説明

潤滑油組成物

【課題】本発明は、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンの潤滑油の酸化安定性を飛躍的に向上させる長寿命のエンジン油として好適に用いられる潤滑油組成物に関する。
【解決手段】基油にホウ素変性したポリブテニルコハク酸モノおよび/またはジイミド化合物と芳香族アミン化合物を含有する、PDSC(加圧示差走査熱量計)による酸化誘導時間が65分以上かつ290℃におけるホットチューブ試験の評点が6.0点以上の潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンの潤滑油の酸化安定性を飛躍的に向上させる長寿命のエンジン油として好適に用いられる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球規模での環境規制はますます厳しくなり、特に自動車を取り巻く状況は、燃費規制、排ガス規制等ますます厳しくなっている。この背景には地球温暖化等の環境問題と、石油資源の枯渇に対する懸念からの資源保護がある。内燃機関に使用される潤滑油も、低粘度化、低リン化や長寿命化など、従来から行われてきたが、ここに来て、地球上に存在する植物は、大気中の二酸化炭素、水および太陽光を吸収して光合成を行い、炭水化物および酸素を生成する。それ故、植物を原料とした植物油から製造されるいわゆるバイオ燃料は、地球温暖化の主要因である二酸化炭素の削減、さらには自動車から排出される大気汚染物質の低減効果などの点で大きく注目されている。また、植物バイオマスの燃焼によって生成する二酸化炭素は、地球温暖化ガスの増加にカウントされないカーボンニュートラルという考え方もあり、今後炭化水素系の燃料へのバイオ燃料の混合比率は増加すると予想される。しかし、バイオ燃料の抱えている問題は、燃焼時に混入する未燃焼のバイオ燃料、すなわち遊離脂肪酸等の為に、エンジンオイルの酸化安定性を大きく低下させることであった。
【0003】
従来、ガス発電用潤滑油において、酸化安定性を高めるために、リン含有酸化防止剤に、アミン系酸化防止剤および無灰分散剤の組合せた技術が紹介されているが、リン化合物を使う点で、排ガス触媒の影響が問題であった(特許文献1)。また、特許文献2には、金属清浄剤、ZnDTP、ホウ素入りコハク酸イミド、アミン系酸化防止剤およびジチオカーバメートの組合せ技術が紹介されており、この発明はエンジンオイルの酸化安定性を目的としているが、効果的かつ安価にエンジンオイルの酸化安定性を向上する点ではなお満足できるものではない。そして特許文献3には、ホウ素含有あるいはホウ素を含まないコハク酸イミドとコハク酸モノイミドにアミン系酸化防止剤の配合が開示されているが、ホウ素含有コハク酸イミドとアミン系酸化防止剤の使用に関して、その特定比率を用いることの開示はなく、酸化安定性の向上に関してなお十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−35962号公報
【特許文献2】特開2001−158896号公報
【特許文献3】特開2006−176672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、上記の問題点の克服の為に、既存技術の見直しを行い、無灰分散剤として通常使用されるコハク酸イミド、特にホウ素変性されたコハク酸イミドと、芳香族アミン化合物を、特定の比率で組み合わせることにより、大幅にエンジンオイルの長寿命化が可能になることを見出した。この技術を、利用することで、従来難しかったZnDTPの削減による低リン化が可能になるだけでなく、エンジンオイル交換時期の延長を図ることができ、また無用な潤滑油の廃油を発生しないで済むことが可能となった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、基油にホウ素変性したポリブテニルコハク酸モノおよび/またはジイミド化合物と芳香族アミン化合物とを含有する、PDSC(加圧示差走査熱量計)による酸化誘導時間が65分以上、かつ290℃のホットチューブ試験で評点6.0以上を与える潤滑油組成物に関する。
本発明の第2は、前記基油が、100℃の動粘度が2〜32mm/sで、API分類グループ2およびグループ3から選ばれた基油を少なくとも組成物全体の50質量%以上、および必要に応じてグループ4やグループ5の基油を配合した請求項1に記載の潤滑油組成物に関する。
本発明の第3は、前記ホウ素変性したポリブテニルコハク酸モノおよび/またはジイミド化合物のホウ素量が0.01質量%以上で0.2質量%以下、当該コハク酸イミド化合物の窒素分と芳香族アミン化合物の窒素分の合計窒素量が0.09質量%以上で、油中のホウ素量を該合計窒素量で除した値が、0.1以上である請求項1または2に記載の潤滑油組成物に関する。
本発明の第4は、少なくとも1質量%以上のバイオ燃料が混合された軽油あるいは灯油を主燃料とする内燃機関に使用される請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、大幅にエンジンオイルの長寿命化が可能となり、この技術を利用することで、従来難しかったZnDTP使用量の削減による低リン化が可能になり、エンジンオイル交換時期の延長を図ることができ、また無用な潤滑油廃油の低減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の潤滑油組成物における基油には、特に、表1で示されるAPI(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ2およびグループ3に属する基油を単独または混合物として使用することができる。これらの基油または混合基油は潤滑油組成物中に50質量%以上配合され、特に好ましくは、基油全体を100%とした時に、グループ2およびグループ3基油が少なくとも90質量%以上である。
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全硫黄分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明において好適に用いることができる。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は80〜120未満、好ましくは100〜120未満がよい。100℃における動粘度は、好ましくは2〜32mm/s、より好ましくは3〜24mm/sである。また全硫黄分は300ppm未満、好ましくは50ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用するのがよい。
グループ3基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)ワックスおよび脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は120以上、好ましくは120〜150がよい。100℃における動粘度は、好ましくは2〜32mm/s、より好ましくは3〜24mm/sである。また全硫黄分は、100ppm未満、好ましくは30ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するのがよい。
API分類における各基油の代表性状を表1に示す。
【0009】
《基油の種類と性状》
【表1】

【0010】
本発明に使用されるポリブテニルコハク酸モノまたはジイミド化合物は、下記式(1)および(2)で示される。
ホウ素変性コハク酸イミド系化合物としては、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加したモノタイプコハク酸イミドまたはポリアミンの両端に無水コハク酸が付加したビスタイプコハク酸イミドをホウ素変性させたコハク酸イミドが挙げられる。
【化1】

【化2】

式(1)および式(2)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350の、直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を示す。aは1〜10、好ましくは2〜5の整数、bは1〜10の整数を示す。
ホウ素変性コハク酸イミド系化合物は、そのアルキル基またはアルケニル基の数平均分子量は500〜5600が好ましく、800〜4900がより好ましい。このために、上記式(1)および(2)中のR、RおよびRのアルキル基またはアルケニル基は、その炭素数が上記重量平均分子量の範囲になるように選定することが好ましい。
上記コハク酸イミド系化合物の製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸またはアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。ホウ素変性コハク酸イミド系無灰分散剤は、式(1)および(2)で示されるコハク酸イミドに、ホウ酸、ホウ酸塩またはホウ酸エステル等のホウ素化合物を作用させることにより得ることができる。ホウ酸としては、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸またはテトラホウ酸が挙げられる。
ホウ素/窒素(B/N)質量比0.25〜4のホウ素変成コハク酸イミドが好ましく、またホウ素変成コハク酸イミドの添加割合は、組成物全量基準で0.5〜15質量%が好ましく、より好ましくは1〜10質量%であり、さらに好ましくは2〜6質量%である。
【0011】
本発明では、潤滑油の酸化防止に酸化防止剤以外の成分として、ホウ素変性したコハク酸イミドが有効であることは既に述べたが、コハク酸イミドは、無灰系の清浄分散剤であるが、清浄作用以外に酸化抑制機能として酸化の種となるスラッジプリカーサーを可溶化して無害化する効果も併せ持っていることは良く知られている。また、ホウ素化合物として、特開平10−087727、特開2005−306913および特表2002−542377などにあるように、ホウ酸水和物は高温下での酸化防止性能、清浄性および極圧性能を示すことは知られている。本発明ではホウ酸水和物ではないが、ホウ素として基本的に酸化防止性能を有することが推定される。なお、ホウ素変性されたコハク酸イミドが、化学構造としてどのようなものかは、先行文献にも詳しくは記述されていないが、前述したようにコハク酸イミド自体の酸化防止機能とホウ素自体が持つ酸化防止機能が融合されて、相乗的に酸化防止に効果を発現していると推定される。さらには、本発明のように、ホウ素変性コハク酸イミドのホウ素と、芳香族アミン化合物が相乗的に働いた結果、特別の比率のケースで効果が発揮されると考えられる。
【0012】
芳香族アミン化合物としては、以下の一般式(3)で示される。
【化3】

〔式中、Phはフェニル基、Rは水素原子、または炭素数1〜15の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を示し、R′はアルキル基を有するフェニル基、アルキル基を有するナフチル基、または炭素数1〜8の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、シクロアルキル基およびアルキルシクロアルキル基のいずれかを示す。〕
上記芳香族アミン化合物の中でも特にアルキル化ジフェニルアミンおよびアルキル化フェニル−α−ナフチルアミンから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
アルキル化ジフェニルアミンは、以下の式(4)で示される。
【化4】

(式中、RおよびRは、水素原子、または炭素数1〜16の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基である。)
上記式中のRおよびRは、好ましくは水素原子、または炭素数3〜9の直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、特に好ましくは水素原子または炭素数4〜8の直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基である。
アルキル基の炭素数が16を越えると油への溶解性が低下することがあるため好ましくない。また、RおよびRは、同一であっても、異なっても良い。
上記の直鎖または分枝鎖のアルキル基の具体例としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、エチルブチル、n−ヘプチル、2−メチルヘキシル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、3−メチルヘプチル、n−ノニル、メチルオクチル、エチルペプチル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−テトラデシルなどが挙げられる。
アルキル化ジフェニルアミンの好適な具体例としては、例えばジフェニルアミン、ブチルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジブチルジフェニルアミン、オクチルブチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミンなどが挙げられる。アルキル化ジフェニルアミンは、1種単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。あるいは、その他の芳香族アミン化合物と組合わせることもできる。
アルキル化ジフェニルアミンの含有割合は、0.001〜5質量%であり、好ましくは0.001〜3質量%、より好ましくは0.001〜2.5質量%である。5質量%を越えると効果が飽和し、経済的に不利になるため好ましくない。
【0013】
アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンは、式(5)で示される。
【化5】

(式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜16の直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、好ましくは炭素数4〜8の直鎖または分枝鎖のアルキル基である。)
の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、エチルブチル、n−ヘプチル、2−メチルヘキシル、n−オクチル、イソオクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、3−メチルヘプチル、n−ノニル、イソノニル、1−メチルオクチル、エチルヘプチル、n−デシル、1−メチルノニル、n−ウンデシル、1,1−ジメチルノニル、n−ドデシル、n−テトラデシルなどが挙げられる。
上記アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンの具体例としては、n−ペンチル化フェニル−α−ナフチルアミン、2−メチルブチル化フェニル−α−ナフチルアミン、2−エチルヘキシル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−オクチル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−ノニル化フェニル−α−ナフチルアミン、1−メチルオクチル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−ウンデシル化フェニル−α−ナフチルアミン、n−ドデシル化フェニル−α−ナフチルアミンが挙げられる。
アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンは、1種単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。あるいは、別タイプの芳香族アミン化合物を混合して使用しても良い。
アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンの含有割合は、0.001〜5質量%であり、好ましくは0.001〜3質量%、より好ましくは0.001〜2.5質量%である。5質量%を越えると効果が飽和し、経済的に不利になるため好ましくない。
【0014】
加圧示差走査熱量計(PDSC)は、試験物質と基準物質とを等速度で昇温し、試験物質の発熱・吸熱によって発生する二つの試料間の温度差を0に保つために必要なエネルギー量を加圧下で測定するものである。欧州共同体委員会が、潤滑油の酸化安定性の試験方法をCEC−L−85−T−99(Hot Surface Oxidation)で定めており、この方法は短時間でしかも少ないサンプル量で潤滑油の酸化安定性を評価できることから、発明者らは種々検討を行い実用性能との関連を調査した結果、ACEA E9−08規格のPDSC試験における酸化誘導時間65分以上という規定に準拠し、評価油の合格基準をPDSC試験での酸化誘導時間を65分以上とした。ここでPDSC値は、試料を空気加圧下(0.69MPa)で一定温度(210℃)に保持し、所定温度に達してから酸化が始まるまでの時間(酸化誘導時間という)を酸化寿命として評価するものであり、この酸化誘導時間が長いほど酸化防止機能が高いことを示す。
ホットチューブ試験は、潤滑油の耐熱性および高温清浄性を評価する試験であり、潤滑油が高温にさらされた際にカーボン等のデポジットが生成する度合を調べる試験である。試験方法は、石油学会試験方法JPI−5S−55−99で規定されており、潤滑油の性能は、試験後のテストチューブ変色部の色相の濃さ〔0点(黒色)から10点(透明=最良)の間で、0.5点刻み〕の評点で判定される。JASO M355:2008規格では280℃で試験を実施した際の評点が7.0点以上であることを合格値としているが、発明者らは評価油の合格基準を、より厳しい条件である、290℃で6.0点以上とした。
【実施例】
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれによって何らの限定を受けるものではない。そして、以下に示す組成は一例であって必ずしもこれに限るものではない。
【0016】
実施例および比較例で使用した基油の性状を表2に示す。
基油の種類と性状
【0017】
【表2】

表2において、ノアック(NOACK)値は、蒸発量NOACK法 (mass%):JPI−5S−41エンジン油のオイル消費量を数値化したもの(API−SL規格は15%以内)である。
グループ3基油に属するもので、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)ワックスから生成された基油は、酸化安定性に悪影響を及ぼす硫黄分や窒素分が少ないため、合成油のポリアルファオレフィンに匹敵する酸化安定性を有しており、本発明において好適に用いることができる
【0018】
実施例および比較例に使用した添加剤
【表3】

1)コハク酸イミド:ポリブテニルビスコハク酸イミド、分子量約2000のもの
2)ホウ素変性コハク酸イミドA:ホウ素変性したポリブテニルビスコハク酸イミド、分子量約2000のもの
3)ホウ素変性コハク酸イミドB:ホウ素変性したポリブテニルビスコハク酸イミド、分子量約2000のもの
4)芳香族アミン化合物A:アルキル化ジフェニルアミン:N−tert−ブチルフェニル−N−オクチルフェニルアミン
5)芳香族アミン化合物B:アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン:N−オクチルフェニル−N−α−ナフチルアミン
6)フェノール系酸化防止剤:オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
【0019】
《実施例の配合と特性値》
【表4】

【表5】

表4および表5の下段のN(disp)は、コハク酸イミドから由来する窒素分(質量%)、N(AO)は芳香族アミン化合物から由来する窒素分(質量%)、N(disp+AO)は上記の合計窒素量(質量%)そしてBはホウ素分(質量%)、およびB/N(disp+AO)はホウ素分をN(disp+AO)で除した数値である。
【0020】
実施例と比較例を総合的に解析すると、分散剤由来の窒素量と酸化防止剤由来の窒素量の合計〔N(disp+AO)〕が0.09質量%以上で、かつ組成中のホウ素分の質量%と分散剤由来の窒素量と酸化防止剤由来の窒素量の合計質量%との比〔B/N(disp+AO)〕が0.1以上であれば(ただしホウ素含有コハク酸イミドのN分:0.07質量%以上、B分:0.01質量%以上)、PDSC値で65分以上、かつ290℃のホットチューブ試験で評点が6.0点以上となる、極めて酸化安定性および高温安定性に優れた潤滑油組成物を配合できることを見出した。
【0021】
以下に、実施例1〜実施例10および比較例1〜比較例12に基づいて説明する。
ここでは、添加成分としてホウ素変性コハク酸イミドAとホウ素変性コハク酸イミドB、ホウ素を含有しないコハク酸イミド、芳香族アミン化合物であるジフェニルアミン化合物とフェニルナフチルアミン化合物およびフェノール系酸化防止剤を用い、基油としてAPIベースオイルカテゴリーグループ3に属するフィッシャー・トロプシュ法により製造した基油を使用し、表4および5に示したように配合して、PDSCによる酸化防止寿命およびホットチューブ試験による高温清浄性を評点した。
上記表4および5に示すように、実施例1〜3はホウ素変性コハク酸イミドAに芳香族アミン化合物を、添加量で2,1,0.2質量%と徐々に減らすと、PDSCによる酸化誘導時間は206.5分⇒185.6分⇒119.3分と、減少し、芳香族アミン化合物が、明らかに組成の酸化安定性に影響していることが分かる。
一方、実施例4、5および比較例1はホウ素変性コハク酸イミドAを実施例1〜3の10質量%から5質量%に減量して、上記と同様に芳香族アミン化合物を、2,1,0.2質量%の順で添加すると、同様に芳香族アミン化合物の添加量の減少に伴い、酸化安定性は低下している。
さらに実施例1と実施例4、実施例2と実施例5および実施例3と比較例1は、ホウ素変性コハク酸イミドAの添加量と共に、PDSCの酸化誘導時間は大きく変化しており、ホウ素変性コハク酸イミドAの添加もまた酸化防止性に大きく貢献していることがわかる。
一方、ホウ素変性コハク酸イミドAの添加量をさらに減らした比較例2、3、4および5のPDSCによる酸化誘導時間はさらに短くなっている。また、比較例2では、芳香族アミン化合物を実施例3の10倍、実施例5の2倍量に相当する添加を行ったが、PDSCによる酸化誘導時間はそれほど伸びておらず、また、ホットチューブ試験において各実施例に比べて明らかに高温清浄性に劣る結果となっており、ホウ素変性コハク酸イミドとの添加量の比率が、組成の酸化安定性および高温清浄性に関係することが示唆される。
また比較例6および7は、ホウ素を含有しないコハク酸イミドを使用して、芳香族アミン化合物を1質量%、すなわち実施例2および5と比較すると、コハク酸イミド由来の窒素量がほぼ同じにも関わらず酸化安定性および高温清浄性が著しく劣る結果となり、特にホウ素含有コハク酸イミドAの添加効果が際立つことが明らかである。
また、実施例10のようにホウ素変性コハク酸イミドとホウ素を含有しないコハク酸イミドを混合使用しても、N(disp+AO)とB/N(disp+AO)とが、見出した条件を満たしていれば、優れた酸化安定性および高温安定性を有する潤滑油組成物を配合できる。
一方、比較例11は芳香族アミン化合物の代わりにフェノール系酸化防止剤を用いた組成物である。表に見られるようにホウ素変性コハク酸イミドを用いても、芳香族アミン化合物を含有していないとPDSC値が短くホットチューブ試験評点が低くなり、不十分な性能しか得られないことが分かる。
【0022】
【表6】

さらに、表6は、表で示される基油および添加剤からなる混合油に、予め5質量%の菜種油メチルエステル(RME)を添加して、PDSCによる酸化安定性および290℃におけるホットチューブ試験による高温清浄性の評価を実施した。その結果、RMEは熱酸化安定性や加水分解安定性が悪く、少量添加されただけでも潤滑油の酸化安定性を低下させることが知られているにもかかわらず、前述の関係を満たす、実施例11〜13は、PDSCによる酸化誘導時間が65分を越え、かつホットチューブ試験でも6.0点以上を与えることが実証できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油にホウ素変性したポリブテニルコハク酸モノおよび/またはジイミド化合物と芳香族アミン化合物とを含有する、PDSC(加圧示差走査熱量計)による酸化誘導時間が65分以上、かつ290℃のホットチューブ試験で評点6.0以上を与える潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基油が、100℃の動粘度が2〜32mm/sで、API分類グループ2およびグループ3から選ばれた基油を少なくとも組成物全体の50質量%以上、および必要に応じてグループ4やグループ5の基油を配合した請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ホウ素変性したポリブテニルコハク酸モノおよび/またはジイミド化合物のホウ素量が0.01質量%以上で0.2質量%以下、当該コハク酸イミド化合物の窒素分と芳香族アミン化合物の窒素分の合計窒素量が0.09質量%以上で、油中のホウ素量を該合計窒素量で除した値が、0.1以上である請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
少なくとも1質量%以上のバイオ燃料が混合された軽油あるいは灯油を主燃料とする内燃機関に使用される請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−157530(P2011−157530A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22520(P2010−22520)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】