説明

澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品

【課題】摂食前調理時に吸水させて摂食する際に、その周囲の水分が過剰であっても、吸水量を抑制可能な澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品を提供することである。
【解決手段】アラビアガム、大豆多糖類、プルラン、アラビノガラクタン、低粘性グアーガム、低粘性ローカストビーンガム、低粘性タラガム、低粘性タマリンドガム、低粘性コンニャクマンナン、DE値1〜15のデンプン分解物及び分子量8000〜800000の環状構造を有するデンプン分解物の少なくとも1以上からなる糊料が含まれており、摂食前調理時に吸水させて摂食される澱粉含有食品への吸水量を抑制可能な澱粉含有食品の吸水抑制剤である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥状態の即席焼きそばや冷凍飲茶など、摂食前調理時に吸水させて摂食される澱粉含有食品への吸水量を抑制可能な澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、摂食前調理時に吸水させることによって摂食可能状態となる澱粉含有食品として、様々なものがある。乾燥状態の即席焼きそばは、熱湯に数分間浸すことによって乾燥状態の麺に吸水させて、その後湯切りし、ソースなど調理料をかけることによって調理される。また、冷凍中華まんや冷凍焼売など冷凍飲茶は、表面に水を湿らせた状態で電子レンジにより加熱処理を行うか、蒸し器などを用いて加湿状態で加熱処理することによって、生地に吸水させて調理される(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−253806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乾燥状態の即席焼きそばは、熱湯に浸した状態で吸水させているので、過剰の水分が吸収されてしまい、通常の焼きそばと全く異なるべたついた食感となってしまうという問題がある。また、冷凍中華まんなどを電子レンジで調理する場合は、湿らせる水分量が少ないと、吸水されずに硬くなってしまう部分が生じ、逆に湿らせる水分量が多すぎると、表面がべたついてしまうという問題がある。さらに、冷凍中華まんなどを蒸し器などを用いて加湿状態で加熱処理する場合も、蒸し時間が長くなると、表面がべたついてしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、摂食前調理時に吸水させて摂食する際に、その周囲の水分が過剰であっても、吸水量を抑制可能な澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アラビアガム、大豆多糖類、プルラン、アラビノガラクタン、低粘性グアーガム、低粘性ローカストビーンガム、低粘性タラガム、低粘性タマリンドガム、低粘性コンニャクマンナン、DE値1〜15のデンプン分解物及び分子量8000〜800000の環状構造を有するデンプン分解物の少なくとも1以上からなる糊料が、摂食前調理時に吸水させて摂食される澱粉含有食品への吸水量を抑制することができることを見出した。すなわち、本発明は、アラビアガム、大豆多糖類、プルラン、アラビノガラクタン、低粘性グアーガム、低粘性ローカストビーンガム、低粘性タラガム、低粘性タマリンドガム、低粘性コンニャクマンナン、DE値1〜15のデンプン分解物及び分子量8000〜800000の環状構造を有するデンプン分解物の少なくとも1以上からなる糊料が含まれており、摂食前調理時に吸水させて摂食される澱粉含有食品への吸水量を抑制可能な澱粉含有食品の吸水抑制剤である。
【0007】
本発明に係る吸水抑制剤は、澱粉含有食品に過剰に水分が吸収されるのを防止できる。また、吸水抑制剤は、澱粉含有食品の表面の全域に亘って接触した状態で加熱されることによって、水分の吸水が偏在することを防止でき、この結果、部分的に乾燥したり、焦げたりするのも防止できる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、摂食前調理時に吸水させて摂食とする際に、その周囲の水分が過剰であっても、吸水量を抑制可能な澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る吸水抑制剤において、前記吸水抑制剤は、粉末状態であっても良く、前記澱粉含有食品に吸収される水に溶解された状態であっても良い。水溶液における吸水抑制剤の含量は、0.5〜10wt%であることが好ましく、1〜4wt%であることが特に好ましい。粉末状態の場合、水に溶解させて使用される。
【0010】
本発明において、摂食前調理時に吸水させて摂食される澱粉含有食品には、摂食前調理時に吸水させることによって摂食可能な状態になるもの、及び摂食前調理時に吸水させることによって良好な食感になるものなどがある。前者の例として、乾燥された即席焼きそば、乾燥された中華まん、乾燥わんたん、乾燥された即席マカロニ、乾燥された即席ビーフン、乾燥されたスィートポテト及びフリーズドライご飯など乾燥された澱粉含有食品があり、後者の例として、冷凍された中華まん、焼売、餃子など冷凍飲茶、冷凍されたピザ、冷凍されたパンケーキ、冷凍されたたい焼き、冷凍された卵焼き及び冷凍された大判焼きなど冷凍された澱粉含有食品がある。また、摂食前調理の方法としては、本発明に係る吸水抑制剤が溶解された熱湯に全体を所定時間浸漬させて湯切りする方法、本発明に係る吸水抑制剤が溶解された水溶液とともに電子レンジや蒸し器によって蒸す方法、澱粉含有食品の表面に噴霧などによって本発明に係る吸水抑制剤が溶解された水溶液を塗布した状態で電子レンジや蒸し器などによって加熱する方法などがある。
【0011】
特に、水に溶解された状態の吸水抑制剤を加えて乾燥された即席焼きそばを電子レンジによって加熱することによって調理する方法は、従来にない新規な方法である。水に溶解された状態の吸水抑制剤とともに乾燥された即席焼きそばを電子レンジによって加熱すると、吸水抑制剤水溶液が沸騰し、乾燥された即席焼きそばを蒸すことができる。本発明に係る吸水抑制剤が含まれてない場合、乾燥された即席焼きそばは、過剰な水分を吸収してしまうが、本発明に係る吸水抑制剤を含ませることによって、吸水量を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る吸水抑制剤は、粉末状態で野菜などの具材とともに小袋に入れて、また水溶解させた状態で別途袋に入れるか、液体調味料に溶解させて、澱粉含有食品に添付しても良い。
【0013】
また、本発明は、摂食前調理時に吸水させて摂食される乾燥状態の澱粉含有食品本体と、前記吸水抑制剤と、が含まれた澱粉含有食品である。この澱粉含有食品において、前記澱粉含有食品本体は、前記吸水抑制剤が溶解された熱湯に全体が所定時間浸漬されることによって調理されることが好ましく、また前記澱粉含有食品本体は、前記吸水抑制剤が溶解された水溶液とともに蒸すことによって調理されることが好ましい。さらに、この場合、前記澱粉含有食品本体と前記吸水抑制剤は、蓋に蒸気が排出可能な孔が形成された容器に収容されていることが好ましく、この容器は、耐熱性を有することが好ましい。このような容器に収容することによって、前記吸水抑制剤を水に溶解させたもの、及び澱粉含有食品本体を容器内に収容して、電子レンジによって加熱処理することによって、澱粉含有食品を調理することができる。
【0014】
さらに、本発明は、摂食前調理時に吸水させて摂食される冷凍状態の澱粉含有食品本体と、前記吸水抑制剤と、が含まれた澱粉含有食品であり、この澱粉含有食品において、前記澱粉含有食品本体は、その表面に前記吸水抑制剤が溶解された水溶液が塗布された状態で加熱処理されることによって調理されることが好ましい。また、本発明は、摂食前調理時に吸水させて摂食される冷凍状態の澱粉含有食品本体と、前記水に溶解された状態の吸水抑制剤と、が含まれた澱粉含有食品であり、この澱粉含有食品によって、前記澱粉含有食品本体は、その表面に前記吸水抑制剤が塗布された状態で加熱処理されることによって調理されることが好ましい。
【0015】
またさらに、本発明は、摂食前調理時に吸水させて摂食される乾燥状態の澱粉含有食品において、前記水に溶解された状態の吸水抑制剤が表面全域に亘って塗布されていることを特徴とする澱粉含有食品であり、この澱粉含有食品において、前記吸水抑制剤が塗布された状態で乾燥されていることが好ましい。
【0016】
本発明において、低粘性グアーガム、低粘性ローカストビーンガム、低粘性タラガム、低粘性タマリンドガム及び低粘性コンニャクマンナンとは、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンドガム及びコンニャクマンナンを酵素又は酸・熱などによる加水分解により低粘度に調整されたものである。具体的には、3重量%水溶液のときの20℃の粘度が0.5〜300mPa・s、特に3.0〜50mPa・sに調整されたものである。本発明において糊料の粘度は、B型粘度計で測定した値である。また、本発明において、DE値1〜15のデンプン分解物とは、デンプンを硫酸などの酸などによって分解したものをいい、分子量8000〜800000の環状構造を有するデンプン分解物とは、デンプンを1,4−α−グルカン分枝酵素やサイクロデキストリン、グルカノトランスフェラーゼ等の酵素で低分子化したものであり、α―1,4−グルコシド結合とα―1,6−グルコシド結合とで形成される内部岐環状構造部分とその環状構造部分に結合した外分枝構造部分からなるグルカンである。
【実施例】
【0017】
実験例1
次に、本発明に係る澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品に関して、乾燥状態の即席焼きそばの麺を用いて実験例1を行なった。実験例1は、乾燥状態の即席焼きそばの麺を湯戻しによって調理した。先ず、乾燥された焼きそば麺100gをアラビアガム(CNI社製)の2wt%熱水溶液400ccに3分間浸漬し、その後湯切りしてその重量を測定した。また、比較実験1として、2wt%のアラビアガム熱水溶液の代わりに熱水400ccを用いて同様に重量を測定した。これら実験例1及び比較実験1をそれぞれ5回行なった。その平均値を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示すように、実験例1の吸水量の方が抑制されているのが分かる。また、これら実験例1及び比較実験1で調理された焼きそばの麺についてソースで味付けをしたものに関し、その調理後直ぐと30分後にパネラー10名による官能試験を行なった。その結果、料理後直ぐのもの、及び30分後のもののいずれも実験例1の方が良い評価を得た。さらに、料理後直ぐのものと30分後のものの差異も、実験例1の方が少ないという評価を得た。
【0020】
実験例2及び3
次に、本発明に係る澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品に関して、乾燥状態の即席焼きそばの麺を用いて実験例2及び3を行なった。実験例2及び3は、電子レンジを用いて乾燥状態の即席焼きそばの麺を加湿状態で加熱することによって調理した。先ず、電子レンジに使用でき、蒸気放出用の孔を有する蓋付き容器を3つ用意し、それぞれに乾燥状態の即席焼きそばの麺100gを収容し、次いで実験例2として、アラビアガム(CNI社製)の3wt%水溶液、実験例3として大豆多糖類(不二製油(株)製)の3wt%水溶液及び比較実験2として水をそれぞれの容器に150ccずつ入れ、それぞれ電子レンジによって600Wで120秒間加熱した。
【0021】
加熱後の外観を観察したところ、比較実験2は、麺の水に浸っている部分だけが、過剰にふやけた部分と乾麺の状態の部分が混在していたが、実験例2及び3は、麺全体に亘って吸水されていた。また、これら実験例2及び3、並びに比較実験2で調理された焼きそばの麺についてソースで味付けをしたものに関し、料理後直ぐにパネラー10名による官能試験を行なった。その結果、実験例2及び3によって調理されたものの方が、全体に亘って腰があり、良好であるという評価を得た。
【0022】
実験例4
次に、本発明に係る澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品に関して、冷凍焼売を用いて実験例4を行なった。実験例4は、電子レンジを用いて冷凍焼売を加熱することによって調理した。先ず、冷凍焼売を3個用意し、いずれもアラビアガム(CNI社製)の3wt%水溶液に浸漬してその重量を測定した後、それぞれ電子レンジによって600Wで60秒間加熱し、加熱後の重量も測定した。また、比較実験3として、冷凍焼売3個について水に浸したもの、さらに比較実験4として、冷凍焼売3個について水などに浸していないものについて、同様に行なった。
【0023】
実験例4と比較実験3に関し、加熱前と加熱後の質量の差から、加熱処理による差を計算したところ、実験例4が4.3gであり、比較実験3が3.4gとなり、比較実験3の吸水量の方が多いことが分かる。また、これら実験例4、並びに比較実験3及び4で調理された焼売に関し、料理後直ぐにパネラー10名による官能試験を行なった。その結果、実験例4によって調理された焼売の味は、良好であったが、比較実験3によって調理された焼売の味は、ぶよぶよして好ましくなく、また比較実験4によって調理された焼売は、部分的に乾燥して硬くなってしまったという評価を得た。
【0024】
実験例5
次に、本発明に係る澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品に関して、冷凍あんまんを用いて実験例5を行なった。実験例5は、蒸し器を用いて冷凍あんまんを蒸気加熱することによって調理した。先ず、冷凍あんあんの表面にアラビアガム(CNI社製)の3wt%水溶液3gを噴霧し、蒸し器を用いて20分間蒸気加熱した。また、比較実験5として、水3gを噴霧したものについて、同様に蒸気加熱を行なった。これら実験例5及び比較実験5で調理されたあんまんに関し、料理後直ぐにパネラー10名による官能試験を行なった。その結果、実験例5によって調理されたあんまんは、べとつかずに良好であったが、比較実験5によって調理されたあんまんは、べとついていたという評価を得た。
【0025】
実験例6
次に、本発明に係る澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品に関して、冷凍餃子を用いて実験例6を行なった。先ず、冷凍餃子をフライパンで焼成して焼き目を付けた後、プルラン(林原商事社製)の2wt%水溶液80ccを加えた後、蓋をして5分間蒸し、その後、余分な水を蒸発させた。また、比較実験6として、水80ccを加えたものについて、同様に蒸して調理した。これら実験例6及び比較実験6で調理された餃子に関し、料理後直ぐにパネラー10名による官能試験を行なった。その結果、実験例6によって調理された餃子は、腰があって良好であったが、比較実験6によって調理された餃子は、皮が過剰に吸水してべとついてしまったという評価を得た。
【0026】
実験例7
次に、本発明に係る澱粉含有食品の吸水抑制剤及びそれが含まれた澱粉含有食品に関して、冷凍ピザを用いて実験例7を行なった。先ず、冷凍ピザの表面にアラビアガム(CNI社製)の3wt%水溶液を塗布し、それを電子レンジによって600Wで120秒間加熱した。また、比較実験7として、何も塗布しない冷凍ピザについて、同様に電子レンジで加熱した。これら実験例7及び比較実験7で調理されたピザに関し、料理後直ぐにパネラー10名による官能試験を行なった。その結果、実験例7によって調理されたピザの方が、良好であるという評価を得た。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラビアガム、大豆多糖類、プルラン、アラビノガラクタン、低粘性グアーガム、低粘性ローカストビーンガム、低粘性タラガム、低粘性タマリンドガム、低粘性コンニャクマンナン、DE値1〜15のデンプン分解物及び分子量8000〜800000の環状構造を有するデンプン分解物の少なくとも1以上からなる糊料が含まれており、摂食前調理時に吸水させて摂食される澱粉含有食品への吸水量を抑制可能な澱粉含有食品の吸水抑制剤。
【請求項2】
前記吸水抑制剤は、前記澱粉含有食品に吸収される水に溶解された状態であることを特徴とする請求項1記載の吸水抑制剤。
【請求項3】
摂食前調理時に吸水させて摂食される乾燥状態の澱粉含有食品本体と、
請求項1記載の吸水抑制剤と、が含まれた澱粉含有食品。
【請求項4】
前記澱粉含有食品本体は、前記吸水抑制剤が溶解された熱湯に全体が所定時間浸漬されることによって調理されることを特徴とする請求項3記載の澱粉含有食品。
【請求項5】
前記澱粉含有食品本体は、前記吸水抑制剤が溶解された水溶液とともに蒸すことによって調理されることを特徴とする請求項3記載の澱粉含有食品。
【請求項6】
摂食前調理時に吸水させて摂食される冷凍状態の澱粉含有食品本体と、
請求項1記載の吸水抑制剤と、が含まれた澱粉含有食品。
【請求項7】
前記澱粉含有食品本体は、その表面に前記吸水抑制剤が溶解された水溶液を塗布された状態で加熱処理されることによって調理されることを特徴とする請求項6記載の澱粉含有食品。
【請求項8】
摂食前調理時に吸水させて摂食される冷凍状態の澱粉含有食品本体と、
請求項2記載の吸水抑制剤と、が含まれた澱粉含有食品。
【請求項9】
前記澱粉含有食品本体は、その表面に前記吸水抑制剤が塗布された状態で加熱処理されることによって調理されることを特徴とする請求項8記載の澱粉含有食品。
【請求項10】
摂食前調理時に吸水させて摂食される乾燥状態の澱粉含有食品において、請求項2記載の吸水抑制剤が表面全域に亘って塗布されていることを特徴とする澱粉含有食品。
【請求項11】
前記吸水抑制剤が塗布された状態で乾燥されていることを特徴とする請求項10記載の澱粉含有食品。

【公開番号】特開2007−295895(P2007−295895A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128561(P2006−128561)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】