説明

潤滑油組成物

【課題】環境負荷が低く、かつ潤滑性に優れた潤滑油組成物の提供。
【解決手段】基油と添加剤とを含む潤滑油組成物であって、添加剤として、硫黄含有有機モリブデン化合物と、金属原子不含有有機リン系添加剤とを含有することを特徴とする潤滑油組成物;前記金属原子不含有有機リン系添加剤が、レシチン及びトリクレジルホスフェートからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記記載の潤滑油組成物;前記硫黄含有有機モリブデン化合物が、モリブデンジチオカーバメートであることを特徴とする前記いずれか記載の潤滑油組成物;さらに、ジベンジルジスルフィド及び過塩基性カルシウムスルホネートからなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする前記いずれか記載の潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷が低く、かつ潤滑性に優れた潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トライボロジーとは「相対運動をしながら相互作用を及ぼしあう表面及びそれに関連する実際問題の科学と技術」と定義されており、固体間の摩耗・摩擦・潤滑に関する工学の分野を指している(例えば、非特許文献1参照。)。トライボロジーという言葉ギリシャ語のtribos「擦る」とlogy「学」を組み合わせて作られたものである。
【0003】
適切な潤滑により摩擦、摩耗を制御し、省資源、省エネルギー、更に環境負荷低減を実現するトライボロジーは、まさに21世紀における効率化の技術と言える。例えば、自動車のエンジンやトランスミッションの摩擦を下げることができたら燃費の向上につながる。また、摩耗を抑制することにより機械類の寿命を延ばすことができ、省資源につながる。一方、自動車のトラクションドライブのように摩擦を高くしたい場合や、研磨のように摩耗を促進したい場合もある。
【0004】
一方で、潤滑剤とは「滑りあう2つの固体間の摩擦、摩耗を減少させるために用いられる物質の総称」であり、その形態により液体の潤滑油、半固体状のグリース及び固体潤滑剤などがあるが、潤滑油が大半を占めている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
一般に、潤滑油は基油と添加剤からなる。基油単独でも潤滑性能を持つが、さらに機能を付加し性能を高めるために添加剤が用いられる。添加剤は、摩擦、摩耗などの潤滑特性に直接関与する部分と、潤滑油の二次的特性を改善するための成分に分けられる。前者としては、油性剤や極圧添加剤が挙げられ、これは材料表面に作用して潤滑性の被膜を形成する。後者としては、潤滑油の物理的特性を改善するための粘度指数向上剤や流動点降下剤などが、また、化学的特性を改善するための酸化防止剤などが用いられている。
【0006】
また、一般に潤滑油中には種々の添加剤が加えられており、単一の添加剤が添加されることは稀である。複数の添加剤を適宜組み合わせることにより、個々の添加剤の潤滑性の不十分な点を補い、より幅広い潤滑性を持たせることや、相乗効果等が期待される。一方で、添加剤の組み合わせによっては、逆にそれぞれ単独での効果が阻害される負の効果が見られる場合もある。このため、用途に合ったトライボロジー特性を得るためには、添加剤分子の種類や組み合わせ、各添加剤の添加量等を適切に選択することが必要である。また、混合使用における添加剤の複合効果を基礎的に理解し、実機への応用へ結びつけるためには、表面化学の立場から現象を理解することも重要である。
【0007】
さらに、近年、環境保全の意識が高まり、潤滑油に対しても、性能の一つとして環境負荷が低いことが要求されている。(例えば、非特許文献3参照。)。特に、添加剤として、摩擦調整剤であるモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)と耐摩耗剤であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とを組み合わせて用いることにより、多くの基油に対して潤滑性等の性能を改善し得ることが知られており、この両者の組み合わせが汎用されている。MoDTCが化学的に分解されることにより摩擦面上に被膜が生成され、この被膜が摩擦係数を低減させることが知られている。また、ZnDTPは、耐摩耗剤であると同時に、酸化防止能、腐食防止能にも優れた多機能添加剤である。しかしながら、ZnDTPは亜鉛を含むため、環境負荷が大きい。このため、ZnDTP等の亜鉛を含有する化合物を添加剤として使用しない、若しくは使用量をより低減させた場合であっても、十分な潤滑性能を発揮し得る潤滑油組成物の開発が望まれていた。
【0008】
添加剤として天然由来の化合物を用いることにより、潤滑油の環境負荷をより低減させられると期待される。例えば特許文献1には、レシチンを添加した、防錆効果に優れた内燃機関の潤滑油が開示されている。また、特許文献2には、機械要素を潤滑させ、密封しそして保護するために、有用なグリース組成物であって、主要量のオイルベースの単純金属石鹸濃厚化ベースグリースと、ホウ酸とレシチン等のリン脂質との配合物を反応させることにより調製されるリン及びホウ素含有組成物とを含有するグリース組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、ターニップ菜種油又は菜種油と、医薬品等級のホワイト油、ターニップ菜種油又は菜種油のメチルエステル、エチルエステル又はプロピルエステルから選択される補助潤滑剤と、レシチン、脂肪酸のモノグリセリド及びジグリセリドの酢酸エステル、脂肪酸のショ糖エステルから選択される乳化剤と、添加合成トコフェロールである酸化防止剤とを、少なくとも含む潤滑油が開示されている。その他、極微量油剤供給型の金属加工法において環境に対する負荷の少ない加工を実現することができ、かつ潤滑性に優れている金属加工油剤組成物として、特許文献4には天然油脂及びエステル油からなる群から選ばれる基油とリン脂質とを含む金属加工油剤組成物が、特許文献5にはソルビタン脂肪酸エステル及びリン脂質を含む油剤組成物が、それぞれ開示されている。これらの潤滑油は、レシチンのような低環境負荷の添加剤を用いたり、添加剤の添加量を低減させる等により、潤滑油の環境負荷の低下が一部実現されている。しかしながら、これらに記載されている潤滑油は、MoDTCとZnDTPとを組み合わせて用いた潤滑油よりも摩擦摩耗特性が不十分であり、さらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−96597号公報
【特許文献2】特開平6−200281号公報
【特許文献3】特表2005−534763号公報
【特許文献4】特開2007−269875号公報
【特許文献5】特開2008−7700号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本トライボロジー学会編、「トライボロジー辞典」、1995年、株式会社養賢堂発行。
【非特許文献2】小西誠一著、外1名、「潤滑油の基礎と応用」、1992年、株式会社コロナ社発行。
【非特許文献3】森誠之著、外1名、「トライボロジーの最新技術と応用」、2007年、株式会社シーエムシー出版発行。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、環境負荷が低く、かつ潤滑性に優れた潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、炭化水素油等の基油に、MoDTCと、レシチン又はトリクレジルホスフェート(TCP)とを組み合わせて添加することにより、摩擦係数が低減され、かつ耐摩耗性に優れた潤滑油組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 基油と添加剤とを含む潤滑油組成物であって、
添加剤として、硫黄含有有機モリブデン化合物と、金属原子不含有有機リン系添加剤とを含有することを特徴とする潤滑油組成物、
(2) 前記金属原子不含有有機リン系添加剤が、レシチン及びトリクレジルホスフェート(TCP)からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(1)に記載の潤滑油組成物、
(3) 前記硫黄含有有機モリブデン化合物が、モリブデンジチオカーバメートであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の潤滑油組成物、
(4) さらに、ジベンジルジスルフィド及び過塩基性カルシウムスルホネートからなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物、
(5) さらに、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物、
(6) モリブデンジチオカーバメートと、リン濃度として200〜1700ppmのレシチンと、ジベンジルジスルフィド及び過塩基性カルシウムスルホネートからなる群より選択される1種以上とを含有することを特徴とする前記(1)に記載の潤滑油組成物、
(7) 基油として、炭化水素油を含有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物、
(8) 前記基油がポリ−α−オレフィンであることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境負荷の高い亜鉛含有化合物を添加剤として使用しない、若しくは使用量をより低減させた場合であっても、優れた摩擦摩耗特性を有する潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1において、各サンプルの摩擦係数及び摩耗痕径を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物は、基油と添加剤とを含む潤滑油組成物であって、添加剤として、硫黄含有有機モリブデン化合物と、金属原子不含有有機リン系添加剤とを含有することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、基油に添加する添加剤として、MoDTC等の硫黄含有有機モリブデン化合物と、金属原子不含有有機リン系添加剤と、DBDS又はOBCSと組み合わせて用いることにより、MoDTCとZnDTPとを組み合わせた場合よりも、摩擦係数が低減され、かつ耐摩耗性が改善された潤滑油組成物を得ることができる。
【0018】
本発明においては、基油として、無極性油の1つである炭化水素油を用いることが好ましい。本発明において用いられる炭化水素油としては、天然油であってもよく、合成油であってもよい。また、単一の炭化水素からなるものであってもよく、複数の炭化水素の混合物であってもよい。さらに、炭化水素を主成分(例えば、50%以上)とし、炭化水素以外の化合物を含むものであってもよい。なお、炭化水素油に含まれる炭化水素以外の化合物としては、油の無極性性を維持し得る化合物であることが好ましい。
【0019】
このような炭化水素油としては、具体的には、パラフィン系基油、ナフテン系基油;エチレンオリゴマー、ブテンオリゴマー、ポリ−α−オレフィン、脂環式炭化水素の重合体(シクロアリファティクス)等のポリオレフィン類;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルメチルナフタレン、アルキルビフェニル、アルキルビフェニルアルカン等のアルキル芳香族類;これらの水素添加物を例示することができる。本発明の潤滑油組成物に用いる炭化水素油としては、炭素数8〜14程度のα−オレフィンを重合することによって得られるポリ−α−オレフィン(PAO)であることが好ましい。PAOは高粘度指数、低流動点、高安定性、高引火点などの潤滑油基油の要求性能に適合すること、合成油の中でも廉価なこと、また炭化水素油であるので、従来鉱油に用いられてきた添加剤がそのまま適応できる可能性が高いなど、有利な特徴がある。
【0020】
本発明において用いられる硫黄含有有機モリブデン化合物としては、硫黄原子とモリブデン原子を含み、基油に溶解又は均一に分散可能な有機化合物であって、基油に添加されることにより摩擦特性又は耐摩耗性を改善し得るものであれば、特に限定されるものではなく、潤滑油の添加剤として用いられる化合物の中から、適宜選択して用いることができる。このような硫黄含有有機モリブデン化合物として、具体的には、MoDTC、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)等が挙げられる。また、本発明においては、潤滑油組成物に添加される硫黄含有有機モリブデン化合物は、1種類であってもよく、2種類以上の化合物を組み合わせて添加してもよい。本発明の潤滑油組成物に添加される硫黄含有有機モリブデン化合物としては、特にMoDTCであることが好ましい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物に添加される硫黄含有有機モリブデン化合物の量は、添加により、摩擦特性や耐摩耗性を改善し得る濃度であればよく、潤滑油組成物に所望する摩擦摩耗特性、硫黄含有有機モリブデン化合物の種類、基油の組成、その他の添加剤の種類や添加量等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、MoDTCの場合には、モリブデン濃度として50〜5000ppmであることが好ましく、200〜3000ppmであることがより好ましく、200〜1000ppmであることがさらに好ましい。
【0022】
本発明において用いられる金属原子不含有有機リン系添加剤としては、金属原子を含まない有機リン系化合物又はそれを含む組成物のうち、潤滑油の添加剤として用いられるものの中から、適宜選択して用いることができる。このような金属原子不含有有機リン系添加剤としては、リン脂質等の天然由来の添加剤であってもよく、リン系合成添加剤であってもよい。また、本発明においては、潤滑油組成物に添加される金属原子不含有有機リン系添加剤は、1種類の化合物であってもよく、2種類以上の化合物を組み合わせて添加してもよい。
【0023】
本発明において、金属原子不含有有機リン系添加剤として用いられるリン脂質としては、大豆リン脂質、水添大豆リン脂質、菜種リン脂質、水添菜種リン脂質、卵黄リン脂質、水添卵黄リン脂質等が挙げられる。本発明においては、レシチンを用いることが好ましい。本発明において用いられるレシチンとしては、通常の市販品や試薬として入手できる大豆レシチン、菜種レシチン、卵黄レシチンを始めとして、これらを溶剤分別、抽出、分画などの処理を施し、加工して得られる精製レシチン、分画レシチン、さらにはこれらのレシチンを水素添加して飽和度を高めた水素添加レシチンなどを使用することができる。
【0024】
本発明において、金属原子不含有有機リン系添加剤として用いられるリン系合成添加剤としては、例えばリン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、及び酸性亜リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらのリン系合成添加剤は、リン系耐摩耗・極圧添加剤として汎用されている。具体的には、TCP、ジラウリルアシノドフォスフェート、トリプチルフォスファイト、トリオレイルフォスファイト等が挙げられる。これらのリン系化合物は、高温、高荷重下で金属面と化学反応し、添加剤中の元素と鉄との化合物からなる無機化合物の膜を作る。この無機化合物膜は、表面の保護膜として金属同士の結合を防ぎ、摩耗を減少させ、焼き付きを防止する。
【0025】
本発明において用いられる金属原子不含有有機リン系添加剤としては、レシチン及びTCPからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、レシチンを単独で使用する又はレシチンとTCPを併用することがより好ましく、環境負荷低減の点からレシチンを単独で使用することがより好ましい。
【0026】
本発明の潤滑油組成物に添加される金属原子不含有有機リン系添加剤の量は、その他の添加剤と併用添加することにより、摩擦特性や耐摩耗性を改善し得る濃度であればよく、潤滑油組成物に所望する摩擦摩耗特性、金属原子不含有有機リン系添加剤の種類、基油の組成、その他の添加剤の種類や添加量等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、レシチンやTCPの場合には、リン濃度として200〜2000ppmであることが好ましく、200〜1700ppmであることがより好ましく、200〜400ppmであることがさらに好ましい。なお、レシチン及びTCPを組み合わせて添加する場合、レシチンの添加量とTCPの添加量の和が、リン濃度として上記範囲内となるように添加することが好ましい。
【0027】
本発明の潤滑油組成物は、さらに、DBDS及びOBCSからなる群より選択される1種以上を含有することが好ましい。DBDSは、硫黄系耐摩耗・極圧添加剤として汎用されている添加剤である。リン系耐摩耗・極圧添加剤と同様に、添加剤中の元素と鉄との化合物からなる無機化合物膜を形成することにより、摩耗を減少させ、焼き付きを防止する。一方、OBCSは、清浄剤として汎用されている添加剤である。特に、高温運転におけるエンジン内部のデポジット生成を抑制し、スラッジの堆積を防止することによってエンジン内部を清浄に保つ働きをするとともに、エンジン油の劣化によって生じた酸性物質、年長の燃焼に伴って生成した酸性物質を中和し、腐食摩耗を防止する機能を持っている。
【0028】
本発明の潤滑油組成物に添加されるDBDS又はOBCSの量は、その他の添加剤と併用添加することにより、摩擦特性や耐摩耗性を改善し得る濃度であればよく、潤滑油組成物に所望する摩擦摩耗特性、基油の組成、その他の添加剤の種類や添加量等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、DBDSの場合には、硫黄濃度として200〜6000ppmであることが好ましく、200〜1000ppmであることがより好ましい。一方、OBCSの場合には、カルシウム濃度として200〜6000ppmであることが好ましく、200〜1000ppmであることがより好ましい。
【0029】
本発明の潤滑油組成物としては、基油に、硫黄含有有機モリブデン化合物としてMoDTC及びMoDTPからなる群より選択される1種以上を、金属原子不含有有機リン系添加剤としてレシチン及びTCPからなる群より選択される1種以上を、それぞれ添加したものであることが好ましく、MoDTC及びMoDTPからなる群より選択される1種以上と、レシチン及びTCPからなる群より選択される1種以上と、DBDS及びOBCSからなる群より選択される1種以上とを、それぞれ添加したものであることがより好ましく、MoDTCと、レシチンと、DBDS及びOBCSからなる群より選択される1種以上とを添加したものであることがさらに好ましく、MoDTCとレシチンとDBDSとを添加したものであることがよりさらに好ましい。
【0030】
本発明の潤滑油組成物は、環境負荷低減の点から、ZnDTP等の亜鉛含有化合物を添加剤として用いないほうが好ましいが、添加剤として、硫黄含有有機モリブデン化合物、及び金属原子不含有有機リン系添加剤に加えて、さらにZnDTP等を用いてもよい。本発明の潤滑油組成物は摩擦摩耗特性に優れているため、ZnDTP等の亜鉛含有化合物を添加する場合であっても、その添加量を従来よりも低減させることができる。
【0031】
さらに、本発明の潤滑油組成物には、硫黄含有有機モリブデン化合物及び金属原子不含有有機リン系添加剤を併用したことにより得られる摩擦低減効果や耐摩耗性改善効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、分散剤、粘度指数向上剤等の、潤滑油の添加剤として通常使用されているものを配合することができる。
【0032】
その他の添加剤として用いられる極圧剤としては、例えば、DBDS以外の硫黄系極圧剤が挙げられる。硫黄系極圧剤としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑剤基油に溶解又は均一に分散して、優れた摩擦特性を発揮しうるものであればよい。このような硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオフォスファイト、チオフォスフェート)、チオテルペン化合物などを挙げることができる。
好ましい配合量は、極圧剤としての効果及び経済性のバランスなどの点から、組成物全量基準で0.01〜2.0質量%程度、好ましくは0.05〜1.5質量%である。
【0033】
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミドなどが挙げられる。これらの油性剤は、極性基が極性相互作用によって金属面に吸着することにより、金属同士の直接接触を防ぎ、摩擦を低減することが知られている。
これらの油性剤 の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲であり、0.1〜5質量%の範囲が特に好ましい。
【0034】
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにモリブデン系酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができる。その配合量は、潤滑油組成物基準で0.01〜5質量%が好ましく、0.2〜3質量%が更に好ましい。
【0035】
分散剤としては、数平均分子量が900〜3,500のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、及びこれらのホウ酸変性物等の誘導体等が挙げられる。これらの分散剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、その配合量は、組成物基準で0.1〜20質量%の範囲が好ましい。
【0036】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.5〜15質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。
【0037】
本発明の潤滑油組成物は、環境負荷の高い亜鉛含有化合物を添加剤として用いない場合、若しくは添加量を低減させた場合であっても、優れた摩擦特性と耐摩耗性特性を備えるため、従来使用していた潤滑油、例えば、炭化水素油にMoDTCとZnDTPとを添加した潤滑油に代えて用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<試験片>
なお、以下の実施例において、潤滑油組成物の摩擦性や耐摩耗性を調べるために、ボールとディスクの試験片を用いた。当該試験片の材質はすべて高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)であり、硬さは62HPcであり、弾性率は1.96×1011Paであった。これらの試験片の組成を表1に示す。また、ボールには直径6.35mm、ディスクには直径24mm、高さ7mmのものを用いた。ディスクは、試験前にエメリーペーパー#2000で研磨し、その後アセトンで10分間、石油エーテルで10分間、超音波洗浄した。
【0040】
【表1】

【0041】
<摩擦試験の試験装置及び試験条件>
以下の実施例において、摩擦係数及び耐摩耗性の測定は、Ball on Disk型往復動摩擦試験機(東栄科学産業社製:BOD−LT400)を用いて行った。当該試験機において、プレートはスライドテーブル上に取り付けられ、当該スライドテーブルは偏心カムにより振幅と振動数を調節し往復させることが出来る。ボールはディスクの上方に固定できるようになっており、ボールスライダーの上部におもりを乗せ、垂直に荷重が加えられる。ボール側にロードセル(共和電業社製:LU−10KSB34D)がディスクと平行に設置されており、このロードセルにより、摩擦力を電気信号として検出することが出来る。試験条件を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
<摩擦係数の算出>
摩擦力は、ロードセルを用いて検出した。往復動が行われることにより、押す方向と引く方向、正と負の摩擦力が電圧に変換され交互に検出される。下記式(1)により、この電圧Vを摩擦力Fとして換算した。ここで、kは換算係数である。ロードセルに荷重をかけ、その荷重Fn[N]と検出された電圧Vn[V]から得られた検量線の傾きを換算係数kとした。
【0044】
【数1】

【0045】
その後、下記式(2)により、摩擦係数μを求めた。ここでWは、摩擦試験時の荷重W[N]である。上記式(1)と下記式(2)により、摩擦係数μは下記式(3)で表される。
【0046】
【数2】

【0047】
【数3】

【0048】
前述したように、往復動することで正又は負の摩擦係数が検出される。そこで摩擦係数を求める際に、正の最大値をμ、負の最大値をμとして、下記式(4)から摩擦係数μを求めた。
【0049】
【数4】

【0050】
<摩耗の評価>
摩擦試験後の試験片をアセトン、石油エーテルでリンスした後、レーザー顕微鏡を用いて観察した。ボール、ディスクの摩耗痕径を測定し、摩耗の評価を行った。
【0051】
[実施例1]
PAOを基油とし、様々な添加剤を添加し、潤滑油組成物を調製した。各潤滑油組成物に配合した添加剤を表3に示す。なお、各添加剤の濃度は、MoDTCはモリブデン濃度で300ppm、ZnDTPはリン濃度で300ppm、TCPはリン濃度で300ppm、DBDSは硫黄濃度で300ppm、OBCSはカルシウム濃度で300ppm、オレイン酸(OA)は5重量%である。また、レシチン(Le)は、リン濃度で300ppmと1650ppmのいずれかとなるように添加した。表3中、「Le300」はレシチンをリン濃度で300ppm添加したことを、「Le1650」はレシチンをリン濃度で1650ppm添加したことを、それぞれ示す。また、添加剤の欄中、「A+B」は、添加剤AとBとを配合したことを意味する。
【0052】
【表3】

【0053】
調製された潤滑油組成物の摩擦係数及び摩耗痕径を測定した。測定結果を表3に示す。この結果、PAOにレシチンを配合した場合(サンプル1A〜1C)、配合量依存的に摩耗痕径が小さくなり、かつ摩擦係数は小さくなる傾向が観察された。また、MoDTCとレシチンを併用した場合には(サンプル2A〜2C)、摩擦係数と摩耗根茎をいずれも小さくすることができた。DBDSとレシチンを併用した場合(サンプル5A〜5C)、OBDSとレシチンを併用した場合(サンプル6A〜6C)、MoDTCとZnDTPとレシチンとを併用した場合(サンプル8A〜8C)、MoDTCとDBDSとレシチンとを併用した場合(サンプル10A〜10C)、及びMoDTCとOBDSとレシチンとを併用した場合(サンプル11A〜11C)には、レシチンを添加することにより、摩擦係数と摩耗根茎をいずれも小さくすることができた。一方で、ZnDTPとレシチンを併用した場合(サンプル3A〜3C)、TCPとレシチンを併用した場合(サンプル4A〜4C)、オレイン酸とレシチンを併用した場合(サンプル7A〜7C)には、レシチンを併用したことによる効果は小さかった。また、MoDTCとTCPとレシチンを併用した場合(サンプル9A〜9C)には、レシチンを併用することにより、かえって摩擦係数や摩耗痕径が増大する傾向が観察された。
【0054】
レシチンを併用した場合に影響が観察されたサンプル(サンプル9A〜9Cを含む)について、各サンプルの摩擦係数及び摩耗痕径を図1に示す。図1に示すように、多くのサンプルにおいて、300ppmのレシチンを添加した場合のほうが、1650ppmを添加した場合よりも摩擦係数や摩耗痕径が小さいという傾向が観察された。これにより、レシチンの配合量には適量があると言えた。また、MoDTCとZnDTPと300ppmのレシチンとを併用した場合(サンプル8B)は、全サンプルで最も摩擦係数及び摩耗痕径が小さく、摩擦摩耗特性が優れていた。そして、MoDTCとDBDSとレシチンを併用することにより、MoDTCとZnDTPと300ppmのレシチンとを併用した場合とほぼ同程度に摩擦係数及び摩耗痕径を小さくすることができた。すなわち、これらの結果から、MoDTCとDBDSとレシチンを併用することにより、MoDTCとZnDTPを添加した場合と同程度まで、炭化水素油の摩擦摩耗特性を改善し得ることが明らかである。
【0055】
また、MoDTCとTCPを併用した場合(サンプル9A)にも、サンプル8Bと同様に摩擦係数や摩耗痕径を改善することができた。ただし、MoDTCとTCPにさらにレシチンを併用した場合(サンプル9B及び9C)には、逆に悪化した。これは、金属原子不含有有機リン系添加剤の配合が過剰になったためと推察される。つまり、金属原子不含有有機リン系添加剤の添加量には適量があり、複数の金属属原子不含有有機リン系添加剤を併用する場合には、金属属原子不含有有機リン系添加剤の総添加量に留意する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の潤滑油組成物は、環境負荷の高い亜鉛含有化合物を添加剤として用いない場合であっても、優れた摩擦摩耗特性を有することから、潤滑油の製造及び使用の分野において好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と添加剤とを含む潤滑油組成物であって、
添加剤として、硫黄含有有機モリブデン化合物と、金属原子不含有有機リン系添加剤とを含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属原子不含有有機リン系添加剤が、レシチン及びトリクレジルホスフェートからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記硫黄含有有機モリブデン化合物が、モリブデンジチオカーバメートであることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに、ジベンジルジスルフィド及び過塩基性カルシウムスルホネートからなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項似記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
さらに、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項似記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
モリブデンジチオカーバメートと、リン濃度として200〜1700ppmのレシチンと、ジベンジルジスルフィド及び過塩基性カルシウムスルホネートからなる群より選択される1種以上とを含有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
基油として、炭化水素油を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記基油がポリ−α−オレフィンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−36344(P2012−36344A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180140(P2010−180140)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年度岩手大学大学院工学研究科前期課程論文発表会、国立大学法人岩手大学、平成22年2月17日
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】