説明

潤滑油組成物

【課題】長期に亘って高い消泡性能を発揮することができる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】25℃における動粘度が1,000 cSt以上の消泡剤と、基油とを含む潤滑油組成物であって、消泡剤と基油とを含む混合物を4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲の剪断速度で剪断することによって、消泡剤が分散されていることを特徴とする、前記潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の潤滑油に使用される潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の装置に使用される潤滑油は、装置の小型化及び高性能化に伴って、少ない油量でも長期に亘って高い性能を維持することが求められている。潤滑油の性能としては、潤滑性能だけでなく、消泡性能も重要である。泡の発生は、装置内の油圧制御が不安定になるだけでなく、オイルタンクからの泡の吹き出しや、空気巻き込みによるキャビテーション発生に起因する異常音の発生を招く。例えば、自動車の変速機に潤滑油が使用される場合、泡の発生によって潤滑油がエンジン室内に噴出すると、火災発生の危険性が高まる。このため、長期に亘って消泡性能を維持することのできる潤滑油が求められている。
【0003】
特許文献1は、基油に、(a)25℃における動粘度が300,000〜1,500,000 mm2/sのポリジメチルシロキサン、及び(b)25℃における動粘度が500〜9,000 mm2/sのフッ素化ポリシロキサンを配合してなる潤滑油組成物を開示する。当該文献は、潤滑油組成物の消泡剤として、特定のポリジメチルシロキサンと特定のフッ素化ポリシロキサンを併用することにより、低温から高温まで優れた消泡性を維持できる潤滑油組成物が提供されると記載する。
【0004】
特許文献2は、基油とポリジメチルシロキサンとを含む潤滑油組成物であって、ポリジメチルシロキサンの分子量分布がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定してポリスチレン換算でlog M≧4.2部分の含有量が84%以上であり且つlog M≦3.1部分の含有量が3%以下であり、25℃における動粘度が10,000〜60,000 mm2/sであることを特徴とする潤滑油組成物を開示する。当該文献は、潤滑油組成物の消泡剤として、特定の分子量分布を有するポリジメチルシロキサンを特定の添加量で含むことにより、高速撹拌により発生する油面上の泡に対する消泡効果と優れた消泡性を維持できると記載する。
【0005】
特許文献3は、鉱油及び/又は合成油と、25℃における動粘度が10,000〜60,000 mm2/sのポリジメチルシロキサンをSi換算で0.1〜30 ppmと、重量平均分子量が4,000〜150,000のポリアクリレート系消泡剤を上記ポリジメチルシロキサンのSi換算量(ppm)の60倍以上含有することを特徴とする潤滑油組成物を開示する。当該文献は、上記ポリジメチルシロキサンを灯油、軽油その他の有機溶剤で希釈し、この希釈液を攪拌機により8,000回転/分以上で1分以上、又は20,000回転/分以上で5分以上撹拌し、ポリジメチルシロキサンの平均粒子径を0.1μm以下にした上記潤滑油組成物も開示する。当該文献は、一定粘度のポリジメチルシロキサンと、一定分子量のポリアクリレート系消泡剤を一定の比率で組み合わせて潤滑油中に添加することによって、油面上の泡に対する消泡と油中の泡に対する消泡の両者を効果的に行うことができると記載する。また、ポリジメチルシロキサンを希釈剤と共に高速撹拌して細粒化し、ポリアクリレート系消泡剤と混合することによって、長期間に亘って消泡効果を維持することができると記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-87065号公報
【特許文献2】特開2008-120889号公報
【特許文献3】特開2008-120996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、潤滑油の消泡剤としては、ポリジメチルシロキサンが使用される。ポリジメチルシロキサンは、鉱油又は合成油のような潤滑油の基油に不溶性である。このため、潤滑油の製造時には、基油と消泡剤とを混合した後、攪拌機(ホモジナイザー)を用いて高回転数で撹拌して、消泡剤を潤滑油中に分散させることが行われている(特許文献1〜3)。
【0008】
しかしながら、潤滑油の密度は、一般に0.85〜0.92 g/cm3の範囲であるのに対し、ポリジメチルシロキサンの密度は0.94〜0.97 g/cm3の範囲であって、ポリジメチルシロキサンは潤滑油に対して高比重である。このため、ホモジナイザーを用いて、ポリジメチルシロキサンを潤滑油中に均質に分散させても、時間経過に伴ってポリジメチルシロキサンは沈降する。沈降したポリジメチルシロキサンは、潤滑油中に発生する泡と接触することが困難であるため、消泡効果を発現することができない。
【0009】
以上のように、従来技術の潤滑油は、時間経過に伴って消泡効果が低下するという問題点が存在した。それ故本発明は、長期に亘って高い消泡性能を発揮することができる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、消泡剤と基油とを含む潤滑油組成物の製造時において、従来技術と比較して低い剪断速度による剪断で消泡剤を分散させることによって、時間経過に伴って消泡性能が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 25℃における動粘度が1,000 cSt以上の消泡剤と、基油とを含む潤滑油組成物であって、消泡剤と基油とを含む混合物を4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲の剪断速度で剪断することによって、消泡剤が分散されていることを特徴とする、前記潤滑油組成物。
(2) 消泡剤がシリコンオイルである、前記(1)の潤滑油組成物。
(3) 消泡剤がポリジメチルシロキサンである、前記(2)の潤滑油組成物。
(4) 25℃における動粘度が1,000 cSt以上の消泡剤と、基油とを含む潤滑油組成物の製造方法であって、
消泡剤と基油とを含む混合物を4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲の剪断速度で剪断して、消泡剤を分散させる分散工程;
を含む、前記潤滑油組成物の製造方法。
(5) 消泡剤がシリコンオイルである、前記(4)の方法。
(6) 消泡剤がポリジメチルシロキサンである、前記(5)の方法。
(7) 分散工程の前に、
消泡剤と溶剤とを混合して、消泡剤の希釈液を調製する希釈液調製工程;及び
消泡剤の希釈液と基油とを混合して、消泡剤と基油とを含む混合物を調製する混合物調製工程;
を含む、前記(4)〜(6)のいずれか1項の方法。
(8) 溶剤がケロシンである、前記(7)の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、長期に亘って高い消泡性能を発揮することができる潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の潤滑油組成物(実施例1)の泡立ち度とシリコン量の経時変化を示す図である。
【図2】従来技術の潤滑油組成物(比較例1)の泡立ち度とシリコン量の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0015】
1. 潤滑油組成物
本発明の潤滑油組成物は、消泡剤と基油とを含む。
本明細書において、「消泡剤」は、潤滑油組成物の使用時に発生する泡を破壊(消泡)する効果を有する成分を意味する。本発明の潤滑油組成物に使用される消泡剤は、シリコンオイルであることが好ましく、ポリジメチルシロキサンであることがより好ましい。消泡剤は、25℃における動粘度が1,000 cSt以上であることが好ましく、1,000〜100,000 cStの範囲であることがより好ましい。1,000 cSt未満の場合、以下で説明する消泡剤の凝集が起こらず、所望の消泡効果を発揮できないことから好ましくない。それ故、上記範囲の動粘度を有する消泡剤を潤滑油組成物に添加することにより、長期に亘って高い消泡性能を発揮する潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0016】
なお、消泡剤の動粘度は、例えばJIS K2283で規定される方法により、決定することができる。
【0017】
本発明の潤滑油組成物に使用される消泡剤は、潤滑油組成物の総質量に対して、シリコン(Si)質量換算で10〜30 ppmの範囲の濃度であることが好ましい。10 ppm未満の場合、消泡剤が不足して所望の消泡効果を発揮できないことから好ましくない。また、30 ppmを超える場合、潤滑油組成物中に分散させることが困難となることから好ましくない。上記の範囲の濃度で消泡剤を潤滑油組成物に添加することにより、長期に亘って高い消泡性能を発揮する潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0018】
なお、Si換算の消泡剤の濃度は、潤滑油組成物中に含まれるシリコン量を、例えば、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて測定することにより、算出することができる。
【0019】
本発明の潤滑油組成物に使用される消泡剤は、以下で説明する製造方法において、消泡剤と基油とを含む混合物を4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲の剪断速度で剪断することによって、潤滑油組成物中に分散されていることが好ましい。上記の条件で混合することにより、高い消泡性能を発揮する潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0020】
本明細書において、「基油」は、潤滑油組成物の主成分として使用される成分を意味する。本発明の潤滑油組成物には、当業界で慣用される通常の鉱物油、合成油又はこれらの混合物のいずれも使用することができる。かかる鉱物油としては、American Petroleum Institute (API) グループカテゴリーのグループ1, 2, 3又は4に分類されるパラフィン系鉱物油を挙げることができる。グループ1のパラフィン系鉱物油を使用することが好ましい。また、上記の合成油としては、ポリオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン又は有機酸、リン酸若しくはケイ酸エステルを含む合成油を挙げることができる。ポリオレフィンを含む合成油を使用することが好ましい。上記の基油を本発明の潤滑油組成物に使用することにより、長期に亘って潤滑性能を維持する潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物は、所望により当業界で慣用される各種の性能添加剤を含んでも良い。本発明の潤滑油組成物に使用される性能添加剤としては、限定するものではないが、例えば、金属洗浄剤、分散剤、摩耗防止剤、流動点降下剤及び酸化防止剤を挙げることができる。
【0022】
本明細書において、「金属清浄剤」は、潤滑油組成物を使用する装置を高温運転する際に生成するスラッジを、装置内部の金属部材表面から除去するとともに、スラッジの元となるスラッジ前駆体を中和して、装置内部を清浄にする成分を意味する。本発明の潤滑油組成物には、有機酸の金属塩のような、当業界で慣用される通常の金属清浄剤を使用することができる。かかる金属清浄剤の例としては、限定するものではないが、例えば、Ba, Ca, Mg等のスルホネート、フェネート及びサリシレートを挙げることができる。
【0023】
本明細書において、「分散剤」は、潤滑油組成物を使用する装置を低温運転する際に、スラッジやすすを潤滑油中に分散させる機能を有する成分を意味する。本発明の潤滑油組成物には、当業界で慣用される通常の分散剤を使用することができる。かかる分散剤の例としては、限定するものではないが、例えば、コハク酸イミド、コハク酸エステル及びベンジルアミンを挙げることができる。上記の金属清浄剤及び分散剤を本発明の潤滑油組成物に使用することにより、スラッジやすすを除去又は分散させて、長期に亘って高い潤滑性能を維持する潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0024】
本明細書において、「流動点降下剤」は、潤滑油組成物に含有されるロウ分が、低温で結晶化することを防止することにより、潤滑油組成物の流動点を降下させる成分を意味する。本発明の潤滑油組成物には、当業界で慣用される通常の流動点降下剤を使用することができる。かかる流動点降下剤の例としては、限定するものではないが、例えば、ポリメタクリレート、アルキル化芳香族化合物及びフマレートを挙げることができる。上記の流動点降下剤を本発明の潤滑油組成物に使用することにより、低温においても安定した潤滑性能を発揮する潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0025】
本発明の潤滑油組成物は、限定するものではないが、例えば、自動車のエンジン及び自動変速機のような装置の潤滑油として使用することができる。本発明の潤滑油組成物は、長期に亘って高い消泡性能を発揮するため、上記のような装置に本発明の潤滑油組成物を使用することにより、装置の高性能化、静粛化などに貢献することができる。
【0026】
2. 潤滑油組成物の製造方法
本発明の潤滑油組成物は、消泡剤と基油とを含む混合物を剪断して、消泡剤を潤滑油組成物中に分散させる分散工程を含む方法により製造することができる。
【0027】
本発明の製造方法には、上記で説明した消泡剤及び基油を使用することができる。また、所望により、上記で説明した各種の性能添加剤を追加の成分として使用してもよい。性能添加剤を使用する場合、以下で説明する混合物調製工程又は分散工程において、消泡剤と基油とを含む混合物に加えればよい。上記の成分を使用することにより、長期に亘って高い消泡性能を発揮する潤滑油組成物を製造することが可能となる。
【0028】
2-1. 希釈液調製工程
本発明の製造方法に使用される消泡剤は、そのままの状態で使用してもよいが、ケロシン、トルエン及びキシレンから選択される溶剤で予め所望の濃度に希釈した希釈液の形態で使用してもよい。ケロシンを用いることが好ましい。この場合、本発明の製造方法は、分散工程の前に、消泡剤と溶剤とを混合して、消泡剤の希釈液を調製する希釈液調製工程を含む。
【0029】
本工程において、消泡剤は、消泡剤の質量に対して質量比で10〜20倍となるように、上記の溶剤で希釈することが好ましい。上記の条件で調製した希釈液を消泡剤として使用することにより、基油に対する親和性が向上し、基油との混合をより均質に行うことが可能となる。
【0030】
本工程において、消泡剤と溶剤とを混合する手段としては、撹拌装置を挙げることができる。かかる撹拌装置としては、限定するものではないが、例えば、撹拌羽根を有するプロペラ式ミキサー又は回転式の内刃と固定式の外刃とを有するホモジナイザーが好ましい。この場合、撹拌速度は500〜1,000 rpmの範囲であることが好ましい。また、撹拌時間は30分以上であることが好ましい。撹拌温度は室温であることが好ましく、10〜30℃の範囲であることがより好ましい。上記の条件で本工程を実施することにより、消泡剤が均質に分散した希釈液を得ることが可能となる。
【0031】
2-2. 混合物調製工程
本工程は、希釈液調製工程で得られる消泡剤の希釈液と基油とを混合して、消泡剤と基油とを含む混合物を調製することを目的とする。
【0032】
本工程には、上記で説明した基油を使用することができる。また、追加の成分として上記で説明した性能添加剤を使用する場合、消泡剤及び基油と一緒に混合することにより、消泡剤と基油とに加えて性能添加剤をさらに含む混合物を調製することができる。
【0033】
本工程は、希釈液調製工程と同様の条件で各成分を混合することにより、実施することができる。上記の条件で本工程を実施することにより、消泡剤と基油とを含む混合物を得ることが可能となる。
【0034】
2-3. 分散工程
本工程は、消泡剤と基油とを含む混合物を剪断することにより、消泡剤を相互に凝集させて潤滑油組成物中に分散させることを目的とする。
【0035】
本発明の製造方法において、消泡剤を希釈液の形態で使用する場合、本工程では、上記で説明した希釈液調製工程及び混合物調製工程で得られる混合物を使用することができる。
【0036】
また、消泡剤をそのままの状態で使用する場合、消泡剤と基油とを以下で説明する条件で混合することにより、本工程で使用する消泡剤と基油とを含む混合物を調製することができる。この場合、本工程において、上記で説明した性能添加剤を消泡剤及び基油と一緒に混合することにより、消泡剤と基油とに加えて性能添加剤をさらに含む混合物を調製することができる。
【0037】
従来技術の潤滑油組成物は、通常、高い剪断速度で剪断又は撹拌することによって製造される(例えば、特許文献3)。特許文献3は、基油に不溶性の消泡剤を潤滑油組成物中に均質に分散させることにより、泡との接触確率を向上させ、より効果的に消泡効果を発現させることができると記載する。
【0038】
しかしながら、高い剪断速度で剪断又は撹拌することによって製造された潤滑油組成物は、製造後、時間が経過すると、消泡剤が沈降して潤滑油組成物中のシリコン量が低下すると共に、消泡性能が低下する。消泡剤は、基油に対して高比重で且つ不溶性のため、時間経過に伴って沈降する一方、泡立ちの原因となる金属清浄剤や分散剤のような極性物質は、沈降せずに潤滑油組成物中に分散していることがその原因と考えられる。
【0039】
本発明者は、消泡剤と基油とを含む混合物を、従来技術と比較して低い剪断速度で剪断すると、時間経過に伴って潤滑油組成物中のシリコン量は低下するものの、消泡性能はむしろ向上することを見出した。潤滑油組成物中の消泡剤は、低い剪断速度で剪断すると、相互に凝集した形態で存在すると考えられる。相互に凝集した形態の消泡剤は、金属清浄剤や分散剤のような極性物質に対する吸着力が強く、且つ基油に対して高比重のため、極性物質を吸着した状態で容易に沈降する。このように、本発明の潤滑油組成物は、消泡剤と共に泡立ちの原因となる極性物質が一緒に沈降するため、時間が経過しても消泡性能が低下せず、むしろ顕著に向上すると考えられる。
【0040】
本工程において、消泡剤と基油とを含む混合物を剪断する手段としては、限定するものではないが、例えば、撹拌装置を挙げることができる。かかる撹拌装置としては、回転式の内刃と固定式の外刃とを有するホモジナイザーが好ましい。この場合、剪断速度は4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲であることが好ましい。例えば、半径30 mmの内刃と半径30.98 mmの外刃とを有するホモジナイザーを使用する場合、撹拌速度は1,500〜2,500 rpmの範囲であることが好ましい。また、撹拌時間は5分以上であることが好ましく、5〜15分の範囲であることがより好ましい。撹拌温度は室温であることが好ましく、10〜30℃の範囲であることがより好ましい。
【0041】
なお、本明細書において、「剪断速度」は、流体が流路を移動する際に、流路の壁面との摩擦力により、壁面付近と中央部との間で流体の移動速度が異なることから生じる流体内の速度勾配を意味する。回転式の内刃と固定式の外刃とを有するホモジナイザーを用いて撹拌する場合、剪断速度は、下記の計算式によって算出することができる。
【0042】
ホモジナイザーの内刃の半径r (mm);外刃の半径r’ (mm);回転数n (rpm)の場合:
内刃の周長a = 2πr (mm);
内刃と外刃との隙間長d = r’-r (mm);
内刃の周速度v = a×n (mm/秒);
剪断速度t = v/d (1/秒)
【0043】
上記の条件で消泡剤と基油とを含む混合物を剪断することにより、消泡剤が相互に凝集した形態で潤滑油組成物中に分散した潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
[材料]
基油:APIグループカテゴリーのグループ1鉱物油
消泡剤:ポリジメチルシロキサン(25℃の動粘度:1,000 cSt以上)のケロシン希釈液
性能添加剤:金属清浄剤、分散剤、摩耗防止剤、流動点降下剤
【0045】
[潤滑油組成物の調製]
実施例1
ポリジメチルシロキサンを、ケロシンで16倍(質量比)に希釈した後、撹拌羽根を有するプロペラ式ミキサーを用いて、25℃で30分間、500〜1,000 rpmの回転数で撹拌した。
【0046】
得られたポリジメチルシロキサンのケロシン希釈液を、基油及び性能添加剤と混合した。ポリジメチルシロキサンのケロシン希釈液は、潤滑油組成物の総質量に対して、Si換算で12 ppmの濃度となるように混合した。
【0047】
上記の混合物を、ホモジナイザー(内刃の半径r:30 mm;外刃の半径r’:30.98 mm)を用いて、室温(25℃)で5分以上、1,500〜2,500 rpmの回転数で撹拌して、実施例1の潤滑油組成物を調製した。この場合、剪断速度は4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲となる。なお、剪断速度は、下記のように計算される。
【0048】
回転数n = 1,500 rpmの場合
内刃の周速度v:a×n = 188.4×1,500/60 = 4,710 mm/秒
剪断速度t:v/d = 4,710/0.98 = 4.8×103 1/秒
回転数n = 2,500 rpmの場合
内刃の周速度v:a×n = 188.4×2,500/60 = 7,850 mm/秒
剪断速度t:v/d = 7,850/0.98 = 8.0×103 1/秒
【0049】
比較例1
実施例1と同様の方法で、ポリジメチルシロキサンのケロシン希釈液を調製し、これを、基油及び性能添加剤と混合した。ポリジメチルシロキサンのケロシン希釈液は、潤滑油組成物の総質量に対して、Si換算で12 ppmの濃度となるように混合した。
【0050】
上記の混合物を、ホモジナイザー(内刃の半径r:30 mm;外刃の半径r’:30.98 mm)を用いて、室温(25℃)で5分以上、10,000 rpm以上の回転数で撹拌して、比較例1の潤滑油組成物を調製した。この場合、剪断速度は3.2×104 1/秒の範囲となる。なお、剪断速度は、下記のように計算される。
【0051】
回転数n = 10,000 rpmの場合
内刃の周速度v:a×n = 188.4×10,000/60 = 31,400 mm/秒
剪断速度t:v/d = 31,400/0.98 = 3.2×104 1/秒
【0052】
[試験1:潤滑油組成物の泡立ち試験]
ASTM D892又はJIS K2518で規定されるシーケンスII(93±1℃)の泡立ち度試験により、所定の時間、室温で放置した後の実施例1及び比較例1の潤滑油組成物の泡立ち度を測定した。
【0053】
[試験2:潤滑油組成物のシリコン量測定]
高周波プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて、所定の時間、室温で放置した後の実施例1及び比較例1の潤滑油組成物のシリコン量を定量した。
【0054】
[試験結果]
試験1及び2の結果を、図1(実施例1)及び図2(比較例1)にそれぞれ示す。
図1に示すように、本発明の潤滑油組成物(実施例1)は、時間経過に伴ってシリコン量が低下するものの、泡立ち度も低下した。これに対し、従来技術の潤滑油組成物(比較例1)は、時間経過に伴ってシリコン量が低下すると共に、泡立ち度が上昇した。
【0055】
上記の結果を考察する。従来技術の潤滑油組成物は、高い剪断速度で剪断することによって調製される。このため、ポリジメチルシロキサンは相互に凝集せず徐々に沈降する一方、泡立ちの原因となる金属清浄剤や分散剤のような極性物質は、沈降せずに均質に分散している。それ故、従来技術の潤滑油組成物は、時間経過に伴って消泡性能が低下したと考えられる。
【0056】
これに対し、本発明の潤滑油組成物は、従来技術と比較して低い剪断速度で剪断することによって調製される。このため、潤滑油組成物中のポリジメチルシロキサンは、相互に凝集した形態で存在すると考えられる。このように、相互に凝集したポリジメチルシロキサンは、金属清浄剤や分散剤のような極性物質に対する吸着力が強く、極性物質を吸着した状態で容易に沈降する。それ故、本発明の潤滑油組成物は、時間経過に伴ってポリジメチルシロキサンが沈降するにもかかわらず、消泡性能は顕著に向上すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の潤滑油組成物は、調製後、時間経過に伴ってポリジメチルシロキサンが沈降しても、消泡性能は顕著に向上する。これにより、長期に亘って高い消泡性能を発揮する潤滑油組成物を製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における動粘度が1,000 cSt以上の消泡剤と、基油とを含む潤滑油組成物であって、消泡剤と基油とを含む混合物を4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲の剪断速度で剪断することによって、消泡剤が分散されていることを特徴とする、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
消泡剤がシリコンオイルである、請求項1の潤滑油組成物。
【請求項3】
消泡剤がポリジメチルシロキサンである、請求項2の潤滑油組成物。
【請求項4】
25℃における動粘度が1,000 cSt以上の消泡剤と、基油とを含む潤滑油組成物の製造方法であって、
消泡剤と基油とを含む混合物を4.8×103〜8.0×103 1/秒の範囲の剪断速度で剪断して、消泡剤を分散させる分散工程;
を含む、前記潤滑油組成物の製造方法。
【請求項5】
消泡剤がシリコンオイルである、請求項4の方法。
【請求項6】
消泡剤がポリジメチルシロキサンである、請求項5の方法。
【請求項7】
分散工程の前に、
消泡剤と溶剤とを混合して、消泡剤の希釈液を調製する希釈液調製工程;及び
消泡剤の希釈液と基油とを混合して、消泡剤と基油とを含む混合物を調製する混合物調製工程;
を含む、請求項4〜6のいずれか1項の方法。
【請求項8】
溶剤がケロシンである、請求項7の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46606(P2012−46606A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189209(P2010−189209)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】