説明

濃度センサ

【課題】弾性表面波を利用して被検溶液中の化学物質濃度を検出するように構成された濃度センサにおいて、これをコンパクトに構成した上で、濃度検出を精度良く行えるようにする。
【解決手段】ショートチャンネル34Aおよびオープンチャンネル34Bを有する自励式の濃度センサとして構成する。その上で、ショートチャンネル34Aに接続された発振用回路40Aの高周波増幅器42Aが動作しているときには、オープンチャンネル34Bに接続された発振用回路40Bの高周波増幅器42Bの動作を停止させ、また、高周波増幅器42Bが動作しているときには、高周波増幅器42Aの動作を停止させる構成とする。これにより、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aにおける自励発振と、オープンチャンネル側の閉ループ回路22Bにおける自励発振との間に干渉が生じてしまうのを未然に防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、弾性表面波を利用して被検溶液中の化学物質濃度を検出するように構成された濃度センサに関するものであり、特に、そのセンサ本体として、ショートチャンネルおよびオープンチャンネルを備えた濃度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、被検溶液中の化学物質濃度(例えばメタノール濃度)を検出するための濃度センサとして、弾性表面波を利用したものが知られている。
【0003】
この濃度センサは、そのセンサ本体として、例えば「特許文献1」に記載されているように、圧電基板上に1対の交差指電極が所定間隔を置いて配置されてなるチャンネル部を備えた構成となっている。
【0004】
そして、この濃度センサにおいては、一方の交差指電極を励振させて圧電基板上に弾性表面波を発生させるとともに、これにより他方の交差指電極まで伝播した弾性表面波を該交差指電極で受振させる構成となっている。その際、弾性表面波の伝播速度は化学物質濃度により変化するので、他方の交差指電極で受振した弾性表面波の周波数に基づいて濃度検出を行うことが可能となる。
【0005】
従来の濃度センサの多くは、上記「特許文献1」にも記載されているように、一方の交差指電極の励振を、該交差指電極に所定の高周波信号電圧を印加することにより行う、いわゆる他励式の濃度センサとして構成されている。
【0006】
その際「特許文献2」には、このような他励式の濃度センサにおいて、そのセンサ本体のチャンネル部として、両交差指電極間における圧電基板上の領域が、両交差指電極のアース電極指に短絡された導電層によって覆われているショートチャンネルと、両交差指電極間における圧電基板上の領域が露出しているオープンチャンネルとを備えた構成で、かつ、両チャンネル部が並列で配置された構成が記載されている。
【0007】
そして、この「特許文献2」に記載された濃度センサにおいては、ショートチャンネルにおける弾性表面波の伝播速度と、オープンチャンネルにおける弾性表面波の伝播速度との差に基づいて、濃度検出を行う構成となっている。
【0008】
また「特許文献3」には、他励式の濃度センサにおいて、そのセンサ本体のチャンネル部として、1つの基準チャンネル部(基準センサー107)と複数の検出チャンネル部(検出センサー101〜106)とを備えた構成が記載されている。
【0009】
そして、この「特許文献3」に記載された濃度センサにおいては、複数の検出チャンネル部の駆動(すなわち、一方の交差指電極への高周波信号電圧の印加)を、同一のタイミングでは行わない構成となっており、一方、基準チャンネル部の駆動については、これを連続的に行う構成または複数の検出チャンネル部のいずれかの駆動と同一のタイミングで行う構成となっている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−315646号公報
【特許文献2】特開平5−256753号公報
【特許文献3】特表2002−525578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来の濃度センサは、いずれも他励式の濃度センサとして構成されているが、チャンネル部に発振用回路を接続して閉ループ回路を構成し、これにより自励発振を生起させる、いわゆる自励式の濃度センサとして構成することも可能である。
【0012】
その際、この自励式の濃度センサの発振用回路として、高周波増幅器とそのゲインを調整する自動利得制御回路とを備えた構成とした上で、この発振用回路をショートチャンネルおよびオープンチャンネルの各々に接続して、それぞれ閉ループ回路を構成するようにすれば、ショートチャンネル側の発振用回路の高周波増幅器から出力される発振周波数信号およびその自動利得制御回路から出力されるゲイン調整電圧信号と、オープンチャンネル側の発振用回路の高周波増幅器から出力される発振周波数信号およびその自動利得制御回路から出力されるゲイン調整電圧信号とに基づいて、被検溶液中の化学物質濃度を算出することが可能となる。そして、このような構成を採用することにより、他励式の濃度センサに比して、濃度検出を精度良く行うことが可能となる。
【0013】
しかしながら、このような自励式の濃度センサ濃度を採用した場合には、ショートチャンネル側の閉ループ回路とオープンチャンネル側の閉ループ回路の各々で、自励発振が生起されることとなるので、両者間に干渉が生じてしまうおそれがある。そして、このような干渉が生じてしまうと、各発振周波数信号および各ゲイン調整電圧信号の出力値に誤差が生じてしまうこととなる。
【0014】
このような干渉の発生を未然に防止する方法として、いくつかの方法が考えられる。
【0015】
例えば、ショートチャンネルとオープンチャンネルとを、物理的距離を置いて配置することが考えられる。しかしながら、このようにした場合には、センサ本体が大型化してしまう、という問題がある。しかも、このようにした場合には、被検溶液中の互いに離れた位置で弾性表面波の伝播が行われることとなるので、その受振条件が異なったものとなってしまい、このため濃度検出の精度が低下してしまう、という問題もある。
【0016】
また、ショートチャンネル側の閉ループ回路とオープンチャンネル側の閉ループ回路とで、発振周波数を異なった値に設定することも考えられる。しかしながら、このようにした場合には、発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号の出力値の特性が、両閉ループ回路相互間で不揃いとなってしまうため、濃度検出の精度が低下してしまう、という問題がある。
【0017】
さらに、単一の高周波増幅器および自動利得制御回路をショートチャンネルおよびオープンチャンネルで共用し、スイッチ操作により、ショートチャンネル側の閉ループ回路の動作とオープンチャンネル側の閉ループ回路の動作とを切り替えるようにすることも考えられる。しかしながら、このようにした場合には、スイッチ操作が介在することとなるため、各チャンネル部における弾性表面波の発振精度が低下してしまい、やはり濃度検出の精度が低下してしまう、という問題がある。
【0018】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、弾性表面波を利用して被検溶液中の化学物質濃度を検出するように構成された濃度センサにおいて、これをコンパクトに構成した上で、濃度検出を精度良く行うことができる濃度センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、ショートチャンネルおよびオープンチャンネルを有する自励式の濃度センサを採用した上で、ショートチャンネル側の閉ループ回路とオープンチャンネル側の閉ループ回路とで、その発振用回路の高周波増幅器の動作タイミングをずらす構成とすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0020】
すなわち、本願発明に係る濃度センサは、
圧電基板上に、1対の交差指電極が所定間隔を置いて配置されてなる第1のチャンネル部と、この第1のチャンネル部と並列で1対の交差指電極が所定間隔を置いて配置されてなる第2のチャンネル部とが形成されてなるセンサ本体と、
このセンサ本体の各チャンネル部に接続され、該チャンネル部とで自励発振を生起させる閉ループ回路を構成する第1および第2の発振用回路と、を備えてなり、
上記第1のチャンネル部が、該チャンネル部の両交差指電極間における上記圧電基板上の領域を、これら両交差指電極のアース電極指に短絡された導電層で覆ったショートチャンネルとして構成されるとともに、上記第2のチャンネル部が、該チャンネル部の両交差指電極間における上記圧電基板上の領域を露出させたオープンチャンネルとして構成されており、
上記各発振用回路が、高周波増幅器と、この高周波増幅器のゲインを調整する自動利得制御回路とを備えてなり、
上記各チャンネル部における1対の交差指電極のうち、一方の交差指電極を励振させて上記圧電基板上に弾性表面波を発生させるとともに、他方の交差指電極まで伝播した上記弾性表面波を該交差指電極で受振させるように構成された濃度センサにおいて、
上記各発振用回路の高周波増幅器から出力される発振周波数信号および上記各自動利得制御回路から出力されるゲイン調整電圧信号に基づいて、被検溶液中の化学物質濃度を算出する濃度算出回路と、
上記第1および第2の発振用回路の高周波増幅器のうち、一方の高周波増幅器が動作しているときには、他方の高周波増幅器の動作を停止させる駆動制御回路と、を備えていることを特徴とするものである。
【0021】
本願発明に係る濃度センサの濃度検出の対象となる「化学物質濃度」の種類は特に限定されるものではなく、例えばメタノール濃度や蟻酸濃度等が採用可能である。
【0022】
上記「駆動制御回路」は、第1および第2の発振用回路の高周波増幅器のうち、一方の高周波増幅器が動作しているときには、他方の高周波増幅器の動作を停止させるように構成されていれば、その動作の停止タイミングや停止期間等は特に限定されるものではない。
【0023】
また、上記「他方の高周波増幅器」の動作を停止させるための具体的構成は特に限定されるものではなく、例えば、該高周波増幅器への電源供給を遮断することにより行う構成、あるいは、該高周波増幅器の増幅率を自励発振が停止する値まで下げることにより行う構成等が採用可能である。
【発明の効果】
【0024】
上記構成に示すように、本願発明に係る濃度センサは、ショートチャンネルおよびオープンチャンネルを有する自励式の濃度センサとして構成されているが、ショートチャンネルに接続された発振用回路の高周波増幅器が動作しているときには、オープンチャンネルに接続された発振用回路の高周波増幅器の動作が停止し、また、オープンチャンネルに接続された発振用回路の高周波増幅器が動作しているときには、ショートチャンネルに接続された発振用回路の高周波増幅器の動作が停止する構成となっているので、ショートチャンネル側の閉ループ回路における自励発振と、オープンチャンネル側の閉ループ回路における自励発振との間に干渉が生じてしまうのを未然に防止することができる。
【0025】
したがって、ショートチャンネル側の閉ループ回路とオープンチャンネル側の閉ループ回路とを近接して配置することが可能となり、これにより濃度センサをコンパクトに構成することができる。
【0026】
またこれにより、ショートチャンネル側の閉ループ回路から出力される発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号の出力値、ならびにオープンチャンネル側の閉ループ回路から出力される発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号の出力値、の各々に誤差が生じてしまうのを未然に防止することができる。
【0027】
このように本願発明によれば、弾性表面波を利用して被検溶液中の化学物質濃度を検出するように構成された濃度センサにおいて、これをコンパクトに構成した上で、濃度検出を精度良く行うことができる。
【0028】
上記構成において、駆動制御回路の構成として、第1および第2の発振用回路の高周波増幅器を共に動作させた状態で、周期的に一方の高周波増幅器の動作を第1の設定期間だけ一時的に停止させた直後に他方の高周波増幅器の動作を第2の設定期間だけ一時的に停止させる構成とした上で、第1の設定期間内に上記他方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測するとともに、第2の設定期間内に上記一方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測する構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0029】
すなわち、ショートチャンネル側の閉ループ回路とオープンチャンネル側の閉ループ回路とで、その発振用回路の高周波増幅器の動作タイミングを互いにずらすようにした上で、その計測タイミングのずれを最小限に抑えることができる。そしてこれにより、濃度検出の精度を十分に高めることができる。
【0030】
しかも、このような構成を採用することにより、一方の高周波増幅器は、第1の設定期間以外は動作状態にあり、また、他方の高周波増幅器は、第2の設定期間以外は動作状態にあるので、その動作停止期間を最小限に抑えることができ、これにより安定した動作を確保することができる。
【0031】
ここで、上記「一方の高周波増幅器」は、第1および第2の発振用回路のうちのいずれであってもよい。
【0032】
また、上記「他方(または一方)の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号」とは、「他方(または一方)の高周波増幅器から出力される発振周波数信号およびこの高周波増幅器に接続された自動利得制御回路から出力されるゲイン調整電圧信号」を意味するものである。
【0033】
上記構成において、駆動制御回路の構成として、第1および第2の発振用回路の高周波増幅器の動作を共に停止させた状態で、周期的に一方の高周波増幅器を第1の設定期間だけ一時的に動作させた直後に他方の高周波増幅器を第2の設定期間だけ一時的に動作させる構成とした上で、第1の設定期間内に上記一方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測するとともに、第2の設定期間内に上記他方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測する構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0034】
すなわち、このようにした場合においても、ショートチャンネル側の閉ループ回路とオープンチャンネル側の閉ループ回路とで、その発振用回路の高周波増幅器の動作タイミングを互いにずらすようにした上で、その計測タイミングのずれを最小限に抑えることができる。そしてこれにより、濃度検出の精度をより高めることができる。
【0035】
しかも、このような構成を採用することにより、一方の高周波増幅器は、第1の設定期間以外は動作停止状態にあり、また、他方の高周波増幅器は、第2の設定期間以外は動作停止状態にあるので、消費電力を最小限に抑えた上で濃度検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0037】
図1は、本願発明の一実施形態に係る濃度センサ10を示すブロック図である。
【0038】
同図に示すように、本実施形態に係る濃度センサ10は、センサユニット20と、このセンサユニット20に接続された制御ユニット50とを備えてなっている。その際、センサユニット20は、センサ本体30と、第1および第2の発振用回路40A、40Bとを備えてなっている。
【0039】
そして、この濃度センサ10は、そのセンサ本体30を被検溶液中に配置した状態で、この被検溶液に含まれている特定の化学物質(例えばメタノール)の濃度を検出するようになっている。
【0040】
センサ本体30は、圧電基板32上に、1対の交差指電極34A1、34A2が所定間隔を置いて配置されてなる第1のチャンネル部34Aと、この第1のチャンネル部34Aと並列で1対の交差指電極34B1、34B2が上記所定間隔と同じ間隔を置いて配置されてなる第2のチャンネル部34Bとが形成された構成となっている。
【0041】
第1のチャンネル部34Aは、その一方の交差指電極34A1における一方の電極指が入力用電極指34Aiを構成しており、また、その他方の交差指電極34A2における一方の電極指が出力用電極指34Aoを構成している。
【0042】
一方、第2のチャンネル部34Bは、その一方の交差指電極34B1における一方の電極指が入力用電極指34Biを構成しており、また、その他方の交差指電極34B2における一方の電極指が出力用電極指34Boを構成している。
【0043】
そして、第1のチャンネル部34Aの各交差指電極34A1、34A2における他方の電極指と、第2のチャンネル部34Bの各交差指電極34B1、34B2における他方の電極指とが、共通のアース電極指34gを構成している。
【0044】
これら各チャンネル部34A、34Bにおいては、その一方の交差指電極34A1、34B1が励振することにより圧電基板32上に横波型の弾性表面波を発生させるように構成されており、そして、これにより圧電基板32上をその他方の交差指電極34A2、34B2まで伝播した弾性表面波を、これら各交差指電極34A2、34B2で受振するように構成されている。
【0045】
第1および第2のチャンネル部34A、34Bは、互いに線対称の構成を有しており、かつ互いに隣接して配置されているが、以下の構成が両者間で異なっている。
【0046】
すなわち、第1のチャンネル部34Aは、その交差指電極34A1、34A2間における圧電基板32上の領域が、アース電極指34gに短絡された導電層34A3で覆われたショートチャンネルとして構成されている。一方、第2のチャンネル部34Bは、その交差指電極34B1、34B2間における圧電基板32上の領域が露出したオープンチャンネルとして構成されている。
【0047】
以下、第1のチャンネル部34Aを「ショートチャンネル34A」、第2のチャンネル部34Bを「オープンチャンネル34B」という。
【0048】
第1および第2の発振用回路40A、40Bは、第1の発振用回路40Aがショートチャンネル34Aに接続されており、第2の発振用回路40Bがショートチャンネル34Bに接続されている。そして、発振用回路40Aは、ショートチャンネル34Aとで、自励発振を生起させる閉ループ回路22Aを構成するようになっており、発振用回路40Bは、オープンチャンネル34Bとで、自励発振を生起させる閉ループ回路22Bを構成するようになっている。
【0049】
ショートチャンネル側の発振用回路40Aは、高周波増幅器42Aと、自動利得制御回路44Aと、ローパスフィルタ46Aとで構成されている。
【0050】
高周波増幅器42Aは、ショートチャンネル34Aの出力用電極指34Aoから出力される発振周波数信号を増幅して、これをショートチャンネル34Aの入力用電極指34Aiに戻すように構成されている。
【0051】
自動利得制御回路44Aは、高周波増幅器42Aからの出力信号(すなわちショートチャンネル34Aへの入力信号)の電圧振幅を一定に維持することにより、高周波増幅器42Aのゲイン調整を行うようになっている。
【0052】
ローパスフィルタ46Aは、閉ループ回路22Aにおいて発振させようとする周波数(例えば50MHz)よりも高い周波数領域での発振を阻止するために、ショートチャンネル34Aの出力用電極指34Aoと高周波増幅器42Aとの間に配置されている。
【0053】
オープンチャンネル側の発振用回路40Bも、ショートチャンネル側の発振用回路40Aと同様の構成を有している。すなわち、この発振用回路40Bは、高周波増幅器42Bと、自動利得制御回路44Bと、ローパスフィルタ46Bとで構成されている。
【0054】
そして、センサユニット20は、ショートチャンネル側の発振用回路40Aにおける高周波増幅器42Aから出力される発振周波数fsの信号および自動利得制御回路44Aから出力されるゲイン調整電圧(AGC電圧)Vsの信号と、オープンチャンネル側の発振用回路40Bにおける高周波増幅器42Bから出力される発振周波数foの信号および自動利得制御回路44Bから出力されるゲイン調整電圧Voの信号とを、制御ユニット50に入力するようになっている。
【0055】
制御ユニット50は、CPU52と、このCPU52に接続された周波数カウンタ54およびA/D変換器56とを備えてなっている。
【0056】
周波数カウンタ54には、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aから出力される発振周波数fsの信号と、オープンチャンネル側の閉ループ回路22Bから出力される発振周波数foの信号とが入力されるようになっている。そして、この周波数カウンタ54において、これら各発振周波数fs、foの計測を行うようになっている。
【0057】
A/D変換器56には、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aから出力されるゲイン調整電圧Vsの信号と、オープンチャンネル側の閉ループ回路22Bから出力されるゲイン調整電圧Voの信号とが入力されるようになっている。そして、このA/D変換器56において、これら各ゲイン調整電圧Vs、Voの信号をA/D変換するようになっている。
【0058】
CPU52は、周波数カウンタ54で計測された各発振周波数信号の出力値fs、foと、A/D変換された各ゲイン調整電圧信号の出力値Vs、Voとに基づいて、被検溶液中の化学物質濃度を算出するようになっている。
【0059】
このCPU52による化学物質濃度の算出は、次のようにして行われるようになっている。
【0060】
すなわち、発振周波数fsは、ショートチャンネル34Aの圧電基板32上を伝播する弾性表面波の速度に応じた値となり、また、発振周波数foは、オープンチャンネル34Bの圧電基板32上を伝播する弾性表面波の速度に応じた値となる。
【0061】
一方、被検溶液中の化学物質濃度が変化すると、これに伴って被検溶液の誘電率も変化する。そして、この誘電率が変化すると、弾性表面波の伝播速度も変化する。その際、ショートチャンネル34Aとオープンチャンネル34Bとでは、導電層34A3の有無の差により、誘電率の変化に対する弾性表面波の伝播速度の変化の度合が異なったものとなる。
【0062】
そして、この弾性表面波の伝播速度の差が、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aから出力される発振周波数fsとオープンチャンネル側の閉ループ回路22Bから出力される発振周波数foとの差となって現れる。また、各ゲイン調整電圧Vs、Voは、弾性表面波が伝播する際のエネルギの減衰の度合に応じた値となる。
【0063】
そこで、これら発振周波数fs、foおよびゲイン調整電圧Vs、Voという4つの出力値を用いて、所定のアルゴリズムに基づいて演算を行うことにより、被検溶液中の化学物質濃度を算出するようになっている。
【0064】
ところで、このCPU52による化学物質濃度の算出を、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aとオープンチャンネル側の閉ループ回路22Bとを同時に動作させて行うようにした場合には、各閉ループ回路22A、22Bで自励発振が同時に生起されることとなるので、両者間に干渉が生じてしまうおそれがある。
【0065】
特に、本実施形態に係る濃度センサ10のように、センサ本体30の圧電基板32上においてショートチャンネル34Aとオープンチャンネル34Bとが互いに隣接して配置されている場合には、両者間に干渉が生じやすくなる。そして、このような干渉が生じてしまうと、各発振周波数信号および各ゲイン調整電圧信号の出力値fs、fo、Vs、Voに誤差が生じてしまうこととなる。
【0066】
そこで、本実施形態に係る濃度センサ10においては、このような干渉の発生を防止するため、以下のような構成を備えている。
【0067】
すなわち、センサユニット20における各発振用回路40A、40Bの高周波増幅器42A、42Bと、その電源60との間には、オンオフスイッチ62A、62Bがそれぞれ配置されている。これら各オンオフスイッチ62A、62Bは、CPU52からの制御信号により、その開閉動作が行われるようになっている。
【0068】
そして、このCPU52による各オンオフスイッチ62A、62Bの開閉制御は、ショートチャンネル側の高周波増幅器42Aとオープンチャンネル側の高周波増幅器42Bとのうち、一方が動作しているときには他方の動作を停止させるようにして行われるようになっている。
【0069】
このCPU52による開閉制御は、具体的には、図2(a)に示すタイミングチャートで示す手順で行われるようになっている。
【0070】
すなわち、CPU52は、ショートチャンネル側の高周波増幅器42Aとオープンチャンネル側の高周波増幅器42Bとを共にオンにした状態で、周期的に高周波増幅器42Aを第1の設定期間t1だけ一時的にオフにした直後に高周波増幅器42Bを第2の設定期間t2だけ一時的にオフにするようになっている。そして、CPU52は、設定期間t1内に、計測タイミングT1で、オープンチャンネル側の閉ループ回路22Bから出力される発振周波数foおよびゲイン調整電圧Voを計測するとともに、設定期間t2内に、計測タイミングT2で、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aから出力される発振周波数fsおよびゲイン調整電圧Vsを計測するようになっている。
【0071】
その際、各設定期間t1、t2は、2.5秒程度の値に設定されている。また、その計測の周期t3は、10秒程度の値に設定されている。そして、発振周波数foおよびゲイン調整電圧Voの計測タイミングT1は、ショートチャンネル側の高周波増幅器42Aをオフにしてから2秒後(すなわち設定期間t1の終了直前のタイミング)に設定されており、また、発振周波数fsおよびゲイン調整電圧Vsの計測タイミングT2は、オープンチャンネル側の高周波増幅器42Bをオフにしてから2秒後(すなわち設定期間t2の終了直前のタイミング)に設定されている。
【0072】
以上詳述したように、本実施形態に係る濃度センサ10は、ショートチャンネル34Aおよびオープンチャンネル34Bを有する自励式の濃度センサとして構成されているが、ショートチャンネル34Aに接続された発振用回路40Aの高周波増幅器42Aが動作しているときには、オープンチャンネル34Bに接続された発振用回路40Bの高周波増幅器42Bの動作が停止し、また、オープンチャンネル34Bに接続された発振用回路40Bの高周波増幅器42Bが動作しているときには、ショートチャンネル34Aに接続された発振用回路40Aの高周波増幅器42Aの動作が停止する構成となっているので、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aにおける自励発振と、オープンチャンネル側の閉ループ回路22Bにおける自励発振との間に干渉が生じてしまうのを未然に防止することができる。
【0073】
したがって、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aとオープンチャンネル側の閉ループ回路22Bとを近接して配置することが可能となり、これにより濃度センサ10をコンパクトに構成することができる。
【0074】
またこれにより、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aから出力される発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号の出力値fs、Vs、ならびにオープンチャンネル側の閉ループ回路22Bから出力される発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号の出力値fo、Voの各々に誤差が生じてしまうのを未然に防止することができる。
【0075】
このように本実施形態によれば、弾性表面波を利用して被検溶液中の化学物質濃度を検出するように構成された濃度センサ10において、これをコンパクトに構成した上で、濃度検出を精度良く行うことができる。
【0076】
しかも本実施形態においては、制御ユニット50のCPU52が、ショートチャンネル側の高周波増幅器42Aとオープンチャンネル側の高周波増幅器42Bとを共にオンにした状態で、周期的に高周波増幅器42Aを設定期間t1だけ一時的にオフにした直後に高周波増幅器42Bを設定期間t2だけ一時的にオフにし、そして、設定期間t1内に、オープンチャンネル側の閉ループ回路22Bから出力される発振周波数foおよびゲイン調整電圧Voを計測するとともに、設定期間t2内に、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aから出力される発振周波数fsおよびゲイン調整電圧Vsを計測する構成となっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0077】
すなわち、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aとオープンチャンネル側の閉ループ回路22Bとで、その高周波増幅器42A、42Bの動作タイミングを互いにずらすようにした上で、その計測タイミングのずれを最小限に抑えることができる。そしてこれにより、濃度検出の精度を十分に高めることができる。
【0078】
しかも、高周波増幅器42Aは、設定期間t1以外はオンの状態にあり、また、高周波増幅器42Bは、設定期間t2以外はオンの状態にあるので、そのオフ期間を最小限に抑えることができ、これにより安定した動作を確保することができる。
【0079】
なお、本実施形態のように、高周波増幅器42Aを設定期間t1だけオフにする代わりに、高周波増幅器42Bを設定期間t1だけオフにするとともに、高周波増幅器42Bを設定期間t2だけオフにする代わりに、高周波増幅器42Aを設定期間t2だけオフにするようにした場合においても、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0080】
また、本実施形態のように、各発振用回路40A、40Bの高周波増幅器42A、42Bの動作停止を、オンオフスイッチ62A、62Bを選択的にオフにして該高周波増幅器42A、42Bへの電源供給を遮断することにより行う構成とする代わりに、各発振用回路40A、40Bの自動利得制御回路44A、44Bから出力されるゲイン調整電圧信号Vs、Voの高周波増幅器42A、42Bへの入力を選択的に遮断して、該高周波増幅器42A、42Bの増幅率を自励発振が停止する値まで下げることにより行う構成とすることも可能である。
【0081】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0082】
図2(b)は、本変形例の作用を示す、同図(a)と同様の図である。
【0083】
本変形例においては、CPU52による各オンオフスイッチ62A、62Bの開閉制御の方法が、上記実施形態の場合と異なっている。
【0084】
すなわち、本変形例においては、ショートチャンネル側の高周波増幅器42Aとオープンチャンネル側の高周波増幅器42Bとを共にオフにした状態で、周期的に高周波増幅器42Bを第1の設定期間t1だけ一時的にオンにした直後に高周波増幅器42Aを第2の設定期間t2だけ一時的にオンにするようになっている。そして、設定期間t1内に、オープンチャンネル側の閉ループ回路22Bから出力される発振周波数foおよびゲイン調整電圧Voを計測するとともに、設定期間t2内に、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aから出力される発振周波数fsおよびゲイン調整電圧Vsを計測するようになっている。
【0085】
その際、各設定期間t1、t2は、2.5秒程度の値に設定されている。また、その計測の周期t3は、10秒程度の値に設定されている。そして、発振周波数foおよびゲイン調整電圧Voの計測タイミングT1は、オープンチャンネル側の高周波増幅器42Bをオンにしてから2秒後(すなわち設定期間t1の終了直前のタイミング)に設定されており、また、発振周波数fsおよびゲイン調整電圧Vsの計測タイミングT2は、ショートチャンネル側の高周波増幅器42Aをオンにしてから2秒後(すなわち設定期間t2の終了直前のタイミング)に設定されている。
【0086】
本変形例の構成を採用した場合においても、ショートチャンネル側の閉ループ回路22Aとオープンチャンネル側の閉ループ回路22Bとで、その高周波増幅器42A、42Bの動作タイミングを互いにずらすようにした上で、その計測タイミングのずれを最小限に抑えることができる。そしてこれにより、濃度検出の精度をより高めることができる。
【0087】
しかも、本変形例の構成を採用することにより、高周波増幅器42Aは、設定期間t1以外はオフの状態にあり、また、高周波増幅器42Bは、設定期間t2以外はオフの状態にあるので、消費電力を最小限に抑えた上で濃度検出を行うことができる。
【0088】
なお、本変形例のように、高周波増幅器42Bを設定期間t1だけオンにする代わりに、高周波増幅器42Aを設定期間t1だけオンにするとともに、高周波増幅器42Aを設定期間t2だけオンにする代わりに、高周波増幅器42Bを設定期間t2だけオンにするようにした場合においても、本変形例と同様の作用効果を得ることができる。
【0089】
なお、上記実施形態およびその変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本願発明の一実施形態に係る濃度センサを示すブロック図
【図2】(a)は、上記実施形態の作用をタイミングチャートで示す図、(b)は、上記実施形態の変形例の作用を示す(a)と同様の図
【符号の説明】
【0091】
10 濃度センサ
20 センサユニット
22A ショートチャンネル側の閉ループ回路
22B オープンチャンネル側の閉ループ回路
30 センサ本体
32 圧電基板
34A ショートチャンネル(第1のチャンネル部)
34Ai、34Bi 入力用電極指
34Ao、34Bo 出力用電極指
34A1、34A2、34B1、34B2 交差指電極
34A3 導電層
34B オープンチャンネル(第2のチャンネル部)
34g アース電極指
40A ショートチャンネル側の発振用回路(第1の発振用回路)
40B オープンチャンネル側の発振用回路(第2の発振用回路)
42A、42B 高周波増幅器
44A、44B 自動利得制御回路
46A、46B ローパスフィルタ
50 制御ユニット
52 CPU
54 周波数カウンタ
56 A/D変換器
60 電源
62A、62B オンオフスイッチ
fo、fs 発振周波数
T1、T2 計測タイミング
t1 第1の設定期間
t2 第2の設定期間
Vo、Vs ゲイン調整電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、1対の交差指電極が所定間隔を置いて配置されてなる第1のチャンネル部と、この第1のチャンネル部と並列で1対の交差指電極が所定間隔を置いて配置されてなる第2のチャンネル部とが形成されてなるセンサ本体と、
このセンサ本体の各チャンネル部に接続され、該チャンネル部とで自励発振を生起させる閉ループ回路を構成する第1および第2の発振用回路と、を備えてなり、
上記第1のチャンネル部が、該チャンネル部の両交差指電極間における上記圧電基板上の領域を、これら両交差指電極のアース電極指に短絡された導電層で覆ったショートチャンネルとして構成されるとともに、上記第2のチャンネル部が、該チャンネル部の両交差指電極間における上記圧電基板上の領域を露出させたオープンチャンネルとして構成されており、
上記各発振用回路が、高周波増幅器と、この高周波増幅器のゲインを調整する自動利得制御回路とを備えてなり、
上記各チャンネル部における1対の交差指電極のうち、一方の交差指電極を励振させて上記圧電基板上に弾性表面波を発生させるとともに、他方の交差指電極まで伝播した上記弾性表面波を該交差指電極で受振させるように構成された濃度センサにおいて、
上記各発振用回路の高周波増幅器から出力される発振周波数信号および上記各自動利得制御回路から出力されるゲイン調整電圧信号に基づいて、被検溶液中の化学物質濃度を算出する濃度算出回路と、
上記第1および第2の発振用回路の高周波増幅器のうち、一方の高周波増幅器が動作しているときには、他方の高周波増幅器の動作を停止させる駆動制御回路と、を備えていることを特徴とする濃度センサ。
【請求項2】
上記駆動制御回路が、上記他方の高周波増幅器の動作停止を、該高周波増幅器への電源供給を遮断することにより行うように構成されている、ことを特徴とする請求項1記載の濃度センサ。
【請求項3】
上記駆動制御回路が、上記他方の高周波増幅器の動作停止を、該高周波増幅器の増幅率を自励発振が停止する値まで下げることにより行うように構成されている、ことを特徴とする請求項1記載の濃度センサ。
【請求項4】
上記駆動制御回路が、上記第1および第2の発振用回路の高周波増幅器を共に動作させた状態で、周期的に一方の高周波増幅器の動作を第1の設定期間だけ一時的に停止させた直後に他方の高周波増幅器の動作を第2の設定期間だけ一時的に停止させ、上記第1の設定期間内に上記他方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測するとともに上記第2の設定期間内に上記一方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測するように構成されている、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の濃度センサ。
【請求項5】
上記駆動制御回路が、上記第1および第2の発振用回路の高周波増幅器の動作を共に停止させた状態で、周期的に一方の高周波増幅器を第1の設定期間だけ一時的に動作させた直後に他方の高周波増幅器を第2の設定期間だけ一時的に動作させ、上記第1の設定期間内に上記一方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測するとともに上記第2の設定期間内に上記他方の高周波増幅器に由来する発振周波数信号およびゲイン調整電圧信号を計測するように構成されている、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の濃度センサ。

【図1】
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【図2】
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