説明

潤滑組成物の摩擦性を改善する方法

【課題】 境界摩擦の低減および薄膜摩擦の低減の少なくとも1つをもたらすことができる潤滑方法を提供する。
【解決手段】 大量の基油、ならびに、(i)二級アルコールにより製造される少なくとも1つのジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩化合物および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つの硫黄を含まないヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む添加物組成物、からなる潤滑組成物をエンジンに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加物および潤滑組成物と、これらを使用するための方法に関する。特に、本発明は、(a)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(b)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステル(hydrocarbyl acid phosphate)の塩を含んでなる添加物組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー的に高効率の潤滑部品を製造する関心が高まってきた。更には、最新のエンジンオイル規格は、潤滑剤が標準化されたエンジン試験において燃料効率を実証することを必要とする。潤滑剤膜の厚さおよび摩擦特性は、オイルの燃料経済性に影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
潤滑剤膜は、境界摩擦および薄膜摩擦を含む多くのタイプの摩擦特性を有する。薄膜摩擦は、2つの表面の間の距離が極めて狭い2つの表面の間で前進する潤滑剤などの流体から生じる摩擦力である。境界摩擦は、エンジン、ギア系またはトランスミッションなどのマシン中のこすれる表面が接触する場合に存在する摩擦力である。このような摩擦力は、表面の運動を妨害し、翻ってマシンの効率を低下させる。
【0004】
潤滑剤組成物中に普通に存在する異なる添加物は、異なる厚さの膜を形成し、境界摩擦および薄膜摩擦の少なくとも1つに影響を及ぼすことができるということが知られている。更には、一部の添加物は、潤滑剤組成物に摩擦の低減がもたらされる条件の狭い範囲を有する。更には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)などのある添加物は、薄膜摩擦を増加させることが知られている。
【0005】
しかしながら、燃焼オイルからのリンが貴金属の部位を遮蔽し得る不透過性の焼結膜を形成する場合、ZDDPは、排ガス触媒コンバーターと酸素センサーに著しい問題を引き起こし得るリン源をもたらすことが知られている。結果として、コンバーターおよび酸素センサーの長寿命化の促進と、貴金属含量の低下による製造者のコンバーターの初期コストの低減のためにエンジンオイル中で使用されるZDDPの量を制御および/または低減するような、自動車メーカーによる圧力が存在する。潤滑油のリン含量の低減は触媒コンバーターの寿命もしくは効率を改善し得るが、摩擦制御および磨耗防止のためのZDDPなどの添加物のメリットを代替の添加物によって好都合もしくは有効に匹敵させることはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
必要とされるのは、安価であり、ならびに満足な磨耗防止を維持する一方で、境界摩擦の低減、薄膜摩擦の低減、および燃料経済性の増大の少なくとも1つをもたらすことができる潤滑組成物である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、(a)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および
(b)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含んでなる添加物組成物が供給される。
【0008】
ある局面においては、大量の基油;および(a)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(b)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含んでなる潤滑組成物が供給される。
【0009】
もう一つの局面においては、大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含んでなる、潤滑組成物を表面に供給することを含んでなる、表面間の境界摩擦を低減させる方法が供給される。
【0010】
更に、(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を流体に供給することを含んでなる、表面の間の流体の薄膜摩擦を低減させる方法が供給される。
【0011】
加えて、大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含んでなる、潤滑組成物を車両に供給することを含んでなる、車両における燃料効率を増加させる方法が供給される。
【0012】
更にもう一つの局面においては、大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含む潤滑組成物と少なくとも1つの可動部分を接触させることを含んでなる、マシンの少なくとも1つの可動部分を潤滑する方法が供給される。
【0013】
更なる局面においては、大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含む潤滑組成物を車両に供給することを含んでなる、車両における磨耗防止を改善するための方法が供給される。
【0014】
本発明の更なる目的および利点は、次の説明で一部説明され、ならびに/もしくは本発明の実施により習得可能である。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲で特に指摘される要素と組み合わせにより実現および到達される。
【0015】
前出の一般的な説明および次の詳細な説明は両方とも例示的で説明的なものに過ぎず、請求されている通りの本発明を限定するものでないということが理解されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、全般的には、(a)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(b)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含んでなる、添加物組成物に関する。一つの態様においては、この添加物組成物は潤滑組成物に配合可能である。この添加物組成物および潤滑組成物は、有機および無機摩擦変成剤を存在させずに境界摩擦の低減、薄膜摩擦の低減、および燃料経済性の増加の少なくとも1つを
もたらすことができる。
【0017】
この明細書中で使用される時、用語「大量」は、組成物の全重量に対して50重量%以上の、もしくはそれに等しい量、例えば約80から約98重量%の量を意味すると理解される。更には、この明細書中で使用される時、用語「少量」は、組成物の全重量に対して50重量%未満の量を意味すると理解される。
【0018】
この明細書中で使用される時、用語「炭化水素」または「ヒドロカルビル」は、記述されている部分が本発明の文脈内で主として炭化水素の性格を有するということを意味する。これらは、純粋に炭化水素の性状である部分を含む。すなわち、炭素と水素のみを含有する。これらは、部分の主として炭化水素の性格を変えない、置換基または原子を含有する部分も含むことができる。このような置換基は、ハロ−、アルコキシ−、ニトロなどを含むことができる。これらの部分はヘテロ原子も含有することができる。好適なヘテロ原子は当業者には明白であり、例えば、イオウ、窒素、酸素、およびリンを含む。それゆえ、これらの部分は、この開示の文脈内で主として炭化水素の性格を保つ一方で、炭素原子から別な形で構成される鎖または環中に存在する炭素以外の原子を含有することができる。
【0019】
この明細書中で使用される時、「芳香族」または「アリール」は、特記しない限り、この類の通常の置換もしくは非置換の非脂肪族ヒドロカルビルもしくはヘテロ環部分、例えば、融合もしくは共有結合した単環または多環(3環まで)を有することができる、ポリ不飽和、通常芳香族、ヒドロカルビル環もしくはヘテロ環の置換基を指す。通常のヒドロカルビル芳香族部分は、フェニル、ナフチル、ビフェニレニル、フェナントレニル、フェナレニルなどを含む。このような部分は、1つ以上ヒドロカルビル置換基により場合によっては置換されている。ビフェニルなど、他のアリール部分により置換されているアリール部分も含まれる。ヘテロ環状アリールもしくは芳香族部分は、環中に炭素原子と、加えて通常、酸素、窒素、イオウおよび/またはリンである、1つ以上ヘテロ原子を含有する、ピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、ピラニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピラジニル、チアゾリルなどの不飽和環状部分を指す。このような部分は、ヒドロキシ、場合によっては置換されている低級アルキル、場合によっては置換されている低級アルコキシ、アミノ、アミド、エステル部分、およびカルボニル部分(例えば、アルデヒドもしくはケトン部分)などの1つ以上置換基により場合によっては置換されている。
【0020】
この明細書中で使用される時、「アルカリール」は、特記しない限り、上述の通常の置換もしくは非置換の非脂肪族ヒドロカルビルもしくはヘテロ環状部分により置換されているアルキル部分を指す。通常のアリール部分は、フェニル、ナフチル、ベンジルなどを含む。このような部分は、ヒドロキシ、場合によっては置換されているアルキル、場合によっては置換されているアルコキシ、アミノ、アミド、エステル部分、およびカルボニル部分(例えば、アルデヒドもしくはケトン部分)などの1つ以上置換基により場合によっては置換されている。
【0021】
この明細書で開示されている組成物は、特定の要求および用途に依って当業者ならば容易に決めることができる任意の有効な量で少なくとも1つの灰分含有リン化合物を含むことができる。例えば、灰分含有のリン化合物は、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩であることができる。
【0022】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩中の金属は、アルカリもしくはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、すず、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅であることができる。例えば、亜鉛塩が使用可能である。
【0023】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩は、1つ以上のアルコールまたはフェノールとPとを反応させることにより、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を初めに形成し、次に形成されたDDPAを亜鉛化合物により中和する既知の方法により製造可能である。例えば、ジチオリン酸は、一級および二級アルコールの混合物を反応させることにより製造可能である。別法としては、完全に二級の性格であるヒドロカルビルグループと完全に一級の性格であるヒドロカルビル基の両方を含む多数のジチオリン酸が製造可能である。ある局面においては、ジチオリン酸は、約60モル%の一級アルコールと約40モル%の二級アルコールの組み合わせ物を含むことができる。更にもう一つの局面においては、ジチオリン酸は、100モル%の二級アルコール、または100モル%の一級アルコールを含むことができる。亜鉛塩を製造するためには、いかなる塩基性もしくは中性亜鉛化合物も使用可能であるが、酸化物、水酸化物、および炭酸塩が最も一般的に使用される。
【0024】
このジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であることができ、式[(RO)(RO)P(S)]Znにより表示可能である。式中、RおよびRは、約1から約18個の、例えば約2から約12個の炭素原子を含有し、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリール、および脂環式基などの基を含む、同一もしくは異なるヒドロカルビル基であることができる。ある局面においては、RおよびRグループは、約2から約8個の炭素原子のアルキルグループであることができる。このように、この基は、例えばエチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、アミル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、およびブテニルであることができる。油溶性を得るためには、炭素原子の全数(すなわち、ジチオリン酸のRおよびR’中の)は、概ね、5以上であることができる。
【0025】
一つの態様においては、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)を含むことができる。使用可能な市販のZDDP化合物の例は、限定ではないが、Afton Chemical Corp.(Richmond,VA.)から入手可能なHiTEC(登録商標)7169、HiTEC(登録商標)7197、HiTEC(登録商標)680、HiTEC(登録商標)659、およびHiTEC(登録商標)1656を含む。加えて、この明細書で使用されるジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩は、最終の潤滑組成物に可溶性でなければならない。
【0026】
開示されている組成物は、少なくとも1つの無灰分リン化合物も含むことができる。例えば、この明細書での使用に好適な無灰分リン化合物は、少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含むことができる。このような塩の例は、開示が参照によりこの明細書に組み込まれている、米国特許第5,354,484号および第5,763,372号で教示されているものなどのリン酸エステルの油溶性アミン塩を含むことができる。リン酸エステルのアミン塩は、リン酸エステルとアンモニアまたはアミンなどの塩基性窒素化合物とを反応させることにより製造可能である。この塩は別々に形成可能であり、次にこのリン酸エステルの塩は潤滑組成物に添加可能である。
【0027】
本発明のアミン塩の製造において有用なリン酸エステルは、式
【0028】
【化1】

【0029】
により特徴付け可能である。式中、Rは水素またはヒドロカルビル基であることができ、Rはヒドロカルビル基であることができ、ならびに両方のX基はOまたはSのいずれかであることができる。
【0030】
(I)を含有する組成物を製造する例示の方法は、式ROHの少なくとも1つのヒドロキシ化合物と式Pのリン化合物とを反応させることを含んでなる。ここで、Rはヒドロカルビル基であることができ、XはOまたはSであることができる。この方法で得られるリン化合物は、リン化合物の混合物であることができ、リン反応物(すなわち、PまたはP)の選択に依って一般にモノ−およびジヒドロカルビル置換のリン酸および/またはジチオリン酸の混合物である。
【0031】
本発明のリン酸エステルの製造において使用されるヒドロキシ化合物は、式ROHにより特徴付け可能である。ここで、Rはヒドロカルビル基であることができる。リン化合物と反応されるヒドロキシ化合物は、式ROHのヒドロキシ化合物の混合物を含むことができる。式中、ヒドロカルビル基Rは約1から約30個の炭素原子を含有することができる。しかしながら、最終的に製造される置換リン酸エステルのアミン塩は、本発明の潤滑組成物に可溶性であるということが必要である。一般に、R基は、少なくとも約2個の炭素原子、例えば約3から約30個の炭素原子を含有する。
【0032】
R基は、アルキル、アリール、アルカリール、および脂環式炭化水素基などの脂肪族もしくは芳香族であることができる。式ROHの有用なヒドロキシ化合物の非限定的な例は、例えば、エチルアルコール、iso−プロピル、n−ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチル−ヘキシルアルコール、ノニルアルコール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、アミルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、メチルシクロヘキサノール、およびアルキル化ナフトールなどを含む。
【0033】
ある局面においては、アルコールROHは、脂肪族アルコール、例えば少なくとも約4個の炭素原子を含有する一級脂肪族アルコールであることができる。したがって、本発明で有用であることができる例示の一価アルコールROHの例は、アミルアルコール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール、1−テトラデカノール、1−ヘキサデカノール、1−オクタデカノール、1−ペンタノール、2−メチルブタノール、および2−メチル−1−プロパノール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、フィトール、ミリシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、およびベヘニルアルコールを含む。
【0034】
もう一つの局面においては、ROHは、少なくとも約4個の炭素原子を含有する二級脂肪族アルコールであることができる。したがって、二級脂肪族アルコールの非限定的な例は、イソプロパノール、イソオクタノール、2−ブタノール、およびメチルイソブチルカルビノール(4−メチル−1−ペンタン−2−オル)を含む。この明細書では商用アルコール(混合物を含む)が意図され、これらの商用アルコールは、ここでは特定しないが、この開示の主目的を損なわない少量のアルコールを含むことができる。
【0035】
更なる局面においては、限定ではないが、一級アルコールの混合物、二級アルコールの混合物、および一級/二級アルコールの混合物を含むアルコールの混合物が使用可能であ
る。
【0036】
この反応におけるヒドロキシ化合物ROH:リン反応物Pのモル比は、約1:1から約4:1の、例えば約3:1の範囲内にあることができる。この反応は、約50℃以上の温度から反応物または所望の生成物のいずれかの組成物の温度までの高温において2つの反応物を単純に混合することにより実施可能である。ある局面においては、この温度は、約50℃から約150℃の範囲にあることができ、最もしばしばには約100℃以下であることができる。この反応は、温度制御と反応物の混合を促進する溶媒の存在において実施可能である。この溶媒は、一方もしくは両方の反応物が可溶性であるか、もしくは生成物が可溶性である、いかなる不活性流体物質であることもできる。このような溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ナフサ、ジエチルエーテルカルビトール、ジブチルエーテル、ジオキサン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、四塩化炭素またはクロロホルムを含む。
【0037】
上記の反応の生成物は酸性であるが、その化学的な構成は正確には知られていない。しかしながら、証拠によって、生成物が主として、リン酸(またはチオ−もしくはジチオリン酸)のモノ−およびジ−エステルを含み、エステル基がアルコールROHから誘導される酸性リン酸塩の混合物であるということが示される。一つの態様においては、リン酸水素エステルはリン酸水素アミルである。
【0038】
本発明のアミン塩は、式Iにより表される上述のリン酸エステルと一級もしくは二級であることができる少なくとも1つのアミノ化合物とを反応させることにより製造可能である。ある局面においては、置換されたリン酸と反応させて、アミン塩を形成するアミンは、一般式
R’NH
を有する一級ヒドロカルビルアミンである。式中、R’は、約150個までの炭素原子を含有するヒドロカルビル基であることができ、更にしばしば約4から約30個の炭素原子を含有する脂肪族ヒドロカルビル基である。
【0039】
ある局面においては、本発明のアミン塩の製造において有用であるヒドロカルビルアミンは、ヒドロカルビル基中に約4から約30個の炭素原子、例えばヒドロカルビル基中に約8から約20個の炭素原子を含有する一級ヒドロカルビルアミンであることができる。ヒドロカルビル基は飽和もしくは不飽和であることができる。一級飽和アミンの代表的な例は、脂肪族の一級脂肪アミンとして知られているものである。通常の脂肪アミンは、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−デシルアミン、n−ドデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−オクタデシルアミン(ステアリルアミン)などのアルキルアミンを含む。これらの一級アミンは、蒸留品および工業品の両方の形で入手可能である。蒸留品は純粋な反応生成物をもたらすが、所望のアミドおよびイミドは工業品のアミンとの反応で生成する。混合脂肪アミンも好適である。
【0040】
もう一つの局面においては、このリン化合物のアミン塩は、アルキル基中に少なくとも約4個の炭素原子を有する三級脂肪族一級アミンから誘導されるものであることができる。通例これらは、アルキル基中に合計で約30個未満の炭素原子を有するアルキルアミンから誘導可能である。
【0041】
通常、三級脂肪族一級アミンは、式
R(CHCNH
により表されるモノアミンである。式中、Rは1から約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であることができる。このようなアミンは、三級ブチルアミン、三級ヘキシル一
級アミン、1−メチル−1−アミノ−シクロヘキサン、三級オクチル一級アミン、三級デシル一級アミン、三級ドデシル一級アミン、三級テトラデシル一級アミン、三級ヘキサデシル一級アミン、三級オクタデシル一級アミン、三級テトラコサニル一級アミン、三級オクタコサニル一級アミンにより例示可能である。
【0042】
アミンの混合物も本発明の目的に有用である。C11−C14三級アルキル一級アミンの混合物と、C18−C22三級アルキル一級アミンの類似の混合物は、このタイプのアミン混合物の例示である。三級アルキル一級アミンと、これらの製造方法は、当業者にはよく知られており、それゆえ更なる説明は不要である。この開示の目的に有用な三級アルキル一級アミンと、これらの製造方法は、この点の教示のために参照によりこの明細書に組み込まれている、米国特許第2,945,749号で述べられている。
【0043】
炭化水素鎖がオレフィン系不飽和基を含む一級アミンも極めて有用である。このように、R’およびR”グループは、鎖の長さに依って1つ以上のオレフィン系不飽和基、通常10個の炭素原子当り1個以下の二重結合を含有し得る。代表的なアミンは、ドデセニルアミン、ミリストレイルアミン、パーミイトレイルアミン、オレイルアミン、およびリノレイルアミンである。
【0044】
二級アミンは、このような商用脂肪二級アミンを含む上記のアルキルグループの2つを有するジアルキルアミンと、混合ジアルキルアミンも含み、ここでR’は脂肪アミンであり、R”はメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、ブチルなどの低級アルキルグループ(1−9個の炭素原子)であるか、もしくはR”は、本質的に基の炭化水素の性格が壊されないように、他の非反応性もしくは極性置換基(CN、アルキル、カルバルコキシ、アミド、エーテル、チオエーテル、ハロ、スルホキシド、スルホン)を担持するアルキルグループであり得る。脂肪ポリアミンジアミンは、モノ−もしくはジアルキルの対称もしくは非対称のエチレンジアミン、プロパンジアミン(1,2もしくは1,3)、および上記のポリアミン類似体を含む。好適なポリアミンは、N−ココ−1,3−ジアミノプロパン、N−ソヤアルキルトリメチレンジアミン、N−タロウ−1,3−ジアミノプロパン、またはN−オレイル−1,3−ジアミノプロパンを含む。
【0045】
油溶性アミン塩は、上述のリン酸エステルを上述のアミンと室温以上で混合することにより製造可能である。一般に、室温で約1時間までの間の混合で充分である。リン酸エステルと反応させて、本発明の塩を形成するアミンの量は、リン酸1当量当り少なくとも約1当量のアミン(窒素基準で)であり、当量比は一般に約1である。
【0046】
このようなアミン塩の製造方法はよく知られており、文献に報告されている。開示が参照によりこの明細書に組み込まれている、例えば、米国特許第2,063,629号;第2,224,695号;第2,447,288号;第2,616,905号;第3,984,448号;第4,431,552号;第5,354,484号;Pesin et al,Zhurnal Obshchei Khimii,Vol,31,No.8,pp.2508−2515(1961);およびPCT International Application Publication No. WO87/07638を参照のこと。
【0047】
別法としては、添加物濃縮液または完全配合組成物それ自身が形成される場合、酸性リン酸エステルを上述のアミンとブレンドするときに、この塩が系内で形成可能である。
【0048】
少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩は、開示されている組成物中に特定の要求および用途に依って種々の量で存在することができる。加えて、この明細書中で使用される少なくとも1つのヒドロカルビ
ルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩は、最終の潤滑組成物中で可溶性でなければならない。
【0049】
一つの態様においては、少なくとも1つの灰分含有リン化合物:少なくとも1つの灰分を含まないリン化合物の比は、約90:10から約10:90、例えば約75:25から約25:75の範囲であることができ、更なる例としては50:50であることができる。もう一つの態様においては、少なくとも1つの灰分含有リン化合物と少なくとも1つの灰分を含まないリン化合物は、約250ppmから約1000ppmの範囲のリン含量を有する潤滑組成物を生成するのに充分な量で存在することができる。
【0050】
この明細書で開示されている組成物は、分散剤、灰分含有洗浄剤、無灰洗浄剤、過塩基性洗浄剤、粘度指数改善剤、流動点降下剤、極圧添加剤、防錆剤、酸化防止剤、腐食防止剤、発泡防止剤、チタン化合物、チタン錯体、有機可溶性モリブデン化合物、有機可溶性モリブデン錯体、ホウ素含有化合物、ホウ素含有錯体、タングステン含有化合物、タングステン含有錯体、およびこれらの組み合わせ物などの添加物を場合によっては含有することができる。ある局面においては、この組成物は、用途の必要性と要求に依って種々のレベルの少なくとも1つのモリブデン含有化合物を含むことができる。一つの態様においては、開示されている組成物は、有機および無機の摩擦変成剤を本質的に含まないことができる。
【0051】
開示されている組成物の配合で使用するのに好適な基油は、合成油または鉱油またはこれらの混合物のいずれかから選択可能である。鉱油は、動物油および植物油(例えば、ひまし油、ラード油)、ならびにパラフィン系、ナフテン系もしくは混合パラフィン・ナフテン系タイプの液体石油および溶媒処理もしくは酸処理された鉱物質潤滑油などの他の鉱物質潤滑油を含む。石炭または頁岩由来の油も好適である。更には、ガス・ツー・リキッド法由来の油も好適である。
【0052】
基油は、意図された目的に好適ないかなる所望の粘度も有することができる。好適な自動車オイルは、SAE 0W−20、SAE 0W−30、SAE 5W−20、SAE
5W−30、SAE 10W−30、SAE 10W−40、SAE 30、40、および50などのマルチグレードオイルを含む。好適な自動車オイルは、15W−40、20W−50、75W−140、80W−90、85W−140、85W−90などのマルチグレードオイルも含む。
【0053】
合成油の非限定的な例は、重合および相互重合されたオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマーなど)などの炭化水素油;ポリ(1−ヘキセン)、ポリ−(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)など、およびこれらの混合物のポリアルファオレフィン;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ−ノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼンなど);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニルなど);アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、およびこれらの誘導体、類似体、および同族体などを含む。
【0054】
アルキレンオキシドポリマーおよびインターポリマーと、末端ヒドロキシル部分をエステル化、エーテル化などにより変成したこれらの誘導体は、使用可能なもう一つの類の既知の合成油を構成する。このようなオイルは、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により製造されるオイル、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、約1000の平均分子量を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、約500−1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、約1000−1500の分子量を有するポリプロピレングリコ
ールのジエチルエーテル)またはこれらのモノ−およびポリカルボン酸エステル、例えばテトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3−8脂肪酸エステル、またはC13オキソ酸ジエステルにより例示される。
【0055】
使用可能な合成油のもう一つの類は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノレン酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルを含む。これらのエステルの具体的な例は、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノレン酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成される複合エステルを含む。
【0056】
合成油として有用なエステルは、C5−12モノカルボン酸とネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのポリオールおよびポリオールエーテルから製造されるものも含む。
【0057】
したがって、この明細書中で述べられるような組成物の製造に使用可能な使用される基油は、米国石油協会(API)基油互換性ガイドラインにおいて規定されている、グループI−Vの基油のいずれかから選択可能である。このような基油グループは次の通りである。
【0058】
グループIは、90%未満の飽和物および/または0.03%以上のイオウを含有し、80に等しいか、もしくはそれ以上の、および120未満の粘度指数を有し;グループIIは、90%未満の飽和物および0.03%に等しいか、もしくはそれ以上のイオウを含有し、80に等しいか、もしくはそれ以上の、および120未満の粘度指数を有し;グループIIIは、90%に等しいか、もしくはそれ以上の飽和物および0.03%に等しいか、もしくはそれ未満のイオウを含有し、120に等しいか、もしくはそれ以上の粘度指数を有し;グループIVはポリアルファオレフィン(PAO)であり;そしてグループVはグループI、II、IIIまたはIVに含まれないすべての他の基油原料を含む。
【0059】
上記のグループの定義において使用される試験方法は、飽和物に対してはASTM D
2007;粘度指数に対してはASTM D 2270;およびイオウに対してはASTM D 2622、4294、4927の一つである。
【0060】
グループIVの基油原料、すなわちポリアルファオレフィン(PAO)は、アルファ・オレフィンの水素化オリゴマーを含み、オリゴマー化の最も重要な方法はフリーラジカル法、チーグラー触媒法およびカチオン型のフリーデル・クラフツ触媒法である。
【0061】
ポリアルファオレフィンは、通常、100℃で2から100cStの、例えば100℃で4から8cStの範囲の粘度を有する。これらは、例えば約2から約30個の炭素原子を有する分岐鎖または直鎖のアルファ−オレフィンのオリゴマーであることができ、非限定的な例は、ポリプロペン、ポリイソブテン、ポリ−1−ブテン、ポリ−1−ヘキセン、ポリ−1−オクテンおよびポリ−1−デセンを含む。ホモポリマー、インターポリマーおよび混合物が含まれる。
【0062】
上記に参照された基油原料のバランスに関しては、生成する混和物がグループI基油原料について上記に規定したもののなかに入る特性を有するという前提ならば、「グループI基油原料」は、1つ以上の他のグループからの基油原料が混和可能なグループI基油原料も含む。
【0063】
例示の基油原料は、グループI基油原料およびグループlI基油原料とグループIブライトストックとの混合物を含む。
【0064】
この明細書中での使用に好適な基油原料は、限定ではないが、蒸留、溶剤精製、水素化処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を含む種々の異なる方法を用いて製造可能である。
【0065】
基油は、フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素由来のオイルであることができる。フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ触媒を用いてHとCOを含有する合成ガスから製造可能である。基油として有用であるためには、このような炭化水素は、通常、更なる処理を必要とする。例えば、炭化水素は、米国特許第6,103,099号または第6,180,575号で開示されている方法を用いて水素異性化可能であり;米国特許第4,943,672号または第6,096,940号で開示されている方法を用いて水素化分解および水素異性化可能であり;米国特許第5,882,505号で開示されている方法を用いて脱ワックス可能であり;もしくは米国特許第6,013,171号;第6,080,301号;または第6,165,949号で開示されている方法を用いて水素化異性化および脱ワックス可能である。
【0066】
上記に開示したタイプの非精製、精製および再精製の、鉱物質もしくは合成のオイル(ならびに、これらのいずれかの2つ以上の混合物)が基油中で使用可能である。非精製オイルは、更なる精製処理なしで鉱物質源または合成源から直接に入手されるものである。例えば、レトルト採取法から直接に入手されるシェール油、一次蒸留から直接に入手される石油、またはエステル化法から直接に入手され、更なる処理なしで使用されるエステルオイルが非精製オイルである。精製オイルは、1つ以上の性質を改善するために、1つ以上の精製段階で更に処理されたものであることを除いて、非精製オイルに類似している。溶剤抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、パーコレーションなどの多数のこのような精製手法は、当業者に既知である。再精製オイルは、運転で使用済の精製オイルに適用された精製オイルの入手に使用されるものに類似した方法により得られる。このような再精製オイルは、再生もしくは再処理オイルとしても既知であり、使用済添加物、混入物質およびオイル分解生成物の除去を目的とする手法によりしばしば更に処理される。
【0067】
種々の態様によれば、表面の間の流体の境界摩擦を低下させる方法が存在する。表面の間の流体の境界摩擦を低下させる方法は、大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含んでなる潤滑組成物を表面に供給することを含んでなることができる。ある局面においては、この方法は、本質的に有機および無機摩擦変成剤の不在において達成可能である。
【0068】
種々の態様によれば、表面の間の流体の薄膜摩擦を低下させる方法が存在する。薄膜摩擦を低下させる方法は、(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を流体に供給することを含んでなることができる。ある局面においては、
この方法は、本質的に有機および無機摩擦変成剤の不在において達成可能である。
【0069】
加えて、車両における燃料効率を増加させる方法が開示されている。車両における燃料効率を増加させる方法は、大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含む潤滑組成物を車両に供給することを含んでなることができる。ある局面においては、この方法は、本質的に有機および無機摩擦変成剤の不在において達成可能である。
【0070】
種々の態様によれば、マシンの少なくとも1つの可動部分を潤滑する方法が更に開示されている。マシンの少なくとも1つの可動部分を潤滑する方法は、少なくとも1つの可動部分を大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含む潤滑組成物と接触させることを含んでなることができる。ある局面においては、この方法は、本質的に有機および無機摩擦変成剤の不在において達成可能である。
【0071】
開示されている方法におけるマシンは、ジーゼルエンジン、船舶用エンジン、ロータリーエンジン、タービンエンジン、鉄道車両用エンジン、推進エンジン、航空機ピストンエンジン、定置式発電エンジン、連続式発電エンジン、および銀部品を含んでなるエンジンを含むスパ−ク点火式および圧縮点火式内燃エンジンからなる群から選択可能である。更には、少なくとも1つの可動部分は、ギア、ピストン、ベアリング、ロッド、スプリング、カムシャフト、クランクシャフト、ローターなどから選択可能である。
【0072】
もう一つの態様においては、車両における磨耗防止を改善するための方法が開示されている。車両における磨耗防止を改善するための方法は、大量の基油;および(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩を含む少量の添加物組成物を含む潤滑組成物を車両に供給することを含んでなることができる。ある局面においては、この方法は、本質的に有機および無機摩擦変成剤の不在において達成可能である。
【0073】
更なるもう一つの態様においては、開示されている潤滑組成物により潤滑されているエンジン、トランシミッション、またはギア組が開示されている。
【0074】
潤滑組成物は、マシンの潤滑に有効であるいかなる組成物であることもできる。ある局面においては、組成物は、中速ジーゼルエンジンオイル、乗用車モーターオイル、および重作業用ジーゼルエンジンオイルからなる群から選択される。
【実施例】
【0075】
次の実施例は本発明とその有利な性質を例示するものである。これらの実施例、ならびにこの出願において、すべての部およびパーセントは、特記しない限り重量によるものである。これらの実施例は、例示の目的にのみ提示され、この明細書で開示されている本発明の範囲の限定を目的とするものでないということを意図している。
【0076】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を単独もしくはリン酸エステルの油溶性アミン塩との組み合わせで含む潤滑組成物を磨耗の防止および境界摩擦および薄膜摩擦の低減の能力について試験した。次の実施例は、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩とリン酸エス
テルの油溶性アミン塩をエンジンオイルなどの潤滑組成物に配合する場合、得られる組成物が満足な磨耗防止を維持する一方で境界摩擦の低下および薄膜摩擦の低下などの摩擦特性の低下を実証するということを示す。この実施例は、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を単独で含む潤滑組成物と比較した場合、この特性が独自であるということも示す。
【0077】
この実施例においては、Afton Chemical Corp(Richmond,VA)から入手可能なZDDP(HiTEC 7169(登録商標)を種々の基油とブレンド/混合/合体して、2つの潤滑組成物(実施例AおよびB)を形成した。同一のZDDP化合物をリン酸水素アミルのオレイルアミン塩と種々の基油中でブレンド/混合/合体して、2つの潤滑組成物(実施例CおよびD)を形成した。使用したオレイルアミンは、Azko Nobel Chemical(Chicago,IL.)から入手可能なArmeen(登録商標)OLであった。
【0078】
開示が参照によりこの明細書に組み込まれている、SAE論文961142(Jan.1996)で述べられている高周波往復リグ(HFRR)を用いて、実施例AからDの境界摩擦係数を求めた。燃料などの潤滑組成物により潤滑されている往復する金属表面上で生じる磨耗もHFRRによって測定した。この結果がHFRR磨耗痕値である。開示が参照によりこの明細書に組み込まれている、SAE2003−01−1972およびSAE961142で開示されている方法を用いて、実施例AからDの薄膜摩擦係数を測定した。試験結果を下記の表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、実施例AからDはほぼ均一なリン濃度を含んでいた。上記の結果から本発明の潤滑組成物(実施例CおよびD)は、ZDDPを単独で含む組成物と比較して、予期に反して境界および薄膜摩擦特性の低減を有するということが明らかである。例えば、実施例CおよびDは、低い境界摩擦係数(それぞれ0.090および0.091)と低い薄膜摩擦係数(それぞれ、0.058および0.061)を示した。比較として、実施例AおよびB(ZDDPを単独で含む)は、ずっと高い境界摩擦係数(それぞれ0.140および0.142)と高い薄膜摩擦係数(それぞれ0.066および0.070)を示した。当業者ならば、境界摩擦および薄膜摩擦係数が低いほど、燃料経済性が良好であるということを理解するであろう。このように、本発明の実施例CおよびDにより潤滑されているマシンは、比較例AおよびBにより潤滑されているマシンと比較して燃料経済性の改善を示す。
【0081】
実施例AおよびBはずっと高いHFRR磨耗痕値(それぞれ12および19)を示したが、本発明の実施例CおよびDは、低いHFRR磨耗痕値(それぞれ1および0)も示した。当業者ならば、HFRR磨耗痕値が低いほど、磨耗保護が良好であるということを知っているであろう。このように、本発明の実施例CおよびDは、実施例AおよびBと比較して、磨耗防止の改善も示す。
【0082】
この明細書および添付のクレームで使用される場合には、単数形は、一つの指示対象に明確に限定されない限り、複数の指示対象を含むということが特記される。このように、例えば「酸化防止剤」の指示は2つ以上の異なる酸化防止剤を含む。この明細書中で使用される時、用語「含む」およびこの文法的な変形物は、非限定的であるように意図され、リスト中の項目を掲げることが掲げられた項目と置換または付加可能な他の同様な項目を排除することにならない。
【0083】
この明細書および添付のクレームの目的には、特記しない限り、明細書およびクレームで使用される量、パーセントまたは比率および他の数値を表すすべての数は、すべての場合において用語「約」により改変されると理解されるべきである。したがって、そうでないと明示しない限り、明細書および添付のクレームで示される数値パラメーターは、本発明により得ようとする所望の性質に依って変わることができる近似である。最低限でも、そして均等論の適用を請求の範囲に限定する試みとしてでなく、各数値パラメーターは、示されている有意の桁数を考慮して、そして通常の丸め手法を適用することにより少なくとも解釈されるべきである。
【0084】
特別の態様を説明してきたが、出願人または当分野の他の熟練者には現時点では予知し得ない代替物、改変物、変形物、改善物および実質的な同等物が思い浮かぶ可能性がある。したがって、添付のクレームは、出願時および補正時には、このような代替物、改変物、変形物、改善物および実質的な同等物をすべて包含するように意図されている。
【0085】
本発明の特徴および態様は次項の通りである。
【0086】
1.(a)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および
(b)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩
を含んでなる、添加物組成物。
2.灰分含有リン化合物がジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を含む、項1に記載の添加物組成物。
3.ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩が二級アルコールから製造されるジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛である、項2に記載の添加物組成物。
4.(a)および(b)が約250ppmから約1000ppmの範囲のリン含量を有する潤滑組成物を生成するのに充分な量で添加物組成物中に存在する、項1に記載の添加物組成物。
5.少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルがモノヒドロカルビルリン酸エステル、ジヒドロカルビルリン酸エステル、トリヒドロカルビルリン酸エステル、およびこれらの混合物からなる群から選択される、項1に記載の添加物組成物。
6.少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルがモノヒドロカルビルおよびジヒドロカルビルリン酸エステルの混合物を含む、項1に記載の添加物組成物。
7.少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルがリン酸水素アミルである、項1に記載の添加物組成物。
8.少なくとも1つのヒドロカルビルアミンが線状もしくは分岐状であり、飽和もしくは不飽和であり、ならびに約10から約30個の炭素原子を含んでなる、項1に記載の添加物組成物。
9.添加物組成物が添加物組成物を含まない潤滑組成物と比較して、潤滑組成物中で境界摩擦を低減するのに有効である、項1に記載の添加物組成物。
10.(a)大量の基油;および
(b)(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なく
とも1つの灰分含有リン化合物、および
(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩
を含む少量の添加物組成物を含んでなる潤滑組成物。
11.潤滑組成物が有機および無機の摩擦変成剤を本質的に含まない、項10に記載の潤滑組成物。
12.(b)(i)がジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を含む、項10に記載の潤滑組成物。
13.ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩が二級アルコールから製造されるジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛である、項12に記載の潤滑組成物。
14.(a)(i)および(b)(ii)が約250ppmから約1000ppmの範囲のリン含量を有する潤滑組成物を生成するのに充分な量で添加物組成物中に存在する、項10に記載の潤滑組成物。
15.少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルがモノヒドロカルビルリン酸エステル、ジヒドロカルビルリン酸エステル、トリヒドロカルビルリン酸エステル、およびこれらの混合物からなる群から選択される、項10に記載の潤滑組成物。
16.少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルがモノヒドロカルビルおよびジヒドロカルビルリン酸エステルの混合物を含む、項10に記載の潤滑組成物。
17.少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルがリン酸水素アミルである、項10に記載の潤滑組成物。
18.少なくとも1つのヒドロカルビルアミンが線状もしくは分岐状であり、飽和もしくは不飽和であり、ならびに約10から約30個の炭素原子を含んでなる、項10に記載の潤滑組成物。
19.添加物組成物が添加物組成物を含まない潤滑組成物と比較して、潤滑組成物中で境界摩擦を低減するのに有効である、項10に記載の潤滑組成物。
20.リン含有化合物、灰分含有洗浄剤、無灰洗浄剤、過塩基性洗浄剤、流動点降下剤、粘度指数変成剤、極圧添加剤、防錆剤、酸化防止剤、腐食防止剤、発泡防止剤、チタン化合物、チタン錯体、有機可溶性モリブデン化合物、有機可溶性モリブデン錯体、ホウ素含有化合物、およびホウ素含有錯体からなる群から選択される少なくとも1つの添加物を更に含んでなる、項10に記載の潤滑組成物。
21.基油がグループI基油、グループII基油、グループIll基油、グループIV基油、およびグループV基油からなる群から選択される1つ以上の構成員を含む、項10に記載の潤滑組成物。
22.大量の基油;および
(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および
(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩
を含む少量の添加物組成物を含んでなる潤滑組成物を表面に供給することを含んでなる、表面上の境界摩擦を低減させる方法。
23.(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および
(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩
を含む添加物組成物の少量を流体に供給することを含んでなる、表面の間の流体の薄膜摩擦を低減させる方法。
24.大量の基油;および
(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および
(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン
酸水素エステルの塩
を含む少量の添加物組成物を含んでなる潤滑組成物を車両に供給することを含んでなる、車両における燃料効率を増加させる方法。
25.項11に記載の潤滑組成物により潤滑されている、エンジン、トランスミッションまたはギア組。
26.大量の基油;および
(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および
(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩
を含む少量の添加物組成物を含む潤滑組成物を少なくとも1つの可動部分と接触させることを含んでなる、マシンの少なくとも1つの可動部分を潤滑する方法。
27.マシンがスパ−ク点火式および圧縮点火式内燃エンジンからなる群から選択される、項26に記載の方法。
28.エンジンがジーゼルエンジン、船舶用エンジン、ロータリーエンジン、タービンエンジン、鉄道車両用エンジン、推進エンジン、航空機ピストンエンジン、定置式発電エンジン、および連続式発電エンジンからなる群から選択される、項27に記載の方法。
29.少なくとも1つの可動部分がギア、ピストン、ベアリング、ロッド、スプリング、カムシャフト、クランクシャフト、およびローターからなる群から選択される、項26に記載の方法。
30.大量の基油;および
(i)一級もしくは二級アルコールまたはこれらの混合物により製造される少なくとも1つの灰分含有リン化合物、および
(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つのヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩
を含む少量の添加物組成物を含む潤滑組成物を車両に供給することを含んでなる、車両における磨耗防止を改善するための方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大量の基油;および
(i)二級アルコールにより製造される少なくとも1つのジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩化合物、および
(ii)少なくとも1つのヒドロカルビルアミンと少なくとも1つの硫黄を含まないヒドロカルビルリン酸水素エステルの塩
を含む少量の添加物組成物を含んでなる潤滑組成物をエンジンに供給することを含んでなり、(i)対(ii)の重量比が90:10から10:90の範囲であり、(i)および(ii)が重量で250ppmから1000ppmの範囲のリン含量を有するエンジン潤滑組成物を生成するのに充分な量で存在することを特徴とする、エンジン内の境界摩擦およびエンジン内の潤滑組成物の薄膜摩擦を低減させる方法。
【請求項2】
少なくとも1つのヒドロカルビルアミンが線状もしくは分岐状であり、飽和もしくは不飽和であり、ならびに10から30個の炭素原子を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩化合物がジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの硫黄を含まないヒドロカルビルリン酸水素エステルがモノヒドロカルビルリン酸エステルおよびジヒドロカルビルリン酸エステルの混合物である、請求項1の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの硫黄を含まないヒドロカルビルリン酸水素エステルがリン酸水素アミルである、請求項1の方法。
【請求項6】
潤滑組成物が有機および無機の摩擦変成剤を含んでいない、請求項1の方法
【請求項7】
潤滑組成物がリン含有化合物、灰分含有洗淨剤、無灰洗淨剤、過塩基性洗淨剤、流動点降下剤、粘度指数変成剤、極圧添加剤、防錆剤、酸化防止剤、腐食防止剤、発泡防止剤、チタン化合物、チタン錯体、有機可溶性モリブデン化合物、有機可溶性モリブデン錯体、ホウ素含有化合物、およびホウ素含有錯体からなる群から選択される少なくとも1つの添加物を更に含んでなる、請求項1の方法。
【請求項8】
基油がグループI基油、グループII基油、グループIII基油、グループIV基油、およびグループV基油からなる群から選択される1つ以上の構成員を含む、請求項1の方法。
【請求項9】
エンジンがスパーク点火式内燃エンジンおよび圧縮点火式内燃エンジンからなる群から選択される、請求項1の方法。

【公開番号】特開2012−224871(P2012−224871A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183278(P2012−183278)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2008−209235(P2008−209235)の分割
【原出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】