説明

潤滑油組成物

【課題】有利な耐摩耗性能を示し、特にシリンダー内径磨耗の少ない、燐を含まない、非カム式エンジン用に好適な潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】グループIの基油、グループIIの基油、グループIIIの基油、グループIVの基油及びそれらの混合物から選ばれた基油60重量%以上(潤滑油組成物の総重量に対し)と、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤よりなる群から選ばれた1種以上の酸化防止剤1.4重量%以上(潤滑油組成物の総重量に対し)とを含み、燐を含有しない、内燃機関用潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、特に非カム式(camless)内燃機関に好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の潤滑油組成物に最も重要な領域の1つは、バルブ列における移動カム/従動節接触である。カム装置を除去する方法が種々提案され、電気的作動及び油圧的作動の2
つが最も一般的な方法である。
【0003】
バルブのカム作動を除去するのは、潤滑油組成物の利点のためではなく、バルブ操作に対して非常に良い制御を与えるためである。このシステムは、多気筒エンジンの各シリンダーについて吸気バルブ及び排気バルブの開閉及び最大リフトを独立に制御する。
【0004】
これにより、エンジンの広範な改良、例えば排気放出物の改良、トルク曲線の向上及び燃料消費の低下の可能性が開かれる。通常の操作モード、例えば同様に性能向上が可能なシリンダーカットアウト及び8−又は12−ストロークサイクルが可能である。
【0005】
“非カム式”内燃機関の例は、USP 5,255,641;同5,311,711;5,367,990;同5,373,817;同5,377,631;同5,404,844;同5,419,301;同5,456,222;同5,562,070;同5,572,961;同5,615,646;同5,619,965;同5,694,893;同5,709,178;同5,758,625;同5,970,956;同5,377,631及び同6,024,060に開示されている。
【0006】
これらシステムの潤滑油組成物に対する利点は、バルブ列の保護に特殊な耐摩耗剤を必要としないことである。したがって、ジチオ燐酸亜鉛(ZnDTP)のような有機金属燐耐摩耗剤を必要としない。この単離の変化を簡単に作ると、処理コストが低下するばかりでなく、他の領域でも利点が得られる。
【0007】
例えばZnDTPは、潤滑油組成物中の硫化灰分含有量、硫黄含有量及び燐含有量の一因となる。したがって、潤滑油組成物中の硫化灰分、硫黄及び燐の濃度が排気ガス後処理装置に対し悪影響を与える可能性があることを考慮すると、硫化灰分、硫黄及び/又は燐の濃度が低下した潤滑油組成物を開発することは分別がある。こうして、潤滑油組成物でのZnDTPの使用を減らすか或いは避けるのことは、硫黄及び燐の含有量を低減する方法となる。
更に、ZnDTPにより発現する耐摩耗膜は、摩擦増大の原因となり、余計な出力損失につながる恐れがある。
【0008】
そこでWO−A−02/24843には、
(A)通常液状又はガス状の燃料組成物を用いて非カム式内燃機関を操作する工程、及び(B)燐が少ないか、燐を含まない潤滑油組成物を用いて前記機関を潤滑する工程であって、該燐が少ないか、燐を含まない潤滑油組成物は任意に金属及び燐からなる極圧添加剤(但し、極圧添加剤により該潤滑油組成物に与える燐の量は、該潤滑油組成物の重量に対し約0.08重量%以下である)を任意に含有する該工程、
を含む非カム式内燃機関の操作方法が記載されている。
【0009】
しかし、潤滑油組成物からZnDTPを除去すると、シリンダー内径の磨耗を増大させる恐れがある。
EP−A−1338643は、乗用車エンジンの潤滑剤用の燐の少ない潤滑油組成物を開示している。
この組成物は、多量の、グループII〜IV基油及びエステル基油;過剰塩基の(overbased)カルシウム又はマグネシウムサリチル酸洗浄剤;油溶性有機モリブデン化合物;灰分を含まない洗浄剤;及び補助的酸化防止剤を含有する。
【0010】
補助的酸化防止剤は、基油の性能を低下させ、働きを悪くすると言われている。この悪化は、金属表面のスラッジやワニス状堆積のような酸化生成物や粘度成長により証明できる。
【0011】
補助的酸化防止剤は、0.1〜5.0重量%の量で存在すると言われているが、好ましくは0.25〜1.0重量%存在する。この点、EP−A−1338643の実施例は補助的酸化防止剤を0.50重量%使用している。
【0012】
US−A−5439605にはモーター油用の灰分の少ない軽灰分の配合物が記載されている。
この配合物に存在する基油は、任意に酸化防止剤を約0.5〜約1.0重量%含有してよい。
幾つかの実施態様では、配合物は燐を含まないことを指示している。
【0013】
しかし、EP−A−1338643にUS−A−5439605も耐摩耗性能、特にシリンダー内径磨耗の低下に有利な非カム式エンジン用の燐を含まない潤滑油組成物の開発に関するものではない。
【特許文献1】USP 5,255,641
【特許文献2】USP 5,311,711
【特許文献3】USP 5,367,990
【特許文献4】USP 5,373,817
【特許文献5】USP 5,377,631
【特許文献6】USP 5,404,844
【特許文献7】USP 5,419,301
【特許文献8】USP 5,456,222
【特許文献9】USP 5,562,070
【特許文献10】USP 5,572,961
【特許文献11】USP 5,615,646
【特許文献12】USP 5,619,965
【特許文献13】USP 5,694,893
【特許文献14】USP 5,709,178
【特許文献15】USP 5,758,625
【特許文献16】USP 5,970,956
【特許文献17】USP 5,377,631
【特許文献18】USP 6,024,060
【特許文献19】WO−A−02/24843
【特許文献20】EP−A−1338643
【特許文献21】US−A−5439605
【特許文献22】EP−A−776959
【特許文献23】EP−A−668342
【特許文献24】WO−A−97/21788
【特許文献25】WO−00/14188
【特許文献26】WO−00/14187
【特許文献27】WO−00/14183
【特許文献28】WO−00/14179
【特許文献29】WO−00/08115
【特許文献30】WO−99/41332
【特許文献31】EP−1029029
【特許文献32】WO−01/18156
【特許文献33】WO−01/57166
【特許文献34】EP−A−1167497
【特許文献35】日本特許No.1367796
【特許文献36】日本特許No.1667140
【特許文献37】日本特許No.1302811
【特許文献38】日本特許No.1743435
【特許文献39】日本特許No.954077
【特許文献40】日本特許No.1031507
【特許文献41】日本特許No.1468752
【特許文献42】日本特許No.1764494
【特許文献43】日本特許No.1751082
【特許文献44】日本特許No.1195542
【特許文献45】日本特許No.1264056
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、有益な耐摩耗性能を有する燐を含まない、非カム式エンジン用潤滑油組成物を開発することが望ましい。
有利な耐摩耗性能を示し、特にシリンダー内径磨耗の少ない、燐を含まない、非カム式エンジン用に好適な潤滑油組成物が本発明において今回、意外にも見い出された。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明は、グループIの基油、グループIIの基油、グループIIIの基油、グループIVの基油及びそれらの混合物から選ばれた基油60重量%以上(潤滑油組成物の総重量に対し)と、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤よりなる群から選ばれた1種以上の酸化防止剤1.4重量%以上(潤滑油組成物の総重量に対し)とを含み、燐を含有しない、内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において“燐を含有しない”とは、潤滑油組成物がいかなる燐含有化合物も含有しないことを意味する。
本発明の好ましい実施態様では、1種以上の酸化防止剤は、潤滑油組成物の総重量に対し、1.6重量%以上、更に好ましくは1.7重量%以上の量で存在する。
【0017】
本発明の潤滑油組成物は、1種以上のアミン系酸化防止剤を含有してよい。
都合よく使用できるアミン系酸化防止剤の例としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン及びアルキル化α−ナフ
チルアミンが挙げられる。
【0018】
好ましいアミン系酸化防止剤としては、p,p’−ジオクチル−ジフェニルアミン、p,p’−ジ−α−メチルベンジル−ジフェニルアミン及びN−p−ブチルフェニル−N−p’−オクチルフェニルアミンのようなジアルキルジフェニルアミン;モノ−t−ブチルジフェニルアミン及びモノ−オクチルジフェニルアミンのようなモノアルキルジフェニルアミン;ジ−(2,4−ジエチルフェニル)アミン及びジ(2−エチル−4−ノニルフェニル)アミンのようなビス(ジアルキルフェニル)アミン;オクチルフェニル−1−ナフチルアミン及びn−t−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミンのようなアルキルフェニル−1−ナフチルアミン;1−ナフチルアミン;フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−2−ナフチルアミン及びN−オクチルフェニル−2−ナフチルアミンのようなアリールナフチルアミン;N,N’−ジイソプロ
ピル−p−フェニレンジアミン及びN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン;及びフェノチアジン及び3,7−ジオクチルフェノチアジンのようなフェノチアジンが挙げられる。
【0019】
好ましいアミン系酸化防止剤としては、以下の商品名:“Sonoflex OD−3”(Seiko Kagaku Co.から)、“Irganox L−57”(Ciba Specialty Chemicals Co.から)及びフェノチアジン(Hodogaya Kagaku Co.から)で得られるものが挙げられる。
本発明の潤滑油組成物は、1種以上のフェノール系酸化防止剤を含有してよい。
【0020】
便利に使用できるフェノール系酸化防止剤の例としては、3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステル;2−t−ブチルフェノール;2−t−ブチル−4−メチルフェノール;2−t−ブチル−5−メチルフェノール;2,4−ジ−t−ブチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2−t−ブチル−4−メトキシフェノール;3−t−ブチル−4−メトキシフェノール;2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン;2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール及び2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノールのような2,6−ジ−t−ブチル−4−アルキルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール及び2,6−ジ−t−ブチル−4−エトキシフェノールのような2,6−ジ−t−ブチル−4−アルコキシフェノール;3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメルカプトオクチルアセテート;n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−ブチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート及び2’−エチルヘキシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートのようなアルキル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート;2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)及び2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)のような2,2’−メチレンビス(4−アルキル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2−(ジ−p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2,6−t−ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、2,2’−チオ−[ジエチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)及び2,2’−チオビス(4,6−ジ−t−ブチルレゾルシノール)のようなビスフェノール;テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス−[3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)酪酸]グリコールエステル、2−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル−4−(2”,4”−ジ−t−ブチル−3”−ヒドロキシフェニル)メチル−6−t−ブチルフェノール及び2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノールのようなポリフェノール;及びp−t−ブチルフェノール−ホルムアルデヒド縮合物及びp−t−ブチルフェノール−アセトアルデヒド縮合物が挙げられる。
【0021】
好ましいフェノール系酸化防止剤としては、以下の商品名:“Irganox L−135”(Ciba Specialty Chemicals Co.から)、“Anteeji DBH”(Kawaguchi Kagaku Co.から)、“Yoshinox SS”(Yoshitomi Seiyaku Co.から)、“Antage W−400”(Kawaguchi Kagaku Co.から)、“Antage W−500”(Kawaguchi Kagaku Co.から)、“Antage W−300”(Kawaguchi Kagaku Co.から)、“Ionox 220AH”(Shell Japan Co.から)、Shell Japan Co.製ビスフェノールA、“Irganox L109”(Ciba Specialty Chemicals Co.から)、“Tominox 917”(Yoshitomi Seiyaku Co.から)、“Irganox L115”(Ciba Specialty Chemicals Co.から)、“Sumilizer GA80”(Sumitomo Kagakuから)、“Antage RC”(Kawaguchi Kagaku Co.から)、“Irganox L101”(Ciba Specialty Chemicals Co.から)、“Yoshinox 930”(Yoshitomi Seiyaku Co.から)、“Ionox 330”(Shell Japan Co.から)が挙げられる。
【0022】
本発明の潤滑油組成物に取込まれる基油の量は、それぞれ潤滑油組成物の総重量に対し、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは60〜98重量%の範囲、最も好ましくは75〜90重量%の範囲の量で存在する。
【0023】
本発明において、“グループI”の基油、“グループII”の基油、“グループIII”の基油及び“グループIV”の基油とは、American Petroleum Institute(API)分類I、II、III及びIVの定義による基油を意味する。このようなAPI分類は、API Publication 1509,第15版、Appendix E、2002年4月に定義されている。
【0024】
グループIの基油は、飽和物含有量が90%未満(ASTM D2007による)及び/又は硫黄含有量が0.03%を超え(ASTM D2622、D4294、D4927又はD3120による)、また粘度指数が80以上120未満(ASTM D2270による)である。
グループIIの基油は、前記ASTM法で飽和物含有量が90%以上、硫黄含有量が0.03%以下、また粘度指数が80以上120未満である。
【0025】
グループIIIの基油は、前記ASTM法で飽和物含有量が90%以上、硫黄含有量が0.03%以下、また粘度指数が120を超える。
【0026】
グループIVの基油はポリ−α−オレフィン(PAO)である。
本発明で使用されるグループI〜IVの基油については特別な制限はなく、鉱油及び合成潤滑油から選ばれた従来公知のグループI〜IVの各種基油が便利に使用できる。
【0027】
鉱油としては、液状石油、及びパラフィン系、ナフテン系又はパラフィン/ナフテン混合系の溶剤処理又は酸処理した鉱物性潤滑油(更に水素化仕上げ及び/又は脱蝋により精製してよい)が挙げられる。
【0028】
ナフテン系基油は粘度指数(VI)が低く(一般に40〜80)、また流動点が低い。このような基油は、ナフテンに富み、かつ蝋含有量が少ない供給原料から製造され、まず色調及び色安定性が重要で、次にVI及び酸化安定性が重要とされる潤滑油に主として使用される。
【0029】
パラフィン系基油は、VIが高く(一般に>95)、また流動点も高い。この基油は、パラフィンに富む供給原料から製造され、VI及び酸化安定性が重要とされる潤滑油に使用される。
【0030】
本発明潤滑油組成物の基油として、フィッシャー・トロプシュ誘導基油、例えばEP−A−776959、EP−A−668342、WO−A−97/21788、WO−00/14188、WO−00/14187、WO−00/14183、WO−00/14179、WO−00/08115、WO−99/41332、EP−1029029、WO−01/18156及びWO−01/57166に開示されるフィッシャー・トロプシュ誘導基油が便利に使用できる。
【0031】
合成法により、分子を、これより構造の簡単な物質から作ったり、或いは所要の正確な特性を付与するため、分子構造を改質することが可能である。
合成潤滑油としては、オレフィンオリゴマー(PAO)(グループIVの基油)及び脱蝋済み蝋状ラフィネートのような炭化水素油がある。
【0032】
Royal Dutch Shellグループの企業から商品名“XHVI”(商標)で販売されているグループIIIの合成炭化水素基油は便利に使用できる。
本発明で使用される基油は、 飽和物含有量が、ASTM D2007で測定して、80重量%を超え、好ましくは90重量%を超える、鉱油及び/又は合成基油で構成されることが好ましい。
【0033】
本発明で使用される基油は、更に硫黄含有量が、ASTM D2622、D4294、D4927又はD3120で測定し元素状硫黄として計算して、1.0重量%未満、好ましくは0.1重量%未満であることが好ましい。
【0034】
本発明で使用される基油の粘度指数は、ASTM D2270で測定して、好ましくは80を超え、更に好ましくは120を超える。
本発明で使用される基油の100℃での動粘度は、好ましくは2〜80mm/s、更に好ましくは3〜70mm/s、最も好ましくは4〜50mm/sの範囲である。
【0035】
本発明の潤滑油組成物は、硫化灰分含有量が、潤滑油組成物の総重量に対し、好ましくは1.3重量%以下、更に好ましくは1.1重量%以下、最も好ましくは1.0重量%以下である。
【0036】
本発明の潤滑油組成物は、硫黄含有量が、潤滑油組成物の総重量に対し、好ましくは1.2重量%以下、更に好ましくは0.8重量%以下、最も好ましくは0.05重量%以下である。
【0037】
本発明の基油組成物には、更に耐摩耗剤、洗浄剤、分散剤、摩擦改質剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、消泡剤、及びシール固定剤又はシール適合剤のような他の添加剤を含有してよい。但し、いずれの添加剤も燐を含有しない。
【0038】
好適な燐を含まない耐摩耗剤としては、硼酸エステル、硼化脂肪族アミン、硼化エポキシド、硼酸アルカリ金属(又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属混合物)塩及び硼化過剰塩基金属塩のような硼素含有化合物がある。
【0039】
硼素含有耐摩耗剤は、本発明の潤滑油組成物に、潤滑油組成物の総重量に対し、便利には0.1〜3.0重量%の範囲の量で添加してよい。
【0040】
本発明の潤滑油組成物に使用できる一般的な洗浄剤としては、1種以上のサリチレート及び/又はフェノレート及び/又はスルホネート洗浄剤がある。
しかし、洗浄剤として使用される金属有機及び無機塩基塩は、潤滑油組成物の硫化灰分含有量の一因となるので、本発明の好ましい実施態様では、このような添加剤の量は最小限である。
【0041】
1種以上のサリチレート及び/又はフェノレート及び/又はスルホネート洗浄剤は、潤滑油組成物の総重量に対し、便利には0.01〜20.0重量%、好ましくは0.10〜10.0重量%の範囲の量で添加してよい。
【0042】
低硫黄レベルを維持するには、サリチレート洗浄剤が好ましい。
こうして、好ましい実施態様では、本発明の潤滑油組成物は1種以上のサリチレート洗浄剤を含有してよい。
【0043】
1種以上のサリチレート及び/又はフェノレート及び/又はスルホネート洗浄剤は、ASTM D2894で測定して、10〜500mg.KOH/g、更に好ましくは30〜350mg.KOH/g、最も好ましくは50〜300mg.KOH/gの範囲のTBN(全塩基価)を有することが好ましい。
【0044】
本発明の潤滑油組成物は、更に灰分のない分散剤を、潤滑油組成物の総重量に対し、好ましくは5〜15重量%の範囲の量で混合、含有してよい。
【0045】
本発明の潤滑油組成物に便利に使用できる一般的な分散剤としては、灰分のない、アルケニル−又はアルキル−スクシンイミド及びポリアルキル琥珀酸エステル又はそれらの誘導体である。これら灰分のない分散剤は硼素化してもよい。分散剤は高分子量(例えば2000を超える)でも低分子量(例えば2000未満、好ましくは1200未満)でもよい。
【0046】
本発明の潤滑油組成物に便利に使用できる分散剤としては、EP−A−1167497、日本特許No.1367796、同1667140、同1302811、同1743435に記載の分散剤がある。
【0047】
便利に使用できる好ましい摩擦改質剤としては、脂肪酸アミド、更に好ましくは不飽和脂肪酸アミドがある。
不飽和脂肪酸アミド化合物の合計量は、潤滑油組成物の総重量に対し、好ましくは0.05〜0.35重量%である。
【0048】
本発明の潤滑油組成物に便利に使用できる粘度指数向上剤としては、日本特許No.954077、同1031507、同1468752、同1764494、同1751082に開示された、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン星形共重合体、及びポリメタクリレートベースのエチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。このような粘度指数向上剤は、本発明の潤滑油組成物の総重量に対し、便利には1〜20重量%の範囲の量で使用してよい。同様に、分子中に窒素原子及び酸素原子を有する共重合極性モノマーを含有する分散型粘度指数向上剤も組成物中に使用できる。
【0049】
日本特許No.1195542及び同1264056に開示されるようなポリメタクリレートは、本発明の潤滑油組成物に効果的な流動点降下剤として便利に使用できる。
【0050】
更にアルケニル琥珀酸又はそのエステル部分のような化合物、ベンゾトリアゾールベースの化合物及びチオジアゾールベースの化合物は、本発明の潤滑油組成物に腐食防止剤として便利に使用できる。
ジメチルポリシクロヘキサン、ポリアクリレートのような化合物は、本発明の潤滑油組成物に消泡剤として便利に使用できる。
【0051】
本発明の潤滑油組成物にシール固定剤又はシール適合剤として便利に使用できる化合物としては、例えば市販の芳香族エステルがある。
本発明の潤滑油組成物は、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤よりなる群から選ばれた1種以上の酸化防止剤及び任意に、通常、潤滑油に存在する1種以上の他の添加剤、例えば前述のような添加剤を、鉱物性及び/又は合成の基油と混合して、便利に製造できる。
【0052】
本発明の潤滑油組成物は、磨耗低下、特にシリンダー内径の磨耗低下を発揮する。したがって、本発明の別の実施態様は、磨耗を低減するため、特にシリンダー内径の磨耗を低減するため、前述のような潤滑油組成物を内燃機関、特に非カム式内燃機関に使用する方法を提供する。
【0053】
本発明の他の実施態様は、前述のような潤滑油組成物を内燃機関、特に非カム式内燃機関に適用することを特徴とする内燃機関の潤滑方法を提供する。
以下に本発明を実施例によって説明するが、これらの実施例は、いかなる方法でも本発明範囲の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0054】
配合物
第1表及び第2表にテストした配合物を示す。
配合物には従来の標準的な洗浄剤、分散剤、流動点降下剤及び粘度調整剤を使用した。
【0055】
使用したアミン系酸化防止剤は、Ciba Specialty Chemicals Co.から商品名“Irganox L−57”で得られるもの(p,p’−ジオクチル−ジフェニルアミン)である。
使用したフェノール系酸化防止剤は、Ciba Specialty Chemicals Co.から商品名“Irganox L−135”で得られるもの(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル)である。
【0056】
実施例2、3の配合物は別として、第1表及び第2表に記載の配合物は全て、基底線油の若干の変形配合物で、公称SAE 10W40の粘度等級油である。
実施例2、3でテストした配合物はSAE 5W30の粘度等級油である。
第3表にテストした配合物の物理的特性を示す。
【0057】
【表1】

1:希釈油中、水素化スチレン−イソプレン粘度指数向上剤(6%)及び流動点降下剤(1.9%)
2:グループIの基油
3:グループIIの基油
4:グループIIIの基油
【0058】
【表2】

【0059】
1:PIB−MALAポリアミン分散剤
2:希釈油中、水素化スチレン−イソプレン粘度指数向上剤(6%)
3:希釈油中、水素化ポリイソプレン粘度指数向上剤(15%)
4:慣用の添加剤として、摩擦改質剤と腐食防止剤とシール固定剤との混合物を含有する
補助的添加剤包装
5:グループIVの基油
6、7、8:グループIIIの基油
【0060】
【表3】

【0061】
スクリーニングリグテスト
第1〜3表に記載の潤滑油組成物をテストするため、スクリーニングリグテストを用いて非カム式エンジン環境にシミュレートした。
このスクリーニングリグでは、バルブ列用のオイルシステムは、内燃機関の残部から分離し、これにより、カム従動領域と接触しないので、内燃機関の下部を“非カム”型潤滑油で潤滑した。
【0062】
スクリーニングリグテストは、Renault Magane 1.6リッターガソリンエンジンを用いて、Shell Global Solutions(英国)により開発された。テストサイクルは、ASTM 連続Vテストと同様な方法で短距離停止−スタート駆動を真似した。
【0063】
Renault Magane 1.6リッターガソリンエンジンは、オーバーヘッドカムシャフトバルブ列への油の供給及び戻りを、シリンダーブロック内外の通常のルートから分離するため、改造した。シリンダーヘッドでは、リザーバー及び温度制御付きの回路中を別の外部電気ポンプで潤滑させた。この回路には従来の完全配合潤滑油を使用した。
【0064】
テスト油は、シリンダーヘッド下の元のエンジン回路の残部に使用した。改造は、再使用が可能なようにシリンダーヘッドに限定した。オーバホールが必要となる前にシリンダーヘッドは、数回のテスト運転に使用できた。新しい短いモーターを、予めストリップして測定された各テストに使用し、またピストンリングの間隙は、苛酷性の増大に対しブローバイ流量を増やすため、大きくした。
【0065】
標準のテスト期間は、4時間周期で運転して、288時間(12日)である。エンジンは、油のサンプリング及びレべリング/充満(top−up)のため、1日に1回停止した。
テスト終了時、エンジンを取り外し、部品の磨耗量を測定した。
【0066】
第二シリーズのテストに使用したエンジンは、Puma Coupeで使用したようなFord Zetec SE 1.7リッターDOHCである。非カム操作をシミュレートするため、Meganeエンジンと同様な方法で改造した。テストの設備及び方法の残部は、全てのテストについてテスト期間を576時間(24日)とした他はMeganeテストと同じである。
【0067】
スクリーニングリグテストは、公に入手できる商用テストサービスで、このサービスは、Shell Gloval Solutions(英国),Cheshire Innovation Park,P.O.Box 1,Chester CH1 3SH,英国から入手できる(Email:evt@shell.com)。
【0068】
結果及び検討
第1表及び第2表に記載した配合物の幾つかを、前述のスクリーニングリグテストでテストした。得られた結果を下記表に示す。
【0069】
(i)Renault Magane 1.6リッターガソリンエンジンを使用したスクリーニングリグ
標準テスト期間288時間(即ち、スクリーニングリグテストをベースとするASTM連続VEテストと同じ期間)を用いて第4表に示す結果を得た。
【0070】
【表4】

【0071】
比較例2の結果から明らかなように、比較例1の基底線潤滑油組成物からZnDTPを除去すると、トップリング反転部(TRR)におけるシリンダー内径の磨耗段深さが増大する。
【0072】
しかし、実施例1から明らかなように、酸化防止剤を大量に添加すると、比較例2よりも内径磨耗段深さのレベルが低下するばかりでなく、増量した酸化防止剤も意外にも比較例1のZnDTP含有配合物の場合よりも内径磨耗段深さのレベルを低下させる。
【0073】
更に実施例1及び実施例2の配合物については、長期試験期間576時間でもテストした。この長期試験の結果を第5表に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
以上の結果から更に明らかなように、実施例1の配合物を長期間テストした場合でも、内径磨耗段深さは酸化防止剤の量が実施例1よりもかなり少ない比較例2の配合物よりも、なおかなり少ない。
【0076】
(ii)Ford Zetec SE 1.7リッターDOHCエンジンを用いたスクリーニングリグ
このスクリーニングリグについてのテスト操作の詳細は、全てのテストについてテスト期間を2倍(576時間)で運転した他は、Meganeエンジンを使用したテストと同じである。
【0077】
磨耗段の測定法は、磨耗段の最大深さではなく、磨耗段で除去された材料の全断面積を測定した点で若干異なる。
また測定情報は、スラスト側ではなく、反スラスト側についてである。
【0078】
【表6】

【0079】
前記(i)で述べたように、実施例2の配合物は、意外にも有利な耐摩耗特性を発揮する。第6表は、実施例2の配合物を用いて、Ford Zetec SE 1.7リッターDOHCエンジンによるスクリーニングリグの磨耗段で除去された材料の全断面積を示す。
【0080】
第6表から明らかなように、実施例3及び実施例4の配合物(アミン系酸化防止剤ではなく、フェノール系酸化防止剤を含む)は、実施例2の配合物よりも更に少ない磨耗を示した。
更に、実施例3、4についての第6表の結果を比較すると、明らかに粘度等級の高い配合物(即ち、実施例4の配合物)は、更に少ない磨耗を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和物含有量が90%未満(ASTM D2007による)及び/又は硫黄含有量が0.03%を超え(ASTM D2622、D4294、D4927又はD3120による)、また粘度指数が80以上120未満(ASTM D2270による)であるグループIの基油、前記ASTM法で飽和物含有量が90%以上、硫黄含有量が0.03%以下、また粘度指数が80以上120未満であるグループIIの基油、前記ASTM法で飽和物含有量が90%以上、硫黄含有量が0.03%以下、また粘度指数が120を超えるグループIIIの基油、ポリ−α−オレフィン(PAO)であるグループIVの基油及びそれらの混合物から選ばれた基油60重量%以上(潤滑油組成物の総重量に対し)と、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤よりなる群から選ばれた1種以上の酸化防止剤1.4重量%以上(潤滑油組成物の総重量に対し)とを含み、燐を含有しない、内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記1種以上の酸化防止剤が、潤滑油組成物の総重量に対し1.6重量%以上存在する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記1種以上の酸化防止剤がアミン系酸化防止剤である請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記アミン系酸化防止剤が、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン及びアルキル化α−ナフチルアミンから選ばれる請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記アミン系酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤である請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記フェノール系酸化防止剤が、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロピオン酸のC7〜C9分岐アルキルエステル、及び4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)から選ばれる請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を内燃機関に適用することを特徴とする内燃機関の潤滑方法。
【請求項8】
内燃機関が非カム式内燃機関である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
内燃機関の磨耗を低減するため、請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を使用する方法。
【請求項10】
内燃機関が非カム式内燃機関である請求項9に記載の使用法。

【公開番号】特開2012−246501(P2012−246501A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−204482(P2012−204482)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2007−519801(P2007−519801)の分割
【原出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】