアミン、ブチルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジブチルジフェニルアミン、オクチルブチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミンなどが挙げられる。アルキル化ジフェニルアミンは、1種単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
アルキル化ジフェニルアミンの含有割合は、好ましくは0.05〜2質量%であり、より好ましくは0.1〜1.5質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。含有割合が0.05質量%未満であると十分な酸化防止能が得られないことがあり、2質量%を越えると効果が飽和し、経済的に不利になるため好ましくない。
【0021】
アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンとしては、式(6)で表される構造を有するものが挙げられる。
式(6)
【化6】

(式中、R25は、炭素数1〜16の直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、好ましくは炭素数4〜8の直鎖または分枝鎖のアルキル基である。)
25の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、エチルブチル、n−ヘプチル、2−メチルヘキシル、n−オクチル、イソオクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、3−メチルヘプチル、n−ノニル、イソノニル、1−メチルオクチル、エチルヘプチル、n−デシル、1−メチルノニル、n−ウンデシル、1,1−ジメチルノニル、n−ドデシル、n−テトラデシルなどが挙げられる。
上記アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンの具体例としては、n−ペンチル化フェニル−α−ナフチルアミン、2−メチルブチル化フェニル−α−ナフチルアミン、2−エチルヘキシル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−オクチル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−ノニル化フェニル−α−ナフチルアミン、1−メチルオクチル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−ウンデシル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−ドデシル化フェニル−α−ナフチルアミンが挙げられる。
アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンは、1種単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンの含有割合は、好ましくは0.05〜2質量%であり、より好ましくは0.1〜1.5質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。含有割合が0.05質量%未満であると十分な酸化防止能が得られないことがあり、2質量%を越えると効果が飽和し、経済的に不利になるため好ましくない。
【0022】
ヒンダードフェノール類としては、式(7)、(8)および(9)で表される構造を有するものが好ましい。
式(7)
【化7】

式(8)
【化8】

式(9)
【化9】

上記式(7)における、R26、R27、R29およびR30は、それぞれ水素原子または炭素数1〜12の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を示す。好ましくは、水素原子または炭素数4〜8の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基である。R26、R27、R29およびR30は、同一であっても、異なっても良い。
また、R28は、炭素数1〜5のアルキレン基であり、好ましくは、炭素数1〜4のアルキレン基である。
上記式(8)におけるR31およびR32は、それぞれ水素原子または炭素数1〜12の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を示す。好ましくは、水素原子または炭素数4〜8の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基である。R31およびR32は、同一であっても、異なっても良い。
また、nは、1〜4の整数であり、好ましくは、1〜3である。
上記式(9)におけるR33、R34およびR35は、それぞれ水素原子または炭素数1〜12の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を示す。好ましくは、R33およびR34は、水素原子または炭素数4〜8の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基であり、R35は、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基である。R33、R34およびR35は、同一であっても、異なっても良い。
上記のヒンダードフェノール類は、1種単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
ヒンダードフェノール類の含有割合は、好ましくは0.05〜2質量%であり、より好ましくは0.1〜1.5質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。含有割合が0.05質量%未満であると十分な酸化防止能が得られないことがあり、2質量%を越えると効果が飽和し、経済的に不利になるため好ましくない。
【0023】
本発明の潤滑油組成物には必要に応じて、良く知られた各種の防錆剤を使用することが出来る。防錆剤としては、例えば、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキルまたはアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、Ca−石油スルフォネート、Ca−アルキルベンゼンスルフォネート、Ba−アルキルベンゼンスルフォネート、Mg−アルキルベンゼンスルフォネート、Na−アルキルベンゼンスルフォネート、Zn−アルキルベンゼンスルフォネート、Ca−アルキルナフタレンスルフォネートなどの金属スルフォネート、ロジンアミン、N−オレイルザルコシンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が使用可能である。
これら防錆剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜5質量%の範囲であり、0.05〜2質量%の範囲が特に好ましい。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、またはフルオロアルキルエーテルが挙げられる。
抗乳化剤としてアルキルフェノールと酸化エチレンの付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、およびポリオキシエチレンソルビタンエステルなど、摩擦調整剤として脂肪アルコール、脂肪酸(ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸およびその他の脂肪酸もしくはそれらの塩)、アミン、ホウ酸化エステル、その他のエステル、リン酸エステル、三及び二炭化水素亜リン酸エステル以外の亜リン酸エステル、およびホスホン酸エステル各種エステル類、アミン化合物やチオカルボン酸類など、耐摩耗剤としてリン酸エステル化合物やチオリン酸エステル類、粘度指数向上剤として、ポリメタクリレート型重合体、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、水和スチレン−イソプレン共重合体、ポリイソブチレン、および分散型粘度指数向上剤、多機能添加剤として硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノリンジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン−モリブデン錯化合物、および硫黄含有モリブデン錯化合物が必要に応じて当業界では適宜広く使用されている。
これらの添加剤成分は、本発明に好ましく用いることができる成分の幾つかの例である。これら添加剤の例は、本発明を説明するために記されるのであって、本発明を限定しようとするものではない。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例と比較例に関して、得られた興味ある結果を示すが、ここで、供試油の焼き付き性は、ASTM D2783に準拠した試験方法で、実施例と比較例の耐焼付き性を求めた。また、硫黄による銅系金属への腐食傾向を見るために、180℃で24時間、供試油へ浸漬して、銅板の腐食減量を求めたが、その試験の詳細および試験方法を下記に示す。

(銅板腐食減量試験方法)
1.試験の原理:よく磨いた銅板を約30mlの試料に完全に浸し、試験時間24時間、試験温度180℃に保った後、これを取り出し、超音波洗浄によりできるだけ付着物を除去し、試験前と試験後の重量より、腐食減量%を求める。

2.試験機器および試験材料
(1)恒温槽:規定温度に±1℃に保てるもの。
(2)温度計:JIS B 7410に規定する温度計番号62(TOT)/油槽用のもの。
(3)試験容器:ほうけい酸ガラス−1製で高さ150±5mm、外形25±1mmのもの(JIS K 2513 図3参照)。
(4)研磨用保持器:(JIS K 2513 図4参照)
(5)超音波洗浄器:出力200W 発振周波数39kHz

3.触媒その他の試験材料
(1)触媒(銅板):JIS H 3100に規定するC1100Pの厚さ1.5〜3.0mm、幅12.5mm、長さ75mmのもの。
(2)研磨布:JIS R 6251またはJIS R 6252に規定する研磨剤の材質がアルミナ質研磨剤またはガーネット研磨剤で、粒度がP240または#240の研磨布または研磨紙。
(3)研磨剤:JIS R 6111に規定する粒度150番の炭化けい素質研削材
(4)脱脂綿:日本薬局方脱脂綿

4.試薬
(1)洗浄用溶剤:JIS K 9703に規定する2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタン)、または低沸点で腐食性成分を含まない炭化水素系溶剤。

5.試料の採取および調整方法
試験用試料は、JIS K 2251に規定する一次試料採取方法および二次試料採取方法またはそれに準じた方法によって採取・調整する。

6.試験の準備 銅板の研磨は次による。
(1)予備研磨:適当な粒度の研磨紙または研磨布によって銅板全表面のきずを取り除く、次に粒度がP240番の研磨紙又は研磨布によって銅板を磨き上げ、これを洗浄用溶剤に浸して洗浄した後、直ちに仕上げ研磨に移る。もし引き続いて研磨ができない場合には、洗浄用溶剤に浸して保存する。
(2)仕上げ研磨:洗浄用溶剤から銅板を取り出し、ろ紙で挟み、わずかに洗浄用溶剤で湿した脱脂綿に粒度150番の炭化けい素質研削材を付けて、銅板の両端面を磨き、次に両側面を磨く。更に新しい脱脂綿で強くこする。この後は、銅板をステンレス鋼製のピンセットで取り扱い、直接指を触れてはならない。銅板を研磨用保持器に固定し、脱脂綿に粒度150番の炭化けい素質研削剤を付け、銅板の両平面をその長軸の方向に研磨する。更に脱脂綿で強くこすり、新しい脱脂綿に汚れがつかなくなるまで全表面を磨く。磨いた銅板は直ちに重量測定を行い、試料中に入れ、直ちに下記7.に従って試験を行う。

7.試験の手順
試料約30mlを試験管に採り、これに仕上げ研磨後、直ちに重量測定を行った銅板を入れる。試験管の口には、空気孔をあけたコルク栓又は空気孔付き共栓を軽くつけ、試験温度180±1℃の恒温槽に入れ、試験時間24時間±5分間保つ。試験管を恒温槽から取り出し、試験管内の試料と銅板をビーカーに静かに移す。直ちに銅板をステンレス鋼製のピンセットでつまみ出し、新しい試料中に浸した後、洗浄用溶剤に浸して、銅板に付着した試料を洗い落とす。次に適当量の洗浄用溶剤を入れた試験管内に銅板を入れ、超音波洗浄器により15分間洗浄する。この超音波洗浄を5回繰り返す。超音波洗浄終了後の銅板をろ紙で挟み、わずかに洗浄用溶剤で湿らした脱脂綿で強くこすり、新しい脱脂綿に汚れがつかなくなるまで全面をこする。その後、乾いた脱脂綿で銅板全面を軽くふき取り、直ちに重量測定を行う。

8.計算方法 銅板の腐食減量は、次の式によって算出する。

=(W−W)/W×100
ここで、W:腐食減量(mg)
:試験前の銅板重量(mg)
:試験後の銅板重量(mg)
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれによって何らの限定を受けるものではない。そして、以下に示す製法は一例であって必ずしもこれに限るものではない。
【0026】
〔実施例〕
基準油として、パッケージ添加剤の内容を表3に、また実施例などで使用した基油の性状を表2に、比較例と実施例の配合組成表とシェル4球耐荷重試験結果、銅板腐食試験結果を表4と表5に示す。また新たに見出した銅板腐食試験方法の試験条件と測定方法についても参考として記述した。
【0027】
《基油の種類と性状》
実施例と比較例の一部で使用した、各種基油の代表性状を表2に示す。
【表2】

【0028】
《実施例および比較例に使用したパッケージ添加剤の中身》
【表3】

ここで使用したのは、農耕用トラクターの湿式ブレーキに市販されているパッケージ添加剤で、1つの例であり、ギヤ油あるいはディーゼルエンジン油などの添加剤を必要に応じて使用しても、本発明の意図する硫化膜強度の向上は、使用される添加剤で妨げられるものではない。
【0029】
《実施例の配合と特性値》
【表4】

備考
ここで使用したチオール、アルコールおよび硫化オレフィンの性状は下記のとおり。
C8チオール :1−オクタンチオール(C17SH)
C16チオール :1−ヘキサデカンチオール(C1633SH)
C8アルコール :1−オクタノール(C17OH)
C16アルコール:1−ヘキサデカノール(C1633OH)
硫化オレフィン :S分 43質量%
【0030】
《比較例の配合と特性値》
【表5】

表4および表5の実施例と比較例の配合内容は、
実施例1:パッケージにグループ1基油とグループ5基油の混合物にC8のチオー
ル化合物を添加
実施例2:パッケージにグループ1基油とグループ5基油の混合物にC16のチオ
ール化合物を添加
実施例3:パッケージにGTL基油とC8のチオール化合物を添加
実施例4:パッケージにグループ4のPAO基油とC8のチオール化合物を添加
実施例5:パッケージにグループ2基油とC16のチオール化合物を添加
比較例0:実施例1からチオール化合物だけ除いたもの
比較例1:実施例1のC8チオールに代えてC8アルコールを添加
比較例2:実施例2のC16チオールに代えてC16アルコールを添加
比較例3:実施例2のC16チオールに代えて硫化オレフィンを同一硫黄分に計算
して添加
比較例4:実施例1のC8のチオールに代えて硫化オレフィンを同一硫黄分に計算
して添加
比較例5:市販GL−5のSAE90ギヤ油
比較例6:市販GL−5のSAE80ギヤ油
比較例7:市販GL−5のSAE140ギヤ油
また表4と表5には、動粘度(100℃)、硫黄分質量%、シェル4球耐荷重試験における初期焼付き荷重(N)、(溶着荷重N)、銅板腐食試験(180℃x24時間)での腐食減量(質量%)および硫化膜強度指数を示している。
【0031】
比較例0は通常の湿式ブレーキ油であり、その耐焼付き性は初期焼付き荷重は980Nで、また溶着荷重は1764Nであった。一方、自動車用のGL−5市販ギヤ油の比較例5はその耐焼付き性は初期焼付き荷重は980Nで、また溶着荷重は、比較例0と比べると高い3087Nであった。一方、自動車用のギヤ油でも、粘度番手を1ランク下げたSAE80では、その耐焼付き性は初期焼付き荷重は784Nに低下したが、溶着荷重は3087Nに変化はなかった。エンジン油を始めとして、湿式ブレーキのような、緩い摺動条件で使用される場合は、ギヤ油のような、高い溶着荷重は要求されないため、1764Nの焼き付き性で十分であるが、GL−5のような場合は、高い焼き付き防止性を要求されるため、比較例5〜7はいずれも3087Nという高い値を示した。実施例のオイルの挙動で着目すべきは、初期焼付き荷重が1568Nという高い焼きつき防止性を示している点である。初期焼付き荷重を上げることで、あたかも基油粘度を上げた効果が得られるだけでなく、高粘度基油を使用しないため流体抵抗は少なく、従って省エネ性にすぐれるという今までの常識を覆す特性を見出したのである。なお、溶着荷重には、比較例と全く同じ焼き付き荷重であったが、厳しい極圧性を要求されない、エンジンオイル、作動油、軸受油、工業用ギヤ油、湿式ブレーキ油、タービン油や圧縮機油などに幅広く、この技術を利用できることがわかった。
硫化膜強度が優れていることは、比較例5、6および7を見ると、良く理解できる。比較例6はGL−5でも粘度がSAE80であり、初期焼付き荷重は784Nであり、比較例5は同じGL−5でもSAE90のため、初期焼付き荷重は980N、さらにSAE140の比較例7では1225Nと、粘度が上がることで初期焼付き荷重が上昇している。これは、油膜厚さ並びに油膜強度が高くなるために初期焼きつき荷重が上がることを示している。ここで、実施例の初期焼付き荷重はいずれも、比較例を上回る1568Nを示しており、高い油膜強度が発現されたことを示している。比較例のSAE140は、熱帯地域などで、使用されることが多いように、非常に粘度の高いもので、日本などでは、粘度が高すぎて流動点が上がって、使用出来ないなどの問題が発生する可能性があるが、発明の技術を利用すれば、SAE140をはるかに上回る粘度の油膜強度を確保しながら、低粘度を享受した省燃費化や省エネルギー化が達成できるのである。
また、硫黄化合物は、焼付き防止剤として良く利用される。比較例3と4は、良く知られた硫化オレフィンを、硫黄分濃度を実施例1および実施例2に合せシェル4球耐荷重試験を行ったが、初期焼付き荷重を上げることが不可能であった。また比較例5、6、7では、初期焼きつき荷重は実施例の性能には未達となっているが、溶着荷重は増加しており、硫化オレフィンの効果は、完全溶着に対して効果があるが、初期焼付きのような、油膜厚さや油膜強度の向上には適さないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
API基油カテゴリーで規定しているグループ1、グループ2、グループ3の精製鉱油およびグループ4のポリアルファオレフィンなどの単独ないしそれらの混合基油、さらにはこれらの基油にグループ5から選ばれた基油を混合したものから選ばれた混合基油に、硫黄を分子中に持った有機化合物とからなり、特性値として100℃の動粘度が2〜30mm/s、粘度指数が95〜200、シェル4球耐荷重試験(ASTM D2783法)の初期焼付き荷重(ISL)が1260(N)以上の油膜強度を示すことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記特性値として、更に180℃、24時間の銅板腐食試験の腐食減量が、0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記特性値として、更に硫化膜強度指数(シェル4球のASTM D2783試験の初期焼付き荷重(ISL)を前記腐食減量%で除した値)が、13,000以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記硫黄を分子中に持った有機化合物が、チオール化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記チオール化合物が、炭素数8〜18のアルキル基および/またはアルケニル基を持ち、チオール基の数は1で、当該化合物の末端に結合しており、0.05〜5質量%を含有することを特徴とする請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
自動車用の潤滑油(エンジン油、ATF、CVT−F、ギヤ油)、工業用の潤滑油(油圧作動油、圧縮機油、タービン油、ギヤ油や軸受油)および建機や農機などのトラクター油や湿式ブレーキ油などに適用される請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−126976(P2011−126976A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285588(P2009−285588)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】