説明

潤滑油組成物

【課題】エンジンの摩耗を軽減するための潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)一般式Si−Xの油溶性四官能加水分解性シラン化合物もしくはその加水分解生成物を含み、Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、もしくはジアルキルアミノ含有基であり、そして該潤滑油組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に云ってエンジンの摩耗を軽減するための潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リン、特にジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)により供給されるリンは、過去の50年間、完全に処方された潤滑剤における主要な抗摩耗剤であった。研究が示すところによると、リンは、ガソリン燃料機関内で用いられる未燃焼の炭化水素と窒素酸化物の排気による排出を減少させるための触媒コンバーターに害をあたえることがある(非特許文献1〜3を参照)。排気管からの排出に適用される環境規制が強化されたことにより、エンジンオイル中に許容されているリンの濃度が著しく低下し、エンジンオイル中のリンの含有量は、次のカテゴリーであるGF−5において、おそらく0.05質量%まで低くされようとしている。
【0003】
多くの部分的な解決方法が存在し、それらにより、Zn、P、もしくはSのいずれかが部分的もしくは全面的に除去されている。一つの取り組みとして、非特許文献4では、原子間力顕微鏡(AFM)、X線光電子分光(XPS)、並びにO、P、およびSのK−エッジとP、S、およびFeのL−エッジにおけるX線吸収エッジ近傍構造(XANES)分光を用いて、広範囲の摩擦時間(10秒間乃至10時間)および濃度(0.1乃至5質量%のZDDP)においてZDDPおよびDDPから生じる摩擦被膜の生長および形態論を研究している。52100スチール上でキャメロン−プリント試験機を用いて生成させた全被膜の主要成分は、ZnおよびFeのリン酸塩およびポリリン酸塩であった。これらのリン酸塩被膜の平均厚さは、PのK−エッジについてのXANESおよびXPSプロファイリングにより測定された。ZDDPについては、10秒後に非常に重要なリン酸塩被膜(厚さ:約100Å)が生じた。それに比べて、DDPに関する被膜の生成は実質的に遅かった。しかし、いずれの添加剤についても、平均の被膜の厚さは、摩擦から30分後、安定したもしくは減少する状態になる前に、600乃至800Åまで増加する。
【0004】
様々な摩擦時間と濃度において、純粋なZDDP、およびそれとDDPとの組み合わせの耐摩耗性についても試験されている。あらゆる条件において、抗摩耗剤としてのZDDPの性能は、DDPの性能よりも優れていることが明らかになった。ただし、両者を混合した場合、DDPはZDDPの性能に対して悪影響を及ぼすことがなく、DDPをZDDPと併用でき、それにより全灰分の量を削減できることが示唆された。
【0005】
特許文献1は、抗摩耗および抗酸化性能を有する潤滑性添加剤を開示している。この添加剤は、チオジカルボン酸とエーテルアミンとの反応生成物である。このエーテルアミンは、その後、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、および/または亜リン酸トリアルキルとの反応に供される。
【0006】
特許文献2は、(A)下記式で表される化合物および(B)少なくとも10の炭素原子の脂肪族の置換基を有するアシル化含窒素化合物を含む組成物を開示している:
【0007】
【化1】

【0008】
式中、R、R、R、およびRは、独立に炭化水素基であり、そしてXおよびXは、独立にOもしくはSであり、そしてnは0乃至3である。
特許文献2は、さらに組成物が、(A)以外の第2のリン化合物を含むことができる旨を開示している。第2のリン化合物は、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩、もしくはそれらの誘導体である。
【0009】
以上に述べた文献は、PもしくはSを含有する補助的な摩耗防止剤を広く記述している。残念ながら、排ガス規制の強化により、摩耗防止剤に対して、P、S、および/またはZnの含有量をほぼゼロにすることが要求されている。特許文献3には、潤滑剤に熱安定性を付与するトリアルキルシランが開示され、そして特許文献4には酸化性能が改善されたフェニルトリアルキルシランが開示されている。三官能加水分解性シランについては、燃料および潤滑性組成物への応用が見出されている。例えば、特許文献5は、燃料組成物中で使用する有機ニトレート点火促進剤とトリアルコキシシランとの添加剤混合物を開示している。特許文献6は、ビス(トリアルコキシシリル)アルキルポリスルフィドを、ポリシロキサンを含む他の結合基と共に開示している。これらのビスおよび重合化シラン化合物は、ASTM D4172試験を採用するファレックス(4球)摩耗による傷を軽減する結果を示した。
【0010】
特許文献7および8は、(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル;および(b)四官能加水分解性シランを含む潤滑油組成物を開示している。特許文献7および8の実施例は、それぞれ、さらに潤滑油組成物がジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を含むことを開示している。
【0011】
特許文献9は潤滑性添加剤を開示している。添加剤では、(AlkO)SiRR’の一般式を有するトリアルコキシオルガノシランが2乃至35質量%、好ましくは5質量%の量で使用される場合に、潤滑油の抗摩擦性および抗腐食性が改善される。上記一般式中、AlkOはアルコキシ基であり、Rはアルキル、アリール、もしくはアルケニル基であり、そしてR’はNH、COH、COH、OH、もしくはCNのような官能基である。
【0012】
特許文献10は、式R−Si(ORのトリアルコキシシランから誘導される縮合ポリマーを約0.01乃至5質量%含む抗疲労性を改善する潤滑性組成物を開示している。上記式中、RはC1−12アルキルもしくはC2−24アルコキシアルキルであり、そしてRはC1−12アルキルもしくはC2−12アルコキシアルキルである。ここで、アルコキシアルキルは−C−O−C−で表されるエーテル基を意味し、nプラスmの合計は、Rの場合2乃至24であり、Rの場合2乃至12である。
【0013】
特許文献11は、例えば、(a)RSi(OR)、(b)(RSi(OR)、および(c)(RSiORのようなシラン化合物からなる添加剤を開示している。上記RはH、C1−18アルキル、C2−18アルケニル、C6−18アリールであり;そして上記Rは任意にN、O、および/またはS原子を含むか、あるいは任意にヒドロキシル、カルボニル、アルコキシカルボニル、アルケノキシカルボニル、もしくはアリールオキシカルボニルで置換されているC6−50アルケニルまたはC6−50アリールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5405545号明細書
【特許文献2】米国特許第5674820号明細書
【特許文献3】米国特許第4572791号明細書
【特許文献4】米国特許第5120485号明細書
【特許文献5】米国特許第4541838号明細書
【特許文献6】米国特許第6887835号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第20080058231号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第20080058232号明細書
【特許文献9】ロシア特許第SU−245955号明細書(1969年6月11日)
【特許文献10】英国特許第1441335号明細書
【特許文献11】特開平8−337788号公報(1996年12月24日)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】スピアロット外、「合衆国が規定する耐久性および高速車両に関する試験における触媒コンバーターの性能に対するエンジンオイルのリンの効果」、SAE技術論文770637号(1977)
【非特許文献2】カラシオロ外、「化学量論的排気制御(C−4)システムの劣化に対するエンジンオイル添加剤の効果」、SAE技術論文790941号(1979)
【非特許文献3】ウエダ外、「モノリス三元触媒および酸素センサーの不活性化に対するエンジンオイル添加剤の効果」、SAE技術論文940746号(1994)
【非特許文献4】チャン外、「ZDDPから生じる摩擦被膜および鋼鉄表面における無灰ジチオリン酸ジアルキル(DDP)、第1部、生長、耐久性、および形態論的側面」、摩擦学会レターズ、19巻、3、211〜220頁(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上のように潤滑油のリン含有量をさらに減少させ、硫黄含有量を制限するとの要求が非常に高いため、現在の実用化されている方法では、そのような削減要求を満足することができない。それだけではなく、依然として、今日のエンジンオイルに要求されている厳しい耐摩耗および酸化−腐食防止性能に適合できていない。従って、比較的低レベルのリンおよび硫黄を有し、亜鉛を含まないが、必要とされる摩耗および酸化の防止性能を実現する潤滑油組成物、添加剤、および添加剤のパッケージを開発することが望まれる。ところが、それらの性能は、現在でも依然としてジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む潤滑油によって提供されている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第一の態様に従い提供される潤滑油組成物は、(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)一般式Si−Xの油溶性四官能加水分解性シラン化合物(Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、もしくはジアルキルアミノ含有基)もしくはその加水分解生成物を含むが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない。
【0018】
本発明の第二の態様に従い提供される潤滑油組成物は、(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)一般式Si−Xの油溶性四官能加水分解性シラン化合物(Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、もしくはジアルキルアミノ含有基)もしくはその加水分解生成物を含み、さらに潤滑油組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まず、潤滑油組成物中の油溶性四官能加水分解性シラン化合物をジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物に置き換えた対応組成物よりも優れているか同等の摩耗軽減機能を有する。
【0019】
本発明の第三の態様に従い提供される潤滑油組成物は、(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)式(II)の油溶性部分的非加水分解性シランを含み、さらに潤滑油組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない:
(RSi(OR4−n (II)
式中、nは1、2、もしくは3の整数であり、−OR部分は、それぞれ独立に、加水分解性基であり、そしてRは、それぞれ独立に、非加水分解性基である。
【0020】
本発明の第四の態様に従い提供される内燃機関内の摩耗の軽減方法は、(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)一般式Si−Xの油溶性四官能加水分解性シラン化合物(Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、もしくはジアルキルアミノ含有基)もしくはその加水分解生成物を含むが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない潤滑油組成物で内燃機関を作動させる工程を含む。
【0021】
本発明の第五の態様に従い提供される内燃機関は、(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)一般式Si−Xの油溶性四官能加水分解性シラン化合物(Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、もしくはジアルキルアミノ含有基)もしくはその加水分解生成物を含み、さらにジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない潤滑油組成物で潤滑されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の潤滑油組成物では、ジアルキルジチオリン酸亜鉛が存在せず、油溶性四官能加水分解性シラン化合物および/または油溶性部分的非加水分解性シランを用いる。これにより、潤滑油組成物中の油溶性四官能加水分解性シラン化合物をジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物に置き換えた潤滑油組成物と比較すると、本発明の潤滑油組成物は改善されるか、あるいはほぼ同等の摩耗軽減機能を有利に示すとの予想外に優れた結果が見出された。加えて、摩耗防止は、本発明の潤滑油組成物により、比較的低レベルの、あるいは全く存在しないリンおよび/または硫黄の含有量を採用しながら達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】比較例A〜Cの潤滑油組成物に対して実施例1の潤滑油組成物の耐摩耗性能を比較する棒グラフである。
【図2】比較例A、C、およびD〜Gの潤滑油組成物に対して実施例2および3の潤滑油組成物の耐摩耗性能を比較する棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、少なくとも(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)一般式Si−Xの油溶性四官能加水分解性シラン化合物もしくはその加水分解生成物を含む潤滑油組成物に関し、Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、もしくはジアルキルアミノ含有基であるが、潤滑油組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない。ある態様では、本発明の潤滑油組成物には、リンおよび/または硫黄が実質的に存在しない。例えば、リンの含有量は0.08質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、最も好ましくは0質量%である。そして硫黄についても低レベルであって、例えば、0.2質量%以下である。本発明の潤滑油組成物中のリンおよび硫黄の量は、ASTM D4951に従い測定できる。
【0025】
本発明の潤滑油組成物中で使用される潤滑性粘度を有するオイルは、基油とも呼ばれ、組成物の全質量に対して一般に多量に存在し、具体的には50質量%より多く、好ましくは約70質量%より多く、さらに好ましくは約80乃至約99.5質量%であり、最も好ましくは約85乃至約98質量%である。ここで使用する「基油」との表現は、一つのベースストックもしくは複数のベースストックを調合したものを意味すると理解すべきである。このベースストックは、単一の製造者によって(原材料供給地や製造地は問わない)同じ仕様書に基づき生産され;同じ製造者の仕様書に適合し、さらに;固有の処方、製品特定番号もしくはそれらの双方により同定される潤滑性成分である。ここで使用する基油は、同一の仕様書に基づいて(供給源もしくは生産場所とは独立に)単一の生産者が製造され;同じ生産者の仕様書に適合し;さらに固有の処方、製品特定番号もしくはそれらの双方により同定される潤滑油成分であるベースストックもしくはベースストックの配合を意味する。ここで使用される基油は、既に知られているものに加えて、今後発見される基油であってもよい。この基油は、エンジンオイル、船舶用シリンダオイル、機能性液体(例、作動油、ギア油、変速機液)等のような、いくつかもしくは全ての用途において潤滑油組成物の処方に用いられる潤滑性粘度を有している。加えて、ここで使用される基油は、メタクリル酸アルキル重合体、オレフィン共重合体(例、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体)その他、およびそれらの混合物のような粘度指数向上剤を任意に含むことができる。
【0026】
当業者であれば容易に認識できるように、基油の粘度は用途に依存する。すなわち、ここで使用される基油の粘度は、100℃において通常は約2乃至約2000センチストロークス(cSt)の範囲である。エンジンオイルとして使用する個々の基油は、100℃において一般に約2cSt乃至約30cSt、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStの範囲に動粘度を有する。また、基油は、エンジン油に求められる等級を与えるように、要求される最終用途と基油に最終的に含まれる添加剤とに対応して、選択および配合される。エンジン油の等級とは、例えば、潤滑油組成物は、SAE粘度等級で0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30、もしくは15W−40を有する。ギア油として使用する基油は、100℃において約2cSt乃至約2000cStの粘度を有するであろう。
【0027】
ベースストックは、様々に異なる方法を用いて製造することができる。それらの方法は、限定される訳ではないが、蒸留法、溶剤精製法、水素処理法、オリゴマー化法、エステル化法、および再精製法を含む。再精製されたストックからは、製造、汚染、あるいは以前の使用において加えられた物質が実質的に除かれている必要がある。本発明の潤滑油組成物の基油は、天然もしくは合成による潤滑性の基油である。適切な炭化水素合成油は、限定される訳ではないが、ポリアルファオレフィン(PAO)オイルのようなポリマーを生じるエチレンの重合反応もしくは1−オレフィンの重合反応、あるいは一酸化炭素と水素ガスとを用いる炭化水素合成法(例、フィッシャー−トロプシュ法)により合成されるオイルを含む。適切な基油の例では、重い分画が仮に存在しても極めてわずかしか含まれていない。例えば、100℃における粘度が20cSt以上である潤滑油分画は、仮に存在しても極めてわずかである。
【0028】
基油は、天然の潤滑油、合成潤滑油、もしくはそれらの混合物から得ることができる。適切な基油は、合成ワックスおよびスラックワックスの異性化により得られるベースストックに加えて、粗製物中の芳香性かつ極性成分を(溶媒抽出よりも)水素化分解することにより製造される水素化分解ベースストックを含む。適切な基油は、API公報1509(14版、補遺I、12月、1998年)で定義されるAPIカテゴリーI、II、III、IV、およびVの全てに属するものを含む。グループIVの基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループVの基油は、グループI、II、III、およびIVに含まれない他の全ての基油を含む。この発明ではグループII、III、およびIVの基油が好ましく用いられるが、基油を、グループI、II、III、IV、およびVの一つ以上に属するベースストックもしくは基油を組み合わせて製造することもできる。
【0029】
有用な天然油は、鉱物性潤滑油(例、液状石油起源オイル、パラフィン型、ナフサ型もしくはパラフィン−ナフサ混合型の溶剤処理もしくは酸処理鉱物性潤滑油、石炭もしくはシェール油から得られるオイル)、動物もしくは植物油(例、菜種油、ひまし油、ラード油)その他を含む。
【0030】
有用な合成潤滑油は、限定される訳ではないが、重合化もしくは共重合化オレフィン類のような炭化水素オイルおよびハロゲン置換炭化水素オイル(例、ポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン−イソブチレン共重合体類、塩素化ポリブチレン類、ポリ1−ヘキセン類、ポリ1−オクテン類、ポリ1−デセン類)その他、およびそれらの混合物;ドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン類その他のようなアルキルベンゼン類:ビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェニル類その他のようなポリフェニル類;アルキル化ジフェニルエーテル類、アルキル化ジフェニルスルフィド類およびそれらの誘導体、類似体、および同族体その他を含む。
【0031】
他の有用な合成潤滑油は、限定される訳ではないが、炭素原子5以下のオレフィン(例、エチレン、プロピレン、ブチレン類、イソブテン、ペンテン、およびそれらの混合物)を重合させることにより得られるオイルを含む。そのようなポリマー油の製造方法は、当業者に良く知られている。
【0032】
別の有用な合成炭化水素油は、適度の粘度を有するアルファオレフィンの液状ポリマーを含む。特に有用な合成炭化水素油は、C乃至C12アルファオレフィン類の水素化液体オリゴマー(例、1−デセントリマー)である。
【0033】
有用な合成潤滑油の別の分類には、限定される訳ではないが、アルキレンオキシドポリマー類、すなわち、ホモポリマー、共重合体、およびそれらの誘導体が含まれる。これらの末端のヒドロキシル基は、例えばエステル化やエーテル化によって、修飾されていてもよい。これらのオイルの例は、エチレンオキシドもしくはプロピレンオキシドの重合化により製造されるオイル、これらポリオキシアルキレンポリマーのアルキルもしくはフェニルエーテル(例、平均分子量が1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量が500乃至1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量が1000乃至1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、あるいはそれらのモノ−もしくはポリカルボン酸エステル(例、酢酸エステル、混合C乃至C脂肪酸エステル)、あるいはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルを含む。
【0034】
さらに別の有用な合成潤滑油の分類には、限定される訳ではないが、ジカルボン酸(例、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸類、アルケニルコハク酸類、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸類、アルケニルマロン酸類等)と様々なアルコール(例、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステルが含まれる。これらのエステルの具体例は、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体との2−エチルヘキシルのジエステル、セバシン酸1モルとテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチルヘキサン酸2モルとを反応させて形成する複合エステル、およびその他を含む。
【0035】
合成油として有用なエステルは、限定される訳ではないが、さらに約5乃至約12の炭素原子を有するカルボン酸とアルコール(例、メタノール、エタノール等)、ポリオール、およびポリオールエーテル(例、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、およびその他)とから製造されるものを含む。
【0036】
ポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、もしくはポリアリールオキシ−シロキサンオイルおよびシリケートオイルのようなシリコーンを基材とするオイルは、合成潤滑油の他の有用な分類を構成する。これらの具体例は、限定される訳ではないが、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、ポリ(メチルフェニル)シロキサン類その他を含む。
【0037】
潤滑油は、未精製、精製および再精製油から得ることができる。これらの油は、天然、合成あるいは以上に開示した2以上の分類に属するものの混合物のいずれであってもよい。未精製油は、天然もしくは合成原料(例、石炭、シェール、もしくはタールサンドビチューメン)から精製や処理なしで得られるものである。未精製油の例は、限定される訳ではないが、乾留操作により直接得られるシェールオイル、蒸留により直接得られる石油系油、もしくはエステル化方法により直接得られるエステル油を含む。これらの例は、いずれも、さらに処理を実施することなく使用される。精製油は、未精製油に類似するが、さらに一つ以上の性質を改善するため一つ以上の精製工程により処理されている点で異なる。このような精製技術は、当業者に知られており、例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸もしくはアルカリ抽出、濾過、パーコレーション、水素化処理、脱蝋などを含む。再精製油は、精製油を得るために使用される方法と類似の方法で使用済み油を処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生油もしくは再処理油としても知られ、多くの場合、消耗した添加剤や油分解生成物を除去するための手法によって追加処理される。
【0038】
ワックスの水添異性化により得られる潤滑油のベースストックを、単独あるいは上記天然および/または合成ベースストックと組み合わせて使用することもできる。そのようなワックス異性化油は、天然もしくは合成ワックスあるいはそれらの混合物を水添異性化触媒の存在下で水添異性化処理することにより製造される。
【0039】
天然のワックスとして代表的なものは、鉱物油の溶媒脱蝋によって回収されるスラックワックスである。合成ワックスとして代表的なものは、フィッシャー−トロプシュ法により製造されるワックスである。
【0040】
本発明の潤滑油組成物中で用いる油溶性四官能加水分解性シラン化合物は、一般式Si−Xの構造もしくはその加水分解生成物として表される。ここでXは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、およびジアルキルアミノ含有基である。Xとして適している炭化水素オキシ含有基は、例として、−OR(RはC乃至C20炭化水素基)を含む。そのような炭化水素オキシ含有基の例は、限定される訳ではないが、C乃至Cアルコキシ基、C乃至C20アリールオキシ基、C乃至C20アルキルアリールオキシ基、C乃至C20アリールアルキルオキシ基、C乃至C20シクロアルキルオキシ基、C乃至C20シクロアルキルアルキルオキシ基、C乃至C20アルキルシクロアルキルオキシ基その他、およびそれらの混合物を含む。ある態様では、Xは、それぞれ独立に、C乃至Cアルコキシ基、C乃至C20アリールオキシ基、およびC乃至Cアシルオキシ基である。さらに理由の一つとして市販品が利用できることから、C乃至Cアルコキシ基が好ましい。使用される加水分解性基は水により加水分解され、アルコール分解、エステル交換反応を受け、および/または縮合によりポリシロキサン誘導体を生成することができる。これらのシラン化合物の四配位は、三次元被膜の形成において、高い硬度と高い機械的弾性とを同時に有する性質を提供する。
【0041】
ここで使用する「加水分解性基」との用語は、適切な条件下で直接的に縮合反応の対象になり得る基、もしくは、適切な条件下で加水分解し、それにより化合物を生じ、その化合物が縮合反応の対象になり得る基のいずれかを意味する。適切な条件は、酸性もしくは塩基性の水性条件を含み、任意に縮合触媒が存在する。従って、ここで使用する「非加水分解性基」は、適切な条件下で直接的に縮合反応の対象になる基、もしくは上記加水分解性基を加水分解する条件下で加水分解基のいずれでもない基を意味する。
【0042】
油溶性四官能加水分解性シラン化合物の一つの種類は、式(I)の構造で表されるか、あるいはその加水分解生成物である:
【0043】
【化2】

【0044】
式中、Rは、それぞれ独立に、置換もしくは未置換のC乃至C20炭化水素基であり、例としては上記のように、直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、シクロアルキル、アルキルシクロアルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、およびヒドロキシ、アルコキシ、エステル、もしくはアミノ基から選ばれる一つ以上の置換基を有する置換炭化水素基を含み;Rは、それぞれ独立に、直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、シクロアルキル、およびアリールであり;そしてaは0乃至4の整数である。ある態様では、式(I)の油溶性四官能加水分解性シラン化合物は、ヒドロキシ、アルコキシ、エステル、もしくはアミノ基から選ばれる一つ以上の置換基を有する少なくとも一つのC乃至C20炭化水素基(R)を有することができる。好ましくは、少なくとも一つの置換された炭化水素基は、グリコールモノエーテルもしくはアミノアルコールから誘導される。
【0045】
置換された炭化水素基は、アルキレンもしくはアリーレン連結基を介して、ケイ素−酸素に結合できる。アルキレンもしくはアリーレン連結基は、酸素原子もしくは−NH−基が介在していても、終端にアミノ、モノアルキルアミノ、もしくはジアルキルアミノ基(ここで、アルキル基は1乃至8炭素原子)が結合していてもよい。このように、グリコールおよびグリコールモノエーテル、多価アルコールもしくは多価フェノールは、アルコール分解により、上記RO基と、典型的には低級テトラアルコキシシラン(通常、メトキシシランもしくはエトキシシラン)と反応して、酸素原子が介在する置換基を生成することができる。例えば、油溶性テトラエトキシシランはグリコールモノエーテル残基と反応して、三つのエトキシ基もしくは四つのエトキシ基を置き換えることができる。四つのエトキシ基の置換には、ナトリウムのような少量の触媒が用いられ、アルカリ金属アルコキシドを形成する。グリコールモノエーテルから調製される好ましい油溶性テトラアルコキシシランは、式Si(OCHCHORで表される。式中、Rは、独立に、アルキル、シクロアルキル、もしくはアリールである。同様に、テトラアルコキシシランのアルコール分解は、アミノアルコールと共に実施して、アミノアルコキシシランを生成することができる。特に好ましいグリコールモノエーテルは、HO−(CHCHから選ばれる。式中、mは1乃至10であり、RはC乃至Cアルキルである。特に好ましいアミノアルコールは、HO−(CHCHN(Rから選ばれる。式中、Rは、独立に水素原子もしくはC乃至Cアルキル、好ましくはモノアルキルもしくはジアルキル、そしてさらに好ましくはジアルキルである。式(I)の加水分解生成物は、式(I)の化合物の加水分解および濃縮により生成することができる。
【0046】
テトラ(アシルオキシ)シランは、一般にアルコキシシランやアリールオキシシランよりも加水分解を受けやすい。従って、ある態様では、式(I)の整数aは、0よりも大きな整数(例、1乃至4)、好ましくは2乃至4、さらに好ましくは4である。好ましい式(I)の四官能加水分解性シランでは、Rが独立にアルキル、アリール、アルカリール、およびアリールアルキル基であり、好ましくはC乃至Cアルキル基のような直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基である。
【0047】
式(I)で表される油溶性四官能加水分解性シラン化合物の代表的な例は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリエトキシメトキシシラン、テトラ(4−メチル−2−ペントキシ)シラン、およびテトラ(2−エチルヘキシルオキシ)シランを含む。代表的な加水分解生成物は、ポリ(ジメトキシシロキサン)、ポリ(ジエトキシシロキサン)、ポリ(ジメトキシジエトキシシロキサン)、テトラキス(トリメトキシシロキシ)シラン、テトラキス(トリエトキシシロキシ)シランその他である。さらにアシルオキシ基を有する油溶性四官能シランの例は、テトラアセトキシオキシシラン、テトラプロピオン酸ケイ素、およびテトラブタン酸ケイ素である。
【0048】
ケイ素エステルは、=Si−O−Rのように、ケイ素原子から有機基を結合する酸素原子を含む有機ケイ素化合物である。最初に報告された4酸素結合を含む有機ケイ素化合物は、オルトケイ酸であるSi(OH)の誘導体であった。ケイ酸は、約9.8乃至約11.8のpKsにおいて二塩基性であるかのように挙動し、さらにシラノール基の縮合もしくはシリケートイオンの反応によって、シリカゲルやシリケートのようなポリマーを生成することができる。有機ケイ素化合物は、一般に、それらの有機化学命名法によって呼ばれている。例えば、アルコキシ誘導体であるSi(OCはテトラエトキシシランであり、アシルオキシ誘導体であるSi(OOCCHはテトラアセトキシシランである。
【0049】
一般に、オルトケイ酸およびそれらの低レベル縮合物は、最も厳密な意味における有機シランとはみなされていない。オルガノ(オルガノオキシ)シランとは異なり、テトラ(炭化水素オキシ)シランは、ケイ素もしくは適切な天然シリケートとアルコールから直接合成することができるためである。テトラ(炭化水素オキシ)シランは、広範囲の様々な用途を有している。それらの用途については、最終的な用途においてSi−O−R結合がそのまま残存することが想定されるか、あるいは加水分解されることが想定されるかの違いに、ある程度まで依存している。テトラ(炭化水素オキシ)シランは重合加水分解生成物中で四配位までのマトリックスを含むことが可能であるため、三配位のマトリックスを有するアルキルおよびアリールトリアルコキシシランよりも強固な被膜を導くことができる。同様の理由から、モノアルコキシシランは単分子層もしくは部分的な単分子層を形成できるだけである。金属表面に吸着された状態での加水分解が、カルボン酸エステルおよび一部のリン酸エステルについて、室温で観察されている。従って、そのような表面は反応性を有することができる。しかし、オルトケイ酸のエステルの場合、安定な耐摩耗性被膜を生成するためには、金属表面上への吸着と負荷をかけた摩擦処理との双方が一般に必要とされる。このように製造された被膜は、後述する実施例に見られるように、Siの含有が認められ、摩耗の防止に効果がある。この被膜は、多層の単分子層であった。多層は、緩いネットワーク構造を介して互いに連結するか、互いに混合するか、あるいはそれらの双方であって、実際には普通の堆積技術によって形成される。このような被膜は、清浄剤、抗摩耗剤、分散剤などのような他の表面活性成分も含むことができ、それにより特有の保護被膜をもたらすことができる。表面に対する共有結合の形成は、さらに濃縮されることに伴って減少する水素結合の程度に応じ、一定の可逆性を伴って進行する。同様に、水の除去に伴って、結合は形成、分解、および再形成して、被膜内部の緊張を解放することができる。さらに同様にして、結合は界面成分の位置の置き換えを許容することができる。
【0050】
例えば、Si−O−Rの結合は、加水分解と縮合に加えて、様々な反応を受ける。アルコキシ部分は、空間的な容積を増加させることに伴って、油溶性と安定性とを改善することができる。アルコキシ基のサイズが増加すると、加水分解の速度を低下させることができる。テトラ(アルコキシ)シランおよびテトラ(アリールオキシ)シランは、広い温度範囲において優れた熱安定性と液体挙動とを示す。この温度範囲は、置換基の長さと分岐の程度に応じて拡大する。アシルオキシ置換およびアミノ置換シランは、一般に、アルコキシシランよりも加水分解を受けやすい。反応速度の増加は、副生成物の酸性もしくは塩基性の性質に帰する可能性がある。従って、この速度を加速するため、触媒量のアミンもしくは酸を加える場合もある。
【0051】
ここに開示する油溶性四官能加水分解性シラン化合物は、多数の合成経路により調製することができる。最も古い主要なケイ素エステルの製造方法は、フォン・エーベルマンの1846年の合成方法に記載されている:
SiCl+4COH → Si(OC+4HCl
【0052】
1940年代と1950年代に導入されたケイ素金属を用いるアルコールの直接触媒反応(米国特許第2473260号および同第3072700号の各明細書参照)は、1990年代になって、金属アルコラート触媒の使用(米国特許第4113761号明細書)によって、低級エステルの製造における重要な商業的技術になった。アルコキシシランの調製に使用される他の商業的方法はエステル交換である。エステル化するアルコールの沸点が高く、残ったアルコールが蒸留によって除去できる場合に、エステル交換は実用的である。アルコキシシランの他の代表的な製造方法は、次のように例示することができる。
【0053】
1.≡SiCl+(RO)CH → ≡SiOR+RCl+ROOCH
2.≡SiCl+NaOR → ≡SiOR+NaCl
3.≡SiH+HOR(触媒) → ≡SiOR+H
4.≡SiOH+HOR → ≡SiOR+H
5.≡SiCl+CHNO → ≡SiOCH+NOCl
6.≡SiSH+HOR → ≡SiOR+H
7.≡SiCl+HOC(O)R → ≡SiOC(O)R+HCl
8.≡SiCl+HONR’R” → ≡SiONR’R”+HCl
【0054】
アシルオキシシランは、無水物とクロロシランとの反応により容易に製造される。アミノシランは、ヒドロキシルアミンのクロロシランとの反応および遊離した塩化水素の塩基による除去によって生成する。アシルオキシシランおよびジ−tert−ブトキシジアセトキシシランのようなアルコキシ−アシルオキシ−シランの製造方法については、米国特許第3296195号、同第3296161号、同第5817853号および欧州特許出願公開第0465723号の各明細書に開示されている。
【0055】
一般的に、テトラアルコキシシランは、スラリー相直接合成方法で製造される。この反応に使用する触媒は、銅もしくは銅化合物でもよいが、通常は高沸点アルコールのアルカリもしくはアルカリ金属塩である。そのような方法は、米国特許第3627807号、同第3803197号、同第4113761号、同第4288604号、および同第4323690号の各明細書に開示されている。同様に、トリアルコキシシランについては、直接合成法において、不活性高沸点溶媒中で懸濁状態に維持された触媒活性ケイ素粒子を用い、高温でアルコールと反応させる。この種の反応は、米国特許第3641077号、同第3775457号、同第4727173号、同第4761492号、同第4762939号、同第4999446号、同第5084590号、同第5103034号、同第5362897号、および同第5527937号の各明細書に開示されている。
【0056】
アルコキシシランおよびテトラアルコキシシランの直接合成のためのスラリー相反応器は、バッチ式でも連続式でも操作することができる。バッチ式操作では、初めにケイ素と触媒を反応器に一回で添加し、そしてケイ素が完全に反応するか、あるいは所望の変換度に反応するまで、アルコールを連続的にもしくは間欠的に添加する。アルコールは一般に、気相で添加するが、液相添加も実行可能である。連続式操作では、最初にケイ素と触媒を反応器に添加し、そののちスラリーの固形分を必要とされる限度内で維持する。バッチ式については、米国特許第4727173号、同第5783720号、および同第5728858号の各明細書に示されている。反応器から、所望の反応生成物を未反応アルコールと共に気相混合物として取り出す。生成物の分離は、蒸留により公知の操作に従って容易に実施される。トリアルコキシシランの連続直接合成については米国特許第5084590号明細書に、また、テトラアルコキシシランの連続直接合成については米国特許第3627807号、同第3803197号、および同第4752647号の各明細書に開示されている。
【0057】
一般に油溶性四官能加水分解性シラン化合物は、本発明の潤滑油組成物中に少量存在する。例えば、ある態様では、油溶性四官能加水分解性シラン化合物は、潤滑油組成物の全質量に対して、約0.1乃至約5質量%の範囲の量で潤滑油組成物中に存在している。
【0058】
別の態様では、本発明の潤滑油組成物は、主要量の潤滑性粘度を有する基油に加えて、一つ以上の部分的非加水分解性シラン化合物、もしくは加水分解生成物と部分的縮合物との混合物を含む。本発明の潤滑油組成物に取り込むべき油溶性部分的非加水分解性シラン化合物の選択は、潤滑組成あるいは形成される塗布被膜のいずれかについて、強化もしくは与えられる特定の性質に依存するであろう。油溶性部分的非加水分解性シランの分類の一つは、式(II)の化合物(三官能シラン、二官能シラン、単官能シラン、およびそれらの混合物)で表される:
(RSi(OR4−n (II)
【0059】
式中、nは1、2、もしくは3であり;−OR部分は、それぞれ独立に、加水分解性基であり;そしてRは、それぞれ独立に、非加水分解性基であって、任意に官能基を伴ってもよい。R基の例は、アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、およびt−ブチル、ペンチル、ヘキシル、もしくはシクロヘキシルのようなC乃至Cアルキル)、およびアリール基(例えば、フェニルおよびナフチルのようなC乃至C10アリール)を含む。加水分解性−OR基の例は、前記のような炭化水素オキシ基を含み、具体的には、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、およびブトキシのようなC乃至Cアルコキシ基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシのようなC乃至C10アリールオキシ)、およびアシルオキシ基(例えば、アセトキシもしくはプロピオニルオキシのようなC乃至Cアシルオキシ)を含む。
【0060】
の官能基の特定の例は、ヒドロキシル、エーテル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、チオエーテル、アクリルオキシ、シアノ、アルデヒド、アルキルカルボニル、スルホン酸、およびリン酸の各基を含む。これらの官能基は、ケイ素原子にアルキレンもしくはアリーレンの連結基を介して結合している。連結基には、酸素もしくは硫黄原子あるいは−NH−基が介在していてもよい。連結基は、例えば上記のアルキルもしくはアリールの基から誘導される。Rは、1乃至18炭素原子を含む基であることが好ましく、1乃至8炭素原子を含むことが最も好ましい。
【0061】
油溶性部分的非加水分解性シラン化合物の特に代表的な例は、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリエトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、2−(3−シクロヘキセニル)エチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−イソシアノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−(2−アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−プロポキシプロピルトリメトキシシラン、3−メトキシエチルトリメトキシシラン、3−エトキシエチルトリメトキシシラン、3−プロポキシエチルトリメトキシシラン、2−エチルヘキシルトリメトキシシラン、2−エチルヘキシルトリエトキシシラン、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]ヘプタメチルトリシラン、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)エチル]トリメトキシシラン、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]−トリエトキシシラン、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)エチル]トリエトキシシランその他を含む。
【0062】
特に好ましい油溶性部分的非加水分解性シラン添加剤は、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリエトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、2−(3−シクロヘキセニル)エチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−イソシアノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−(2−アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−プロポキシプロピルトリメトキシシラン、3−メトキシエチルトリメトキシシラン、3−エトキシエチルトリメトキシシラン、および3−プロポキシエチルトリメトキシシランを含む。
【0063】
さらに好ましい油溶性部分的非加水分解性シラン添加剤は、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、および4−アミノブチルトリエトキシシランから選ばれる。
【0064】
油溶性部分的加水分解性シラン化合物は、本発明の潤滑油組成物中に、潤滑性組成物の全質量に対して約0.1乃至約5質量%存在している。別の観点では、この潤滑油組成物は、さらに3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる部分的加水分解性シランを約0.5乃至約5質量%含むものである。
【0065】
縮合触媒は本発明の潤滑性組成物の基本成分ではないが、縮合触媒の添加は被膜形成、摩耗耐久性、および安定性、気孔率、耐苛性、耐水性その他を含む他の被膜特性に影響を与えることができる。縮合触媒を用いる場合、使用する触媒の量は広い範囲で変えることができるが、一般には組成物の全固形分に対して約0.005乃至約1質量%の量で存在する。
【0066】
本発明の潤滑性組成物に混合することができる触媒、より好ましくは、そのような潤滑性組成物が所期の用途で、例えばエンジン、ギヤ、油圧作動油等用の潤滑剤として用いられるときに供される触媒の例は、(i)アセチルアセトン酸金属塩、(ii)ジアミド、(iii)イミダゾール、(iv)アミンおよびアンモニウム塩、(v)無機酸、有機酸、有機スルホン酸およびそれらのアミン塩、(vi)カルボン酸のアルカリ金属塩、(vii)アルカリおよびアルカリ土類金属の水酸化物および酸化物、(viii)フッ化物塩、並びに(ix)有機金属である。例えば、そのような触媒の例は、(i)群ではアセチルアセトン酸アルミニウム、亜鉛、鉄、およびコバルトのような化合物、(ii)群ではジシアンジアミド、(iii)群では2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、および1−シアノエチル−2−プロピルイミダゾールのような化合物、(iv)群ではベンジルジメチルアミンおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンのような化合物、(v)群では塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸のような化合物、(vi)群では酢酸ナトリウムのような化合物、(vii)群では水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのような化合物、(viii)群ではフッ化テトラn−ブチルアンモニウム、並びに(ix)群ではジラウリン酸ジブチルスズおよびジ(2−エチルヘキソン酸)スズその他を含む。
【0067】
別の観点で本発明は、以上のように規定した組成物の部分縮合から誘導できる組成物を提供する。本発明に関して「部分縮合」および「部分縮合物」は、混合物中の加水分解性基の一部が反応したが、縮合反応に利用できる相当量の加水分解性基が残っていることを意味する。一般に部分縮合物は、加水分解性基のうちの少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約50%が依然として縮合反応に利用できることを意味する。
【0068】
さらに別の観点で本発明は、以上のように規定した組成物の完全縮合から誘導できる組成物を提供する。本発明に関して「完全縮合」は、混合物中のほとんど、もしくは全ての加水分解性基が反応したことを意味する。一般に完全縮合物は、加水分解性基がわずかしか、もしくは全く縮合反応に利用できる状態で残っていないことを意味する。
【0069】
本発明の潤滑油組成物は、油溶性四官能加水分解性シランを、任意に他の添加剤も用いて、潤滑性粘度を有するオイルに単に配合もしくは混合することによって、好適に製造することができる。また、所望の濃度の添加剤を含む潤滑油組成物の配合を容易にするために、油溶性四官能加水分解性シランを各種の他の添加剤と共に、適切な比率で濃縮物またはパッケージとして予め配合してもよい。油溶性四官能加水分解性シランは、耐摩耗効果の改善をもたらし、所望の調合済み潤滑油においてオイルに溶解し、かつ他の添加剤と混合できる濃度において、基油と配合する。この場合の混合性は一般に、適用可能な処理比で油溶性である程度に可溶性の本化合物が、普通の条件下で他の添加剤を沈澱させることもないことを意味する。ある化合物の潤滑油配合物における好適な油溶性/混合性の範囲は、当該分野の熟練者であれば日常の溶解度試験法を使用して決定することができる。例えば、油組成物からの実際の沈澱、もしくは不溶性ワックス粒子形成の証拠となる「曇った」溶液の処方のいずれかによって、環境条件(約20℃乃至25℃)で処方した潤滑油組成物の沈澱を測定することができる。
【0070】
本発明の潤滑油組成物は、さらに補助的な機能を付加するために周知の添加剤を含むことができ、これによりそれらの添加剤が分散または溶解している最終的な潤滑油組成物が得られる。例えば、潤滑油組成物は、酸化防止剤、摩耗防止剤、清浄剤(例、金属含有清浄剤)、錆止め剤、曇り止め剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶剤、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、無灰性分散剤、染料、極圧剤その他、およびそれらの混合物と混合することができる。様々な添加剤が知られており、商業的に入手できる。添加剤およびそれらの類似化合物は、一般的な配合方法によって、本発明の潤滑油組成物の製造に用いることができる。
【0071】
酸化防止剤もしくは抗酸化剤は、ベースストックが使用中に劣化する傾向を軽減する。そのような劣化は、金属表面のスラッジやワニス状堆積物のような酸化物の生成および粘度の増加によって証明される。そのような酸化防止剤は、ヒンダードフェノール、好ましくはC乃至C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性無灰フェネートおよび硫化フェネート、リン硫化もしくは硫化炭化水素、アルキル置換ジフェニルアミン、アルキル置換フェニルおよびナフチルアミン、リンエステル、金属チオカルバメート、無灰チオカルバメート(好ましくはジチオカルバメートであって、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、エチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、およびイソブチルジスルフィド−2,2’−ビス(ジブチルジチオカルバメート)である)を含む。好ましいフェノール型酸化防止剤は:4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、およびビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)からなる群より選ばれる。ジフェニルアミン型酸化防止剤は:アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化/ブチル化ジフェニルアミン、および主として3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ桂皮酸のC乃至C分枝アルキルエステル、フェニル−α−ナフチルアミン、およびアルキル化α−ナフチルアミンを代表とするヒンダードフェノール系酸化防止剤である。
【0072】
摩擦緩和剤の例は、限定される訳ではないが、アルコキシ化脂肪族アミン;ホウ素化脂肪族エポキシド;脂肪族亜リン酸、脂肪族エポシキド、脂肪族アミン、ホウ素化アルコキシ化脂肪族アミン、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ素化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪族イミダゾリン(同明細書に記載されている内容は、参照のためここに組み込まれる);C乃至C75、好ましくはC乃至C24、最も好ましくはC乃至C20脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれる含窒素化合物との反応生成物から得られる摩擦緩和剤その他、およびそれらの混合物を含む。摩擦緩和剤は潤滑油組成物中に、潤滑油組成物の約0.02乃至約2.0質量%、好ましくは約0.05乃至約1.0質量%、さらに好ましくは約0.1乃至約0.5質量%の範囲の量で加えることができる。
【0073】
錆止め剤の例は、限定される訳ではないが、ノニオン性ポリオキシアルキレン剤(例、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、およびモノオレイン酸ポリエチレングリコール);ステアリン酸および他の脂肪酸類;ジカルボン酸類;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;強スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸類;それらの部分エステルおよびそれらの含窒素誘導体;合成アルカリールスルホン酸類(例、ジノニルナフタレンスルホン酸金属塩類);その他、およびそれらの混合物を含む。
【0074】
消泡剤の例は、限定される訳ではないが、メタクリル酸アルキルの重合体;ジメチルシリコーンの重合体その他、およびそれらの混合物を含む。
【0075】
金属清浄剤の代表的な例は、スルホネート、アルキルフェネート、硫化アルキルフェネート、カルボキシレート、サリチレート、ホスホネート、およびホスフィネートを含む。市販品は一般に中性もしくは過塩基性と称されている。過塩基性金属清浄剤は、一般に炭化水素、清浄剤用酸(例えば、スルホン酸、アルキルフェノール、カルボキシレート等)、金属酸化物もしくは水酸化物(例えば、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム)、および促進剤(例えば、キシレン、メタノール、および水)からなる混合物を炭酸塩化することにより製造される。例えば、過塩基性カルシウムスルホネートを製造するには、炭酸化の際に、酸化カルシウムあるいは水酸化カルシウムを二酸化炭素ガスと反応させて、炭酸カルシウムを生成させる。スルホン酸を過剰のCaOもしくはCa(OH)で中和して、スルホネートを生成させる。
【0076】
金属含有もしくは灰分形成性清浄剤は、堆積物を低減もしくは除去する清浄剤として、および酸中和剤もしくは錆止め剤として機能し、それにより摩耗および腐食を低減してエンジン寿命を延ばすものである。清浄剤は一般に、長い疎水性尾部を持つ極性頭部からなる。極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩からなる。塩は実質的に化学量論量の金属を含み、その場合には、一般に普通のもしくは中性の塩と記載され、通常、全塩基価もしくは(ASTM D2896で測定できる)TBNは0乃至80である。過剰の金属化合物(例えば、酸化物または水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることにより、大量の金属塩基を取り込ませることができる。得られた過塩基性清浄剤は、金属塩基(例えば、カーボネート)ミセルの外層として中和清浄剤を含んでいる。そのような過塩基性清浄剤のTBNは約150以上であり、一般にはTBNは約250乃至約450以上である。
【0077】
使用することができる清浄剤は、金属、特にアルカリもしくはアルカリ土類金属(例えば、バリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムおよびマグネシウム)の油溶性中性および過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、およびナフテネート並びに他の油溶性カルボキシレートを含む。最も普通に用いられる金属は、カルシウムおよびマグネシウム(両方とも潤滑剤に使用される清浄剤中に存在できる)、並びにカルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムの混合物である。特に好都合な金属清浄剤は、TBNが約20乃至約450の中性および過塩基性カルシウムスルホネート、TBNが約50乃至約450の中性および過塩基性カルシウムフェネートおよび硫化フェネート、およびTBNが約20乃至約450の中性および過塩基性マグネシウムもしくはカルシウムサリチレートである。清浄剤の組合せについては、過塩基性であっても中性であっても、あるいは両方であっても採用することができる。
【0078】
スルホネートは、石油の精留または芳香族炭化水素のアルキル化により得られたものなどのアルキル置換芳香族炭化水素を、スルホン化することにより一般に得られたスルホン酸から製造することができる。その例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニル、もしくはそれらのハロゲン誘導体をアルキル化して得られたものを含む。アルキル化は、触媒の存在下で約3乃至70以上の炭素原子を有するアルキル化剤を用いて実施することができる。アルカリールスルホネートは通常、アルキル置換芳香族部分当り約9乃至約80以上の炭素原子、好ましくは約16乃至約60の炭素原子を含む。
【0079】
油溶性スルホネートもしくはアルカリールスルホン酸は、金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、カルボン酸塩、硫化物、ヒドロ硫化物、硝酸塩、ホウ酸塩、およびエーテルで中和することができる。金属化合物の量は、所望とする最終生成物のTBNとの関係で選ばれるが、一般には化学量論的に必要な量の約100乃至約220質量%(好ましくは、少なくとも約125質量%)の範囲にある。
【0080】
フェノールおよび硫化フェノールの金属塩は、酸化物もしくは水酸化物のような適当な金属化合物と反応させることにより製造され、そして中性もしくは過塩基性生成物は当該分野でよく知られた方法により得ることができる。硫化フェノールは、フェノールを、硫黄、もしくは硫化水素、モノハライド硫黄、またはジハライド硫黄などの硫黄含有化合物と反応させることにより製造することができ、一般に2つ以上のフェノールを硫黄含有結合により結合した化合物の混合物である生成物が生成する。
【0081】
カルボキシレート清浄剤、例えばサリチレートは、芳香族カルボン酸を酸化物または水酸化物など適当な金属化合物と反応させることにより製造することができ、そして中性もしくは過塩基性生成物は当該分野でよく知られた方法により得ることができる。芳香族カルボン酸の芳香族部分は、窒素や酸素のようなヘテロ原子を含むことができる。芳香族部分は好ましくは炭素原子のみを含み、より好ましくは、芳香族部分は6個以上の炭素原子を含み、例えばベンゼンが好ましい。芳香族カルボン酸は、縮合もしくはアルキレン結合で連結した、1個以上のベンゼン環のような1個以上の芳香族部分を含んでいてもよい。カルボン酸部は芳香族部分に直接結合していても間接的に結合していてもよい。好ましくは、カルボン酸基は芳香族部分の炭素原子、例えばベンゼン環の炭素原子に直接結合している。より好ましくは、芳香族部分は、芳香族部分の炭素原子に直接または間接的に結合できる第二の官能基、例えばヒドロキシ基またはスルホネート基も含む。
【0082】
芳香族カルボン酸の好ましい例は、サリチル酸およびそれらの硫化誘導体、例えば炭化水素置換サリチル酸およびその誘導体である。例えば、炭化水素置換サリチル酸を硫化する方法は当業者に知られている。サリチル酸は一般に、フェノキシドを、例えばコルベ−シュミット法でカルボキシル化することにより製造され、その場合には通常は希釈剤中で、一般に非カルボキシル化フェノールとの混合で得られる。
【0083】
本発明の組成物に用いられる分散剤は、アルケニルスクシンイミド、アルケニルコハク酸無水物、アルケニルコハク酸エステルその他のような無灰性分散剤、もしくはそのような分散剤の混合物であってよい。
【0084】
無灰性分散剤の例は、限定される訳ではないが、無水ポリアルキレンコハク酸;無水ポリアルキレンコハク酸の窒素原子を含まない誘導体;スクシンイミド類、カルボン酸アミド類、ヒドロカルビルモノアミン類、ヒドロカルビルポリアミン類、マンニッヒ塩基、ホスホノアミド類、およびホスホルアミド類からなる群より選ばれる塩基性窒素化合物;トリアゾール類(例、アルキルトリアゾール類、およびベンゾトリアゾール類);カルボン酸エステルを一つ以上の他の極性官能基(例、アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシル、カルボキシル、それらの類似物)と共に含む共重合体(例えば、アクリル酸またはメタクリル酸長鎖アルキルと上記官能基を有するモノマーとの共重合により得られる生成物);それらの類似物、およびそれらの混合物を含む。これらの分散剤の誘導体(例、ホウ素化スクシンイミド類のようなホウ素化分散剤)も用いることができる。
【0085】
無灰性分散剤は大まかに幾つかの群に分類される。そのような群の一つは、アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシル、カルボキシルその他を含む一つ以上の追加の極性機能を持つカルボン酸エステルを含む共重合体に関する。これらの生成物は、長鎖のアルキルアクリレートもしくはメタクリレートと上記官能基を持つ単量体との共重合により製造することができる。そのような群は、アルキルメタクリレート−ビニルピロリジノン共重合体、およびアルキルメタクリレート−ジアルキルアミノエチルメタクリレート共重合体その他を含む。さらに高分子量のアミドおよびポリアミドまたはエステルおよびポリエステル、例えばテトラエチレンペンタアミン、ポリビニルポリステアレートおよび他のポリステアラミドを用いてもよい。好ましい分散剤はN置換長鎖アルケニルスクシンイミドである。
【0086】
モノおよびビスアルケニルスクシンイミドは通常、アルケニルコハク酸もしくは無水物とアルキレンポリアミンとの反応から誘導される。アルキレンもしくはアルケニレンコハク酸もしくは無水物とアルキレンポリアミンとの実際の反応生成物は、スクシンアミド酸およびスクシンイミドを含む化合物の混合物からなる。しかし、この反応生成物を上記式のスクシンイミドとして表すことが慣例になっている。その理由は、これが混合物の主成分だからである。生成するモノアルケニルスクシンイミドおよびビスアルケニルスクシンイミドは、ポリアミンとコハク酸基の充填モル比および使用した特定のポリアミンに依存しうる。ポリアミンとコハク酸基の充填モル比が約1:1では、主としてモノアルケニルスクシンイミドが生成しうる。ポリアミンとコハク酸基の充填モル比が約1:2では、主としてビスアルケニルスクシンイミドが生成しうる。
【0087】
これらのN置換アルケニルスクシンイミドは、無水マレイン酸とオレフィン炭化水素を反応させた後、得られたアルケニルコハク酸無水物をアルキレンポリアミンと反応させることにより製造することができる。よって、アルケニル基は、2乃至5炭素原子を含むオレフィンを重合して、分子量が約450乃至3000の範囲にある炭化水素を生成させることにより得られる。そのようなオレフィン単量体の例は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、およびそれらの混合物である。
【0088】
好ましい態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物とアルキレンポリアミンを反応させることにより、アルケニルスクシンイミドを製造することができる。ポリアルキレンコハク酸無水物は、ポリアルキレン(好ましくは、ポリイソブテン)と無水マレイン酸との反応生成物である。そのようなポリアルキレンコハク酸無水物の製造には、従来のポリイソブテンでも、高メチルビニリデンポリイソブテンでも使用することができる。この製造には熱的方法、塩素化法、ラジカル法、酸触媒法または他の任意の方法を使用することができる。好適なポリアルキレンコハク酸無水物の例は、米国特許第3361673号明細書に記載の熱的PIBSA(ポリイソブテニルコハク酸無水物)、米国特許第3172892号明細書に記載の塩素化PIBSA、米国特許第3912764号明細書に記載の熱的および塩素化PIBSAの混合物、米国特許第4234435号明細書に記載の高コハク酸比PIBSA、米国特許第5112507号および同第5175225号の各明細書に記載のポリPIBSA、米国特許第5565528号および同第5616668号の各明細書に記載の高コハク酸比ポリPIBSA、米国特許第5286799号、同第5319030号および同第5625004号の各明細書に記載のフリーラジカルPIBSA、米国特許第4152499号、同第5137978号および同第5137980号の各明細書に記載の高メチルビニリデンポリブテンから製造されたPIBSA、欧州特許出願公開第0355895号明細書に記載の高メチルビニリデンポリブテンから製造された高コハク酸比PIBSA、米国特許第5792729号明細書に記載の三元共重合体PIBSA、米国特許第5777025号および欧州特許出願公開第0542380号の各明細書に記載のスルホン酸PIBSA、および米国特許第5523417号および欧州特許出願公開第0602863号の各明細書に記載の精製PIBSAである。これらの文献におけるそれぞれの開示内容は全て参照のためここに組み込まれる。ポリアルキレンコハク酸無水物は、ポリイソブテニルコハク酸無水物であることが好ましい。好ましい態様において、ポリアルキレンコハク酸無水物は、数平均分子量が少なくとも450、より好ましくは少なくとも900乃至約3000、さらに好ましくは少なくとも約900乃至約2300であるポリイソブテニルコハク酸無水物である。
【0089】
別の好ましい態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物の混合物が用いられる。この態様では、混合物は低分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分と、高分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分とからなることが好ましい。より好ましくは、低分子量成分の数平均分子量は約450乃至1000未満であり、高分子量成分の数平均分子量は1000乃至約3000である。さらに好ましくは、低分子量成分も高分子量成分も共にポリイソブテニルコハク酸無水物である。あるいは、様々な分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分を、分散剤としてまた上記のように明らかにした他の上記分散剤との混合物として組み合わせることができる。
【0090】
また、ポリアルキレンコハク酸無水物は清浄剤と混ぜ合わせることもでき、清浄剤混合物の安定性および混合性を改善すると思われる。清浄剤と共に用いられる場合、無灰性分散剤は、清浄剤混合物の約0.5乃至約5質量%、好ましくは約1.5乃至約4質量%の量で含まれる混合物として組成物に添加することができる。
【0091】
スクシンイミドを製造するために使用される好ましいポリアルキレンアミンは、下記一般式を有する。
【0092】
【化3】

【0093】
式中、zは0乃至10の整数であり、そしてAlk、R、R、およびRは独立に、C乃至Cアルキルもしくはアルコキシ、または水素原子であって、水素原子が好ましい。
アルキレンアミンは主に、メチレンアミン、エチレンアミン、ブチレンアミン、プロピレンアミン、ペンチレンアミン、ヘキシレンアミン、ヘプチレンアミン、オクチレンアミン、他のポリメチレンアミン、さらにピペラジンおよびアミノアルキル置換ピペラジンのようなアミンの環状物および高次類似物も含む。それらの具体的例示は、エチレンジアミン、トリエチレンテトラアミン、プロピレンジアミン、デカメチルジアミン、オクタメチレンジアミン、ジヘプタメチレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、トリメチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ジトリメチレントリアミン、2−ヘプチル−3−(2−アミノプロピル)イミダゾリン、4−メチルイミダゾリン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ビス(2−アミノエチル)イミダゾリン、1−(2−アミノプロピル)ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、および2−メチル−1−(2−アミノブチル)ピペラジンである。二以上の上記アルキレンアミンなどを縮合することにより得られるような高次類似物も有用である。エチレンアミンは特に有用である。それらについては、化学技術大辞典、カーク・オスマー著、第5巻、898〜905頁の「エチレンアミン類」の項目(インターサイエンス・パブリッシャーズ、ニューヨーク、1950年)に詳しく記載されている。「エチレンアミン」との用語は、包括的な意味で使用され、大部分が下記構造に当てはまるポリアミンの分類を意味する。
N(CHCHNH)
式中、aは1乃至10の整数である。
【0094】
本発明のアルケニルスクシンイミド組成物に使用される個々のアルケニルスクシンイミドは、米国特許第2992708号、同第3018250号、同第3018291号、同第3024237号、同第3100673号、同第3172892号、同第3202678号、同第3219666号、同第3272746号、同第3361673号、同第3381022号、同第3912764号、同第4234435号、同第4612132号、同第4747965号、同第5112507号、同第5241003号、同第5266186号、同第5286799号、同第5319030号、同第5334321号、同第5356552号、同第5716912号の各明細書に開示されているような従来法により製造することができ、それぞれの内容は参照のためここに組み込まれる。
【0095】
また、「アルケニルスクシンイミド」との用語は、例えば、米国特許第4612132号および同第4746446号の各明細書(それぞれの内容は参照のためここに組み込まれる)に開示されているように、ボレートもしくはエチレンカーボネートを伴う後処理法のように後処理されたスクシンイミドも含む。カーボネート処理したアルケニルスクシンイミドは、分子量が約450乃至約3000、好ましくは約900乃至約2500、より好ましくは約1300乃至約2300、最も好ましくは約2000乃至約2400のポリブテン並びにこれらの分子量の混合物から誘導されたポリブテンスクシンイミドであることが好ましい。ポリブテンスクシンイミドは、米国特許第5716912号明細書(その内容は参照のためここに組み込まれる)に教示されているように、反応条件下で、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンの不飽和酸性試薬共重合体およびポリアミンの混合物を反応させることより製造することが好ましい。
【0096】
アルケニルスクシンイミド成分は、潤滑油組成物中に、潤滑性組成物の質量の約1乃至約20質量%、好ましくは約2乃至約12質量%、より好ましくは約4乃至約8質量%の範囲の量で存在することが好ましい。
【0097】
本発明の潤滑性組成物は、粘度指数向上剤も含むことができる。粘度指数向上剤の例は、ポリ(アルキルメタクリレート)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、およびポリイソプレンを含む。分散型(分散性の増大した)または多機能型の粘度指数向上剤も用いられる。これらの粘度指数向上剤は、単独でも組み合わせても使用することができる。エンジンオイルに混ぜ合わされる粘度指数向上剤の量は、所望とする配合エンジンオイルの粘度によって変わるが、一般にはエンジンオイルの全量に対して約0.5乃至約20質量%の範囲にある。
【0098】
別の態様では、内燃機関用潤滑油組成物が提供され、それは少なくとも(a)潤滑性粘度を有する主要量の基油;(b)約0.5乃至約10質量%の油溶性四官能加水分解性シラン化合物;(c)約0.5乃至約10%の清浄剤;および(d)約1乃至約20%の450乃至3000平均分子量のポリアルキレンから誘導されるアルケニルスクシンイミド分散剤を含む。ここで、添加剤の%は、潤滑性組成物の全質量%に対する値である。また、潤滑油組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない。
【0099】
本発明の別の態様において、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物中の油溶性四官能加水分解性シラン化合物もしくは油溶性部分的非加水分散性シランをジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物に置き換えた対応組成物よりも優れている、もしくは同等の摩耗軽減機能を有する。本発明のある態様において、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物中の油溶性四官能加水分解性シラン化合物をジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物のようなジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛化合物に置き換えた対応組成物よりも、少なくとも約15%大きい摩擦軽減機能を有する。本発明のある態様において、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物中の油溶性四官能加水分解性シラン化合物をジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物のようなジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛化合物に置き換えた対応組成物よりも、少なくとも約20%大きい摩擦軽減機能を有する。
【0100】
本発明の潤滑油組成物の最終的な適用分野としては、例えば、クロスヘッドディーゼルエンジンに用いる舶用シリンダ潤滑油、自動車および鉄道のクランクケース潤滑油その他、重機械(例えば製鉄所)の潤滑油その他、あるいはベアリングのグリースその他が可能である。ある態様では、本発明の潤滑油組成物を、圧縮点火ディーゼルエンジン(例、耐久性ディーゼルエンジンもしくは排ガス再循環(EGR)システム;触媒コンバーター;および微粒子トラップの少なくとも一つを取り付けた圧縮点火ディーゼルエンジン)のような内燃機関の潤滑に使用する。
【0101】
潤滑油組成物が液体であるか、あるいは固体であるかは、一般に増粘剤の有無による。代表的な増粘剤には、酢酸ポリウレア、ステアリン酸リチウム、およびその他が含まれる。
【0102】
以下に記載する本発明を限定する意図のない実施例において、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0103】
[比較例A]
スクシンイミド分散剤3質量%、平均分子量が2300の無水ポリイソブテニルコハク酸と重ポリアミンから製造しエチレンカーボネートで後処理したビススクシンイミド5質量%、低過塩基度のスルホン酸カルシウム0.68%、カルボキシレート清浄剤4.65%、ジフェニルアミン酸化防止剤0.5質量%、ヒンダードフェノール酸化防止剤0.5質量%、シリコーン系消泡剤5ppm、および粘度向上剤10.85質量%を、シェブロン100N基油65質量%とシェブロン220N基油35質量%からなるシェブロン基油74.7質量%中に含む標準となる処方を調製した。
【0104】
[実施例1]
比較例Aと同じ添加剤、基油、および配合の割合で標準となる処方を調製した。この標準となる潤滑油の処方に対して、テトラエトキシシランを1.5質量%処方した。
【0105】
[比較例B]
比較例Aと同じ添加剤、基油、および配合の割合で標準となる処方を調製した。この標準となる潤滑油の処方に対して、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛をリン含有量として495ppm処方した。
【0106】
[比較例C]
スクシンイミド分散剤2.35質量%、平均分子量が2300の無水ポリイソブチレンコハク酸と重ポリアミンから製造しエチレンカーボネートで後処理したビススクシンイミド6質量%、260TBNの硫化フェニル酸カルシウム清浄剤2.84質量%、17TBNのスルホン酸カルシウム清浄剤1.02質量%、410TBNのスルホン酸カルシウム清浄剤0.22質量%、ジフェニルアミン酸化防止剤0.3質量%、ヒンダードフェノール酸化防止剤0.6質量%、(分子量が1300のPIBSAと重ポリアミンから製造した)ビススクシンイミドのテレフタル酸塩分散剤0.4質量%、モリブデンスクシンイミド錯体の分散剤/摩耗防止剤0.5質量%、シリコーン系消泡剤10ppm、粘度指数向上剤5.75質量%、流動点降下剤0.3質量%、粘度指数向上剤0.75質量%、およびジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛1.89質量%を、100℃における動粘度(kv)が4.7乃至4.9cStのグループII基油24.5%と100℃におけるkvが7.8乃至7.9cStのグループII基油75.5%からなる基油76.17質量%中に含む潤滑油組成物を作製した。
【0107】
[試験]
(ミニ−トラクションマシン評価)
実施例1の潤滑油組成物および比較例A〜Cの潤滑油組成物を、ミニ−トラクションマシン(MTM)ベンチテスト(PCSインスツルメンツ社、ロンドン、英国)を用いて評価した。PCSのMTM装置を変更し、装置に付随していたピンホルダーを、ファレックス社の52100スチールからなる1/4インチテストボールに(特製のホルダーと共に)置き換えた(例えば、ヤマグチ、E.S.、「変更したMTM摩擦計を用いる摩擦および摩耗の測定」、IPコム・ジャーナル7、2巻、9、57〜58頁(2002年8月)、IPCOM番号000009117D;およびヤマグチ、E.S.、「ディーゼルエンジン中の煤煙による摩耗」、摩擦工学学会報、機械工学部門の集録、J部、220巻、J5号、463〜469頁(2006年)参照)。装置は、ピン・オン・ディスク式で使用し、すべり条件で作動させた。特製のホルダー内でボールを堅く固定して実施し、ディスクがスライドする間、ボールがその下に留まっているようにした。条件を第1表に示す。
【0108】
第1表
────────────────────
MTMの試験条件
────────────────────
負荷 14N
初期接触圧力 1.53GPa
温度 116℃
摩擦の組み合わせ 52100/52100
────────────────────
速度 mm/秒 分
────────────────────
3800 10
2000 10
1000 10
100 10
20 10
10 10
5 10
────────────────────
点火時調整器の長さ 70分・試験
ディーゼルエンジンの煤煙 9%
────────────────────
【0109】
エンジン試験設備のオーバーヘッド回収装置から得られたエンジンの煤煙をこの試験に使用した。取り除く前に、鉱物油を煤煙に加えた。従って、煤煙は試験前に洗浄する必要がある。煤煙を、ペンタンを用いて薄いスラリーにした。スラリーは、ブフナー漏斗上のワッツマン2号フィルターペーパーを通して濾過する前に、数分間攪拌した。沈澱は再び薄いスラリーにして、再びワッツマン2号フィルターペーパーを通して濾過した。その後、沈澱を真空オーブン中、20インチの真空および90℃で16時間以上をかけて乾燥した。その後、乾燥した煤煙を、使用する前に、50メッシュ(最大300μm)の篩を通した。この操作の目的は、オイルおよび他の不純物を除去し、それにより再現性のある粒子を形成し、最近の排ガス再循環(EGR)エンジンに見られるように粒子による研磨摩耗を増加させることである。
【0110】
試験試料を準備するために、PCSインスツルメンツ社の52100平滑(0.02ミクロンのR)スチール製ディスクから耐食性被膜を、ヘプタン、ヘキサン、およびイソオクタンを用いて取り除いた。次に、ディスクを柔らかなティッシュできれいに拭き、そしてディスク・トラック上の被膜が取り除かれてディスクのトラックが輝いてみえるまで、洗浄溶剤の入ったビーカーに沈めた。ディスクと試験球を別々の容器に入れて、シェブロン450シンナーに浸した。最後に、試験試料を音波器に入れて30分間超音波洗浄をした。
【0111】
この評価の結果を図1に示す。図1は、実施例1と比較例A〜Cの潤滑油組成物について摩耗傷の直径(WSD)と標準偏差(STD)を示す。データが示すように、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛で処理した比較例Bの潤滑油組成物は、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を含まない比較例Aの潤滑油組成物と比較して、顕著に低いMTM摩耗の結果を示した。この結果は、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛が公知の耐摩耗剤であることから予想できた。しかし、四官能加水分解性シランで処理し、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を含まない実施例1の潤滑油組成物が、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛で処理し、四官能加水分解性シランを含まない比較例Bの同じ潤滑油組成物と比較して、予想外に優れたMTM摩耗の結果を示した。これは、実施例1と比較例AおよびBの潤滑油組成物がそれぞれ、摩耗の問題を生じる可能性があると信じられているカルボキシレート清浄剤を含んでいたことからみて予想外である。最後に、実施例1のMTM摩耗の結果は、比較的多量のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を含み四官能加水分解性シランを含まない標準的な潤滑剤である比較例Cの潤滑油組成物と同程度に低い。
【0112】
[比較例D]
シェブロン100N基油65質量%およびシェブロン200N基油35質量%を含む潤滑油組成物を作製した。
【0113】
[比較例E]
スクシンイミド分散剤3質量%、平均分子量が2300の無水ポリイソブチレンコハク酸と重ポリアミンから製造しエチレンカーボネートで後処理したビススクシンイミド5質量%、低過塩基性スルホン酸カルシウム0.68%、カルボキシレート清浄剤4.65%、ジフェニルアミン酸化防止剤0.5質量%、ヒンダードフェノール酸化防止剤0.5質量%、および粘度向上剤10.85質量%を、シェブロン100N基油65質量%とシェブロン220N基油35質量%からなるシェブロン基油74.7質量%中に含む標準となる処方を調製した。
【0114】
[比較例F]
比較例Eと同じ添加剤、基油、および配合の割合で基準となる処方を調製した。この基準潤滑油の処方に対して、テトラエトキシシラン1.5質量%およびジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛0.69質量%を加えた。
【0115】
[比較例G]
比較例Dの潤滑油組成物に対して、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛をリン含有量として0.69質量%加えた。
【0116】
[実施例2]
比較例Eと同じ添加剤、基油、および配合の割合で基準となる処方を調製した。この基準潤滑油の処方に対して、テトラエトキシシラン0.86質量%およびホウ酸ナトリウム分散剤2質量%を加えた。
【0117】
[実施例3]
比較例Eと同じ添加剤、基油、および配合の割合で基準となる処方を調製した。この基準潤滑油の処方に対して、テトラエトキシシランを1.5質量%処方した。
【0118】
[試験]
(摩擦および摩耗試験)
実施例2および3の潤滑油組成物および比較例A、C、およびD〜Gの潤滑油組成物について、チャン外、「XANESを用いるEPおよびAW添加剤と分散剤との総合作用の研究」(摩擦学会レターズ、18、43〜51頁(2005年))が記載しているように摩擦および摩耗の性能を評価した。試験は、ディスク上にピンを配置し、AISI52100の鋼鉄製ピン(直径6.2mm×11mm、HRC60−64)を用いてモーターで動かし、鋼鉄製ディスク(直径19mm×4mm、HRC60−64、3μmのダイヤモンドペーストで磨き鏡面に仕上げた)上を往復させた。摩擦および摩耗試験を開始する前に、約30mLの潤滑油組成物をプリント・マシーン(Plint machine)の鋼鉄製ディスクホルダーに導入した。滑りは、25Hzの振動数、7mmのストローク、220Nの負荷、そして100℃の温度で、1時間持続させることにより実施した。摩擦係数は、IBM−PCに接続したセンサーを用いて自動的に記録した。それぞれを滑らせた試験の最後に、上方の鋼鉄製ピンと下方の鋼鉄製ディスクの双方をヘキサン中、超音波で約5分間洗浄し、空気中で乾燥した。洗浄した上方の鋼鉄製ピンの摩耗の傷の幅を、ニコンのデジタルカメラを用いて測定した。それぞれの潤滑油組成物について、滑り試験を3回実施し、3回の試験における摩耗の傷の幅を平均化し、±5%の相対的誤差を加えて記録した。
【0119】
これらの試験の結果を図2に示す。図2は、実施例2および3と比較例A、C、およびD〜Gの潤滑油組成物のWSDとSTDを示す。データが示すように、実施例2および3の潤滑油組成物は、比較例A、C、およびD〜Gの潤滑油組成物と比較して、摩耗による傷の幅が小さかった。例えば、1.5質量%のテトラエトキシシランを含みジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を含まない実施例3の潤滑油組成物は、1.5質量%のテトラエトキシシランおよび0.69質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を含む比較例Fの潤滑油組成物よりも、顕著に摩耗による傷が減少していた。
【0120】
ここに開示される態様について、さまざまな変更が可能である。従って、以上の説明は限定的に解釈されるべきではなく、好ましい態様の例示にすぎないとすべきである。例えば、上記および本発明を実施するための最良の態様として実行される機能は、説明のみを目的としている。その他の変更や方式も、本発明の範囲や精神を逸脱することなく、当業者は実施できるであろう。さらに当業者は、ここに書き添えられている請求項の範囲と精神の中で他の変更を行なうことも可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)一般式Si−Xの油溶性四官能加水分解性シラン化合物もしくはその加水分解生成物を含む潤滑油組成物であって、Xは、それぞれ独立に、ヒドロキシル含有基、炭化水素オキシ含有基、アシルオキシ含有基、アミノ含有基、モノアルキルアミノ含有基、もしくはジアルキルアミノ含有基であり、該潤滑油組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない。
【請求項2】
Xが、それぞれ独立に、C乃至Cのアルコキシ基、C乃至C20のアリールオキシ基、C乃至C20のアルキルアリールオキシ基、C乃至C20のアリールアルキルオキシ基、C乃至C20のシクロアルキルオキシ基、C乃至C20のシクロアルキルアルキルオキシ基、およびC乃至C20のアルキルシクロアルキルオキシ基からなる群より選ばれる請求項1の潤滑油組成物。
【請求項3】
油溶性四官能加水分解性シラン化合物が式(I)の化合物もしくはその加水分解生成物である請求項1の潤滑油組成物:
【化1】

式中、Rは、それぞれ独立に、置換もしくは未置換のC乃至C20の炭化水素基であり;Rは、それぞれ独立に、直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、シクロアルキル、もしくはアリール基であり;そしてaは0乃至4の整数である。
【請求項4】
aは1乃至4の整数であり、そしてRは、それぞれ独立に、C乃至Cのアルコキシ基、C乃至C20のアリールオキシ基、C乃至C20のアルキルアリールオキシ基、C乃至C20のアリールアルキルオキシ基、C乃至C20のシクロアルキルオキシ基、C乃至C20のシクロアルキルアルキルオキシ基、およびC乃至C20のアルキルシクロアルキルオキシ基である請求項3の潤滑油組成物。
【請求項5】
油溶性四官能加水分解性シラン化合物が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリエトキシメトキシシラン、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1の潤滑油組成物。
【請求項6】
油溶性四官能加水分解性シラン化合物が、組成物の全質量に対して、約0.1乃至約5質量%の量で存在している請求項1の潤滑油組成物。
【請求項7】
さらに金属清浄剤、無灰性分散剤、摩擦緩和剤、極圧剤、粘度指数向上剤、および流動点降下剤からなる群より選ばれる少なくとも一つの添加剤を含む請求項1の潤滑油組成物。
【請求項8】
さらにカルボキシレート清浄剤を含む請求項1の潤滑油組成物。
【請求項9】
潤滑油組成物中の油溶性四官能加水分解性シラン化合物をジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物に置き換えた対応組成物よりも、少なくとも約15%大きい摩擦軽減機能を有する請求項1の潤滑油組成物。
【請求項10】
(a)主要量の潤滑性粘度を有するオイル、および(b)式(II)の油溶性部分的非加水分解性シランを含む潤滑油組成物:
(RSi(OR4−n (II)
式中、nは1、2、もしくは3の整数であり、−OR部分は、それぞれ独立に、加水分解性基であり、そしてRは、それぞれ独立に、非加水分解性基である。
【請求項11】
nが1であり、そしてRが、それぞれ独立にアルキル基である請求項10の潤滑油組成物。
【請求項12】
油溶性部分的非加水分解性シラン化合物が、組成物の全質量に対して約0.1乃至約5質量%の量で存在している請求項10の潤滑油組成物。
【請求項13】
内燃機関内の摩耗の軽減方法であって、請求項1乃至9の潤滑油組成物を用いて内燃機関を作動させることを含む方法。
【請求項14】
内燃機関内の摩耗の軽減方法であって、請求項10乃至12の潤滑油組成物を用いて内燃機関を作動させることを含む方法。
【請求項15】
請求項1乃至12の潤滑油組成物で潤滑されている内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−504173(P2012−504173A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529249(P2011−529249)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/058346
【国際公開番号】WO2010/039599
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】