説明

潰瘍性大腸炎及び関連した疾患における抗TNF処置のためのバイオマーカー

被験者における潰瘍性大腸炎などのTNF媒介性関連疾患用の標的療法の適合性及び/又は有効性を評価するための方法及びキットであって、潰瘍性大腸炎などの炎症性胃腸疾患の抗TNF応答者によって上方又は下方調節される2つ以上の遺伝子の存在、不在、及び/又は発現の規模を評価する、方法及びキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2008年8月25日に出願された米国出願第61/091,641号に対する優先権を請求し、この内容は、参照することにより、その全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、潰瘍性大腸炎などのTNF媒介性の発現プロファイルの同定及びこの疾患の指標となる核酸に関し、並びに潰瘍性大腸炎及び関連する疾病の診断についての、かかる発現プロファイル及び核酸の使用に関する。本発明は更に、候補剤及び/又は潰瘍性大腸炎を制御する標的を、同定、使用、及び試験することを目的とする方法に関する。
【背景技術】
【0003】
生物製剤を用いる潰瘍性大腸炎の処置には、多数の課題が存在する。どの患者集団を調査するかを判定し、どの被験者が処置に対して応答し、かつどの被験者が続く処置に対しての応答性を失うのかを予測することは、処置及び臨床研究の設計に大きな影響を持つ。バイオマーカーはこれらの疑問に答えるのに有用であり得る。
【0004】
バイオマーカーは、正常な生物学的過程、発病過程、又は治療介入に対する薬理学的な応答性の指標として客観的に測定され評価される特徴として定義される(Biomarkers Working Group,2001,infra)。バイオマーカーの定義は、発現の変化が、疾病若しくは進行の危険性の増加に、又は所定の処置に対する疾病の応答性の予測に、関連付けられ得るタンパク質として最近更に定義された。
【0005】
腫瘍壊死因子α(TNFα)は、適応免疫系が活性化される前に、微生物の進入に対して即時的な宿主防御を提供する自然免疫応答において、重要なサイトカインである。TNFαは、タンパク質分解によるプロセスを経て可溶性トリマーを形成する、トランスメンブレン前駆体として発現する。膜結合型及び可溶型形態のTNFはどちらも、その受容体であるTNFRSF1A及びTNFRSF1B(それぞれTNFR1及びTNFR2としても既知)へと結合して、いくつかの他の炎症性サイトカイン及び一般的な炎症マーカーの発現を開始する。TNFαは、多くの慢性の、免疫媒介性の炎症性疾患の既知のメディエーターである。
【0006】
インフリキシマブ(レミケード(登録商標))、ゴリムマブ(シンポニ(登録商標))、アダリムマブ(ヒュミラ(登録商標))及びエタネルセプト(エンブレル(登録商標))などの、患者における使用が認可されている多数の生物学的TNFα拮抗薬が存在する。主要なメカニズムは、血中のTNF濃度を低下させることにより、患者に全身性の免疫抑制を引き起こすことなく全身性の炎症を軽減し、疾患の臨床的徴候を寛解することである。これらの剤はリウマチ様関節炎(RA)、乾癬性関節炎(PsA)、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、乾癬、及び強直性脊椎炎の処置においては有効であることがこれまで示されてきた。
【0007】
潰瘍性大腸炎(UC)は、結腸の突発性炎症性腸疾患である。UCの病理発生は、胃腸管内に通常見出される細菌に対する異常応答をもたらす遺伝因子、免疫応答、微生物感染及び環境因子の間の相互作用に依存する。遺伝子発現は疾病の全課程を制御するのみでなく、活動性疾病の臨床的発現及び寛解期の疾病の根底にある過程を反映する。
【0008】
現在のUC処置には、抗炎症剤、免疫調節剤、及びインフリキシマブを含む抗−腫瘍壊死因子α(TNFα)剤が挙げられる。インフリキシマブは、ACT 1及びACT 2試験で示されたように、UCを有する患者の臨床的応答及び臨床的寛解を誘導及び維持する。
【0009】
これらの抗TNFα剤はいずれも、潰瘍性大腸炎を処置するものと承認されていないが、TNFαは炎症性胃腸疾患の多数の局面に関係している。しかしながら、抗TNF治療に対する応答には個人差があり、一部の患者では治療効果が得られない場合がある。多数の遺伝的変異が、異なる応答に重要な役割を果たし得ると仮定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、潰瘍性大腸炎などの免疫媒介性炎症性疾患と他の疾病及び状態とを診断及び処置するための方法、並びに患者がどのように治療介入に応答し得るかを予測するための方法、を開発するのに有用な新しい遺伝子マーカーを血清若又は血漿から同定しかつ特徴付ける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、潰瘍性大腸炎及び/若しくは関連する疾病若しくは疾患を診断及び/若しくは処置する方法若しくはキットに関し、並びに/又は処置のための候補剤の適合性を予測する方法若しくはキットに関する。本発明は、治療に非応答性の患者又はプラシーボ処置を行った患者と比較して、潰瘍性大腸炎の処置に対して応答性の(潰瘍性大腸炎の症状の低減において効果的である)患者において発現レベルが修正されている、被験者とする特定の遺伝子の発見を含む。修正された発現レベルは、処置に対する患者の応答性を予測するバイオマーカープロファイルとして役立ち、及び/又は好ましい投薬経路を提供することができる、プロファイルを構成する。
【0012】
1.本明細書に開示する主題は、潰瘍性大腸炎などの炎症性胃腸疾患を有する被験者において、抗TNF療法により上方又は下方調節される遺伝子セットの遺伝的関連(及びそれらの遺伝子の発現)に関する。上方又は下方調節される遺伝子は、BCL6(ジェンバンクAcc.No.AW264036;SEQ ID NO:118)及び遺伝子(ジェンバンクAcc.No.AI689210;SEQ ID NO:123)を含み、場合により更にC5AR1((ジェンバンクAcc.No.NM001736;SEQ ID NO:119)、FOLR1((ジェンバンクAcc.No.U81501;SEQ ID NO:142)及び/又はOSM(ジェンバンクAcc.No.A1079327;SEQ ID NO:173)を含み、場合により更に図7に示す遺伝子(例えば、SEQ ID NOs:110〜203)を含む。これらの遺伝子の発現プロファイルは、SEQ ID NOs:1〜109からなる群より選択される1つ以上の核酸プローブを用いて測定することができる。
【0013】
被験者は、少なくとも1つの抗TNFα剤(例えば、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エンブレル(商標)、ヒュミラ(商標)、又は他の抗TNF生物学的製剤又は小分子薬)に治療反応を示し、ここで被験者は、胃腸疾患の軽度、中度、重度の小児又は成人型、及び非限定的にステロイド、メトトレキサート又はNSAID抵抗性型を含む他の型を含む、潰瘍性大腸炎又は非限定的にクローン病、炎症性腸障害(inflammatory bowel disorder)などの他の胃腸疾患と診断されている。
【0014】
1つの実施形態において、本発明は、潰瘍性大腸炎又は関連する疾患の処置のための候補剤の有効性を評価する方法において、例えば、処置の有効性が症状又は従来の疾病特徴では測定できない場合がある処置の初期の時点で、遺伝子パネルを用いる。
【0015】
特定の実施形態において、本発明は、処置に先だって、プロファイルを構成する、1つ以上の遺伝子の遺伝子発現のパターンに基づいて、潰瘍性大腸炎の処置の適合性を予測する方法を含む。
【0016】
加えて本発明は、特定の治療剤による処置の候補である、潰瘍性大腸炎及び/又は関連する疾病若しくは疾患の患者を、パネルの1つ以上のこれらのTNF受容体SNPの発現プロファイルを評価することによって、同定する方法を含む。
【0017】
更なる実施形態において、潰瘍性大腸炎関連遺伝子プロファイルは、予後又は診断目的のためのアレイに基づく方法を作成するために使用され、かかる方法は以下の(a)〜(d)を含む。
【0018】
a)被験者から得られた標本から、核酸試料を調製することと、
b)試料を、BCL6(ジェンバンクAcc.No.AW264036;SEQ ID NO:118)遺伝子及びtx82a04.x1(ジェンバンクAcc.No.AI689210;SEQ ID NO:123)の部分を含み、場合により更にC5AR1((ジェンバンクAcc.No.NM001736;SEQ ID NO:119)、FOLR1((ジェンバンクAcc.No.U81501;SEQ ID NO:142)及びOSM(ジェンバンクAcc.No.A1079327;SEQ ID NO:173)を含み、場合により更に図7又は10に列挙された遺伝子(例えば、SEQ ID NOs:110〜203)を含む、核酸セグメントのパネル(例えば、SEQ ID NOs:1〜109)と接触させること。前記被験者は、胃腸疾患の軽度、中度、重度の小児又は成人型、及び非限定的にステロイド、メトトレキサート又はNSAID抵抗性型を含む他の型を含む、潰瘍性大腸炎又は非限定的にクローン病、炎症性腸障害などの他の胃腸疾患を有し、TNFα剤(例えば、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エンブレル(商標)、ヒュミラ(商標)又は他の抗TNF生物学的製剤又は小分子薬)に対して治療反応を有する。
【0019】
所望により、これらの変化の有意性を評価し、どの構成要素がパネルの有意な構成要素であるのか同定するために、遺伝子SNP対応パネルの構成要素の変化の発現レベルについて統計解析が実施される。
【0020】
代替的な実施形態において、本発明は、遺伝子発現のパターンに基づく潰瘍性大腸炎及び/又は関連する疾病若しくは疾患を処置するための、候補剤の適合性を予測するためのキットを含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】インフリキシマブ応答者と非応答者との間のベースライン経路分布分析。GeneOntologyアノテーションを有する入力リスト中の遺伝子の合計数のうちの、所定の経路における遺伝子の百分率(X軸)として示す、ベースラインにて応答者と非応答者との間で差異的に発現された遺伝子の経路分布分析。全てのエンリッチメントは、統計的に有意である(フィッシャーの正確確率検定スコアp値<0.05)。
【図2】20個のプローブセットのベースライン分類指標を用いた階層的クラスタリング。インフリキシマブ処置前の、12人の応答者vs.11人の非応答者の試料全体に亘る20個のプローブセット分類指標の階層的クラスタリング。類似性マトリックスは、ピアソン相関約0(GeneSpringにて標準相関)を用いて計算した。
【図3】5個のプローブセットのベースライン分類指標を用いた階層的クラスタリング。インフリキシマブ処置前の、トレーニングセット(A)からの12人の応答者vs.11人の非応答者の試料、又は試験セットからの8人の応答者及び16人の非応答者、のいずれか全体に亘る5個のプローブセット分類指標の階層的クラスタリング。類似性マトリックスは、ピアソン相関約0(GeneSpringにて標準相関)を用いて計算した。
【図4】5個のプローブセット分類指標のインフリキシマブ応答者/非応答者の発現プロファイル。5個のプローブセット分類指標のインフリキシマブ応答者と非応答者とを比較するドットプロット表示。各試料(黒円)の標準化された強度を示す。5個の遺伝子のそれぞれに関する各応答者集団及び非応答者集団に関する強度中央値、75及び25パーセンタイル、並びに最小及び最大値も示す。
【図5】8人の応答者及び16人の非応答者の間の20個のプローブセット分類指標のLeuvenコホート階層的クラスタリングは、誤分類された4人の非応答者と誤分類された1人の応答者が、それぞれ応答者及び非応答者と非常に類似した発現プロファイルを有することを示した。
【図6】ACT1を検証コホートと比較した共通及び独自のプローブセット。
【図7】ベースラインIFXプローブセット分類指標。
【図8】ベースラインIFX予測的シグニチャの特徴。
【図9】分泌小胞の膜、又は好中球多形核白血球の原形質のいずれかにて発現されたタンパク質。
【図10】IFXRとNRを比較する、差異的に調節されたベースライン遺伝子。
【図11】IFXRとNRを比較する、ベースラインにて差異的に発現したサイトカイン及びケモカイン。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
ポリペプチドの「活性」、生物活性及び機能活性は、標準的な技術により、生体内(in vivo)、原位置(in situ)又は生体外(in vitro)で決定するとき、別のタンパク質又は分子との特異的相互作用に応答して潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子パネルの遺伝子、又は遺伝子によりコードされるタンパク質により発揮される活性を指す。このような活性は、第2のタンパク質に関連する若しくはそれに対する酵素活性のような直接的活性、又は、タンパク質と第2のタンパク質との相互作用により介在される細胞プロセス、若しくは細胞内シグナル伝達若しくは凝固カスケードに見られるような一連の相互作用のような間接的活性であることができる。
【0023】
「抗体」には、H鎖若しくはL鎖の相補性決定領域(CDR)又はそのリガンド結合部、H鎖若しくはL鎖の可変領域、H鎖若しくはL鎖の定常領域、フレームワーク領域、又はその任意の部分、断片又は変異体の少なくとも1つなどであるが、これらに限定されない、免疫グロブリン分子の少なくとも一部を含む任意のポリペプチド又はペプチド含有分子が挙げられる。用語「抗体」は、更に、抗体、その消化断片、特定部分及び変異体を包含することを意図し、これには抗体模倣薬が挙げられ、あるいは抗体の構造及び/若しくは機能を模倣する抗体の部分若しくはその特定断片若しくは一部を含み、単鎖抗体及びその断片が挙げられる。例えば、Fab(例えば、パパイン消化による)、Fab’(例えば、ペプシン消化及び部分的還元による)及びF(ab’)2(例えば、ペプシン消化による)、facb(例えば、プラスミン消化による)、pFc’(例えば、ペプシン又はプラスミン消化による)、Fd(例えば、ペプシン消化、部分的還元及び再集合による)、Fv又はscFv(例えば、分子生物学的技術による)断片、及び単一ドメイン抗体(例えば、VH又はVL)が挙げられるが、これらに限定されない抗体断片が、本発明に包含される(例えば、Colligan,et al.,eds.,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,Inc.,NY(1994〜2001年);Colligan et al.,Current Protocols in Polypeptide Science,John Wiley & Sons,NY(1997〜2001年)を参照のこと)。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「アレイ」若しくは「マイクロアレイ」、又は「バイオチップ」若しくは「チップ」は、複数の不動化した標的要素(それぞれの標的要素は「クローン」、「フィーチャー」、「スポット」を含む)、あるいは複数の組成物(例えば以下に更に詳細に議論されるような、固体表面に不動化された核酸分子又はポリペプチドのような生体分子など)を含む画定された領域を含む、製品又はデバイス物品を指す。
【0025】
本発明の核酸配列の「相補体」又は本発明の核酸配列と「〜と相補的なもの」は、第1のポリヌクレオチドと比較したときに、相補的な塩基配列及び逆向きの配向を有するポリヌクレオチド分子を指す。
【0026】
当該技術分野において既知のように「同一性」は、配列を比較することにより判定される、2つ以上のポリペプチド配列間又は2つ以上のポリヌクレオチド配列間の関係である。当該技術分野において、「同一性」はまた、かかる配列の文字列間の適合によって判定されるような、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列間の配列的な関連性の度合いを意味する。「同一性」及び「類似性」は、限定するものではないが、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988、Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993,Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994、Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987、及びSequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York,1991、及びCarillo,H.,and Lipman,D.,Siam J.Applied Math.,48:1073(1988)に記載されるものが挙げられる、既知の方法によって容易に算出することができる。加えて、同一性の割合に関する値は、Vector NTI Suite 8.0(Informax,Frederick,MD)の構成要素であるAlignXのセッティングのデフォルトを用いて作成される、アミノ酸及びヌクレオチド配列アラインメントから得ることができる。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「〜に特異的なハイブリダイズ」、「〜に特異的にハイブリダイズする」、「特異的なハイブリダイゼーション」及び「〜に選択的にハイブリダイズする」は、核酸分子が、厳しい条件下で優先的に特定のヌクレオチド配列に結合すること、二本鎖形成すること、又はハイブリダイズすることを指す。用語「厳しい条件」は、プローブが優先的にその標的配列にハイブリダイズし、他の配列にはより低い程度でハイブリダイズするか又は全くハイブリダイズしない条件を指す。核酸ハイブリダイゼーション(例えばアレイ、サザン又はノーザンハイブリダイゼーションなど)の文脈における、「厳しいハイブリダイゼーション」及び「厳しいハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存性であり、異なる環境パラメータ下においては異なる。本発明を実行するために使用することができる代替的ハイブリダイゼーション(Alternative hybridization)の条件は、以下に詳細に記載する。選択的な態様においては、ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄の条件は、以下に詳細に記載する中程度の条件(moderate conditions)、厳しい条件及び非常に厳しい条件下で実行される。代替的な洗浄条件(alternative wash condition)はまた、本明細書において更に詳細に記載されるように、異なる態様においても使用される。
【0028】
本明細書で使用するとき、語句「標識された生体分子」又は「検出可能な組成物で標識された」又は「検出可能な部分で標識された」は、以下で詳細に記載するように、検出可能な組成物、即ち標識を含む、例えば核酸などの生体分子を指す。標識はまた、以下に記載するように、例えば「分子指標」のようなステムループ構造の形態の核酸などの核酸のような、別の生体分子であることもできる。これは、例えばニックトランスレーション、ランダムプライマー伸長法、変性したプライマーによる増幅などにより、標識された塩基(又は検出可能な標識に結合できる塩基)を核酸に組み込むことを含む。例えば、化学発光標識、放射標識、酵素標識などの任意の標識を用いることができる。標識は、例えば、視覚的、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、物理的、化学的及び/又は化学発光的検出などの任意の手段により検出可能である。本発明は、検出可能な標識を含む固定化核酸を含むアレイを用いることができる。
【0029】
本明細書で使用するとき、用語「核酸」は、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかであるデオキシリボヌクレオチド(DNA)又はリボヌクレオチド(RNA)を指す。かかる用語は、天然のヌクレオチドの既知の類似体を含有している核酸を包含する。用語「核酸」は遺伝子、DNA、RNA、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチドプライマー、プローブ及び増幅産物と互換的に使用される。かかる用語はまた、例えばリン酸ジエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオレート、メチルホスホン酸、ホスホロアミド酸、アルキルホスホトリエステル(alkyl phosphotriester)、スルファミン酸、3’−チオアセタール、メチレン(メチルイミノ)、3’−N−カルバメート、モルホリノカルバメート、及びペプチド核酸(PNAs)などの、DNA骨格の類似体を包含する。
【0030】
本明細書で使用するとき、用語「試料」又は「核酸試料」は、DNA又はRNA、あるいは天然の供給源から単離されたDNA又はRNAの代表的な核酸、を含む試料を指す。「核酸試料」は、他の核酸(例えば、不動化されたプローブ)とのハイブリダイゼーションに適合する形態(例えば可溶な水溶液として)である。試料核酸は特定の細胞又は組織から単離、クローニング又は抽出することができる。核酸試料が調製される細胞又は組織試料は、典型的にはUC又は関連する疾病若しくは状態を有しているか又は有していると疑われる患者から採られる。細胞及び組織試料を単離する方法は当業者に周知であり、限定するものではないが、吸引法、組織切片法、針生検法、及び同様の方法などが挙げられる。しばしば試料は「臨床試料」であり得、凍結切片又はパラフィン切片などの、組織学的な目的のために採られた組織切片を含む、患者由来の試料である。試料はまた、(細胞の)上清又は患者若しくは細胞培養物から採られた細胞そのもの、又は組織培養からの細胞、又は候補剤に対する応答を検出するのに望ましいものであり得る他の培養液からの細胞由来であってもよい。場合によっては、核酸はハイブリダイゼーションに先立ちPCRなどの標準的な技術を用いて増幅してもよい。プローブは1つ以上の特定の(予選択された)部位からの核酸供給源(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅産物の収集物、実質的に染色体全体又は染色体断片、あるいは例えば、BACs、PACs、YACs、及び同様物(以下を参照のこと)などのクローンの収集物としての、実質的にゲノム全体)から調製することができ、総じてプローブはかかる核酸供給源の代表的な核酸であり得る。
【0031】
「核酸」はヌクレオチドのポリマーであり、ヌクレオチドは糖と結合している塩基を含む(糖は順にリン酸などの少なくとも2価の分子をとりなすことで互いに結合されている)。天然に生じる核酸では、糖は2’−デオキシリボース(DNA)又はリボース(RNA)のいずれかである。非天然ポリ又はオリゴヌクレオチドは、修飾された塩基、糖、又は結合分子を含有するが、概して、かかるヌクレオチドは設計された後に、天然に生じる核酸の相補的な性質を模倣することが理解される。非天然のオリゴヌクレオチドの例は、ホスホロチオエート骨格鎖を有するアンチセンス分子組成物である。「オリゴヌクレオチド」は一般的に、30個未満のヌクレオチドを有する核酸分子を指す。
【0032】
用語「プロファイル」は、パターンを意味し、多数の特性の変化の規模及び方向に関する。プロファイルは、厳密に解釈してもよく、即ち、特徴を示すプロファイル内のフィーチャーの規模及び/若しくは数の変化が実質的に参照プロファイルに類似し、あるいはフィーチャーの全て若しくは部分集合の絶対的な一致ではなく傾向を必要とすることにより、それ程厳密に解釈しなくてもよい。
【0033】
用語「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」は、上記で詳細に論じたように、変異体の由来するポリペプチドに実質的に一致する構造及び活性を有する「類似体」又は「保存された変異体」及び「模倣物質」若しくは「ペプチド模倣物質」を含む。
【0034】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合により結合したアミノ酸残基のポリマーであり、ペプチドは一般に12個以下の残基のアミノ酸ポリマーを指す。ペプチド結合は、核酸テンプレートにより導かれるように天然に、又は当該技術分野で周知である方法により合成的に生成することができる。
【0035】
「タンパク質」は、1つ以上のポリペプチド鎖を含む巨大分子である。タンパク質は更に、ペプチド結合の形成に関与しないアミノ酸の側基に結合した置換基を含んでもよい。典型的には、真核細胞の発現により形成されるタンパク質はまた、炭水化物を含有する。タンパク質は、本明細書では、既知であろうとなかろうと、そのアミノ酸配列又は骨格鎖及び置換基の観点で定義される。
【0036】
用語「受容体」は、特異的リガンド又は結合パートナーとの相互作用の結果として、例えば細胞内で、生物活性に影響を及ぼす能力を有する分子を指す。細胞膜結合受容体は、細胞外リガンド結合ドメイン、1つ以上の膜貫通又はトランスメンブレンドメイン、及び典型的にはシグナル伝達に関与する細胞内エフェクタードメインを特徴とする。細胞膜受容体にリガンドが結合することにより、細胞膜を超えて連絡している細胞外ドメインに変化が生じ、1つ以上の細胞内タンパク質と直接的に又は間接的に相互作用し、酵素活性、細胞形状又は遺伝子発現プロファイルのような細胞特性を変化させる。受容体はまた、細胞表面に係留されていなくてもよく、細胞質性、核性であってよく、又は一緒に細胞から放出されてもよい。非細胞関連受容体は、可溶性受容体又はリガンドと呼ばれる。
【0037】
本明細書で引用する全ての刊行物又は特許は、適宜明示されているかどうかによらず、参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、本発明の時点での当該技術分野の状態を示し、並びに/又は、本発明の説明及び使用可能性を提供する。刊行物は、任意の科学刊行物若しくは特許公報、又は全ての記録された電子若しくは印刷型式を含む、任意のメディア型式で利用可能な他の任意の情報を指す。以下の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:Ausubel,et al.,ed.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,NY(1987〜2008年)、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor,NY(1989年)、arlow and Lane,antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY(1989年)、Colligan,et al.,eds.,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,Inc.,NY(1994〜2007年)、Colligan et al.,Current Protocols in Protein Science,John Wiley & Sons,NY(1997〜2007年)。
【0038】
遺伝子パネルの同定及び検証
本発明は、潰瘍性大腸炎の症状を調節する分子のスクリーニングのための新規な方法を提供する。本発明は、胃腸疾患の軽度、中度、重度の小児又は成人型、及び非限定的にステロイド、メトトレキサート又はNSAID抵抗性型を含む他の型を含む、潰瘍性大腸炎又は非限定的にクローン病、炎症性腸障害などの他の胃腸疾患を有する被験者における、抗TNFα剤(例えば、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エンブレル(商標)、ヒュミラ(商標)、又は他の抗TNF生物学的製剤又は小分子薬)に治療反応を有する、潰瘍性大腸炎などの炎症性胃腸疾患の抗TNF応答者による遺伝子セットの上方又は下方調節の遺伝的関連を開示し、前記遺伝子は、BCL6(ジェンバンクAcc.No.AW264036;SEQ ID NO:118)及びtx82a04.x1(ジェンバンクAcc.No.AI689210;SEQ ID NO:123)を含み、場合により更にC5AR1((ジェンバンクAcc.No.NM001736;SEQ ID NO:119)、FOLR1((ジェンバンクAcc.No.U81501;SEQ ID NO:142)及びOSM(ジェンバンクAcc.No.A1079327;SEQ ID NO:173))を含み、場合により更に図7に示される遺伝子(例えば、SEQ ID NOs:110〜203)を含む。
【0039】
疾病組織内で差異的に発現されたこれらの配列(遺伝子、又は以後「潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子配列」)を単独で、又は抗TNF療法に応じて同定することにより、この情報を多数の方法で使用することができる。例えば、特定の処置計画は、UC関連のバイオマーカー遺伝子の発現プロファイルにより提供される情報を用いて評価することができる。
【0040】
これは、これらバイオマーカー遺伝子の相補配列セットを含むバイオチップを作製することにより行うことができ、次に前記バイオチップは、これらのスクリーン(例えば、SEQ ID NOs:1〜109)において使用することができる。これらの方法はまた、これらの遺伝子産物タンパク質が診断目的で評価することができ、即ち抗TNF処置応答者を選択するために、又は追加の治療上の候補を選別するために、発現レベルを評価することができるため、タンパク質を基礎、即ち、潰瘍性大腸炎に関連するタンパク質発現レベルとして実施されてもよい。加えて、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子プロファイルを含む核酸配列は、処置に先立ち、患者が治療に対して応答しやすいかどうかを測定するために使用できる。
【0041】
潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子配列には、核酸配列及びアミノ酸配列のいずれをも含むことができる。好ましい実施形態において、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子配列は、組み換え核酸である。本明細書において、用語「組み換え核酸」は、概してポリメラーゼ及びエンドヌクレアーゼによる核酸の操作によって、通常は天然には見出されない形態で、元来体外で形成される核酸を意味する。したがって、線状形態である単離された核酸、又は通常は繋がれていないDNA分子を連結することによって体外で形成された発現ベクターは、どちらも本発明の目的のための組み換え体として考慮される。一度組み換え核酸が作成され、宿主細胞又は微生物中に再導入されると、かかる核酸は組み換えられることなく(即ち、体外操作によるよりも宿主細胞の生体内の細胞機構を用いて)複製されるであろうことが理解されるが、このような核酸は一度組み換え体として産生されると(続く複製は非組み換え的に行われるが)、引き続き本発明の目的のための組み換え体であるとみなす。
【0042】
本発明を実施する方法
本発明は、体外、原位置又はシリコン内(in silico)での、2つ以上の試料における結合分子(例えば核酸配列)の相対的な量に依る、核酸、タンパク質及び/又はアレイに基づく方法を提供する。同様に、2つ以上の試料において結合分子(例えば核酸配列)の相対的な量を判定し、判定された相対的な結合量を用いて、特定の治療に対する応答性を予測する、コンピューターにより実行される方法が提供され、提供される方法は処置を監視し効果を高める。
【0043】
本発明で実施される方法では、標識された生体分子(例えば核酸)の1つ以上の試料は、2つ以上のアッセイ又はアレイに適用され、アッセイ又はアレイは、不動化された結合分子(例えば標識された試料核酸にハイブリダイズする能力を有する、不動化された核酸)と実質的に同一である相補体を有する。典型的には2つ以上のアレイが、同一のアレイの複数のコピーである。しかしながら、核酸及び他のもののアレイに典型的である、アレイ上の各「スポット」、「クローン」又は「フィーチャー」は、類似の生体分子(例えば同じ配列の核酸)を有し、各スポット中の生体分子(例えば核酸)は既知であることから、本発明に用いられる複数のアレイでは配置が同じである必要はなく、基板上の各フィーチャーの位置のみが必要であることは既知であり、即ちアレイはアドレスを有する。したがって、一態様では、試料中の複数の生体分子(例えば核酸)は比較的にアレイに結合し(例えば同時にハイブリダイズして)、集められた情報はコード化されるので、結果はフィーチャー(例えば核酸配列)の固有の特徴に基づき、基板上の位置に基づくものではない。
【0044】
核酸の増幅
オリゴヌクレオチドプライマーを用いる周知の核酸増幅法を、本発明の組成物及び方法に使用される核酸を生成するために、アレイにハイブリダイズする試験又は対照試料のレベルを検出又は測定するために、例えば本発明のTNFR SNP多型の存在を検出するなどのために、使用することができる。当事者は、適切なオリゴヌクレオチド増幅プライマーを選択及び設計することができる。増幅方法はまた当該技術分野で周知であり、例えば以下のものが挙げられる;ポリメラーゼ連鎖反応、PCR(PCR PROTOCOLS,A GUIDE TO METHODS AND APPLICATIONS,ed.Innis,Academic Press,N.Y.(1990)及びPCR STRATEGIES(1995),ed.Innis,Academic Press,Inc.,N.Y.)、リガーゼ連鎖反応(LCR)(例えばWu(1989)Genomics 4:560;Landegren(1988)Science 241:1077、Barringer(1990)Gene 89:117を参照されたい)、転写増幅(例えば、Kwoh(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173を参照されたい)、並びに自家持続配列複製(self-sustained sequence replication)(例えば、Guatelli(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874を参照されたい)、Qβレプリカーゼによる増幅(例えば、Smith(1997)J.Clin.Microbiol.35:1477〜1491を参照されたい)、Qβレプリカーゼによる自動化された増幅アッセイ(例えば、Burg(1996)Mol.Cell.Probes 10:257〜271を参照されたい)及び他のRNAポリメラーゼ媒介性の技術(例えば、NASBA,Cangene,Mississauga,Ontario)、また、Berger(1987)Methods Enzymol.152:307〜316;Sambrook、Ausubel、米国特許番号第4,683,195号及び同第4,683,202号、Sooknanan(1995)Biotechnology 13:563〜564を参照されたい。
【0045】
核酸ハイブリダイズ
本発明の方法を実施するにあたり、核酸の試験及び対照試料を、不動化された核酸プローブ(例えばアレイ上の)とハイブリダイズさせる。代替的な態様においては、ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件は、中程度の条件下で、厳しい条件下で、及び非常に厳しい条件下で実行される。核酸のハイブリダイゼーションのための広範な手引は、例えばSambrook Ausubel,Tijssenに見出される。一般的に、極めて厳しいハイブリダイゼーション及び洗浄条件は、定義されたイオン強度及びpH下で、特異的な配列用に熱融解温度(Tm)よりも約5℃低く選択される。Tmは、(定義されたイオン強度及びpH下で)完全に適合するプローブに、標的配列の50%がハイブリダイズする温度である。非常に厳しい条件が選択されると、特定のプローブについてのTmと等しいものになる。相補的な核酸(サザン又はノーザンブロットにおけるアレイ又はフィルタ上で100個以上の相補的な残基を有する)のハイブリダイゼーションのための、厳しいハイブリダイゼーション条件は、標準的なハイブリダイゼーション溶液を用いて42℃であり(例えばSambrookを参照されたい)、ハイブリダイゼーションは一晩実行される。極めて厳しい洗浄条件の例は、0.15MのNaClで、72℃下で約15分間に亘る。厳しい洗浄条件の例は、0.2×SSC洗浄液で、65℃下で15分間に亘る(例えば、Sambrookを参照されたい)。多くの場合、極めて厳しい洗浄は、バックグラウンドのプローブシグナルを除去するために溶媒即ち厳しさの低い洗浄に先行する。二本鎖(例えば100ヌクレオチド以上)についての中程度に厳しい洗浄の例は、1×SSCで、45℃下で15分間に亘る。二本鎖(例えば100ヌクレオチド以上)についての厳しさの低い洗浄の例は、4〜6×SSCで、40℃下で15分間に亘る。
【0046】
本発明の組成物及び方法の代替的な態様(例えば、アレイを備える比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)などの、比較核酸ハイブリダイゼーションの実施における)では、蛍光色素Cy3(登録商標)及びCy5(登録商標)が、2つの試料からの異なる標識核酸断片(例えば、アレイ不動化核酸対試料核酸、又は対照から生成される核酸対試験細胞若しくは試験組織から生成される核酸)のために使用される。多くの市販の装置が、これらの2つの色素の検出を収容するよう設計されている。Cy5(登録商標)、又は蛍光、又は他の酸化感受性化合物の安定性を上昇させるために、抗酸化剤及びフリーラジカルスカベンジャーをハイブリダイゼーション混合液(ハイブリダイゼーション溶液及び/又は洗浄溶液)中に使用することができる。したがって、Cy5(登録商標)シグナルは劇的に上昇し、より長いハイブリダイゼーション時間が可能になる。国際公開第0194630 A2号及び米国特許第20020006622号を参照されたい。
【0047】
ハイブリダイゼーション感度の上昇のために、ハイブリダイゼーションは制御された、湿度が不飽和な環境で実行することができ、したがってハイブリダイゼーション効率は、湿度が飽和でない場合に有意に改善される。国際公開第0194630 A2号及び米国特許第20020006622号を参照されたい。ハイブリダイゼーション効率は、湿度が動的に制御される場合に、即ちハイブリダイゼーションの間に湿度が変化する場合に改善され得る。質量移動(Mass transfer)は動的に平衡化された湿度環境において促進されるであろう。ハイブリダイゼーション環境における湿度は、段階的に又は連続的に調節することができる。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、洗浄及び/又は検出段階の間に、操作者に湿度の制御を可能にさせるハウジング及びコントロールを含むアレイデバイスを使用することができる。デバイスは、湿度及び温度制御(それらは一定及び正確であるか又は変動する)、並びに全体の手順サイクル(プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、洗浄及び検出工程が含まれる)中の他のパラメータを予めプログラミングすることを可能にするために、検出、制御、及びメモリ要素を有することができる。国際公開第0194630 A2号及び米国特許第20020006622号を参照されたい。
【0048】
本発明の方法は、浸透圧の変動を含むハイブリダイゼーション条件を含むことができる。ハイブリダイゼーション効率(即ち平衡までの時間)はまた、高/低浸透圧性(例えば溶質勾配)の変化を含む、ハイブリダイゼーション環境によって高めることもできる。溶質勾配はデバイス中に作り出す。例えば、低塩濃度ハイブリダイゼーション溶液をアレイハイブリダイゼーションチャンバの片面上に配置し、高塩濃度のバッファを他方の面上に配置することで、チャンバに溶液勾配を生成する。国際公開第0194630 A2号及び米国特許第20020006622号を参照されたい。
【0049】
反復性核酸配列のハイブリッド形成する能力のブロッキング
本発明の方法は、不動化された核酸断片において、反復性核酸配列のハイブリッド形成する能力をブロッキングする(即ち「ハイブリッド形成能」をブロッキングする)工程を含むことができる。試料核酸配列中の反復性核酸配列のハイブリッド形成能は、試料核酸配列と、非標識の又は代替的に標識された(alternatively labeled)反復性核酸配列とを混合することによってブロックすることができる。試料核酸配列は、アレイの不動化核酸断片と接触させる工程の前に反復性核酸配列と混合することができる。ブロッキング配列は、例えばCot−1 DNA、鮭精子DNA、又は特異的な反復性ゲノム配列である。反復性核酸配列は非標識であってもよい。反復配列のハイブリッド形成能を除去及び/又は不能にする(例えばCot−1を用いて)、数多くの方法が既知である、例えば、Craig(1997)Hum.Genet.100:472〜476、国際公開第93/18186号を参照されたい。反復性DNA配列は、ライブラリプローブから磁気精製及び親和性PCR(affinity PCR)の手法で除去することができる(例えばRauch(2000)J.Biochem.Biophys.Methods 44:59〜72を参照されたい)。
【0050】
アレイは一般的に、「スポット」若しくは「クラスタ」、又は「フィーチャー」として定義される、プレートの表面上に不動化された複数の標的要素であり、各標的要素は、試料中の分子に特異的に結合(例えばハイブリッド形成)するために、固体表面に対して不動化させた1つ以上の生体分子(例えば核酸又はポリペプチド)を含んでいる。不動化させた核酸は、具体的なメッセージ(例えば、cDNAライブラリなど)又はヒトゲノムを含む遺伝子(例えば、ゲノムライブラリ)からの配列を含有することができる。他の標的要素には、参照配列及び同等のものを含有することができる。アレイの生体分子は異なる大きさ及び異なる密度で固体表面上に配列してよい。アレイ上の、クラスタにおける生体分子の密度及びクラスタの数は、例えば標識の性質、固体支持体、基板表面の疎水性の程度、及び同等のものなどの、因子の数によるであろう。各フィーチャーは、実質的に同一の生体分子(例えば核酸)、又は生体分子の混合物(例えば異なる長さ及び/又は配列の核酸)を含むことができる。したがって、例えば、フィーチャーはDNAの複製小片のコピーを1つ以上含有してもよく、各コピーは異なる長さの断片に切断することができる。
【0051】
生体分子(例えば核酸)が不動化されたアレイ基板表面には、ニトロセルロース、ガラス、石英、石英ガラス、プラスチック及び同様のものが挙げられ、以下に更に詳細に議論される。本発明の組成物及び方法は以下に記載されるもののような、アレイの全体又は一部の設計、並びに関連する構成要素及び方法を組み込むことができる、例えば米国特許番号第6,344,316号、同第6,197,503号、同第6,174,684号、同第6,159,685号、同第6,156,501号、同第6,093,370号、同第6,087,112号、同第6,087,103号、同第6,087,102号、同第6,083,697号、同第6,080,585号、同第6,054,270号、同第6,048,695号、同第6,045,996号、同第6,022,963号、同第6,013,440号、同第5,959,098号、同第5,856,174号、同第5,843,655号、同第5,837,832号、同第5,770,456号、同第5,723,320号、同第5,700,637号、同第5,695,940号、同第5,556,752号、同第5,143,854号、同様に例えば国際公開第99/51773号、同第99/09217号、同第97/46313号、同第96/17958号、同第89/10977号を参照されたい、同様に例えばJohnston(1998)Curr.Biol.8:R171〜174、Schummer(1997)Biotechniques 23:1087〜1092;Kern(1997)Biotechniques 23:120〜124、Solinas−Toldo(1997)Genes,Chromosomes & Cancer 20:399〜407、Bowtell(1999)Nature Genetics Supp.21:25〜32、Epstein(2000)Current Opinion in Biotech.11:36〜41、Mendoza(1999)Biotechniques 27:778〜788、Lueking(1999)Anal.Biochem.270:103〜111、Davies(1999)Biotechniques 27:1258〜1261を参照されたい。
【0052】
基板表面
本発明の組成物及び方法において使用できる基板表面には、例えばガラス(例えば米国特許番号第5,843,767号を参照されたい)、セラミックス、及び石英が挙げられる。アレイは、剛性の、半剛性の又は可撓性材料の基板表面を有することができる。基板表面は平ら即ち平面であってよく、あるいはウェル、隆起領域、エッチングした溝、孔、ビーズ、フィラメント、又は同様のものなどの形状であってもよい。基板表面はまた、例えばニトロセルロース、紙、結晶質基材(例えばガリウムヒ素)、金属、半金属、ポリアクリロイルモルホリド(polacryloylmorpholide)、様々なプラスチック及びプラスチックコポリマー、ナイロン(登録商標)、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ラテックス、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、レーヨン、ナイロン、ポリ(ビニルブチレン)、並びに酢酸セルロースなどの様々な材料を含むことができる。基板はコーティングすることができ、基板及びコーティングは官能化することができる(例えばアミンに対して共役可能であるように)。
【0053】
較正配列を含んでいるアレイ
本発明は、アレイに基づくハイブリダイゼーション反応の結果を標準化するために、不動化した較正配列を含んでいるアレイ、及び例えば較正配列のコピー数対「標準」即ち「較正」比プロファイルを判定するために、これらの較正配列を用いるための方法、の使用を想到する。較正配列は、アレイ上の不動化された核酸配列中のユニークな配列として、実質的に同一のものであることができる。例えば、アレイ上の各「スポット」又は「生物部位(biosite)」からの「マーカー」配列(スポット上にのみ存在し、そのスポットについての「マーカー」にする配列)は、1つ以上の「対照」又は「較正」スポット上の対応する配列で表現される。
【0054】
「対照スポット」即ち「較正スポット」は「標準化」のために用いられ、信頼性と再現性についての情報を提供する対照スポットはアレイに対してハイブリダイズした標識試料とは無関係に、一貫性のある結果を提供することができる(又は試料からの標識した結合分子)。対照スポットは「標準化」即ち「較正」曲線を生成して、シリコン内での本発明のアレイに基づく方法において使用される、2つ(以上)のアレイ間に生じ得る強度誤差をオフセットするために使用することができる。
【0055】
アレイ上の対照を生成する方法の1つが、アレイ上にスポットされた全ての生体分子(例えば核酸配列)の等モル混合物に使用され、単一のスポットを生成する。この単一のスポットは、アレイ上の全ての他のスポットと等量の生体分子(例えば核酸配列)を有し得る。複数の対照スポットは、等モル混合物の濃度を変化させることにより生成することができる。
【0056】
試料及び標本
特定の細胞、組織又は他の標本から、試料核酸を単離し、クローン化し、又は抽出することができる。核酸試料が調製される細胞又は組織試料は、典型的には潰瘍性大腸炎又は関連する状態を有している、又は有していると疑われる患者から採られる。細胞及び組織試料を単離する方法は当業者に周知であり、限定するものではないが、吸引法、組織切片法、針生検法、及び同様の方法などが挙げられる。しばしば試料は「臨床試料」であり得、全血、血清、血漿、又は例えば組織学的な目的のために採られた凍結切片若しくはパラフィン切片などの組織切片を含む、患者由来の試料である。試料はまた、(細胞の)上清又は患者若しくは細胞培養物から採られた細胞そのもの、又は組織培養からの細胞、又は候補剤に対する応答を検出するのに望ましいものであり得る他の培養液からの細胞由来であってもよい。場合によっては、核酸はハイブリダイゼーションに先立ちPCRなどの標準的な技術を用いて増幅してもよい。
【0057】
一実施形態では、本発明は疾病の退行又は回復を予測する、処置前の方法(pre-treatment method)である。かかる方法は、(1)潰瘍性大腸炎又は関連する疾病若しくは疾患であると診断された個人から、適切な組織生検又は他の標本を採ることと、(2)パネルのプロファイル遺伝子の発現レベルを測定することと、(3)処置応答者から、遺伝子の処置前発現レベルと、処置前参照プロファイルとを比較することと、(4)遺伝子パネルの発現レベルを監視することによって処置応答性を予測することと、を含む。
【0058】
バイオマーカーの有用性を評価する方法
疾病の処置又は予後に対しての患者の応答性を評価することに関する、本発明のバイオマーカー遺伝子パネルの予後診断的な有用性は、患者の病状を評価するための他の手段を用いることによって確認することができる。例えば、限定するものではないが、写真、放射測定、又は磁気共鳴技術による、イメージングなどのいくつかイメージング法によって、肉眼での疾病の測定を評価しかつ記録することができる。健康又は疾病の一般的な指標には、更に血清又は血液組成物(タンパク質、肝臓酵素、pH、電解質、赤血球容積、ヘマトクリット、ヘモグロビン、又は特定のタンパク質)が挙げられる。しかしながら、いくつかの疾病では、病因学に対する理解は尚不十分である。潰瘍性大腸炎は、そのような1疾病の例である。
【0059】
患者の評価及び監視
処置過程に亘る遺伝子の発現パターンは、潰瘍性大腸炎又は他の胃腸疾患の処置においてはこれまで研究されてこず、かかる発現パターンを的中率を有するものとして同定した者はいない。本明細書で開示される遺伝子発現バイオマーカーのパネルは、迅速で信頼性のある予測のための方法、潰瘍性大腸炎の治験の臨床的な結果を予測する診断ツール、又は潰瘍性大腸炎治療の有効性を追跡するための予後診断ツールの作製を可能にする。これらの遺伝子を検出することに基づく予後診断法が提供される。例えばこれらの組成物は、免疫媒介性炎症疾患の診断、予防及び処置と結びつけて使用することができる。
【0060】
治療薬
拮抗薬
本明細書で使用するとき、用語「拮抗薬」は、潰瘍性大腸炎に関する本発明の遺伝子パネルの遺伝子産物の生物活性を阻害又は中和する物質を指す。このような拮抗薬は、種々の方法でこの効果を実現する。ある部類の拮抗薬は、十分な親和性で遺伝子産物のタンパク質に結合し、タンパク質の生物学的効果を特異的に中和する。この部類の分子に含まれるのは、抗体及び抗体断片(例えば、F(ab)又はF(ab’)2分子など)である。別の部類の拮抗薬は、同種の結合パートナー又は遺伝子産物のリガンドに結合し、それにより遺伝子産物とその同種のリガンド又は受容体との特異的相互作用の生物活性を阻害する、遺伝子産物タンパク質、突然変異タンパク質、又は小有機分子、即ちペプチド模倣薬の断片を含む。潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子拮抗薬は、遺伝子産物の生物活性を阻害する物質である限り、これらの部類のいずれであってもよい。
【0061】
拮抗薬には、遺伝子産物タンパク質又はその断片の1つ以上の領域に対する抗体、同種のリガンド又は受容体に対する抗体、及び遺伝子産物の生物活性を阻害する遺伝子産物又はその同種のリガンドの部分ペプチドが挙げられる。当該技術分野で既知であるような遺伝子配列を標的とするsiRNA、shRNA、アンチセンス分子及びDNAザイムを含む別の部類の拮抗薬が、本明細書に開示されている。
【0062】
好適な抗体には、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物に対する結合に関してモノクローナル抗体と競合するものが挙げられ、前記モノクローナル抗体は、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物の活性化を遮断し、又は潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物がその同族リガンドに結合することを防止し、又は潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物のシグナル伝達を防止する。
【0063】
潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物の誘発因子を治療のための標的にすることは、成功の可能性をより高くし得る。遺伝子発現は、siRNA、shRNA、アンチセンス分子及びDNAザイムの使用が挙げられる、いくつかの異なる方法で調節することができる。合成siRNAs、shRNAs、及びDNAザイムは1つ以上の標的遺伝子に特異的に設計することができ、体外でも体内でも、これらは容易に細胞に送達することができる。
【0064】
本発明はアンチセンス核酸分子、即ち潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチド(例えば二本鎖cDNA分子のコード鎖の相補体又はmRNA配列の相補体)をコードしている、センス鎖の核酸に相補的な分子を包含する。したがって、アンチセンス核酸はセンス鎖の核酸に水素結合することができる。アンチセンス核酸は、コード鎖全体又はそのほんの一部、例えば、タンパク質コード領域(即ち翻訳領域)の全て又は一部に相補的であり得る。アンチセンス核酸分子は、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の、非コード領域の全体又は一部に対してアンチセンスであってよい。非コード領域(「5’及び3’非翻訳領域」)は、コード領域に隣接する5’及び3’配列であり、アミノ酸に翻訳されない。
【0065】
本発明はまた、キメラタンパク質又は融合タンパク質を提供する。本明細書で使用するとき、「キメラタンパク質」又は「融合タンパク質」は、異種ポリペプチド(即ち、同じUC関連遺伝子産物ポリペプチド以外のポリペプチド)に操作可能に結合する潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの全て又は一部(好ましくは生物学的に活性である)を含む。融合タンパク質内では、用語「操作可能に結合(operably linked)」は、潰瘍性大腸炎に関連する関連遺伝子産物ポリペプチド及び異種ポリペプチドが互いにインフレームで融合することを示すことを意図する。異種ポリペプチドは、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドのアミノ末端又はカルボキシル末端に融合することができる。別の実施形態では、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチド又はそのドメイン若しくは活性断片は、異種タンパク質配列又はその断片に融合してキメラタンパク質を形成することができ、そこではポリペプチド、ドメイン又は断片が端と端とで融合しないが、異種タンパク質のフレームワーク内に介入する。
【0066】
更に別の実施形態では、融合タンパク質は、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの全て又は一部が免疫グロブリンタンパク質族のメンバー由来の配列に融合している、免疫グロブリン融合タンパク質である。本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、薬剤組成物に組み込むことができ、また被験者に投与してリガンド(可溶性又は膜結合)と細胞の表面上のタンパク質(受容体)との間の相互作用を阻害して、それによりインビボでのシグナル伝達を抑制することができる。免疫グロブリン融合タンパク質を用いて、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの同種のリガンドの生物学的利用能に影響を及ぼすことができる。リガンド/受容体相互作用の阻害は、増殖性及び分化性疾病の処置並びに細胞生存の調節(例えば、促進又は阻害)の両方に対して、治療的に有用であり得る。更に、本発明の免疫グロブリン融合タンパク質は、免疫原として使用することで、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドに対する抗体を産生して、被験者においてはリガンドを精製することができ、スクリーニングアッセイにおいてはリガンドと受容体との相互作用を阻害する分子を同定することができる。
【0067】
組成物及びその使用
本発明に従う、本明細書に記載されるようなモノクローナル抗体などの、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物の拮抗薬の中和を、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物の活性を阻害するために使用することができる。更に、このような拮抗薬を用いて、リウマチ性疾患を挙げることができるが、これらに限定されない、このような処置を受け入れられる潰瘍性大腸炎及び潰瘍性大腸炎に関連する炎症性疾患の病原性を阻害することができる。治療されるべき個体は任意の哺乳類であってよく、好ましくは霊長類、哺乳類であるコンパニオンアニマルであり、最も好ましくはヒトの患者である。投与される拮抗薬の量は、使用の目的及び投与方法によって変動する。
【0068】
潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子拮抗薬は、病理学的活性が予防又は停止されることが望ましい組織において効果が得られる多くの方法により投与してよい。更に、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物の活性に基づいて効能を付与するためには、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物に対する拮抗薬を局所的に存在させる必要はなく、したがってそれらは、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物を含有している体の区画又は体液のどこであろうと、アクセスできるように投与することができる。炎症を起こした、悪性の又は別の方法で易感染性である組織の場合、これらの方法には、拮抗薬を含有する製剤を直接適用することを挙げてもよい。このような方法には、液体組成物の静脈投与、液体若しくは固体製剤の経皮投与、経口、局所性投与、又は間質性若しくは手術中投与(inter-operative)が挙げられる。投与は、その主な機能が薬物送達賦形剤としての機能ではない場合があるデバイスの移植により影響を受ける場合がある。
【0069】
抗体の場合、好ましい用量は約0.1mg/kg〜100mg/kg(体重)(一般に約10mg/kg〜20mg/kg)である。抗体が脳で作用する場合、約50mg/kg〜100mg/kgの用量が通常適切である。一般に、部分的ヒト抗体及び完全なヒト抗体は、他の抗体よりもヒトの体内で長い半減期を有する。したがって、より少ない用量かつより少ない頻度の投与での使用が可能であることが多い。脂質化のような修飾を用いて、抗体を安定化し、(例えば、脳への)取り込み及び組織透過性を高めることができる。抗体の脂質化の方法は、Cruikshank et al.((1997年)J.Acquired Immune Deficiency Syndromes and Human Retrovirology 14:193)に記載されている。
【0070】
潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物拮抗薬の核酸分子をベクターに挿入し、遺伝子治療用ベクターとして用いることができる。遺伝子治療用ベクターは、例えば、静脈注射、局所性投与(米国特許第5,328,470号)、又は定位注射(stereotactic injection)(例えば、Chen et al.(1994)Proc.Acad.USA 91:3054〜3057参照)により被験者に送達することができる。遺伝子治療用ベクターの医薬品には、許容可能な希釈剤中の遺伝子治療用ベクターを挙げることができる、又はそれは遺伝子送達賦形剤が埋め込まれた徐放性マトリックスを含むことができる。あるいは、完全な遺伝子送達ベクターを組み換え細胞、例えば、レトロウイルスベクターからインタクトに生成できる場合、医薬品は遺伝子送達系を生成する1つ以上の細胞を含むことができる。
【0071】
薬剤組成物は、投与の指示書とともに、容器、パック又はディスペンサに含むことができる。
【0072】
薬理ゲノミクス
薬剤、あるいは本明細書に記載されるスクリーニングアッセイにより同定されるような、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの活性又は発現に影響を及ぼす、刺激又は阻害効果を有するモジュレーターを、ポリペプチドの異常な活性に関連する疾患を処置(予防的に又は治療的に)するために、個体に投与することができる。このような処置とともに、個々の薬理ゲノミクス(即ち、個人の遺伝子型間の関連性及び外来化合物又は薬剤に対する個人の応答性の調査)を考察することができる。治療の代謝における差異は、薬理学的な活性剤の投与量と血中濃度との間の関係を変更することで、重度の毒性又は治療の不全を引き起こし得る。したがって、個人の薬理ゲノミクスは、個人の遺伝型に対する考慮に基づいた、予防又は治療処置のための効果的な剤(例えば薬剤)の選択を可能にする。このような薬理ゲノミクスは更に、適切な投与量と治療レジメンを判定するために使用することができる。したがって、個人における、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチド、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物核酸の発現、又は潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物遺伝子の変異内容を判定することで、個人に対する治療又は予防処置のために適切な剤(単数又は複数)を選択することができる。
【0073】
薬理ゲノミクスは、薬物の変更された体内動態及び罹患しているヒトの異常な機能に起因する、薬剤に対する応答性について臨床的に有意である遺伝変異を取り扱う。例えば、Linder(1997)Clin.Chem.43(2):254〜266を参照されたい。一般的に、2種類の薬理遺伝的な条件が差別化され得る。体に対する薬剤の作用の仕方を変更する1つの要因として伝達される遺伝的な条件は、「薬物作用の変更」として参照される。薬剤に対する体の作用の仕方を変更する1つの要因として伝達される遺伝的な条件は、「薬物代謝の変更」として参照される。これらの薬理遺伝学的な条件は、まれな欠損又は遺伝子多型のいずれかとして生じうる。例えば、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)の欠損は一般的に遺伝される酵素病であり、酸化剤(抗マラリア剤、スルホンアミド、鎮痛剤、ニトロフラン)の摂取及びソラマメの摂取後の溶血が主な臨床の合併症である。
【0074】
例示的な実施形態としては、薬剤代謝酵素の活性は薬剤作用の強さ及び持続時間の両方の重要な決定因である。薬剤代謝酵素(例えば、N−アセチルトランスフェラーゼ2(NAT 2)、及びシトクロムP450酵素のCYP2D6及びCYP2C19)の遺伝的多型の発見は、何故一部の患者が予測される薬剤効果を獲得しないのか、又は標準的で安全な薬物の投与量を採った後で、過剰な薬物応答及び深刻な毒性を示すのかを説明するものとして提供される。これらの遺伝子多型は、集団において2つの表現型、高代謝群(EM)及び低代謝群(PM)として発現する。PMの羅患率は異なる集団の間で異なる。例えば、CYP2D6についての遺伝子コードは、非常に遺伝子多型的であり、いくつかの変異が全てCYP2D6の機能の欠損を導くものとしてPMにおいて同定されてきた。CYP2D6及びCYP2C19の低代謝群は、標準的な投与量を受け入れるときに、かなり頻繁に過剰な薬物応答及び副作用に悩まされる。例えば代謝産物が治療上の活性成分であるとき、PMは、CYP2D6により形成される代謝産物のモルヒネによって媒介される、コデインの鎮痛効果について示されるような、治療的な応答を示さないだろう。他の極端なものは標準的な投与量に対して応答しない、いわゆる超高速代謝群である。近年では、超高速代謝群の分子的機序はCYP2D6遺伝子増幅に起因するものであると同定されてきた。
【0075】
したがって、個人における潰瘍性大腸炎又は他の胃腸疾患に関連する遺伝子産物ポリペプチドの活性、ポリペプチドをコードしている核酸の発現、又はポリペプチドをコードしている遺伝子の変異内容を判定して、個人に対する治療又は予防処置について適切な剤(単数又は複数)を選択することができる。加えて、薬理遺伝学な研究は、薬物代謝酵素をコードしている対立遺伝子多型の遺伝子型を適用して、個人の薬物応答性の表現型を同定するために使用することができる。この知識は、投与又は薬物選択に適用されるときに副作用又は治療の不全を避けることができ、ひいては本明細書に記載される例示的なスクリーニングアッセイのうちの1つで同定されるモジュレーターのような、ポリペプチドの活性化又は発現のモジュレーターで患者を処置するとき、治療又は予防効率が高まる。
【0076】
処置方法
本発明は、疾病の危険性を有する(又は疾病になりやすい)、又は潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの異常な発現若しくは活性に関連する及び/若しくは潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドが関与している疾病を有する被験者を処置する、予防的及び治療的方法をともに提供する。
【0077】
本発明は、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物拮抗薬を用いて、当該技術分野で既知であるか又は本明細書に記載されているような、細胞、組織、器官、動物又は患者の、潰瘍性大腸炎に関連する疾患若しくは状態を調節又は処置する方法を提供する。潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物の拮抗剤の組成物は、潰瘍性大腸炎、又は潰瘍性大腸炎若しくは他のTNF媒介性のなどの関連する状態の処置において治療用途を見出すことができる。
【0078】
本発明はまた、限定するものではないが、胃潰瘍、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病の症状、及び同様の疾病などが挙げられる、細胞、組織、器官、動物又は患者における、TNF媒介性の、免疫に関連する疾患を調節又は処置する方法を提供する。例えば、Merck Manual,12th〜17th Editions,Merck & Company,Rahway,NJ(1972,1977,1982,1987,1992,1999),Pharmacotherapy Handbook,Wellsら編、Second Edition,Appleton and Lange,Stamford,Conn.(1998,2000)を参照し、それぞれ参照することによってその全体が組み込まれる。
【0079】
潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの異常な発現又は活性を特徴とする疾患については、本開示の他の箇所で更に説明される。
【0080】
予防的方法
1つの態様では、本発明は、ポリペプチドの発現又は少なくとも1つの活性を調節する剤を被験者に投与することにより、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの異常な発現若しくは活性に関連する疾患又は状態を、被験者において実質的に予防する方法を提供する。潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物の異常な発現又は活性を原因とする又はそれに起因する疾患の危険性を有する被験者は、例えば、本明細書に記載するような診断若しくは予後アッセイのいずれか又は組み合わせにより同定することができる。予防薬の投与は、疾患又は疾病を予防する、あるいはその進行を遅らせるように、異常型の特徴を有する症状が顕在化する前に行うことができる。異常型の種類に応じて、例えば、作用薬又は拮抗薬を被験者の処置に用いることができる。適切な剤は、本明細書に記載するスクリーニングアッセイに基づいて決定することができる。
【0081】
治療的方法
本発明の別の態様は、治療目的のために、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子若しくは遺伝子産物の発現又は活性を調節する方法に関する。本発明の調節方法は、ポリペプチドの1つ以上の活性を調節する剤と、細胞を接触させることを含む。活性を調節する剤は、核酸若しくはタンパク質、ポリペプチドの天然由来の同種リガンド、ペプチド、ペプチド模倣薬、又は他の小分子のような、本明細書に記載する剤であることができる。1つの実施形態では、剤は、ポリペプチドの生物活性の1つ以上を刺激する。別の実施形態では、剤は、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子又は遺伝子産物のポリペプチドの1つ以上の生物活性を阻害する。このような阻害剤の例には、アンチセンス核酸分子及び抗体、並びに本明細書に記載する他の方法が挙げられる。これらの調節方法は、インビトロで(例えば、剤とともに細胞を培養することにより)又は、あるいは、インビボで(例えば、被験者に剤を投与することにより)実施することができる。このように、本発明は、潰瘍性大腸炎に関連する遺伝子産物ポリペプチドの異常な発現若しくは活性を特徴とする疾患又は疾病に罹患している個体を処置する方法を提供する。1つの実施形態では、方法は、発現若しくは活性を調節する(例えば、上方制御又は下方制御)、剤(例えば、本明細書に記載するスクリーニングアッセイにより同定された剤)又は剤の組み合わせを投与することを含む。活性の阻害は、活性若しくは発現が異常に高いか若しくは上方制御されている状況で、及び/又は、活性の低下が有益な効果を有する可能性がある状況で、望ましい。
【0082】
本発明は一般条件で記述されてきているが、本発明の実施形態は、特許請求の範囲の範囲を限定するように解釈されるべきではない以下の実施例で更に開示される。
【0083】
【表1】

【実施例】
【0084】
(実施例1)
臨床試験における患者のサブグループから得た結腸粘膜生検を用いて、メッセンジャーRNA(mRNA)発現の遡及分析を行った。インフリキシマブ処置前に処置に対する応答者を非応答者から区別する分子プロファイルを提供するmRNA発現パターンを同定した。同定された分子を使用して20−及び5−遺伝子分子応答シグニチャを規定し、この応答シグニチャは患者を応答者と非応答者に正確に分類した。
【0085】
応答シグニチャプローブセットを第2の独立した患者コホートに適用した。結果は、インフリキシマブ処置前に被験者を正確に分類するプローブセットの能力を裏付けた。
【0086】
インフリキシマブ、抗TNFαモノクローナル抗体は、60%を越える患者の処置に対する応答を誘導する、潰瘍性大腸炎(UC)の有効な処置である。したがって、約40%の患者は応答しない。この実験は、臨床試験(「ACT1」)に登録した患者の粘膜遺伝子発現が、インフリキシマブ処置の予測的応答シグニチャを提供することを分析した。
【0087】
インフリキシマブ処置前に、22人の患者が、生検を伴う結腸内視鏡検査を受けた。インフリキシマブに対する応答は、8週目の内視鏡治癒及び組織学的治癒として定義された。インフリキシマブ前生検からメッセンジャーRNAを単離し、標識し、Affymetrix HGU133Plus_2.0アレイにハイブリダイズした。予測的応答シグニチャは、独立データセットにより確認された。
【0088】
12人のインフリキシマブ応答者と10人のインフリキシマブ非応答者との粘膜発現プロファイルを比較した際、109の差異的に発現されたプローブセットが同定された。好中球細胞機能、粘膜上皮バリア機能及び自然免疫反応に関連した遺伝子が濃縮されていた。これらの109の遺伝子から、全体的な精度95.4%(21/22)、感度91.7%(11/12応答者)及び特異性100%(10/10非応答者)を示す20のプローブセットの予測的応答シグニチャを規定した。5のプローブセットへの減少により、全体的な精度90.9%(20/22)、感度91.7%(11/12応答者)及び特異性90.0%(9/10非応答者)に維持された。両方のプローブセットシグニチャを独立コホート上で検証して、全体的な精度75%(18/24)、感度87.5%(7/8応答者)及び特異性68.8%(11/16非応答者)を得た。マイクロアレイデータを、連続受入番号GSE12251の下でGene Expression Omnibusに寄託した(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi? token=rdatvkmqcaiqizk&acc=GSE12251)。
【0089】
材料及び方法
ACT1無作為化患者のサブセットから、プロトコルに指定された時点で患者生検を収集した。インフリキシマブ5又は10mg/kgのいずれかを受容した22人の患者のサブグループから0週目に得た23の生検を分析した(10人の非応答者から11の生検、及び12人の応答者から12の生検;非応答者生検のうちの2つは、同一被験者から2週間以内に得た)。応答は、8週目に決定した。インフリキシマブに対する応答は、完全粘膜治癒(即ち、Mayo内視鏡サブスコア0又は1)及びUCに関する組織学的スコア上のグレード0又は1として定義された。粘膜治癒を達成しなかった患者は非応答者と見なされたが、数人の患者は組織学的改善を示した。このコホートのベースライン特徴を表1に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
0週目に行った内視鏡検査中、肛門縁から15〜20センチメートル遠位にて腸管生検を収集した。生検を液体窒素中で急速凍結し、処理まで−80Cで保管した。全RNAは、RNeasyミニキットを用いて製造業者の指示書に従って単離した(Qiagen Inc.,Valencia,CA)。RNAの品質及び量は、2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies Inc.,Palo Alto,CA)により分析した。
【0092】
IFXで処置された24人のUC患者からの生検mRNA発現データの独立検証コホートを、University Hospital Gasthuisberg,Leuven Belgiumから得た。5mg/kgのIFXの静脈内注射から1週間前以内に生検を得た。生検をmRNA発現のための処理前に、−80℃で冷凍した。IFXに対する応答は、注射から4〜6週間後に、上記に定義した応答により決定した。ACT1標本に使用したものと同一の方法を用いて、Leuvenコホート標本をmRNA単離及びハイブリダイゼーションのために処理した。
【0093】
マイクロアレイハイブリダイゼーションをGeneChip Human Genome U133 Plus 2.0アレイ上で、製造業者のプロトコルに従って行った(Affymetrix,Santa Clara,CA)。チップは38,500の充分特徴付けられたヒト遺伝子を含む47,000を越える転写産物及び変異体の発現分析が可能である。チップはGeneChip Scanner 3000で走査され、アレイの各フィーチャーに関する蛍光強度はGeneChip Operating Softwareバージョン1.4(Affymetrix,Santa Clara,CA)により得られた。データを、連続受入番号GSE12251の下でGene Expression Omnibusに寄託した(http://www.ncbi.nlm.nih.Gov/geo/query/acc.cgi?token=rdatvkmqcaiqizk&acc=GSE12251。検証コホートからのデータも、連続受入番号GSE10892の下でGene Expression Omnibusに寄託した(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi?token=dlyphyokcomkmto&acc=GSE10892)。
【0094】
データ品質は、Partek Genomic Suite 6.3(Partek Inc.,St.Charles,MO)を用いて、ハイブリダイゼーション強度分布(hybridization intensity distribution)及びピアソン相関により評価した。ピアソン相関係数は、0.80〜1.0の範囲であった。プローブセットの強度を、GeneSpringGX 7.3(Agilent Technologies,Palo Alto,CA)を用いて全試料に亘り標準化した。
【0095】
インフリキシマブ非応答者の試料と応答者の試料との間の有意な差異は、分散分析(ANOVA)を用いて、log−2変換標準化強度上で同定した。多重検定の補正において、5%誤発見率(FDR)を適用した。2倍を超える発現差異を有する転写産物を選択し、分析のために比較した。ANOVA及び倍数変化選別を通過したが、一対比較法の両方の条件において未検出であったプローブセットを排除するために、条件を表す試料のうち「存在」(検出)又は「微量」(僅かな検出)と指定された試料のみを選択した。
【0096】
各患者試料に関するインフリキシマブ応答性の分類は、GeneSpring GX 7.3を使用して「K−最近傍」アルゴリズムにより生成した。インフリキシマブ処置前に非応答者(n=11試料)と応答者(n=12試料)との間で有意な発現差異を示す転写産物を含む分類指標を、一つ抜き交差確認(leave-one-out cross-validation)により評価した。p値を計算して、偶然分類されている試験試料の確率を測定した。フィッシャーの正確確率検定を用いて、最上部の予測的転写産物を選択した。
【0097】
階層的クラスタリング分析をマイクロアレイデータ分析から得られたデータに適用した。GeneSpringGX 7.3内で、2つの遺伝子又は患者の発現プロファイルの間でピアソン相関を用いてクラスタリングを行って、類似性マトリックスを計算した。結果を2つの系統樹を有する2次元ヒートマップとして視覚化し、一方は患者間の類似性を示し、他方は遺伝子間の類似性を示していた。
【0098】
National Institutes of Health DAVID online(http://david.abcc.ncifcrf.gov/)を使用して、遺伝子アノテーションエンリッチメントを行った。統計的有意性は、フィッシャーの正確確率検定を用いて決定した。p値≦0.05を有する機能的カテゴリーを有意と見なした。
【0099】
結果の要約
インフリキシマブ処置前の0週目における粘膜生検の発現プロファイルを、8週目におけるインフリキシマブに対する応答に基づいて22人の患者(10人の非応答者からの11の生検及び12人の応答者からの12の生検;非応答者生検のうちの2つは、同一被験者から2週間以内に得た)から確立した。102の下方調節された及び7の上方調節された合計109のプローブセットが5%のFDR及び2倍差異カットオフを通過し、86の遺伝子を表した(図10)。生物学的過程に分類された際、自然免疫過程の優位が存在した。最も優位な5つの自然免疫過程は、防御応答、免疫応答、シグナル伝達、他の生命体に対する応答、及び有害生物、病原体又は寄生虫(図1)に対する応答であった。10のプローブセットは、サイトカイン/ケモカイン又はサイトカイン/ケモカイン受容体であった。プローブセットには、CXCL8/インターロイキン(IL)−8、好中球多形核白血球(PMN)の走化性ケモカインが含まれていた。CXCL8/IL−8、CXCR1/IL−8RA及びCXCR2/IL−8RBの受容体も存在していた。CXCL11/I−TAC、T細胞及びナチュラルキラー細胞を活性化する走化性因子も存在した。最終的に、IL−1β、IL−1RN及びIL−11は、応答者を非応答者と比較した際、全て4倍を超えて下方調節された(図10)。
【0100】
応答者及び非応答者のクラス予測分析
フィッシャーの正確確率検定を使用して、0週目に差異的に発現されることが示された109プローブセットの中から、応答者を非応答者から区別する最上部の予測的プローブセットを選択した(図10)。20のプローブセットからなるサブセットは、0週目にて応答者と非応答者を分類し(図7)、全体の精度95.4%(21/22)、感度91.7%(11/12応答者)及び特異性100%(10/10非応答者)を有した(図7)。免疫応答(例えば、IL−1β、TLR2、TREM1又はLILRA2)、シグナル伝達(例えば、PDE4B、NAMPT又はFCN1)又はG−タンパク質共役受容体タンパク質シグナル伝達経路(例えば、GPR109B、C5AR1又はFPRL1)に関与する遺伝子を表したこれら20の遺伝子のうちの8つはPMNsにより発現され、PMNsは、活動性UCを有する患者からの結腸粘膜内に多数存在する。20プローブセット分類指標の階層的クラスタリングは、応答者と非応答者との間の明らかな分離を示した(図3)。続いて、同等の分類を可能にする最小数の転写産物を決定した。上記の20プローブセットから選択された最低5プローブセットを含む分類指標は、全体の精度90.9%(20/22)、感度91.7%(11/12応答者)及び特異性90.0%(9/10非応答者)に到達することができた(図3及び7)。得られた5つの遺伝子は、BCL6、C5AR1、FPRL1、OSM、及びCREB5と類似した遺伝子であるtx82a04.x1であった。BCL6及びtx82a04.x1の両方は僅かにより高い予測的強度を有すると共に、残りの3遺伝子は等しい予測的強度を有していた。注目すべきは、残りの15遺伝子のいずれも、5プローブセット分類指標の予測的品質を全く損なうことなくC5AR1、FPRL1及びOSMを代替することができた(データ示さず)。10人の非応答者及び12人の応答者全体に亘る5プローブセット分類指標の階層的クラスタリングは、顕著な分離を示し(図3)、応答者を非応答者と比較した際に全5プローブセット全体にて非常に対照的な発現プロファイルを有した。誤分類された1人の応答者は、CREB5に類似するtx82a04.x1を除いて、非応答者と非常に類似した発現プロファイルを有した(図2及び3)。最後に、図4は、標準化されたそのままの(raw)強度を用いた5遺伝子分類指標からなるドットプロット表示を示し、ここでベースラインにおいて応答者と非応答者とを比較して5つの遺伝子のそれぞれに著しい差異が見られる。
【0101】
クラス予測検証
次に、本発明らは、独立した検証試験セットとして、8人の応答者及び16人の非応答者から構成されるLeuvenコホートを使用して、20及び5プローブセット分類指標の両方を検証した。両方の分類指標に関して全体の精度75%(18/24)、感度87.5%(7/8応答者)及び特異性68.8%(11/16非応答者)が得られた。8人の応答者と16人の非応答者との間の20個のプローブセット分類指標のLeuvenコホート階層的クラスタリングは、誤分類された4人の非応答者と誤分類された1人の応答者が、それぞれ応答者及び非応答者と非常に類似した発現プロファイルを有することを示した(図5)。
【0102】
インフリキシマブ応答(内視鏡及び組織学的治癒)を規定する2つの厳密な基準は、0週目にて86の遺伝子を表す差異的に発現された109のプローブセットを得た。これらのプローブセットは全て5% FDR及び2倍発現差異カットオフを通過した。独立コホートを用いて、2つの予測的応答シグニチャ、即ち20のプローブセットと、20のプローブセットのうちの5つのサブセットとが確立及び確認された。4人の非応答者が誤分類されたが、0週目にて差異的に発現された109の遺伝子の全部に関して応答者と似た発現パターンを有した。このことは、これらの患者が、インフリキシマブ処置の臨床的有用性の出現が遅いか、又は0週目で粘膜発現プロファイリングを介して明らかではない前記患者の臨床的応答に影響する因子を有するか、のいずれかを示唆する。ACT1コホートからの1人の応答者が20及び5プローブセット分類指標により誤分類された一方、独立検証コホートの1人の応答者が誤分類された(図2、3及び5)。
【0103】
インフリキシマブ処置前に発現された多数の遺伝子は、PMNs機能の調節に関与している。PMNsは、微生物チャレンジに対する一次応答者として機能する自然免疫応答の中心的成分を表す。PMNsは迅速に炎症組織内に移動し、食作用、活性酸素種の生成、並びに強力なエフェクター機構としての炎症性メディエーター及び抗菌物質の放出を用いる。活動性UCを有する患者から得られた結腸粘膜生検の組織学的検査で示されるように、PMN流入はUCに共通し、浮腫、杯状細胞の損失、粘液産生の低下、陰窩細胞過形成、びらん、及び潰瘍(ulceration)を含む広範な粘膜及び/又は壁内損傷に対応する。したがって、PMNsは、UC病理発生を推進しかつ前記発生に影響を与える重要な細胞型に相当する。PMN流入及び活性化の標準化は、インフリキシマブ処置に対する応答の一体的部分である。0週目に差異的に発現される13の遺伝子は、分泌小胞の膜又はPMNsの原形質膜のいずれかのタンパク質をコードしている(図8)。7つ(CSF3R、FCN1、FGR、FPRL1、OSM、NAMPT、TLR2)が20の予測的プローブセット応答遺伝子パネル内に含まれ、2つ(FPRL及びOSM)が5つの予測的プローブセット応答遺伝子パネル内に含まれる(図7)。加えて、0週目にて非応答者と比較した場合、インフリキシマブ応答者の間で全部が下方調節され、PMN活性化状態の差異が示唆される。
【0104】
補体成分5a受容体(C5aR1)に結合する補体5a(C5a)は、PMN自然免疫において基本的な役割を果たす。C5a−C5aR1相互作用は、PMNの自然免疫機能(走化性、食作用、呼吸性バースト)を保存し、炎症反応を減弱し、凝固障害を寛解し、接着分子発現を変化させ、アポトーシスを調節する。しかしながら、C5a−C5aR1の過剰な相互作用はPMN機能の麻痺に繋がり、その結果宿主防御が損なわれ得ることが記載されている。0週目にインフリキシマブ応答者を非応答者と比較した際に、C5aR1が下方調節されているため(図8)、インフリキシマブ非応答者ではPMN機能が部分的に又は完全に麻痺されている可能性があり、その結果宿主防御が損なわれ得ることが仮定される。
【0105】
Toll様受容体(TLR)2及びTLR4は、特定の病原体関連の分子パターンを認識する、宿主防御に関与する2つの受容体である。インフリキシマブ応答者を非応答者と比較した際、両方とも0週目に下方調節された(図7及び図10)TLR2及びTLR4は、PMNsを含む白血球上に発現され、正常な対照と比較した場合、UCにて過剰発現されている。樹状細胞(DCs)は、TLRsを介して微生物構造を認識及び応答する。腸内で、DCsは耐性誘導の中心であり、T細胞の分化を方向付ける。健康な個人では、TLR2又はTLR4を発現する腸管DCsは殆ど存在しないが、UCでは両方とも有意に上昇されている。TLRシグナルが腸管上皮細胞(IEC)恒常性の維持に重要であり、また共生細菌はIEC恒常性の維持に有意な役割を有するため、調節解除されたTLRsシグナル伝達は、UCの寄与因子であり得る。
【0106】
骨髄細胞上に発現される誘発受容体(TREM−1)は、微生物成分の存在下でPMNs及び単球の表面上に発現される受容体である。TREM−1は、0週目にて応答者を非応答者と比較した際に下方調節された(図7)。CXCL8/IL−8、CXCR1/IL−8RA及びCXCR2/IL−8RB(図7及び図10)も下方調節され、この発見はUC患者の腸管粘膜標本中でのこれらの分子の増大された発現により強調された。また、直腸粘膜中の増大されたCXCL8/IL−8レベルはUC再発と有意に関連する。最後に、CXCL8/IL−8は、PMN経上皮遊走を開始させ得る。これらの遺伝子はインフリキシマブ非応答者のPMN活性の差異にも関与している。
【0107】
BCL6、及びCREB5と類似した遺伝子は、20又は5の予測的パネルにおいて最大の予測値で0週目に発現された2つの遺伝子である。BCL6は、核転写抑制因子(nuclear transcriptional repressor)をコードする癌原遺伝子であり、胚中心形成と、リンパ球機能、分化及び生存の調節とに中心的役割を有する。BCL6マウスは、胚中心形成の異常と、広範な多臓器、特に心臓及び肺の炎症性応答とにより特徴付けられる表現型を有し、典型的なTh2過剰免疫応答に対応している。また、BCL6は、GATA−3転写因子の発現を制御することにより多数のTh2サイトカインの発現を調節し、より活性なTh2応答が、インフリキシマブ非応答者の状態の原因であることを示唆している。IL−13Rα2は、検証コホートのUC及びIBD全体で応答者と非応答者とを区別する最も有意な遺伝子プローブであった。IL−13はTh2応答の調節因子であり、IL−13Rα2受容体は、最近、線維形成に関与することが仮定されている。
【0108】
IL−11の発現の変化は、UC病理発生に関与し得る。インターロイキン−11は抗炎症剤特性を有し、インフリキシマブに応答するUC患者でのこの遺伝子の下方調節は、疾病過程上に陽性作用を有し得る。インターロイキン−11及びインターロイキン−1RN遺伝子多型がUCに関連している一方、IL−11は、MLCKタンパク質の発現及び活性の増大により仲介される腸管浸透性の増大に関連している。
【0109】
両方のコホートからの結果を比較した際、2つの遺伝子シグニチャ間に非常に有意な重複が存在し、自然免疫及びTh2歪みがUC回復に不可欠であることを強調している(図6)。これらの結果は、共通の経路における多数の遺伝子発現シグニチャが、IFXに対する応答の予測に使用できることも示している。
【0110】
本発明らは、mRNA発現分析を用いて、UCのインフリキシマブ処置に対する予測的応答シグニチャを開発してきた。このシグニチャは、インフリキシマブ作用の洞察を分子レベルで提供する。PMN及びTh2細胞機能に影響を与える遺伝子の発現は、検証コホートに関して記載した結果と同様、インフリキシマブに対する応答の予測において最も影響力がある。本発明らは、UC患者では、処置から8週間後に数人の患者に観察されたインフリキシマブ処置に対する応答の欠如が、これらの遺伝子の粘膜遺伝子に大きく原因することを提案する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者におけるTNF媒介性関連疾患の抗TNF療法による処置の適合性を予測するための方法であって、
a)被験者から得られた標本から、核酸試料を調製することと、
b)BCL6(ジェンバンクAcc.No.AW264036;SEQ ID NO:118)及びtx82a04.x1(ジェンバンクAcc.No.AI689210;SEQ ID NO:123)にハイブリダイズする標識核酸セグメントのパネルにより前記試料をアッセイすること、を含み、前記遺伝子の下方調節は、炎症性胃腸疾患の処置に関する治療効果に相関する、方法。
【請求項2】
前記アッセイすることが、C5AR1((ジェンバンクAcc.No.NM001736;SEQ ID NO:119),FOLR1((ジェンバンクAcc.No.U81501;SEQ ID NO:142)及びOSM(ジェンバンクAcc.No.A1079327;SEQ ID NO:173)からなる群より選択されるメンバーに対する核酸ハイブリダイゼーションをアッセイすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アッセイすることが、SEQ ID NO:s110〜203から選択される遺伝子に対する核酸ハイブリダイゼーションをアッセイすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗TNF療法が、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エンブレル(商標)及びヒュミラ(商標)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炎症性胃腸疾患が、クローン病、炎症性腸疾患及び潰瘍性大腸炎からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記炎症性胃腸疾患が、軽度、中度、重度の小児又は成人型からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗TNF抗体がゴリムマブ又はインフリキシマブであり、前記TNF媒介性関連疾患が潰瘍性大腸炎である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記収集物が、SEQ ID NOs:1〜109から選択される核酸セグメントのアレイである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
患者におけるTNF媒介性関連疾患の、抗TNF療法による処置の適合性を予測するためのアレイに基づく試験方法であって、
a)前記患者から得られた標本から、核酸の混合物を調製し、
b)BCL6(ジェンバンクAcc.No.AW264036;SEQ ID NO:118)及びtx82a04.x1(ジェンバンクAcc.No.AI689210;SEQ ID NO:123)にハイブリダイズする標識核酸プローブのパネルにより前記試料をアッセイする、ことを含み、前記プローブはSEQ ID NO:37及びSEQ ID NO:41を含み、前記遺伝子の下方調節は、炎症性胃腸疾患の処置に関する治療効果に相関する、方法。
【請求項10】
前記アッセイすることが、C5AR1((ジェンバンクAcc.No.NM001736;SEQ ID NO:119)、FOLR1((ジェンバンクAcc.No.U81501;SEQ ID NO:142)又はOSM(ジェンバンクAcc.No.A1079327;SEQ ID NO:173)をアッセイすることを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アッセイすることが、SEQ ID NOs:110〜203の遺伝子のうちの1つをアッセイすることを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記抗TNF療法が、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エンブレル(商標)及びヒュミラ(商標)、又は他の抗TNF生物学的製剤若しくは小分子薬からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
予後又は診断使用のためのキットであって、マーカー遺伝子又は前記マーカー遺伝子に相補的な鎖をコードするオリゴヌクレオチド、又はポリヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチドと、前記マーカー遺伝子を発現する細胞と、を含み、前記マーカー遺伝子が、BCL6(ジェンバンクAcc.No.AW264036;SEQ ID NO:118)及びtx82a04.x1(ジェンバンクAcc.No.AI689210;SEQ ID NO:123)の部分をコードするヌクレオチド配列からなる群より選択される、キット。
【請求項14】
前記マーカー遺伝子が、C5AR1((ジェンバンクAcc.No.NM001736;SEQ ID NO:119)、FOLR1((ジェンバンクAcc.No.U81501;SEQ ID NO:142)又はOSM(ジェンバンクAcc.No.A1079327;SEQ ID NO:173)を更に含む、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記マーカー遺伝子が、SEQ ID NOs:110〜203に列挙される遺伝子を更に含み、前記オリゴヌクレオチドがSEQ ID NOs 1〜109のうちの任意の1つのプローブを含む、請求項14に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−01】
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【図10−02】
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【図10−03】
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【図10−04】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−500993(P2012−500993A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525096(P2011−525096)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/054287
【国際公開番号】WO2010/044952
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】