説明

濃度定量装置、光吸収係数算出方法、等価散乱係数算出方法、濃度定量方法、光吸収係数の算出を行うプログラム及び濃度の算出を行うプログラム

【課題】目的の層以外の層によるノイズの影響を軽減する濃度定量装置を提供する。
【解決手段】照射手段101と、第1受光手段102と、第2受光手段103と、第1光強度取得手段104と、第2光強度取得手段105と、第1等価散乱係数算出手段106と、光路長分布記憶手段108と、時間分解波形記憶手段109と、光路長取得手段110と、光強度モデル取得手段111と、第1光強度取得手段104または第2光強度取得手段105、若しくは第3光強度取得手段が取得した光強度と、光路長取得手段110が取得した複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、光強度モデル取得手段111が取得した光強度モデルと、に基づいて、任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段112と、光吸収係数算出手段112が算出した光吸収係数に基づいて、任意の層における目的成分の濃度を算出する濃度算出手段114と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のいくつかの様態は、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置、光吸収係数算出方法、等価散乱係数算出方法、濃度定量方法、光吸収係数の算出を行うプログラム及び濃度の算出を行うプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血糖値の測定は、指先などから採血を行い、血中のグルコースに対する酵素活性を測ることで行っていた。しかし、このような血糖値の測定方法は、指先などから血液を採取して測定しなければならず、採血に手間と痛みを伴うことや、血液を付着させる測定チップが必要なことから、採血を必要としない非侵襲型の血糖値の測定方法が望まれている。
【0003】
そこで、皮膚に近赤外光を照射し、その光吸収量からグルコースの濃度を求める方法が検討されている(例えば、特許文献1を参照)。具体的には、予めグルコース濃度と照射する光の波長と光の吸収量との関係を示す検量線を作成しておき、モノクロメーター等を用いてある波長域を走査し、その波長域の各波長に対する吸収量を求め、当該波長及び吸収量と検量線とを比較することでグルコース濃度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3931638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の非侵襲血糖値測定方法は、光の入出射間距離を定めることによって、真皮層の近赤外スペクトルを測定するため、測定したスペクトルに、真皮層のスペクトルのみならず表皮層や皮下組織層のスペクトルも含まれ、観測される光吸収係数の変化には表皮層や皮下組織層によるノイズが含まれてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、目的の層以外の層によるノイズの影響を軽減する濃度定量装置、光吸収係数算出方法、等価散乱係数算出方法、濃度定量方法、光吸収係数の算出を行うプログラム及び濃度の算出を行うプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のいくつかの態様は上記の課題を解決するためになされたものであり、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射手段と、前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する第1受光手段と、 前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光するとともに、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離が前記第1受光手段と異なるように配置された第2受光手段と、前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第1受光手段が受光した光の強度を取得する第1光強度取得手段と、前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第2受光手段が受光した光の強度を取得する第2光強度取得手段と、前記第1光強度取得手段が取得した光強度と前記第2光強度取得手段が取得した光強度とに基づいて、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する第1等価散乱係数算出手段と、前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段と、前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段と、前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段と、前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段と、前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第1光強度取得手段及び前記第2光強度取得手段とは異なる第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段と、前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、第1光強度取得手段または第2光強度取得手段、若しくは第3光強度取得手段が取得した光強度と、光路長取得手段が取得した複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、任意の層の光吸収係数を選択的に算出することができる。また、観測対象の伝搬光路長分布のモデル及び時間分解波形のモデルを、第1受光手段及び第2受光手段の2つの受光手段が受光した後方散乱光の強度に基づいて任意の時刻における等価散乱係数により生成する方法を採用する。これにより、任意の層の光吸収係数を算出する際の誤差要因が生じることを抑制し、任意の層の光吸収係数を高精度に算出することができる。
【0009】
また、本発明のいくつかの態様は、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、散乱体中での光の速度をc、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記第1受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記照射位置から前記第2受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記第1光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、前記第2光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)としたときに、前記第1等価散乱係数算出手段は、下記の(1)式から前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する、ことを特徴とする。
【0010】
【数1】

【0011】
この構成によれば、上記の(1)式により任意の時刻における等価散乱係数が算出される。よって、光の伝搬光路の等価散乱係数時間関数を高精度に算出することができる。
【0012】
また、本発明のいくつかの態様は、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の等価散乱係数を算出する第2等価散乱係数算出手段を備え、前記光吸収係数算出手段は、前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、前記第2等価散乱係数算出手段が算出した前記任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、第1光強度取得手段または第2光強度取得手段、若しくは第3光強度取得手段が取得した光強度と、光路長取得手段が取得した複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、第2等価散乱係数算出手段が算出した任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、任意の層の光吸収係数を選択的に算出することができる。光吸収係数を算出する際に、等価散乱係数が加味されるので、光吸収係数の算出結果は高精度となる。そのため、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。
【0014】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、前記光強度取得手段は、少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、前記第2等価散乱係数算出手段は、下記の(2)式から前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出する、ことを特徴とする。
【0015】
【数2】

【0016】
この構成によれば、等価散乱係数を算出する際、等価散乱係数の真値に収束するまで上記の(2)式を用いた繰り返し演算が行われる。よって、任意の層の等価散乱係数を高精度に算出することができる。
【0017】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)、前記光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(t)、第m層の光吸収係数をμam、前記伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、入射光子数をNin、入射光強度をIinとしたときに、前記光強度取得手段は、複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し、前記光吸収係数算出手段は、下記の(3)式から前記任意の層の光吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0018】
【数3】

【0019】
この構成によれば、上記の(3)式により任意の層の光吸収係数が算出される。よって、任意の層の光吸収係数を高精度に算出することができる。
【0020】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)、前記光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(t)、第m層の光吸収係数をμam、前記伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、入射光子数をNin、入射光強度をIinとしたときに、前記光強度取得手段は、所定の時刻から少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、前記光吸収係数算出手段は、下記の(4)式から前記任意の層の光吸収係数を算出する、ことを特徴とする。
【0021】
【数4】

【0022】
この構成によれば、光吸収係数が時間τ1〜τ2の間の光路長の積分値によって算出されるため、計測した受光強度に含まれる誤差による光吸収係数の算出結果に対する影響を少なくすることができる。
【0023】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、前記任意の層である第m層における光吸収係数をμam、前記観測対象を形成する第i成分の光吸収係数をμai、前記観測対象を形成する第i成分の体積濃度をcviとしたときに、前記濃度算出手段は、下記の(5)式から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0024】
【数5】

【0025】
この構成によれば、上記の(5)式により任意の層における目的成分の濃度が算出される。よって、任意の層の目的成分の濃度を高精度に算出することができる。
【0026】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、前記任意の層である第m層における光吸収係数をμam、前記観測対象を形成する第i成分のモル吸光係数をε、前記観測対象を形成する第i成分のモル濃度をcとしたときに、前記濃度算出手段は、下記の(6)式から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0027】
【数6】

【0028】
この構成によれば、上記の(6)式により任意の層における目的成分の濃度が算出される。よって、任意の層の目的成分の濃度を高精度に算出することができる。
【0029】
また、本発明のいくつかの態様は、前記濃度算出手段は、前記任意の層における前記光吸収係数に基づいて、多変量解析を用いて特性が既知であるものを測定した値から検量線作成をして、未知測定対象の測定値を検量線に照合することで前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出することを特徴とする。
【0030】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象が皮膚であり、前記任意の層が真皮層であるときに、当該真皮層に含まれるグルコースの濃度を定量することを特徴とする
【0031】
この構成によれば、算出した光吸収係数に基づいて真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、グルコースの濃度の定量を高精度で行うことができる。
【0032】
また、本発明のいくつかの態様は、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象のうち、任意の層における光吸収係数を算出する光吸収係数算出方法であって、照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光の強度、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数、任意の時刻における前記等価散乱係数に基づいて生成された前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデル、任意の時刻における前記等価散乱係数に基づいて生成された前記短時間パルス光の時間分解波形のモデル、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度、を取得する第1の工程と、前記第1の工程で取得した光強度、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記光強度モデル、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する第2の工程と、を有することを特徴とする。
【0033】
この方法によれば、第1の工程で取得した光強度、複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、光強度モデル、に基づいて、任意の層の光吸収係数を選択的に算出することができる。また、観測対象の伝搬光路長分布のモデル及び時間分解波形のモデルを、任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成する方法を採用する。これにより、任意の層の光吸収係数を算出する際の誤差要因が生じることを抑制し、任意の層の光吸収係数を高精度に算出することができる。
【0034】
また、本発明のいくつかの態様は、第1受光手段若しくは第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、散乱体中での光の速度をc、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記第1受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記照射位置から前記第2受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記第1光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、前記第2光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)としたときに、前記第1の工程において、下記の(1)式から前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する、ことを特徴とする。
【0035】
【数7】

【0036】
この方法によれば、上記の(1)式により任意の時刻における等価散乱係数が算出される。よって、光の伝搬光路の等価散乱係数時間関数を高精度に算出することができる。
【0037】
また、本発明のいくつかの態様は、前記第1の工程において、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記光強度モデル、に基づいて、前記任意の層の等価散乱係数を取得し、前記第2の工程において、前記第1の工程で取得した光強度、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記光強度モデル、前記任意の層の前記等価散乱係数、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出することを特徴とする。
【0038】
この方法によれば、第2の工程において、第1の工程で取得した光強度、複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、光強度モデル、任意の層の等価散乱係数、に基づいて、任意の層の光吸収係数を選択的に算出することができる。光吸収係数を算出する際に、等価散乱係数が加味されるので、光吸収係数の算出結果は高精度となる。そのため、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。
【0039】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、前記第1の工程において、少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、下記の(2)式から前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出する、ことを特徴とする。
【0040】
【数8】

【0041】
この方法によれば、等価散乱係数を算出する際、等価散乱係数の真値に収束するまで上記の(2)式を用いた繰り返し演算が行われる。よって、任意の層の等価散乱係数を高精度に算出することができる。
【0042】
また、本発明のいくつかの態様は、観測対象がn層以上の積層構造からなり、第1受光手段若しくは第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、下記の(2)式から複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記時刻tにおける前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出することを特徴とする。
【0043】
【数9】

【0044】
この方法によれば、等価散乱係数を算出する際、等価散乱係数の真値に収束するまで上記の(2)式を用いた繰り返し演算が行われる。よって、任意の層の等価散乱係数を高精度に算出することができる。
【0045】
また、本発明のいくつかの態様は、前記第2の工程で算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出することを特徴とする。
【0046】
この方法によれば、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。
【0047】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象が皮膚であり、前記任意の層が真皮層であるときに、当該真皮層に含まれるグルコースの濃度を定量することを特徴とする。
【0048】
この方法によれば、算出した光吸収係数に基づいて真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、グルコースの濃度の定量を高精度で行うことができる。
【0049】
また、本発明のいくつかの態様は、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を、前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射手段、前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する第1受光手段、前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光するとともに、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離が前記第1受光手段と異なるように配置された第2受光手段、前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第1受光手段が受光した光の強度を取得する第1光強度取得手段、前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第2受光手段が受光した光の強度を取得する第2光強度取得手段、前記第1光強度取得手段が取得した光強度と前記第2光強度取得手段が取得した光強度とに基づいて、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する第1等価散乱係数算出手段、前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段、前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段、前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段、前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段、前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第1光強度取得手段及び前記第2光強度取得手段とは異なる第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段、として動作させるための光吸収係数の算出を行うプログラムである。
【0050】
このプログラムによれば、第1光強度取得手段または第2光強度取得手段、若しくは第3光強度取得手段が取得した光強度と、光路長取得手段が取得した複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、任意の層の光吸収係数を選択的に算出することができる。また、観測対象の伝搬光路長分布のモデル及び時間分解波形のモデルを、第1受光手段及び第2受光手段の2つの受光手段が受光した後方散乱光の強度に基づいて任意の時刻における等価散乱係数により生成する方法を採用する。これにより、任意の層の光吸収係数を算出する際の誤差要因が生じることを抑制し、任意の層の光吸収係数を高精度に算出することができる。
【0051】
また、本発明のいくつかの態様は、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、散乱体中での光の速度をc、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記第1受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記照射位置から前記第2受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記第1光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、前記第2光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)としたときに、前記第1等価散乱係数算出手段は、下記の(1)式から前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する、ことを特徴とする。
【0052】
【数10】

【0053】
このプログラムによれば、上記の(1)式により任意の時刻における等価散乱係数が算出される。よって、光の伝搬光路の等価散乱係数時間関数を高精度に算出することができる。
【0054】
また、本発明のいくつかの態様は、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の等価散乱係数を算出する第2等価散乱係数算出手段、として動作させ、前記光吸収係数算出手段は、前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、前記第2等価散乱係数算出手段が算出した前記任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出することを特徴とする。
【0055】
このプログラムによれば、第1光強度取得手段または第2光強度取得手段、若しくは第3光強度取得手段が取得した光強度と、光路長取得手段が取得した複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、第2等価散乱係数算出手段が算出した任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、任意の層の光吸収係数を選択的に算出することができる。光吸収係数を算出する際に、等価散乱係数が加味されるので、光吸収係数の算出結果は高精度となる。そのため、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。
【0056】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、前記光強度取得手段は、少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、前記第2等価散乱係数算出手段は、下記の(2)式から前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出する、ことを特徴とする。
【0057】
【数11】

【0058】
このプログラムによれば、等価散乱係数を算出する際、等価散乱係数の真値に収束するまで上記の(2)式を用いた繰り返し演算が行われる。よって、任意の層の等価散乱係数を高精度に算出することができる。
【0059】
また、本発明のいくつかの態様は、前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段として動作させるための濃度の算出を行うプログラムである。
【0060】
このプログラムによれば、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。
【0061】
また、本発明のいくつかの態様は、前記観測対象が皮膚であり、前記任意の層が真皮層であるときに、当該真皮層に含まれるグルコースの濃度を定量することを特徴とする。
【0062】
このプログラムによれば、算出した光吸収係数に基づいて真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、グルコースの濃度の定量を高精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態に係る血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】シミュレーション部が算出した各層の伝搬光路長分布を示すグラフである。
【図3】シミュレーション部が算出した時間分解波形を示すグラフである。
【図4】皮膚の主成分の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態に係る血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0065】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
血糖値測定装置100(濃度定量装置)は、照射部101(照射手段)、第1受光部102(第1受光手段)、第2受光部103(第2受光手段)、第1計測光強度取得部104(第1光強度取得手段)、第2計測光強度取得部105(第2光強度取得手段)、第1等価散乱係数算出部106(第1等価散乱係数算出手段)、シミュレーション部107、光路長分布記憶部108(光路長分布記憶手段)、時間分解波形記憶部109(時間分解波形記憶手段)、光路長取得部110(光路長取得手段)、無吸収時光強度取得部111(光強度モデル取得手段)、光吸収係数算出部112(光吸収係数算出手段)、成分吸収情報記憶部113、濃度算出部114(濃度算出手段)、濃度単位変換部115、濃度表示部116、を備える。
【0066】
血糖値測定装置100は、皮膚(観測対象)の真皮層(任意の層)に含まれるグルコース(目的成分)の濃度を測定する。
【0067】
照射部101は、皮膚に対して短時間パルス光を照射する。この照射部101が照射する複数の短時間パルス光は、皮膚を構成する主成分の各々の成分の吸収スペクトル分布の直交性が高くなる波長の光、すなわち、皮膚を構成する主成分の各々の成分のうち、ある主成分における特定成分の吸収スペクトルの極大値が他の成分の吸収スペクトルの極大値と大きく異なる波長の光を含んでいる。
【0068】
第1受光部102は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。
第2受光部103は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。第2受光部103は、皮膚に短時間パルス光が照射される照射位置から皮膚によって後方散乱した光を受光する位置までの距離が第1受光部102と異なるように配置されている。
【0069】
第1計測光強度取得部104は、第1受光部102が受光した光のある時刻における光強度を取得する。
第2計測光強度取得部105は、第2受光部103が受光した光のある時刻における光強度を取得する。
【0070】
第1等価散乱係数算出部106は、第1計測光強度取得部104が取得した光強度と第2計測光強度取得部105が取得した光強度とに基づいて、第1受光部102若しくは第2受光部103が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する。
【0071】
シミュレーション部107は、第1等価散乱係数算出部106が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて、皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデル、短時間パルス光の時間分解波形のモデル、を生成する。シミュレーションは、例えばモンテカルロ法を用いて行われる。
【0072】
光路長分布記憶部108は、シミュレーション部107が生成した皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデルを記憶する。
時間分解波形記憶部109は、シミュレーション部107が生成した短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。
【0073】
光路長取得部110は、光路長分布記憶部108からある時刻における光路長を取得する。
無吸収時光強度取得部111は、時間分解波形記憶部109からある時刻における光強度を取得する。
【0074】
光吸収係数算出部112は、短時間パルス光を照射した皮膚の真皮層における光吸収係数を算出する。
成分吸収情報記憶部113は、皮膚の主成分の光吸収係数、またはモル吸光係数を予め記憶する。
【0075】
濃度算出部114は、真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する。
濃度単位変換部115は、グルコースの濃度の単位を所望の単位に変換する。
濃度表示部116は、グルコースの濃度を表示する。
【0076】
本実施形態の血糖値測定装置100においては、照射部101は皮膚に短時間パルス光を照射する。第1受光部102は短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光し、第1計測光強度取得部104は時刻tにおいて第1受光部102が受光した光の強度を取得する。第2受光部103は短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光し、第2計測光強度取得部105は時刻tにおいて第2受光部103が受光した光の強度を取得する。次に、第1等価散乱係数算出部106は第1計測光強度取得部104が取得した光強度と第2計測光強度取得部105が取得した光強度とに基づいて真皮層における任意の時刻における等価散乱係数を算出する。次に、シミュレーション部107は任意の時刻における等価散乱係数に基づいて皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデル、短時間パルス光の時間分解波形のモデルを生成する。光路長分布記憶部108はシミュレーション部107が生成した皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデルを記憶する。時間分解波形記憶部109はシミュレーション部107が生成した短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。光路長取得部110は光路長分布記憶部108から皮膚モデルにおける伝搬光路長分布の時刻tにおける皮膚の各層の光路長を取得する。無吸収時光強度取得部111は時間分解波形記憶部109から皮膚モデルにおける短時間パルス光の時間分解波形の時刻tにおける光の強度を取得する。
【0077】
次に、光吸収係数算出部112は、第1計測光強度取得部104または第2計測光強度取得部105が取得した光強度と、光路長取得部110が取得した皮膚の各層の光路長と、無吸収時光強度取得部111が取得した光強度と、に基づいて、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する。そして、濃度算出部114は、光吸収係数算出部112が算出した光吸収係数に基づいて、真皮層におけるグルコースの濃度を算出する。
前記の光強度は、第1計測光強度取得部104、第2計測光強度取得部105とは異なる第3計測光強度取得部が取得した光強度であることもできる。この場合、第3計測光強度取得部は第1計測光強度取得部104と第2計測光強度取得部105の間に配置するのが望ましい。
【0078】
これにより、真皮層以外の層によるノイズの影響を軽減して、真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出することができる。なお、濃度算出部114が算出したグルコースの濃度は、濃度単位変換部115により所望の単位に変換され、濃度表示部116に表示される。
【0079】
次に、血糖値測定装置100の動作を説明する。
血糖値測定装置100は、血糖値を測定する前に、予め皮膚の各層における伝搬光路長分布と時間分解波形とを算出する。
【0080】
ところで、伝搬光路長分布及び時間分解波形の算出方法としては、予めサンプルを取ることによって決定された皮膚の各層の光散乱係数、光吸収係数及び厚みに基づいて一般的な光学特性を持つ皮膚モデルを生成し、当該皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行うことにより算出する方法がある。しかしながら、当該皮膚モデルを用いたシミュレーションでは、各個人の差や測定時の体調などによる一般値からのずれが、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する際の誤差要因となる懸念がある。
【0081】
これに対し、本実施形態においては、皮膚の伝搬光路長分布のモデル及び時間分解波形のモデルを、第1受光部102及び第2受光部103の2つの受光部が受光した後方散乱光の強度に基づいて任意の時刻における等価散乱係数により生成する方法を採用する。これにより、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する際の誤差要因が生じることを抑制し、真皮層の光吸収係数を高精度に算出することを可能にしている。
【0082】
シミュレーション部107は、第1等価散乱係数算出部106が算出した任意の時刻における等価散乱係数を用いて、皮膚の伝搬光路長分布のモデル及び時間分解波形のモデルを生成する。なお、ここで用いる皮膚の光吸収係数はゼロとする。
【0083】
シミュレーション部107は、皮膚に光を照射するシミュレーションを行う。このとき、照射部101の位置と第1受光部102の位置との間の距離、照射部101の位置と第2受光部103の位置との間の距離、を決定しておく必要がある。なお、第1受光部102と第2受光部103とは、皮膚に短時間パルス光が照射される照射位置から皮膚によって後方散乱した光を受光する位置までの距離が互いに異なるように位置決めされる。シミュレーションは、モンテカルロ法を用いて行うと良い。モンテカルロ法によるシミュレーションは、例えば以下のように行われる。
【0084】
まず、シミュレーション部107は、照射する光のモデルを光子(光束)とし、当該光子を皮膚に照射する計算を行う。皮膚に照射された光子は、皮膚内を移動する。このとき、光子は、次に進む点までの距離L及び方向θを乱数R(0≦R≦1)によって決定する。シミュレーション部107は、光子が次に進む点までの距離Lの計算を、(10)式によって行う。
【0085】
【数12】

【0086】
但し、ln(A)は、Aの自然対数を示す。また、μsmは、皮膚の第m層(表皮層、真皮層、皮下組織層の何れか)の散乱係数を示す。
また、シミュレーション部107は、光子が次に進む点までの方向θの計算を、(11)式によって行う。
【0087】
【数13】

【0088】
但し、gは、散乱角度のコサインの平均である非等方性パラメータを示し、皮膚の非等方性パラメータは、略0.9である。
シミュレーション部107は、上記(10)式、(11)式の計算を単位時間毎に繰り返すことにより、照射部101から第1受光部102までの光子の移動経路を算出することができる。シミュレーション部107は、複数の光子について移動距離の算出を行う。例えば、シミュレーション部107は、10個の光子について移動距離を算出する。
【0089】
図2は、シミュレーション部が算出した各層(表皮層、真皮層、皮下組織層)の伝搬光路長分布を示すグラフである。なお、本図においては、一例として、2つの受光部のうち第1受光部102を用いている。
図2の横軸は光子の照射からの経過時間を示し、縦軸は光路長の対数表示を示している。シミュレーション部107は、第1受光部102に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、シミュレーション部107は、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を分類された層毎に算出することで、図2に示すような皮膚の各層の伝搬光路長分布を算出する。
【0090】
図3は、シミュレーション部が算出した時間分解波形を示すグラフである。なお、本図においては、一例として、2つの受光部のうち第1受光部102を用いている。
図3の横軸は光子の照射からの経過時間を示し、縦軸は第1受光部102が検出した光子数を示している。シミュレーション部107は、単位時間毎に第1受光部102に到達した光子の個数を算出することで、図3に示すような時間分解波形を算出する。
上述したような処理により、シミュレーション部107は、複数の波長に対して、伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出する。このとき、シミュレーション部107は、皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の吸収スペクトルの直交性が高くなる波長について伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0091】
図4は、皮膚の主成分の吸収スペクトルを示すグラフである。
図4の横軸は照射する光の波長を示し、縦軸は光吸収係数を示している。図4を参照すると、グルコースの光吸収係数は、波長が1600nmのときに極大となり、水の光吸収係数は、波長が1450nmのときに極大となる。そのため、シミュレーション部107は、例えば1450nm、1600nmといった皮膚の主成分の吸収スペクトルの直交性が高くなる波長について伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0092】
次に、血糖値測定装置100が血糖値を測定する動作について説明する。
図5は、第1実施形態に係る血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
まず、ユーザが血糖値測定装置100を皮膚にあてがい、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等によって血糖値測定装置100を動作させると、照射部101は、皮膚に対して波長λの短時間パルス光を照射する(ステップS1)。ここで、波長λは、シミュレーション部107が伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つである。
【0093】
照射部101が短時間パルス光を照射すると、第1受光部102、第2受光部103は、照射部101から照射され、皮膚によって後方散乱した光を受光する(ステップS2)。このとき、第1受光部102、第2受光部103は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を内部メモリに登録しておく。
【0094】
第1受光部102が受光を完了すると、第1計測光強度取得部104は、第1受光部102の内部メモリに格納されている、異なる時刻tにおける受光強度R(ρ,t)を照射開始からの所定の時間内に所定の時間分解能にて取得する(ステップS3)。すなわち、第1計測光強度取得部104は、受光強度の時間特性を取得する。
第2受光部103が受光を完了すると、第2計測光強度取得部105は、第2受光部103の内部メモリに格納されている、異なる時刻tにおける受光強度R(ρ,t)を照射開始からの所定の時間内に所定の時間分解能にて取得する(ステップS3)。すなわち、第2計測光強度取得部105は、受光強度の時間特性を取得する。
【0095】
各計測光強度取得部104,105が光強度を取得すると、第1等価散乱係数算出部106は、ある受光強度R(ρ,t),R(ρ,t)から任意の時刻における等価散乱係数を算出する(ステップS4)。
【0096】
本実施形態において、第1等価散乱係数算出部106は、下記の(12)式から任意の時刻における等価散乱係数を算出する。但し、自然対数をln(・)、任意の層の時刻tにおける任意の時刻における等価散乱係数をμ’(t)、光吸収係数をμ、散乱体中での光の速度をc、観測対象に短時間パルス光が照射される照射位置から第1受光部102が観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、照射位置から第2受光手段103が観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、第1光強度取得部104が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、第2光強度取得部105が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)とする。
【0097】
【数14】

【0098】
ここで、(12)式の導出過程について説明する。
散乱体にインパルス光を入射した際の反射型のインパルス応答Rは、輸送方程式の拡散近似解析解(参考文献:M.S,Patterson,B.Chance and B.C,Wilson,‘‘Time resolved reflectance and transmittance for the noninvasive measurement of tissue optical properties,’’Appl.Opt.,28,12,2331-6,1989)より、入射点からの距離ρ、時刻tの関数として、下記の(13)式で与えられる。
【0099】
【数15】

【0100】
ここで、cは散乱体中での光の速度、μは散乱係数、μは光吸収係数、μ’は任意の時刻における等価散乱係数、gは非等方性パラメータである。よって、異なる距離ρ1,ρ2における時間分解波形R(ρ,t),R(ρ,t)は上記の(13)式より、下記の(14)式、(15)式のように表される。
【0101】
【数16】

【数17】

【0102】
ここで、上記の(14)式と(15)式との比を取ると下記の(16)式となる。これにより、光吸収係数μの影響を強く表すexp(−μct)を消去することができる。
【0103】
【数18】

【0104】
一般に生体組織ではμ<<μ’の関係が成り立つので、上記の(16)式をμ’について変形することにより、下記の(1)式に示す任意の時刻における等価散乱係数の推定式を得る。
【0105】
【数19】

【0106】
このようにして、上記の(12)式が導出される。
【0107】
なお、任意の時刻における等価散乱係数は散乱係数を用いて下記の(17)式のように表すこともできる。
【0108】
【数20】

【0109】
ここで、gは非等方性パラメータである。gは散乱の方向性を示す指標である。gは−1から1の間の値をとり、1の場合は完全な前方散乱、−1の場合は完全な後方散乱を示す。また、0の場合は等方散乱を示し、任意の時刻における等価散乱係数と散乱係数とが等しくなる。
【0110】
生体組織内で起こる散乱はg=0.9の強い前方散乱であるが、組織内で何度も散乱を繰り返すことで、結果的には見かけ上、等方散乱に似た状態が観測される。そこで、等方散乱とみなした場合の散乱係数が任意の時刻における等価散乱係数となる。任意の時刻における等価散乱係数は、散乱を等方散乱とみなした場合に散乱係数がいくつに相当するかを表したものであるといえる。例えばg=0.9の場合は、散乱係数が1/10の等方散乱とみなせることになる。
【0111】
図5に戻り、第1等価散乱係数算出部106が任意の時刻における等価散乱係数を算出すると、シミュレーション部107は、任意の時刻における等価散乱係数に基づいて皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデル、短時間パルス光の時間分解波形のモデルを生成する。
【0112】
光路長分布記憶部108はシミュレーション部107が生成した皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデルを記憶する。時間分解波形記憶部109はシミュレーション部107が生成した短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。
【0113】
光路長取得部110は、光路長分布記憶部108から、時刻t〜tにおける皮膚の各層の光路長L(t)〜L(t)、L(t)〜L(t)、L(t)〜L(t)を取得する(ステップS5)。
【0114】
また、無吸収時光強度取得部111は、時間分解波形記憶部109から、時刻t〜tにおける検出光子数N(t)〜N(t)を取得する(ステップS6)。
【0115】
光路長取得部110が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部111が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部112は、下記の(3)式に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数を算出する(ステップS7)。
但し、自然対数をln(・)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)、前記受光手段が時刻tにおいて受光した光強度をR(t)、第m層の光吸収係数をμam、前記伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、入射光子数をNin、入射光強度をIinとする。
【0116】
【数21】

【0117】
なお、上記の(3)式は一般式である。(3)式を、本実施形態における三層構造に適用するように変形すると下記の(18)式となる。
【0118】
【数22】

【0119】
光吸収係数算出部112は、(3)式を本実施形態の三層構造に適用した(18)式に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数μa1〜μa3を算出する(ステップS7)。ここで、光吸収係数μa1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μa2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μa3は、皮下組織層の光吸収係数を示す。
【0120】
但し、ln(A)は、Aの自然対数を示す。また、Iinは、照射部101が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部107が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0121】
光吸収係数算出部112が皮膚の各層の光吸収係数μa1〜μa3を算出すると、光吸収係数算出部112は、皮膚の主成分の種類数と同じ数の波長に対して光吸収係数μa1〜μa3を算出したか否かを判定する(ステップS8)。本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うため、光吸収係数算出部112は、4種類の波長λ〜λに対して光吸収係数μa1〜μa3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ〜λは、シミュレーション部107が伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0122】
光吸収係数算出部112が、光吸収係数μa1〜μa3を算出していない波長λ〜λがあると判定した場合(ステップS8:NO)、ステップS1に戻り、まだ光吸収係数μa1〜μa3を算出していない波長λ〜λの光吸収係数μa1〜μa3の算出を行う。
【0123】
他方、光吸収係数算出部112が、波長λ〜λの光吸収係数μa1〜μa3を算出していると判定した場合(ステップS8:YES)、濃度算出部114は、下記の式(5)に基づいて真皮質に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS9)。
【0124】
【数23】

【0125】
但し、第m層における光吸収係数をμam、皮膚を形成する第i成分の光吸収係数をμai、皮膚を形成する第i成分の体積濃度をcviとする。
なお、上記の(5)式は一般式である。(5)式を、本実施形態における4つの波長に適用するよう変形すると下記の(19)式となる。
【0126】
【数24】

【0127】
但し、μa2(λ)は真皮層における波長λ〜λの光吸収係数、μaw(λ)は真皮層における波長λ〜λの水の光吸収係数、μap(λ)は真皮層における波長λ〜λのたんぱく質の光吸収係数、μal(λ)は真皮層における波長λ〜λの脂質の光吸収係数、μag(λ)は真皮層における波長λ〜λのグルコースの光吸収係数を示す。また、cvwは水の体積濃度(体積分率)、cvpはたんぱく質の体積濃度(体積分率)、cvlは脂質の体積濃度(体積分率)、cvgはグルコースの体積濃度(体積分率)を示す。
【0128】
濃度算出部114は、成分吸収情報記憶部113に記憶されている測定対象中の主成分の光吸収係数と、上記の(19)式により算出された真皮層における光吸収係数μa2とからグルコースの濃度を算出する。
【0129】
なお、上記の(5)式に替えて下記の(6)式を用いてグルコースの濃度を算出してもよい。
【0130】
【数25】

【0131】
但し、第m層における光吸収係数をμam、皮膚を形成する第i成分のモル吸光係数をε、皮膚を形成する第i成分のモル濃度をcとする。
なお、上記の(6)式は一般式である。(6)式を、本実施形態における三層構造に適用するよう変形すると下記の(20)式となる。
【0132】
【数26】

【0133】
但し、ε(λ)は真皮層における波長λ〜λの水のモル吸光係数、ε(λ)は真皮層における波長λ〜λのたんぱく質のモル吸光係数、ε(λ)は真皮層における波長λ〜λの脂質のモル吸光係数、ε(λ)は真皮層における波長λ〜λのグルコースのモル吸光係数を示す。また、cは水のモル濃度、cはたんぱく質のモル濃度、cは脂質のモル濃度、cはグルコースのモル濃度を示す。
【0134】
濃度算出部114は、成分吸収情報記憶部113に記憶されている測定対象中の主成分のモル吸光係数と、上記の(20)式により算出された真皮層におけるモル吸光係数εとからグルコースの濃度を算出する。
【0135】
濃度単位変換部115は、濃度算出部114で算出したグルコースの濃度の単位を所望の単位に変換する。濃度表示部116は、グルコースの濃度を表示する。
【0136】
このように、本実施形態によれば、皮膚に短時間パルス光を照射し、所定の時刻において受光した光の強度と、伝搬光路長分布のモデルの所定の時刻における各層の光路長と、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における光の強度と、に基づいて、真皮層の光吸収係数を選択的に算出することができる。そのため、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。
【0137】
ところで、伝搬光路長分布及び時間分解波形の算出方法としては、予めサンプルを取ることによって決定された皮膚の各層の光散乱係数、光吸収係数及び厚みに基づいて一般的な光学特性を持つ皮膚モデルを生成し、当該皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行うことにより算出する方法がある。しかしながら、当該皮膚モデルを用いたシミュレーションでは、各個人の差や測定時の体調などによる一般値からのずれが、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する際の誤差要因となる懸念がある。
【0138】
これに対し、本実施形態においては、皮膚の伝搬光路長分布のモデル及び時間分解波形のモデルを、第1受光部102及び第2受光部103の2つの受光部が受光した後方散乱光の強度に基づいて任意の時刻における等価散乱係数により生成する方法を採用する。したがって、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する際の誤差要因が生じることを抑制し、真皮層の光吸収係数を高精度に算出することができる。
【0139】
なお、上記実施形態において、光吸収係数がゼロ、入射光子数が1のときの後方散乱光強度N’(t)は、下記の(21)式を用いて算出することもできる。
【0140】
【数27】

【0141】
但し、自然対数をln(・)、散乱体中での光の速度をc、観測対象に短時間パルス光が照射される照射位置から第1受光部102が観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、照射位置から第2受光手段103が観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、第1光強度取得部104が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、第2光強度取得部105が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)とする。
【0142】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について詳しく説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態による血糖値測定装置100と同じ構成であり、各計測光強度取得部104,105、第1等価散乱係数算出部106、光路長取得部110、無吸収時光強度取得部111、光吸収係数算出部112の動作が異なる。
【0143】
図6は、第2実施形態に係る血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
まず、血糖値測定装置100を動作させると、照射部101は、皮膚に対して波長λの短時間パルス光を照射する(ステップS11)。ここで、波長λは、シミュレーション部107が伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つである。
【0144】
照射部101が短時間パルス光を照射すると、第1受光部102、第2受光部103は、照射部101から照射され、皮膚によって後方散乱した光を受光する(ステップS12)。このとき、第1受光部102、第2受光部103は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を内部メモリに登録しておく。
【0145】
第1受光部102が受光を完了すると、第1計測光強度取得部104は、第1受光部102の内部メモリに格納されている受光強度から、照射開始からの所定の時間内に所定の時間分解能にて受光強度の時間分布を取得する(ステップS13)。第2受光部103が受光を完了すると、第2計測光強度取得部105は、第2受光部103の内部メモリに格納されている受光強度から、照射開始からの所定の時間内に所定の時間分解能にて受光強度の時間分布を取得する(ステップS13)
【0146】
各計測光強度取得部104,105が光強度を取得すると、第1等価散乱係数算出部106は、照射開始からの所定の時間内の所定の時間分解能の受光強度の時間分布から任意の時刻における等価散乱係数を算出する(ステップS14)。
【0147】
第1等価散乱係数算出部106が任意の時刻における等価散乱係数を算出すると、シミュレーション部107は、任意の時刻における等価散乱係数に基づいて皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデル、短時間パルス光の時間分解波形のモデルを生成する。
【0148】
光路長分布記憶部108はシミュレーション部107が生成した皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデルを記憶する。時間分解波形記憶部109はシミュレーション部107が生成した短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。
【0149】
光路長取得部110は、光路長分布記憶部108が記憶する波長λの伝搬光路長分布から、ある時間τ1〜τ2の間の皮膚の各層の光路長L〜Lを取得する(ステップS15)。
【0150】
また、無吸収時光強度取得部111は、時間分解波形記憶部109が記憶する波長λの時間分解波形から、ある時間τ1〜τ2の間の検出光子数を取得する(ステップS16)。
【0151】
光路長取得部110が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部111が検出光子数を取得すると、光吸収係数算出部112は、下記の(4)式に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数を算出する(ステップS17)。但し、自然対数をln(・)、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)、光強度取得部が時刻tにおいて取得した光強度をR(t)、第m層の光吸収係数をμam、伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、入射光子数をNin、入射光強度をIinとする。
【0152】
【数28】

【0153】
なお、上記の(4)式は、第1実施形態で用いた(3)式を積分型に発展させた式である。
【0154】
光吸収係数算出部112は、(4)式に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数μa1〜μa3を算出する(ステップS17)。ここで、光吸収係数μa1は表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μa2は真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μa3は、皮下組織層の光吸収係数を示す。
【0155】
但し、ln(A)は、Aの自然対数を示す。また、Iinは、照射部101が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部107が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0156】
光吸収係数算出部112が皮膚の各層の光吸収係数μa1〜μa3を算出すると、光吸収係数算出部112は、皮膚の主成分の種類数と同じ数の波長に対して光吸収係数μa1〜μa3を算出したか否かを判定する(ステップS18)。本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うため、光吸収係数算出部112は、4種類の波長λ〜λに対して光吸収係数μa1〜μa3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ〜λは、シミュレーション部107が伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0157】
光吸収係数算出部112が、光吸収係数μa1〜μa3を算出していない波長λ〜λがあると判定した場合(ステップS18:NO)、ステップS1に戻り、まだ光吸収係数μa1〜μa3を算出していない波長λ〜λの光吸収係数μa1〜μa3の算出を行う。
【0158】
他方、光吸収係数算出部112が、波長λ〜λの光吸収係数μa1〜μa3を算出していると判定した場合(ステップS18:YES)、濃度算出部114は、上記の式(5)を本実施形態における4つの波長に適用した上記の(19)式に基づいて真皮質に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS19)。
【0159】
濃度算出部114は、成分吸収情報記憶部113に記憶されている測定対象中の主成分の光吸収係数と、上記の(19)式により算出された真皮層における光吸収係数μa2とからグルコースの濃度を算出する。
【0160】
なお、濃度算出部114は、成分吸収情報記憶部113に記憶されている測定対象中の主成分のモル吸光係数と、上記の(20)式により算出された真皮層におけるモル吸光係数εとからグルコースの濃度を算出してもよい。
【0161】
濃度単位変換部115は、濃度算出部114で算出したグルコースの濃度の単位を所望の単位に変換する。濃度表示部116は、グルコースの濃度を表示する。
【0162】
このように、本実施形態においても、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。また、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する際の誤差要因が生じることを抑制し、真皮層の光吸収係数を高精度に算出することができる。
【0163】
また、本実施形態によれば、光吸収係数が時間τ1〜τ2の間の光路長の積分値によって算出されるため、計測した受光強度に含まれる誤差による光吸収係数の算出結果に対する影響を少なくすることができる。
【0164】
なお、上記実施形態において、光吸収係数がゼロ、入射光子数が1のときの後方散乱光強度N’(t)は、下記の(21)式を用いて算出することもできる。
【0165】
【数29】

【0166】
但し、自然対数をln(・)、散乱体中での光の速度をc、観測対象に短時間パルス光が照射される照射位置から第1受光部102が観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、照射位置から第2受光手段103が観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、第1光強度取得部104が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、第2光強度取得部105が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)とする。
【0167】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について詳しく説明する。
第3実施形態に係る血糖値測定装置200は、第1実施形態に係る血糖値測定装置100と基本的な構成は同じであり、さらに第2等価散乱係数算出部117を備える点が異なる。その他の構成は、第1実施形態の構成と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0168】
図7は、本発明の第3実施形態に係る血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
血糖値測定装置200(濃度定量装置)は、照射部101(照射手段)、第1受光部102(第1受光手段)、第2受光部103(第2受光手段)、第1計測光強度取得部104(第1光強度取得手段)、第2計測光強度取得部105(第2光強度取得手段)、第1等価散乱係数算出部106(第1等価散乱係数算出手段)、シミュレーション部107、光路長分布記憶部108(光路長分布記憶手段)、時間分解波形記憶部109(時間分解波形記憶手段)、光路長取得部110(光路長取得手段)、無吸収時光強度取得部111(光強度モデル取得手段)、第2等価散乱係数算出部117(第2等価散乱係数算出手段)、光吸収係数算出部112(光吸収係数算出手段)、成分吸収情報記憶部113、濃度算出部114(濃度算出手段)、濃度単位変換部115、濃度表示部116、を備える。
【0169】
第2等価散乱係数算出部117は、光路長取得部110が取得した皮膚の各層の光路長と、無吸収時光強度取得部111が取得した光強度と、に基づいて、任意の層の等価散乱係数を算出する。
【0170】
本実施形態において、光吸収係数算出部112は、第1計測光強度取得部104または第2計測光強度取得部105が取得した光強度と、光路長取得部110が取得した皮膚の各層の光路長と、無吸収時光強度取得部111が取得した光強度と、第2等価散乱係数算出部117が算出した任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する。そして、濃度算出部114は、光吸収係数算出部112が算出した光吸収係数に基づいて、真皮層におけるグルコースの濃度を算出する。
前記の光強度は、第1計測光強度取得部104、第2計測光強度取得部105とは異なる第3計測光強度取得部が取得した光強度であることもできる。この場合、第3計測光強度取得部は第1計測光強度取得部104と第2計測光強度取得部105の間に配置するのが望ましい。
【0171】
次に、血糖値測定装置200が血糖値を測定する動作について説明する。
図8は、第3実施形態に係る血糖値測定装置が血糖値を測定する動作を示すフローチャートである。
まず、ユーザが血糖値測定装置200を皮膚にあてがい、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等によって血糖値測定装置200を動作させると、照射部101は、皮膚に対して波長λの短時間パルス光を照射する(ステップS21)。ここで、波長λは、シミュレーション部107が伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中の1つである。
【0172】
照射部101が短時間パルス光を照射すると、第1受光部102、第2受光部103は、照射部101から照射され、皮膚によって後方散乱した光を受光する(ステップS22)。このとき、第1受光部102、第2受光部103は、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎)の受光強度を内部メモリに登録しておく。
【0173】
第1受光部102が受光を完了すると、第1計測光強度取得部104は、第1受光部102の内部メモリに格納されている、異なる時刻tにおける受光強度R(ρ,t)を照射開始からの所定の時間内に所定の時間分解能にて取得する(ステップS23)。すなわち、第1計測光強度取得部104は、受光強度の時間特性を取得する。
第2受光部103が受光を完了すると、第2計測光強度取得部105は、第2受光部103の内部メモリに格納されている、異なる時刻tにおける受光強度R(ρ,t)を照射開始からの所定の時間内に所定の時間分解能にて取得する(ステップS23)。すなわち、第2計測光強度取得部105は、受光強度の時間特性を取得する。
【0174】
各計測光強度取得部104,105が光強度を取得すると、第1等価散乱係数算出部106は、ある受光強度R(ρ,t),R(ρ,t)から任意の時刻における等価散乱係数を算出する(ステップS24)。第1等価散乱係数算出部106は、上記の(12)式から任意の時刻における等価散乱係数を算出する。
【0175】
第1等価散乱係数算出部106が任意の時刻における等価散乱係数を算出すると、シミュレーション部107は、任意の時刻における等価散乱係数に基づいて皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデル、短時間パルス光の時間分解波形のモデルを生成する。
【0176】
光路長分布記憶部108はシミュレーション部107が生成した皮膚の各層の伝搬光路長分布のモデルを記憶する。時間分解波形記憶部109はシミュレーション部107が生成した短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。
【0177】
光路長取得部110は、光路長分布記憶部108が記憶する波長λの伝搬光路長分布から、ある時間τ1〜τ2の間の皮膚の各層の光路長L〜Lを取得する(ステップS25)。
【0178】
また、無吸収時光強度取得部111は、時間分解波形記憶部109が記憶する波長λの時間分解波形から、ある時間τ1〜τ2の間の検出光子数を取得する(ステップS26)。
【0179】
光路長取得部110が皮膚の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部111が検出光子数を取得すると、第2等価散乱係数算出部117は、皮膚の任意の層の等価散乱係数を算出する(ステップS27)。
【0180】
本実施形態において、第2等価散乱係数算出部117は、先ず下記の(2)式から皮膚の各層の等価散乱係数の近似解を算出する。次いで、シミュレーション部107は、当該等価散乱係数の近似解に基づいて、伝搬光路長分布のモデルの所定の時刻における皮膚の各層の光路長の補正値と、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における光の強度の補正値と、を生成する。そして、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、皮膚の各層の等価散乱係数の補正値を算出することを皮膚の各層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行う。これにより、任意の層の等価散乱係数を算出する。但し、任意の層の時刻tにおける任意の時刻における等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)とする。
【0181】
【数30】

【0182】
ここで、上記の(2)式の導出過程について説明する。
対象散乱体を深さ方向に任意のn層に分割して考える。各層の等価散乱係数をμsm’(m=1,2,・・・n)とすると、上記の(1)式により得られるμ’(t)は、各層の等価散乱係数の影響をある重みに応じて受けているはずである。また、その重みは光子が各層を通る光路長に依存すると考えられる。よって、上記の(1)式により得られるμ’(t)は、各光子の第m番目の層の平均光路長L’(t)を用いて下記の(22)式に近似できると考えられる。
【0183】
【数31】

【0184】
また、ノイズ低減のために、上記の(22)式の両辺にL’(t)を作用させ、時刻tをτ1からτ2まで積分すると下記の(2)式で表される。
【0185】
このようにして、(2)式が得られる。
【0186】
図8に戻り、皮膚の各層の等価散乱係数の補正値の算出は繰り返し行われる。具体的には、第2等価散乱係数算出部117は、上記の(2)式から皮膚の各層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解に基づいてシミュレーション部107が生成した伝搬光路長分布のモデルの所定の時刻における皮膚の各層の光路長の補正値と短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における光の強度の補正値とを上記の(2)式に代入して、皮膚の各層の等価散乱係数の補正値を算出する。この補正値の算出は、皮膚の各層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行われる(ステップS28)。
【0187】
なお、繰り返し回数は、前回の算出値(例えば一次補正値)と今回の算出値(例えば二次補正値)との変化量がある一定量以下になるまで繰り返し行ってもよい。また、繰り返し回数を予め設定しておいてもよい。
【0188】
ここで、上記の(2)式を用いて、繰り返し計算をする際の打ち切り判断について説明する。
等価散乱係数の推定においては、精度の必要度合い(小数点以下何桁目まで必要か)によって収束の判断を都度変えるとよい。
得られた等価散乱係数を、さらに光吸収係数や目的成分の濃度の算出に用いる場合について具体例を挙げる。
血糖値測定測定に応用することを想定し、単純なグルコース水溶液について考えると、光吸収係数は0.00001/mmオーダーで求める必要がある。
例えば、特許文献(特開2010−237139)の(1)式を均一モデルに適用した下記の(23)式を用いて光吸収係数を求める場合を考える。等価散乱係数を求める収束演算にて算出されるN(t)、L(t)を下記の(23)に代入するとμa1が得られる。したがって、繰り返し計算をする際の打ち切り判断については、計算結果のμa1の小数点以下5桁目の数字が繰り返し計算の数回から10回程度にわたって変動しない場合には、結果が必要な範囲で収束したと判断できる。
【0189】
図8に戻り、皮膚の各層の等価散乱係数の真値に収束していないと判定した場合(ステップS28:NO)、ステップS25に戻り、皮膚の各層の光路長を取得する。
【0190】
他方、皮膚の各層の等価散乱係数の真値に収束したと判定した場合(ステップS28:YES)、光吸収係数算出部112は、上記の(4)式に基づいて、皮膚の各層の光吸収係数μa1〜μa3を算出する(ステップS29)。ここで、光吸収係数μa1は、表皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μa2は、真皮層の光吸収係数を示し、光吸収係数μa3は、皮下組織層の光吸収係数を示す。
【0191】
但し、ln(A)は、Aの自然対数を示す。また、Iinは、照射部101が照射した短時間パルス光の光強度を示す。また、Ninは、シミュレーション部107が照射のシミュレーションを行った光子の個数を示す。
【0192】
光吸収係数算出部112が皮膚の各層の光吸収係数μa1〜μa3を算出すると、光吸収係数算出部112は、皮膚の主成分の種類数と同じ数の波長に対して光吸収係数μa1〜μa3を算出したか否かを判定する(ステップS30)。本実施形態では、皮膚の主成分を水、たんぱく質、脂質、グルコースの4種類として血糖値の測定を行うため、光吸収係数算出部112は、4種類の波長λ〜λに対して光吸収係数μa1〜μa3を算出したか否かを判定する。ここで、波長λ〜λは、シミュレーション部107が伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出した複数の波長の中から選出する。
【0193】
光吸収係数算出部112が、光吸収係数μa1〜μa3を算出していない波長λ〜λがあると判定した場合(ステップS30:NO)、ステップS1に戻り、まだ光吸収係数μa1〜μa3を算出していない波長λ〜λの光吸収係数μa1〜μa3の算出を行う。
【0194】
他方、光吸収係数算出部112が、波長λ〜λの光吸収係数μa1〜μa3を算出していると判定した場合(ステップS30:YES)、濃度算出部114は、上記の(19)式に基づいて真皮質に含まれるグルコースの濃度を算出する(ステップS31)。
【0195】
濃度算出部114は、成分吸収情報記憶部113に記憶されている測定対象中の主成分の光吸収係数と、上記の(19)式により算出された真皮層における光吸収係数μa2とからグルコースの濃度を算出する。
【0196】
なお、濃度算出部114は、成分吸収情報記憶部113に記憶されている測定対象中の主成分のモル吸光係数と、上記の(20)式により算出された真皮層におけるモル吸光係数εとからグルコースの濃度を算出してもよい。
【0197】
濃度単位変換部115は、濃度算出部114で算出したグルコースの濃度の単位を所望の単位に変換する。濃度表示部116は、グルコースの濃度を表示する。
【0198】
このように、本実施形態によれば、第1光強度取得部104または第2光強度取得部105、若しくは第3光強度取得部が取得した光強度と、光路長取得部110が取得した皮膚の各層の光路長と、無吸収時光強度取得部111が取得した光強度モデルと、第2等価散乱係数算出部117が算出した任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、任意の層の光吸収係数を選択的に算出することができる。光吸収係数を算出する際に、等価散乱係数が加味されるので、光吸収係数の算出結果は高精度となる。そのため、算出した光吸収係数に基づいて目的成分の濃度を算出することにより、他の層によるノイズの影響を低減し、精度の高い濃度の定量を行うことができる。
【0199】
また、本実施形態によれば、等価散乱係数を算出する際、等価散乱係数の真値に収束するまで上記の(2)式を用いた繰り返し演算が行われる。よって、任意の層の等価散乱係数を高精度に算出することができる。
【0200】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、第1実施形態及び第2実施形態では、濃度定量方法を血糖値測定装置100に実装し、皮膚の真皮層に含まれるグルコースの濃度を測定する場合を説明したが、これに限られず、濃度定量方法を、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を定量する他の装置に用いても良い。
【0201】
上述の血糖値測定装置100は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0202】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0203】
100,200…血糖値測定装置(濃度定量装置)、101…照射部(照射手段)、102…第1受光部(第1受光手段)、103…第2受光部(第2受光手段)、104…第1計測光強度取得部(第1光強度取得手段)、105…第2計測光強度取得部(第2光強度取得手段)、106…第1等価散乱係数算出部(第1等価散乱係数算出手段)、107…シミュレーション部、108…光路長分布記憶部(光路長分布記憶手段)、109…時間分解波形記憶部(時間分解波形記憶手段)、110……光路長取得部(光路長取得手段)、111…無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得手段)、112…光吸収係数算出部(光吸収係数算出手段)、114…濃度算出部(濃度算出手段)、115…濃度単位変換部、116…濃度表示部、117…第2等価散乱係数算出部(第2等価散乱係数算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、
前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射手段と、
前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する第1受光手段と、
前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光するとともに、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離が前記第1受光手段と異なるように配置された第2受光手段と、
前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第1受光手段が受光した光の強度を取得する第1光強度取得手段と、
前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第2受光手段が受光した光の強度を取得する第2光強度取得手段と、
前記第1光強度取得手段が取得した光強度と前記第2光強度取得手段が取得した光強度とに基づいて、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する第1等価散乱係数算出手段と、
前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段と、
前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段と、
前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段と、
前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段と、
前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第1光強度取得手段及び前記第2光強度取得手段とは異なる第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段と、
前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段と、
を含むことを特徴とする濃度定量装置。
【請求項2】
前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、散乱体中での光の速度をc、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記第1受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記照射位置から前記第2受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記第1光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、前記第2光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)としたときに、
前記第1等価散乱係数算出手段は、下記の(1)式から前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の濃度定量装置。
【数1】

【請求項3】
前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の等価散乱係数を算出する第2等価散乱係数算出手段を備え、
前記光吸収係数算出手段は、前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、前記第2等価散乱係数算出手段が算出した前記任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の濃度定量装置。
【請求項4】
前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、
前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、
前記光強度取得手段は、少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、
前記第2等価散乱係数算出手段は、下記の(2)式から前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の濃度定量装置。
【数2】

【請求項5】
前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、
前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)、前記光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(t)、第m層の光吸収係数をμam、前記伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、入射光子数をNin、入射光強度をIinとしたときに、
前記光強度取得手段は、複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し、
前記光吸収係数算出手段は、下記の(3)式から前記任意の層の光吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の濃度定量装置。
【数3】

【請求項6】
前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、
前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)、前記光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(t)、第m層の光吸収係数をμam、前記伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、入射光子数をNin、入射光強度をIinとしたときに、
前記光強度取得手段は、所定の時刻から少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、
前記光吸収係数算出手段は、下記の(4)式から前記任意の層の光吸収係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の濃度定量装置。
【数4】

【請求項7】
前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、
前記任意の層である第m層における光吸収係数をμam、前記観測対象を形成する第i成分の光吸収係数をμai、前記観測対象を形成する第i成分の体積濃度をcviとしたときに、
前記濃度算出手段は、下記の(5)式から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の濃度定量装置。
【数5】

【請求項8】
前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、
前記任意の層である第m層における光吸収係数をμam、前記観測対象を形成する第i成分のモル吸光係数をε、前記観測対象を形成する第i成分のモル濃度をcとしたときに、
前記濃度算出手段は、下記の(6)式から前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の濃度定量装置。
【数6】

【請求項9】
前記濃度算出手段は、前記任意の層における前記光吸収係数に基づいて、多変量解析を用いて特性が既知であるものを測定した値から検量線作成をして、未知測定対象の測定値を検量線に照合することで前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の濃度定量装置。
【請求項10】
前記観測対象が皮膚であり、前記任意の層が真皮層であるときに、当該真皮層に含まれるグルコースの濃度を定量することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の濃度定量装置。
【請求項11】
複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象のうち、任意の層における光吸収係数を算出する光吸収係数算出方法であって、
照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光の強度、第1受光手段若しくは第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数、任意の時刻における前記等価散乱係数に基づいて生成された前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデル、任意の時刻における前記等価散乱係数に基づいて生成された前記短時間パルス光の時間分解波形のモデル、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度、を取得する第1の工程と、
前記第1の工程で取得した光強度、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記光強度モデル、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する第2の工程と、
を有することを特徴とする光吸収係数算出方法。
【請求項12】
第1受光手段若しくは第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、散乱体中での光の速度をc、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記第1受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記照射位置から前記第2受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記第1光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、前記第2光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)としたときに、
前記第1の工程において、下記の(1)式から前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する、
ことを特徴とする請求項11に記載の光吸収係数算出方法。
【数7】

【請求項13】
前記第1の工程において、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記光強度モデル、に基づいて、前記任意の層の等価散乱係数を取得し、
前記第2の工程において、前記第1の工程で取得した光強度、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長、前記光強度モデル、前記任意の層の前記等価散乱係数、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出することを特徴とする請求項11または12に記載の光吸収係数算出方法。
【請求項14】
前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、
前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、
前記第1の工程において、少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、
下記の(2)式から前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出する、
ことを特徴とする請求項13に記載の光吸収係数算出方法。
【数8】

【請求項15】
観測対象がn層以上の積層構造からなり、
第1受光手段若しくは第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、
少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、
下記の(2)式から複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記時刻tにおける前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出することを特徴とする等価散乱係数算出方法。
【数9】

【請求項16】
請求項11から14のいずれか一項に記載の第2の工程で算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出することを特徴とする濃度定量方法。
【請求項17】
前記観測対象が皮膚であり、前記任意の層が真皮層であるときに、当該真皮層に含まれるグルコースの濃度を定量することを特徴とする請求項16に記載の濃度定量方法。
【請求項18】
複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象のうち任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置を、
前記観測対象に短時間パルス光を照射する照射手段、
前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する第1受光手段、前記短時間パルス光が前記観測対象によって後方散乱した光を受光するとともに、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離が前記第1受光手段と異なるように配置された第2受光手段、
前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第1受光手段が受光した光の強度を取得する第1光強度取得手段、
前記照射手段が短時間パルス光を照射した時刻以降の所定の時刻において前記第2受光手段が受光した光の強度を取得する第2光強度取得手段、
前記第1光強度取得手段が取得した光強度と前記第2光強度取得手段が取得した光強度とに基づいて、前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する第1等価散乱係数算出手段、
前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段、
前記第1等価散乱係数算出手段が算出した任意の時刻における等価散乱係数に基づいて生成された、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段、
前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段、
前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段、
前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第1光強度取得及び前記第2光強度取得手段とは異なる第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段、
として動作させるための光吸収係数の算出を行うプログラム。
【請求項19】
前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、散乱体中での光の速度をc、前記観測対象に前記短時間パルス光が照射される照射位置から前記第1受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記照射位置から前記第2受光手段が前記観測対象によって後方散乱した光を受光する位置までの距離をρ、前記第1光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)、前記第2光強度取得手段が時刻tにおいて取得した光強度をR(ρ,t)としたときに、
前記第1等価散乱係数算出手段は、下記の(1)式から前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数を算出する、
ことを特徴とする請求項18に記載の光吸収係数の算出を行うプログラム。
【数10】

【請求項20】
前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、に基づいて、前記任意の層の等価散乱係数を算出する第2等価散乱係数算出手段、
として動作させ、
前記光吸収係数算出手段は、前記第1光強度取得手段または前記第2光強度取得手段、若しくは前記第3光強度取得手段が取得した光強度と、前記光路長取得手段が取得した前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長と、前記光強度モデル取得手段が取得した光強度モデルと、前記第2等価散乱係数算出手段が算出した前記任意の層の等価散乱係数と、に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出することを特徴とする請求項18または19に記載の光吸収係数の算出を行うプログラム。
【請求項21】
前記観測対象がn層以上の積層構造からなり、
前記第1受光手段若しくは前記第2受光手段が受光した光の伝搬光路の等価散乱係数をμ’(t)、第m層の等価散乱係数をμsm’、時刻tにおける第m層の平均光路長をL’(t)、時刻tにおける第m層の光路長をL(t)、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度をN(t)としたときに、
前記光強度取得手段は、少なくとも所定の時間τ1〜τ2の間の光強度を取得し、
前記第2等価散乱係数算出手段は、下記の(2)式から前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の近似解を算出し、当該等価散乱係数の近似解から生成された、伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長の補正値と、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度の補正値と、を取得し、当該光路長の補正値と当該光強度モデルの補正値とを下記の(2)式に代入して、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の補正値を算出することを前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の等価散乱係数の真値に収束するまで繰り返し行うことにより、前記任意の層の等価散乱係数を算出する、
ことを特徴とする請求項18から20のいずれか一項に記載の光吸収係数の算出を行うプログラム。
【数11】

【請求項22】
請求項18から21のいずれか一項に記載の光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段として動作させるための濃度の算出を行うプログラム。
【請求項23】
前記観測対象が皮膚であり、前記任意の層が真皮層であるときに、当該真皮層に含まれるグルコースの濃度を定量することを特徴とする請求項22に記載の濃度の算出を行うプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−70822(P2013−70822A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211687(P2011−211687)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】