説明

澱粉含有食品の物性改良剤並びに嚥下困難者用食品

【課題】嚥下困難者用が摂食し易いようにミキサーで処理してペースト状にした澱粉含有食品に加えることで、このペースト状の澱粉含有食品の物性を改良し、嚥下困難者が嚥下し易い適正な硬さ、付着性を有する澱粉含有食品を得ることができる澱粉含有食品の物性改良剤を提供することを目的とする。
【解決手段】澱粉含有食品に添加し、この澱粉含有食品を嚥下困難者用食品として適正な硬さ及び付着性を有する物性に改良する澱粉含有食品の物性改良剤であって、α−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、及びトレハロース若しくはマルトースを主成分とする澱粉含有食品の物性改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、お粥や麺類などの澱粉を主成分とした食品を嚥下困難者が食し易い適正な硬さ、付着性に食品の物性を改良する澱粉含有食品の物性改良剤並びに嚥下困難者が食し易い適正な硬さ、付着性に調製された嚥下困難者用食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、摂食・嚥下機能障害者の食事は、咀嚼機能を補助するためにミキサーで固形状のものを処理してペースト状(流動状)にして提供されることが多い。
【0003】
しかしながら、お粥や麺類などの澱粉含有食品のように、このミキサーで処理してペースト状にすることで、含有している澱粉が顕在化し特有のべたつき感が生じてしまい、かえって咽頭部に付着し易くなって嚥下しづらくなるものもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、嚥下困難者が摂食し易いようにミキサーで処理してペースト状にした澱粉含有食品に加えることで、このペースト状の澱粉含有食品の物性を改良し、嚥下困難者が嚥下し易い適正な硬さ、付着性を有する澱粉含有食品を得ることができる澱粉含有食品の物性改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨を説明する。
【0006】
澱粉含有食品に添加し、この澱粉含有食品を嚥下困難者用食品に適した物性に改良する澱粉含有食品の物性改良剤であって、α−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、及びトレハロース若しくはマルトースを主成分としたことを特徴とする澱粉含有食品の物性改良剤に係るものである。
【0007】
また、乳酸カルシウム若しくはヘキサメタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1記載の澱粉含有食品の物性改良剤に係るものである。
【0008】
また、前記各主成分の配合量を、前記α−アミラーゼを100〜1000u/g、前記ネイティブジェランガムを10〜20wt%、前記グァーガムを1〜10wt%、前記カラギーナンを1〜10wt%、前記トレハロース若しくは前記マルトースを60〜80wt%又は前記トレハロースと前記マルトースとを合わせて60〜80wt%としたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の澱粉含有食品の物性改良剤に係るものである。
【0009】
また、前記澱粉含有食品としての全粥に対して1〜2wt%添加してこれをミキサーで処理した際に、前記全粥の付着性を400J/m以下にするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の澱粉含有食品の物性改良剤に係るものである。
【0010】
また、前記澱粉含有食品としての全粥に対して1〜2wt%添加してこれをミキサーで処理した際に、前記全粥の付着性を400J/m以下にすると共に硬さを1000〜5000N/mにし、且つ硬さ/付着性の比を10以上にするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の澱粉含有食品の物性改良剤に係るものである。
【0011】
また、澱粉含有食品、α−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、及びトレハロース若しくはマルトースを主成分とし、付着性が400J/m以下であることを特徴とする嚥下困難者用食品に係るものである。
【0012】
また、乳酸カルシウム若しくはヘキサメタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項6記載の嚥下困難者用食品に係るものである。
【0013】
また、前記澱粉含有食品100gに対して、前記α−アミラーゼを200〜1000u、前記ネイティブジェランガムを0.1〜1.0g、前記グァーガムを0.05〜0.5g、前記カラギーナンを0.05〜0.5g、前記トレハロース若しくは前記マルトースを0.5〜2.0g又は前記トレハロースと前記マルトースとを合わせて0.5〜2.0g、含有することを特徴とする請求項6,7のいずれか1項に記載の嚥下困難者用食品に係るものである。
【0014】
また、硬さが1000〜5000N/m、付着性が400J/m以下であり、且つ、硬さ/付着性の比が10以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の嚥下困難者用食品に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のように構成したから、お粥や麺類などの固形状の澱粉含有食品をミキサーで処理してペースト状にして嚥下困難者が食し易い状態に処理した澱粉含有食品に本発明を加えることで、澱粉含有食品をペースト状にした際に生じる特有のべたつき感が抑制され、嚥下困難者がこれを食し飲み込んだ際にも、咽頭部へ殆ど付着することなく容易に嚥下できる澱粉含有食品の物性改良剤となる。
【0016】
また、請求項2〜5記載の発明においては、ペースト状にした澱粉含有食品に加えた際に、このペースト状の澱粉含有食品の硬さ、付着性を嚥下困難者が一層嚥下し易い適正な値のものとし、特に請求項2記載の発明においては、更に硬さ、付着性及び凝集性を最適化することができ、ペースト状にした澱粉含有食品をより一層嚥下し易い物性に改良することができる実用性に優れた画期的な澱粉含有食品の物性改良剤となる。
【0017】
また、請求項6〜9記載の発明においては、嚥下困難者が摂食した際に、この摂食した食品が咽頭部に付着することなく容易に嚥下することができる易嚥下性を有し、しかも、適度な硬さを有して食感を楽しむこともでき、従来のペースト状の嚥下困難者用の食品に比してまとまりがあり見た目も良く、それ故に、食事を楽しむことができる実用性に優れた画期的な嚥下困難者用食品となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0019】
本発明の澱粉含有食品の物性改良剤は、お粥や麺類などの澱粉を多く含んだ澱粉含有食品をミキサーで処理してペースト状にしたものに加えることで、このペースト状の澱粉含有食品が有する特有のべたつきを抑え、嚥下困難者が嚥下し易い適正な硬さと付着性を有する澱粉含有食品となるので、嚥下困難者がこのペースト状の澱粉含有食品を摂食しても、この澱粉含有食品が咽頭部に付着することなく容易に飲み込むことができ、しかも、ペースト状のような流動食とは違い、適度な硬さを有しまとまり感があるので、摂食の際に食感を楽しむこともでき、嚥下困難者に食事をしているという実感を与え、これにより、嚥下困難者は食事の楽しみを感じることができる実用性に優れた画期的な澱粉含有食品の物性改良剤となる。
【0020】
即ち、本発明の物性改良剤をミキサーで処理してペースト状になった澱粉含有食品に加えることで、この物性改良剤に含まれている成分が澱粉を分解すると共に、このペースト状の澱粉含有食品を弾力性のあるゲル状にし、更に、食感を改善し、嚥下困難者に適した硬さ、付着性となり、摂食し易く、且つ飲み込み易く、嚥下困難者が安心して楽しく食事をすることができる実用性に優れた澱粉含有食品の物性改良剤となる。
【0021】
より具体的には、本発明の物性改良剤に含まれるα−アミラーゼがべたつきの原因となる澱粉を分解し、この澱粉が分解されることでペースト状の澱粉含有食品は、べたつきの少ないさらさらした状態となる(但し、このことは飲み込み易さの改善にはならない。)。
【0022】
しかし、ネイティブジェランガムが、このさらさらした状態の澱粉含有食品をゲル化(具体的には、弾力性のある柔らかいゲル)することで、このペースト状の澱粉含有食品に適度な硬さを付与し、半固形状の飲み込み易く食べ易い状態となる。
【0023】
しかも、一般的なゲル化剤、例えば、ゼラチンや寒天などは温度を下げないとゲル化しない(固まらない)ので、これらを用いた場合は、本来、温かい食事も冷たい状態、或いは、冷めた状態で提供されることとなるが、このネイティブジェランガムは70℃〜80℃程度でゲル化するので、本来、温かい状態で食する食事は、温かいままの状態で提供することができ、おいしく食することができる。
【0024】
更に、このネイティブジェランガムは、冷凍解凍耐性に優れた性質を有するので、冷凍した後、これを解凍しても弾力性が保持され、また解凍後の離水が殆どないので、冷凍保存しても解凍後冷凍保存前とほとんど変わらない状態でおいしく食することができる。
【0025】
また、グァーガムとカラギーナンによって、一層付着性が抑制され、口の中に入れた時の飲み込み易さが、このグァーガムとカラギーナンとを入れない時に比べて一層改善され、非常に飲み込み易さが増す。
【0026】
また、トレハロース若しくはマルトースが、食品を口の中に入れた際のグシャグシャした感じを改善し、まとまり感があり、この物性改良剤を加えた澱粉含有食品を非常に食べ易い形態にする効果をもたらし、更に、このトレハロース、マルトースは保湿性に優れた効果を発揮するので、このトレハロース若しくはマルトースを加えることによって食品中の固形成分と水分とが分離し難くなり、よって、ミキサーなどで撹拌する際にだまが生じ難くなり各成分が均質化し、夫々の成分の効果が偏ることなく発揮される。また更に、このトレハロース、マルトースの有する一般的な効果、例えば、澱粉の老化防止や冷凍解凍耐性の向上の効果も発揮し、より実用性に優れた澱粉含有食品の物性改良剤となる。
【実施例1】
【0027】
本発明の具体的な実施例1について説明する。
【0028】
本実施例は、お粥、麺類などの澱粉を多く含む澱粉含有食品を嚥下困難者が摂食・嚥下し易いようにミキサーで処理して嚥下困難者用食品に加工した澱粉含有食品に加えることで、このミキサー処理して嚥下困難者用食品に加工した澱粉含有食品に生じる特有のべたつきを軽減し、この澱粉含有食品を嚥下困難者用食品として適正な硬さ及び付着性を有する物性に改良する澱粉含有食品の物性改良剤である。
【0029】
具体的には、本実施例は、α−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、トレハロースを主成分とした澱粉含有食品の物性改良剤である。
【0030】
また、本実施例は、上記に示した主成分に加え、乳酸カルシウム若しくはヘキサメタリン酸ナトリウムを含有する構成とし、これらいずれか、若しくは両方が加えられることで、上記のネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナンが発揮する効果を保持する或いは向上するようにしており、本実施例では、具体的には、乳酸カルシウムを加えた構成としている。尚、本実施例では、α−アミラーゼはα−アミラーゼ製剤を用いた構成としている。
【0031】
即ち、本実施例は、α−アミラーゼ製剤、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、トレハロース及び乳酸カルシウムからなる澱粉含有食品の物性改良剤である。
【0032】
このα−アミラーゼ製剤、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、トレハロース及び乳酸カルシウムで構成する本実施例は、お粥や麺類など澱粉を多く含んだ澱粉含有食品を嚥下困難者が摂食し易いようにミキサーでペースト状にしたものに加えることで、澱粉含有食品をペースト状に処理した際に生じるべたつきを軽減すると共にこれを嚥下し易い硬さに調製して、嚥下困難者がミキサー処理した澱粉含有食品を摂食した際に、これを咽頭部に詰まらせたり誤嚥したりすることなくスムーズに嚥下することができるように、澱粉含有食品をミキサー処理したものを嚥下困難者用食品として適正な硬さ、付着性を有す物性に改良する澱粉含有食品の物性改良剤である。
【0033】
この適正な硬さ、付着性は、厚生労働省が規定する嚥下困難者用食品たる表示の許可基準における規格基準に準じ、且つ、より一層飲み込み易い物性にすることを目的に設定しており、本実施例では、物性改良剤を加えた際の澱粉含有食品の物性が、硬さ1000〜5000N/m、付着性400J/m以下で、且つ、硬さ/付着性の比が10以上となるように設定している。
【0034】
尚、この硬さ、付着性に関しては、厚生労働省が定める嚥下困難者用食品の試験方法における硬さ・付着性及び凝集性の試験方法に準じた測定方法、若しくはこれと同等の測定方法で測定した際の値であり、本実施例においては、具体的には、直径40mm、高さ20mm(試料が零れる可能性がない場合には、高さ15mmでも可)の容器に高さ15mmに充填し、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いて、直径20mm、高さ8mmの樹脂製のプランジャーを用い、圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmで2回圧縮した際の前記プランジャーにかかる応力(硬さ)を測定すると共に、試料を圧縮したプランジャーを引き上げる際にこのプランジャーにかかる応力の総和(付着力)を測定することで、硬さと付着性の数値を測定している。
【0035】
また、上記測定時の被測定物の温度に関しては、被測定物の実際の使用時に近い温度、即ち、摂食する際の食品の温度に近い値で測定することが好ましい。
【0036】
以下に、上述した本実施例の物性改良剤を構成する成分を決定する際に、各成分の有効性(効果)を確認する効果確認実験を行ったので、その詳細を示す。
【0037】
<各成分の効果確認実験>
お粥や麺類などの澱粉含有食品のべたつき感は、これらに含まれている澱粉によるものである。そこで、本実験では、米澱粉の水溶液を加熱してこれを疑似的なお粥と見なし、澱粉含有食品である前記疑似的なお粥(以下、疑似粥と称する。)に対する各成分の効果(硬さ、付着性の変化)、及び摂食時の飲み込み易さを確認した。
【0038】
具体的には、水270gに米澱粉粉末30g(本実験では、米澱粉粉末としてファインスノウ、上越スターチ株式会社製を使用)を加えたものをミキサーで処理して混合・均質化し加熱して10wt%米澱粉水溶液からなる疑似粥を得て、これを基準試料とした。
【0039】
また、水270gに前記米澱粉粉末30gに、下表1に示す成分を配合して得た製剤A〜製剤Iを4.5g加えてミキサーで処理して混合・均質化し加熱して試料A〜試料Iを得て、前記基準試料とこれら試料A〜試料Iの各試料の硬さ、付着性を測定すると共に、これら硬さ、付着性の測定結果から硬さ/付着性の比を算出し、更に、各試料を摂食して飲み込み易さを官能的に評価した。
【0040】
尚、本実験における硬さと付着性の測定は、前述した厚生労働省が定める嚥下困難者用食品の試験方法(硬さ、付着性及び凝集性の試験方法)に準じて行い、具体的には、本実験においては、米澱粉水溶液に製剤を加えて85℃になるまで加熱して得た試料A〜試料Iを45℃の恒温器に入れ温度が安定した状態で硬さと付着性とを測定した。
【0041】
また、本実験における飲み込み易さの官能評価は、噎せたり、咽頭部に付着する感じがしたものは×(不適)で表し、問題なく飲み込むことができたものは〇(良好)で表し、非常にスムーズに飲み込むことができたものは◎(さらに良好)で表す三段階評価とした。
【0042】
【表1】

【0043】
下表2に各試料の硬さと付着性を測定した結果、及びこの硬さと付着性の測定結果から算出した硬さ/付着性の比、並びに飲み込み易さ(官能評価)の結果を示す。ここで、上述したように基準試料は製剤を加えない米澱粉水溶液のみであり、試料Aは米澱粉水溶液+製剤A、試料Bは米澱粉水溶液+製剤B、試料Cは米澱粉水溶液+製剤C、試料Dは米澱粉水溶液+製剤D、試料Eは米澱粉水溶液+製剤E、試料Fは米澱粉水溶液+製剤F、試料Gは米澱粉水溶液+製剤G、試料Hは米澱粉水溶液+製剤H、試料Iは米澱粉水溶液+製剤Iである。
【0044】
【表2】

【0045】
本実験では、表2に示す通り、硬さ(1000〜5000N/m)、付着性(400J/m以下)、硬さ/付着性の比(10以上)において所定の規格を満たし、且つ、嚥下困難者に適した良好な飲み込み易さに改良された試料は、試料C〜試料Iであり、特に、試料F〜試料Iにおいては非常に飲み込み易い物性に澱粉含有食品の物性を改良し得る良好な結果が得られた。
【0046】
即ち、本実験結果(表2の結果)より、α−アミラーゼ製剤が加わることで澱粉がα−アミラーゼの作用で分解されてべたつきが改善されて付着性が低下し、これにネイティブジェランガムが加わることで試料がゲル化し硬さが増し、更に、これにグァーガム、カラギーナンが加わることで、より適正な硬さと付着性となって、硬さ/付着性の比が10以上になることが確認された。
【0047】
また、乳酸カルシウムが加わることで更に硬さが増すと共に付着性も低下し(べたつき感が軽減し)、ヘキサメタリン酸ナトリウムが加わることで更に硬さが増すことが確認された。また更に、この乳酸カルシウムとヘキサメタリン酸ナトリウムとの両方が加わることでこれらの相乗効果により、一層硬さが増し付着性が低下することが確認された。
【0048】
また、上記の硬さ、付着性の他に、硬さ/付着性の比、官能的な飲み込み易さも加味した本実験の詳細な結果(各製剤を加えた際の各試料の状態)を以下に示す。
【0049】
先ず、基準試料となる疑似粥は、付着性が高く、硬さ/付着性の比も約3と低くて、実際に摂食してみるとべたつき感があり、飲み込んだ際も咽頭部への付着感があり、嚥下困難者用食品としては摂食・嚥下し難いものであった。
【0050】
また、米澱粉水溶液とトレハロースのみからなる試料Aは、硬さ、付着性、及び硬さ/付着性の比は、基準試料と比べて数値的にはあまり変化が見られないが、摂食した際の食感に変化が見られた。具体的には、トレハロースが加えられていない米澱粉水溶液のみの基準試料を口の中に入れると食感がグシャグシャしており、まとまり感がなかったが、トレハロースを加えることで、試料を口の中に入れた際に、このグシャグシャした感じがなくなり食感が良くなった。
【0051】
また、米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤からなる試料Bは、α−アミラーゼによって澱粉が分解され、この澱粉起因によるべたつき感がなくなりさらさらした状態になった。これより、α−アミラーゼによるべたつきの改善効果が確認できた。しかし、この試料Bは、硬さも付着性も低下して水のようにさらさらした状態となり、飲み込んだ際に噎せ易くなり、官能的評価の飲み込み易さの面では不適であった。
【0052】
また、米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤とネイティブジェランガムからなる試料Cは、α−アミラーゼによりべたつきが軽減し、また、ネイティブジェランガムによって試料がゲル化しさらさら状態の試料をゲル化し若干付着性は上がるものの、適度な硬さとなり摂食し易い状態になり、また、実際に摂食して飲み込んだ際にも、咽頭部への付着感も殆どなく飲み込み易さも良好であった。
【0053】
また、米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤とネイティブジェランガムとグァーガムからなる試料D、及び米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤とネイティブジェランガムとカラギーナンからなる試料Eは、共に上述した試料Cに比べて硬さが増し付着性が低下し、飲み込んだ際に試料Cよりも飲み込み易いものとなった。
【0054】
また、米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤とネイティブジェランガムとグァーガムとカラギーナンからなる試料Fは、米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤とネイティブジェランガムにグァーガム若しくはカラギーナンのいずれか一方のみを加えた試料Dや試料Eと比べて付着性が増したにもかかわらず、飲み込み易さは感覚的には試料Fのほうが飲み込み易くなった。
【0055】
また、米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤とネイティブジェランガムとグァーガムとカラギーナンと乳酸カルシウムからなる試料Gは、乳酸カルシウムによって更なる硬さが増し、また付着性も低下して、試料Fに比べて更に飲み込み易くなった。
【0056】
また、この乳酸カルシウムの代わりにヘキサメタリン酸ナトリウムを加えた試料Hは、試料Gに比べて若干の付着性の増加が見られたものの、試料G同様、試料Fに比べて更に飲み込み易くなった。
【0057】
即ち、乳酸カルシウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムの少なくとも一方を加えることで、更に飲み込み易くなることが確認された。
【0058】
また、この米澱粉水溶液とトレハロースとα−アミラーゼ製剤とネイティブジェランガムとグァーガムとカラギーナンと乳酸カルシウムとヘキサメタリン酸ナトリウムからなる試料Iは、乳酸カルシウムとヘキサメタリン酸ナトリウムとの相乗効果により、硬さが更に増すと共に付着性が更に低減し、飲み込み易さの面では更に良い状態となった。
【0059】
本実験結果より、硬さ、付着性の測定結果及び摂食時の食感や飲み込み易さなど官能的な試験結果を総合し、前述したように、本実施例の澱粉含有食品の物性改良剤の成分をα−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、トレハロース及び乳酸カルシウムとした。
【0060】
また更に、本実施例を添加した際の澱粉含有食品が、硬さ1000〜5000N/m、好ましくは1500〜2500N/m、付着性400J/m以下、好ましくは150J/m以下を達成し、且つ、硬さ/付着性の比が10以上、好ましくは14以上、更に好ましくは20以上とすると共に、より一層の嚥下性の向上を達成するため、本実施例は、各成分の配合割合を、α−アミラーゼ製剤を1〜5wt%、ネイティブジェランガムを10〜20wt%、グァーガムを1〜10wt%、カラギーナンを1〜10wt%、トレハロースを60〜80wt%、乳酸カルシウム1〜10wt%とした構成としている。
【0061】
このように構成した本実施例を澱粉含有食品である全粥に加えた際の硬さ、付着性及び硬さ/付着性の比、並びに飲み込み易さを確認する評価を行った。
【0062】
本評価における澱粉含有食品の物性改良剤の具体的な配合割合を下表3に示す。本評価は、この下表3に示す配合割合で配合して得た製剤3gを全粥300gに加え、これをミキサーで二分間処理して混合・均質化し加熱して嚥下困難者用食品として加工した全粥を室温で放置し、45℃になった時点で上述した各成分の効果確認実験と同様の試験方法で硬さ、付着性を測定すると共にこの硬さ、付着性の測定結果から硬さ/付着性の比を算出し、更に、実際に摂食した際の飲み込み易さの官能的評価を行った。尚、本実施例を全粥に加えることの効果を明確にするため、本実施例を加えない全粥のみをミキサー処理したものを用意し、この全粥のみのものも上記同様の硬さ、付着性の測定や飲み込み易さの官能的評価を行い両者を比較した。本実施例の製剤を添加した全粥(製剤添加粥)と製剤を添加しない全粥(無添加粥)との両者者の硬さ、付着性、及び硬さ/付着性の比を測定した結果と、実際に摂食した際の飲み込み易さの評価結果を表4に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
表4に示すように、本実施例を加えた全粥(製剤添加粥)は、本実施例を加えない全粥(無添加粥)と比べて、付着性が大幅に低下し、その結果、硬さ/付着性の比も増し、硬さ、付着性、硬さ/付着性の比のいずれも嚥下困難者用食品に適した数値となった。また、この本実施例を加えた全粥を摂食した際、全粥のみのものに比べて、口に入れた時のまとまり感があり、更に、非常に飲み込み易く感じた。
【0066】
このように、本実施例は、お粥や麺類などの固形状の澱粉含有食品をペースト状にした際に生じる特有のべたつき感を抑制し、嚥下困難者が摂食しこれを食し飲み込んだ際にも、誤嚥することがなく、また、咽頭部へ殆ど付着することもなく極めて容易に且つ安心して嚥下できるよう、澱粉含有食品の物性を改善する澱粉含有食品の物性改良剤となる。
【0067】
よって、本実施例を澱粉含有食品に添加することで、嚥下困難者はこの本実施例を添加した嚥下困難者用食品を摂食することで、従来のペースト状のべたつき感のある嚥下困難者用の食品に比して飲み込み時の不快感や不安感を生ずることなく安心して快適に食事をすることができ、更に、食品自体も、まとまりがあり見た目も良く、それ故に、嚥下困難者でも食事を楽しみながら摂食することができる嚥下困難者用食品を得ることができる実用性に優れた画期的な澱粉含有食品の物性改良剤となる。
【0068】
尚、本実施例では、上述したように、トレハロースを加えてミキサー処理した澱粉含有食品のグシャグシャ感をなくし、まとまりのある状態に改善するように構成したが、このトレハロースの代わりにマルトースを加えた構成としても良く、また、トレハロースとマルトースとの両方を加えた構成としても良く、トレハロースとマルトースの両方を加える場合、その配合割合は、トレハロースとマルトースとの両方を合わせて60〜80wt%とする。
【実施例2】
【0069】
本発明の具体的な実施例2について説明する。
【0070】
本実施例は、実施例1のトレハロースの代わりにマルトースを用いた澱粉含有食品の物性改良剤であり、α−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、マルトースを主成分とした澱粉含有食品の物性改良剤である。
【0071】
また、本実施例は、上記に示す成分に加え、乳酸カルシウム若しくはヘキサメタリン酸ナトリウムを含有する構成とし、これらいずれか、若しくは双方を加えることで、上記したネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナンによってもたらされる効果を保持する或いは向上する効果を発揮するように構成しており、本実施例では、乳酸カルシウムとヘキサメタリン酸ナトリウムとの両方を加えた構成としている。尚、本実施例は、実施例1と同様に、α−アミラーゼはα−アミラーゼ製剤を用いた構成としている。
【0072】
即ち、本実施例は、α−アミラーゼ製剤、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、マルトース、乳酸カルシウム及びヘキサメタリン酸ナトリウムからなる澱粉含有食品の物性改良剤である。
【0073】
実施例1同様、本実施例を澱粉含有食品である全粥に加えた際の硬さ、付着性及び硬さ/付着性の比、並びに飲み込み易さを確認する評価を行った。
【0074】
本評価における澱粉含有食品の物性改良剤の具体的な配合割合を下表5に示す。本評価は、この下表5に示す配合割合で配合して得た製剤3gを全粥300gに加え、これをミキサーで二分間処理して混合・均質化し加熱して嚥下困難者用食品として加工した全粥を室温で放置し、45℃になった時点で実施例1と同様の試験方法で硬さ、付着性を測定すると共にこの硬さ、付着性の測定結果から硬さ/付着性の比を算出し、更に、実際に摂食した際の飲み込み易さの官能的評価(実施例1と同様の三段階評価)を行った。尚、本実施例を全粥に加えることの効果を明確にするため、実施例1同様に、本実施例を加えない全粥のみをミキサー処理したものを用意し、この全粥のみのものも上記同様の硬さ、付着性の測定や飲み込み易さの官能的評価を行い両者を比較した。本実施例の製剤を添加した全粥(製剤添加粥)と製剤を添加しない全粥(無添加粥)との両者の硬さ、付着性測定した結果、及び硬さ/付着性の比を算出した結果、並びに実際に摂食した際の飲み込み易さの評価結果を表6に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
表6に示すように、本実施例を加えた全粥(製剤添加粥)は、本実施例を加えない全粥(無添加粥)と比べて、付着性が大幅に低下し、その結果、硬さ/付着性の比も増し、硬さ、付着性、硬さ/付着性の比のいずれも嚥下困難者用食品に適した数値となった。また、この本実施例を加えた全粥を摂食した際、全粥のみのものに比べて、口に入れた時のまとまり感があり、また、咽頭部への付着感も感じず問題なく飲み込むことができた。
【実施例3】
【0078】
本発明の具体的な実施例3について説明する。
【0079】
本実施例は、澱粉含有食品、具体的には、お粥、麺類など澱粉を多く含有する澱粉含有食品をミキサーで処理して嚥下困難者が嚥下し易いように加工した嚥下困難者用食品である。
【0080】
一般的には、お粥や麺類などの澱粉含有食品をミキサーで処理してペースト状にすると、お粥や麺類に含まれている澱粉が顕在化(表面化)し、食品全体にべたつき感が生じ、付着性が増加してしまい、嚥下困難者にとっては飲み込んだ際に噎せたり咽頭部に付着したりして非常に厄介な状態となってしまう。
【0081】
本実施例は、この飲み込み難い状態となったミキサー処理したお粥、麺類などの澱粉含有食品を嚥下困難者に適した硬さ、付着性に物性を改良した易嚥下性に優れた嚥下困難者用食品である。
【0082】
具体的には、本実施例は、お粥若しくは麺類からなる澱粉含有食品に、この澱粉含有食品の物性を改良する成分、具体的には、α−アミラーゼ製剤、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、及びトレハロース若しくはマルトースを主成分として加え、更に、ヘキサメタリン酸ナトリウム、乳酸カルシウムの少なくともいずれかを加えた嚥下困難者用食品である。尚、上記成分を前記澱粉含有食品に加える場合、加える順序に特に制約はなく、一種類ずつ加えても、複数種類の成分を同時に加えてもどちらでも良い。
【0083】
本実施例は、澱粉含有食品に上記の成分を加えることで得られる嚥下困難者用食品の硬さが1000〜5000N/m、好ましくは1500〜2500N/m、付着性が400J/m以下、好ましくは150J/m以下で、且つ、硬さ/付着性の比が10以上、好ましくは14以上、更に好ましくは20以上となるように各成分の配合を決定している。
【0084】
具体的には、澱粉含有食品100gに対して、α−アミラーゼを200〜1000u、ネイティブジェランガムを0.1〜1.0g、グァーガムを0.05〜0.5g、カラギーナンを0.05〜0.5g、トレハロース、マルトースの少なくとも一方を0.5〜2.0g又はトレハロースとマルトースとを合わせて0.5〜2.0g配合した構成とし、また更に、乳酸カルシウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムの少なくとも一方、若しくは両方を加える場合、澱粉含有食品100gに対して、一成分につき0.02〜0.1g配合する構成としている。
【0085】
下表7に本実施例の嚥下困難者用食品の具体的な成分配合例1及び成分配合例2を示し、下表8に、各成分配合例に従って配合して得た嚥下困難者用食品の硬さ、付着性測定した結果、及び硬さ/付着性の比を算出した結果、並びに実際に摂食した際の飲み込み易さの評価結果を示す。尚、硬さ、付着性の測定は、実施例1と同様の測定方法で測定し、飲み込み易さの官能的評価も実施例1同様、三段階評価とした。
【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
表8に示すように、本実施例の嚥下困難者用食品は、硬さ、付着性、硬さ/付着性の比のいずれも嚥下困難者が嚥下し易い適正な数値を示し、実際に摂食した際にも、トレハロース若しくはマルトースの作用により、まとまり感があり食べ易く、また、べたつき感もなく、咽頭部に付着することなく問題なく良好に飲み込むことができた。
【0089】
尚、本発明は、本実施例1〜3に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉含有食品に添加し、この澱粉含有食品を嚥下困難者用食品に適した物性に改良する澱粉含有食品の物性改良剤であって、α−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、及びトレハロース若しくはマルトースを主成分としたことを特徴とする澱粉含有食品の物性改良剤。
【請求項2】
乳酸カルシウム若しくはヘキサメタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1記載の澱粉含有食品の物性改良剤。
【請求項3】
前記各主成分の配合量を、前記α−アミラーゼを100〜1000u/g、前記ネイティブジェランガムを10〜20wt%、前記グァーガムを1〜10wt%、前記カラギーナンを1〜10wt%、前記トレハロース若しくは前記マルトースを60〜80wt%又は前記トレハロースと前記マルトースとを合わせて60〜80wt%としたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の澱粉含有食品の物性改良剤。
【請求項4】
前記澱粉含有食品としての全粥に対して1〜2wt%添加してこれをミキサーで処理した際に、前記全粥の付着性を400J/m以下にするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の澱粉含有食品の物性改良剤。
【請求項5】
前記澱粉含有食品としての全粥に対して1〜2wt%添加してこれをミキサーで処理した際に、前記全粥の付着性を400J/m以下にすると共に硬さを1000〜5000N/mにし、且つ硬さ/付着性の比を10以上にするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の澱粉含有食品の物性改良剤。
【請求項6】
澱粉含有食品、α−アミラーゼ、ネイティブジェランガム、グァーガム、カラギーナン、及びトレハロース若しくはマルトースを主成分とし、付着性が400J/m以下であることを特徴とする嚥下困難者用食品。
【請求項7】
乳酸カルシウム若しくはヘキサメタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項6記載の嚥下困難者用食品。
【請求項8】
前記澱粉含有食品100gに対して、前記α−アミラーゼを200〜1000u、前記ネイティブジェランガムを0.1〜1.0g、前記グァーガムを0.05〜0.5g、前記カラギーナンを0.05〜0.5g、前記トレハロース若しくは前記マルトースを0.5〜2.0g又は前記トレハロースと前記マルトースとを合わせて0.5〜2.0g、含有することを特徴とする請求項6,7のいずれか1項に記載の嚥下困難者用食品。
【請求項9】
硬さが1000〜5000N/m、付着性が400J/m以下であり、且つ、硬さ/付着性の比が10以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の嚥下困難者用食品。

【公開番号】特開2013−85512(P2013−85512A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228622(P2011−228622)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(500155970)株式会社タケショー (1)
【Fターム(参考)】