説明

潤滑油組成物

【課題】基油として精製度の高い、また粘度指数の高い高性能基油を使用し、かつ摩擦調整剤としてモリブデン化合物を使用した場合であっても、モリブデン化合物が沈殿することのない、省燃費性に優れた潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】100℃における動粘度が1〜6mm/sであり、かつ、%Cが70以上、%Cが2以下である潤滑油基油に、(A)少なくともポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマーの共重合体である粘度指数向上剤、および(B)有機モリブデンをモリブデン量で1000質量ppm以上含有してなる潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。詳しくは、高性能基油にモリブデン化合物を含有させてもモリブデン化合物の沈殿が発生せず、省燃費性に優れ、長期に安定した性能を発揮する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関や変速機、その他機械装置には、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求される。したがって、従来のエンジン油にはこうした要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている(例えば、下記特許文献1〜3を参照。)。また近時、潤滑油に求められる省燃費性能は益々高くなっており、高粘度指数基油の適用や各種摩擦調整剤の適用などが検討されている(例えば、下記特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−279287号公報
【特許文献2】特開2002−129182号公報
【特許文献3】特開平08−302378号公報
【特許文献4】特開平06−306384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
省燃費性を向上させるために、摩擦調整剤としてはモリブデン化合物が最も良く使用されている。さらに省燃費性を向上させるため、基油として精製度の高い、また粘度指数の高い高性能基油が使用されるが、高性能基油とモリブデン化合物の組み合わせにおいてはしばしばモリブデン化合物の沈殿が発生し、この組み合わせにおいて、モリブデン化合物の溶解性の向上が課題となっている。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、基油として精製度の高い、また粘度指数の高い高性能基油を使用し、かつ摩擦調整剤としてモリブデン化合物を使用した場合であっても、モリブデン化合物が沈殿することのない、省燃費性に優れた潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、100℃における動粘度が1〜6mm/sであり、かつ、%Cが70以上、%Cが2以下である潤滑油基油に、(A)少なくともポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマーの共重合体である粘度指数向上剤、および(B)有機モリブデンをモリブデン量で1000質量ppm以上含有してなる潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、基油として精製度の高い高性能基油とモリブデン化合物を組み合わせた場合であっても、モリブデン化合物が沈殿することが無く、長期に安定した性能を発揮し、省燃費性に優れた潤滑油組成物が提供される。
【0007】
また、本発明の潤滑油組成物は、二輪車用、四輪車用、発電用、コジェネレーション用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、にも好適に使用でき、さらには、硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用するこれらの各種エンジンに対しても好適に使用することができるだけでなく、船舶用、船外機用の各種エンジンに対しても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては、100℃における動粘度が1〜6mm/sであり、かつ、%Cが70以上、%Cが2以下である潤滑油基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)が用いられる。
【0009】
前述のように、単に、精製度の高い高性能基油とモリブデン化合物と組み合わせた場合には、モリブデン化合物の沈殿物が発生するため長期に安定した性能を発揮した潤滑油組成物が得られない。本発明は、省燃費性を向上させるため、基油として精製度の高い高性能基油を使用することを前提とし、かかる高性能基油を用いた場合において、摩擦調整剤として配合されるモリブデン化合物と組み合わせてもモリブデン化合物の沈殿が発生しない潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。このことから、モリブデン化合物を使用しても沈殿が発生することが少ない通常の潤滑油基油、すなわち100℃における動粘度、%Cおよび%Cが上記条件を満たさない潤滑油基油は本発明の対象とはならない。したがって、本発明に係る潤滑油基油は上記した条件を満たす高性能基油を対象とするものである。
【0010】
本発明に係る潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、100℃における動粘度、%Cおよび%Cが上記条件を満たす基油が使用できる。
【0011】
本発明に係る潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油。
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)。
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)。
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油。
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油。
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)。
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)。
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0012】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0013】
更に、本発明に係る潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油。
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0014】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0015】
上記水素化分解、水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0016】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
【0017】
本発明に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は6mm/s以下であることが必要であり、好ましくは5.0mm/s以下、特に好ましくは4.5mm/s以下、最も好ましくは4.2mm/s以下である。一方、当該動粘度は、1mm/s以上であることが必要であり、1.5mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは2mm/s以上、さらに好ましくは2.5mm/s以上、特に好ましくは3mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の100℃動粘度が6mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがあるため好ましくない。
【0018】
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1.5mm/s以上3.5mm/s未満、より好ましくは2.0〜3.0mm/sの潤滑油基油
(II)100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満、より好ましくは3.5〜4.1mm/sの潤滑油基油
(III)100℃における動粘度が4.5〜10mm/s、より好ましくは4.8〜9mm/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm/sの潤滑油基油。
【0019】
また、本発明に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは80mm/s以下、より好ましくは50mm/s以下、さらに好ましくは20mm/s以下、特に好ましくは18mm/s以下、最も好ましくは16mm/s以下である。一方、当該動粘度は、好ましくは6.0mm/s以上、より好ましくは8.0mm/s以上、さらに好ましくは12mm/s以上、特に好ましくは14mm/s以上、最も好ましくは15mm/s以上である。40℃動粘度が80mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがある。一方、6.0mm/s未満の場合には潤滑箇所での油膜形成が不十分となるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。また、本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(IV)40℃における動粘度が6.0mm/s以上12mm/s未満、より好ましくは8.0〜11mm/sの潤滑油基油
(V)40℃における動粘度が12mm/s以上28mm/s未満、より好ましくは13〜19mm/sの潤滑油基油
(VI)40℃における動粘度が28〜50mm/s、より好ましくは29〜45mm/s、特に好ましくは30〜40mm/sの潤滑油基油。
【0020】
上記潤滑油基油(I)および(IV)の粘度指数は、好ましくは120〜135、より好ましくは120〜130である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)の粘度指数は、好ましくは120〜160、より好ましくは125〜150、更に好ましくは135〜145である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)の粘度指数は、好ましくは120〜180、より好ましくは125〜160である。
【0021】
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は、120以上であることが好ましい。より好ましくは125以上、さらに好ましくは130以上、最も好ましくは140以上である。一方当該粘度指数は、160以下であることが好ましい。粘度指数が120未満であると、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が160を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0022】
また、本発明に係る潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)および(IV)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が−10℃よりも高いと、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0023】
また、本発明に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明に係る潤滑油基油における窒素分の含有量は特に制限されないが、好ましくは7質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。窒素分の含有量が7質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0025】
また、本発明に係る潤滑油基油の%Cは70以上であることが必要であり、好ましくは80〜99、より好ましくは85〜95、さらに好ましくは87〜94、特に好ましくは90〜94である。潤滑油基油の%Cが70未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0026】
また、本発明に係る潤滑油基油の%Cは2以下であることが必要であり、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下であり、最も好ましくは0である。潤滑油基油の%Cが2を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0027】
なお、本発明でいう%Cおよび%Cとは、それぞれASTMD 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。
【0028】
また、本発明に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、100℃における動粘度ならびに%Cおよび%Cが上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、好ましくは35質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、本発明によれば、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0029】
なお、本発明でいう飽和分とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により測定される。
また、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTMD 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0030】
また、本発明に係る潤滑油基油における芳香族分は、100℃における動粘度、%Cおよび%Cが上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。芳香族分の含有量が5質量%を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.1質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0031】
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0032】
本発明の潤滑油組成物においては、上記本発明に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明の目的および効果を阻害しない限りにおいて、本発明に係る潤滑油基油を他の基油の1種または2種以上と併用してもよい。なお、本発明に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明に係る潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0033】
本発明に係る潤滑油基油と併用することができる他の基油としては合成系基油が挙げられる。
合成系基油としては、ポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化物が挙げられる。
ポリ−α−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0034】
本発明において(A)成分として用いられる粘度指数向上剤は、少なくともポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマーの共重合体からなる。
【0035】
ポリオレフィンからなる高分子モノマーとは、具体的には炭素数2〜10のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ノルマルブテン、イソブテンなど、および/または炭素数2〜10のアルカジエン、例えばブタジエン、イソプレンなどを重合することによって合成されるものである。
この高分子モノマーの数平均分子量は500〜50000であり、好ましくは1500〜5000である。分子量が500より小さいと、モリブデン化合物の沈降を防ぐ効果が認められない。また分子量が50000を超えると、粘度指数向上効果が小さくなる。
【0036】
本発明における粘度指数向上剤において、もうひとつの必須モノマーである(メタ)アクリレートモノマーは、下記のアクリル系モノマー(C)〜(F)を所定割合で含有する。
(C):下記一般式(1)で表される構造を有し、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数1〜4のアルキル基であるアクリル系モノマー
(D):下記一般式(1)で表される構造を有し、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数5〜10であるアルキル基であるアクリル系モノマー
(E):下記一般式(1)で表される構造を有し、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数11〜18であるアルキル基であるアクリル系モノマー
(F):下記一般式(1)で表される構造を有し、式中のRが水素原子又はメチル基であり、Rが炭素数19〜30であるアルキル基であるアクリル系モノマー
【0037】
【化1】

【0038】
一般式(1)において、Rは水素又はメチル基、好ましくはメチル基、Rは炭素数1から30の炭化水素基を示す。
炭素数1から30の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等の炭素数1〜30のアルキル基等が挙げられる。
【0039】
(メタ)アクリレートモノマー混合物中におけるモノマー(C)の混合量は85質量%以下であることが好ましく、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。一方、15質量%以上含むことが好ましく、より25質量%以上が好ましく、さらに好ましくは35質量%以上が好ましい。モノマー(C)の混合量が85質量%を超えると溶解しにくくなり、また15質量%未満では粘度指数向上効果が小さい。
【0040】
(メタ)アクリレートモノマー混合物中におけるモノマー(D)の混合量は0〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0〜10質量%である。この割合は基油の構造と密接な関係があり、低温粘度を改善するために加えられる。本発明において使用される高度精製基油に対しては使用しなくても良い。
【0041】
(メタ)アクリレートモノマー混合物中におけるモノマー(E)の混合量は0〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜25質量%である。この割合は基油の構造と密接な関係があり、低温粘度を改善するために加えられる。モノマー(E)は使用される方が好ましいが、30質量%を超えて加えてもさらなる低温粘度低減効果は期待できない。
【0042】
(メタ)アクリレートモノマー混合物中におけるモノマー(F)の混合量は0〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0〜20質量%である。モノマー(F)の配合により粘度指数の向上が期待されるが、30質量%を超えて加えてもさらなる粘度指数向上効果は期待できない。
【0043】
また、上記(メタ)アクリレートモノマー(C)〜(F)に加えて、さらに下記一般式(2)で表されるモノマー(以下、「モノマー(G)」ともいう。)及び下記一般式(3)で表されるモノマー(以下、「モノマー(H)」ともいう。)から選ばれる少なくとも1種の塩基性窒素原子を有するモノマーを含むモノマー混合物を共重合させて得られるものであってもよい。モノマー(G)及び/又はモノマー(H)を用いると、得られるポリアクリレート系粘度指数向上剤による潤滑油組成物の分散性能が高められる。
【化2】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1を示す。]
【化3】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。]
【0044】
及びEで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等が例示できる。
【0045】
モノマー(G)及びモノマー(H)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0046】
モノマー(G)及び/又はモノマー(H)を使用する場合、モノマー(C)、(D)、(E)及び(F)の合計のモル量M−1に対する、モノマー(G)及び(H)の合計のモル量M−2の比(モル比)は、(M−1)/(M−2)=99.5/0.5〜80/20の範囲であることが好ましく、99/1〜90/10の範囲内であることがより好ましく、98/2〜95/5の範囲内であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、少なくともポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマーの共重合体であるが、これら以外のモノマーを共重合させたものも使用できる。共重合できればモノマーの構造に制限はないが、例としてはスチレン、ビニルトルエン、α―メチルスチレンやフマール酸エステル等が挙げられる。
【0048】
本発明に係る粘度指数向上剤において、ポリオレフィンからなる高分子モノマーから誘導される構造単位の割合は、共重合体基準で、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上である。また30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。ポリオレフィンからなる高分子モノマーから誘導される構造単位の割合が5質量%未満ではモリブデン化合物の沈降を防ぐ効果がなく、30質量%より多いと組成物の低温粘度特性の上昇が大きくなり、組成物として使用できない。
【0049】
本発明に係る粘度指数向上剤において、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位の割合は、共重合体基準で、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。また95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下である。(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位の割合が50質量%未満では粘度指数向上効果がなく、95質量%を超えるとポリオレフィンからなる高分子モノマーの量が少なくなりモリブデン化合物の沈降を防ぐ効果が消失する。
【0050】
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、少なくともポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマー、ならびに必要により用いられるこれら以外のモノマーとの共重合体であるが、これらのモノマーの混合物を共重合させる方法については特に制限はなく任意の方法で製造することができる。通常は、重合開始剤の存在下にラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0051】
また、本発明に用いられる粘度指数向上剤の重量平均分子量は、好ましくは50×10以下、より好ましくは20×10、更に好ましくは10×10以下である。また好ましくは1×10以上、より好ましくは2×10以上、更に好ましくは5×10以上である。重量平均分子量が50×10を超える場合、剪断安定性が悪く、必要な粘度を維持できない。逆に1×10未満の場合は、増粘効果が小さく、省燃費性能が不足する。
【0052】
また、本発明に係る粘度指数向上剤は、下記式(4)で表される100℃における動粘度の増粘効果aと下記式(5)で表される150℃におけるHTHS粘度の増粘効果cとの比(a/c)が5.3以下で、かつ、下記式(6)で表される40℃における動粘度の増粘効果bと下記式(5)で表される150℃におけるHTHS粘度の増粘効果cとの比(b/c)が12.7以下であることを満足する。
【0053】
a=X−X (4)
[式(4)中、aは100℃における動粘度の増粘効果を示し、Xは前記潤滑油基油と前記粘度指数向上剤3質量%との混合物の100℃における動粘度(単位:mm/s)を示し、Xは前記潤滑油基油の100℃における動粘度(単位:mm/s)を示す。]
【0054】
c=Y−Y (5)
[式(5)中、cは150℃におけるHTHS粘度の増粘効果を示し、Yは前記潤滑油基油と前記粘度指数向上剤3質量%との混合物の150℃におけるHTHS粘度(単位:mPa・s)を示し、Yは前記潤滑油基油の150℃におけるHTHS粘度(単位:mPa・s)を示す。]
【0055】
b=Z−Z (6)
[式(6)中、bは40℃における動粘度の増粘効果を示し、Zは前記潤滑油基油と前記粘度指数向上剤3質量%との混合物の40℃における動粘度(単位:mm/s)を示し、Zは前記潤滑油基油の40℃における動粘度(単位:mm/s)を示す。]
【0056】
粘度指数向上剤の増粘効果の比a/cは、上記の通り5.3以下であることが必要であり、5.2以下であることが好ましく、5.1以下であることがさらに好ましい。
【0057】
また、粘度指数向上剤の増粘効果の比b/cは、12.7以下であることが必要であり、12.2以下であることが好ましく、11.7以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、核磁気共鳴分析(13C−NMR)により得られるスペクトルにおいて、化学シフト29−31ppmの間のピークの合計面積(M1)と化学シフト64−66ppmの間のピークの合計面積(M2)の比、つまりM1/M2が7.0以下となるものが好ましい。
M1/M2はより好ましくは6.5以下であり、さらに好ましくは6.0以下であり、特に好ましくは5.5以下であり、最も好ましくは5.0以下である。また、好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは2.0以上であり、特に好ましくは2.5以上であり、最も好ましくは3.0以上である。M1/M2が7.0を超える場合は、有機モリブデンの溶解性が悪化するおそれがある。また、M1/M2が1.5未満の場合は、必要とする省燃費性が得られない恐れがある。
【0059】
なお、全ピークの合計面積に対する化学シフト29−31ppmの間のピークの合計面積(M1)の割合は、13C−NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定のβ分岐構造に由来する積分強度の割合を意味し、全ピークの合計面積に対する化学シフト64−66ppmの間のピークの合計面積(M2)の割合は、13C−NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造に由来する積分強度の割合を意味する。
すなわち、M1/M2はポリメタクリレート側鎖の特定のβ分岐構造と特定の直鎖構造の割合を意味する。
なお、13C−NMR測定にあたっては、サンプルとして試料0.5gに3gの重クロロホルムを加えて希釈したものを使用し、測定温度は室温、共鳴周波数は125MHzとし、測定法はゲート付デカップリング法を使用した。
【0060】
上記NMR装置により、下記の(a)〜(b)を測定する。下記の(a)/(b)がM1/M2である。
(a)化学シフト29−31ppmの積分強度の合計(特定のβ分岐構造に起因する積分強度の合計)、及び
(b)化学シフト64−66ppmの積分強度の合計(特定の直鎖構造に起因する積分強度の合計)
【0061】
本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%であり、好ましくは0.02〜16質量%、より好ましくは0.05〜14質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。粘度指数向上剤の含有量が0.01質量%より少なくなると、モリブデン化合物の沈殿を抑制する効果が減少する他、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化するおそれがある。また、20質量%よりも多くなると、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化するおそれがあり、さらには、製品コストが大幅に上昇する。
【0062】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的および効果を阻害しない限りにおいて、粘度指数向上剤として、前記した粘度指数向上剤に加えて、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体を、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等を更に含有することができる。
【0063】
本発明においては、上記粘度指数向上剤を用いることにより、高性能基油とモリブデン化合物と組み合わせても、モリブデン化合物の沈殿が発生しない長期に安定した性能を発揮する潤滑油組成物が形成される。
【0064】
本発明の潤滑油組成物においては、省燃費性能を高めるために、(B)成分として有機モリブデン化合物を含有する。
本発明で用いる有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0065】
また、有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることができる。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0066】
本発明において有機モリブデン化合物としてはモリブデンジチオカーバメートが特に好ましい。モリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0067】
本発明の潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物の含有量は、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で1000質量ppm以上であり、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1500質量ppm以下、特に好ましくは1300質量ppm以下である。その含有量が1000質量ppm未満の場合、省燃費効果が不十分となる。一方、含有量が2000質量ppmを超える場合、含有量に見合う省燃費効果が得られず、経済的に不合理である。また、本願の目的である潤滑油組成物の貯蔵安定性にも不十分となる可能性がある。
【0068】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的および効果を阻害しない限りにおいて、有機モリブデン化合物以外の他の摩擦調整剤を添加しても良い。
他の摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば無灰摩擦調整剤が挙げられる。
無灰摩擦調整剤としては、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。また下記一般式(7)および(8)で表される窒素含有化合物およびその酸変性誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物や、国際公開第2005/037967号パンフレットに例示されている各種無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0069】
【化4】

【0070】
一般式(7)において、Rは炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基、好ましくは炭素数10〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数10〜30の炭化水素基、より好ましくは炭素数12〜20のアルキル基、アルケニル基または機能性を有する炭化水素基、特に好ましくは炭素数12〜20のアルケニル基であり、RおよびR10は、それぞれ個別に、炭素数1〜30の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基または水素、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜10の炭化水素基または水素、さらに好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基または水素、より好ましくは水素であり、Xは酸素または硫黄、好ましくは酸素を示す。
【0071】
【化5】

【0072】
一般式(8)において、R11は炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基であり、好ましくは炭素数10〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数10〜30の炭化水素基、より好ましくは炭素数12〜20のアルキル基、アルケニル基または機能性を有する炭化水素基、特に好ましくは炭素数12〜20のアルケニル基であり、R12〜R14は、それぞれ個別に、炭素数1〜30の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基または水素、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜10の炭化水素基または水素、より好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基または水素、さらに好ましくは水素を示す。
【0073】
一般式(8)で表される窒素含有化合物としては、具体的には、炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するヒドラジドおよびその誘導体である。R11が炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基、R12〜R14が水素の場合、炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するヒドラジド、R11およびR12〜R14のいずれかが炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基であり、R12〜R14の残りが水素である場合、炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するN−ヒドロカルビルヒドラジド(ヒドロカルビルは炭化水素基等を示す)である。
【0074】
本発明の潤滑油組成物における有機モリブデン化合物以外の他の無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また3質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。摩擦調整剤としては、無灰摩擦調整剤の使用がより好ましい。
【0075】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0076】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネートまたはアルカリ土類金属フェネート、およびアルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩、塩基正塩または過塩基性塩等が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属系清浄剤またはアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましく用いられる。
【0077】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0078】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0079】
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0080】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0081】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0082】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。
【0083】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0084】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0085】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0086】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は組成物全量基準で、0.001〜10質量%が好ましい。
【0087】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は4〜12mm/sであることが好ましく、より好ましくは9mm/s以下、さらに好ましくは8mm/s以下、特に好ましくは7.8mm/s以下、最も好ましくは7.6mm/s以下である。また、好ましくは5mm/s以上、より好ましくは6mm/s以上、さらに好ましくは6.5mm/s以上、特に好ましくは7mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。100℃における動粘度が4mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、12mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0088】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は4〜50mm/sであることが好ましく、より好ましくは40mm/s以下、さらに好ましくは35mm/s以下、特に好ましくは32mm/s以下、最も好ましくは30mm/s以下である。また、好ましくは10mm/s以上、より好ましくは20mm/s以上、さらに好ましくは25mm/s以上、特に好ましくは27mm/s以上である。ここでいう40℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される40℃での動粘度を示す。40℃における動粘度が4mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、50mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0089】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、140〜300の範囲であることが好ましく、より好ましくは190以上、さらに好ましくは200以上、特に好ましくは210以上、最も好ましくは220以上である。本発明の潤滑油組成物の粘度指数が140未満の場合には、150℃のHTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらに−35℃における低温粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数が300を超える場合には、蒸発性が悪化するおそれがあり、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0090】
本発明の潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、5.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは5.0mPa・s以下、さらに好ましくは4.8mPa・s以下、特に好ましくは4.7mPa・s以下である。また、好ましくは3.0mPa・s以上、更に好ましくは3.5mPa・s以上、特に好ましくは4.0mPa・s以上、最も好ましくは4.2mPa・s以上である。ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。100℃におけるHTHS粘度が3.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、5.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0091】
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、3.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは3.0mPa・s以下、さらに好ましくは2.8mPa・s以下、特に好ましくは2.7mPa・s以下である。また、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは2.3mPa・s以上、さらに好ましくは2.4mPa・s以上、特に好ましくは2.5mPa・s以上、最も好ましくは2.6mPa・s以上である。ここでいう150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。150℃におけるHTHS粘度が2.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、3.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0092】
本発明の潤滑油組成物は、基油として精製度の高い高性能基油とモリブデン化合物を組み合わせた場合であっても、モリブデン化合物が沈殿することが無く、長期に安定した性能を有する。すなわち、本発明の潤滑油組成物は、0℃、4週間静置後においても油層の有機モリブデン濃度が変化しないという特徴を有している。
本発明の潤滑油組成物は、省燃費性と潤滑性に優れ、ポリ−α−オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いずとも、150℃のHTHS粘度を一定レベルに維持しながら、燃費向上にとって効果的である、潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃のHTHS粘度を著しく低減させたものである。このような優れた特性を有する本発明の潤滑油組成物は、省燃費ガソリンエンジン油、省燃費ディーゼルエンジン油等の省燃費エンジン油として好適に使用することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0094】
(実施例1〜2、比較例1〜2)
表1に示すように、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜2)および比較用の潤滑油組成物(比較例1〜2)を調製した。なお、表1において、粘度指数向上剤および添加剤の添加量(質量%)は潤滑油組成物全量基準によるものである。
これらの組成物について、新油、および0℃、4週間静置後における油層の有機モリブデン濃度の変化について試験を行った。その結果を表1に示す。
【0095】
試験方法は以下のとおりである。
(1)サンプルを100mlスクリュー管2本にそれぞれ90ml注入する。
(2)1本のサンプル管を0℃恒温槽内、他の1本を室温で4週間静置する。
(3)0℃恒温槽で4週間静置したサンプルは、取り出した後、直ちに上澄み液を採取する。
(4)0℃恒温槽で4週間静置後の上澄み液および室温4週間静置後のサンプルをICP分析でMoを定量分析する。
【0096】
【表1】

【0097】
表1より、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜2)は、0℃、4週間静置後においても油層の有機モリブデン濃度は変化せず、有機モリブデン化合物との溶解性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の潤滑油組成物は、長期に安定した性能を発揮し、省燃費性に優れており産業上の価値は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度が1〜6mm/sであり、かつ、%Cが70以上、%Cが2以下である潤滑油基油に、(A)少なくともポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマーの共重合体である粘度指数向上剤、および(B)有機モリブデンをモリブデン量で1000質量ppm以上含有してなる潤滑油組成物。
【請求項2】
前記粘度指数向上剤が、100℃における動粘度の粘度増加効果aと150℃におけるHTHS粘度の粘度増加効果cの比(a/c)が5.3以下で、かつ、40℃における動粘度の粘度増加効果bと150℃におけるHTHS粘度の粘度増加効果cの比(b/c)が12.7以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記粘度指数向上剤が、核磁気共鳴分析(13C−NMR)により得られるスペクトルにおいて、化学シフト29−31ppmの間のピークの合計面積(M1)と化学シフト64−66ppmの間のピークの合計面積(M2)の比(M1/M2)が7.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−201806(P2012−201806A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68067(P2011−68067)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】