説明

潰瘍抑制・治療剤

【課題】従来の亜鉛化合物や水酸化アルミニウム等の潰瘍抑制・治療剤に比べはるかに優れた粘膜保護効果および潰瘍治癒効果を有する潰瘍抑制・治療剤およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】制酸力の大きなアルミニウム化合物に潰瘍治療作用をもつ亜鉛を固溶させて、もしくはアルミニウム化合物と亜鉛塩が共沈物を形成する形態で亜鉛を均一に含有させて、亜鉛とアルミニウム化合物の相乗作用を発揮させることにより潰瘍抑制・治療効果を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛を固溶体として含有しているか、または亜鉛塩と共沈物を形成しているアルミニウム化合物(以下、含亜鉛アルミニウム化合物)を有効成分とする潰瘍抑制・治療剤に関する。より詳しくは、従来の亜鉛化合物や水酸化アルミニウム等の潰瘍抑制・治療剤に比べはるかに優れた効果を有する、含亜鉛アルミニウム化合物を有効成分とする潰瘍抑制・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛には粘膜のたんぱく質と結合して被膜を形成し、傷ついた組織細胞を保護してその回復を助けるはたらきがあることはよく知られている。
この作用を利用した潰瘍治療剤として硫酸亜鉛やL−カルノシン亜鉛錯体等の亜鉛化合物が非特許文献1に記載されている。特に後者は粘膜保護作用だけでなく制酸作用も有していることから胃潰瘍抑制・治療剤として有用である。
【0003】
特許文献1には、酸化アルミニウム水和物を主成分とし、亜鉛を「痕跡量」含む医薬組成物が開示されている。
しかし、特許文献1に開示された医薬組成物は天然無機鉱物を粉砕した粉末からなるものであり、実施例の記載から判断される亜鉛の含有量は0.42%以下である。
したがって特許文献1に開示された医薬組成物は亜鉛の潰瘍治療効果を積極的に利用したものとは言えず、亜鉛の含有量からみてもそのような効果はないと考えられる。
【0004】
特許文献2の段落0002には、「水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム含有製剤は、制酸作用及び胃粘膜保護作用を有し」と記載されており、乾燥水酸化アルミニウムゲルを主成分とする制酸剤の実施例が示されている。
【0005】
特許文献3には、銀イオンと亜鉛イオンを保持したアルミノケイ酸塩を含有する消化性潰瘍の抑制または治療薬が開示されている。
特許文献3の実施例の試験例2 表2には、亜鉛イオンを12.5%含有するアルミノケイ酸塩を、1日2回、各150mg/kg(体重)づつ経口投与した結果、潰瘍面積が参照に対し56.8%の抑制率であったことが記載されている。
【非特許文献1】高谷昌弘、稲垣哲也,「くすりの解説:抗潰瘍薬−L−カルノシン亜鉛錯体・ポラプレジンク」,ファルマシア,社団法人 日本薬学会,1995年,31巻,第6号,p.613−615
【特許文献1】特開昭61−225126号公報
【特許文献2】特開平9−143080号公報
【特許文献3】特開2001−151681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来の亜鉛化合物や水酸化アルミニウム等の潰瘍抑制・治療剤に比べはるかに優れた効果を有する潰瘍抑制・治療剤を提供することである。
【0007】
非特許文献1に記載されている硫酸亜鉛やL−カルノシン亜鉛錯体等の潰瘍治療剤は、粘膜保護作用は十分であるが制酸力、すなわち少量で長時間胃内pHを4〜5に維持する能力が不十分であるため、特に制酸剤を併用しなければならないなど胃潰瘍抑制・治療剤としては問題があった。
【0008】
特許文献3の消化性潰瘍抑制・治療薬においては、試験例2 表2に示された効果をえるためには体重60kgの成人が1日に1g以上の亜鉛を摂取しなければならない換算になる。これは厚生労働省の示す上限値である15mgを大きく超えた摂取量であり、このような亜鉛の過剰摂取は、銅の吸収を阻害するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記問題を解決するには、制酸力の大きなアルミニウム化合物に潰瘍治療作用をもつ亜鉛を固溶させ、または、亜鉛塩と共沈物を形成させて亜鉛とアルミニウム化合物の相乗効果を発揮させることにより、従来の亜鉛化合物や水酸化アルミニウム等の潰瘍治療剤に比べはるかに優れた効果を有する潰瘍抑制・治療剤がえられることを見いだし本発明を完成した。
【0010】
本発明におけるアルミニウム化合物は、制酸力が大きいという基準で選択される。好ましくは、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムおよびショ糖硫酸エステルアルミニウム塩からなる群から1種を選択すべきであるが、必要ならば複数種類を組み合わせてもよい。
制酸力の点では、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウムを用いることがより好ましい。
【0011】
上記アルミニウム化合物に亜鉛が固溶した、もしくはアルミニウム化合物と亜鉛塩が共沈物を形成する形態で亜鉛が均一に含有されている本発明の含亜鉛アルミニウム化合物は、制酸剤としてはたらくと同時に、アルミニウム化合物が体内で亜鉛の吸収を阻害するフィチン酸を吸着するために、すぐれた潰瘍抑制・治療効果をもたらしているものと考えられる。
【0012】
本発明の含亜鉛アルミニウム化合物を合成する際には、原料となる水可溶性アルミニウム塩に水可溶性亜鉛塩を加えて、アルミニウム塩と亜鉛塩の混合水溶液をあらかじめ調整しておく方法が一般的である。
上記各含亜鉛アルミニウム化合物の具体的な製造方法は実施例において詳述する。
【0013】
亜鉛源となる水可溶性亜鉛塩は、加水分解により亜鉛の酸化物または水酸化物を生成する化合物であればよい。例示するならば、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛およびクエン酸亜鉛等が挙げられる。
【0014】
本発明の含亜鉛アルミニウム化合物における亜鉛の含有率は金属亜鉛換算で0.05〜10重量%の範囲であることが効果の持続性や制剤の安定性の面で好ましく、より好ましい範囲は0.05〜2重量%であり、最も好ましくは0.1〜0.5重量%である。
亜鉛の含有率が10重量%を超えると制酸力が低下することがある。
一方、亜鉛の含有率が0.05重量%未満の場合は、潰瘍抑制・治療効果の持続性が低下することがある。ただし、投与間隔によっては、亜鉛の含有率が0.05重量%未満であっても本発明の効果はえられる。
【0015】
亜鉛はアルミニウム化合物に固溶しているか、もしくはアルミニウム化合物と共沈物を形成する形態で均一に含有されていることが重要である。すなわち、塩化亜鉛等の亜鉛化合物と水酸化アルミニウムを通常の方法で混合した混合物では本発明のような効果はえられない。
ただし、アルミニウム化合物粒子において、亜鉛が表面に偏在固溶していても本発明の効果が減じられることはない。
【0016】
本発明の含亜鉛アルミニウム化合物を潰瘍抑制・治療剤として使用する場合の経口投与量は、成人一人あたり通常100〜10,000mg/日の範囲で患者の症状に応じて適宜調整すればよい。
【0017】
本発明の含亜鉛アルミニウム化合物を潰瘍抑制・治療剤として使用する場合の剤形は、散剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤および内用液剤等いずれでもよく、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤および滑沢剤等を添加することができる。
賦形剤としては乳糖、デンプン、結晶セルロース、マンニトールおよび炭酸カルシウム等、結合剤としては、デンプン糊液、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロースおよびブドウ糖等、崩壊剤としてはゼラチン、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび結晶セルロース等、さらに滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム、タルクおよびマクロゴール等通常使用される
添加剤を使用して差し支えない。
液剤を調整する場合は、本発明の含亜鉛アルミニウム化合物以外に安息香酸ナトリウム等の保存料、pH調整剤およびリンゴ酸等の甘味料および香料等を精製水に分散させる通常の調整方法を用いる。
【0018】
上記顆粒剤または錠剤を製造する際の造粒条件や打錠条件等は、亜鉛を含まない各アルミニウム化合物の周知の該条件をほぼそのまま適用してよい。たとえば、含亜鉛乾燥水酸化アルミニウムゲルの打錠条件は、亜鉛を含まない乾燥水酸化アルミニウムゲルの公知の打錠条件をもとに、過度の試行錯誤なしに見いだすことができる。
【0019】
かくして本発明によれば、下記のように含亜鉛アルミニウム化合物を有効成分とする潰瘍抑制・治療剤が提供される。
(1)乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムおよびショ糖硫酸エステルアルミニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも一種のアルミニウム化合物であり、該アルミニウム化合物は亜鉛を固溶体として含有するか、または亜鉛塩と共沈物を形成している含亜鉛アルミニウム化合物を有効成分とする潰瘍抑制・治療剤。
(2)含亜鉛アルミニウム化合物中の亜鉛の含有量が0.05〜10重量%の範囲であることを特徴とする前記(1)の潰瘍抑制・治療剤。
(3)上記アルミニウム化合物が乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウムである前記(1)の潰瘍抑制・治療剤。
(4)前記(1)の潰瘍抑制・治療剤を造粒してえられる顆粒剤。
(5)前記(1)の潰瘍抑制・治療剤を液体分散媒に分散させてえられる液剤。
(6)前記(1)の潰瘍抑制・治療剤を打錠してえられる錠剤。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
特に明記する以外は和光純薬(株)製 試薬1級を用いた。
実施例において用いた装置・方法は以下のとおりである。
(1)成分分析
MgO、Al:キレート滴定法による
Zn:原子吸光法による
実施例中の亜鉛の含有量はすべて金属亜鉛換算の重量%での値である。
(2)制酸力の測定
第十四改正日本薬局方に規定された制酸力試験法により制酸力を測定した。
(3)粒子構造の解析;X線回折の分析
方法:Cu−Kα、角度(2θ):5〜65°、ステップ:0.02°、スキャンスピ−ド:4°/分、管電圧:40kV、管電流:20mV。
装置:RINT2200VX線回折システム(理学電機(株)製)
【実施例1】
【0021】
(合成例1)含亜鉛乾燥水酸化アルミニウムゲルの合成
1.05mol/L硫酸アルミニウム水溶液に硫酸亜鉛七水和物をモル比Zn/硫酸アルミニウム=0.029となる量加えて攪拌溶解した。(以下Zn−Al混液1と称する。)
オーバーフロー付容量2.1Lのステンレス製反応槽に、予め水道水500mLを入れ、攪拌下にZn−Al混液を12.5mL/分および0.75mol/L炭酸ナトリウム水溶液を57.5mL/分の流速で、それぞれ定量ポンプを用いて同時に供給し5時間反応させた。なお、反応温度は25℃±1℃、反応pHは6.5〜6.6であった。えられた反応懸濁液をヌッチエで減圧下に洗浄、脱水後、70℃で20時間乾燥し、ラボスケールハンマーミルで粉砕し含亜鉛水酸化アルミニウムゲル粒子をえた。
えられた水酸化アルミニウムゲル粒子の制酸力は320mLであり、成分分析の結果、酸化アルミニウムが54.3重量%でZnを0.9重量%含有していた。
また、該含亜鉛水酸化アルミニウムゲル粒子のX線回折図を図1に示す。図1から明らかなように含亜鉛水酸化アルミニウムゲル粒子は不定形の化合物である。亜鉛化合物がX線回折パターン上に顕在化していないことから、大部分の亜鉛が水酸化アルミニウムゲルに固溶しているか、または水酸化アルミニウムと不定形の共沈物を形成しているものと推察される。
(合成例2)含亜鉛ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテートの合成
1Lのビーカーに、水道水500mLと合成例1でえられた亜鉛含有水酸化アルミニウムゲル粒子130gを入れ亜鉛含有水酸化アルミニウムゲル懸濁液を調整した。続いて、攪拌下でグリシン(昭和電工株式会社製)104gを入れて85℃に昇温した後85℃±1℃で1時間熟成した。冷却後、ラボスケールスプレードライヤーを用いて乾燥し、含亜鉛ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート粒子をえた。えられた含亜鉛ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート粒子の制酸力(乾燥物換算)は201mLであった。成分分析の結果、酸化アルミニウム(乾燥物)が37.1重量%、窒素(乾燥物)が10.1重量%であり、Znの含有量は0.54重量%であった。
(合成例3)含亜鉛水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物の合成
1Lのビーカーに、水道水800mLと合成例1でえられた含亜鉛水酸化アルミニウムゲル粒子115gを入れ、含亜鉛水酸化アルミニウムゲル懸濁液を調整した。続いて、攪拌下で試薬特級の炭酸水素ナトリウム85gを入れ70℃に昇温した後70℃±1℃で1時間熟成した。冷却後、ヌッチエで減圧下に洗浄、脱水後、70℃で20時間乾燥し、ラボスケールハンマーミルで粉砕することにより含亜鉛水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物粒子をえた。
また、えられた含亜鉛水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物粒子の制酸力(乾燥物換算)は280mLであった。成分分析の結果、アルミニウム(乾燥物換算)が19.3重量%、ナトリウム(乾燥物換算)が14.7重量%であり、Znの含有量は0.53重量%であった。
(合成例4)含亜鉛ケイ酸アルミニウムの合成
0.16mol/L硫酸アルミニウム水溶液に硫酸亜鉛七水和物をモル比Zn/硫酸アルミニウム=0.032となる量加えて攪拌溶解した。(以下降Zn−Al混液2と称する)
また、3号ケイ酸ナトリウム水溶液に、水道水を加えてSiO濃度1.67mol/Lの3号ケイ酸ナトリウム水溶液を調整した。
オーバーフロー付容量2.1Lのステンレス製反応槽に予め水道水500mLを入れ、攪拌下でZn−Al混液2を36.6mL/分および前記3号ケイ酸ナトリウム水溶液を33.4mL/分の流速で、それぞれ定量ポンプを用いて同時に供給し5時間反応した。このときの反応温度は25℃±1℃、反応pHは4.0〜4.2であった。
えられた反応懸濁液を70℃±1℃で1時間熟成し、冷却後、ヌッチエで減圧下に洗浄、脱水後、70℃で20時間乾燥し、ラボスケールハンマーミルで粉砕し含亜鉛合成ケイ酸アルミニウム粒子をえた。
また、えられた含亜鉛合成ケイ酸アルミニウム粒子の制酸力は65mLであった。成分分析の結果、Znの含有量は0.61重量%であった。
(合成例5)含亜鉛水酸化アルミナマグネシウムの合成
1.05mol/L硫酸アルミニウム水溶液に硫酸亜鉛七水和物をモル比Zn/硫酸アルミニウム=0.4となる量加えて攪拌溶解した。(以下Zn−Al混液3と称す。)
3.5L容ステンレス製丸槽に、水道水1Lと水酸化マグネシウム(商標名:キスマ/協和化学工業(株)製)87.5gを入れ、攪拌下でZn−Al混液3 520mLおよび0.75mol/L炭酸ソーダ水溶液1,670mLをそれぞれの定量ポンプを用いて同時に30分で加えた。このときの反応温度は25℃±1℃、反応終了時液pHは7.9であった。えられた反応懸濁液をヌッチエで減圧下で洗浄、脱水後、80℃で20時間乾燥し、ラボスケールハンマーミルで粉砕し含亜鉛水酸化アルミナマグネシウム粒子をえた。
えられた含亜鉛水酸化アルミナマグネシウムの制酸力は312mLであった。成分分析の結果、酸化アルミニウムが21.7重量%、酸化マグネシウムが30.0重量%であった。また、Znの含有量は8重量%であった。
(合成例6)含亜鉛乾燥水酸化アルミニウムゲルの合成
硫酸亜鉛七水和物を加えなかったこと以外は合成例1と同様の方法で合成をおこない、乾燥水酸化アルミニウムゲル粒子をえた。
200mLのビーカーにイオン交換水50mLと該乾燥水酸化アルミニウムゲル10gを入れ40℃で攪拌した。懸濁状態になったところで塩化亜鉛0.2gを加えてさらに1時間攪拌した。えられた懸濁液をヌッチエで減圧下で洗浄、脱水後、80℃で1時間乾燥、粉砕し含亜鉛水酸化アルミナマグネシウム粒子をえた。
えられた水酸化アルミニウムゲル粒子の制酸力は320mLであり、成分分析の結果Znを0.9重量%含有していた。
(合成例7)含亜鉛メタケイ酸アルミン酸マグネシウムの合成
6L容ステンレス製反応槽に、1mol/L塩化アルミニウム水溶液1.1Lおよび硫酸亜鉛七水和物を原子比Zn/Al=0.19となる量投入し攪拌溶解する。更に、この水溶液を75℃に昇温し、攪拌下に3.65mol/L3号ケイ酸ソーダ(モル比SiO/NaO=3.13、SiO含有量27.0%)1.42L加えた後、更に75℃で1時間攪拌する(熟成する)。後、50℃に冷却し、2.75mol/L塩化マグネシウム1Lとアルミン酸ナトリウム(モル比NaO/Al=1.5、Al含量22%)920gおよび0.267mol/L水酸化カリウム1Lをそれぞれの定量ポンプを用いて同時に30分で添加した。
その後、更に、50℃で1時間攪拌した(熟成した)。尚、最終反応液のpHは10.3であった。得られた反応懸濁液を減圧下に洗浄、脱水後、ラボ熱風乾燥機を用いて70℃で20時間乾燥し、ラボスケールハンマーミルで粉砕し含亜鉛メタケイ酸アルミン酸マグネシウム粒子を得た。得られた含亜鉛メタケイ酸アルミン酸マグネシウム粒子の化学分析値は、酸化アルミニウム含有量=28.1重量%、酸化マグネシウム含有量=11.1重量%、二酸化ケイ素含有量=32.2重量%、亜鉛含有量(Zn)=1.2重量%、制酸力=225mLであった。
(合成例8)含亜鉛ショ糖ポリ硫酸エステルアルミニウムの合成
0.5mol/L硫酸アルミニウム水溶液に硫酸亜鉛七水和物をモル比Zn/硫酸アルミニウム=0.005となる量加えて攪拌溶解した。(以下Zn−Al混液5と称す。)
また、水道水1Lにショ糖ポリ硫酸エステルナトリウム塩 50gを入れて溶解させ、ショ糖ポリ硫酸エステルナトリウム塩溶液を調整した。
3.5Lステンレス製丸槽に前記Zn−Al混液5を520mL入れて攪拌しながら、攪拌下でショ糖ポリ硫酸エステルナトリウム塩溶液を滴下した。このとき反応液のpHは5に調整した。
反応開始から約1時間後、えられた反応懸濁液をヌッチエで減圧下で洗浄、脱水後、80℃で20時間乾燥し、ラボスケールハンマーミルで粉砕して含亜鉛含有ショ糖硫酸エステルアルミニウム粒子をえた。
えられた含亜鉛ショ糖硫酸エステルアルミニウムの制酸力は50mLであった。成分分析の結果、酸化アルミニウムが34.5重量%、硫黄が10.3重量%であった。また、Znの含有量は0.1重量%であった。
(比較例1)塩化亜鉛と乾燥水酸化アルミニウムゲルの混合物の調整
硫酸亜鉛七水和物を加えなかったこと以外は合成例1と同様の方法で合成をおこない、乾燥水酸化アルミニウムゲル粒子をえた。乾燥水酸化アルミニウムゲル10gに塩化亜鉛0.19gを加えて混合した。
えられた亜鉛含有水酸化アルミナマグネシウム(亜鉛含有量0.9重量%)の制酸力は320mLであった。
【実施例2】
【0022】
雄のSPFラットを用いて実施例1でえられた各合成例の含亜鉛アルミニウム化合物および市販の抗潰瘍薬についてエタノール誘発胃粘膜損傷テストをおこなった。
市販の抗潰瘍薬としてはL−カルノシン亜鉛錯体(商標名:プロマック/ゼリア新薬工業(株)製−亜鉛含有量は34mg/g)を乳鉢ですりつぶした粉末を、コントロールとしては0.5%メチルセルロースの精製水懸濁液を用いた。
【0023】
実施例1でえられた各合成例の含亜鉛アルミニウム化合物各1g、比較例1の混合物1gおよびL−カルノシン亜鉛錯体粉末295mgをそれぞれ精製水100mLに懸濁させて液剤を調整した。
24時間絶食したSPFラット(n=6/体重約200g)に、上記各液剤およびコントロールを各10mL/kg(体重)経口投与した。さらに1時間後に無水エタノールを10mL/kg(体重)を経口投与した。
1時間後に胃を摘出し、摘出した胃に1%ホルマリン液10mLを注入して同液中に10分以上浸した。胃を大湾に沿って切開し、実体顕微鏡で観察した1匹当りに発生している損傷の長さの合計を「損傷係数」とした。
また、コントロールに対する各損傷係数の値を「抑制率 %」とした。
胃粘膜障害抑制効果の程度を評価した結果を表1に示す。
【0024】
表1から明らかなように、本発明の含亜鉛アルミニウム化合物は、従来公知の抗潰瘍薬、および従来公知の制酸剤と硫酸亜鉛の混合物と比較しても胃粘膜保護作用すなわち潰瘍抑制作用に関して有意な差を示した。
また、表1において、比較例1の塩化亜鉛と乾燥水酸化アルミニウムゲルの混合物が示す潰瘍抑制効果に対し、本発明の含亜鉛アルミニウム化合物が大きな抑制率を示すことから、亜鉛が固溶または水酸化アルミニウムと不定形の共沈物を形成していることによって前記混合物には見られない効果がえられている。
【0025】

【表1】




【実施例3】
【0026】
実施例2と同じ液剤とコントロールを用意した。
雄のSPFラットに99.5%のエタノール1mLを経口投与し胃潰瘍を発生させた。胃潰瘍発生の翌日から2週間、毎日午前9:30と午後5:30の2回、上記各液剤を経口投与した(5mL/kg(体重))。飼料は胃潰瘍発生の3日前から、毎日午前9:00と午後5:00の2回与え続けた。胃潰瘍発生から15日目に胃を摘出し、実体顕微鏡で観察した1匹当りに発生している損傷の長さの合計を「損傷係数」とした。
また、コントロールに対する各損傷係数の値を「抑制率 %」とした。
潰瘍治癒促進効果を評価した結果を表2に示す。胃粘膜障害治癒促進効果の程度を評価した結果を表2に示す。

【0027】














【表2】












【0028】
表2から明らかなように、本発明の亜鉛含有アルミニウム化合物は、従来公知の抗潰瘍薬、および従来公知の制酸剤と硫酸亜鉛の混合物と比較しても潰瘍治癒促進効果すなわち潰瘍治療効果に関して有意な差を示した。
また、表2において、比較例1の塩化亜鉛と乾燥水酸化アルミニウムゲルの混合物が示す潰瘍治療効果に対し、本発明の含亜鉛アルミニウム化合物が大きな治癒率を示すことから、亜鉛が固溶しているまたは水酸化アルミニウムと不定形の共沈物を形成していることによって前記混合物には見られない効果がえられている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の方法により、従来の亜鉛化合物や水酸化アルミニウム等の潰瘍抑制・治療剤に比べはるかに優れた効果を有する潰瘍抑制・治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は実施例1の合成例1でえられた含亜鉛乾燥水酸化アルミニウムゲルのX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムおよびショ糖硫酸エステルアルミニウム塩からなる群より選ばれた少なくとも一種のアルミニウム化合物であり、該アルミニウム化合物は亜鉛を固溶体として含有しているか、または亜鉛塩と共沈物を形成している含亜鉛アルミニウム化合物を有効成分とする潰瘍抑制・治療剤。
【請求項2】
上記含亜鉛アルミニウム化合物中の亜鉛の含有量が金属亜鉛換算で0.05〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の潰瘍抑制・治療剤。
【請求項3】
上記アルミニウム化合物が乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウムである請求項1に記載の潰瘍抑制・治療剤。
【請求項4】
請求項1に記載の潰瘍抑制・治療剤を造粒してえられる顆粒剤。
【請求項5】
請求項1に記載の潰瘍抑制・治療剤を液体分散媒に分散させてえられる液剤。
【請求項6】
請求項1に記載の潰瘍抑制・治療剤を打錠してえられる錠剤。










【図1】
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【公開番号】特開2009−263294(P2009−263294A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116509(P2008−116509)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】