説明

潤滑油組成物

【課題】内燃機関、自動変速機などの潤滑油、特に内燃機関用潤滑油として好適な、優れた酸化安定性を有する潤滑油を提供する。
【解決手段】潤滑油基油に、(A)成分として一般式(1)で示されるリン化合物を、一種以上を含有し、油中のリンと一般式(1)の化合物に基づく硫黄の元素(モル)比率が0.05〜0.8であり、かつ(A)成分に基づく油中リン量が0.01〜0.5質量%であることを特徴する潤滑油組成物。


(式(1)中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基を持つアルキルチオエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。X〜Xはそれぞれ個別に硫黄または酸素を示し、Yは金属元素を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な潤滑油組成物に関し、詳しくは特定構造のチオリン酸エステルの金属塩を基油に配合することにより製造される、優れた酸化安定性を有する潤滑油組成物に関する。特に内燃機関用潤滑油として好適に用いられる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や自動変速機などには、その作用を円滑にするために潤滑油やグリースが用いられる。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)はエンジンの高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化などに伴い、高度な性能が要求される。こうした要求性能を満たすため、従来のエンジン油には摩耗防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている(例えば、特許文献1〜3を参照。)。特にエンジン油はピストン-シリンダ域で常に酸化劣化の活性種である過酸化物と接触するため、優れた耐酸化性が求められる。そのため、エンジン油には過酸化物分解剤として機能するジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)が使用されてきた。また、他の過酸化物分解剤としてモリブデン系化合物の使用も知られている。またZDTPは優れた摩耗防止剤であり、モリブデン化合物は摩擦を低減する優れた摩擦調整剤としても知られており、多くのエンジン油で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−279287号公報
【特許文献2】特開2002−129182号公報
【特許文献3】特開平08−302378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したようにZDTPは酸化防止剤あるいは摩耗防止剤として作用するが、これが分解した後はむしろ潤滑油の塩基価を低下させ、またデポジットの原因となる。このため長寿命を求められる潤滑油において、ZDTPはきわめて扱いの難しい添加剤である。
このためアルキル基の異なる様々なZDTPが製造され、またこれを添加した潤滑油組成は、金属系清浄剤や他の酸化防止剤との組合せに様々な工夫がなされているが、いまだ解決には至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題について鋭意研究した結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、潤滑油基油に(A)成分として一般式(1)で示されるリン化合物を1種以上含有し、油中のリンと一般式(1)の化合物に基づく硫黄の元素比率(S/Pモル比)が0.05〜0.8であり、かつ(A)成分に基づく油中リン量が0.01〜0.5質量%であることを特徴する潤滑油組成物である。
【化1】

(式(1)中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基を持つアルキルチオエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。X〜Xはそれぞれ個別に硫黄または酸素を示し、Yは金属元素を示す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来のジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)を配合した潤滑油では不可能であった優れた酸化安定性が得られる内燃機関、自動変速機などの潤滑油、特に内燃機関用潤滑油として好適に用いられる潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について説明する。
【0008】
本発明の潤滑油組成物において用いられる潤滑油基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)としては、鉱油系基油および/または合成油系基油が挙げられる。
【0009】
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などが挙げられる。
【0010】
鉱油系基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(7)及び/又はこの基油(1)〜(7)から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
【0011】
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(2)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(3)基油(1)〜(2)から選ばれる1種又は2種以上の混合油及び/又は当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる2種以上の混合油
(5)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸残渣油の脱れき油(DAO)
(6)基油(5)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(7)基油(1)〜(6)から選ばれる2種以上の混合油。
【0012】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸又はアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0013】
鉱油系基油としては、下記で示される基油(8)が特に好ましい。
(8)上記基油(1)〜(7)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、又は当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油。
なお、上記(8)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0014】
また、鉱油系基油における硫黄分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0015】
また、鉱油系基油の%Cは2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下であり、最も好ましくは0である。%Cが2を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0016】
本発明に係る潤滑油基油として合成系基油を用いても良い。合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0017】
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は、110以上であることが好ましい。より好ましくは120以上、さらに好ましくは125以上である。また160以下であることが好ましい。粘度指数が110未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が160を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0018】
本発明に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は20mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは10mm/s以下、さらに好ましくは6mm/s以下、特に好ましくは5mm/s以下である。一方、当該100℃動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、1.5mm/s以上であることがより好ましく、さらに好ましくは2mm/s以上、特に好ましくは2.5mm/s以上、最も好ましくは3mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の100℃動粘度が20mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがあるため好ましくない。
【0019】
本発明の潤滑油組成物においては、上記本発明に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明に係る潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明に係る潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0020】
本発明に係る潤滑油基油と併用される他の基油については特に制限されるものではないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が20mm/sを超え200mm/s以下の、溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう鉱油などが挙げられる。また、合成系基油としては、100℃における動粘度が1〜20mm/sの範囲外となる合成系基油が挙げられる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物における(A)成分は、一般式(1)で表されるリン酸エステルの金属塩である。
【0022】
【化2】

【0023】
ここで、一般式(1)中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基を持つアルキルチオエチル基であり、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、X〜Xは硫黄または酸素を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Yは金属元素を示す。
【0024】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0025】
上記アルキル基(炭素数1〜30のアルキル基またはアルケニル基を持つアルキルチオエチル基のアルキル基を含む)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0026】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。
また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0027】
上記アルケニル基(炭素数1〜30のアルキル基またはアルケニル基を持つアルキルチオエチル基のアルケニル基を含む)としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0028】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。
上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0029】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜18のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数が4〜8の直鎖型のアルキル基である。
【0030】
上記Yで示される金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属が挙げられる。これらの中では亜鉛、モリブデン、カルシウム等のアルカリ土類金属が好ましい。特に亜鉛若しくはモリブデンまたは亜鉛とモリブデンの組み合わせが好ましい。
なお、上記リン化合物の金属塩としては、金属の価数に応じリン化合物の配位数が異なり、例えば、2価の亜鉛、カルシウムでは、1つの金属原子に対しリン化合物が2つ配位する錯体を形成すると考えられる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物においては、油中のリンと一般式(1)の化合物に基づく硫黄の元素の比率(S/Pモル比)が0.05以上であることが必要である。好ましくは0.07以上であり、さらに好ましくは0.1以上である。一方、0.8以下であり、好ましくは0.7以下であり、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.3以下である。
S/Pモル比が0.05未満の場合硫黄分が不足するため、十分な酸化防止効果が得られず、0.8を超える場合は、硫黄量が多すぎ、逆に酸化安定性が悪化するため好ましくない。
なお上記(A)成分のうち、硫黄を含有する化合物を使用する場合、一般式(1)においてXからXがすべて酸素である化合物または(A)成分以外の硫黄を含まないリン化合物を併せて使用する必要がある。
【0032】
本発明における(A)成分以外の硫黄を含まないリン化合物としては、一般式(2)で表されるリン化合物、一般式(3)で表されるリン化合物、それらのアミン塩、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0033】
【化3】

【0034】
一般式(2)において、R、R及びRは、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
【0035】
【化4】

【0036】
一般式(3)において、R、R及びRは、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
【0037】
上記式(2)および(3)におけるR〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
かかる炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜18、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0038】
一般式(2)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル;及びこれらの混合物を挙げることができる。
なお亜リン酸物エステルならびに亜リン酸時エステルの互変異性体であるホスホン酸エステルもこの化合物に含まれる。
【0039】
一般式(3)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル;及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0040】
本発明の潤滑油組成物において(A)成分の含有量は、組成物全量基準でリン元素換算量として0.005質量%以上であり、好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。一方、その含有量は、0.5質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。(A)成分の含有量が、リン元素として0.005質量%未満の場合は、耐摩耗性に対して効果がなく、0.5質量%を超える場合は、リンによる排ガス後処理装置への悪影響が懸念されるため、それぞれ好ましくない。
【0041】
なお(A)成分以外の硫黄を含まないリン化合物を併用する場合、リンの含有量は、組成物全量基準でリン元素換算量として0.005質量%以上であり、好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。一方、その含有量は、0.5質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。リン元素として0.005質量%未満の場合は、耐摩耗性に対して効果がなく、0.5質量%を超える場合は、リンによる排ガス後処理装置への悪影響が懸念されるため、それぞれ好ましくない。
【0042】
本発明で用いる(A)成分の1種の金属がモリブデンである場合、その配合量はMo量で0.03質量%以下である。好ましくは0.02質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下である。0.03質量%を超えると酸化防止効果がむしろ低下するため好ましくない。
【0043】
(A)成分の金属がモリブデンである場合、例えば、次の一般式(4)で表されるモリブデンジチオホスフェートを用いることができる。
【化5】

【0044】
上記(4)式中、R、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基(アルキルアリール基を含む)等の炭化水素基を示す。また、Y、Y、Y及びYは同一でも異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0045】
アルキル基の好ましい例としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。(アルキル)アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、そのアルキル基は1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でも良く、また直鎖状でも分枝状でもよい。さらにこれら(アルキル)アリール基には、アリール基へのアルキル基の置換位置が異なる全ての置換異性体が含まれる。
【0046】
モリブデンジチオホスフェートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオホスフェートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0047】
本発明の潤滑油組成物では、(B)成分として無灰系酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。無灰系酸化防止剤の添加により、本発明による潤滑油組成物の酸化防止性をより高められ、本発明の潤滑油組成物の、デポジットの生成の抑制性、鉛含有金属の腐食又は腐食摩耗防止性能や、塩基価維持性等をより高めることができる。
【0048】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
【0049】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、芳香族系アミン系酸化防止剤であるフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
【0050】
上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合わせて配合してもよいが、特に芳香族系アミン系酸化防止剤を単独で用いることが好ましい。
【0051】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、粘度指数向上剤や金属系清浄剤、無灰分散剤、摩耗防止剤(又は極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0052】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート等の正塩又は塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられるが、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、特にカルシウムがより好ましい。
なかでも金属サリシレート系清浄剤が酸化防止性、摩擦低減の面から好ましい。
【0053】
金属サリシレート系清浄剤は、炭素数8〜30の炭化水素基を1つ有するサリチル酸に、当量の金属塩や金属塩基等を作用させて得られる中性サリチル酸金属塩、さらには当該中性サリチル酸金属塩に過剰の金属塩又は金属塩基(金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩、前記中性のサリチル酸金属塩の存在下において炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩と金属の水酸化物等の塩基とを反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)などが挙げられる。
【0054】
前記サリシレートの金属塩又は金属塩基における金属(すなわち金属サリシレート系清浄剤に含まれる金属)としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、アルカリ土類金属であることが好ましく、特にカルシウムであることが望ましい。
【0055】
本発明においては、金属サリシレート系清浄剤として、炭素数8〜19の炭化水素基(例えば炭素数8〜19のアルキル基)を有するサリチル酸金属塩(以下、場合により「サリチル酸金属塩C−a」ともいう)又は炭素数20〜30の炭化水素基(例えば炭素数20〜30のアルキル基)を有するサリチル酸金属塩(以下、場合により「サリチル酸金属塩C−b」ともいう)の一方を単独で、又は双方を組み合わせて使用することができる。摩擦低減の観点からはサリチル酸金属塩C−bが好ましい。一方、貯蔵安定性、低温流動性を相乗的に改善できる観点から、サリチル酸金属塩C−aとサリチル酸金属塩C−bとを併用することももちろん可能である。
【0056】
金属サリシレート系清浄剤の塩基価は、下限値として、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは100mgKOH/g以上、さらに好ましくは150mgKOH/g以上、特に好ましくは200mgKOH/g以上に調整されてなる過塩基性サリシレート系清浄剤を主成分として用いることが望ましい。また、上限値は、好ましくは400mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、さらに好ましくは250mgKOH/g以下に調整されてなる過塩基性サリシレート系清浄剤を主成分として用いることがより好ましい。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0057】
また、金属サリシレート系清浄剤の金属比は特に制限されず、通常20以下のものを1種又は2種以上混合して使用できる。当該金属比は、好ましくは金属比が4.5未満、より好ましくは3以下である。なお、ここでいう金属比とは、(サリシレート系清浄剤における金属元素の価数)×(金属元素含有量(モル%))/(せっけん基含有量(モル%))で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはサリチル酸基を意味する。
【0058】
本発明の潤滑油組成物においてサリシレート系清浄剤を含有する場合の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、下限値として、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。また、上限値として、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下、特に好ましくは4質量%以下である。含有量が0.1質量%に満たない場合には、摩擦低減効果が短期間しか持続しないおそれがあり、また15質量%を超える場合には、含有量に見合った効果が得られないおそれがある。
【0059】
また、金属量の下限値として、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上である。また、上限値として、好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。金属量が0.01質量%に満たない場合には、摩擦低減効果が短期間しか持続しないおそれがあり、また1.5質量%を超える場合には、含有量に見合った効果が得られないおそれがある。
【0060】
本発明の潤滑油組成物は、無灰分散剤を含有することが好ましい。
無灰分散剤としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0061】
無灰分散剤が有するアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にあり、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0062】
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれる。
本発明の潤滑油組成物は、モノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミドのいずれか一方を含有してもよく、あるいは双方を含有してもよい。
【0063】
また、無灰分散剤として、ベンジルアミンを用いることもできる。好ましいベンジルアミンとしては、具体的には、下記の一般式(5)で表される化合物等が例示できる。
【化6】

【0064】
一般式(5)において、R12は、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、rは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0065】
無灰分散剤としてのポリアミンとしては、具体的には、下記の一般式(6)で表される化合物等が例示できる。
13‐NH−(CH2CH2NH)−H (6)
一般式(6)において、R13は、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、sは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0066】
また、その他の誘導体としては、具体的には、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンカーボネート等の含酸素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した有機酸等による変性化合物、前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた、硫黄変性化合物等が挙げられる。またホウ素化合物で変性したものも挙げられる。
【0067】
ホウ素化無灰分散剤とは、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤をホウ素化したものである。
ホウ素化は、一般に、前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
【0068】
例えば、ホウ酸変性コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42-8013号公報及び同42-8014号公報、特開昭51-52381号公報、及び特開昭51-130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。なお、この様にして得られるホウ酸性コハク酸イミドのホウ酸含有量は通常0.1〜4.0質量%とすることができる。
アルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物(ホウ素含有コハク酸イミド)は耐熱性、酸化防止性及び摩耗防止性に優れる。
【0069】
本発明の潤滑油組成物が無灰分散剤を含有する場合、無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が0.01質量%未満の場合は、摩擦低減性向上効果が不十分となるおそれがあり、一方、20質量%を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化するおそれがある。
【0070】
また、上記ホウ素含有コハク酸イミド等のホウ素含有無灰分散剤を用いる場合、そのホウ素含有量は特に制限はなく、通常0.1〜3質量%であるが、本発明の1つの態様としては、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、また、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下のホウ素含有量のホウ素含有無灰分散剤、好ましくはホウ素含有コハク酸イミド、特に、ホウ素含有ビスコハク酸イミドを使用することが望ましい。上記のようなホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、そのホウ素含有量は、組成物全量基準で、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上であり、また、0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。
【0071】
また、上記ホウ素含有コハク酸イミド等のホウ素含有無灰分散剤を用いる場合、そのホウ素/窒素質量比(B/N比)は特に制限はなく、通常0.05〜5であるが、本発明の1つの態様としては、B/N比が好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、また好ましくは1以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下のホウ素含有無灰分散剤、好ましくはホウ素含有コハク酸イミド、特に、ホウ素含有ビスコハク酸イミドを使用することが望ましい。上記のようなホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、そのホウ素含有量は、組成物全量基準で、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上であり、また、0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。
【0072】
また、ホウ素含有コハク酸イミド等のホウ素含有無灰分散剤のホウ素/窒素質量比(B/N比)に関し、もう1つの態様としては、B/N比が0.1以上、好ましくは0.2以上、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.4以下のホウ素含有無灰分散剤、好ましくはホウ素含有コハク酸イミド、特にホウ素含有ビスコハク酸イミドを使用することが望ましい。
【0073】
なお、B/N比が1を超える場合、安定性に懸念があるだけでなく、組成物中のホウ素量が多くなりすぎ、硫酸灰分の増加とともに、排ガス後処理装置への影響が懸念されるため好ましくない。また、B/N比が0.1未満の場合、摩擦低減性能向上効果が小さく、別のホウ素化合物を併用することが望ましい。
【0074】
粘度指数向上剤は、具体的には非分散型又は分散型エステル基含有粘度指数向上剤であり、例として非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、非分散型又は分散型オレフィン−(メタ)アクリレート共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤及びこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でも非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。特に非分散型又は分散型ポリメタクリレート系粘度指数向上剤であることが好ましい。
【0075】
粘度指数向上剤としては、その他に、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
【0076】
摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用できる。ただし、その使用は、前述したように油中リン含有量は0.01〜0.5質量%であり、またリンと(A)成分に起因する硫黄のモル比が0.05〜0.8を満足する範囲内で許容される。
【0077】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0078】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0079】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0080】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0081】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0082】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、消泡剤は0.0001〜0.01質量%、他の添加剤は0.01〜10質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
[実施例1〜4、比較例1〜5]
本発明の潤滑油組成物(実施例1〜4)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜5)をそれぞれ調製し、JASO M333−93に基づくエンジン試験(高温酸化安定性試験)にて評価した。その結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜4の本発明の潤滑油組成物は、比較例1〜5に比べ、粘度増加、酸化増加が少なく、塩基価の維持性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の潤滑油組成物は、内燃機関、自動変速機などの潤滑油として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(A)成分として一般式(1)で示されるリン化合物を1種以上含有し、油中のリンと一般式(1)の化合物に基づく硫黄の元素比率(S/Pモル比)が0.05〜0.8であり、かつ(A)成分に基づく油中リン量が0.01〜0.5質量%であることを特徴する潤滑油組成物。
【化1】

(式(1)中のR〜Rは炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30のアルキル基あるいはアルケニル基を持つアルキルチオエチル基であり、同一でも異なっていてもよい。X〜Xはそれぞれ個別に硫黄または酸素を示し、Yは金属元素を示す。)
【請求項2】
一般式(1)示されるリン化合物の金属元素Yが、亜鉛もしくはモリブデンまたは亜鉛とモリブデンの組合せであることを特徴する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
一般式(1)で示されるリン化合物のうち、XからXがすべて酸素である化合物、およびXからXのうち少なくともひとつが硫黄である化合物を含有することを特徴する請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物
【請求項4】
一般式(1)示されるリン化合物の少なくとも1種の金属元素がモリブデンであり、その配合量がMo量で0.03質量%以下であることを特徴する請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
(B)無灰系酸化防止剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(B)無灰系酸化防止剤が芳香族アミン系酸化防止剤であることを特徴とする請求項5に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2013−1884(P2013−1884A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137140(P2011−137140)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】