説明

潰瘍治療剤

【課題】亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とする胃内壁保護効果を持つ潰瘍治療剤の提供。
【解決手段】亜鉛とアルミニウムの固溶体である下記式(1)の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を製造することにより解決する。Zn1-xAlX(OH)2(An-)x/n・mH2O(1)但し、式中、An-はCO32-、NO3-、SO42-またはCl-を示し、nは1または2を示し、x、およびmはそれぞれ下記条件を満足する値を示す。0.20≦x≦0.70,0≦m<1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分として含有する潰瘍治療剤乃至胃内壁保護剤に関するものであり、より詳しくは、優れた潰瘍治療効果乃至胃内壁保護効果を持つ、亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とする新規潰瘍治療乃至胃内壁保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
胃潰瘍治療剤は昔から研究されており、多種多様な製品が開発されている。消化性潰瘍が起こる原因は、胃酸の酸度が高いこと、自律神経の興奮の促進、胃壁の血行障害、ストレス等があり、抗潰瘍剤としては粘膜保護剤とH2ブロッカーやプロトンインヒビター等の胃酸の分泌を抑制する攻撃因子抑制剤が使われている。最近は亜鉛(Zn)の創傷治癒作用が注目され、有機物質に亜鉛(Zn)を配合した潰瘍治療剤も開発されている。例えば、亜鉛(Zn)の錯体を組みやすいという特徴を利用した、ヒスタミンH2受容体拮抗剤のシメチジンに亜鉛を配合したシメチジン亜鉛錯体(特許文献1)がある。
これら胃潰瘍治療剤のほとんどが有機物であり、その人体への安全性が懸念される。
無機物質の胃潰瘍治療剤としては制酸剤である合成ハイドロタルサイトがある。(特許文献2)(特許文献3)合成ハイドロタルサイトは医薬用制酸剤としては理想的である、とされている。
制酸剤としてのハイドロタルサイト粒子は、代表的には、化学式Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oで表され、潰瘍治療剤としても有効である。しかし、従来のハイドロタルサイト粒子を潰瘍治療剤として使用する場合は長期間の服用が必要であり、長期間の服用により、胃内壁の粘膜をいためる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-49035号公報
【特許文献2】特公昭46-2280号公報
【特許文献3】特公昭50-30039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイドロタルサイト粒子は、優れた潰瘍治療剤であるが、長期間の服用が必要であり、長期間の服用により胃内壁の粘膜を損傷する場合がある。胃内壁の保護という点から考えると、さらに改良が望まれていた。そこで、本発明の目的は、胃内壁の粘膜を損傷させず短期間の服用で優れた潰瘍治療効果を持つ潰瘍治療剤として亜鉛・アルミニウム化合物粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成するために、研究を重ねた。その結果、亜鉛・アルミニウム化合物粒子が、胃内壁の粘膜を損傷することなく優れた潰瘍治療作用を有することを見出した。すなわち、従来の胃潰瘍治療剤に比べ、速効性で副作用がない胃潰瘍治療剤である亜鉛・アルミニウム化合物粒子を提供できることを見出した。
過度のストレスによる胃潰瘍の場合は、ストレスによって血液中の亜鉛(Zn)濃度が下がる。それは、ストレスによって肝臓で生成されるメタロチオネインという蛋白質が多くなるが、その際、亜鉛が大量に使用されるので、血液中の亜鉛(Zn)が肝臓に集まるため、亜鉛の血中濃度が低くなり、胃に十分供給できなくなる。そのため、潰瘍の発生を抑制する亜鉛の血中濃度が低くなり潰瘍を発生する。本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子の服用により、胃内壁粘膜の創傷治癒効果のみならず、亜鉛・アルミニウム化合物粒子が胃内で胃酸により分解し、亜鉛(Zn)が血液中に吸収され、肝臓および血中の亜鉛(Zn)濃度が高くなり、胃へ亜鉛(Zn)が供給されることも胃潰瘍治癒を助けていると思われる。
【0006】
さらに、人体に必要な必須ミネラルのひとつである亜鉛補給も兼ね備えている。
必須ミネラルの一つである亜鉛は、最近不足しがちである。
亜鉛不足は、味覚や免疫力を低下させるだけでなく、特に妊婦の場合、体内の亜鉛が胎児に移行するので、亜鉛欠乏になりやすく、免疫力が低下する。また、亜鉛欠乏はうつ病を引き起こすことも報告されている。亜鉛欠乏のまま出産した場合は、赤ん坊にうつ状態の脳波が観察されたり、脳細胞を作るたんぱく質の合成が行われず、学習や記憶力に悪影響を及ぼすということも判ってきている。亜鉛欠乏性貧血も報告されている。貧血の女性の約48%が亜鉛性貧血であったとの報告もある。
これら人体に不足しがちな微量の亜鉛も本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子により提供できる、消化性潰瘍治療および亜鉛補給効果を兼ね備えた新規潰瘍治療剤である。
【0007】
すなわち、本発明者は、比較的安価で、しかも無毒性か、もしくは毒性が比較的少ない亜鉛とアルミニウムを固溶させた下記式(1)である亜鉛・アルミニウム化合物粒子が胃潰瘍治療効果に優れており、ミネラルとしての亜鉛(Zn)補給剤としての効果もあることを見出し本発明に到達した。
Zn1-xAlX(OH)2(An-)x/n・mH2O (1)
但し、式中、An-はCO32-、NO3-、SO42-またはCl-を示し、nは1または2を示し、x、およびmはそれぞれ下記条件を満足する値を示す。
0.20≦x≦0.70, 0≦m<1)
【0008】
本発明の式(1)で表される亜鉛・アルミニウム化合物粒子は、本発明者が見出した新規な潰瘍治療剤であり、さらに、本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は、亜鉛とアルミニウムの混合物ではなく、固溶体であるため、胃内壁および腸内壁を痛めることもない。
【0009】
本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は、前記式(1)で表される化学構造を有している。この式(1)について以下具体的に説明する。
式(1)中、An-は、n価のアニオンであり、CO32-、SO42-、NO3-またはCl-であり、CO32-、またはSO42-が好ましく、CO32-がもっとも好ましい。これらアニオンは2種、例えば、CO32-およびSO42-が同時に含まれてもよい。xは0.20≦x≦0.70を満足するが、0.30≦x≦0.50が好ましく、0.35≦x≦0.45がより好ましい。mは、結晶水の含有量を示し、0≦m<1を満足するが、0.1≦m≦1が好ましい。
【0010】
本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子の製造方法は基本的には公知のハイドロタルサイト粒子の製造方法(例えば、米国特許3539306号明細書)と同様の方法である。その際、亜鉛(Zn)が固溶体として含有されるように、アルミニウム塩と一緒に原料中に添加される。亜鉛(Zn)はその所定量を、好ましくは硝酸塩、硫酸塩または塩化物のような水溶性塩として原料中に添加すればよく、反応条件は前記米国特許明細書中に記載された範囲が選択される。
【0011】
本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子の製造方法は、例えば、ZnおよびAlの塩(硝酸塩、塩化物、および硫酸塩)を目的の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を構成する金属元素の比率で含む水溶液と炭酸ナトリウム水溶液(Na2CO3/Al=0.35〜0.75)および水酸化ナトリウム水溶液とを接触させ、水酸化ナトリウム水溶液で反応液のpHを10〜10.5に保持して共沈殿させる。反応は室温ないし100℃の温度で行う。また反応生成物をそのまま、または洗浄し、懸濁液(水系)を70〜200℃の温度で0.5〜24時間水熱反応を行うことも出来る。
【0012】
本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は、特にその形状は制限されないが、レーザー回折散乱法で測定された平均粒子径は、0.1〜25μm、好ましくは0.2〜20μmであるのが有利であり、BET法比表面積は5〜200m2/gの範囲にあればよい。
本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を潰瘍治療剤として使用する場合は、粉末状、顆粒状、錠剤、カプセル剤または、スラリー状のいずれの形態でもよく、賦形剤、結合剤、崩壊剤および滑沢剤等を必要に応じ添加することが出来る。
結合剤としては結晶セルローズ、デンプン系等、崩壊剤としては、とうもろこしデンプン、馬鈴薯デンプン、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、等のデンプン系崩壊剤、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシスターチナトリウム等がある。
【0013】
実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
実施例において、亜鉛・アルミニウム化合物粒子の(a)Zn、(b)平均2次粒子径、(c)BET法比表面積は以下に記載する測定法によって測定された値を意味する。
(a)Zn、およびAlの分析,
原子吸光法により測定した。
(b)平均2次粒子径
MICROTRACK粒度分布計SPAタイプ(LEEDS & NORTHRUP INSTRUMENTS社製)を用いて測定する。
試料粉末700mgを70mLの水に加えて、超音波(NISSEI社製、MODEL US-300、電流300μA)で3分間処理した後、その分散液の2〜4mLを採って、250mLの脱気水を収容した上記粒度分布計の試料室に加え、分析計を作動させて8分間その懸濁液を循環した後、粒度分布を測定する。合計2回の測定を行い、それぞれの測定について得られた50%累積2次粒子径の算術平均値を算出して、試料の平均2次粒子径とする。
(c)BET法比表面積
液体窒素の吸着法により測定した。


【実施例1】
【0014】
1.50モル/L濃度の硝酸亜鉛と1.5モル/L濃度の硝酸アルミニウムとの混合水溶液{A液とする}と0.8モル/L濃度の炭酸ナトリウム水溶液{B液}および3.4N濃度の水酸化ナトリウム水溶液{C液}を調製する。次に、A液, B液,およびC液を定量ポンプを用いてA液/B液=1:1の容量比となる流量で反応槽に注加し、C液で反応液のpH値を10〜10.5の範囲に保持し、反応温度は40℃で行い沈殿物を生成させた。濾過、洗浄、110℃で一夜乾燥後、粉砕、篩過して次に示す組成の複合ハイドロタルサイト粒子を得た。洗浄は水洗後、10-3モル/Lの塩酸で洗浄した。この時の塩酸量は複合ハイドロタルサイト粒子重量の30倍とした。
組成:Zn0.5Al0.5(OH)2(CO3)0.25・0.5H2O

【実施例2】
【0015】
1.50モル/L濃度の硝酸亜鉛と0.75モル/L濃度の硝酸アルミニウムとの混合水溶液{A液}と0.46モル/L濃度の炭酸ナトリウム水溶液{B液}および3.4N濃度の水酸化ナトリウム水溶液{C液}を調製する。次に、実施例1と同様の方法で反応を行い下記に示す組成の複合ハイドロタルサイト粒子を得た。洗浄は水洗後、10-3モル/Lの硝酸を複合ハイドロタルサイト粒子重量の30倍量用い、洗浄した。
組成:Zn0.666Al0.333(OH)2(CO3)0.167・0.5H2O

【実施例3】
【0016】
1.50モル/L濃度の硝酸亜鉛と0.5モル/L濃度の硝酸アルミニウムとの混合水溶液{A液}と0.30モル/L濃度の炭酸ナトリウム水溶液{B液}および3.4N濃度の水酸化ナトリウム水溶液{C液}を調製する。次に、実施例1と同様の方法で反応を行い、下記に示す組成の複合ハイドロタルサイト粒子を得た。洗浄は水洗後、10-3モル/Lの酢酸を複合ハイドロタルサイト粒子重量の30倍量用い、洗浄した。
組成:Zn0.75Al0.25(OH)2(CO3)0.125・0.5H2O

【実施例4】
【0017】
雄ラット(SPF)を用いて実施例1〜3で得られた亜鉛・アルミニウム化合物粒子を用い、胃潰瘍に対する影響を調べた。
(試験方法)
試験群構成
対象群(媒体) 6匹
亜鉛・アルミニウム化合物粒子(実施例1) 100mg/Kg 6匹
亜鉛・アルミニウム化合物粒子(実施例2) 100mg/Kg 6匹
亜鉛・アルミニウム化合物粒子(実施例3) 100mg/Kg 6匹

一晩絶食したラットをペントバルビタールナトリウム(40mg/Kg、i.p.)麻酔下に開腹し、胃体部と幽門前庭部の境界の粘膜下組織に漿膜側より20%酢酸30μLを注入し、酢酸潰瘍を作製する。潰瘍モデル作製3日後に群分けをして被験物質を1日1回100mg/Kgの薬剤を10日間反復経口投与する。最終投与の翌日にペントバルビタールナトリウム(40mg/Kg、i.p.)麻酔下に胃を摘出して潰瘍の長径×短径(mm)を測定し、その積(mm2)を損傷係数とする。結果は表2に示す。
この結果は、本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は有効であることを示している。

【実施例5】
【0018】
雄ラット(SPF)を用いて実施例1〜3で得られた亜鉛・アルミニウム化合物粒子を用い、塩酸-エタノール胃潰瘍に対する影響を調べた。
(試験方法)
約24時間絶食後のラットに150mM塩酸-60%エタノール(99.5%)を1mL/ラットの容量で経口投与した。塩酸-エタノール投与1時間後にペントバルビタールナトリウム(40mg/Kg,i.p.)麻酔下に脱血致死させ、胃を摘出した。摘出した胃に1%ホルマリン液10mLを注入し、同液中に10分以上浸した。胃を大湾に沿って切開し、発生している損傷の長さ(mm)を実体顕微鏡下で測定した。1匹あたりの損傷の長さの合計をその個体の損傷係数とし、6匹の平均値±標準誤差で示した。結果を表3に示す。この結果は、本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は有効であることを示している。

【実施例6】
【0019】
雄ラットを用いて実施例1〜3で得られた亜鉛・アルミニウム化合物粒子を用い、エタノール誘発胃粘膜損傷テストを行った。
(試験方法)
24時間絶食後、エタノール(99.5%)1mL/ラットを経口投与する。エタノール投与1時間後にペントバルビタールナトリウム(40mg/Kg i.p.)麻酔下に脱血致死させ、胃を摘出する。摘出した胃に1%ホルマリン液10mLを注入し、同液中に10分以上浸す。胃を大湾に沿って切開し、発生している損傷の長さを実体顕微鏡下で測定する。1匹あたりの合計を損傷係数とする。結果を表4に示す。この結果は本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は有効であることを示している。

【実施例7】
【0020】
約24時間絶食、絶水後のラットにインドメサシン30mg/Kgを皮下投与する他は、実施例6と同様の方法で胃粘膜損傷試験を行う。結果は表5に示す。この結果は、本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は有効であることを示している。

【実施例8】
【0021】
約24時間絶食後、アスピリン125mg/Kgを2時間おきに2回経口投与する他は、実施例6と同様の方法で胃粘膜損傷試験を行う。結果は表6に示す。その結果、本発明の亜鉛・アルミニウム化合物粒子は有効であることを示している。


【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とする潰瘍治療剤
Zn1-xAlX(OH)2(An-)x/n・mH2O (1)
但し、式中、An-はCO32-、NO3-、SO42-またはCl-を示し、nは1または2を示し、x、およびmはそれぞれ下記条件を満足する値を示す。
0.20≦x≦0.70, 0≦m<1)
【請求項2】
前記式(1)中、An-はCO32-またはSO42-である請求項1記載の潰瘍治療剤。
【請求項3】
前記式(1)中、xは0.30≦x≦0.50を満足する請求項1記載の潰瘍治療剤。
【請求項4】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とする胃内壁保護剤。
【請求項5】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とする胃内壁保護用錠剤。
【請求項6】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分として含有する潰瘍治療用錠剤。
【請求項7】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子の潰瘍治療剤としての使用。
【請求項8】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子の胃内壁保護剤としての使用。
【請求項9】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とする亜鉛補給剤。
【請求項10】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とする顆粒剤。
【請求項11】
請求項1記載の亜鉛・アルミニウム化合物粒子を有効成分とするスラリー剤。















【公開番号】特開2011−136941(P2011−136941A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297722(P2009−297722)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】