説明

潤滑油組成物

【課題】高い摩耗防止能力を示す潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】硫黄分が約0.4質量%以下、かつASTM D874で測定した硫酸灰分が約0.5質量%以下の潤滑油組成物であって、(a)主要量の潤滑粘度の油、(b)組成物の全質量に基づくホウ素量が約600ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物、および(c)組成物の全質量に基づくモリブデン量が約800ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物を含む潤滑油組成物、ただし、潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約5:1乃至約500:1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に云って潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス後処理装置が、排出ガス規制に合わせて内燃機関に装備されているが、内燃機関に使用される燃料や潤滑剤の燃焼副生物に影響されることが確認されている。さらに、装置の種類によっては、次のもののうちの一つ以上にも影響される:(1)潤滑剤に由来するリン、(2)燃料と潤滑剤両方に由来する硫黄、および(3)燃料及び潤滑剤の燃焼から生じる硫酸灰分。様々な種類の後処理装置の耐久性を確実にするために、例えば硫黄やリン、硫酸灰分のレベルが比較的低いことを特徴とする特別な潤滑剤が開発されつつある。
【0003】
特許文献1(「191出願」明細書)には、硫黄が2000ppm未満でかつ亜鉛とリンを含まない潤滑油組成物が開示されている。この「191出願」明細書には更に、潤滑油組成物のホウ素の最小値が120ppmで、モリブデンの最小値が80ppmであることも開示されている。「191出願」明細書の第1表に示された実施例の各々には、油1、2及び3において灰分がそれぞれ0.96、0.99及び1.05であると開示されている。
【0004】
特許文献2(「378特許」明細書)には、(a)基油、(b)塩基性窒素含有化合物とモリブデン化合物と二硫化炭素とから誘導されたモリブデン及び硫黄含有組成物、(c)ホウ酸エステル、および(d)任意にリン含有化合物を含む潤滑油組成物、ただし、組成物のリン分は約0.10質量%を越えないことを条件とする、が開示されている。この「378特許」明細書には更に、潤滑油組成物のホウ素量が約30ppm乃至約600ppmで、モリブデン量が約25ppm乃至約800ppmであることも開示されている。
【0005】
特許文献3(「273特許」明細書)には、主要量の潤滑粘度の油、および少量のホウ素含有添加剤、清浄添加剤組成物及び一種以上の補助添加剤を含む潤滑油組成物が開示されている。この「273特許」明細書には更に、潤滑油組成物のホウ素量が150ppmより多く、モリブデン量が多くても1000ppm、かつ硫黄が4000質量ppm未満であることも開示されている。
【0006】
特許文献4(「735出願」明細書)には、(a)Mo含有摩擦調整剤、および(b)B含有化合物を、潤滑油基油とブレンドすることにより製造された潤滑油組成物が開示されている。この「735出願」明細書には更に、潤滑油組成物のホウ素量が0.015質量%(150ppm)より多く、モリブデン量が100ppm乃至2000ppmであることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第20050043191号明細書
【特許文献2】米国特許第6777378号明細書
【特許文献3】米国特許第7026273号明細書
【特許文献4】欧州特許第0737735号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
内燃機関において使用したときに摩耗防止の改善を示す改良された潤滑油組成物の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、硫黄分が約0.4質量%以下、かつASTM D874で測定した硫酸灰分が約0.5質量%以下の潤滑油組成物であって、(a)主要量の潤滑粘度の油、(b)組成物の全質量に基づくホウ素量が約600ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物、および(c)組成物の全質量に基づくモリブデン量が約800ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物を含む潤滑油組成物(ただし、潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約5:1乃至約500:1である)を提供する。
【0010】
本発明の第二の態様によれば、硫黄分が約0.4質量%以下、かつASTM D874で測定した硫酸灰分が約0.5質量%以下の潤滑油組成物であって、(a)主要量の潤滑粘度の油、(b)組成物の全質量に基づくホウ素量が約600ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物、および(c)組成物の全質量に基づくモリブデン量が約800ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物を含む潤滑油組成物(ただし、潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約5:1乃至約500:1である)を用いて内燃機関を作動させることを含む内燃機関の作動方法を提供する。
【0011】
本発明の第三の態様によれば、硫黄分が約0.4質量%以下、かつ硫酸灰分がASTM D874で測定して約0.5質量%以下の潤滑油組成物であって、(a)主要量の潤滑粘度の油、(b)組成物の全質量に基づくホウ素量が約600ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物、および(c)組成物の全質量に基づくモリブデン量が約800ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物を含む潤滑油組成物(ただし、潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約5:1乃至約500:1である)を用いて潤滑操作が行なわれる内燃機関を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の低灰分潤滑油組成物は、有利なことには、ホウ素およびモリブデンを比較的低いレベルでありながら、内燃機関に使用したときに高い摩耗防止性能を示す。さらに、本発明の低灰分潤滑油組成物では、如何なるリン分も亜鉛量も比較的低い(もしくは実質的に含まない)レベルで用いながら、高い摩耗防止性能を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、硫黄分が約0.4質量%以下、かつASTM D874で測定した硫酸灰分が約0.5質量%以下の潤滑油組成物であって、(a)主要量の潤滑粘度の油、および(b)組成物の全質量に基づくホウ素量が約600ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物、および(c)組成物の全質量に基づくモリブデン量が約800ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物を含む潤滑油組成物(ただし、潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約5:1乃至約500:1である)に関する。ある態様では、本発明の潤滑油組成物の硫黄分が約0.3質量%以下であり、および/またはASTM D874で測定した硫酸灰分が約0.4質量%以下である。本発明の潤滑油組成物における硫黄、ホウ素、モリブデンまたはリンの量は、ASTM D4951に従って測定される。
【0014】
本発明の潤滑油組成物に使用される潤滑粘度の油は、基油とも称されるが、一般に主要量で、例えば組成物の全質量に基づき50質量%より多い量で、好ましくは70質量%より多い、より好ましくは約80乃至約99.5質量%、最も好ましくは約80乃至約98質量%の量で存在する。「基油」なる表現は、本明細書で使用するとき、単一の製造者により同一の仕様に(供給源や製造者の所在地とは無関係に)製造され、同じ製造者の仕様を満たし、かつ各々の処方、製造物確認番号またはその両方によって識別される潤滑剤成分である、基材油または基材油のブレンドを意味すると理解されたい。本発明に使用される基油は、ありとあらゆる用途に、例えばエンジン油、舶用シリンダ油、機能液、具体的には油圧作動油、ギヤ油、変速機液等として潤滑油組成物を配合するのに使用される、今日知られているか、あるいは後日発見される如何なる潤滑粘度の油であってもよい。例えば、乗用車用エンジン油や高荷重ディーゼルモーター油、天然ガスエンジン油などのあらゆる用途に、潤滑油組成物を配合する際に基油を使用することができる。さらに、本発明に使用される基油は任意に、粘度指数向上剤、例えば高分子量アルキルメタクリレート類;エチレン・プロピレン共重合体またはスチレン・ブタジエン共重合体などのオレフィン共重合体等;およびそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0015】
当該分野の熟練者であれば容易に理解できるように、基油の粘度は用途に依る。従って、本発明に使用される基油の粘度は通常、摂氏100度(℃)で約2乃至約2000センチストークス(cSt)の範囲にある。一般にエンジン油として使用される個々の基油は、動粘度範囲が100℃で約2cSt乃至約30cStであり、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStであり、そして所望の最終用途および最終油の添加剤に応じて選択またはブレンドされて、所望のグレードのエンジン油、例えばSAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30又は15W−40の潤滑油組成物を与える。ギヤ油として使用される油の粘度は、100℃で約2cSt乃至約2000cStの範囲にあってよい。
【0016】
基材油は各種の異なる方法を用いて製造することができ、その例としては、これらに限定されるものではないが、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を挙げることができる。再精製基材油には、製造、汚染もしくは以前の使用によって混入した物質が実質的に含まれない。本発明の潤滑油組成物の基油は、如何なる天然又は合成潤滑油基油であってもよい。好適な炭化水素合成油としては、これらに限定されるものではないが、エチレンの重合または1−オレフィン類の重合で重合体にすることにより製造された油、例えばポリアルファオレフィン(PAO)油、あるいはフィッシャー・トロプシュ法のような一酸化炭素ガスと水素ガスを用いた炭化水素合成法により製造された油を挙げることができる。例えば好適な基油は、重質留分を含む場合でもその量が僅かである、例えば粘度が約100℃で20cSt以上の潤滑油留分を殆ど含むことのない油である。
【0017】
基油は、天然の潤滑油、合成の潤滑油またはそれらの混合物から誘導することができる。好適な基油としては、合成ろうおよび粗ろうの異性化により得られる基材油、並びに粗原料の芳香族及び極性成分を(溶剤抽出というよりはむしろ)水素化分解することにより生成する水素化分解基材油を挙げることができる。好適な基油としては、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月に規定された全API分類I、II、III、IV及びVに含まれるものが挙げられる。IV種基油はポリアルファオレフィン(PAO)類である。V種基油には、I、II、III又はIV種に含まれなかったその他全ての基油が含まれる。II、III及びIV種基油が本発明に使用するのに好ましいが、これらの基油は、I、II、III、IV及びV種基材油又は基油のうちの一種以上を組み合わせることにより製造することができる。
【0018】
使用できる天然油としては、鉱油系潤滑油、例えば液体石油、パラフィン系、ナフテン系又は混合パラフィン・ナフテン系の溶剤処理又は酸処理鉱油系潤滑油、石炭または頁岩から誘導された油、動物油および植物油(例えば、ナタネ油、ヒマシ油およびラード油)等を挙げることができる。
【0019】
使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、炭化水素油およびハロゲン置換炭化水素油、例えば重合及び共重合オレフィン類、具体的にはポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン・イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン類、ポリ(1−ヘキセン)類、ポリ(1−オクテン)類、ポリ(1−デセン)類等およびそれらの混合物;アルキルベンゼン類、例えばドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)−ベンゼン類等;ポリフェニル類、例えばビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェニル類等;アルキル化ジフェニルエーテル類およびアルキル化ジフェニルスルフィド類並びにそれらの誘導体、類似物及び同族体等を挙げることができる。
【0020】
他の使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、炭素原子数5未満のオレフィン類、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン類、イソブテン、ペンテンおよびそれらの混合物を重合することにより製造された油が挙げられる。そのような重合油の製造方法も当該分野の熟練者にはよく知られている。
【0021】
別の使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィン類の液体重合体が挙げられる。特に有用な合成炭化水素油は、C−C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマー類、例えば1−デセン三量体である。
【0022】
使用できる合成潤滑油の別の部類としては、これらに限定されるものではないが、アルキレンオキシド重合体、すなわち単独重合体、共重合体、および末端ヒドロキシル基が例えばエステル化またはエーテル化により変性したそれらの誘導体を挙げることができる。これらの油の例示としては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により製造された油、これらポリオキシアルキレン重合体のアルキル及びフェニルエーテル類(例えば、平均分子量1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量500−1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1000−1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、またはそれらのモノ及びポリカルボン酸エステル類、例えば酢酸エステル類、混合C−C脂肪酸エステル類、またはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルがある。
【0023】
使用できる合成潤滑油のまた別の部類としては、これらに限定されるものではないが、ジカルボン酸類、例えばフタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等と、各種アルコール類、例えばブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等とのエステル類が挙げられる。これらエステル類の具体例としては、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、およびセバシン酸1モルをテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチルヘキサン酸2モルと反応させて生成した複合エステル等を挙げることができる。
【0024】
また、合成油として使用できるエステル類としては、これらに限定されるものではないが、炭素原子数約5乃至約12のカルボン酸類と、アルコール類、例えばメタノール、エタノール等、およびポリオール及びポリオールエーテル類、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール等とから製造されたものも挙げることができる。
【0025】
ケイ素系の油、例えばポリアルキル、ポリアリール、ポリアルコキシ又はポリアリールオキシ−シロキサン油及びシリケート油は、合成潤滑油の別の有用な部類を構成する。これらの具体例としては、以下に限定されるものではないが、テトラエチルシリケート、テトラ−イソプロピルシリケート、テトラ−(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ−(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル−(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、およびポリ(メチルフェニル)シロキサン類等を挙げることができる。更に別の使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、リン含有酸の液体エステル類、例えばリン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デカンホスフィン酸のジエチルエステル等、および高分子量テトラヒドロフラン類等が挙げられる。
【0026】
潤滑油は、以上に開示したこれら種類のうちの天然、合成または任意の二種以上の混合物の未精製、精製及び再精製の油から誘導することができる。未精製油は、天然原料または合成原料(例えば石炭、頁岩またはタール・サンド・ビチューメン)から直接に、それ以上の精製や処理を施すことなく得られた油である。未精製油の例としては、これらに限定されるものではないが、レトルト操作により直接得られた頁岩油、蒸留により直接得られた石油、またはエステル化処理により直接得られたエステル油が挙げられ、これらの各々はその後それ以上の処理無しに使用される。精製油は、一つ以上の性状を改善するために一以上の精製工程で更に処理されたことを除いては、未精製油と同じである。これらの精製技術は、当該分野の熟練者に知られているが、例えば溶剤抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、ろ過、パーコレート、水素化処理、脱ろう等が挙げられる。再精製油は、精製油を得るのに用いたのと同様の方法で使用済の油を処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生又は再処理油としても知られていて、使用された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする技術によりしばしば更に処理される。
【0027】
ろうの水素異性化から誘導された潤滑油基材油も、単独で、あるいは前記天然及び/又は合成基材油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性化油は、天然又は合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒で水素異性化することにより得ることができる。
【0028】
天然ろうは一般に、鉱油を溶剤脱ろうすることにより回収された粗ろうであり、合成ろうは一般に、フィッシャー・トロプシュ法により生成したろうである。
【0029】
[油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物]
本発明の潤滑油組成物に使用される少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物の代表的な例としては、ホウ酸化分散剤、ホウ酸化摩擦緩和剤、分散性のアルカリ金属又は混合アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホウ酸塩、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸エステル、ホウ酸化脂肪アミン、ホウ酸化アミド、ホウ酸化スルホネート等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0030】
ホウ酸化分散剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ホウ酸化無灰分散剤、例えばホウ酸化ポリアルケニルコハク酸無水物;ポリアルキレンコハク酸無水物の非窒素含有ホウ酸化誘導体;コハク酸イミド類、カルボン酸アミド類、炭化水素モノアミン類、炭化水素ポリアミン類、マンニッヒ塩基類、ホスホノアミド類、チオホスホノアミド類およびホスホルアミド類、チアゾール類、例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール類、メルカプトベンゾチアゾール類およびそれらの誘導体、トリアゾール類、例えばアルキルトリアゾール類およびベンゾトリアゾール類、アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシルおよびカルボキシル等を含む一以上の付加極性官能基を持つカルボン酸エステルを含む共重合体等、例えば長鎖アルキルアクリレート又はメタクリレート類と上記官能基を持つ単量体との共重合により製造された生成物からなる群より選ばれるホウ酸化塩基性窒素化合物等;およびそれらの混合物を挙げることができる。好ましいホウ酸化分散剤は、ホウ素のコハク酸イミド誘導体、例えばホウ酸化ポリイソブテニルコハク酸イミドである。
【0031】
ホウ酸化摩擦緩和剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ホウ酸化脂肪エポキシド類、ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン類、ホウ酸化グリセロールエステル類等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0032】
粒状の水和アルカリ金属ホウ酸塩も、当該分野ではよく知られていて、市販もされている。粒状水和アルカリ金属ホウ酸塩の代表的な例および製造方法としては、例えば米国特許第3313727号、第3819521号、第3853772号、第3907601号、第3997454号、第4089790号、第6737387号及び第6534450号の各明細書に開示されているものが挙げられ、それらの内容も参照内容として本明細書の記載とする。水和アルカリ金属ホウ酸塩は、次の式で表すことができ:MO・mB・nHO(式中、Mは原子番号が約11乃至約19のアルカリ金属、例えばナトリウムおよびカリウムであり、mは約2.5乃至約4.5の数(整数でも分数でも)であり、そしてnは約1.0乃至約4.8の数である)。好ましいのは水和ホウ酸ナトリウム類である。水和ホウ酸塩粒子の平均粒子径は、一般に約1ミクロン未満である。
【0033】
ホウ酸化エポキシド類の例としては、ホウ素化合物のうちの一種以上と、少なくとも一種のエポキシドとの反応生成物から得られたホウ酸化エポキシド類が挙げられる。好適なホウ素化合物としては、酸化ホウ素、酸化ホウ素水和物、三酸化ホウ素、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、ホウ素酸、例えばボロン酸、ホウ酸、四ホウ酸およびメタホウ酸、ホウ素アミド類、およびホウ素酸の各種エステル類を挙げることができる。エポキシドは、一般に炭素原子数約8乃至約30、好ましくは炭素原子数約10乃至約24、より好ましくは炭素原子数約12乃至約20の脂肪族エポキシドである。好適な脂肪族エポキシド類としては、ドデセンオキシド、ヘキサデセンオキシド等およびそれらの混合物が挙げられる。エポキシドの混合物も使用することができ、例えば炭素原子数約14乃至約16又は炭素原子数約14乃至約18の市販のエポキシド混合物がある。ホウ酸化エポキシド類は一般に知られていて、例えば米国特許第4584115号明細書に記載されている。
【0034】
ホウ酸エステル類の例としては、上に開示したホウ素化合物のうちの一種以上と、一種以上の好適な親油性のアルコールとを反応させることにより得られるようなホウ酸エステル類が挙げられる。アルコール類は、一般に炭素原子6乃至約30個を含有し、好ましくは炭素原子8乃至約24個を含有している。そのようなホウ酸エステル類の製造方法も当該分野ではよく知られている。ホウ酸エステル類はホウ酸化リン脂質であってもよい。ホウ酸エステル類の代表的な例としては、I−III式に示す構造を有するものが挙げられる。
【0035】
【化1】

【0036】
式中、各Rは独立に、C−C12の直鎖又は分枝アルキル基であり、そしてRは、水素またはC−C12の直鎖又は分枝アルキル基である。
【0037】
ホウ酸化脂肪アミン類の例としては、上に開示したホウ素化合物のうちの一種以上と、炭素原子数約14乃至約18のアミンなど脂肪アミン類のうちの一種以上とを反応させることにより得られたホウ酸化脂肪アミン類が挙げられる。アミンとホウ素化合物を約50乃至約300℃、好ましくは約100乃至約250℃の範囲の温度で、アミンの当量対ホウ素化合物の当量比約3:1乃至約1:3で反応させることにより、ホウ酸化脂肪アミン類を製造することができる。
【0038】
ホウ酸化アミド類の例としては、炭素原子数8乃至約22の線状又は分枝、飽和又は不飽和一価脂肪酸、尿素およびポリアルキレンポリアミンと、ホウ酸化合物との反応生成物から得られたホウ酸化アミド類等、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0039】
ホウ酸化スルホネート類の例としては、(a)炭化水素溶媒の存在下で、(i)油溶性スルホン酸またはアルカリ土類金属スルホン酸塩またはそれらの混合物のうちの少なくとも一種、(ii)少なくとも一種のアルカリ土類金属源、(iii)少なくとも一種のホウ素源、および(iv)ホウ素源に対して0乃至10モルパーセント未満のホウ素源以外の過塩基化酸を反応させること、そして(b)(a)の反応生成物を炭化水素溶媒の蒸留温度より高い温度に加熱して、反応物から炭化水素溶媒と水分を留去することにより得られた、ホウ酸化アルカリ土類金属スルホネート類が挙げられる。好適なホウ酸化アルカリ土類金属スルホネート類としては、例えば米国特許出願公開第20070123437号明細書に開示されているものが挙げられ、その内容も参照内容として本明細書の記載とする。
【0040】
本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物から供給されるホウ素を、組成物の全質量に基づき約600ppm以下で含む。ある態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物から供給されるホウ素を、組成物の全質量に基づき約500ppm以下で含む。別の態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物から供給されるホウ素を、組成物の全質量に基づき約400ppm以下で含む。また別の態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物から供給されるホウ素を、組成物の全質量に基づき約200ppm以下で含む。さらに別の態様では本発明の潤滑油組成物は、ホウ素量が実質的に存在しない。別の態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物から供給されるホウ素を、組成物の全質量に基づき約40ppm乃至約600ppm以下で含む。
【0041】
[油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物]
本発明の潤滑油組成物に使用される油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物の代表的な例としては、モリブデンジチオカルバメート類、モリブデンジチオホスフェート類、分散性水和モリブデン化合物、酸性モリブデン化合物または酸性モリブデン化合物の塩類、モリブデン含有錯体等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0042】
分散性水和モリブデン化合物の例としては、分散性水和ポリモリブデン酸塩、分散性水和アルカリ金属ポリモリブデン酸塩等、およびそれらの混合物が挙げられる。好適な分散性水和ポリモリブデン酸塩としては、例えば米国特許出願公開第20050070445号明細書に開示されているものが挙げられ、その内容も参照内容として本明細書の記載とする。
【0043】
好適なモリブデンジチオカルバメート類としては、添加剤として潤滑油に使用することができる如何なるモリブデンジチオカルバメートも挙げられる。本発明に使用されるモリブデンジチオカルバメートの一部類は、IV式で表される。
【0044】
【化2】

【0045】
式中、R、R、RおよびRは各々独立に、水素または炭化水素基であり、その例としてはアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基およびシクロアルケニル基が挙げられ、そしてX、X、XおよびXは各々独立に、硫黄または酸素である。
【0046】
好適なアルキル基としては、これらに限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二級ブチル、第三級ブチル、ペンチル、イソペンチル、第二級ペンチル、ネオペンチル、第三級ペンチル、ヘキシル、第二級ヘキシル、ヘプチル、第二級ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、第二級オクチル、ノニル、第二級ノニル、デシル、第二級デシル、ウンデシル、第二級ウンデシル、ドデシル、第二級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、第二級トリデシル、テトラデシル、第二級テトラデシル、ヘキサデシル、第二級ヘキサデシル、ステアリル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2−ブチルオクチル、2−ブチルデシル、2−ヘキシルオクチル、2−ヘキシルデシル、2−オクチルデシル、2−ヘキシルドデシル、2−オクチルドデシル、2−デシルテトラデシル、2−ドデシルヘキサデシル、2−ヘキサデシルオクタデシル、2−テトラデシルオクタデシル、およびモノメチル分岐イソステアリル等を挙げることができる。
【0047】
好適なアルケニル基としては、これらに限定されるものではないが、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、およびオレイル等を挙げることができる。
【0048】
好適なアリール基としては、これらに限定されるものではないが、フェニル、トリル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、ビフェニル、ベンジルフェニル、スチレン化フェニル、p−クミルフェニル、アルファ−ナフチル、およびベータ−ナフチル基等を挙げることができる。
【0049】
好適なシクロアルキル基およびシクロアルケニル基としては、これらに限定されるものではないが、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、およびメチルシクロヘプテニル基等を挙げることができる。
【0050】
これらの基のうちでもアルキル基またはアルケニル基が、IV式のR乃至Rとして好ましい。好ましくは、IV式のR基は同じ基である。
【0051】
IV式において、X乃至Xは独立に硫黄原子または酸素原子から選ばれるが、X乃至X全部が硫黄原子であっても酸素原子であっても、あるいは硫黄原子と酸素原子の混合物であってもよい。摩擦低減効果と腐食性との釣合いを考慮して、硫黄原子(群)/酸素原子(群)のモル比(数の比)は、約1/3乃至約3/1の範囲にあることが特に好ましい。
【0052】
IV式の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン化合物の一部は市販されている。例えば、XとXがOで、XとXがSで、R乃至RがC1327脂肪族炭化水素基で、モリブデンの酸化状態がVである生成物が、酸化防止剤や摩擦低減添加剤として、R.T.ヴァンダービルト社(R.T. Vanderbilt Company Inc.、米国コネチカット州ノーウォーク)より、モリヴァン(Molyvan)807及びモリヴァン822の商標で発売されている。これらのモリブデン化合物は、米国特許第3356702号明細書に記載されている方法により製造することができ、その際にMoOを、アルカリ金属水酸化物溶液に溶解し、酸を添加して中和し、その後第二級アミンと二硫化炭素を加えることにより、可溶性モリブデン酸塩に変換する。別の態様ではX乃至XがOまたはSであるI式のモリブデン化合物は、例えば米国特許第4098705号及び第5631213号明細書など、当該分野で公知の多数の方法により製造することができる。
【0053】
一般に、IV式で表される硫化オキシモリブデンジチオカルバメート類は、三酸化モリブデンまたはモリブデン酸塩を、アルカリ硫化物またはアルカリ水硫化物と反応させ、次に二硫化炭素と第二級アミンを反応混合物に添加し、得られた混合物を適切な温度で反応させることにより製造することができる。非対称な硫化オキシモリブデンジチオカルバメートを製造するには、上記方法で異なる炭化水素基を持つ第二級アミンを使用するか、あるいは二種以上の異なる第二級アミンを使用すれば充分である。対称な硫化オキシモリブデンジチオカルバメートは、一種類の第二級アミンだけを使用すること以外は同様の方法で製造することができる。
【0054】
好適なモリブデンジチオカルバメート化合物の例としては、これらに限定されるものではないが、硫化モリブデンジエチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカルバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカルバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカルバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカルバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカルバメート、硫化モリブデンジトリデシルジチオカルバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカルバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジトリデシルジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカルバメート等、およびそれらの混合物を挙げることができる、ただし、これら全てにおいてアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0055】
好適なモリブデンジチオホスフェート類としては、添加剤として潤滑油に使用することができる如何なるモリブデンジチオホスフェートも挙げられる。好適なモリブデンジチオホスフェート類の例としては、モリブデンジアルキル又はジアリールジチオホスフェート、例えばモリブデンジイソプロピルジチオホスフェート、モリブデンジ−(2−エチルヘキシル)ジチオホスフェート、モリブデンジ−(ノニルフェニル)ジチオホスフェート等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0056】
モリブデン含有錯体は一般に、塩基性窒素化合物のモリブデン又はモリブデン/硫黄錯体を含むことができる。本発明に用いられるモリブデン/窒素含有錯体は、当該分野ではよく知られていて、モリブデン酸と油溶性の塩基性窒素含有化合物との錯化合物である。一般に、モリブデン/窒素含有錯体は錯化工程で極性促進剤を含む有機溶媒を用いて製造することができ、そのような錯体の製造方法は、例えば米国特許第4259194号、第4259195号、第4261843号、第4263152号、第4265773号、第4283295号、第4285822号、第4369119号、第4370246号、第4394279号、第4402840号及び第6962896号および米国特許出願公開第2005/0209111号の各明細書に記載されている。これらの参照文献に示されているように、モリブデン/窒素含有錯体を更に硫化することができる。
【0057】
別の態様ではモリブデン酸化コハク酸イミド錯体は、(a)V式のポリアミンのアルキル又はアルケニルコハク酸イミド:
【0058】
【化3】

【0059】
(式中、Rは約C12乃至約C30のアルキル又はアルケニル基であり、aおよびbは独立に2または3であり、そしてxは0乃至10、好ましくは1乃至6、より好ましくは2乃至5である)を、エチレン不飽和カルボン酸及び/又はその無水物と反応させる工程、そして(b)工程(a)のコハク酸イミド生成物を、酸性モリブデン化合物、例えば米国特許出願第12/215723号(2008年6月30日出願)明細書に開示されているものと反応させる工程、を少なくとも含む方法により製造することができる、ただし、その内容も参照内容として本明細書の記載とする。ある態様ではR置換基の数平均分子量は、約167乃至約419、好ましくは約223乃至約279の範囲にある。別の態様ではRは約C12乃至約C24のアルキル又はアルケニル基であり、aおよびbは各々2であり、そしてxは2乃至5である。
【0060】
工程(a)では、V式のコハク酸イミド:
【0061】
【化4】

【0062】
(式中、R、a、bおよびxは上記の意味である)を、エチレン不飽和カルボン酸と反応させる。V式の出発コハク酸イミドは、VI式の無水物:
【0063】
【化5】

【0064】
(式中、Rは上記の意味である)を、ポリアミンと反応させることにより得ることができる。VI式の無水物は、例えばシグマ・アルドリッチ社(Sigma Aldrich Corporation、米国ミズーリ州セントルイス)のような製造元から市販されてもいるし、あるいは当該分野で公知の任意の方法により製造することもできる。
【0065】
V式のコハク酸イミドの製造に使用するのに適したポリアミン類は、ポリアルキレンジアミン類を含むポリアルキレンポリアミン類である。そのようなポリアルキレンポリアミン類は一般に、窒素原子約2乃至約12個と炭素原子約2乃至24個を含んでいる。特に好適なポリアルキレンポリアミン類としては、式:HN−(RNH)−H(式中、Rは炭素原子数2または3の直鎖又は分枝鎖アルキレン基であり、そしてcは1乃至9である)を有するものがある。好適なポリアルキレンポリアミン類の代表的な例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、およびそれらの混合物が挙げられる。最も好ましくは、ポリアルキレンポリアミンはテトラエチレンペンタアミンである。
【0066】
本発明に使用するのに適したポリアミン類の多くは市販されていて、またそれ以外のものも当該分野でよく知られている方法により製造することができる。例えば、アミン類の製造方法およびそれらの反応については、シジウィック(Sidgewick)著、「窒素の有機化学(The Organic Chemistry of Nitrogen)」、クラレンドン・プレス(Clarendon Press)、オックスフォード、1966年;ノラー(Noller)著、「有機化合物の化学(Chemistry of Organic Compounds)」、ソーンダース(Saunders)、フィラデルフィア、第2版、1957年;およびカーク/オスマー(Kirk-Othmer)著、「化学工学大辞典(Encyclopedia of Chemical Technology)」、第2版、特に第2巻、p.99−116に詳しく記載されている。
【0067】
一般的には、VI式の無水物をポリアミンと、約130℃乃至約220℃、好ましくは約145℃乃至約175℃の温度で反応させる。窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中で反応を行うことができる。反応に用いるVI式の無水物の量は、反応混合物の全質量に基づき約30乃至約95質量%、好ましくは約40乃至約60質量%の範囲にあってよい。
【0068】
好適なエチレン不飽和カルボン酸類又はそれらの無水物としては、エチレン不飽和モノカルボン酸類又はそれらの無水物、エチレン不飽和ジカルボン酸類又はそれらの無水物等、およびそれらの混合物を挙げることができる。使用できるモノカルボン酸類又はそれらの無水物としては、これらに限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸等およびそれらの混合物が挙げられる。使用できるエチレン不飽和ジカルボン酸類又はそれらの無水物としては、これらに限定されるものではないが、フマル酸、マレイン酸無水物、メサコン酸、シトラコン酸、シトラコン酸無水物、イタコン酸、イタコン酸無水物等、およびそれらの混合物が挙げられる。好ましいエチレン不飽和カルボン酸又はその無水物は、マレイン酸無水物またはその誘導体である。これ及び同様の無水物は、コハク酸イミド出発化合物に結合してカルボン酸官能基になる。V式のコハク酸イミドのエチレン不飽和カルボン酸又はその無水物による処理によって、充分な量のモリブデン化合物を錯体に取り込むことが可能になる。
【0069】
一般的には、エチレン不飽和カルボン酸又はその無水物を、約50℃乃至約100℃の範囲の温度で加熱して溶融状態にし、その後V式のコハク酸イミドと混合する。エチレン不飽和カルボン酸又はその無水物とV式のコハク酸イミドのモル比は、広範囲で、例えば約0.1:1乃至約2:1の範囲で変えられる。ある態様ではエチレン不飽和カルボン酸又はその無水物とV式のコハク酸イミドの充填モル比は、約0.9:1乃至約1.05:1の範囲にある。
【0070】
本発明のモリブデン酸化コハク酸イミド錯体を製造するのに使用されるモリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物または酸性モリブデン化合物の塩である。一般にこれらのモリブデン化合物は六価である。好適なモリブデン化合物の代表的な例は、前述した酸性モリブデン化合物の何れであってもよい。特に好ましいのは三酸化モリブデンである。
【0071】
工程(b)では、工程(a)のコハク酸イミド生成物と酸性モリブデン化合物との混合物を、希釈剤有り又は無しで製造する。必要により希釈剤を使用して、撹拌するのに適した粘度にする。好適な希釈剤は潤滑油、および炭素と水素だけを含む液体化合物である。所望により、水酸化アンモニウムも反応混合物に添加して、モリブデン酸アンモニウムの溶液にする。
【0072】
一般的には、モリブデンが充分に反応するまで反応混合物を約100℃以下、好ましくは約80℃乃至約100℃の温度で加熱する。この工程の反応時間は、一般に約15分乃至約5時間、好ましくは約1乃至約2時間の範囲にある。モリブデン化合物と工程(a)のコハク酸イミド生成物とのモル比は、約0.1:1乃至約2:1、好ましくは約0.5:1乃至約1.5:1、最も好ましくは約1:1である。モリブデン化合物と工程(a)のコハク酸イミド生成物との反応の後に生じる如何なる水分も、反応混合物を約100℃より高い、好ましくは約120℃乃至約160℃の温度に加熱することにより、取り除くことができる。
【0073】
別の態様ではモリブデン酸化コハク酸イミド錯体は、(a)VII式のポリアミンのコハク酸イミド:
【0074】
【化6】

【0075】
(式中、Rは、数平均分子量約500乃至約5000、好ましくは数平均分子量約700乃至約2500、より好ましくは数平均分子量約710乃至約1100の炭化水素基であり、aおよびbは独立に2または3であり、そしてxは0乃至10、好ましくは1乃至6、より好ましくは2乃至5である)を、エチレン不飽和カルボン酸又はその無水物と、エチレン不飽和カルボン酸又はその無水物とVII式のコハク酸イミドとの充填モル比が約0.9:1乃至約1.05:1で反応させる工程、そして(b)工程(a)のコハク酸イミド生成物を、酸性モリブデン化合物、例えば米国特許出願第12/215739号(2008年6月30日出願)明細書に開示されているものと反応させる工程、を少なくとも含む方法により製造することができる、ただし、その内容も参照内容として本明細書の記載とする。ある態様ではRはアルキル基またはアルケニル基である。別の態様ではRはポリアルケニル基である。好ましいポリアルケニル基はポリイソブテニル基である。
【0076】
工程(a)では、VII式のコハク酸イミド:
【0077】
【化7】

【0078】
(式中、R、a、bおよびxは上記の意味である)を、エチレン不飽和カルボン酸と、エチレン不飽和カルボン酸又はその無水物とI式のコハク酸イミドとの充填モル比が約0.9:1乃至約1.05:1で反応させる。VII式の出発コハク酸イミドは、VIII式の無水物:
【0079】
【化8】

【0080】
(式中、Rは上記の意味である)を、ポリアミンと反応させることにより得ることができる。VIII式の無水物は、例えばシグマ・アルドリッチ社(米国ミズーリ州セントルイス)のような製造元から市販されてもいるし、あるいは当該分野で公知の任意の方法により製造することもできる。
【0081】
VII式のコハク酸イミドの製造に使用するのに適したポリアミン類は、V式のコハク酸イミドを製造するために以前に開示したポリアミン類の何れであってもよい。好ましくは、ポリアルキレンポリアミンはテトラエチレンペンタアミンである。
【0082】
一般的には、VIII式の無水物をポリアミンと、約130℃乃至約220℃、好ましくは約145℃乃至約175℃の温度で反応させる。窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中で反応を行うことができる。反応に用いるVIII式の無水物の量は、反応混合物の全質量に基づき約30乃至約95質量%、好ましくは約40乃至約60質量%の範囲にあってよい。
【0083】
好適なエチレン不飽和カルボン酸類又はそれらの無水物は、V式のコハク酸イミドを用いてモリブデン酸化コハク酸イミド錯体を製造するために以前に開示したエチレン不飽和カルボン酸類又はそれらの無水物の何れであってもよい。好ましいエチレン不飽和カルボン酸又はその無水物は、マレイン酸無水物またはその誘導体である。
【0084】
一般的には、エチレン不飽和カルボン酸又はその無水物を、約50℃乃至約100℃の温度で加熱して溶融状態にし、その後VII式のコハク酸イミドと混合する。
【0085】
モリブデン酸化コハク酸イミド錯体を製造するのに使用されるモリブデン化合物は、V式のコハク酸イミドを用いてモリブデン酸化コハク酸イミド錯体を製造するために以前に開示したモリブデン化合物の何れであってもよい。特に好ましいのは三酸化モリブデンである。
【0086】
工程(b)では、工程(a)のコハク酸イミド生成物と酸性モリブデン化合物との混合物を、希釈剤有り又は無しで製造する。必要により希釈剤を使用して、容易に撹拌するのに適した粘度にする。好適な希釈剤は潤滑油、および炭素と水素だけを含む液体化合物である。所望により、水酸化アンモニウムも反応混合物に添加して、モリブデン酸アンモニウムの溶液にする。
【0087】
一般的には、モリブデンが充分に反応するまで反応混合物を約100℃以下、好ましくは約80℃乃至約100℃の温度で加熱する。この工程の反応時間は、一般に約15分乃至約5時間、好ましくは約1乃至約2時間の範囲にある。モリブデン化合物と工程(a)のコハク酸イミド生成物とのモル比は、約0.1:1乃至約2:1、好ましくは約0.5:1乃至約1.5:1、最も好ましくは約1:1である。モリブデン化合物と工程(a)のコハク酸イミド生成物との反応の後に生じる如何なる水分も、反応混合物を約100℃より高い、好ましくは約120℃乃至約160℃の温度に加熱することにより、取り除くことができる。
【0088】
本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物から供給されるモリブデンを、組成物の全質量に基づき約800ppm以下で含む。ある態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物から供給されるモリブデンを、組成物の全質量に基づき約500ppm以下で含む。別の態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物から供給されるモリブデンを、組成物の全質量に基づき約300ppm以下で含む。また別の態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物から供給されるモリブデンを、組成物の全質量に基づき約150ppm以下で含む。さらに別の態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物から供給されるモリブデンを、組成物の全質量に基づき約100ppm以下で含む。別の態様では本発明の潤滑油組成物は、一種以上の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物から供給されるモリブデンを、組成物の全質量に基づき約45ppm乃至約800ppm以下にて含む。
【0089】
ある態様では油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物は、本発明の潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比が約5:1乃至約500:1となるように、潤滑油組成物中に存在する。別の態様では潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約15:1乃至約240:1である。別の態様では潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約20:1乃至約100:1である。
【0090】
本発明の潤滑油組成物は、硫黄分を約0.4質量%迄、好ましくは約0.3質量%迄の量で含む。硫黄分は、元素硫黄または硫黄含有化合物に由来するものであってよい。硫黄または硫黄含有化合物は、潤滑油組成物に意図的に添加してもよいし、あるいは基油にもしくは潤滑油組成物用添加剤のうちの一種以上に存在していてもよい。ある態様では潤滑油組成物中の硫黄の主要量、すなわち50%より多い量が、活性硫黄化合物に由来している。「活性硫黄」は、耐摩耗作用のある、好ましくは耐食性である硫黄化合物を意味する。硫黄含有化合物は、無機硫黄化合物であっても有機硫黄化合物であってもよい。硫黄含有化合物は、次の基のうちの一つ以上を含む化合物であってよい:スルファモイル、スルフェナモイル、スルフェノ、スルフィド、スルフィナモイル、スルフィノ、スルフィニル、スルホ、スルホニオ、スルホニル、スルホニルジオキシ、スルフェート、チオ、チオカルバモイル、チオカルボニル、チオカルボニルアミノ、チオカルボキシ、チオシアナト、チオホルミル、チオキソ、チオケトン、チオアルデヒド、およびチオエステル等。また、硫黄は、鎖または環に炭素原子と硫黄原子(および任意に酸素や窒素など他のヘテロ原子)を含むヘテロ基又は化合物中に存在していてもよい。好ましい窒素含有化合物としては、アルキル又はアルケニルスルフィド及びポリスルフィド類などの二炭化水素スルフィド及びポリスルフィド類、硫化脂肪酸又はそれらのエステル類、無灰ジチオリン酸エステル類、環状有機硫黄化合物、ポリイソブチルチオチオン化合物、無灰ジチオカルバメート類、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0091】
二炭化水素スルフィド又はポリスルフィド類の例としては、VIII式で表される化合物が挙げられる。

−S−R10 (VIII)
【0092】
式中、RおよびR10は、同じであっても異なっていてもよいが、C−C20のアルキル基、アルケニル基又は環状アルキル基、C−C20のアリール基、C−C20のアルキルアリール基またはC−C20のアリールアルキル基を表し、そしてbは1乃至7の整数である。RおよびR10の各々がアルキル基であるとき、化合物はアルキルスルフィドと呼ばれる。VIII式でRおよびR10で表される基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル基類、ヘキシル基類、ヘプチル基類、オクチル基類、ノニル基類、デシル基類、ドデシル基類、シクロヘキシル、フェニル、ナフチル、トリル、キシリル、ベンジル、およびフェネチルを挙げることができる。
【0093】
芳香族及びアルキルスルフィド類の一製造方法としては、塩素化炭化水素の無機硫化物による縮合が挙げられ、それにより2つの分子各々から塩素原子が除かれ、各分子の自由原子価が二価硫黄原子と結合する。一般に元素硫黄の存在下で反応を行う。
【0094】
アルケニルスルフィド類の例は、例えば米国特許第2446072号明細書に記載されている。これらのスルフィド類は、炭素原子3乃至12個を含むオレフィン炭化水素を、一般に酸塩の形をとる亜鉛または同様の金属の存在下で、元素硫黄と相互作用させることにより製造することができる。アルケニルスルフィド類の代表的な例としては、6,6’−ジチオビス(5−メチル−4−ノネン)、2−ブテニルモノスルフィド及びジスルフィド、および2−メチル−2−ブテニルモノスルフィド及びジスルフィド等が挙げられる。
【0095】
硫化脂肪酸又はそのエステルは、例えば硫黄、一塩化硫黄および/または二塩化硫黄を、不飽和脂肪酸又はそのエステルと高温で反応させることにより製造することができる。好適な脂肪酸類としては、C−C24の不飽和脂肪酸、例えばパルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸、ペトロセリン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、オレオステアリン酸、リカン酸、パラナリン酸、タリル酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、およびセトレイン酸等を挙げることができる。また、混合不飽和脂肪酸、例えば動物油および植物油、具体的にはトール油、アマニ油、オリーブ油、ヒマシ油、ピーナッツ油、ナタネ油、魚油、およびマッコウ鯨油等も使用できる。好適な脂肪酸エステル類としては、上記脂肪酸のC−C20アルキルエステル類が挙げられる。例示的な脂肪酸エステル類としては、ラウリルタレート、メチルオレエート、エチルオレエート、ラウリルオレエート、セチルオレエート、セチルリノレエート、ラウリルリシノレエート、オレイルリノレエート、オレイルステアレート、およびアルキルグリセリド類等を挙げることができる。
【0096】
本発明に使用するのに適した無灰ジチオリン酸エステルの一部類としては、IX式のものが挙げられる。
【0097】
【化9】

【0098】
式中、R11およびR12は独立に、炭素原子数3乃至8のアルキル基である。(R.T.ヴァンダービルト社より、ヴァンリューベ(VANLUBE、商標)7611Mとして市販されている。)
【0099】
本発明に使用するのに適した無灰ジチオリン酸エステルの別の部類としては、カルボン酸のジチオリン酸エステル類、例えばチバガイギー社(Ciba Geigy Corp.)よりイルガリューベ(IRGALUBE、商標)63として市販されているものが挙げられる。
【0100】
本発明に使用するのに適した無灰ジチオリン酸エステルのまた別の部類としては、トリフェニルホスホロチオネート類、例えばチバガイギー社よりイルガリューベ(IRGALUBE、商標)TPPTとして市販されているものが挙げられる。
【0101】
好適なポリイソブチルチオチオン化合物としては、X式で表される化合物が挙げられる。
【0102】
【化10】

【0103】
式中、R13は水素またはメチルであり、Xは硫黄または酸素であり、mは1乃至9の整数であり、nは0または1であり、そしてnが0のときR13はメチルであり、nが1のときR13は水素である。このようなポリイソブチルチオチオン化合物の例は、例えば米国特許出願公開第20050153850号明細書に開示されていて、その内容も参照内容として本明細書の記載とする。
【0104】
好ましい態様では本発明の潤滑油組成物に使用される硫黄化合物は、XI式のビスジチオカルバメート化合物である。
【0105】
【化11】

【0106】
式中、R13、R14、R15およびR16は、同じであっても異なっていてもよいが、炭素原子数1乃至13の脂肪族炭化水素基であり、そしてR17は、炭素原子数1乃至8のアルキレン基である。XI式のビスジチオカルバメート類は、公知の化合物で米国特許第4648985号明細書に記載されていて、参照内容として本明細書の記載とする。炭素原子数1乃至13の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数1乃至13の分枝鎖又は直鎖のアルキル基であってよい。本発明に使用するのに好ましいビスジチオカルバメート化合物は、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)であり、ヴァンリューベ(Vanlube、商標)7723(R.T.ヴァンダービルト社)として市販されている。
【0107】
本発明の潤滑油組成物は、如何なるリン分も実質的に含むことがない。ある態様では本発明の潤滑油組成物は、如何なるジアルキルジチオリン酸亜鉛も実質的に含まない。
【0108】
本発明の潤滑油組成物は、補助的な機能を付与するためにその他の従来添加剤も含有して、これら添加剤が分散または溶解した完成潤滑油組成物とすることができる。例えば、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、金属清浄剤などの清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤等およびそれらの混合物と、潤滑油組成物をブレンドすることができる。様々な添加剤が知られていて市販されてもいる。これら添加剤またはそれらの類似化合物を通常のブレンド手段により、本発明の潤滑油組成物の製造に用いることができる。
【0109】
酸化防止剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アミン型、例えばジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチル−アミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類、およびアルキル化フェニレン−ジアミン類;フェノール型、例えばBHT、立体障害のあるアルキルフェノール類、具体的には2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノール;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0110】
無灰分散剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリアルキレンコハク酸無水物;ポリアルキレンコハク酸無水物の非窒素含有誘導体;コハク酸イミド類、カルボン酸アミド類、炭化水素モノアミン類、炭化水素ポリアミン類、マンニッヒ塩基類、ホスホノアミド類およびホスホルアミド類からなる群より選ばれる塩基性窒素化合物;トリアゾール類、例えばアルキルトリアゾール類およびベンゾトリアゾール類;アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシルおよびカルボキシル等を含む一以上の付加極性官能基を持つカルボン酸エステルを含む共重合体、例えば長鎖アルキルアクリレート又はメタクリレート類と上記官能基を持つ単量体との共重合により製造された生成物等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0111】
さび止め用添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸類;ジカルボン酸類;金属石鹸類;脂肪酸アミン塩類;重質スルホン酸の金属塩類;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル類;(短鎖)アルケニルコハク酸類;それらの部分エステル類およびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート類、例えば金属ジノニルナフタレンスルホネート類等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0112】
摩擦緩和剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪アミン類;脂肪亜リン酸エステル類、脂肪エポキシド類、脂肪アミン類、脂肪酸の金属塩類、脂肪酸アミド類、グリセロールエステル類、および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪イミダゾリン類(その内容も参照内容として本明細書の記載とする);C−C75、好ましくはC−C24、最も好ましくはC−C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれる窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤等、およびそれらの混合物を挙げることできる。
【0113】
消泡剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートの重合体;ジメチルシリコーンの重合体等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0114】
上述した添加剤の各々は、使用されるなら、潤滑剤に所望の特性を付与するのに機能的に有効な量で使用される。よって、例えば添加剤が摩擦緩和剤であるなら、この摩擦緩和剤の機能的に有効な量は、潤滑剤に所望の摩擦緩和特性を付与するのに充分な量となる。一般にこれら添加剤の各々の濃度は、使用において、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約20質量%の範囲にあり、ある態様では約0.01質量%乃至約10質量%の範囲にある。
【0115】
本発明の潤滑油組成物の最終用途は例えば、クロスヘッドディーゼルエンジンの舶用シリンダ潤滑油、自動車や鉄道等のクランクケース潤滑油、製鋼所などの重機械用潤滑油、あるいは軸受等用のグリースであってよい。ある態様では本発明の潤滑油組成物は、排ガス再循環装置(EGR)、触媒コンバータおよび微粒子捕集装置のうちの少なくとも一つを備えた、高荷重ディーゼルエンジンまたは圧縮点火ディーゼルエンジンなどの圧縮添加ディーゼルエンジンに潤滑作用を与えるために使用できる。
【0116】
潤滑油組成物が液体であるか固体であるかは通常、増粘剤が存在するか否かに係っている。代表的な増粘剤としては、酢酸ポリ尿素類、およびステアリン酸リチウム等が挙げられる。
【0117】
以下の限定的ではない実施例は、本発明を説明するものである。
【実施例】
【0118】
[実施例1]
下記の成分を一緒にブレンドして粘度グレードSAE15W−40の配合物を得ることにより、潤滑油組成物を製造した。
【0119】
(1)メチレンビスジ−n−ブチルジチオカルバメート(最終油中0.7質量%)と一種以上の清浄剤の組合せ、硫黄分で2300ppm、ただし、硫黄1900ppmは活性硫黄(すなわち、メチレンビスジ−n−ブチルジチオカルバメート)に由来し、硫黄400ppmは非活性硫黄化合物(すなわち、清浄剤)に由来する。
【0120】
(2)ホウ酸化分散剤(最終油中5.2質量%)およびTBNが160のホウ酸化カルシウムスルホネート(最終油中カルシウム基準で3mmol/kg)の組合せ、ホウ素量で400ppm
【0121】
(3)モリブデンコハク酸イミド錯体、モリブデン量で90ppm
【0122】
(4)分散剤、2.6質量%
【0123】
(5)ジフェニルアミン酸化防止剤、1質量%
【0124】
(6)ヒンダードフェノール酸化防止剤、1質量%
【0125】
(7)流動点降下剤、0.5質量%
【0126】
(8)分散型粘度指数向上剤、4.5質量%
【0127】
(9)消泡剤、ケイ素量で10ppm
【0128】
(10)残りは、III種基油およそ56質量%と、II種基油およそ44質量%とからなる希釈油であった。
【0129】
得られた潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874で測定して0.2質量%であった。
【0130】
[比較例A]
下記の成分を一緒にブレンドして粘度グレードSAE15W−40の配合物を得ることにより、潤滑油組成物を製造した。
【0131】
(1)非活性硫黄化合物(すなわち、清浄剤)、硫黄分で400ppm
【0132】
(2)ホウ酸化分散剤(最終油中5.2質量%)と、全塩基価(TBN)が160のホウ酸化スルホネート(最終油中3mmol/kg)との組合せ、ホウ素量で400ppm
【0133】
(3)モリブデンコハク酸イミド錯体、モリブデン量で90ppm
【0134】
(4)分散剤、2.6質量%
【0135】
(5)ジフェニルアミン酸化防止剤、1質量%
【0136】
(6)ヒンダードフェノール酸化防止剤、1質量%
【0137】
(7)流動点降下剤、0.3質量%
【0138】
(8)分散型粘度指数向上剤、6.6質量%
【0139】
(9)消泡剤、ケイ素量で10ppm
【0140】
(10)残りは、II種基油シェブロン220Nおよそ82質量%と、II種基油シェブロン600Nおよそ18質量%とからなる希釈油であった。
【0141】
得られた潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874で測定して0.2質量%であった。
【0142】
[比較例B]
下記の成分を一緒にブレンドして粘度グレードSAE15W−40の配合物を得ることにより、潤滑油組成物を製造した。
【0143】
(1)非活性硫黄化合物(すなわち、清浄剤)、硫黄分で400ppm
【0144】
(2)ホウ酸化分散剤(最終油中5.2質量%)、TBNが160のホウ酸化カルシウムスルホネート(最終油中カルシウム基準で3mmol/kg)および分散性水和ホウ酸ナトリウム(最終油中0.5質量%)の組合せ、ホウ素量で750ppm
【0145】
(3)モリブデンコハク酸イミド錯体、モリブデン量で90ppm
【0146】
(4)分散剤、2.6質量%
【0147】
(5)ジフェニルアミン酸化防止剤、1質量%
【0148】
(6)ヒンダードフェノール酸化防止剤、1質量%
【0149】
(7)流動点降下剤、0.5質量%
【0150】
(8)分散型粘度指数向上剤、4.1質量%
【0151】
(9)消泡剤、ケイ素量で10ppm
【0152】
(10)残りは、III種基油およそ55質量%と、II種基油およそ45質量%とからなる希釈油であった。
【0153】
得られた潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874で測定して0.6質量%であった。
【0154】
[比較例C]
下記の成分を一緒にブレンドして粘度グレードSAE15W−40の配合物を得ることにより、潤滑油組成物を製造した。
【0155】
(1)メチレンビスジ−n−ブチルジチオカルバメート(最終油中0.7質量%)と一種以上の清浄剤の組合せ、硫黄分で2300ppm、ただし、硫黄1900ppmは活性硫黄(すなわち、メチレンビスジ−n−ブチルジチオカルバメート)に由来し、硫黄400ppmは非活性硫黄化合物(すなわち、清浄剤)に由来する。
【0156】
(2)ホウ酸化分散剤(最終油中5.2質量%)TBNが160のホウ酸化カルシウムスルホネート(最終油中カルシウム基準で3mmol/kg)および分散性水和ホウ酸ナトリウム(最終油中0.5質量%)の組合せ、ホウ素量で750ppm
【0157】
(3)モリブデンコハク酸イミド錯体、モリブデン量で90ppm
【0158】
(4)分散剤、2.6質量%
【0159】
(5)ジフェニルアミン酸化防止剤、1質量%
【0160】
(6)ヒンダードフェノール酸化防止剤、1質量%
【0161】
(7)流動点降下剤、0.5質量%
【0162】
(8)分散型粘度指数向上剤、6.7質量%
【0163】
(9)消泡剤、ケイ素量で10ppm
【0164】
(10)残りは、II種基油シェブロン220Nおよそ72質量%と、II種基油シェブロン600Nおよそ28質量%とからなる希釈油であった。
【0165】
得られた潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874で測定して0.4質量%であった。
【0166】
[試験] API CJ−4カミンズISM試験
実施例1および比較例A−Cの潤滑油組成物について、耐摩耗性能の評価を行った。検査機用のCJ−4カミンズエンジン試験によって、インジェクタ調整ねじの質量損失(IASWL)を測定することにより、高荷重ディーゼル・バルブトレーン耐摩耗性能を測定した。CJ−4カミンズ試験はEGRを備えたカミンズISMエンジンを用いた。エンジン試験時間は100時間である。下記第1表に、この試験の結果を示す。
【0167】
第1表
───────────
IASWL
───────────
実施例1 7.1
比較例A 22.3
比較例B 31.2
比較例C 38.6
───────────
【0168】
データが示すように、実施例1の潤滑油組成物は、比較例A−Cの潤滑油組成物に比べて、インジェクタねじ摩耗を著しく低下させた。従って、本発明の潤滑油組成物は、耐摩耗効果の改善をもたらすほど充分な表面膜をインジェクタねじに付与することができると考えられる。
【0169】
本明細書に開示した態様には様々な変更を加えることができることを理解されたい。従って、以上の記述は、限定するものではなくて単に好ましい態様の例示とみなすべきである。例えば、上述の本発明を実施するための最良の形態として実行した機能は、説明の目的でしかない。当該分野の熟練者であれば、本発明の範囲及び真意から逸脱することなく他の構成や方法を実行することができよう。さらに、当該分野の熟練者であれば、本明細書に添付した特許請求の範囲の範囲及び真意内で他の変更を思い描くであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄分が約0.4質量%以下、かつASTM D874で測定した硫酸灰分が約0.5質量%以下の潤滑油組成物であって、(a)主要量の潤滑粘度の油、(b)組成物の全質量に基づくホウ素量が約600ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有化合物、および(c)組成物の全質量に基づくモリブデン量が約800ppm以下となる量の、少なくとも一種の油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン含有化合物を含む潤滑油組成物、ただし、潤滑油組成物の硫黄対モリブデン比は約5:1乃至約500:1である。
【請求項2】
潤滑粘度の油が鉱物基油を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
ホウ素量が約500ppm以下である請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
モリブデン量が約500ppm以下である請求項1乃至3のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
モリブデン量が約100ppm以下である請求項1乃至3のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
ホウ素量が約400ppm以下であり、モリブデン量が約100ppm以下である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
硫黄対モリブデン比が約15:1乃至約240:1である請求項1乃至6のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
硫黄対モリブデン比が約20:1乃至約100:1である請求項1乃至7のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
油溶性又は分散性の油中で安定なモリブデン化合物が、硫化又は未硫化のモリブデンポリイソブテニルコハク酸イミド錯体、モリブデンジチオカルバメート、分散状態にある水和モリブデン化合物、酸性モリブデン化合物又はその塩およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1乃至8のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
主要量の硫黄が、下記式のビスジチオカルバメート化合物に由来する請求項1乃至9のいずれかの項に記載の潤滑油組成物:
【化1】



(式中、R13、R14、R15およびR16は、同じであっても異なっていてもよいが炭素原子数1乃至13の脂肪族炭化水素基であり、そしてR17は、炭素原子数1乃至8のアルキレン基である)。
【請求項11】
ASTM D874で測定した硫酸灰分が約0.3質量%以下である請求項1乃至10のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
リンを実質的に含まない請求項1乃至11のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛を実質的に含まない請求項1乃至12のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
さらに、金属清浄剤、無灰分散剤、摩擦緩和剤、極圧剤、粘度指数向上剤および流動点降下剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む請求項1乃至13のいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかの項に記載の潤滑油組成物を用いて内燃機関を作動させる工程を含む内燃機関の作動方法。

【公表番号】特表2012−512309(P2012−512309A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542261(P2011−542261)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/067433
【国際公開番号】WO2010/077756
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】