説明

潤滑組成物

【課題】潤滑組成物のピストン堆積物形成特性の改善を提供すること。代替の潤滑組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびポリ−アルファオレフィン(PAO)基油またはこれらの組合せからなる群から選択される基油を含み、ASTM D 2896により測定される3.5から70mg KOH/gのTBN(全塩基価)値を有し、15から30mMの石鹸分を有する潤滑組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基油、特にフィッシャー−トロプシュ由来基油を含む潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、2007年10月23−25日、中国、北京の、2nd Asia−Pacific base oil Conferenceにおいて示された、D.J.Wedlock他、「Gas−to−Liquids Base Oils to assist in meeting OEM requirements 2010 and beyond」に開示されている通り、エンジンオイル、トランスミッションフルードおよび工業上の潤滑剤等の潤滑組成物中におけるフィッシャー−トロプシュ由来基油の使用は、様々な性能上の利益をもたらす。上記論文において言及したフィッシャー−トロプシュ由来基油の使用による性能上の利益の例は、酸化特性の改善、エンジンの清浄度の改善、摩耗保護の改善、排出物の改善、後処理装置の適合性の改善である。また、フィッシャー−トロプシュ基油は、低粘度でエネルギーを節約する配合物の配合を可能にする。
【0003】
また、EP2159275は、特にASTM D 6186−08によるHPDSC、および/またはASTM D 7528−09によるROBO試験により測定される酸化防止特性を改善するための、フィッシャー−トロプシュ由来基油を含有する潤滑組成物の使用を開示している。
【0004】
そのうえ、フィッシャー−トロプシュ由来基油は、クランクケースエンジンの運転のためのクランクケース潤滑剤の中に含まれる場合に、潤滑剤中において、低減された燃料希釈効果を示すことが見出された。ウォームアップ中の、クランクケースが冷えている場合において、それは、いくらかの未燃焼の燃料を含有するピストンのブローバイガスのための凝縮剤として作用することができる。次いで、この凝縮済燃料は、潤滑剤を溶解し希釈する。また、エンジンが、関連するより大きなブローバイを伴う高負荷条件下で運転される場合に、潤滑剤の燃料希釈は、より大きくなると思われる。通常、未燃焼燃料の炭化水素成分のほとんどは、通常の運転温度下で揮発する。ガソリンエンジンの場合において、燃料のオクタン価を改善するためのガソリン中混合成分として用いられるプラットフォーメートは、重質芳香族成分なので、潤滑剤に永続的に隔絶することができる。これにより、プラットフォーメートからのPCA(多環式芳香族化合物)含有率が上昇するので、使用済ガソリンエンジンオイルの毒性はより高くなる。同様に、ディーゼル燃料中にバイオ成分(エステル系)を用いることができるディーゼルエンジン中において、不揮発燃料由来のエステル成分は、潤滑剤の基油に永続的に隔絶することができる。これは、その後において、潤滑剤のゲル化およびエンジンの損傷の問題につながることがある。フィッシャー−トロプシュ由来基油は、低い溶解作用をもつ本質的に純粋なイソパラフィン基油なので、これらは、まず、プラットフォーメートおよびエステル等の極性の化学種を吸収する傾向がより少なく、潤滑剤を運転温度に上昇させる際にこれらの成分を拒絶することにより潤滑剤中において低減された燃料希釈効果を示す傾向がより強いことを示す。
【0005】
また、残余の蝋の濁りを有する、触媒的に脱蝋されたフィッシャー−トロプシュ由来重質基油は、(例えば、marine SAE 50の)シリンダー潤滑剤の中で、技術的または美的な欠陥なしに用いられ得ることが見出された。この点において、「重質基油」は、約15cSt等の、少なくとも14cStの100℃における動粘度を有する基油を意味する。残余の蝋の濁りを有する基油は、少なくとも15℃の曇り点を有する基油として定義され得る。シリンダー潤滑剤の用途におけるこのような高VI基油の使用は、低温条件下において潤滑剤油タンクからポンプ排出することがより容易である追加の利益と、全鉱物基油(一般により低いVIを有する)をベースとした類似の配合物に比べて、シリンダー内で高温条件下においてより厚い油膜とをもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2159275号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2007年10月23−25日、中国、北京の、2nd Asia−Pacific base oil Conferenceにおいて示された、D.J.Wedlock他、「Gas−to−Liquids Base Oils to assist in meeting OEM requirements 2010 and beyond」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、潤滑組成物のピストン堆積物形成特性を改善することである。
【0009】
本発明の別の目的は、代替の潤滑組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記または他の目的の1つ以上を、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびポリ−アルファオレフィン(PAO)基油またはこれらの組合せからなる群から選択される基油を含む潤滑組成物による本発明により得ることができ、その組成物は、ASTM D 2896により測定される3.5から70mg KOH/gのTBN(全塩基価)値を有し、その組成物は、15から30mMの石鹸分を有する。
【0011】
驚くべきことに、本発明による潤滑組成物は、特にASTM D 7097−09による測定時に、改善されたピストン堆積物形成特性を示すことを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましくは、その組成物は、ASTM D 2896による測定時に、4.0を超える、より好ましくは5.5を超える、なおより好ましくは6.0mg KOH/gを超える、さらになおより好ましくは7.0mg KOH/gを超えるTBN値を有する。一般に、その組成物は、40未満、好ましくは20.0未満、より好ましくは15.0未満、なおより好ましくは12.0mg KOH/g未満のTBN値を有する。
【0013】
本発明による潤滑組成物中において用いられる基油に関する特別な制限はなく、様々な従来の鉱物油、合成油の他に、植物油等の天然由来のエステルが、少なくともフィッシャー−トロプシュ由来基油およびポリ−アルファオレフィン(PAO)基油が存在するという条件において、都合よく用いられ得る。
【0014】
本発明において用いられる基油は、1種以上の鉱物油および/または1種以上の合成油の混合物を都合よく含むことができるので、本発明によれば、「基油」の用語は、1種より多い基油を含有する混合物を指すことがある。鉱物油には、水素化仕上工程および/または脱蝋によりさらに改質されていてよい、パラフィン、ナフテンまたはパラフィン/ナフテン混合型の、液体の石油、および溶媒処理または酸処理された鉱物潤滑油が挙げられる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物中で使用するための適切な基油は、グループI、グループII、グループIIIの鉱物基油、グループIVのポリ−アルファオレフィン(PAO)、グループIIIのフィッシャー−トロプシュ由来基油およびこれらの混合物である。
【0016】
本発明における「グループI」、「グループII」、「グループIII」および「グループIV」の基油により、American Petroleum Institute(API)の定義による分類I、II、IIIおよびIVの潤滑油基油が意味される。これらのAPIの分類は、API Publication 1509、第15版、Appendix E、2002年4月において定義されている。
【0017】
フィッシャー−トロプシュ由来基油は、当技術分野において公知である。「フィッシャー−トロプシュ由来」の用語により、基油が、フィッシャー−トロプシュ工程の合成生成物である、またはこれに由来することが意味される。フィッシャー−トロプシュ由来基油は、GTL(ガストゥリキッド)基油とも呼ばれ得る。本発明の潤滑組成物中の基油として都合よく用いられ得る適切なフィッシャー−トロプシュ由来基油は、例えばEP0776959、EP0668342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP1029029、WO01/18156およびWO01/57166において開示されたものである。
【0018】
合成油には、オレフィンオリゴマー(ポリアルファオレフィン基油、PAOを含む)、二塩基性の酸エステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキルナフタレンおよび脱蝋されたワックス状イソメレート等の炭化水素油が挙げられる。Shell Groupにより「Sell XHVI」の名称(商標)の下で販売されている合成炭化水素基油は、都合よく用いられ得る。
【0019】
ポリ−アルファオレフィン基油(PAO)およびこれらの製造は、当技術分野において周知である。本発明の潤滑組成物中において用いられ得る好ましいポリ−アルファオレフィン基油を、直鎖のCからC32、好ましくはCからC16のアルファオレフィンから得ることができる。上記のポリ−アルファオレフィンのための特に好ましい供給原料は、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンおよび1−テトラデセンである。
【0020】
本発明によれば、本発明による潤滑組成物中において用いられる基油は、ポリ−アルファオレフィン基油およびフィッシャー−トロプシュ由来基油またはこれらの組合せからなる群から選択される基油を少なくとも含む。
【0021】
PAOの製造コストが高い点から、PAO基油よりフィッシャー−トロプシュ由来基油を用いることが強く好まれる。したがって、好ましくは、基油は、50重量%超、好ましくは60重量%超、より好ましくは70重量%超、なおより好ましくは80重量%超、最も好ましくは90重量%超のフィッシャー−トロプシュ由来基油を含有する。特に好ましい実施形態において、5重量%以下、好ましくは2重量%以下の基油は、フィッシャー−トロプシュ由来基油でない。基油の100重量%が、1種以上のフィッシャー−トロプシュ由来基油をベースとすることがなおより好ましい。好ましくは、フィッシャー−トロプシュ由来基油を含む基油または基油混合物は、2から30cStの間、好ましくは2.5から10cStの間(ASTM D 445による)の100℃における動粘度を有する。
【0022】
本発明の潤滑組成物中に組み込まれた基油の総量は、潤滑組成物の総重量に対して、好ましくは、60から99重量%の範囲の量、より好ましくは65から90重量%の範囲の量、最も好ましくは70から85重量%の範囲の量で存在する。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、組成物は清浄剤を含む。本発明による潤滑組成物中において用いられる清浄剤に関する特別な制限はなく、様々な従来の清浄剤が用いられ得る。用いられ得る清浄剤の例には、油溶性の中性および過塩基性のスルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレートおよびナフテネートならびに金属、特にアルカリまたはアルカリ土類の金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、特にカルシウムおよびマグネシウムの他の油溶性のカルボキシレートが挙げられる。好ましい金属の清浄剤には、20から450mg KOH/gのTBN(全塩基価、ASTM D2896による)を有する中性および過塩基性の清浄剤である。好ましい実施形態によれば、清浄剤は、60から350の範囲内等の500mg KOH/g未満、好ましくは240mg KOH/g未満、より好ましくは200mg KOH/g未満のTBN値を有する。過塩基性もしくは中性または両方の清浄剤の組合せが用いられ得る。
【0024】
一般に、清浄剤、または清浄剤の混合物は、本発明による潤滑組成物中に、完全に配合された潤滑油組成物の総重量に基づいて、0.01から9.0重量%、好ましくは1.0から6.0重量%、より好ましくは3.5から5.5重量%の量で存在する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、清浄剤は、サリチレート型清浄剤である。適切なサリチレート型清浄剤の例には、商品名「Infineum C9012」、「Infineum M7101」「Infineum M7102」、「Infineum M7105」、「Infineum M7121」および「Infineum M7125」の下でInfineumから入手可能な製品が挙げられる。
【0026】
さらに、本発明によれば、組成物がアミン化合物を含むことが好ましい。本発明による潤滑組成物中において用いられるアミン化合物に関する特別な制限はなく、様々な従来のアミン化合物が用いられ得る。適切なアミン化合物の例には、モノアミン、ジアミンおよびポリアミンが挙げられる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、アミン化合物は、芳香族アミン化合物である。適切な芳香族アミン化合物の例には、ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン(PANA)、フェニル−β−ナフチルアミンおよびアルキル化α−ナフチルアミンが挙げられる。好ましくは、芳香族アミンは、場合によってアルキル化されたジフェニルアミンおよび場合によってアルキル化されたフェニル−アルファ−ナフチルアミンから選択され、より好ましくは場合によってアルキル化されたジフェニルアミンである。
【0028】
上述の(場合によってアルキル化された)ジフェニルアミン(DPA)化合物は、当技術分野において公知であり、広く市販されている。使用され得る適切なジフェニルアミンおよびフェニル−アルファ−ナフチルアミンの例には、ジフェニルアミン(DPA)、ブチルジフェニルアミン、ジブチルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、ノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、ヘプチルジフェニルアミン、ジヘプチルジフェニルアミン、メチルスチリルジフェニルアミン、ブチル/オクチルアルキル化ジフェニルアミン混合物、ブチル/スチリルアルキル化ジフェニルアミン混合物、ノニル/エチルアルキル化ジフェニルアミン混合物、オクチル/スチリルアルキル化ジフェニルアミン混合物、エチル/メチルスチリルアルキル化ジフェニルアミン混合物、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、オクチルフェニル−ベータ−ナフチルアミン、t−オクチルフェニル−アルファ−ナフチルアミン、フェニル−ベータ−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−アルファ−ナフチルアミン、4−オクチルフェニル−1−オクチル−ベータ−ナフチルアミン、n−t−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−2−ナフチルアミンおよびアルキル化フェニル−アルファ−ナフチルアミン混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ジフェニルアミンおよびフェニル−ナフチルアミンの商業的な例は、CIBA Speciality ChemicalsからIrganox L−06およびIrganox L−57の商品名の下で、ChemturaからNaugalube AMS、Naugalube 438、Naugalube 438R、Naugalube 438L、Naugalube 640、Naugalube 680、Naugalube APANおよびNaugard PANAの商品名の下で、R.T.Vanderbilt Company,IncからVanlube DND、Vanlube NA、Vanlube PNA、Vanlube SL、Vanlube SLHP、Vanlube SS、Vanlube 81、Vanlube 848およびVanlube 849の商品名の下で、AlbemarleからAN−1225の商品名の下で入手可能である。
【0029】
一般に、アミン化合物は、完全に配合された潤滑油組成物の総重量に基づいて、0.1から10.0重量%、好ましくは0.1から5.0重量%、より好ましくは0.2から4.0重量%、最も好ましくは0.3から1.5重量%の範囲内の量で存在する。
【0030】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、芳香族アミン化合物は、一般式(I)
【0031】
【化1】

を有するジフェニルアミンであり、式中、それぞれのRは、独立して、1から16個の炭素原子、好ましくは3から14個の炭素原子、より好ましくは4から12個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0032】
本発明による潤滑組成物は、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、分散剤、清浄剤、過塩基性清浄剤、極圧添加剤、摩擦改良剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不動態化剤、腐食抑制剤、抗乳化剤、消泡剤、シール適合性剤および添加剤希釈基油等の1種以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0033】
当業者は、上記および他の添加剤に精通しているので、本明細書において詳細にさらに検討しない。このような添加剤の具体例は、例えばKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、第14巻、477−526頁に記載されている。上述の添加剤は、潤滑組成物の総重量に基づいて0.01から35.0重量%の範囲内の量で、好ましくは、潤滑組成物の総重量に基づいて、0.05から25.0重量%、より好ましくは1.0から20.0重量%の範囲内の量で、一般に存在する。
【0034】
本発明の潤滑組成物は、1種以上の添加剤を(1種以上の)基油と混合することにより都合よく調製され得る。
【0035】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、組成物は、18から26mM、好ましくは20から24mM、より好ましくは20から23mMの石鹸分を有する。
【0036】
そのうえ、組成物は、組成物の総重量に基づいて、少なくとも1.0重量%のPIBスクシンイミド化合物を含むことが好ましい。PIBスクシンイミド化合物は、PCMOおよびHDDEOのエンジンオイルの技術分野における分散添加剤として知られているので、本明細書においてさらに記載しないが、適切なPIBスクシンイミドを、例えばInfineum International Ltd(アビンドン、英国)から得ることができる。一般に、組成物は、組成物の総重量に基づいて、12.0重量%未満、好ましくは10.0重量%未満、より好ましくは9.0重量%未満のPIBスクシンイミドを含む。また、組成物は、組成物の総重量に基づいて、少なくとも5.0重量%のPIBスクシンイミドを含むことが好ましい。
【0037】
本発明による潤滑組成物は、好ましくは、いわゆる「low SAPS」(SAPS=硫酸塩灰分、リンおよび硫黄)、「mid SAPS」または「regular SAPS」の配合物である。
【0038】
乗用車モーターオイル(PCMO)のエンジンオイルについて、上記の範囲は、
−それぞれ、0.5重量%以下(low SAPS)、0.8重量%以下(mid SAPS)および1.5重量%以下(high SAPS)の硫酸塩灰分含有率(ASTM D 874による)、
−それぞれ、0.05重量%以下(low SAPS)、0.08重量%以下(mid SAPS)および一般に0.1重量%以下(high SAPS)のリン含有率(ASTM D 5185による)、ならびに
−それぞれ、0.2重量%以下(low SAPS)、0.3重量%以下(mid SAPS)および一般に0.5重量%以下(high SAPS)の硫黄含有率(ASTM D 5185による)を意味する。
【0039】
大型車両ディーゼルエンジンオイルについて、上記のSAPSの範囲は、
−それぞれ、1重量%以下(low SAPS)、1重量%以下(mid SAPS)および2重量%以下(high SAPS)の硫酸塩灰分含有率(ASTM D 874による)、
−それぞれ、0.08重量%以下(low SAPS)および0.12重量%以下(mid SAPS)のリン含有率(ASTM D 5185による)、ならびに
−それぞれ、0.3重量%以下(low SAPS)および0.4重量%以下(mid SAPS)の硫黄含有率(ASTM D 5185による)を意味する。
【0040】
その潤滑組成物が、別の用途を対象とする場合においてもなお、その潤滑組成物は、エンジンオイルのための上記のSAPSの範囲を満たすことができる。
【0041】
また、潤滑組成物は、SAE J300の仕様(2009年1月改訂)等の特定の工業規格を満たすことができる。好ましくは、本発明による潤滑組成物は、SAE J300 0W−20、5W−30、 5W−40および10W−40のクランクケースのエンジンオイルの仕様、好ましくは10W−40のものを満たす。SAEは、Society of Automotive Engineersを表す。
【0042】
本発明によれば、組成物は、
−7000cp未満の−25℃における絶対粘度(ASTM D 5293による)、
−少なくとも12.5cStで、一般に16.3未満の100℃における動粘度(ASTM D 445による)、
−少なくとも3.5cPの高温、高せん断の粘度(「HTHS」、ASTM D 4683による)、および
−14重量%未満、好ましくは13.0重量%未満、より好ましくは11.0重量%未満、なおより好ましくは10.5重量%未満、最も好ましくは10.0重量%未満のノアク揮発性(ASTM D 5800による)
を有することが特に好ましい。
【0043】
本発明による潤滑組成物は、内燃エンジン中(エンジンオイルとして)等の様々な用途において、トランスミッションオイル、グリス、作動油、タービンオイル、圧縮機油等として用いられ得る。
【0044】
別の態様において、本発明は、特にASTM D 7097−09により測定される堆積物低減特性を改善するための、本明細書に記載の潤滑組成物の使用を提供する。
【0045】
本発明を、以下の実施例を参照して以下に説明し、それらは、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0046】
潤滑油組成物
様々な組合せの添加剤および基油を配合した。表1に、使用した基油の特性を示す。表2−4に、それぞれの基油(「基油1」または「基油2」)の中に組み込まれたときの添加剤の量を示す。表2および表4における「ブランク1」、ならびに表3における「ブランク3」および「ブランク4」を除くすべての組成物は、酸化防止剤(添加剤「A0」)500ppmを含有しており、添加剤量(残りは基油、および500ppmのA0)は、基油を加えた(1種以上の)添加剤の総重量に基づいて、重量%で与えられる。表2および表4における「ブランク2」は、500ppmの上述のA0の他に、他の添加剤を含有していなかった。参照し易いように、表2および表4は、基油、添加剤A0、および2種以上の他の添加剤の組合せを含有する「混合物1−38」に対する参照も含む。
【0047】
「基油1」(すなわち、「BO1」または「GTL 4」)は、約3.9cSt(mm−1)の100℃における動粘度(ASTM D445)を有するフィッシャー−トロプシュ由来基油であった。基油1を、例えばWO−A−02/070631に記載の方法により都合よく製造することができ、この教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
「基油2」(すなわち「BO2」)は、約4.3cStの100℃における動粘度(ASTM D445)を有する市販のグループIIIの基油であった。基油2は、例えばSK Energy(ウルサン、韓国)から、「Yubase 4」の商品名の下で市販されている。
【0049】
【表1】

【0050】
以下の添加剤A0−A17を用いた。すなわち、
−A0:オクチル化/ブチル化ジフェニルアミン(DPA),CIBA Speciality Chemicals(バーゼル、スイス)から商品名「Irganox L−57」の下で入手可能。
−A1:低BI(塩基性度指数)サリチレート清浄剤(Ca系)、Infineum International Ltd(アビンドン、英国)から商品名「Infineum M7102」の下で入手可能。特性:Vk40(270)、Vk100(19)、TBNE(全塩基価の当量(ASTM D 2896)、mgKOH/g)=64、Ca(重量%)=2.3。
−A2:中BIサリチレート清浄剤(Ca系)、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum M7121」の下で入手可能。特性:Vk40(1130)、Vk100(95)、TBNE(mgKOH/g)=225、Ca(重量%)=8.0%、Mg(重量%)=0.24。
−A3:高BIサリチレート清浄剤(Ca系)、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum M7125」の下で入手可能。特性:Vk40(835)、Vk100(100)、TBNE(mgKOH/g)=350、Ca(重量%)=12.5、Mg(重量%)=0.3。
−A4:酸性有機化合物、ホウ素化合物および塩基性有機化合物の反応生成物、Chemturaから入手可能。例えば、US2005/0172543、特にこの段落[0025]−[0077]を参照されたい。
−A5:スルホネート清浄剤、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9350」の下で入手可能。
−A6:フェネート清浄剤、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9380」の下で入手可能。
−A7:過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、Chevron Oronite S.A.(ルバロアペレ、仏国)から、商品名「OLOA 249 SX」の下で入手可能。
−A8:フェネート清浄剤、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9394」の下で入手可能。
−A9:亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDTP)、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9417」の下で入手可能。
−A10:PIBスクシンイミド分散剤、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9280」の下で入手可能。
−A11:ホウ素化低MW無灰分散剤、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9230」の下で入手可能。
−A12:高MWホウ素化無灰分散剤、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9260」の下で入手可能。
−A13:Mgサリチレート清浄剤、Infineum International Ltd.から商品名「C9012」の下で入手可能。
−A14:スルホネート清浄剤、Infineum International Ltd.から商品名「Infineum C9330」の下で入手可能。
−A15:ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体、Shanghai Sanzheng Polymer Companyから商品名「CH−5」の下で入手可能。
−A16:ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体、Shanghai Sanzheng Polymer Companyから商品名「CH−7」の下で入手可能。
−A17:フェネート清浄剤、Chevron Oronite S.A.から商品名「OLOA 219C」の下で入手可能。
【0051】
【表2】



【0052】
TEOST MHT試験
本発明による潤滑組成物の、改善されたピストン堆積物特性を示すために、ASTM D 7097−09による熱酸化エンジンオイルシミュレーション試験により(TEOST MHT)による、適度な高温でのピストン堆積物の測定のための標準的な試験方法を用いた測定を行った。この試験は、285℃において酸化的で触媒的(0.1g Pb/Fe/Sn/ 液体ナフテン)な条件下で、薄い膜で、ロッドの上方のエンジンオイル8.5gの反復的な通過に曝される、特別に構成された試験ロッド上に形成される堆積物の質量を測定する。ASTM D 7097−09において概説される標準的な条件を用いて得られた全堆積物(フィルター堆積物+ロッド堆積物)についての測定値を、上記の表2に示す。
【0053】
カムバッフルベンチスクリーナー試験
潤滑組成物の堆積物制御特性を示すために、以下の評価、すなわちBlack=全く清浄でない、+=清浄および++=完全に清浄を用いた以外は、WO2007/128740(28頁11行−29頁4行を参照されたい。)に記載のベンチスクリーナー試験を用いた測定を行った。測定された評価を、以下の表3に示す。
【0054】
上記で用いたのと同じ基油、BO1およびBO2を用いた。また、添加剤についての定義は、上記に示した。
【0055】
【表3】

【0056】
コマツホットチューブ試験
高温における本発明による潤滑組成物の、改善されたピストン堆積物特性を示すために、標準的なコマツホットチューブ試験(「KHTT」,JPI−5S−55−99による、JPIは石油学会)を用いた測定も行った。測定された評価を、以下の表4に示す。
【0057】
上記で用いたのと同じ基油、BO1およびBO2を用いた。また、添加剤についての定義は、上記に示した。
【0058】
【表4】


【0059】
SAE J1899(Grade50)の配合物
さらに、航空ピストンエンジンにおいて用いるためのSAE J1899(Grade50)の仕様(2005年8月改訂)を満たす様々な組成物を配合した。
【0060】
表5に、試験した潤滑組成物(実施例1および2ならびに比較例1および2)の組成を示し、成分の量を、組成物の総重量に基づいて重量%で示す。
【0061】
「基油3」は、約31.6cSt(mm−1)の100℃における動粘度(ASTM D445)を有する市販のグループIの基油であった。基油3は、例えばShell Canada Products(ブロックビル、オンタリオ、カナダ)から商品名「HVI 650」の下で市販されている。
【0062】
「基油4」は、約8cSt(mm−1)の100℃における動粘度(ASTM D445)を有するフィッシャー−トロプシュ由来基油(「GTL 8」)であった。このGTL基油を、例えばWO02/070631に記載の方法と同様に都合よく製造することができ、この教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
「基油5」は、約5cStの100℃における動粘度(ASTM D445)を有するフィッシャー−トロプシュ由来基油(「GTL 5」)であり、このGTL基油は、例えば上記のWO02/070631に記載の方法と同様に都合よく製造され得る。
【0064】
「CH−5」は、Shanghai Sanzheng Polymer Companyから商品名「CH−5」の下で市販されているポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体であった。「CH−5」は、ASTM D 4739により測定したときに、約2.0mg.KOH/gのTBN値を有する。そのうえ、「CH−5」は、ICP−AESにより測定したときに、約0.86重量%の硫黄含有率を有する。
【0065】
「Syn−O−Ad 8485」は、Supresta(Akzo Nobel、アメルスフォールト、オランダ)から商品名「Syn−O−Ad 8485」の下で市販されている製品であった。Syn−O−Ad 8485は、60重量%以下のトリアルキル化トリアリールホスフェートエステルを含むトリアリールエステルの混合物を含有する。
【0066】
「添加剤パッケージ」(すべてのSAE J1899(Grade50)の配合物において同じもの)は、フェノール系酸化防止剤、粘度調整剤、流動点降下剤、トリアゾール型腐食抑制剤、グリセロールモノオレエート型摩擦改良剤および消泡剤を含む、従来の組合せの添加剤を含有していた。
【0067】
実施例1−2および比較例1−2の組成物を、従来の潤滑剤混合手順を用いて、基油を添加剤パッケージおよび他の添加剤と混合することにより得た。
【0068】
【表5】

【0069】
実施例1および2(CH−5を含有)によるSAE J1899(Grade50)の配合物は、改善された鉛分散特性をもたらすと思われた。
【0070】
検討
表2から分かり得る通り、フィッシャー−トロプシュ由来基油(基油1)中で3.5から70mg KOH/gのTBN値、および15から30mMの石鹸分を有する本発明による組成物についての堆積防止特性の改善は、鉱物由来基油(基油2)をベースとした同じ配合物と比べたときに進歩している。
【0071】
また、フィッシャー−トロプシュ由来基油を含有し、API GL−5型の添加剤化学物質を用いたSAE 75W−80のトランスミッションフルードは、約600000kmの間、ギヤボックスを運転したときに、ギヤおよびベアリングの部品に、目に見える摩耗、スラッジおよび堆積物を生じないことが見出された。オイルの分析によると、著しいオイルの劣化は示されず、ごく遅い金属の摩耗速度が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー−トロプシュ由来基油およびポリ−アルファオレフィン(PAO)基油またはこれらの組合せからなる群から選択される基油を含み、ASTM D 2896により測定される3.5から70mg KOH/gのTBN(全塩基価)値を有し、15から30mMの石鹸分を有する潤滑組成物。
【請求項2】
基油が、50重量%超、好ましくは60重量%超、より好ましくは70重量%超、なおより好ましくは80重量%超、最も好ましくは90重量%超のフィッシャー−トロプシュ由来基油を含有する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
清浄剤、好ましくはサリチレート型清浄剤を含む、請求項1または2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
清浄剤が、500mg KOH/g未満、好ましくは60から350mg KOH/gの範囲内のTBN値を有する、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
アミン化合物、好ましくは芳香族アミン化合物、より好ましくはジフェニルアミンおよびフェニル−アルファ−ナフチルアミンから選択されるアミン化合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
芳香族アミン化合物が、一般式(I)
【化1】

[式中、それぞれのRは、独立して、1から16個の炭素原子、好ましくは3から14個の炭素原子、より好ましくは4から12個の炭素原子を有するアルキル基である。]
を有するジフェニルアミンである、請求項5に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
18から26mM、好ましくは20から24mMの石鹸分を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
組成物の総重量に基づいて、少なくとも1.0重量%のPIBスクシンイミド化合物を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項9】
−1.0重量%以下の硫酸塩灰分含有率、
−0.08重量%以下のリン含有率、および
−0.3重量%以下の硫黄含有率
を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項10】
特にASTM D 7097−09により測定される堆積物低減特性を改善するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の潤滑組成物の使用。

【公開番号】特開2011−195837(P2011−195837A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−57460(P2011−57460)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】