説明

潤滑油組成物

【課題】特に走行用燃料として低硫黄含有量の炭化水素系燃料を用いるディーゼルエンジン搭載車のエンジンの潤滑に好適に用いられる硫酸灰分量、リン含有量、硫黄含有量、そして塩素含有量のいずれもが低い潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】低硫黄含有量の基油に、下記の成分a)乃至d)が溶解もしくは分散されていて、硫酸灰分量、リン含有量、硫黄含有量、そして塩素含有量のいずれもが低い潤滑油組成物:a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤、b)低硫黄含有量のアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤(ただし、アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%存在し、そして該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤との混合物である)、c)リン酸亜鉛摩耗防止剤、そしてd)酸化防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンあるいはガスエンジンなどの陸上で用いる内燃機関の潤滑に有用な潤滑油組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、低灰分含量、低リン含量そして低硫黄含量でありながらも、高温清浄性や耐摩耗性に優れ、またパティキュレートフィルタや、排気ガス中の未燃焼の煤および燃料や潤滑油を酸化させるために自動車に装着されている酸化触媒などの排ガス浄化装置への悪影響が少なく、近年の厳しい排ガス規制、そして今後予想されるさらに厳しい排ガス規制にも充分対応できる内燃機関用潤滑油組成物に関する。本発明は特に、走行用燃料として、硫黄含有量が約0.005質量%以下(特に、約0.001質量%以下)の炭化水素系燃料を用いる自動車、なかでも排ガス浄化装置(特にパティキュレートフィルタおよび酸化触媒)を備えたディーゼルエンジン搭載車において好適に用いられる環境対応型の内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、特に陸上走行する自動車のディーゼルエンジンに関して、パティキュレートおよびNOXなどの排ガス成分による環境汚染に対する対策が重要な課題となっている。
その対策としては、自動車へのパティキュレートフィルタ及び酸化触媒などの排ガス浄化装置の装着があるが、従来の灰分含量、リン含量そして硫黄含量が高い内燃機関用潤滑油を用いた場合、パティキュレートフィルタに付着した煤は、排ガス浄化装置中で酸化、燃焼により取り除かれるものの、燃焼により生成した金属酸化物や硫酸塩、カルボン酸塩などによるフィルタ閉塞の問題は解決されない。
【0003】
さらに、燃料中の硫黄分の存在は排ガス中への硫酸もしくは硫酸塩の混入につながるため、特に酸化触媒への悪影響を考慮すると硫黄分を極力減らす必要があり、燃料の低硫黄化は一段と進んでいる。ディーゼルエンジン搭載自動車用の軽油を例にとれば、その含有硫黄分は、約0.005質量%以下から約0.001質量%以下と低減している。燃料の低硫黄化が進めば、硫酸等を中和するために必要とされた潤滑油中の金属系清浄剤(金属含有清浄剤)の添加量を少なくすることができる。なお、潤滑油の一部はエンジン中で潤滑に使用されると同時に、燃焼し、排ガスの一部として排出される。従って、潤滑油中の金属分、硫黄分もまたできるだけ低くする方が好ましいことは当然である。さらに、潤滑油中のリン分も減らすことが触媒の劣化対策のうえで好ましい。また、排気ガスに塩素分が混入すると、ダイオキシンの生成が心配されるため、潤滑油中の塩素分も少ない方が好ましい。
【0004】
すなわち、従来、自動車、建設機械、発電機等の陸上で用いられるディーゼルエンジンは、前述のように、硫黄分が約0.005質量%以上の燃料(軽油や重油)を用いて運転されることが一般的であって、ディーゼルエンジン用潤滑油としては、従来は、硫酸灰分約1.3〜2質量%、硫黄分約0.3〜0.7質量%、リン分約0.1〜0.13質量%、のものが多くの場合用いられてきた。
【0005】
これに対して、近年の潤滑油についての低灰分含量、低リン含量、低硫黄含量、そして低塩素含量の要求に答える潤滑油として、特許文献1には、前記したような低硫黄含有量の燃料を用いたディーゼルエンジンの潤滑に適した潤滑油組成物が記載されており、その潤滑油組成物は、硫黄含有量0.1質量%以下(好ましくは0.03質量%以下)の基油に少なくとも、組成物の全質量に基づき、
a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤が窒素含有量換算値で0.01〜0.3質量%、
b)硫黄含有量が3質量%以下で全塩基価10〜350mgKOH/gの金属含有清浄剤(いわゆる金属系清浄剤)が硫酸灰分換算値で0.1〜1質量%、
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛が、リン含有量換算値で0.01〜0.12重量%、そして
d)酸化防止性のフェノール化合物および/または酸化防止性のアミン化合物が0.01〜5質量%、
の量にて溶解もしくは分散されていて、組成物の全質量に基づき、硫酸灰分量が0.1〜1質量%の範囲、リン含有量が0.01〜0.1質量%の範囲、そして硫黄含有量が0.01〜0.3質量%の範囲にあって、塩素含有量が40ppm以下であり、さらに金属含有清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%(好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1.0〜3質量%)存在することを特徴とするものである。
【0006】
なお、上記成分a)の金属含有清浄剤の好ましい例としては、特許文献1の[0022]には、平均炭素原子数が約8〜30の非硫化のアルキルサリシレートのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−53888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近(2008年)、社団法人自動車技術会により制定された「自動車ディーゼル機関潤滑油(JASO M 355:2008)」では、排出ガス規制に対応するための後処理装置を装着したトラック、バスを対象としたDH−2−08に従う潤滑油は、硫酸灰分量を1.0±0.1%、リン含有量を0.12質量%以下、硫黄含有量を0.5質量%以下、そして塩素含有量を150ppm以下とすることが規定されている。
【0009】
本発明は、上記(JASO M 355:2008)の規定を満足し、かつ特許文献1に記載されている潤滑油組成物に比較して、特に300℃あるいはそれ以上の温度において高い高温清浄性を示し、近年における、そして将来において予測されるエンジン内のさらなる高温化などの苛酷な運転条件に対しても充分対応できる内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、特許文献1に記載の潤滑油組成物で実現した高温での清浄性をさらに高めるために検討を行なった。その結果、特許文献1において金属含有清浄剤の好ましい例として記載されている平均炭素原子数が約8〜30の非硫化のアルキルサリシレートのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩として、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤との混合物であるアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と組合わせてを用いることによって、特に300℃以上の高温での清浄性が向上し、また耐摩耗性も高いレベルを示し、さらに寒冷地での使用に有利な低い低温粘度を示す潤滑油組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
従って、本発明は、硫黄含有量が0.1質量%以下(好ましくは0.03質量%以下)の基油に少なくとも、下記の成分a)乃至d)が溶解もしくは分散されていて、硫酸灰分量が0.1〜1.1質量%の範囲、リン含有量が0.01〜0.12質量%の範囲、硫黄含有量が0.01〜0.5質量%の範囲、そして塩素含有量が150ppm以下にある、
硫黄分が0.005質量%以下(特に0.001質量%以下)の燃料油を用いて運転される内燃機関の潤滑のための潤滑油組成物にある。
a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤が窒素含有量換算値で0.01〜0.3質量%、
b)硫黄含有量が3質量%以下で、全塩基価10〜350mgKOH/gのアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤が、硫酸灰分換算値で0.1〜1質量%、ただし、該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%(好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1.0〜3質量%)存在し、そして該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤との混合物である、
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジヒドロカルビルリン酸亜鉛からなる群より選ばれるリン酸亜鉛摩耗防止剤が、リン含有量換算値で0.01〜0.12質量%、そして
d)酸化防止性のフェノール化合物および酸化防止性のアミン化合物からなる群より選ばれる酸化防止剤が0.01〜5質量%、
ただし、上記の硫酸灰分量、リン含有量、硫黄含有量、そして成分a)乃至d)の質量%は、組成物の全質量に基づく値である。
【0012】
本発明の潤滑油組成物の好ましい態様を以下に記載する。
(1)成分b)のアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の全塩基価が30〜300mgKOH/gの範囲にある。
(2)炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の全塩基価が100〜250mgKOH/gの範囲にある。
(3)炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の全塩基価が280〜350mgKOH/gの範囲にある。
(4)上記アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤が、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤とのカルシウム量比(各清浄剤に含まれていたカルシウムの量比)で2:8〜8:2(特には3:7〜7:3)の混合物である。
(5)上記アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤が、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤との有機酸金属塩量比(各清浄剤に含まれていた有機酸金属塩の量比)で4:6〜8:2(特には5:5〜7:3)の混合物である。
(6)成分a)の無灰性分散剤が、ポリブテンと無水マレイン酸とを原料とし、塩素もしくは塩素含有化合物を接触させることのない熱反応法により得られるポリブテニルこはく酸無水物をポリアミンと反応させて得られるこはく酸イミドあるいはその誘導体である。(7)さらにモリブデン含有化合物を0.01〜5質量%含有する。
(8)全塩基価が1〜17mgKOH/gの範囲(特に、2〜13mgKOH/gの範囲)にある。
(9)潤滑油組成物が、粘度指数向上剤を含有する0W5、0W10、0W15、0W20、0W30、5W20、5W30、10W20、もしくは10W30のマルチグレードエンジン油である。
(10)硫黄分が0.005質量%以下(特に0.001質量%以下)の燃料油を用いて運転される陸上走行用の車両に搭載するディーゼルエンジンの潤滑用である。
【0013】
本発明はまた、上記の本発明の潤滑油組成物を用いて、硫黄分が0.005質量%以下(特に0.001質量%以下)の燃料油を用いて運転される陸上走行用の車両に搭載するディーゼルエンジンを作動させる方法にもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の潤滑油組成物は、特許文献1に記載の潤滑油組成物と同様に、低硫酸灰分含量、低リン含量、かつ低硫黄含量であるにもかかわらず、300℃以上という苛酷な運転条件下でも高い清浄性を示し、また耐摩耗性も高いレベルを示し、さらに寒冷地での使用に有利な低い低温粘度を示す。従って、本発明の潤滑油組成物は、走行用燃料として、硫黄含有量が約0.005質量%以下(特に、約0.001質量%以下)の炭化水素系燃料を用い、排ガス浄化装置(特にパティキュレートフィルタおよび酸化触媒)を備えたディーゼルエンジン搭載車のディーゼルエンジンの潤滑に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の潤滑油組成物における基油としては、通常、100℃における動粘度が2〜50mm2/sの鉱油や合成油が用いられる。この鉱油や合成油の種類、あるいはその他の
性状については特に制限はないが、基油として、硫黄含有量が0.1質量%以下である必要がある。この硫黄含有量は0.03質量%以下であることが望ましく、特に0.005質量%以下であることが望ましい。
【0016】
鉱油系基油は、鉱油系潤滑油留分を溶剤精製あるいは水素化処理などの処理方法を適宜組み合わせて利用して処理したものであることが望ましく、特に高度水素化精製基油(例えば、粘度指数が100〜150、芳香族含有量が5質量%以下、窒素および硫黄の含有量がそれぞれ50ppm以下である基油)が好ましく用いられる。
中でも、スラックワックスやGTLワックスを水素化異性化して得られる高粘度指数基油(例えば、粘度指数140−160)は特に好適に用いられる。
【0017】
合成油(合成潤滑油基油)としては、例えば炭素数3〜12のα−オレフィンの重合体であるポリ−α−オレフィン、ジオクチルセバケートに代表されるセバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸などの二塩基酸と炭素数4〜18のアルコールとのエステルであるジアルキルジエステル、1−トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールと炭素数3〜18の一塩基酸とのエステルであるポリオールエステル、炭素数9〜40のアルキル基を有するアルキルベンゼンなどを挙げることができる。一般に合成油は実質的に硫黄分を含まず、酸化安定性、耐熱性に優れ、一旦燃焼すると残留炭素や煤の生成が少ないので、本発明の潤滑油組成物では好ましく使用できる。
【0018】
鉱油系基油および合成系基油は、それぞれ単独で使用することができるが、所望により、二種以上の鉱油系基油、あるいは二種以上の合成系基油を組合わせて使用することもできる。また、所望により、鉱油系基油と合成系基油とを任意の割合で組合わせて用いることもできる。
【0019】
本発明の潤滑油組成物における成分a)としての無灰性分散剤としては、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体が用いられる。その添加量は、組成物の全質量に基づき、窒素含有量換算値で、0.01〜0.3質量%の範囲である。代表的なこはく酸イミドは、高分子量のアルケニルもしくはアルキル基で置換された、こはく酸無水物と1分子当り平均4〜10個(好ましくは5〜7個)の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。高分子量のアルケニルもしくはアルキル基は、数平均分子量が約900〜3000のポリブテンであることが好ましい。
【0020】
ポリブテンと無水マレイン酸との反応により、ポリブテニルこはく酸無水物を得る工程では、多くの場合、塩素を用いる塩素化法が用いられている。しかし、この方法では、こはく酸イミド最終製品中に多量の塩素(例えば約2000〜3000ppm)が残留する
結果となる。一方、塩素を用いない熱反応法では、最終製品中に残る塩素を極めて低いレベル(例えば0〜30ppm)に抑えることができる。従って、潤滑油組成物中の塩素含有量を0〜30質量ppmの範囲の量に抑えるためには、熱反応法によって得られたポリブテニルこはく酸無水物からのこはく酸イミドを用いることが望ましい。こはく酸イミドは更にホウ酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸等と反応させ、いわゆる変性こはく酸イミドにして用いることができる。特に、ホウ酸あるいはホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)こはく酸イミドは、熱・酸化安定性の面で有利である。
【0021】
本発明の潤滑油組成物は、アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体を必須成分として含有するが、これら以外の無灰性分散剤であるアルケニルベンジルアミン系やアルケニルこはく酸エステル系の無灰性分散剤も適宜組合わせて用いられる。
【0022】
本発明の潤滑油組成物における成分b)であるアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%(好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1.0〜3質量%)存在し、そして該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤との混合物である。なお、本発明において、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤とは、非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩に含まれるアルキル基のうち90モル%以上が、炭素原子数が14〜18のアルキル基である非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤を意味する。同様に、炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤とは、非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩に含まれるアルキル基のうち90モル%以上が、炭素原子数が20〜28のアルキル基である非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤を意味する。
【0023】
非硫化のアルキルサリチル酸カルシウム塩は、所定の炭素原子数のα−オレフィンとフェノールの反応で得られるアルキルフェノールからコルベ・シュミット反応を利用して製造されるアルキルサリチル酸のカルシウム塩であることが好ましい。通常、更に消石灰と炭酸ガスを用いた過塩基化のための炭酸化工程により、全塩基価を高めた過塩基性カルシウムサリシレートがサリチル酸カルシウム塩清浄剤として用いられる。
【0024】
また、アルキルフェノールを直接中和してCa塩にし、炭酸化工程で直接アルキルサリチル酸カルシウム塩を得る方法もある。
【0025】
一方、金属系清浄剤として、炭素−窒素結合を有する有機酸あるいはフェノール誘導体のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩も本発明の潤滑油組成物に少量併用することもできる。なお、一般にアミン化合物を反応させることにより、塩基性の窒素に由来する塩基価が得られ、低灰分でも高い塩基価が得られ有利となる。例えば、アミノカルボン酸の金属塩等のさまざまなものが考えられるが、特に、マンニッヒ塩基構造を有する非硫化のアルキルフェネート(アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩)が有効である。この化合物は、通常、アルキルフェノール、ホルムアルデヒド、アミンあるいはアミン化合物を用い、マンニッヒ反応により合成し、フェノールの環のアミノメチル化により得られる反応物を水酸化カルシウム等の塩基で中和し、金属塩にすることによって得ることができる。
【0026】
これまでに述べた金属系清浄剤の他に、石油スルホン酸あるいはアルキルベンゼンスルホン酸もしくはアルキルトルエンスルホン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属
塩であるスルホネートも少量であれば有効に併用することができる。
【0027】
従来のディーゼルエンジン油に用いられてきた硫化フェネートは、硫化アルキルフェノールのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩であって、通常、カルシウム塩あるいはマグネシウム塩が知られている。硫化フェネートは、耐熱性が良好であるが、硫化反応に起因する硫黄含有量が約3質量%を越えるものが多い。本発明においては、その少量を先に述べたアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と組合わせて用いることができる。
【0028】
本発明の潤滑油組成物に用いられるアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%(好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1.0〜3質量%)存在するように、前述の二種あるいはそれ以上のアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の種類と添加量が選択される。上記のアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、油性媒体中に、有機酸金属塩(一般的に石鹸成分あるいはソープ分と呼ばれている)と、その有機酸金属塩の周囲に凝集している塩基性無機塩微粒子(例、炭酸カルシウム微粒子)を分散状態で含む油性分散物(油性媒体の含有量は、通常約25〜55質量%)である。潤滑油組成物へのアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の添加量を減らしても、その潤滑油組成物中の有機酸金属塩の存在量が一定レベル以上に維持されていれば、その潤滑油組成物の高温清浄性(高温環境下でエンジンの内部を清浄に維持する能力)の低下は大きくはない。
【0029】
本発明の潤滑油組成物における成分c)のリン酸亜鉛摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジヒドロカルビルリン酸亜鉛からなる群より選ばれる。これらのリン酸亜鉛摩耗防止剤の基本的な製造方法と特性については詳しく知られている。このリン酸亜鉛摩耗防止剤が、リン含有量換算値で0.01〜0.12質量%の範囲で用いるが、低リン含量と低硫黄含量の観点からは、0.01〜0.06質量%の範囲の量で用いることが好ましい。
【0030】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、炭素原子数3〜18のアルキル基もしくは炭素原子数3〜18のアルキル基を含むアルキルアリール基を有することが望ましい。特に好ましいのは、摩耗の抑制に特に有効な、炭素原子数3〜18の第二級アルコールから誘導されたアルキル基、あるいは炭素原子数3〜18の第一級アルコールと炭素原子数3〜18の第二級アルコールとの混合物から誘導されたアルキル基を含むジアルキルジチオリン酸亜鉛である。第一級アルコールからのジアルキルジチオリン酸亜鉛は耐熱性に優れる傾向がある。これらのジチオリン酸亜鉛は、単独で用いてもよいが、第二級アルキル基タイプのものおよび/または第一級アルキル基タイプのものを主体とする混合物で用いることが好ましい。
【0031】
本発明の潤滑油組成物は、成分d)として、酸化防止性のフェノール化合物および/または酸化防止性のアミン化合物を0.01〜5質量%(好ましくは0.1〜3質量%)の範囲で含むことを特徴とする。一般に、低灰分、低リンかつ低硫黄の潤滑油組成物は、金属系清浄剤およびジチオリン酸亜鉛の低減を意味し、高温清浄性や酸化安定性あるいは耐摩耗性の低下につながる。これらの性能を維持するために成分d)が必要となる。この成分d)としては、ジアリールアミン系酸化防止剤及び/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤は高温清浄性の向上にも効果的である。特にジアリールアミン系酸化防止剤は、窒素に由来する塩基価を有しているので、この点で有利である。一方、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、NOx酸化劣化の防止に有利であ
る。
【0032】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メ
チレンビス(6−t−ブチル−o−クレゾール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、そして3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシルなどのヒンダードフェノール類を挙げることができる。
【0033】
ジアリールアミン系酸化防止剤の例としては、炭素原子数が4〜9の混合アルキルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、アルキル化−α−ナフチルアミン、そしてアルキル化−フェニル−α−ナフチルアミンなどのジアリールアミン類を挙げることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤とジアリールアミン系酸化防止剤とは、それぞれ単独で使用することができるが、所望により組合せて使用する。また、これら以外の油溶性酸化防止剤を併用してもよい。
【0034】
本発明の潤滑油組成物はさらに、多機能添加剤に属するモリブデン含有化合物および/またはアルカリ金属ホウ酸塩水和物を各々5質量%以下、特に0.01〜5質量%含有することができる。これらの化合物は灰分あるいは硫黄分等を含むものが多いが、本発明の潤滑油組成物全体の性状を考慮しながら、添加量を調整し効果的に使用することができる。
【0035】
上記のモリブデン含有化合物は、潤滑油組成物中で、主として摩擦調整剤、酸化防止剤あるいは摩耗防止剤として機能し、また高温での清浄性の向上に寄与する。モリブデン含有化合物の潤滑油組成物中の含有量は、モリブデン金属含有量換算で10〜2500ppmの範囲にあることが望ましい。モリブデン含有化合物の例としては、こはく酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、アミンモリブデン錯体化合物、オキシモリブデンジエチラートアミド、そしてオキシモリブデンモノグリセリドを挙げることができる。特に、こはく酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体は高温での清浄性向上に効果的である。
【0036】
一方、アルカリ金属ホウ酸塩水和物の添加も、高温清浄性あるいは塩基価の付与の点で効果的である。アルカリ金属ホウ酸塩水和物は、米国特許3929650および4089790に記載されている方法により合成される化合物に代表される化合物を表す。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属中性スルホネートをアルカリ金属水酸化物の存在下で炭酸化して過塩基性スルホネートを得、これにホウ酸を反応させて得られるアルカリ金属ホウ酸塩の微粒子分散体(炭酸化反応の時、こはく酸イミドのような無灰性分散剤を共存させるのが望ましい)を挙げることができる。ここでアルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムなどが望ましい。具体例として、中性カルシウムスルホネートおよびこはく酸イミド系に分散させた組成式:KB35・H2Oで表される粒径約0.3μm以下の
微粒子分散体を挙げることができる。耐水性の点からは、カリウムをナトリウムで置換したものも良好に用いられる。
【0037】
本発明の潤滑油組成物は更に、粘度指数向上剤を20質量%以下(好ましくは1〜20質量%の範囲)の量で含むことが望ましい。粘度指数向上剤の例としては、ポリアルキルメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、そしてポリイソプレンなどの高分子化合物を挙げることができる。あるいは、これらの高分子化合物に分散性能を付与した分散型粘度指数向上剤もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いることができる。これらの粘度指数向上剤は単独で用いることができるが、任意の粘度
指数向上剤を二種以上を組合せて使用しても良い。
【0038】
本発明の潤滑油組成物は更に、各種の補助的な添加剤を含んでいてもよい。そのような補助的な添加剤の例としては、酸化防止剤あるいは摩耗防止剤として、亜鉛ジチオカーバメート、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)、油溶性銅化合物、硫黄系化合物(例、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィド)、リン酸エステル、亜リン酸エステル、有機アミド化合物(例、オレイルアミド)などを挙げることができる。また金属不活性剤として機能するベンゾトリアゾール系化合物やチアジアゾール系化合物などの化合物を添加することもできる。また、防錆剤あるいは抗乳化剤として機能するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体などのポリオキシアルキレン非イオン性の界面活性剤を添加することもできる。また、摩擦調整剤として機能する各種アミン、アミド、アミン塩、およびそれらの誘導体、あるいは多価アルコールの脂肪酸エステル、あるいはそれらの誘導体を添加することもできる。さらにまた、消泡剤や流動点降下剤として機能する各種化合物を添加することもできる。なお、これらの補助的な添加剤は、潤滑油組成物に対して、それぞれ3質量%以下(特に、0.001〜3質量%の範囲)の量にて使用することが望ましい。
【実施例】
【0039】
(1)潤滑油組成物の製造
性能評価に供する潤滑油組成物として、下記の基油と添加剤成分とを用いて、硫酸灰分が1.0質量%、リン含量が0.09質量%、硫黄含量が0.2質量%、塩素含量が5ppm以下の潤滑油組成物を下記処方により製造した。潤滑油組成物は、粘度指数向上剤の添加により、5W30の粘度グレード(SAE粘度グレード)を示すように調整された。
【0040】
(2)基油及び添加剤
1)基油(下記基油Aと基油Bの容量比で35:65の混合物)
基油A:100℃における動粘度が4.0mm2/sで、粘度指数が123、硫黄含有
量が0.001質量%未満の高度水素化精製基油
基油B:100℃における動粘度が6.5mm2/sで、粘度指数が132、硫黄含有
量が0.001質量%未満の高度水素化精製基油
2)添加剤
【0041】
分散剤A:炭酸エチレン反応処理こはく酸イミド系分散剤(窒素含量:0.85質量%、塩素含量:30質量ppm、数平均分子量約2200のポリブテンと無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、これを平均原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビスタイプこはく酸イミドを炭酸エチレンで反応処理したもの;特開平7−150166号公報の実施例17に従って製造したもの):添加量0.0085質量%(窒素含有量換算値)
分散剤B:ホウ素含有こはく酸イミド系分散剤(窒素含量:1.5質量%、ホウ素含量:0.5質量%、塩素含量:5質量ppm未満、数平均分子量が約1300のポリブテンと無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビスタイプこはく酸イミドをホウ酸で反応処理したもの;特開平7−150166号公報の実施例8に従って製造):添加量0.06質量%(窒素含有量換算値)
【0042】
アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤(後記の実施例1と2、そして比較例1に詳しく記載):0.82質量%(硫酸灰分換算値)
【0043】
ZnDTP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.2質量%、Zn:7.85%、S:14.4%、原料として炭素原子数3〜8の第二級アルコールを使用):0.09質量
%(リン含有量換算値)
【0044】
酸化防止剤A:アミン系化合物〔ジアルキルジフェニルアミン(アルキル基:C4とC8の混合)、N:4.6質量%、TBN:180mgKOH/g〕:0.7質量%
酸化防止剤B:フェノール系化合物〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル〕:0.7質量%
【0045】
Mo化合物:硫黄を含有するオキシモリブデン−こはく酸イミド錯体化合物(Mo:5.4質量%、S:3.7質量%、TBN:45mgKOH/g):0.085質量%
【0046】
粘度指数向上剤(非分散型のエチレンプロピレン共重合体、Paratone8057)
【0047】
[実施例1]
アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤として、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤(TBN:220mgKOH/g、約30質量%の石油系媒体を含有、有機酸金属塩含有量:49質量%)と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤(TBN:320mgKOH/g、約35質量%の石油系媒体を含有、有機酸金属塩含有量:32.5質量%)とのカルシウム量比で1:1の混合物を用い、本発明に従う潤滑油組成物(TBN:9.6mgKOH/g、有機酸金属塩含有量:1.1質量%)を調製した。
【0048】
[実施例2]
アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤として、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤(TBN:225mgKOH/g、約30質量%未満の石油系媒体を含有、有機酸金属塩含有量:51質量%)と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤(TBN:320mgKOH/g、約35質量%の石油系媒体を含有、有機酸金属塩含有量:32.5質量%)とのカルシウム量比で1:1の混合物を用い、本発明に従う潤滑油組成物(TBN:9.6mgKOH/g、有機酸金属塩含有量:1.1質量%)を調製した。
【0049】
[比較例1]
アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤として、炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤(TBN:320mgKOH/g、約35質量%の石油系媒体を含有、有機酸金属塩含有量:32.5質量%)のみを用い、比較用の潤滑油組成物(TBN:9.6mgKOH/g、有機酸金属塩含有量:0.7質量%)を調製した。
【0050】
有機酸金属塩(石鹸分)含量、高温清浄性の評価、そして耐摩耗性の評価は下記の方法で行なった。
(1)有機酸金属塩含量(石鹸分)の測定
通常のゴム膜透析法により、金属系清浄剤中の鉱油分および低分子量成分を透析させ、ゴム膜中に残存する清浄剤有効成分である透析残渣(A)を得る。一方、金属系清浄剤中の炭酸塩に由来する二酸化炭素の測定を行い、これと金属分析をもとに、炭酸カルシウムあるいは炭酸マグネシウム等の過塩基性成分(B)を求める。この(A)と(B)の差から有機酸金属塩(石鹸分)を求めた。
【0051】
(2)潤滑油組成物の高温清浄性の評価
下記の方法に従うホットチューブ試験(KES−07−803)により、潤滑油組成物の300℃と305℃での清浄性能を評価した。
内径2mmのガラス管に垂直にヒーターブロックにセットし、試料油を0.31cc/時間、そして空気を10cc/分の割合で、それぞれガラス管の下部より送り込む。この操作を、ヒーター部の温度を所定の温度に保ちながら、16時間続ける。試験終了後のガラス管内部に付着したデポジット(堆積物)を10点満点で評価する(10点がデポジットの堆積が観察されない状態を意味する。)
【0052】
(3)耐摩耗性の評価
油温90℃、負荷40kgf、1800rpmにて、30分間の条件にてシェル四球試験(JPI−5S−32に規定)を行なった。評価結果は、摩耗痕径(単位:mm)で示した。
(4)低温粘度
−35℃にて、MRV粘度計(ASTM D4684に規定)を用いて低温粘度(単位:cP)を測定した。
【0053】
[表1]
[評価試験結果]
────────────────────────────────────
潤滑油 高温清浄性 耐摩耗性(摩耗痕径) 低温粘度
組成物 300℃ 305℃
────────────────────────────────────
実施例1 6.0 5.0 0.610 25200
実施例2 6.0 5.0 − 25100
────────────────────────────────────
比較例1 5.0 3.0 0.610 測定できず
────────────────────────────────────
【0054】
上記の評価試験結果から明らかなように、アルキル基に含まれる炭素原子数が異なる二種類のアルキルサリチル酸カルシウム塩を用いた本発明の潤滑油組成物(実施例1及び2)は、300℃や305℃のような非常に厳しい温度条件においても優れた高温清浄性を示し、耐摩耗性も高い、さらに低温粘度も充分に低い。一方、炭素原子数が大きいアルキル基のアルキルサリチル酸カルシウム塩を一種類のみ用いた潤滑油組成物(比較例1)は、耐摩耗性は高いが、高温清浄性について相対的に劣り、また低温粘度が非常に高くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有量が0.1質量%以下の基油に少なくとも、下記の成分a)乃至d)が溶解もしくは分散されていて、硫酸灰分量が0.1〜1.1質量%の範囲、リン含有量が0.01〜0.12質量%の範囲、硫黄含有量が0.01〜0.5質量%の範囲、そして塩素含有量が150ppm以下にある、硫黄分が0.005質量%以下の燃料油を用いて運転される内燃機関の潤滑のための潤滑油組成物:
a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤が窒素含有量換算値で0.01〜0.3質量%、
b)硫黄含有量が3質量%以下で、全塩基価10〜350mgKOH/gのアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤が、硫酸灰分換算値で0.1〜1質量%、ただし、該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%存在し、そして該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤との混合物である、
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジヒドロカルビルリン酸亜鉛からなる群より選ばれるリン酸亜鉛摩耗防止剤が、リン含有量換算値で0.01〜0.12質量%、そして
d)酸化防止性のフェノール化合物および酸化防止性のアミン化合物からなる群より選ばれる酸化防止剤が0.01〜5質量%、
ただし、上記の硫酸灰分量、リン含有量、硫黄含有量、そして成分a)乃至d)の質量%は、組成物の全質量に基づく値である。
【請求項2】
成分b)のアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の全塩基価が30〜300mgKOH/gの範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の全塩基価が100〜250mgKOH/gの範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の全塩基価が280〜350mgKOH/gの範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
上記アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤が、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤とのカルシウム量比で2:8〜8:2の混合物である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
上記アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤が、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤との有機酸金属塩量比で4:6〜8:2の混合物である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
成分a)の無灰性分散剤が、ポリブテンと無水マレイン酸とを原料とし、塩素もしくは塩素含有化合物を接触させることのない熱反応法により得られるポリブテニルこはく酸無水物をポリアミンと反応させて得られるこはく酸イミドあるいはその誘導体である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
さらにモリブデン含有化合物を0.01〜5質量%含有する請求項1に記載の潤滑油組
成物。
【請求項9】
全塩基価が1〜17mgKOH/gの範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
さらに粘度指数向上剤を含有する0W5、0W10、0W15、0W20、0W30、5W20、5W30、10W20、もしくは10W30のマルチグレードエンジン油である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
陸上走行用の車両に搭載する硫黄分が0.005質量%以下の燃料油を用いて運転されるディーゼルエンジンの潤滑用である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の潤滑油組成物を用いて、硫黄分が0.005質量%以下の燃料油を用いて運転される陸上走行用の車両に搭載するディーゼルエンジンを作動させる方法。

【公開番号】特開2012−57166(P2012−57166A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234225(P2011−234225)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【分割の表示】特願2010−201229(P2010−201229)の分割
【原出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(391050525)シェブロンジャパン株式会社 (26)
【Fターム(参考)】