説明

潤滑油組成物

【課題】銅元素を含む構成部材を含む系内を銅メッキの発生を抑制するとともに、冷却配管を閉塞させることのない冷凍機油を提供することを目的とする。
【解決手段】潤滑油組成物は、銅元素を含有する構成部材を冷媒循環系内に有する冷凍機に適用される。潤滑油組成物は、基油を主とし、潤滑剤が総重量に対して0.1重量%以上4.0重量%以下、若しくはリン含有量として0.1mg/g以上3.5mg/gとなるよう配合され、前記潤滑剤が、少なくともリン酸エステル化合物A及びリン酸エステル化合物Bを含む2種類以上の正リン酸エステル化合物から構成され、リン酸エステル化合物A/リン酸エステル化合物Bの重量比が、1よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、特に、銅元素を含む構成部材を含む系内に適用される潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調装置は、少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器から構成される。空調装置の各構成要素は冷媒配管により閉回路として連結されており、冷媒及び冷凍機油が相溶した混合液が密閉された系内を循環する構造となっている。冷媒配管としては、コスト低減のためキャピラリー銅配管が用いられる。混合液は、気体から2相流、そして液体へと変化しながら系内で循環される。冷凍機油として、潤滑性及び熱・化学安定性を有する冷凍機油組成物が開発されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−126797号公報(請求項1)
【特許文献2】特許第3139517号公報(段落[0004])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷凍機油は、冷媒とともに空調装置の密閉系内で長期間にわたり循環されるため、高い信頼性が要求される。しかしながら、現状の冷凍機油を長期間循環させると、キャピラリー管が閉塞するという問題が生じる。キャピラリー管が詰まると、冷凍機油及び冷媒の流量低下が発生し、不冷及び圧縮系の故障に繋がる恐れがある。また、冷却配管として銅配管が使用される場合、摺動部に銅メッキが発生するという問題が生じる。摺動部に銅メッキが発生するとクリアランスが狭くなり、凝着固着を引き起こし、焼き付けが起こる恐れがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、銅元素を含む構成部材を含む系内を銅メッキの発生を抑制するとともに、冷却配管を閉塞させることのない冷凍機油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来使用されている冷凍機油には、潤滑性を高めるために硫黄系の添加剤が含有されている。本発明者らは、系内に銅元素を含む密閉系の配管を詰まらせる要因は、冷凍機油に含まれる硫黄系の添加剤にあると推定し、硫黄系の添加剤を含まない冷凍機油を開発した。しかしながら、硫黄系の添加剤を除くと、冷凍機油の潤滑性が低下し、摺動部に銅メッキが発生してしまうという別の課題が生じた。
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、銅元素を含有する構成部材を冷媒循環系内に有する冷凍機に適用される、基油を主とする潤滑油組成物であって、潤滑剤が、総重量に対して0.1重量%以上4.0重量%以下、若しくはリン含有量として0.1mg/g以上3.5mg/gとなるよう配合され、前記潤滑剤が、一般式(I)
【化1】

(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に置換基を有する芳香族化合物である)で表される化合物及びその位置異性体が混合されてなり、且つ、分子内に硫黄元素が存在しないリン酸エステル化合物Aと、一般式(II)
【化2】

(式中、R、R、及びRは、それぞれ芳香族化合物である)で表され、さらに位置異性体が混在しない化合物からなり、且つ、分子内に硫黄元素が存在しないリン酸エステル化合物Bと、を含む、少なくとも2種類以上のリン酸エステル化合物から構成され、リン酸エステル化合物A/リン酸エステル化合物Bの重量比が、1よりも大きい潤滑油組成物を提供する。
【0007】
上記発明によれば、硫黄元素を積極的に排除することで、キャピラリー配管の詰まりを防止できる潤滑油組成物となる。硫黄を含まないリン系潤滑剤は、硫黄を含む潤滑剤と比べて潤滑性が低い傾向を示すが、上記発明によれば、少なくともリン酸エステル化合物A及びリン酸エステル化合物Bを含む2種類以上の正リン酸エステル化物を配合することで、所望の潤滑性を得ることができる。これにより、硫黄元素を除いたことによる摩耗量の増加を抑制することが可能となる。また、潤滑性を得ることができるため、銅メッキを発生し難くさせることができる。潤滑剤の配合量は、潤滑油組成物の総重量に対して0.1重量%以上4.0重量%以下とされる。リン系潤滑剤は配合することで、潤滑油組成物の潤滑性を向上させることができる。一方、潤滑剤が多すぎると酸性腐食が生じる恐れがある。例えば、リン系潤滑剤が5重量%以上であると腐食摩耗に繋がる。
上記発明によれば、潤滑剤としてリン酸エステル化合物A及びリン酸エステル化合物Bを配合することで、いずれか一方のみを配合するより潤滑性が向上する。リン酸エステル化合物Aはリン酸エステル化合物Bよりも多く(重量)配合する。それにより、AとBを同量配合したものより潤滑性が向上する。
【0008】
上記発明の一態様において、前記リン酸エステル化合物A/リン酸エステル化合物Bの重量比が、1よりも大きく、且つ、3以下であることが好ましく、1.5以上3以下であることが更に好ましい。
【0009】
上記発明の一態様によれば、リン酸エステル化合物A/リン酸エステル化合物Bの重量比を上記範囲とすることで、良好な潤滑性が得られる。特にリン酸エステル化合物Bの代表的な化合物であるトリフェニルホスフェイトを1重量%以上配合すると海洋汚染物質規制に該当してしまうため、リン酸エステル化合物Bの重量比を大きくした配合は製品化しにくい。
【0010】
上記発明の一態様において、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール系化合物が総重量に対して0.03重量%以上1重量%以下で配合されることが好ましい。
【0011】
上記発明の一態様によれば、ベンゾトリアゾール系化合物を上記範囲内で配合することで、ロータリー圧縮機の摺動部などにおける銅メッキの発生を防止することができる。ベンゾトリアゾール系化合物が多すぎると、ポリオールエステルなどの基油への溶解性が低下し、処方が困難となる。ベンゾトリアゾール系化合物は、1重量%であれば、ポリオールエステル系の基油に完全に溶解する。
【0012】
上記発明の一態様において、酸捕捉剤としてグリシジル系エステル化合物またはグリシジル系エーテル化合物のいずれかが配合されることが好ましい。
【0013】
上記発明の一態様によれば、酸捕捉剤を配合することにより、生成した有機酸を補足できるため、銅メッキの発生を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、潤滑油組成物に少なくともリン酸エステル化合物A及びリン酸エステル化合物Bを含む2種類以上のリン系潤滑剤を配合することで、配管の詰まりを抑制するとともに、銅メッキの発生を防止することができる。それによって、絞り弁の信頼性、及び空調装置の信頼性を高めることができる。また、リン系潤滑剤を用いることで、潤滑油組成物の原価を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各潤滑油組成物を循環させたときの流量と時間との関係を示すグラフである。
【図2】潤滑性評価試験の結果を示すグラフである。
【図3】潤滑性評価試験の結果を示すグラフである。
【図4】潤滑性評価試験の結果を示すグラフである。
【図5】熱化学安定性試験及び潤滑性評価試験の結果を示すグラフである。
【図6】金属不活性化剤の添加量と銅メッキ発生量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る潤滑油組成物の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、基油に、潤滑剤が含まれる構成とされる。
基油としては、鉱物油、アルキルベンゼン、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリビニルエーテル(PVE)、ポリオールエステル系化合物(POE)などが用いられる。ポリオールエステル系化合物は、多価アルコールとC〜C18の直鎖または分岐脂肪酸を原料とする。多価アルコールは、ペンタエリスリトール(PE)、ネオペンチルグリコール(NPG)、及びトリメチロールプロパン(TMP)などとされる。ロータリー圧縮機などに適用される場合、例えば、粘度グレードがVG68のPOEなどを基油とすると良い。
【0018】
潤滑剤は、潤滑油組成物の総重量に対して0.1重量%以上4.0重量%以下、若しくはリン含有量として0.1mg/g以上3.5mg/gとなるよう配合される。潤滑剤は、少なくともリン酸エステル化合物A及びリン酸エステル化合物Bを含む2種類以上の正リン酸エステル化合物から構成される。潤滑剤は、分子内に硫黄(S)元素を含まない。
【0019】
リン酸エステル化合物Aは、一般式(I)で表される化合物及びその位置異性体が混合されてなり、且つ、分子内に硫黄元素が存在しない。
【化3】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に置換基を有する芳香族化合物である。
【0020】
リン酸エステル化合物Aは、例えば、モノ−m又はp−トルイル−ジフェニルホスフェイト、ジ−m又はp−トルイル−モノフェニルホスフェイト、トリ−m又はp−トルイルホスフェイト(トリクレジルホスフェイト(TCP))、モノ−m又はp−トルイル−ジキシレニルホスフェイト、ジ−m又はp−トルイル−モノキシレニルホスフェイト、モノ−m又はp−トルイル−ジキシレニルホスフェイト、ジ−m又はp−トルイル−モノキシレニルホスフェイト、トリス(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)−ホスフェイト、ビス−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)−モノ−フェニルホスフェイト、モノ−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)−ジフェニルホスフェイトなどから選択され得る。
【0021】
リン酸エステル化合物Bは、一般式(II)で表され、さらに位置異性体が混在しない化合物からなり、且つ、分子内に硫黄元素が存在しない。
【化4】

式中、R、R、及びRは、それぞれ芳香族化合物である。
【0022】
リン酸エステル化合物Bは、例えば、トリフェニルホスフェイト(TPP))、トリキシレニルホスフェイト、モノフェニル−ジキシレニルホスフェイト、ジフェニル−モノキシレニルホスフェイトなどから選択され得る。
【0023】
リン酸エステル化合物A及びリン酸エステル化合物Bは、リン酸エステル化合物Aがリン酸エステル化合物Bよりも多く(重量比)なるよう配合される。リン酸エステル化合物A/リン酸エステル化合物B(重量比)は、1よりも大きく3以下とすると良い。
【0024】
潤滑油組成物は、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール系化合物またはその誘導体あるいはそれらの混合物が配合されると良い。ベンゾトリアゾール系化合物またはその誘導体としては、1H−ベンゾトリアゾール、4−メチルベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N−エチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジメチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジエチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジプロピルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジブチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジヘキシルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジオクチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジメチル−4−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジメチル−5−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジエチル−4−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジエチル−5−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジプロピル−4−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジプロピル−5−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジブチル−4−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジブチル−5−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジヘキシル−4−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジヘキシル−5−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジオレイル−4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジオレイル−5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジステアリル−4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、N,N−ジステアリル−5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミンなどを用いることができる。
【0025】
ベンゾトリアゾール系化合物は、潤滑油組成物の総重量に対して0.03重量%以上1重量%以下、好ましくは0.05重量%以上1重量%以下で配合すると良い。ベンゾトリアゾール系化合物量が多くなると、基油への溶解度が低下し、処方が困難となる。例えば、ベンゾトリアゾールは、1重量%であればPOEに完全溶解するが、3重量%では加熱撹拌時に溶解しその後や静置すると析出してくる。また、5重量%では、加熱撹拌しても完全に溶解しなくなる。
【0026】
潤滑油組成物は、エポキシ系酸捕捉剤としてグリシジル系エステル化合物またはグリシジル系エーテル化合物のいずれかが配合されると良い。エポキシ系酸捕捉剤としては、ブチルグリシジルエーテル、酪酸グリシジルエステル、ヘキシルグリシジルエーテル、ヘキサン酸グリシジルエステル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキサン酸グリシジルエステル、ネオペンチルグリシジルエーテル、ピバル酸グリシジルエステル、デシルグリシジルエーテル、デカン酸グリシジルエステル、ステアリルグリシジルエーテル、ステアリン酸グリシジルエステル、オレイルグリシジルエーテル、オレイン酸グリシジルエステル、フェニルグリシジルエーテル、安息香酸グリシジルエステル、トルイルグリシジルエーテル、キシレニルグリシジルエーテル、ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル、フタル酸グリシジルエステル、オキサシクロヘキシルメチルオキサシクロヘキシルカルボン酸エステルなどを用いることができる。
【0027】
潤滑油組成物は、フェノール系酸化防止剤が配合されると良い。フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン、4,4´−メチレンビス(2,6−ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸−2−エチルヘキシルエステル、3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオン酸−2−エチルヘキシルエステル、3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸トリデシルエステル、3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオン酸トリデシルエステル、3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸ステアリルエステル、3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオン酸ステアリルエステル、ビス(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸)―トリグリコールエステル、ビス(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオン酸)―トリグリコールエステル、2,5−ターシャリーアミルヒドロキノンなどを用いることができる。
【0028】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、銅元素を含有する構成部材が備えられた冷媒循環系を有する冷凍機に適用され得る。銅メッキを引き起こす主要因は冷媒に含まれる塩素である。現状のカーエアコンは、銅配管がほとんど使用されていない上、冷媒としても塩素系のものから非塩素系のものへと移行する傾向にある。一方、ルームエアコンでは、コストを抑えるために銅配管が使用されることが多く、冷媒に塩素系が含まれたものも使用されている。また、配管の詰まりは冷媒循環系内の水分が除去できていない状態で起こりやすいが、カーエアコンにはドライヤー機能が備わっていることが多く、ルームエアコンの方がより水分を除去し難い構成といえる。よって、本実施形態に係る潤滑油組成物は、銅配管を備えるルームエアコンの冷媒循環系に適用されることが好ましい。また、圧力環境が厳しい(圧力が高い)と、銅メッキが発生しやすい。よって、本実施形態に係る潤滑油組成物は、圧力環境がより厳しいとされるロータリー系の圧縮機を備えたルームエアコンの冷媒循環系に適用されることがより好ましい。
【0029】
なお、基油の特性を変化させないよう、添加剤(潤滑剤、金属不活性剤、酸捕捉剤、及び酸化防止剤)の総配合量は、潤滑油組成物の総重量に対して3重量%程度に留めると良い。
【実施例】
【0030】
以下で示す潤滑油組成物をそれぞれ調製し、実施例1、参考例1及び比較例1とした。基油は、POE VG68を用いた。
【表1】

*TATP:トリアリールチオホスフェイト
*TPP:トリフェニルホスフェイト
*TCP:トリ−m−トルイルホスフェイト及びトリ−p−トルイルホスフェイトの混合物
*BHT:2,6−ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン
*BTA:N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン及びN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミンの混合物
*酸捕捉剤B:デシルグリシジンエステル
*酸捕捉剤A:オクチルグリシジルエーテル
*酸捕捉剤C:N,N’−ビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド
【0031】
実施例1、参考例1及び比較例1の潤滑油組成物を、ルームエアコン用ロータリー圧縮機の密閉系内で長時間循環させ、経時的な流量プロファイルを測定した。ロータリー圧縮機の上部軸受、ロータ、及び下部軸受は、鉄(SCM)製とした。詳細な条件は以下に示す。
冷媒:R410A
キャピラリーチューブ:銅製、φ1.1×500mm、3本
運転時間:1000時間
吐出圧力(飽和温度):3.25MPa(54.4℃)
吸入圧力(飽和温度):0.89MPa(7.2℃)
吐出ガス温度:120℃
膨張弁前温度:46.1℃
【0032】
図1に、各潤滑油組成物を循環させたときの流量及び時間の関係を示す。同図において、横軸が時間、縦軸が流量である。比較例1の潤滑油組成物を循環させた場合、流量は一旦2.0kg/minから2.2kg/minまで上昇したが、150時間を過ぎたあたりから徐々に低下し、500時間が経過した時点で1.9kg/min以下となった。一方、実施例1及び参考例1の潤滑油組成物をそれぞれ循環させた場合、流量は2.5kg/minから徐々に低下したが、1000時間が経過した時点でも2.3kg/minを維持していた。なお、図1において実施例1及び参考例1のプロファイルの前半で流量が1.8kg/minまで下がっている部分は、電源をON/OFFしたときの推移であり、本検討の結果に影響するものではない。
【0033】
各潤滑油組成物を上記条件で循環させた後、キャピラリーチューブを長手方向に沿って切断し、断面を光学顕微鏡で観察した。比較例1では、キャピラリーチューブ内壁が茶褐色に変化し、析出物(酸化銅)が観察された。一方、実施例1及び参考例1では、キャピラリーチューブ内壁は金属光沢を残しており、析出物は認められなかった。
【0034】
各潤滑油組成物を上記条件で循環させた後、圧縮機の摺動部材(上部軸受/ロータ/下部軸受)を分解し、摺動部での銅メッキの発生の有無を目視で確認した。その結果、参考例1では銅メッキが発生したが、実施例1及び比較例1では銅メッキの発生は認められなかった。
【0035】
上記結果から、参考例1は、キャピラリーチューブの詰まりを抑制できるが、摺動部などにおいて銅メッキを発生させることが確認された。これは、参考例1の潤滑剤がSを含有していないことにより潤滑性が低下したことに起因すると考えられる。一方、実施例1は、キャピラリーチューブの詰まりを抑制するとともに、摺動部などにおける銅メッキの発生も抑制できた。
【0036】
次に、表2、表3、及び表4に示すように、種類の異なる潤滑剤を独立して含む潤滑油組成物1〜14、潤滑油組成物15〜23、潤滑油組成物24〜27、及び実施例1をそれぞれ調製し、潤滑性評価試験を実施した。潤滑剤以外の添加物及び基油は、実施例1と同様の組成とした。
【0037】
【表2】

*TPP:トリフェニルホスフェイト
*TCP:トリ−m−トルイルホスフェイト及びトリ−p−トルイルホスフェイトの混合物
*TATP:トリフェニルチオホスフェイト、モノ−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)−ジフェニルチオホスフェイト、ジ−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)−モノフェニルチオホスフェイト、及びトリ−(m又はp−ターシャリーブチルフェニル)チオホスフェイトの混合物
*TOP:トリオクチルホスファイト
*TOlP:トリオレイルホスフェイト
*DOlPi:ジオレイルハイドロジェンホスファイト
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
潤滑性評価試験は、Falex潤滑試験機を用い、以下の条件で実施した。なお、本試験では、バブリング開始直後に加熱を開始した。
吹き込み:R410A 10L/hr
回転数:290rpm(滑り速度 0.1m/s)
開始温度:60℃
荷重:250lbs(T)
時間:20分
バブリング時間:20分
電流:60mA
【0041】
図2に、表2の潤滑油組成物を用いた潤滑性評価試験の結果を示す。同図において、縦軸が摩耗量である。
図2によれば、硫黄−リン系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物9の摩耗量が3.60mg、正リン酸系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物10〜13の摩耗量が4.50mg〜5.30mg、亜リン酸系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物14の摩耗量が0.10mgとなった。これにより、潤滑油組成物全量に対して同じ含有率であれば、硫黄元素を含む方が潤滑性の高い潤滑油組成物となることが確認された。また、亜リン酸エステルを含む潤滑油組成物の潤滑性も高かった。亜リン酸エステルは正リン酸エステルより活性が極めて高いため、金属と反応して摩耗を抑制する被膜を造る効果が高くなったものと考えられる。しかしながら、硫黄元素や亜リン酸エステルを含む潤滑油組成物は、配管の詰まりを発生させる恐れがある。
【0042】
図2によれば、潤滑油組成物1及び潤滑油組成物3の摩耗量は3.50mgであった。これにより、TCPまたはTPPの含有率を2倍にすることで、硫黄を含まない潤滑剤を用いた潤滑油組成物あっても、硫黄−リン系の潤滑剤を用いた潤滑油組成物9と同等の潤滑性を示すことが確認された。また、潤滑油組成物1、潤滑油組成物5、及び潤滑油組成物7を比較すると、潤滑剤の含有率を4重量%まで高くすることで、摩耗量は2.0mg以下となった。一方、2種類の正リン酸系の潤滑剤が混在する潤滑油組成物2、潤滑油組成物4、潤滑油組成物6、及び潤滑油組成物8の摩耗量は、それぞれ1.95mg、1.95mg、0.90mg、及び1.90mgとなった。これにより、潤滑油組成物全量に対して同じ含有率であれば、2種類の正リン酸系の潤滑剤を含有させた方が、より潤滑性の高い潤滑油組成物となることが確認された。
【0043】
図3に、表3の潤滑油組成物を用いた潤滑性評価試験の結果を示す。同図において、縦軸が摩耗量である。潤滑油組成物15、及び潤滑油組成物16の摩耗量は3〜3.5mgであった。潤滑剤を2種類混合した潤滑油組成物6、潤滑油組成物17〜23及び実施例1は摩耗量が3よりも低くなった。また、図3によれば潤滑材の含有率は高いほど、摩耗量は低下した。潤滑油組成物22では、摩耗量が1.5mg以下となったが、この潤滑油組成物はTPPの含有率が2.0重量%も配合されているため、海洋汚染防止法の規制により実機で使用することはできない。一方、潤滑油組成物6では、TPPの含有率が1.0重量%であったが、TCPを2.0重量%配合することにより、摩耗量を1.5mg以下とすることができた。
【0044】
図4に、表4の潤滑油組成物を用いた潤滑性評価試験の結果を示す。同図において、横軸がリン含有量、縦軸が摩耗量である。図4によれば、摩耗量は、潤滑油組成物中のリン含有量が増えるに従い低下した。一方、リン含有量が2.7mg/gを超えると摩耗量は上昇に転じた。リン含有量が3.5mg/gでは、摩耗量が1.5mgであった。これにより、潤滑剤を添加することで、摩耗量を低下させる効果が得られ、潤滑油組成物中のリン含有量は、3.5mg/g以下が好ましいことが確認された。
【0045】
次に、表5に示す潤滑油組成物をそれぞれ調製し、実施例2〜実施例5、参考例2及び比較例2とした。基油は、POE VG68を用いた。
【表5】

【0046】
実施例2〜5、参考例2及び比較例2について、熱化学安定性試験及び潤滑性評価試験を実施した。
熱化学安定性試験は、シールドグラスチューブ(SGT)を用い、JIS K 2211に準じて実施した。詳細な実験条件を以下に示す。
冷媒:R410A
封入量:1g/5g(油面5mm)
温度:200℃
期間:3日間
水分:50ppm以下
触媒(Fe、Cu、及びAl):各80mm
酸化銅(CuO):60mm×2(触媒同様磨いた銅を800℃×10分加熱)
2−エチルヘキサン酸:4000ppm(外割 0.4質量%)
【0047】
潤滑性評価試験は、Falex潤滑試験機を用い、以下の条件で実施した。なお、本試験では、バブリング開始直後に加熱を開始した。
吹き込み:R410A 10L/hr
回転数:290rpm(滑り速度 0.1m/s)
開始温度:60℃
荷重:250lbs(T)
時間:20分
バブリング時間:20分
電流:60mA
【0048】
図5に、熱化学安定性試験及び潤滑性評価試験の結果を示す。なお、詳細な数値は、表5に記載した。同図において、横軸が評価した潤滑油組成物、縦軸(左)がCu析出量、縦軸(右)が摩耗量、棒がCu析出量、■プロットが摩耗量である。
【0049】
図5によれば、Cu析出量は、参考例2で最も多かった。また、実施例2〜実施例5のCu析出量は比較例2よりも少なかった。なかでも実施例2及び実施例5は、特にCu析出量が少なかった。摩耗量は、比較例2及び参考例2がそれぞれ2.6mg及び2.7mgであり、実施例2〜実施例5はいずれも比較例2と同等またはそれ以下となった。上記結果によれば、実施例2〜実施例5は、硫黄−リン系の潤滑剤を含む潤滑油組成物と同等以上の潤滑性を示すとともに、Cuの析出も低減できる。
【0050】
次に、潤滑油組成物中における金属不活性剤の含有量を変化させ、SGT試験により銅メッキ発生量を測定した。詳細な試験条件を以下に示す。
SGT:大
試験油:実施例2の潤滑油組成物(ただし、金属不活性剤の含有量は0ppm〜700ppm)
冷媒:R410A
封入量:1g/5g(油面5mm)
温度:200℃
期間:3日間
水分:50ppm以下
触媒(Fe、Cu、及びAl):各80mm
酸化銅(CuO):60mm×2(触媒同様磨いた銅を800℃×10分加熱)
2−エチルヘキサン酸:4000ppm(外割 0.4質量%)
【0051】
表6に、上記結果を示す。
【表6】

*BTA:N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−4−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミン及びN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−5−メチルベンゾトリアゾール−1−メチルアミンの混合物(金属不活性化剤)
【0052】
図6に、金属不活性化剤の添加量と銅メッキ発生量との関係を示す。同図において、横軸がBTAの添加量、縦軸が銅メッキ発生量である。図6によれば、金属不活性化剤の添加量が多くなるにつれて、銅メッキ発生量は低下した。上記結果によれば、金属不活性化剤の添加量は、100ppm以上、好ましくは300ppm以上、更に好ましくは500ppm以上とすることで、銅メッキの発生量を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅元素を含有する構成部材を冷媒循環系内に有する冷凍機に適用される、基油を主とする潤滑油組成物であって、
潤滑剤が、総重量に対して0.1重量%以上4.0重量%以下、若しくはリン含有量として0.1mg/g以上3.5mg/gとなるよう配合され、
前記潤滑剤が、
一般式(I)
【化1】

(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に置換基を有する芳香族化合物である)で表される化合物及びその位置異性体が混合されてなり、且つ、分子内に硫黄元素が存在しないリン酸エステル化合物Aと、
一般式(II)
【化2】

(式中、R、R、及びRは、それぞれ芳香族化合物である)で表され、さらに位置異性体が混在しない化合物からなり、且つ、分子内に硫黄元素が存在しないリン酸エステル化合物Bと、
を含む、少なくとも2種類以上のリン酸エステル化合物から構成され、
リン酸エステル化合物A/リン酸エステル化合物Bの重量比が、1よりも大きい潤滑油組成物。
【請求項2】
前記リン酸エステル化合物A/リン酸エステル化合物Bの重量比が、1よりも大きく、且つ、3以下である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
金属不活性剤としてベンゾトリアゾール系化合物が、総重量に対して0.03重量%以上1重量%以下で配合される請求項1または請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
酸捕捉剤としてグリシジル系エステル化合物またはグリシジル系エーテル化合物のいずれかが配合される請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−108033(P2013−108033A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256497(P2011−256497)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(591084816)日本サン石油株式会社 (7)
【Fターム(参考)】