説明

潤滑油組成物

【課題】有機溶剤を用いることなく調製した場合にあっても、潤滑剤の流動性、耐荷重性、摩擦特性を損なうことなく、基油に分散させた固体潤滑剤の分散状態を良好に長時間保持することを可能とする潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】合成炭化水素油およびエステル系合成油の少くとも一種からなる基油に、黒鉛、二硫化モリブデンまたはメラミンシアヌレートである固体潤滑剤を組成物中0.1〜5重量%の割合で含有させ、さらに固体潤滑剤量に対して重量比で0.10〜0.50となる量のリチウム系石けん、リチウム系複合石けんまたはウレア系化合物を配合してなり、軸受、ブッシュ、チューンオイルまたはギヤーオイル用途に用いられる潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。さらに詳しくは、固体潤滑剤の良好な分散状態を長時間保持しうる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、摺動部分に使用される潤滑油には、摩擦・摩耗特性の良好なことが要求されており、かかる要求に対して一般的には油性剤、摩耗防止剤、極圧剤を単独または複数配合することが行われている。これらの潤滑油組成物は、金属-金属、金属-樹脂、樹脂-樹脂間の摺動部に使用され、回転、往復動、揺動などの摺動に際し、焼付け、トルク上昇などの不具合なく円滑に行うことを目的に使用されるが、一方で金属、樹脂などの摺動部材に対して、金属の腐食やスラッジの発生や樹脂のクラックや割れの発生などの悪影響を及ぼすことが少なくないといった問題がある。
【0003】
これに対して、潤滑油に、化学的に比較的安定で、層状構造により摩擦特性および極圧性能を発揮する固体潤滑剤として、例えばポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を用いることが行われている。このPTFEは、金属あるいは樹脂を侵す心配がないものの、比重が約2.2と大きく、基油中に分散させた場合に、容易に沈降してしまうといった問題がある。
【0004】
かかる問題に対して、潤滑油、固体潤滑剤、有機溶剤にさらにワックスを添加することで、固体潤滑剤などの沈降・分離を防止もしくは軽減した、取り扱いやすく、経済性に優れた潤滑油組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2002−020775号公報
【0005】
しかるに、かかる潤滑油組成物は、基油およびPTFEを有機溶剤に分散させ、ディスパージョンの状態で適用部材に塗布し、その後有機溶剤を揮発させることによって潤滑性被膜を形成しなければならず、操作が煩雑であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、有機溶剤を用いることなく調製した場合にあっても、潤滑剤の流動性、耐荷重性、摩擦特性を損なうことなく、基油に分散させた固体潤滑剤の分散状態を良好に長時間保持することを可能とする潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、合成炭化水素油およびエステル系合成油の少くとも一種からなる基油に、黒鉛、二硫化モリブデンまたはメラミンシアヌレートである固体潤滑剤を組成物中0.1〜5重量%の割合で含有させ、さらに固体潤滑剤量に対して重量比で0.10〜0.50となる量のリチウム系石けん、リチウム系複合石けんまたはウレア系化合物を配合してなり、軸受、ブッシュ、チューンオイルまたはギヤーオイル用途に用いられる潤滑油組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、有機溶剤を用いることなく調製したうえで、リチウム系(複合)石けんまたはウレア系化合物を添加することで、固体潤滑剤の分散状態を良好に長時間保持することが可能であり、さらには潤滑剤の流動性、耐荷重性、摩擦特性を損なうことがないといったすぐれた効果を奏する。かかる効果を奏する本発明の潤滑油組成物は、金属製あるいは樹脂製のいずれの摺動部材に対しても悪影響を及ぼすことが無く、これらの部材に対して有効に適用することができる。また、この潤滑油組成物は、有機溶剤に分散させてディスパージョンあるいはスプレーとしても使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
固体潤滑剤としては、黒鉛(比重約2.2)、二硫化モリブデン(比重約4.9)またはメラミンシアヌレート(MCA;比重約1.5)が用いられる。これらの固体潤滑剤は、組成物中0.1〜5重量%、好ましくは0.3〜3重量%を占めるような割合で用いられる。固体潤滑剤が、これ以下の割合で用いられると固体潤滑剤の効果が十分に発揮されず、一方これ以上の割合で用いられると潤滑油組成物の粘度が高くなりすぎてしまい、流動性が失われてしまうようになる。
【0010】
基油としては、合成炭化水素油およびエステル系合成油の少くとも一種が、好ましくはこれらの混合油が用いられる。合成炭化水素油としては、ポリα-オレフィン、エチレン-α-オレフィンコオリゴマー、ポリブテンまたはこれらの水素化物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が、エステル系合成油としては、ポリオールエステル、二塩基性脂肪酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭酸エステル等がそれぞれ例示される。これら二種の基油が混合して用いられる場合には、エステル系合成油が約60〜95重量%の割合で用いられることが好ましい。
【0011】
これらの基油は、40℃における動粘度(JIS K2283準拠)が約20〜800mm2/秒のものが一般に用いられる。このうち軸受、ブッシュ用途にあっては、約20〜250mm2/秒、好ましくは約20〜100mm2/秒のものが用いられ、またチェーンオイル、ギヤオイルなどあまり低温性を必要とはせず、耐熱性を重視する用途にあっては、約100〜800mm2/秒、好ましくは約100〜400mm2/秒のものが用いられる。ここで、軸受用途としてこれ以上の動粘度の基油を用いると、低温流動性が悪化し、低温域でのトルクの上昇が生じるようになり、一方これ以下の動粘度の基油を用いると、揮発性の点で十分ではなく、さらに高温条件下において十分な油膜を保持することができない。また、あまり低温性を必要とはせず、耐熱性を重視する用途にあっては、これ以上の動粘度の基油を用いると、耐熱性の点では満足されるものの、広範な使用温度範囲内において良好な摺動特性を得るという観点からは好ましくなく、一方これ以下の動粘度の基油を用いると、耐熱性を十分に満足させることができない。
【0012】
固体潤滑剤を0.1〜5重量%で含有する潤滑油組成物中には、リチウム系(複合)石けんまたはウレア系化合物が、固体潤滑剤に対して重量比で0.10〜0.50となるような割合で用いられる。リチウム系(複合)石けんまたはウレア系化合物が、固体潤滑剤に対してこれ以下の割合で用いられると、十分な分散安定性を得ることができず、一方これ以上の割合で用いられると、固体潤滑剤の摩擦低減効果および耐荷重性向上効果が損なわれてしまうため、好ましくない。
【0013】
リチウム系石けんとしては、(a)炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸および/または少くとも1個のヒドロキシル基を含む炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸のリチウム塩、好ましくは12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩が、またリチウム系複合石けんとしては、(a)成分脂肪族モノカルボン酸2種以上のリチウム系複合石けんまたは(a)成分脂肪族モノカルボン酸と(b)炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸またはそのジエステルおよび炭素数7〜24の芳香族モノカルボン酸またはそのエステルの少くとも一種とのリチウム系複合石けんが用いられる。また、ウレア系化合物としては、ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ウレア樹脂等、好ましくはジウレア化合物が用いられる。ジウレア化合物としては、具体的には下記一般式で表されるものなどが挙げられる。
R1NHCONHR2NHCONHR1
R1:炭素数6〜24の1価の脂肪族炭化水素基または
炭素数6〜15の1価の芳香族炭化水素基
R2:炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基
【0014】
組成物中には、予め潤滑油に添加する形で、さらに従来潤滑油に添加されている酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤等のその他の添加剤を必要に応じて添加し、潤滑油剤を形成させることができる。酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェノール、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系の酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系の酸化防止剤、さらにはリン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0015】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸アミン、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、また腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
【0016】
極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等のイオウ系化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等のイオウ系化合物金属塩、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物などが挙げられる。
【0017】
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド、モンタンワックス、アミド系ワックス等が挙げられる。また、他の固体潤滑剤としては、例えば窒化ホウ素、窒化シラン等が挙げられる。
【0018】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-イソプレン共重合体水素化物等が挙げられる。
【0019】
組成物の調製は、基油に予め他の必要な添加剤を添加した潤滑油剤に固体潤滑剤、リチウム系(複合)石けんまたはウレア系化合物を所定量添加し、ホモミキサ、3本ロールまたは高圧ホモジナイザで十分に混練する方法等によって行われる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0021】
参考例1
ペンタエリスリトールC6〜C9カルボン酸エステル 87.1重量%
(コグニス製品、40℃動粘度;23mm2/秒)
合成炭化水素油(イノビーン製品PAO 6、40℃動粘度;31mm2/秒) 10.3重量%
合成炭化水素油(同社製品PAO 40、40℃動粘度;390mm2/秒) 2.6重量%
よりなる混合基油97.9重量部にペンタエリスリトールC6〜C9カルボン酸エステル中にて合成したPMA系粘度指数向上剤(Mw=250,000)1.0重量部、アミン系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製品イルガノックスL57)1.0重量部およびベンゾトリアゾール系金属不活性化剤0.1重量部をホモミキサで配合して、潤滑油剤Aを調製した。この潤滑油剤Aの40℃動粘度は25.3mm2/秒、150℃、100時間の蒸発損失は、18.1重量%であった。
【0022】
この潤滑油剤A 98.5重量部に、固体潤滑剤としてのPTFE(乳化重合法ポリテトラフルオロエチレン;平均一次粒子径0.2μm;Mn約100,000〜200,000)1重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩0.5重量部(固体潤滑剤に対する重量比0.50)を混合して潤滑油組成物を調製した。なお、以下の各実施例および比較例でも、同じ粘度指数向上剤、酸化防止剤、金属不活性化剤およびPTFEが用いられた。
【0023】
参考例2
参考例1において、潤滑油剤A量が98.9重量部に、また12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩量が0.1重量部(同重量比0.10)にそれぞれ変更されて潤滑油組成物が調製された。
【0024】
参考例3
参考例1において、潤滑油組成物として潤滑油剤A 93.0重量部、PTFE 5重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩2重量部(同重量比0.40)を混合したものが用いられた。
【0025】
参考例4
トリメチロールプロパンC8〜C12カルボン酸エステル 72.9重量%
(コグニス製品、40℃動粘度;18mm2/秒)
合成炭化水素油(PAO 6、40℃動粘度;31mm2/秒) 20.8重量%
合成炭化水素油(PAO 40、40℃動粘度;390mm2/秒) 6.3重量%
よりなる混合基油90.9重量部にPMA系粘度指数向上剤8.0重量部、アミン系酸化防止剤1.0重量部およびベンゾトリアゾール系金属不活性化剤0.1重量部を配合して、潤滑油剤Bを調製した。この潤滑油剤Bの40℃動粘度は60.3mm2/秒、150℃、100時間の蒸発損失は、21.5重量%であった。
【0026】
この潤滑油剤B 96.7重量部に、PTFE 3重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩0.3重量部(同重量比0.10)を混合して潤滑油組成物を調製した。
【0027】
参考例5
合成炭化水素油(イノビーン製品PAO 10、40℃動粘度;68mm2/秒) 98.9重量%
アミン系酸化防止剤 1.0重量%
ベンゾトリアゾール系金属不活性化剤 0.1重量%
を配合して、潤滑油剤Cを調製した。この潤滑油剤Cの40℃動粘度は69.1mm2/秒、150℃、100時間の蒸発損失は、34.5重量%であった。
【0028】
この潤滑油剤C 98.5重量部に、PTFE 1重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩0.5重量部(同重量比0.50)を混合して潤滑油組成物を調製した。
【0029】
参考例6
参考例1において、潤滑油組成物として潤滑油剤A 96.5重量部、PTFE 3重量部およびジウレア化合物(トリレンジイソシアネートとアニリンとの反応生成物)0.5重量部(同重量比0.17)を混合したものが用いられた。
【0030】
参考例7
参考例4において、潤滑油組成物として潤滑油剤B 94.0重量部、PTFE 5重量部および複合脂肪酸リチウム塩(12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとアゼライン酸との複合石けん)1重量部(同重量比0.20)を混合したものが用いられた。
【0031】
参考例8
アジピン酸ジトリデシル(大八化学製品、40℃動粘度;24mm2/秒) 98.9重量%
アミン系酸化防止剤 1.0重量%
ベンゾトリアゾール系金属不活性化剤 0.1重量%
を配合して、潤滑油剤Dを調製した。この潤滑油剤Dの40℃動粘度は24.9mm2/秒、150℃、100時間の蒸発損失は、25.0重量%であった。
【0032】
この潤滑油剤D 98.9重量部に、PTFE 1重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩0.1重量部(同重量比0.10)を混合して潤滑油組成物を調製した。
【0033】
参考例9
トリメチロールプロパンC8〜C12カルボン酸エステル 65.0重量%
(コグニス製品、40℃動粘度;18mm2/秒)
ポリブテン 30.0重量%
アミン系酸化防止剤 2.5重量%
C12ジチオリン酸亜鉛塩 2.5重量%
を配合して、潤滑油剤Eを調製した。この潤滑油剤Eの40℃動粘度は105mm2/秒、150℃、100時間の蒸発損失は、10.5重量%であった。
【0034】
この潤滑剤E 94重量部に、PTFE 5重量部および前記複合脂肪酸リチウム塩1重量部(同重量比0.20)を混合して潤滑油組成物を調製した。
【0035】
参考例10
ジペンタエリスリトールC8〜C10カルボン酸エステル 70.0重量%
(コグニス製品、40℃動粘度;280mm2/秒)
トリメリット酸C8〜C10カルボン酸エステル 25.5重量%
(花王製品、40℃動粘度;46mm2/秒)
トリフェニルフォスフォロチオネート 1.0重量%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製品;リン系摩耗防止剤)
C12ジチオリン酸亜鉛塩 1.0重量%
アミン系酸化防止剤 2.5重量%
を配合して、潤滑油剤Fを調製した。この潤滑油剤Fの40℃動粘度は300mm2/秒、150℃、100時間の蒸発損失は、4.7重量%であった。
【0036】
この潤滑剤F 96.5重量部に、PTFE 3重量部およびジウレア化合物(トリレンジイソシアネートとアニリンとの反応生成物)0.5重量部(同重量比0.17)を混合して潤滑油組成物を調製した。
【0037】
比較例1
参考例1において、潤滑油組成物として潤滑油剤A 96.95重量部、PTFE 3重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩0.05重量部(同重量比0.02)を混合したものが用いられた。
【0038】
比較例2
参考例1において、潤滑油組成物として潤滑油剤A 85重量部、PTFE 10重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩5重量部(同重量比0.50)を混合したものが用いられた。
【0039】
比較例3
参考例1において、潤滑油組成物として潤滑油剤A 82重量部、PTFE 10重量部およびジウレア化合物(トリレンジイソシアネートとアニリンとの反応生成物)8重量部(同重量比0.80)を混合したものが用いられた。
【0040】
比較例4
参考例4において、潤滑油組成物として潤滑油剤B 85重量部、PTFE 10重量部および複合脂肪酸リチウム塩5重量部(同重量比0.50)を混合したものが用いられた。
【0041】
比較例5
参考例1において、潤滑油組成物として潤滑油剤A 98重量部、PTFE 1重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩1重量部(同重量比1.00)を混合したものが用いられた。
【0042】
比較例6
参考例5において、潤滑油組成物として潤滑油剤C 95重量部、PTFE 3重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩2重量部(同重量比0.67)を混合したものが用いられた。
【0043】
比較例7
参考例10において、潤滑油組成物として潤滑剤F92重量部、PTFE 5重量部および12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩3重量部(同重量比0.60)を混合したものが用いられた。
【0044】
実施例
参考例2、4〜10において、それぞれPTFEの代わりに黒鉛(日本黒鉛製品J-CPB、平均粒径;5μm)が同量用いられた。
【0045】
実施例13
参考例2、4〜7において、それぞれPTFEの代わりに二硫化モリブデン(大東潤滑製品LM13-SMパウダー、平均粒径;0.4μm)が同量用いられた。
【0046】
実施例1418
参考例2、4〜7において、それぞれPTFEの代わりにMCA(日産化学製品MCA-6000、平均粒径;1〜5μm)が同量用いられた。
【0047】
以上の各参考例、実施例および比較例で得られた潤滑油組成物について、流動性、分散安定性の検討を行った。
流動性:コーンプレート型レオメータを使用して、25℃、せん断速度300/秒の条件下における粘度を測定し、5,000mPa・秒以下のものを流動性良好と評価した
分散性:10ml目盛り付き沈降管に、合成油中に各実施例および比較例で得られた潤滑油組成物10mlを入れて撹拌後一週間静置し、分散した固体潤滑剤粒子の沈降状態を目視により確認することにより、粒子が凝集して沈降することなく、均一な分散液が得られたものを分散性良好と評価した
【0048】
その結果、各参考例、各実施例および比較例5〜7で得られた潤滑油組成物では、流動性、分散安定性のいずれも良好であったが、比較例1で得られた潤滑油組成物では、流動性は良好なものの、分散安定性が不十分であり、比較例2〜4で得られた潤滑油組成物では、分散安定性は良好ではあるものの、流動性が悪く、潤滑油として機能しないものであった。
【0049】
また、各潤滑油組成物を用いて摺動特性試験(耐荷重性の評価および摩擦係数を測定)が行われた。耐荷重性は、SRV摩擦試験機を用いて、下部試験片をSUJ2製ディスク、上部試験片を10mm径のSUJ2製球とし、これらを点接触させ、振動数50Hz、振幅1mm、温度100℃の条件下で、1分毎に荷重を50Nずつ増加させ、これを500Nに達するまで連続して行い、焼付きが発生しない最大荷重により評価を行い、また摩擦係数を各荷重毎に測定した。ここで試験温度を100℃としたのは、油膜を保持されにくくするためである。
【0050】
得られた結果は、次の表に示される。流動性、分散安定性が良好であった比較例5〜6の潤滑油組成物は、それぞれ対応する参考例の数値に比べて摩擦係数が大きく、耐荷重性に劣っていることが示される。また、比較例7の潤滑油組成物は、参考例10に比べて摩擦係数の値が大きくなっている。

荷重(N)/接触面圧(N/mm2)
耐荷重 50/ 100/ 150/ 200/ 250/ 300/ 350/ 400/ 450/ 500/
性(N) 105 149 183 211 236 258 279 298 316 333
参考例1 >500 0.142 0.126 0.125 0.116 0.114 0.113 0.113 0.103 0.102 0.101
〃 2 450 0.131 0.115 0.112 0.107 0.107 0.099 0.105 0.102 0.102 -
〃 3 450 0.113 0.110 0.106 0.105 0.103 0.097 0.095 0.100 0.100 -
〃 4 450 0.135 0.130 0.115 0.109 0.105 0.103 0.100 0.099 0.098 -
〃 5 450 0.217 0.209 0.190 0.173 0.160 0.152 0.151 0.150 0.149 -
〃 6 >500 0.149 0.124 0.119 0.116 0.114 0.110 0.108 0.107 0.106 0.104
〃 7 >500 0.125 0.117 0.115 0.111 0.107 0.103 0.101 0.100 0.100 0.098
〃 8 >500 0.130 0.112 0.107 0.105 0.102 0.100 0.099 0.098 0.098 0.098
〃 9 450 0.127 0.108 0.105 0.103 0.101 0.100 0.100 0.099 0.099 -
〃 10 >500 0.143 0.129 0.118 0.115 0.111 0.108 0.105 0.103 0.101 0.101
比較例5 300 0.153 0.140 0.145 0.141 0.143 0.147 - - - -
〃 6 300 0.287 0.229 0.190 0.185 0.177 0.169 - - - -
〃 7 >500 0.166 0.153 0.149 0.144 0.140 0.137 0.135 0.133 0.132 0.131
実施例 450 0.146 0.119 0.106 0.103 0.102 0.100 0.099 0.099 0.098 -
450 0.135 0.116 0.108 0.105 0.102 0.101 0.100 0.100 0.100 -
400 0.227 0.215 0.201 0.193 0.180 0.167 0.151 0.140 - -
>500 0.141 0.121 0.110 0.107 0.103 0.102 0.102 0.101 0.101 0.101
450 0.132 0.112 0.108 0.105 0.102 0.100 0.099 0.098 0.098 -
450 0.133 0.115 0.110 0.106 0.104 0.101 0.100 0.100 0.099 -
450 0.130 0.113 0.108 0.105 0.104 0.102 0.101 0.101 0.100 -
>500 0.145 0.132 0.125 0.119 0.113 0.110 0.109 0.107 0.105 0.103
>500 0.136 0.129 0.130 0.131 0.126 0.119 0.114 0.106 0.103 0.103
10 450 0.134 0.130 0.125 0.120 0.113 0.107 0.105 0.103 0.100 0.100
11 450 0.222 0.217 0.209 0.200 0.185 0.177 0.169 0.160 0.155 -
12 >500 0.137 0.132 0.125 0.121 0.116 0.110 0.107 0.105 0.104 0.103
13 450 0.133 0.124 0.121 0.117 0.110 0.106 0.104 0.102 0.100 -
14 450 0.151 0.117 0.108 0.107 0.105 0.103 0.101 0.100 0.100 -
15 400 0.140 0.113 0.107 0.105 0.102 0.098 0.097 0.110 - -
16 400 0.227 0.217 0.210 0.199 0.187 0.181 0.167 0.160 - -
17 450 0.145 0.120 0.113 0.110 0.106 0.104 0.103 0.102 0.102 -
18 400 0.141 0.110 0.107 0.103 0.100 0.099 0.099 0.098 - -
注) 比較例5〜7では、固体潤滑剤に対する12-ヒドロキシステアリン酸リチ ウム塩の比率が高く、固体潤滑剤の効果が発揮されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成炭化水素油およびエステル系合成油の少くとも一種からなる基油に、黒鉛、二硫化モリブデンまたはメラミンシアヌレートである固体潤滑剤を組成物中0.1〜5重量%の割合で含有させ、さらに固体潤滑剤量に対して重量比で0.10〜0.50となる量のリチウム系石けん、リチウム系複合石けんまたはウレア系化合物を配合してなり、軸受、ブッシュ、チューンオイルまたはギヤーオイル用途に用いられる潤滑油組成物。
【請求項2】
40℃動粘度が20〜800mm2/秒の基油が用いられた請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
40℃動粘度が20〜250mm2/秒の基油が軸受、ブッシュ用途に用いられる請求項2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
40℃動粘度が100〜800mm2/秒の基油がチェーンオイルまたはギヤオイル用途に用いられる請求項2記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−246499(P2012−246499A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202885(P2012−202885)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【分割の表示】特願2007−100605(P2007−100605)の分割
【原出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】