説明

潤滑組成物

【課題】ポリマー性粘度指数向上剤を含まず、高いVIを有し、最高温度において有効な潤滑剤として作用するのに十分な粘性を維持し、さらに、低温度でポンプ輸送するのに十分な流動性を維持する組成物の提供。
【解決手段】(i)フィッシャー・トロプシュ由来基油および(ii)総濃度が最大で2重量%の潤滑剤用添加剤を含み、少なくとも140の粘度指数および最大で100mm/秒の40℃における動粘度を有しており、ポリマー性粘度指数向上剤を本質的に含まない潤滑組成物。潤滑組成物は、向上した極圧およびせん断安定特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑組成物および潤滑組成物を含む作動液に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は、例えば製造、建設および輸送において作動液として広範に使用されている。
【0003】
高い粘度指数(VI)が、外部温度にさらされるまたは温度変化に特に鋭敏な移動型または据置型機器専用の作動油には必要とされる。高いVIを有する油は、温度に伴う粘度変動がより小さい。すなわち、高いVIを有する油は、最高温度において有効な潤滑剤として作用するのに十分な粘性を維持しており、低温度でポンプ輸送するのに十分な流動性を維持している。
【0004】
「マルチグレード」な作動液、すなわち比較的高い粘度指数(VI)(例えば>140)を有し、動作温度が大幅に変動し得る機器内において使用可能な作動液を処方するとき、処方者は、基油およびVI向上剤の種類ならびに量を適切に選択することにより、所望のVIを得ることができる。
【0005】
API グループ I鉱物油は一般に90−100の粘度指数を有する。他の種類の基油、例えばポリα−オレフィン(PAO)およびエステルはそれぞれ、約135のVIおよび約160のVIを有し得る。
【0006】
「VI向上剤」、「VI調整剤」または「増粘剤」は従来、所期の組成物のVIを増大するのに使用されてきた。粘度指数向上剤の例には、非分散型粘度指数向上剤として、ポリメタクリレートおよびエチレン/プロピレンコポリマーやスチレン/ジエンコポリマーなどのオレフィンコポリマーなど、ならびにこれらと窒素含有モノマーを共重合することによって得られるものなどの分散型粘度指数向上剤が挙げられる。VI調整剤の増粘力またはVI付加力は通常、これの分子量に伴って増大する。しかし、VI向上剤の分子量が増大するに伴い、せん断安定性は減少する。「せん断安定性」とは、大分子(通常はポリマー)が、油圧系の周囲を通過するときに使用中に分解する傾向である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、処方者は、所望の目標を満たす組成物を処方するため、基油(または基油混合物)、増粘力およびせん断安定性を慎重に選択する必要がある。
【0008】
せん断安定性が向上した、高粘度指数の潤滑組成物を処方することは望ましい。
【0009】
粘度向上剤を必要としない、高粘度指数の潤滑組成物を処方することは望ましい。
【0010】
極圧および耐摩耗特性が向上した潤滑組成物を処方することは、さらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、これらおよび他の有益性が、フィッシャー・トロプシュ由来基油を含む潤滑組成物の使用によって実現できることが今や見出された。
【0012】
(発明の要旨)
本発明によれば、(i)フィッシャー・トロプシュ由来基油および(ii)総濃度が最大で2重量%の潤滑剤用添加剤を含み、少なくとも140の粘度指数および最大で100mm/秒の40℃における動粘度を有し、ポリマー性粘度指数向上剤を本質的に含まない潤滑組成物が提供される。
【0013】
驚くべきことに、本発明の組成物は、ポリマー性粘度向上剤を必要とせずに高い粘度指数を有することが見出された。驚くべきことに、本発明の組成物は、向上したせん断安定性および極圧特性を有することも見出された。
【0014】
本発明の別の態様によれば、(i)フィッシャー・トロプシュ由来基油および(ii)総濃度が最大で2重量%の潤滑剤用添加剤を含み、少なくとも140の粘度指数および最大で100mm/秒の40℃における動粘度を有し、ポリマー性粘度指数向上剤を本質的に含まない潤滑組成物の耐摩耗特性を向上させるための、フィッシャー・トロプシュ由来基油の使用が提供される。
【0015】
本発明のさらに別の態様によれば、(i)フィッシャー・トロプシュ由来基油および(ii)総濃度が最大で2重量%の潤滑剤用添加剤を含み、少なくとも140の粘度指数および最大で100mm/秒の40℃における動粘度を有し、ポリマー性粘度指数向上剤を本質的に含まない潤滑組成物のせん断安定性を向上させるための、フィッシャー・トロプシュ由来基油の使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な記述)
本発明の潤滑組成物は、少なくとも140の(ASTM D2280による)粘度指数を有する。一実施形態において、潤滑組成物は少なくとも160の粘度指数を有する。別の実施形態において、潤滑組成物は少なくとも180の粘度指数を有する。
【0017】
本発明の潤滑組成物は、最大で100mm/秒の40℃における(ASTM D445による)動粘度を有する。本発明の一実施形態において、潤滑組成物は、32mm/秒の40℃における動粘度(すなわちISO32)を有する。本発明の別の実施形態において、潤滑組成物は、46mm/秒の40℃における動粘度(すなわちISO46)を有する。本発明の別の実施形態において、潤滑組成物は、68mm/秒の40℃における動粘度(すなわちISO68)を有する。本発明のさらに別の実施形態において、本発明の潤滑組成物は、100mm/秒の40℃における動粘度(すなわちISO100)を有する。
【0018】
本発明の潤滑組成物は、フィッシャー・トロプシュ由来基油を含む。フィッシャー・トロプシュ由来基油は、潤滑組成物の好ましくは80重量%から99.5重量%までの範囲内の濃度において存在し、より好ましくは90重量%から99.5重量%までの範囲内の濃度において存在し、さらにより好ましくは98重量%から99.5重量%までの範囲内の濃度において存在する。
【0019】
フィッシャー・トロプシュ由来基油は、当分野において既知である。「フィッシャー・トロプシュ由来」という用語は、基油が、フィッシャー・トロプシュ法の合成生成物であるまたはこの合成生成物に由来することを意味する。フィッシャー・トロプシュ由来基油は、GTL(ガス液化)基油とも称することができる。潤滑組成物内で基油として好都合に使用できる適切なフィッシャー・トロプシュ由来基油は例えば、EP0776959、EP0668342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP1029029、WO01/18156およびWO01/57166において開示されているものである。
【0020】
本明細書において用いるためのフィッシャー・トロプシュ由来基油は、100℃における(ASTM D445による)動粘度が、好ましくは4mm/秒から20mm/秒までの範囲内であり、より好ましくは4mm/秒から10mm/秒までの範囲内である。2種以上のフィッシャー・トロプシュ由来基油の混合物も、本明細書において用いることができる。
【0021】
本発明の一実施形態において、本明細書において用いられるフィッシャー・トロプシュ由来基油は、4から6mm/秒までの範囲の100℃における動粘度を有する。
【0022】
本発明の別の実施形態において、本明細書において用いるためのフィッシャー・トロプシュ由来基油は、7から9mm/秒までの範囲の100℃における動粘度を有する。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、フィッシャー・トロプシュ由来基油は、一方が4から6mm/秒までの範囲の100℃における動粘度を有し、他方が7から9mm/秒までの範囲の100℃における動粘度を有する2種のフィッシャー・トロプシュ由来基油の混合物である。
【0024】
本発明の潤滑組成物は、高い濃度のポリマー性粘度向上剤を必要とせず、ポリマー性粘度向上剤を本質的に含まない。ポリマー性粘度指数向上剤の例には、非分散型粘度指数向上剤として、ポリメタクリレートおよびエチレン/プロピレンコポリマーやスチレン/ジエンコポリマーなどのオレフィンコポリマーなど、ならびにこれらと窒素含有モノマーを共重合することによって得られるものなど、分散型粘度指数向上剤が挙げられる。本明細書において使用される「ポリマー性粘度向上剤を本質的に含まない」という用語は、乾燥ポリマー粘度向上剤の濃度が、好ましくは潤滑組成物の0.1重量%未満であることを意味する。特に好ましい実施形態において、本発明の潤滑組成物はポリマー性粘度向上剤を含まない、すなわち本潤滑組成物は、ポリマー性粘度向上剤を0重量%含む。
【0025】
本発明の潤滑組成物は、フィッシャー・トロプシュ由来基油に加えて、1種または複数種のさらなる基油を含有することもできる。1種または複数種のさらなる基油は、フィッシャー・トロプシュ由来基油および潤滑剤用添加剤に合わせると、粘度指数が少なくとも140である潤滑組成物を実現するグループ I−V基油から選択することができる。
【0026】
本発明における「グループ I−V」基油は、アメリカ石油協会(API)カテゴリーI−Vの定義に従った潤滑油基油を意味する。このようなAPIカテゴリーは、API Publication1509(第15版、Appendix E、2002年4月)において定義されている。
【0027】
フィッシャー・トロプシュ由来基油以外で本明細書において用いることができる適切な基油の例は、重質PAO類(例えばPAO8以上)などのグループ IV基油およびShell社から商標「XHVI」で市販されている基油などのグループ III異性化ワックスを含む。
【0028】
本明細書における特に好ましい実施形態において、潤滑組成物は、フィッシャー・トロプシュ由来基油以外のさらなる基油を含まない。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、耐摩耗添加剤、抗酸化剤、腐食防止剤、消泡剤、抗乳化剤、流動点降下剤およびこれらの混合物など、1種または複数種の添加剤をさらに含む。潤滑組成物内に存在する前述の添加剤の量は、使用されている具体的な化合物に依存する。上述および他の添加剤は当分野において周知なので、これらの全詳細は本明細書において記載されていない。加えられる添加剤の総量は潤滑組成物に基づき、最大で2wt%であり、好ましくは最大で1wt%であり、より好ましくは最大で0.75wt%である。潤滑組成物内に存在する添加剤の総量は潤滑組成物の重量に対し、好ましくは少なくとも0.5wt%であり、より好ましくは少なくとも0.6wt%である。
【0030】
耐摩耗添加剤の例は、亜鉛系耐摩耗添加剤、無亜鉛耐摩耗添加剤または無灰耐摩耗添加剤である。
【0031】
腐食防止剤の例は、N−アルキルサルコシン酸、フェノキシ酢酸アルキレート、イミダゾリン、EP 0 801 116において開示されているリン酸エステルのアルカリ土類金属塩およびアルケニルコハク酸エステル系腐食防止剤である。
【0032】
抗酸化剤の例は、アミン系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、フェノール系抗酸化剤およびリン系抗酸化剤である。これらの抗酸化剤は、個別に使用することもできる、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0033】
発泡防止剤の例は、ジメチルポリシロキサン、ジエチルシリケートおよびフッ化シリコーンなどの有機シリケートならびにポリアルキルアクリレートなどの非シリコーン発泡防止剤である。
【0034】
抗乳化剤の例は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテルなど、ポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤である。
【0035】
流動点降下剤の例は、ポリメタクリレート系ポリマーである。
【0036】
本発明による潤滑油組成物は、1種以上の基油および1種以上の潤滑剤用添加剤を一緒に混合することによって好都合に調製できる。
【0037】
潤滑組成物は、作動液組成物を処方するのに特に有用である。したがって、本発明によれば、本明細書に記載された潤滑組成物を含む作動液組成物が提供される。
【0038】
本発明は、潤滑組成物の極圧特性を向上するためのフィッシャー・トロプシュ由来基油の使用にも関する。
【0039】
本発明は、潤滑組成物のせん断安定特性を向上するためのフィッシャー・トロプシュ由来基油の使用にさらに関する。
【0040】
本発明は、本発明の範囲のいかなる限定も意図しない下記実施例を参照しながら、以下に記述されている。
【実施例】
【0041】
実施例1および比較例1
潤滑油組成物を、以下の表2において示されている量の基油および添加剤を混合することにより、調製した。比較例1における基油は、鉱物油だった。実施例1における基油は、2種のGTL基油[100℃における動粘度が、5.1cSt(GTL5.1)のものおよび7.7cSt(GTL7.7)のもの]の混合物だった。2種のGTL基油の物理的特性は、以下の表1において示されている。GTL基油は、W02004/07647に記載された方法に従って調製できる。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
これらの極圧特性を計測するため、潤滑組成物は、CEC L−07−A−952に従ったFZG Stage Failure Testを受けた。組成物のせん断安定性も、CEC L−45−A−99に従って測定された。これらの試験の結果は、以下の表3において示されている。
【0045】
【表3】

表3から分かるように、実施例1は、粘度調整剤を含有しないにもかかわらず、高い粘度指数(VI=146)を示している。さらに、実施例1は比較例1よりも高いFZG荷重ステージを示しており、実施例1(GTL基油を含有)が、比較例1(鉱物油基油を含有)より良好な極圧耐摩耗特性を有することを明示している。さらに、実施例1は、比較例1より良好なせん断安定特性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)フィッシャー・トロプシュ由来基油および(ii)総濃度が最大で2重量%の潤滑剤用添加剤を含み、少なくとも140の粘度指数および最大で100mm/秒の40℃における動粘度を有しており、ならびにポリマー性粘度指数向上剤を本質的に含まない潤滑組成物。
【請求項2】
潤滑剤用添加剤が、最大で1重量%の総濃度において存在する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
潤滑剤用添加剤が、最大で0.75重量%の総濃度において存在する、請求項1または2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
潤滑組成物がポリマー性粘度指数向上剤を含まない、請求項1から3までのいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項5】
フィッシャー・トロプシュ由来基油が、4mm/秒から20mm/秒までの範囲内の100℃における動粘度を有する、請求項1から4までのいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項6】
フィッシャー・トロプシュ由来基油が、4mm/秒から10mm/秒までの範囲内の100℃における動粘度を有する、請求項1から5までのいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項7】
潤滑剤用添加剤が、耐摩耗添加剤、抗酸化剤、腐食防止剤、消泡剤、抗乳化剤、流動点降下剤およびこれらの混合物から選択される、請求項1から6までのいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項8】
請求項1から10までのいずれかに記載の潤滑組成物を含む、作動液。
【請求項9】
(i)フィッシャー・トロプシュ由来基油および(ii)総濃度が最大で2重量%の潤滑剤用添加剤を含み、少なくとも140の粘度指数および最大で100mm/秒の40℃における動粘度を有しており、ならびにポリマー性粘度指数向上剤を本質的に含まない潤滑組成物の耐摩耗特性を向上させるための、フィッシャー・トロプシュ由来基油の使用。
【請求項10】
(i)フィッシャー・トロプシュ由来基油および(ii)総濃度が最大で2重量%の潤滑剤用添加剤を含み、少なくとも140の粘度指数および最大で100mm/秒の40℃における動粘度を有しており、ならびにポリマー性粘度指数向上剤を本質的に含まない潤滑組成物のせん断安定性を向上させるための、フィッシャー・トロプシュ由来基油の使用。

【公開番号】特開2011−236407(P2011−236407A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−62058(P2011−62058)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】