説明

潤滑油組成物

【課題】少ないモリブデン量で摩擦低減性に優れる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油に、(A)一般式(1)で示されるリン酸エステルの金属塩および(B)モリブデン元素と硫黄元素の比が1:3.5以上である有機モリブデン化合物を含有させて成る潤滑油組成物。


(式中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基、または炭素数1〜30のアルキル基からなるアルキルチオエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、それぞれ硫黄または酸素を示し、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素であり、Yは金属元素を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な潤滑油組成物に関し、詳しくはリン酸エステルの金属塩と特定構造のモリブデン系摩擦調整剤を基油に配合することにより製造される、優れた摩擦低減性を有する潤滑油組成物に関する。特に内燃機関用潤滑油として好適に用いられる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や自動変速機、グリースなどには、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)は内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求される。したがって、従来のエンジン油にはこうした要求性能を満たすため、摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている(例えば、特許文献1〜3を参照。)。また、省燃費エンジン油では、潤滑油が関与する摩擦部分でのエネルギー損失が大きいため、摩擦損失低減や燃費低減対策として、摩擦調整剤(FM:フリクションモディファイヤ)を初め、各種添加剤を組み合わせた潤滑油も使用されている(例えば、特許文献4を参照。)。中でもジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)とモリブデン系化合物との併用した摩擦低減技術が最も一般的であるが、この場合、モリブデン系化合物を比較的に多量に配合しないと優れた摩擦低減性能が得られない。
さらに、モリブデン化合物もZDTPも内燃機関用潤滑油に使用された場合、金属系であるがゆえに、排気ガスの後処理システムを汚染し、その浄化効率を低下させるという不具合がある。またモリブデン化合物を大量に使用すると、劣化によるデポジット増大や、シール材へ悪影響を及ぼす可能性もあり、その使用はできるだけ少ない量で十分な摩擦低減効果が発揮されることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−279287号公報
【特許文献2】特開2002−129182号公報
【特許文献3】特開平08−302378号公報
【特許文献4】特開平06−306384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低濃度モリブデン量でも優れた摩擦低減性が得られる内燃機関、自動変速機、グリースなどの潤滑油、特に内燃機関用潤滑油として好適に用いられる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題について鋭意研究した結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、潤滑油基油に、(A)一般式(1)で示されるリン酸エステルの金属塩および(B)モリブデン元素と硫黄元素の比が1:3.5以上である有機モリブデン化合物を含有させて成る潤滑油組成物に関する。
【化1】

(式中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基、または炭素数1〜30のアルキル基からなるアルキルチオエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、それぞれ硫黄または酸素を示し、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素であり、Yは金属元素を示す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、少ないモリブデン量で、潤滑油の性能低下抑制や、排気ガスの後処理装置への悪影響の低減、さらには低コストで、混合潤滑条件下での摩擦を十分に低減することができ、摩擦損失低減や燃費低減性に優れる潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について説明する。
【0008】
本発明の潤滑油組成物において用いられる潤滑油基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)としては、鉱油系基油および/または合成油系基油が挙げられる。
【0009】
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などが挙げられる。
【0010】
鉱油系基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(7)及び/又はこの基油(1)〜(7)から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
【0011】
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(2)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(3)基油(1)〜(2)から選ばれる1種又は2種以上の混合油及び/又は当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる2種以上の混合油
(5)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸残渣油の脱れき油(DAO)
(6)基油(5)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(7)基油(1)〜(6)から選ばれる2種以上の混合油。
【0012】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸又はアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0013】
鉱油系基油としては、下記で示される基油(8)が特に好ましい。
(8)上記基油(1)〜(7)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油。
なお、上記(8)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0014】
また、鉱油系基油における硫黄分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0015】
また、鉱油系基油の%Cは2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下であり、最も好ましくは0である。%Cが2を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0016】
本発明に係る潤滑油基油として合成系基油を用いても良い。合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0017】
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は、110以上であることが好ましい。より好ましくは120以上、さらに好ましくは125以上である。また160以下であることが好ましい。粘度指数が110未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が160を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0018】
本発明に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は10mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは6mm/s以下、さらに好ましく5.0mm/s以下、特に好ましくは4.5mm/s以下、最も好ましくは4.2mm/s以下である。一方、当該動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、1.5mm/s以上であることがより好ましく、さらに好ましくは2mm/s以上、特に好ましくは2.5mm/s以上、最も好ましくは3mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の100℃動粘度が6mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがあるため好ましくない。
【0019】
本発明の潤滑油組成物においては、上記本発明に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明に係る潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明に係る潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0020】
本発明に係る潤滑油基油と併用される他の基油については特に制限されるものではないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が10mm/sを超え200mm/s以下の、溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう鉱油などが挙げられる。また、合成系基油としては、100℃における動粘度が1〜10mm/sの範囲外となる合成系基油が挙げられる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物における(A)成分は、一般式(1)で表されるリン酸エステルの金属塩である。
【0022】
【化2】

【0023】
ここで、一般式(1)中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基、または炭素数1〜30のアルキル基からなるアルキルチオエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、それぞれ硫黄または酸素を示し、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素であり、Yは金属元素を示す。
【0024】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基またはアルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0025】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0026】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。
また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0027】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0028】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。
上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0029】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数が4〜8の直鎖型のアルキル基である。
【0030】
上記Yで示される金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属が挙げられる。これらの中では亜鉛、モリブデン、カルシウム等のアルカリ土類金属が好ましい。特に亜鉛が好ましい。
なお、上記リン化合物の金属塩としては、金属の価数に応じリン化合物の配位数が異なり、例えば、2価の亜鉛、カルシウムでは、1つの金属原子に対しリン化合物が2つ配位する錯体を形成すると考えられる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物において(A)成分の含有量は、組成物全量基準でリン元素換算量として0.005質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上であり、一方、その含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。(A)成分の含有量が、リン元素として0.005質量%未満の場合は、耐摩耗性に対して効果がなく、0.5質量%を超える場合は、リンによる排ガス後処理装置への悪影響が懸念されるため、それぞれ好ましくない。
【0032】
なお、本発明における上記(A)成分のうち、硫黄を含有する化合物についても、上記リン元素量の範囲内で含有させることができるが、好ましくは、その含有量は、硫黄元素換算量で、0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.08質量%以下である。
NOx雰囲気下における塩基価維持性を極めて向上させるために、また本発明の摩擦低減効果を発揮させるためにも硫黄を含有する化合物を含有しないことが最も好ましい。
【0033】
本発明の潤滑油組成物における(B)成分は、モリブデン元素と硫黄元素の比が1:3.5以上である有機モリブデン化合物である。
かかる(B)成分として用いられる有機モリブデン化合物としては、(B1)硫化モリブデンジチオカーバメートおよび(B2)硫化モリブデンジチオホスフェートを挙げることができる。また(B3)油溶性の三核モリブデン−イオウ化合物を挙げることができる。
【0034】
本発明における(B1)硫化モリブデンジチオカーバメートは、次の一般式(2)で表される有機モリブデン化合物であって、化合物中のモリブデン元素に対する硫黄元素の比率が3.5以上の化合物である。
【0035】
【化3】

【0036】
上記(2)式中、R、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基又は炭素数6〜24、好ましくは炭素数8〜15のアリール基(アルキルアリール基を含む)等の炭化水素基を示す。また、X、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0037】
アルキル基の好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる、全ての置換異性体が含まれる。
【0038】
(B1)硫化モリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これら硫化モリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0039】
本発明における(B2)硫化モリブデンジチオホスフェートは、次の一般式(3)で表される有機モリブデン化合物であって、化合物中のモリブデン元素に対する硫黄元素の比率が3.5以上の化合物である。
【0040】
【化4】

【0041】
上記(3)式中、R、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基(アルキルアリール基を含む)等の炭化水素基を示す。また、Y、Y、Y及びYは同一でも異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0042】
アルキル基として好ましい例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる全ての置換異性体が含まれる。
【0043】
(B2)硫化モリブデンジチオホスフェートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これら硫化モリブデンジチオホスフェートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0044】
本発明における(B3)油溶性の三核モリブデン−イオウ化合物は、次の一般式(4)で表される有機モリブデン化合物であって、化合物中のモリブデン元素に対する硫黄元素の比率が3.5以上の化合物である。
Mo (4)
【0045】
式(4)中、Lは、化合物を油中に溶解又は分散させるのに十分な数の炭素原子の有機基を有する配位子であり、nは1〜4である。nが2〜4の場合、Lは同一でも異なっていても良い。また、kは4〜7であり、Qは水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテル等の中性の電子供与化合物の群から選択され、zは0〜5であり、非化学量論量の値を含む。zが2〜5の場合、Qは同一でも異なっていても良い。
【0046】
Lは、−X−R、−(X1)(X2)CR、−(X1)(X2)CYR、−(X1)(X2)CN(R1)(R2)、または−(X1)(X2)P(OR1)(OR2)及びそれらの混合物、及びそれらのペルチオ誘導体からなる群から独立して選択されうる。ここで、X、X1、X2およびYは酸素及び硫黄からなる群から独立して選択され、R、R1およびR2は水素及び有機基(同種でも異種でもよい。)から独立して選択される。好ましくは、有機基は、アルキル(例えば、配位子の残部に結合している炭素原子が第一、第二または第三であるアルキル)、アリール、置換アリール及びエーテル基のような炭化水素基である。さらに好ましくは、すべての配位子が同一である。
【0047】
配位子の有機基は、化合物を油中に溶解又は分散させるために十分な数の炭素原子を有することが必要である。例えば、各基中の炭素原子数は、一般的には1〜100、好ましくは1〜30、さらに好ましくは4〜20である。好ましい配位子には、ジアルキルジチオホスファート、アルキルキサンタート、及びジアルキルジチオカーバメートが含まれ、これらの中ではジアルキルジチオカーバメートが特に好ましい。2種以上の前記官能基を含む有機配位子もまた配位子として機能し、1以上のコアを結合することができる。本発明の化合物の形成には、コアの電荷のバランスをとるために適する電荷を有する配位子を選択するのが好ましい。
【0048】
(B)成分としては、硫化モリブデンジチオカーバメートや硫化モリブデンジチオホスフェート、油溶性の三核モリブデン−イオウ化合物をそれぞれ単独で使用できるが、硫化モリブデンジチオカーバメートがその効果やリンを含まない点でより好ましい。また配位子にリン化合物を含んでいない油溶性の三角モリブデン−イオウ化合物も好ましい。さらにはこの配位子がジアルキルジチオカーバメートであることがさらに好ましい。
しかし性能の面から(B1)硫化モリブデンジチオカーバメートに(B2)硫化モリブデンジチオホスフェートを混合使用することも有効である。この場合、(B1)成分と(B2)成分の含有量の合計に対する(B1)成分の含有量の比率は、モリブデン元素量換算で、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜95質量%、更に好ましくは70〜95質量%である。
【0049】
本発明の潤滑油組成物においては、(B)成分中のモリブデン元素と硫黄元素の比率は、モリブデン元素1に対して硫黄元素3.5以上であることが必要であり、好ましくは4以上、より好ましく5以上である。モリブデン元素に対する硫黄元素の比率が3.5未満の場合は、低摩擦性が低下する。
【0050】
本発明の潤滑油組成物における(B)成分の含有量は、摩擦低減効果の観点から、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素量換算で、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上、特に好ましくは200質量ppm以上である。一方、潤滑油基油への溶解性、貯蔵安定性および酸化安定性、さらには経済性の観点から、好ましくは600質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは300質量ppm以下である。なお、(B)成分の含有量が600質量ppmを超えると、特に、潤滑油基油としてポリα−オレフィン又はその水素化物を用いる場合に、十分な溶解性が得られず、長期貯蔵に際し沈殿する恐れがある。さらには経済性の面からも好ましくない。
【0051】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤、摩耗防止剤(又は極圧剤)、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0052】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属またはアルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩又は塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられるが、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【0053】
なかでもアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤(以下、金属サリシレート系清浄剤という。)が摩擦低減の面から好ましい。
金属サリシレート系清浄剤は、サリチル酸に等モルの炭化水素基(例えば炭素数8〜30のオレフィン)を付加させたサリチル酸、又は、フェノールに等モル炭化水素基(例えば炭素数8〜30のオレフィン)を付加させ、次いで炭酸ガス等によりカルボキシル化させた、炭素数8〜30の炭化水素基を1つ有するサリチル酸に、当量の金属塩や金属塩基等を作用させて得られる中性サリチル酸金属塩、さらには当該中性サリチル酸金属塩に過剰の金属塩又は金属塩基(金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩、前記中性のサリチル酸金属塩の存在下において炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩と金属の水酸化物等の塩基とを反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)などが挙げられる。なお、これらの(過)塩基化の反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われる。
【0054】
サリシレートを合成する際に用いられる炭素数8〜30のオレフィンは、通常、炭素数8〜19のオレフィンのグループと炭素数20〜30のオレフィンのグループとに大別され、それぞれの炭化水素基が付加したサリチル酸が合成される。
炭化水素基は、エチレン、プロピレン、ブチレン等の重合体又は共重合体等から誘導されるアルキル基、特にエチレン重合体等の直鎖α−オレフィンから誘導されるアルキル基であることが好ましい。
【0055】
本発明では、金属サリシレート系清浄剤として、炭素数8〜19の炭化水素基(例えば炭素数8〜19のアルキル基)を有するサリチル酸金属塩(以下、場合により「サリチル酸金属塩C−a」ともいう)又は炭素数20〜30の炭化水素基(例えば炭素数20〜30のアルキル基)を有するサリチル酸金属塩(以下、場合により「サリチル酸金属塩C−b」ともいう)の一方を単独で、又は双方を組み合わせて使用することができる。摩擦低減の観点からはサリチル酸金属塩C−bが好ましい。一方、貯蔵安定性、低温流動性を相乗的に改善できる観点から、サリチル酸金属塩C−aとサリチル酸金属塩C−bとを併用することももちろん可能である。
【0056】
金属サリシレート系清浄剤は、通常、溶剤や潤滑油基油等の希釈剤中で反応させて得られるが、そのようにして得られた金属サリシレート系清浄剤の金属含有量は、金属サリシレート系清浄剤全量を基準として、下限値は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは5.0質量%以上、特に好ましくは7.0質量%以上である。また、上限値は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0057】
金属サリシレート系清浄剤の塩基価は、下限値として、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは100mgKOH/g以上、さらに好ましくは150mgKOH/g以上、特に好ましくは200mgKOH/g以上に調整されてなる過塩基性サリシレート系清浄剤を主成分として用いることが望ましい。また、上限値は、好ましくは400mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、さらに好ましくは250mgKOH/g以下に調整されてなる過塩基性サリシレート系清浄剤を主成分として用いることがより好ましい。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0058】
また、金属サリシレート系清浄剤の金属比は特に制限されず、通常20以下のものを1種又は2種以上混合して使用できる。当該金属比は、好ましくは金属比が4.5未満、より好ましくは3以下である。なお、ここでいう金属比とは、(サリシレート系清浄剤における金属元素の価数)×(金属元素含有量(モル%))/(せっけん基含有量(モル%))で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはサリチル酸基を意味する。
【0059】
本発明の潤滑油組成物に金属サリシレート系清浄剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは、0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。また、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。含有量が0.1質量%に満たない場合には、摩擦低減効果が短期間しか持続しないおそれがあり、また15質量%を超える場合には、含有量に見合った効果が得られないおそれがある。また、金属量の下限値として好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上である。また、上限値として好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。金属量が0.01質量%に満たない場合には、摩擦低減効果が短期間しか持続しないおそれがあり、また1.5質量%を超える場合には、含有量に見合った効果が得られないおそれがある。
【0060】
無灰分散剤としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0061】
無灰分散剤が有するアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にあり、一方、400を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0062】
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した一般式(5)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した一般式(6)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれる。
【化5】

【0063】
一般式(5)において、Rは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
一般式(6)において、R10及びR11は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、ポリブテニル基であることが好ましい。qは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0064】
本発明の潤滑油組成物は、モノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミドのいずれか一方を含有してもよく、あるいは双方を含有してもよい。
【0065】
コハク酸イミドの製造方法は特に制限されないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0066】
本発明においては、上記コハク酸イミド及び/又はその誘導体の中から選ばれる任意のものが使用可能であるが、その重量平均分子量は、6,500以上が好ましく、より好ましくは7,000以上、さらに好ましくは8,000以上、特に好ましくは9,000以上である。重量平均分子量が6,500未満では、非極性基のポリブテニル基の分子量が小さくスラッジの分散性に劣り、また、酸化劣化の活性点となる恐れのある極性基のアミン部分が相対的に多くなって酸化安定性に劣るため、長寿命化効果は得られないと考えられる。一方、上限値は特に制限はないが、低温粘度特性の悪化を防止する観点から、20,000以下であることが好ましく、15,000以下であることがより好ましい。
なお、ここでいう重量平均分子量とは、ウォーターズ製の150−C ALC/GPC装置に東ソー製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量のことである。
【0067】
また、無灰分散剤として、ベンジルアミンを用いることもできる。好ましいベンジルアミンとしては、具体的には、下記の一般式(7)で表される化合物等が例示できる。
【化6】

【0068】
一般式(7)において、R12は、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、rは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0069】
ベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
【0070】
上記ポリアミンとしては、より具体的には、下記の一般式(8)で表される化合物等が例示できる。
13−NH−(CH2CH2NH)−H (8)
一般式(8)において、R13は、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、sは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0071】
ポリアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
【0072】
また、その他の誘導体としては、具体的には、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート(例、炭酸エチレン)、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンカーボネート等の含酸素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した有機酸等による変性化合物、前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた、硫黄変性化合物等が挙げられる。またホウ素化合物で変性したものも挙げられる。
【0073】
しかし、本発明の潤滑油組成物において、無灰分散剤としてはホウ素化されていない上述の窒素系化合物が好ましい。
【0074】
本発明の潤滑油組成物が無灰分散剤を含有する場合、無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が0.01質量%未満の場合は、摩擦低減性向上効果が不十分となるおそれがあり、一方、20質量%を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するおそれがある。
【0075】
粘度指数向上剤は、具体的には非分散型又は分散型エステル基含有粘度指数向上剤であり、例として非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、非分散型又は分散型オレフィン−(メタ)アクリレート共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤及びこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でも非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。特に非分散型又は分散型ポリメタクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。
粘度指数向上剤としては、その他に、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
【0076】
摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、MoDTC、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0077】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0078】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0079】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0080】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0081】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0082】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0083】
これらの添加剤を本発明に係る潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれの含有量は、潤滑油組成物全量基準で、消泡剤については0.0005〜1質量%、その他の添加剤については通常0.01〜10質量%の範囲から選ばれる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
(実施例1〜8、比較例1〜5)
本発明に係る潤滑油組成物(実施例1〜8)および比較のための潤滑油組成物(比較例1〜5)を調製した。これらの組成物につき、往復動摩擦試験機(SRV,油温:110℃、荷重:400N、時間:30min)を用いて摩擦試験を行い、その結果を表1に示した。
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜8の潤滑油組成物は、基準油対比の摩擦係数改善率に優れ、(A)成分もしくは(B)成分を含有していない比較例1〜5の組成物に対し、摩擦低減性に大幅に優れることがわかる。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の潤滑油組成物は、摩擦低減効果が求められる潤滑油一般に使用できる、自動車用の変速機や終減速機用ギヤ油、さらには二輪車用、四輪車用、発電用、コジェネレーション用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関に特に好適に使用でき、船舶用、船外機用の各種エンジンに対しても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(A)一般式(1)で示されるリン酸エステルの金属塩および(B)モリブデン元素と硫黄元素の比が1:3.5以上である有機モリブデン化合物を含有させて成る潤滑油組成物。
【化1】

(式中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基、または炭素数1〜30のアルキル基からなるアルキルチオエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。X、X、XおよびXは、それぞれ硫黄または酸素を示し、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素、XおよびXはどちらか一方が酸素、または全て酸素であり、Yは金属元素を示す)
【請求項2】
式(1)中のR〜Rが、それぞれ炭素数4〜8の直鎖型のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
ホウ素を含まない無灰分散剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−246362(P2012−246362A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117733(P2011−117733)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】