説明

潤滑油組成物

【課題】粘度指数、低温流動性、引火点の全てにおいて、実用上の要求性能を満たす潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る潤滑油組成物は、100℃の動粘度が3〜6mm/Sの基油に、前記基油のDSCにより計測される結晶化開始温度に対して、DSCにより計測されるピークトップ温度が13℃以上低い流動性向上剤が添加されたもので、100℃動粘度が9.3〜12.5mm2/s、粘度指数が200以上、流動点が−40℃以下、引火点が200℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度指数が高く、低温流動性に優れ、高引火点を有し、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、歯車油等として好適に使用できる潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や工作機械に使用される作動油等の潤滑油は一般に温度が高いほど粘度が低くなるが、低温から高温まで広い範囲にわたって粘度ができるだけ変化しないことが実用上望ましい。そこで潤滑油に粘度指数向上剤と呼ばれる高分子化合物を添加して粘度の温度依存性を改善する方法が広く行われている。粘度指数(VI)は、温度変化による粘度変化のしにくさを示す指標であり、その数値が高い程、温度変化による粘度変化が小さいものとなる。省エネなどの観点から好ましいVIは180以上、より好ましくは200以上とされており、例えば、本発明者らによる特開2009−96995号公報には、粘度指数が200〜220の建設機械用作動油が開示されている。
【0003】
VIの向上を図るにあたり、単に、粘度指数向上剤の添加量を増やすのみでは、低温流動性が損なわれ、使用温度域が制限されてしまう問題もあるが、この低温流動性の問題については、添加剤や低粘度基油の採用で対応する方法が考えられる。そして、低温流動特性の改善を目的とした添加剤に関する様々な研究がなされており、例えば、特開2004−352946号公報には、所定の組成条件を満たすことで従来品よりも流動点降下能が改善された炭化水素油用流動点降下剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−96995号
【特許文献2】特開2004−352946号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、低温流動性を改善するための添加剤(以下、流動性向上剤とする)には、多種多様なものが存在する。その一方で、流動性向上剤が添加される潤滑油組成物の基油も、原料や装置構成などに応じた様々な製造条件下で製造されるため、やはり、多種多様なものとなる。ところが、流動性向上剤の添加により潤滑油組成物が期待する性状を備えたものとなるかは、流動性向上剤と基油との適正な組合せによるところ、基油に対し最適な流動性向上剤を決めるための特定の手法はなく、基油と流動性向上剤との様々な組合せについて各々試験を行い、その結果を参照して流動性向上剤を選定しているのが現状である。従って、所望の最適基油に使用すべき流動性向上剤の選定には、コストや時間を要し、しかも選定を行う者の経験による影響が大きいという問題があった。
【0006】
一方、低温流動性の改善にあたり低粘度基油を採用する方法も考えられる。しかしながら、この場合、流動性向上剤の選択に問題は生じないものの、引火点が低下し、結果として消防法上の規制により保管上の煩雑性が増したり、また使用中に潤滑油蒸発量が増加する問題があり、取り扱いにおける安全面で問題があった。また、基油の粘度が低いことから、粘度指数向上剤の必要添加量が増えてコストが増大し、更には粘度指数向上剤を構成するポリマーがせん断されてしまうという問題があった。
【0007】
すなわち、これまでの調合方法では、コスト面などを考慮すると、粘度指数、低温流動性、引火点の全てを適度に調整することが難しかったため、粘度指数、低温流動性、引火点の全てにおいて、実用上の要求を満たす潤滑油組成物は無かった。特に、油圧作動油として使用する場合、建機用作動油規格であるJCMAS HK P041.2004の低温使用時のための規格を満たすことが難しく、その要求性能を満たすものが無かった。
【0008】
そこで、本発明は、粘度指数、低温流動性、引火点の全てにおいて、実用上の要求性能を満たす潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る潤滑油組成物は、100℃の動粘度が3〜6mm/sの基油に、前記基油のDSCにより計測される結晶化開始温度に対して、DSCにより計測されるピークトップ温度が13℃以上低い流動性向上剤が18質量%以上添加されたもので、100℃動粘度が9.3〜12.5mm2/s、粘度指数が200以上、流動点が−40℃以下、引火点が200℃以上である。
【0010】
油圧作動油も含めて潤滑油は、その多くが、消防法の危険物第四類の第三および第四石油類に分類されている。そして、第四類第三石油類では引火点70℃以上200℃未満、第四類第四石油類では、引火点200℃以上が分類基準となっていることから、本発明に係る潤滑油組成物も引火点は200℃以上であることが必要となる。また、100℃動粘度は、様々な用途に広く適用することを考慮し、SAE粘度分類のSAE30の範囲内であることが、より具体的には、9.3〜12.5mm2/sとなることが必要となる。
【0011】
本発明においてDSCとは、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry)を意味するものである。測定は公知の方法で行えばよく、特に制限はないが、例えば、以下の条件で行うことができる。
使用装置:DSC6200(商品名:SII社製)
雰囲気:パージガス無し
試料量:8mg〜10mg
温度条件(熱履歴除去):50℃で2分保持した後、−60℃で2分保持し、更にその後50℃で5分保持
温度条件(評価):50℃から−60℃まで20℃/分で降温
試料容器:密封式アルミパン
比較試料:α‐酸化アルミナ
温度校正試料:Sn、In、n‐Tridecan
【0012】
また、本発明において「結晶化開始温度」とは、DSCにより計測される熱量の計測温度に対する変化の推移において、それまでの推移と異なる推移を始めたときの温度であり、JIS K7 121 9.2「結晶化温度の求め方(2)補外結晶化開始温度」に記載の方法で求められる。例えば、計測される熱量が0より大きくなるときの温度としてもよいが、発熱量の時間的変化が少ない場合、すなわち発熱の温度期間が長く幅広い山形として現れる場合と、発熱量の時間的変化が大きい場合、すなわち発熱の温度期間が短く鋭いピークとして現れる場合とでは、流動性向上に対する影響が異なるおそれがある。そこで、結晶化開始温度は、DSCにより計測される熱量の計測温度に対する変化の推移における変曲点の接線と、計測温度を示す軸線との交点とすることが好ましい。
【0013】
更に、本発明において「ピークトップ温度」とは、上記DSCにより計測される熱量の計測温度に対する変化の推移において、熱量が最大となる温度である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基油と流動性向上剤のDSCにより計測される結晶化開始温度とピークトップ温度で、所望の基油に対する適切な流動性向上剤を選定することにより、潤滑油組成物に対する実用上の要求を満たすことができる。より具体的には、粘度指数が200以上、流動点が−40℃以下、引火点が200℃以上、を実現することができる。
【0015】
更に、従来の調合方法では、基油の性能によっては、高性能な流動性向上剤でも、要求を満足させないことがあったが、本発明によれば、DSCにより計測される基油の結晶化開始温度と添加する流動性向上剤のピークトップ温度を測定することで、最適な組合せを容易に選択できる。
【0016】
一方、流動点を低くする場合、基油と流動性向上剤の双方に流動点の低いものを採用することが好ましいのは当然であるが、流動点の低い低粘度基油には引火点低下を招く問題があることは既述の通りであり、また、流動点の低い基油や流動性向上剤の採用はコストの増加をもたらすことになる。しかしながら、過度の低温流動性は不要であり、需要者の要求に合致する程度の性能、具体手的には例えば、流動点が−40℃程度であれば、充分に使用に耐え得るものとなる。本発明の潤滑油組成物は、このような問題を考慮した調合が可能となる。具体的には、例えば、目標の流動点である−40℃をクリアするためにまず基油を決め、その結晶化開始温度を基準にして、使用する流動性向上剤の候補を絞り込むことができるため、コストと必要性能を加味した最適な流動性向上剤の選択が可能となる。
【0017】
更にまた、流動性向上剤のDSCにより計測される結晶化開始温度およびピークトップ温度は、一度測定しておけば、その後の選定作業に使用することができるため、その後の選定作業に反映させることとすれば、選定時における試験そのものが不要となりその試験対象を経験によって選定する必要も無くなる。従って、所望の基油に最適な流動性向上剤を容易に、しかも選定者の経験に影響されることなく正確に選定できるという利点も得られる。
【0018】
更にまた、任意の比率の混合基油についても、単独の基油の結晶化開始温度を使用して、計算によりその結晶化開始温度を求めることができるという利点がある。通常、SAE10、SAE20、SAE30、SAE40などの粘度の基油が市販されているが、添加剤を配合する場合、添加剤の粘度に応じて、粘度の異なる複数の基油を適宜配合して粘度を調整する必要性が出てくるため、混合基油になることが多かった。従って、従来は、最終的に配合された製品について、再度流動性を確認する必要があった。これに対し、本発明では、使用する基油の結晶化開始温度を予め測定しておけば、加成性を利用して、任意の比率の混合基油の結晶開始温度を、単独の基油の結晶化開始温度を使用して計算により求めることができる。そして、算出された結晶開始温度に対し、ピークトップ温度が13℃以上低い流動性向上剤を選定することで、−40℃における流動性の推定が可能となる。
【0019】
なお、基油の100℃の動粘度の範囲は3〜6mm/sとする必要があり、3mm/sより小さいと引火点の低下による防火上の問題やせん断安定性の低下の問題が発生する。また、6mm/sより大きいと流動点が上昇して低温流動性に劣るものとなってしまう問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る潤滑油組成物の基油には、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油、またはこれらの混合物を使用することができ、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4およびグループ5に属する基油を、単独または混合物として使用することができる。
【0021】
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。粘度指数は80〜120未満、好ましくは95〜110がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。また全硫黄分は1.5質量%未満、好ましくは1.0質量%未満がよい。全窒素分も50ppm未満、好ましくは25ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは90〜120℃のものを使用するのがよい。
【0022】
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全硫黄分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明において好適に用いることができる。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は80〜120未満、好ましくは100〜120未満がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。また全硫黄分は300ppm未満、好ましくは50ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用するのがよい。
【0023】
グループ3基油は、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)ワックスおよび脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は120以上、好ましくは120〜140がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。また全硫黄分は、100ppm未満、好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するのがよい。
【0024】
グループ4基油としては、ポリオレフィンが挙げられる。該ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物、またはこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造にあたっては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特にポリ−α−オレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンが好適である。これら合成基油の粘度は特に制限されないが、40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。
【0025】
グループ5基油は、エステルやグループ1〜4に属さない基油である。
上記グループ1〜5の何れの基油を採用してもよいが、特にグループ1、グループ2及びグループ3基油が好ましい。
API基油カテゴリーの各基油の分類を表1に示す。
【表1】

【0026】
また、基油の100℃の動粘度を3〜6mm/sに調整し、その基油のDSCにより計測される結晶化開始温度に対する、DSCにより計測されるピークトップ温度の差が13℃以上の流動性向上剤を添加することにより、潤滑油として−40℃以下の流動性、200以上の粘度指数、及び200℃以上の引火点を確保することができる。そして、そのような潤滑油であれば、特に、省エネ性、低温流動性、火災安全性などに優れた建機用作動油を提供できるものとなる。
【0027】
流動点向上剤には、公知のポリメタクリレートなどを使用することができる。
ただし、基油に対する適正な組み合わせがあり、その組み合わせを誤ると所望の効果を得られない場合がある。表2は、後述表3の基油1と基油2の混合油に、異なる流動性向上剤(後述のポリマ2、ポリマ3と同じもので、表2においてはそれぞれ流動性向上剤A、流動性向上剤Bとする)を添加した場合に得られる流動点を、流動性向上剤の添加量を変えて示したものである。表2に示すように、流動性向上剤Bを添加した場合の流動点は、添加量によらずほぼ同じとなるのに対し、流動性向上剤Aを添加した場合の流動点は、添加量の増加に伴い上がってしまう挙動が認められた。このように、流動性向上剤と組み合せる基油によっては、相乗効果や、逆の阻害効果の発現することがわかる。従って、基油に対し適切な流動性向上剤を選択する必要があり、具体的には、DSCにより計測されるピークトップ温度が、基油のDSCにより計測される結晶化開始温度に対して13℃以上低いことが必要である。
また、本発明に用いられる流動性向上剤の結晶化開始温度は−23℃以下が良く、−25℃以下がより好ましく、−27℃以下が特に好ましい。
更に、ピークトップ温度は−35℃以下が良く、−40℃以下がより好ましく、−45℃以下が特に好ましい。質量平均分子量は55,000以下が良く、54,000以下がより好ましく、53,000以下が特に好ましい。
【表2】

【0028】
なお、表2に示す性状の測定方法は以下の通りである。
<動粘度(@40℃)、動粘度(@100℃)>
JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度流動点試験方法及び粘度指数算出方法」によって得られる動粘度。
<流動点>
JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」によって得られる流動点。
【実施例】
【0029】
以下の表3に示す基油と表4に示す流動性向上剤(以下、ポリマとする)を用いて潤滑油組成物調製した。
【表3】

【表4】

【0030】
なお、表3及び表4に示す動粘度(@40℃)及び動粘度(@100℃)の測定方法は上記の通りである。結晶化開始温度、ピークトップ温度、及び分子量の測定方法は以下の通りである。
<結晶化開始温度>
JIS K7 121 9.2「結晶化温度の求め方(2)補外結晶化開始温度」によって得られる結晶化開始温度である。なお、DSCの条件は以下の通りである。
使用装置:DSC6200(商品名:SII社製)
雰囲気:パージガス無し
試料量:8mg〜10mg
温度条件(熱履歴除去):50℃で2分保持した後、−60℃で2分保持し、更にその後50℃で5分保持
温度条件(評価):50℃から−60℃まで20℃/分で降温
試料容器:密封式アルミパン
比較試料:α‐酸化アルミナ
温度校正試料:Sn、In、n‐Tridecan
<ピークトップ温度>
結晶化開始温度の測定を行うDSCにより計測される熱量の計測温度に対する変化の推移において、熱量が最大となる温度である。
<分子量>
JIS K7252−1 「プラスチック−サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方−第1部:通則」を用いて質量平均分子量を計算した。
使用装置:Shodex GPC−101
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:KF−G(Shodex)×1,KF−805L(Shodex)×2
測定温度:40℃
キャリア溶媒:THF
キャリア流量:0.8ml/min(Ref 0.3ml/min)
標準物質:Shodex STANDARD(Polystyrene)
Mp=2.0×10
Mp=5.0×10
Mp=1.01×10
Mp=2.95×10
Mp=9.60×10
Mp=2.05×10
検量線:三次式
試料濃度:約2mass%
試料注入量:50μL
【0031】
調製した潤滑油組成物の流動点、粘度指数および引火点を測定した。さらに、表3に示す各基油の単独の結晶化開始温度およびピークトップ温度を基に、基油の混合比率から、混合結晶化開始温度および混合ピークトップ温度を算出した。測定値及び算出値を表5に示す。
【表5】

【0032】
混合基油結晶化開始温度は、混合基油の混合比率を各々の基油結晶化開始温度に掛けて合算した数値である。例えば、基油Aの結晶化開始温度をTa、基油Bの結晶化開始温度をTb、基油Aの混合率をRa、基油Bの混合率をRbとすれば、Ra+Rb=1であり、
混合基油結晶化開始温度=Ra×Ta+Rb×Tb
となる。混合基油ピークトップ温度についても、この混合基油結晶化開始温度と同様に算出した。
【0033】
なお、各実施例及び比較例には、一般に市販されている作動油パッケージ添加剤を同量添加した。使用した作動油パッケージは添加剤として金属清浄剤、耐摩耗剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、防錆剤、消泡剤及び金属不活性剤を含むものである。
【0034】
表5に示す動粘度(@40℃)、動粘度(@100℃)及び流動点の測定方法は上記の通りである。粘度指数の測定方法は以下の通りである。
<粘度指数>
JIS−K−2283 原油及び石油製品-動粘度試験方法および粘度指数算出方法に準拠した。
<引火点>
JIS−K−2265 原油及び石油製品―引火点試験方法のクリーブランド開放式で行った。
【0035】
表5に示すように、実施例1は、基油Aと基油Bをそれぞれ34.00質量%、42.50質量%を配合した混合基油であるが、各々の単独の結晶化開始温度(表3に示すもの)を使用して混合比率で再計算を行うと、−30.8℃となる、一方、実施例1に使用されている流動向上剤(ポリマ1)のピークトップ温度は−49.7℃であり、基油の結晶化開始温度からポリマーのピークトップ温度を差し引いた値(Bs−Pt)は、18.9となる。同様に、実施例2は21.7℃、比較例1は2.3℃、比較例2は12.7℃、比較例3は4.6℃、比較例4は29.2℃、比較例5は29.4℃となる。この結果から、100℃の動粘度が3〜6m/sの基油に、Bs−Ptが13℃以上の流動性向上剤を少なくとも18質量%以上添加することにより、流動点−40℃を実現できることがわかる。
【0036】
すなわち、Bs−Ptが13℃未満となる流動性向上剤の添加されている比較例1〜3では、その添加量を多くしても、流動点が−40℃より高くなっていることがわかる。また、Bs−Ptが13℃以上となる流動性向上剤の添加量が18質量%未満となっている比較例4〜5では、粘度指数はいずれも200未満であり、高効率作動油として適さないことがわかる。更に、上記実施例、比較例のいずれにおいても引火点は200℃以上であることから、少なくとも、基油の100℃の動粘度を3〜6mm/sとした場合、上記流動点と粘度指数の要求性状に加えて、建機用油圧作動油としての引火点の必要性状も満たすことがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃の動粘度が3〜6mm/sの基油に、前記基油のDSCにより計測される結晶化開始温度に対して、DSCにより計測されるピークトップ温度が13℃以上低い流動性向上剤が18質量%以上添加され、100℃動粘度が9.3〜12.5mm2/s、粘度指数が200以上、流動点が−40℃以下、引火点が200℃以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
上記流動性向上剤の結晶化開始温度が−23℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
上記流動性向上剤のピークトップ温度が−35℃以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
上記流動性向上剤の質量平均分子量が55,000以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。



【公開番号】特開2011−168774(P2011−168774A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10286(P2011−10286)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】